「霊夢さーんっ! 久々にやって参りました、清く正しい射命ま……って、ぅわわっ、わあぁあぁぁ!?」
ドスン、と。
縁側に座る霊夢に話しかけつつ、ふわりと地面に着地しようとして、失敗した。
正確には失敗したと言うより、地面に足をつけた途端、周囲の地面ごと下の方へ落ちてしまったのだ。
もっと正確に言えば……
「お、落とし穴……」
ろくに神社の掃除すらしないくせに何でこんなものは作るのだろうか、そんなことを考えつつ痛めた尻を抑えて文はひとまず立ち上がった。
上を見上げると、この穴、どういうわけか無駄に深い。地上まで七メートルはあるだろうか。現在が、初夏の未の刻をそろそろ過ぎようか、という一番気温が上がる時間帯であるにも関わらず、この穴の底は文にはむしろ肌寒く感じた。地上では暑くうざったいように思われる日差しが、この穴の底にはあまり入って来ないからだ。
早くこんな穴から抜け出したかったが、羽を広げられる程の広さはなく、飛ぶに飛べないというのが今の文の状態だった。
「ちょっと霊夢さん、何てことするんですか!?」
穴の中から叫ぶと、ひょいと霊夢が上の方から顔を覗かせた。
「あら、文じゃない。そんなところで何してるの?」
「いやいや、霊夢さんのせいじゃないですか!」
「新聞ならいらないわよ」
「今日は新聞の話じゃないですよっ! というか、私と新聞に謝って下さい!」
「そんなこと言われてもねぇ……そもそも文が勝手に落ちたんじゃないの」
「落とし穴用意しといてその言い分は酷くないですかっ!?」
当の本人は、穴の出口で文を見ながら楽しそうに笑っている。そんな様子に、思わず文は頬を膨らませた。
「もう、せっかく友人がわざわざやってきたというのに、この対応はなくないですか?」
「え、友人? ……魔理沙や早苗なんかは別に来てないようだけど?」
そう言って霊夢は澄まし顔で辺りをきょろきょろと見回す仕草をしている。文は膝を抱えて、のの字を書きつついじけることにした。
「あー、ごめんごめん。冗談よ文、そんないじけないで。それで今日は何か用があったの?」
「……ありましたけどもういいです、今日はもう帰りますから。そこから退いてて下さい。」
こうなったらとことんいじけて困らせてやる! そう思いつつ、文は霊夢の方へ不機嫌そうに顔を向けた。
「えっ……あ、文、ごめんってば。ね、機嫌直して?」
「ふん、もう霊夢さんなんて知りません!」
飛べなければ風を操ればいい。周囲にある空気を操り自身の体を支えて、文は穴から今度こそ地上へ着地した。そして腕組みしながら霊夢の方に目を向ける。
「大体、何ですかこの穴。私への嫌がらせですか? そんなに私がここに来るのが嫌だったのならはっきり言って下さいよ!」
「ちょっ、待って文、違うのよ! えっとね? この落とし穴はこの前の宴会の時にチルノが酔った勢いで作っちゃってね、それでせっかくだし誰か引っかからないかな~ってそのままにしといただけでね! だからっ、文に対して悪意とかあったわけじゃなくて、えぇと、そのね……」
案の定、霊夢は慌てて弁解し始めた。文自身はもうとっくに冗談として流していたが、なんだか可愛いのでもう少し続けることにした。
「最近新聞作るのに忙しくて会ってませんでしたから、里へ一緒にお茶でも飲みに行こうって誘おうとしたのに……それなのに……」
これは事実だ。今日は今まで煮詰めに煮詰めていた新聞をようやく完成させられて、とても気分が良かったので、久し振りに彼女と会おうとしたのだ。ここで一旦言葉を切って、文は霊夢の反応を楽しむべく、様子をチラリと伺った。
「ごめん……なさい」
「えっ?」
見ると頭を下げて必死に謝っている霊夢の姿があった。
「れ、霊夢さん?」
(しまった、ちょっとやり過ぎたかな……)
そうは思うも、霊夢は止まらずひたすら謝っている。
「久し振りに文が来てくれたから、つい嬉しくて意地悪なこと言っちゃって……そんなつもりじゃなかったの、ごめんね、文っ!」
そう言ってまだ謝っている霊夢。そんな彼女にゆっくりと近づき……文は優しく抱き締めた。
「あ、……文?」
「……別にもう、というか最初から、私は怒ってなんかいませんよ? 私の方こそ、少しからかい過ぎちゃいました、ごめんなさい霊夢さん」
「えっ、ほ、本当に? 私のこと嫌ってない?」
「嫌ったりするわけないじゃないですか。」
抱き締める力を少しだけ強めた。その答えに、霊夢はほっとするかのように息を吐いて
「……むぅ、騙された。」
ふくれっ面になった。でもその実、とても安心している様子は文には筒抜けだった。
「もう可愛い過ぎですよ霊夢さん」
「う、うるさいわね、こっちは本当に嫌われたかと思って、気が気じゃなかったのよ!」
「ほら、やっぱり可愛い」
「うっ……もう、文のばか」
そう言って霊夢は恥ずかしそうに俯いた。いつもこんな素直ならいいのにな、と文は軽く微笑む。
「さ、という訳で話を戻して、今日はお茶に誘いに来たのですが……それともやっぱり、霊夢さんは私とじゃあ行きたくありませんか?」
抱き締めていた霊夢を離し、小首を傾げながらいたずらっぽく笑って文は話しかけた。
「……もう、本当に意地悪ね。罰として今日は文のおごりよ、いいわね!」
さっきまでの恥ずかしさを隠すかのように、霊夢は笑顔で文の手を掴んだ。
「あややっ!? そ、それは是非ともお手柔らかにして頂きたいなぁ、なんて……」
「そうだ、せっかくだから夕食もそこで食べて行きましょ!」
「あの、ちなみに霊夢さん。情けって知ってます?」
「お酒? うん、好きよ。何、お酒までおごってくれるの? ありがと~さすが文っ、大好きっ!!」
「……せめて、せめてお酒だけは割り勘でっ!!」
そんなことを言い合いながら、2人は里へ向かって飛んでいった。
離さないように、手をしっかりと握ったままで。
ドスン、と。
縁側に座る霊夢に話しかけつつ、ふわりと地面に着地しようとして、失敗した。
正確には失敗したと言うより、地面に足をつけた途端、周囲の地面ごと下の方へ落ちてしまったのだ。
もっと正確に言えば……
「お、落とし穴……」
ろくに神社の掃除すらしないくせに何でこんなものは作るのだろうか、そんなことを考えつつ痛めた尻を抑えて文はひとまず立ち上がった。
上を見上げると、この穴、どういうわけか無駄に深い。地上まで七メートルはあるだろうか。現在が、初夏の未の刻をそろそろ過ぎようか、という一番気温が上がる時間帯であるにも関わらず、この穴の底は文にはむしろ肌寒く感じた。地上では暑くうざったいように思われる日差しが、この穴の底にはあまり入って来ないからだ。
早くこんな穴から抜け出したかったが、羽を広げられる程の広さはなく、飛ぶに飛べないというのが今の文の状態だった。
「ちょっと霊夢さん、何てことするんですか!?」
穴の中から叫ぶと、ひょいと霊夢が上の方から顔を覗かせた。
「あら、文じゃない。そんなところで何してるの?」
「いやいや、霊夢さんのせいじゃないですか!」
「新聞ならいらないわよ」
「今日は新聞の話じゃないですよっ! というか、私と新聞に謝って下さい!」
「そんなこと言われてもねぇ……そもそも文が勝手に落ちたんじゃないの」
「落とし穴用意しといてその言い分は酷くないですかっ!?」
当の本人は、穴の出口で文を見ながら楽しそうに笑っている。そんな様子に、思わず文は頬を膨らませた。
「もう、せっかく友人がわざわざやってきたというのに、この対応はなくないですか?」
「え、友人? ……魔理沙や早苗なんかは別に来てないようだけど?」
そう言って霊夢は澄まし顔で辺りをきょろきょろと見回す仕草をしている。文は膝を抱えて、のの字を書きつついじけることにした。
「あー、ごめんごめん。冗談よ文、そんないじけないで。それで今日は何か用があったの?」
「……ありましたけどもういいです、今日はもう帰りますから。そこから退いてて下さい。」
こうなったらとことんいじけて困らせてやる! そう思いつつ、文は霊夢の方へ不機嫌そうに顔を向けた。
「えっ……あ、文、ごめんってば。ね、機嫌直して?」
「ふん、もう霊夢さんなんて知りません!」
飛べなければ風を操ればいい。周囲にある空気を操り自身の体を支えて、文は穴から今度こそ地上へ着地した。そして腕組みしながら霊夢の方に目を向ける。
「大体、何ですかこの穴。私への嫌がらせですか? そんなに私がここに来るのが嫌だったのならはっきり言って下さいよ!」
「ちょっ、待って文、違うのよ! えっとね? この落とし穴はこの前の宴会の時にチルノが酔った勢いで作っちゃってね、それでせっかくだし誰か引っかからないかな~ってそのままにしといただけでね! だからっ、文に対して悪意とかあったわけじゃなくて、えぇと、そのね……」
案の定、霊夢は慌てて弁解し始めた。文自身はもうとっくに冗談として流していたが、なんだか可愛いのでもう少し続けることにした。
「最近新聞作るのに忙しくて会ってませんでしたから、里へ一緒にお茶でも飲みに行こうって誘おうとしたのに……それなのに……」
これは事実だ。今日は今まで煮詰めに煮詰めていた新聞をようやく完成させられて、とても気分が良かったので、久し振りに彼女と会おうとしたのだ。ここで一旦言葉を切って、文は霊夢の反応を楽しむべく、様子をチラリと伺った。
「ごめん……なさい」
「えっ?」
見ると頭を下げて必死に謝っている霊夢の姿があった。
「れ、霊夢さん?」
(しまった、ちょっとやり過ぎたかな……)
そうは思うも、霊夢は止まらずひたすら謝っている。
「久し振りに文が来てくれたから、つい嬉しくて意地悪なこと言っちゃって……そんなつもりじゃなかったの、ごめんね、文っ!」
そう言ってまだ謝っている霊夢。そんな彼女にゆっくりと近づき……文は優しく抱き締めた。
「あ、……文?」
「……別にもう、というか最初から、私は怒ってなんかいませんよ? 私の方こそ、少しからかい過ぎちゃいました、ごめんなさい霊夢さん」
「えっ、ほ、本当に? 私のこと嫌ってない?」
「嫌ったりするわけないじゃないですか。」
抱き締める力を少しだけ強めた。その答えに、霊夢はほっとするかのように息を吐いて
「……むぅ、騙された。」
ふくれっ面になった。でもその実、とても安心している様子は文には筒抜けだった。
「もう可愛い過ぎですよ霊夢さん」
「う、うるさいわね、こっちは本当に嫌われたかと思って、気が気じゃなかったのよ!」
「ほら、やっぱり可愛い」
「うっ……もう、文のばか」
そう言って霊夢は恥ずかしそうに俯いた。いつもこんな素直ならいいのにな、と文は軽く微笑む。
「さ、という訳で話を戻して、今日はお茶に誘いに来たのですが……それともやっぱり、霊夢さんは私とじゃあ行きたくありませんか?」
抱き締めていた霊夢を離し、小首を傾げながらいたずらっぽく笑って文は話しかけた。
「……もう、本当に意地悪ね。罰として今日は文のおごりよ、いいわね!」
さっきまでの恥ずかしさを隠すかのように、霊夢は笑顔で文の手を掴んだ。
「あややっ!? そ、それは是非ともお手柔らかにして頂きたいなぁ、なんて……」
「そうだ、せっかくだから夕食もそこで食べて行きましょ!」
「あの、ちなみに霊夢さん。情けって知ってます?」
「お酒? うん、好きよ。何、お酒までおごってくれるの? ありがと~さすが文っ、大好きっ!!」
「……せめて、せめてお酒だけは割り勘でっ!!」
そんなことを言い合いながら、2人は里へ向かって飛んでいった。
離さないように、手をしっかりと握ったままで。
世界にはばたけあやれいむ!
あやれいむ!