ペナントレースが始まっておおよそ全チームとの対戦も終わり、お互いの今年の戦力も少しずつ把握してきていた。
この日の試合は命蓮寺スカイズとの4回戦。先のカードでは2勝1敗と勝ち越している相手だ。
回は5回表、スカイズのマウンドにはエースの聖白蓮。140km/h後半のストレートと130km/h後半の高速スライダーと同じような速さのフォークを武器にガンガン投げ込むピッチャーだ。
ここまでレッツを無失点に抑え込んでいる。
レッツの打線は8番の小悪魔から、
(チームの事情とはいえいつまでも8番に甘んじてるつもりは無いです、これでも昨シーズンは2番打たせてもらってたんですから…!)
今のレッツの2番はミスティアが打っている、チームでのトップクラスの足をもち、たたきつけるバッティング故にゲッツーをとられることも少ない。
打率は小悪魔の方がやや高いのだが、小悪魔は得点圏になると途端に打撃を悪くする。それでも昨シーズンは2塁ランナーを進める打撃ができていたのだが今期はそれすらできていない場合が多い。
そして最近は良いところを見せようという思いから力んでしまい自分の打撃ができていない、この打席もショートフライに倒れる。
(まるで私が私じゃないみたいです…、どうしちゃったんだろう。)
申し訳なさそうにベンチに戻る、ベンチに座ると頭を抱えて下を向く。そうしている間に続くバッターも打ち取られてチェンジ。
「小悪魔、守備に行くわよ。早くグローブを持ちなさい。」
パチュリーが声をかける。小悪魔は主人の声で慌ててグローブを持ちかけだしていく。
そしてマウンドにはパチュリーが上がる、こちらもスカイズを抑えていた。さらに球数も4回を投げきった段階で40球を超えた程度。
(今日は6回までは投げきれそうね。相手次第じゃ7回も行けるかしら…?)
パチュリーは速球こそMAX140km/hを超えるか超えないかだが彼女の真骨頂は変化球にある。
対するスカイズはトップバッターの寅丸星が右打席に入る、この星と続くナズーリンの1,2番コンビは球界でもトップクラスだ。
美鈴とサイン交換して一投目。
パチュリーの投球フォームは一言でいうなら、窮屈そうなフォームだ。とにかく省ける動作は全部省きテイクバック、腕の振りもコンパクトに。
だがそこから放たれる変化球は一級品、初球はスライダー。体にあたるのではないか、という場所からストライクゾーンど真ん中へ。
星は思わず腰を引いてしまっている、それほどまでにパチュリーの変化球はすさまじい。
(わかってても打てないっていうのはこういう球のことですね。)
星は冷静にパチュリーの球筋を思い出すがでるのは苦笑いばかり、スライダーと決め打ちして打てるかどうかという球なのに相手は他にも一級品の変化球を数多くもっている。
二球目は低めにはずれるフォークボール、しかし星のバットは止まらない、振らされて2ストライク。
(よし、追い込んだわ。決め球は何にしようかしら?)
パチュリーの決め球は七種類。先ほど投げたスライダーとフォーク、これに加えてカーブ、スローカーブ、シンカー、チェンジアップにシュートと各方向への変化球が揃っている。
ここで美鈴が選択したのは右打者の内角へえぐりこむシュート。内野ゴロで打ち取ろう、という魂胆だろう。
パチュリーもうなづいて投球動作へ、窮屈なフォームから放たれた球は-----すっぽ抜けた。
(!?)
これに驚いたのは星だった。投げられた球はまっすぐこちらに向かってくる、さらにまがる気配も無い。
ドスっと球が体にあたる音がする、デッドボールが宣告される。
命蓮寺ベンチが冷却スプレーを持って飛び出してくる。応急治療を受けて星は一塁へ。すっぽ抜けているだけあってさしたる痛みはないようだ。
(先頭打者へ死球…、やっちゃいけない死球だったわ。次の打者でなんとかゲッツーを取りたいわね。)
反省しつつも意識は次の打者へ。身体は強くないが精神面は非常に強いのもパチュリーの長所の一つだ。
続くバッターは星の部下であるナズーリン、チームバッティングをこころがけるクレバーな選手だ。
(ここはゲッツーだけはさけたいな、ご主人様を二塁に進めることが重要だね。)
初球はツーシーム、ストレート系の小さく変化する球だ。
ここでナズーリンはセーフティバント。送るだけでなくあわよくば自身も生きようとしている。
打球は一塁線絶妙なところに転がったがファーストは守備の良いキスメ、際どかったがなんとか一塁アウトで一死二塁。
(ナズーリンさんはちゃんと仕事してるなぁ…、私もさっきパチュリー様の前になんとかして出ていれば…)
小悪魔はベースカバーに入りながら隣を駆け抜けるナズーリンを見て思う。
先ほどの自分とは大違いだ、使い魔と部下という似たような境遇で自分は主人の役に立てず、ナズーリンはきっちり仕事をこなした。
それを見て小悪魔はどうすれば自分も主人のために、チームの為に立てるのだろうかと考え込んでいた。
すると-----
カーーン!!
その音を聞いて我に返る小悪魔。3番ヤマメの放った打球はセカンドの自分へと向かってきている球足の速い打球。
試合へと集中できていなかった小悪魔はその球をトンネルしてしまう。
その間にセカンドランナーの星は一気にホームへと帰ってくる、タイムリーエラーで一点を先制されてしまった。
「タイム!」
レミリアがタイムをかけ、選手交代を告げる。
「咲夜!あなた確かセカンドできたわよね!?」
「は、はい!一応セカンドもできますが…。」
「咲夜!あなたがセカンドに入りなさい、ミスティア!あなたにショートをやってもらうわ!小悪魔は下がりなさい。センターには妖精メイドを!」
それを聞いてベンチにいた妖精メイドが慌ててセンターへ飛び出していく。咲夜がセカンド、ショートにミスティアが移動する。
その間小悪魔はうつむいてベンチに帰ることしかできなかった。
ベンチに帰ってきた小悪魔にレミリアが声をかける。
「あなたがナズーリンを見て何を考えてたかは知らないわ、でもレッツの一員として試合に出ている以上しっかりと自分の仕事をしなさい」
そう言ってきりレミリアは小悪魔にそれ以上の言葉をかけなかった。
そしてここで打席に入ったのは4番の西行寺幽々子。
FA権を行使してドリームスからスカイズに移ってきた強打者だ。
(なんとかこの一点で抑えたいところなぁ…、しかし幽々子さんは相変わらずつかみどころないなぁ…)
美鈴はマスク越しに幽々子を見上げながらどう抑えれば良いかを考える。
(スライダー、シュートあたりで左右に揺さぶってからフォークかな?パチュリー様も嫌なら首振るだろうしとりあえずサイン出しとこ)
(美鈴も同じこと思ってたみたいね、弱点とか得意コースとかよくわからない亡霊姫ならとりあえず揺さぶるしかないわね。)
一球目はボールからストライクになるシュート、二球目はストライクからボールに外れる変化球だが幽々子が手をだして空振り。わずか二球で追い込んだ。
(よし!これなら低めのフォークボールにも手を出してくれそう!)
美鈴は迷わずフォークボールを要求、パチュリーもわかってるじゃない、という表情でうなづく。
そして投げられた球は絶好のコース、これ以上ないような最高のコースだ。そしてそこからクイっと沈んだボールは美鈴のミットに収まるはずだった。
美鈴の目の前からボールが消える、その代わり目に入ったのはゆっくりとバットを置く幽々子。
打球の行方はセンターバックスクリーンへと消えていく完璧なツーランホームラン。
マウンドのパチュリーも信じられないという顔をしている。それを尻目に幽々子はゆっくりとダイヤモンドを一周。
パチュリーはさらに二点を失った。しかしこの後のルーミア、一輪をショートゴロ、レフトフライに抑えこの回を終える。
6回、レッツは2番のミスティアからの好打順。
(3点かぁ~、この回一点だけでも返しておかないと辛くなってきそうだなぁ)
そんなことを考えながらミスティアは左打席へ、もはやおなじみとなったグリップエンドを高く構えるかまえ。
2ー1とバッター有利なカウントからの4球目、ミスティアはサードへと叩き付ける当たりで内野安打。無死のランナーとして出塁する。
(やっぱり2番はミスティアさんのほうがいいのかなぁ…、さっきの私と同じような場面で出塁してるし)
小悪魔はミスティアの姿を見てそう思う。先ほどのショートでの守備機会も無難にこなしていたのを見てさらに惨めな気分になる。
そして打席には慧音、開幕から安定した結果を残しているレッツの中核。
長打にも期待でき、打てないときでも粘ってフォアボールを選んだりできるナイスな3番バッターだ。
この打席でも2ー2から3球ファールで粘ってから右中間をやぶるツーベースヒット、この間にミスティアは快足を飛ばして一気にホームへ生還。点差を2点と縮めた。
続く妹紅は左中間へあわやホームランかという当たり、だがセンターのナズーリンのダイビングキャッチにより阻まれてしまう。その間に慧音は3塁へタッチアップ。
「くそ~!もうちょっとで抜けてたのに!美鈴!頼むぞ!」
妹紅が悔しそうにベンチへと戻る、本人にはそれなりの手応えがあったようだ。ともかくこれで一死三塁、犠牲フライでも一点だ。
ここで美鈴がきっちりとライトへ犠牲フライ、慧音が悠々とホームを駆け抜け一点差、だがランナーはいなくなった。
続くキスメは三振に倒れこの回を終了、パチュリーが6回裏のマウンドへと上がる。球数的にもこの回までだろう。
パチュリーはこの回簡単にツーアウトをとる、しかし球数も75球を超えてきた。
ここで打席には9番ピッチャーの聖、幻想郷では野球が広まったときに個人個人でやりたいポジションしか練習していないので基本的にピッチャーはバッティングが苦手だ。
実は指名打者制度の導入も検討されたが打てなくても打席も楽しみたい、という投手陣からの要望で指名打者制度は導入されていない。
しかし打席に立ってバットを持っている以上打てる確率は0ではない。聖はパチュリーの5球目をきれいにセンター前へと運ぶ。
(せめてこの回は投げきりたかったんだけど…、まぁ仕方ないわね。)
ここでパチュリーは自身の限界の80球を投げきってしまっていた、レミリアが投手交代を告げパチュリーはマウンドを降りる。
5回2/3を投げて自責点は2、決して悪い数字では無いのだが、
「あ~あ、あっちの魔法使いとは違うな。こっちの魔女はイニング途中でしかもピッチャーに打たれて80球でマウンドを降りるんだもんな。」
ベンチに下がる時に心ないファンの声が聞こえる、ひいきのチームが負けている時はとにかく誰でも野次りたくなるもの、それは幻想郷とて変わらない。
その言葉にパチュリーは表情を変えず、そのままベンチ裏へと下がっていく。
だが、
「わかってるわよ…!聖と私、スタミナでは比べるまでもないってくらい…!」
聖はフランドールがいるためあまり目立っていないがフランドールにつぐスタミナお化けである。外の世界で言うと通算ホームラン数2位ってあの人なのか、みたいな感じだ。
とにかく一位がぶっちぎりすぎて気づかれていないだけ、というニュアンスが伝わってくれれば良い。ちなみに通算ホームラン数2位はノムさんだ、断じてナムサンではない。
--------結局この試合は3ー2のままでレッツは敗れた。
試合後、紅魔館の図書館にパチュリーと小悪魔の姿があった。そこに2人がいるのはいつも通りだがどうにも雰囲気が暗い。
「小悪魔、あなた今日の試合どう思う?」
パチュリーが口を開く、小悪魔は今日のエラーについて責められると思ったのだろう。
「申し訳ありませんでしたパチュリー様、私のエラーがなければ試合はわからなかったというのに…今日の敗戦は私の責任です。」
弱々しく返事を返す、そこにはいつもの元気さは無く今にも泣き出しそうな声色も伺える。
「別にあなたのエラーを責めているわけじゃないわ、私は今日の試合で私はちゃんとレッツに貢献できているのかがわからなくなったのよ。」
パチュリーが小悪魔を優しくなだめたあと自嘲気味に言う。
「パチュリー様は大いに貢献しています!今日だって私のエラーが無ければ勝ち投手になっていたかも…」
パチュリーは小悪魔の話をさえぎって切り出す。
「確かに勝ち星という点では貢献しているかも知れない、けど私が投げる日は中継ぎ陣に多大な負担を与えているのも事実よ。KOされた場合を除けばだいたいどこの球団の先発のどの先発も6回から7回は投げきるわ、フランは言うまでもなく完投能力の高いピッチャーだし妖精メイドでも調子が良ければ8回投げきることもある、でも私は調子が良いときで6回がいいところ、5回降板が常よ。それから先のイニングは中継ぎ陣に頼らざるをえない、その負担はかなり大きいこともわかってるわ。」
「それでもっ!!」
小悪魔は必死にパチュリーはチームに貢献していることを主張したかったが、パチュリーに制された。
「ありがとう小悪魔、あなたのその気持ちだけで十分よ、あなたは明日も試合があるんだから今日はもう休みなさい。」
パチュリーはそれだけ言うと自室へと消えていってしまった。
次の日、朝早くから小悪魔は紅魔館の中をあてもなくふらついていた。
(パチュリー様があんなことを気にしてらっしゃるのは私のエラーにも少なからず原因があるはず…、もっとお役に立ちたいけどどうすれば良いんだろう…)
「あれ?小悪魔さんじゃないですか、どうしたんですか?こんなところまで。」
どうやらそんなことを考えている内に紅魔館の外に出てしまっていたようだ。私はそんなことにも気づかなかったのか、と小悪魔は苦笑いした。
「いえ、ちょっと考え事をしているうちに気づいたらここまで来てしまったんです。」
「いつも元気な小悪魔さんが元気無いのはちょっと心配ですねぇ…私で良ければ悩み事でもなんでも聞きますよ?」
「美鈴さん…、そうですね…聞いてもらってもいいですか?」
「はい、せっかくですから中でお話しましょう。味は咲夜さんほどじゃありませんが紅茶をお出ししますよ。」
美鈴に導かれるまま門番の詰め所に向かう。門番には妖精メイドの門番隊が代わりに入ってくれている。
「それで、どうしたんですか?そんなに落ち込んでるのは珍しいですよね。」
美鈴が紅茶を入れながら小悪魔に尋ねる。
「えぇ…、昨日の試合ですが私のエラーで負けたようなもんじゃないですか、それに最近は打撃も上手くいかなくて…このままじゃチームの足を引っ張ってるだけだなぁって思いまして…。」
小悪魔がうつむいて答える。もしかしたら昨日のことを思い出させて不快にさせるかもしれない、そう思ってか声は控えめだった。
それを聞いた美鈴はニッコリと笑って子供を相手にするように答える。
「誰もそんなこと思ってませんよ、安心してください。お嬢様も小悪魔にしては珍しいって言ってましたがそれ以上は何もおっしゃってませんでしたよ。」
「それでもチームに必要とされるような働きができる自信が…今の私にはありません。…それにお嬢様にも期待されていないから打順も8番に下ろされたんです。」
消え入りそうな声で小悪魔が返事する。顔はやはり下を向いたままだ。
「期待してないことは無いと思いますよ。…ねぇ小悪魔さん、ちょっと野球以外の話をしましょう。あなたは図書館で毎日パチュリー様のお手伝いをしたり、本の整理をしてますよね?」
「えぇ…それが私の仕事ですから、それがどうかしましたか?」
「いえ、ただの世間話と思ってください。以前図書館に行ったときあなたが働いているところを見ました、とても忙しそうでしたね。」
美鈴が淹れたての紅茶を小悪魔と自分の分をテーブルに置きながら言う。
「そうですね、パチュリー様の指定なさる本を取りにいったり、あとご存知のように館内外に貸し出しを行っていますから毎日のように書架の整理があります。」
小悪魔が紅茶を飲みながら答える、幾分かリラックスしたようだ。
「聞いただけで私にはできそうにない仕事です、一週間も持たないでしょう。これは咲夜さんたち内勤メイドの仕事もそうですがね。」
「でも美鈴さんは門番という仕事があるじゃないですか。」
「けどその門番の仕事もほとんど立ってるだけですし、たまに来る魔理沙との勝率も恥ずかしながら高くありません。そこで質問です。唯一の仕事もまともにできているとは言いがたい私は紅魔館に必要でしょうか?」
「何を言ってるんですか!美鈴さんは必要です!美鈴さんがいない紅魔館なんて紅魔館じゃなくなっちゃますよ。」
小悪魔が何を言ってるんだ、と言いたげな表情で即答する。
それを聞いて美鈴は笑みを崩さないまま
「レッツにとっての小悪魔さんも一緒ですよ、セカンドにあなたがいてこそのレッツなんです。」
「でもでも!打順8番は期待されてないってことじゃないですか!」
「ではもう一つ質問しましょう。去年までの4番を打ってた私と今年の5番を打ってる私、どちらが頼りになりますか?」
「去年までの美鈴さんも今年の美鈴さんもどちらも頼りになってます!どっちの美鈴さんもチャンスで頼りになるバッターです。」
「小悪魔さんも一緒ですよ、ミスティアさんには下位打線を打たせても怖くない、三振も多いバッターですからね。でも小悪魔さんが下位にいるのは相手からしたら嫌だと思いますよ。進塁打を決められるし、打率も低くないんですから。打順を変えても小悪魔さんならやってくれるだろうというお嬢様の期待だと思いますよ。」
美鈴が優しく言い聞かせる。そしてそれは小悪魔にとって一番欲しかった言葉であった。
打順が下げられて、期待されていないのではないかと思った、ミスティアに負けたのだと思った。でも、違った。自分なら何番を任せても大丈夫だろう。そう思ってレミリアは自分を8番においたのだ-----
「ありがとうございます…、そうとわかれば8番バッターとは何を求められるのか考えてみます!美鈴さん今日はありがとうございました!」
さっきまでの鬱蒼とした表情はなんだったのか、というくらいに小悪魔の表情は晴れ晴れとしていた。すぐさま館内に向かって走っていく。
「いえいえ、やっぱり小悪魔さんはそうやって元気な方がいいですよ。今日の試合も頑張りましょうね。」
変わらず笑顔で見送る美鈴。
(昔私も同じ事で悩んだなぁ…、この仕事が本当に役に立っているのかって。期待されていないんじゃないかとも考えたけどそのときはお嬢様に言葉をかけてもらったっけ…。)
「あなたのいない紅魔館はそれはみんなの、いや私の望む紅魔館なのかしら?それに私があなたを本当に使えない、期待できないと思ってたら門番になんておかないわよ。もっと自信を持ちなさい、美鈴」
(あのとき私はお嬢様に助けられた、私は小悪魔さんを助けてあげられましたかね?)
空を見上げながら過去のことと先ほどのことを想う。
一方パチュリーはレミリアの部屋を訪れていた。
「レミィ、話があるのだけど」
パチュリーは普段と変わらない表情を作ったつもりでレミリアに話しかけた。
「先発のままやってもらうし、これからも試合で投げてもらうわよ。」
レミリアが当然のように告げる、この親友が何を言いに来たかわかってたかのように。
「簡単に言ってくれるわねレミィ、そうは言っても私が投げているとき、中継ぎ陣が総動員で準備してくれている。その負担は大きいはずだわ。シーズンは長い、そんな日が一週間に一度あれば蓄積疲労も大きくなるでしょう?」
パチュリーが不機嫌そうに述べる、自分がチームに負担を敷いている誰よりもわかっているはずの中継ぎのレミリアが自分の考えをわかっていないはずは無いのに、どうしてまだ自分を先発で使うのかとパチュリーは思う。
「確かにパチュリーの言っていることもわかるわよ、あなたは球数が投げられないからもし絶好調でどんなに工夫しても8回、調子が普通なら5回降板も珍しくないからね。でもね、そのことについて誰か不満を言ったことがあるかしら?少なくとも私は聞いた事がないわ、咲夜から妖精メイドの噂話を聞いたりするけどね。それにチームに貢献してるか、迷惑をかけてるかなんてものは主観じゃ判断できないものよ。あくまでそれは貢献しているつもり、迷惑をかけているつもり、よ。そして私たちは誰一人パチェのことを迷惑だと思っていないしむしろ貢献者だと思っているわ。これ以上の理由が必要かしら?」
レミリアが淡々と述べる、だがすぐさまパチュリーは反論に出る。
「あなた達がどう思っているか、身体の疲労については別の問題よ。私が5回降板してあなた達に疲れを課しているのは事実よ。シーズン終盤に中継ぎの妖精メイドが総崩れとなってしまっては優勝なんてできないでしょう?」
事実、今までの3シーズンでも後半の中継ぎ陣は無惨なものだった。調子の良いものを起用しても抑えてくれれば儲け物、今は疲れも少なく、レミリアの存在があるのでまだマシな成績を残しているが。
「そうならないために私がいるのよ。」
レミリアは自信満々に答える。が、パチュリーは呆れている。
「レミィ、あなた後半戦毎日投げるつもりなの?そんなことできるわけないじゃない。」
呆れながらレミリアに言葉を投げる、何をバカバカしいことを、という表情が見て取れる。
「それが必要とされるなら毎日でも投げてやるわ。私は紅魔館の当主でレッツのセットアッパー、レミリア・スカーレットだもの。たとえ他の妖精メイドが全員投げられなくなったって私は投げ続けるわ。それが私の意思であり、義務だからね。」
レミリアが真剣な目でパチュリーを見据えて言う。言っている事は馬鹿げている、だがパチュリーはそのレミリアの言葉に反論できなかった。
「…迷惑かけるわよ?」
パチュリーが諦めたようにつぶやく。
「家族にかけられる迷惑を迷惑と思っているようじゃ当主は務まらないわ、それにチームが困っている時になんとかするのが大黒柱ってもんでしょ?」
レミリアは笑いながら答える。それでも固い決意のこもった言葉だった。
「そこまで言ってくれるなら私もやれるだけはやるわ。その代わり、後ろは任せたわよ?」
パチュリーにも笑みがこぼれる、自分にやれることをやってたろう、という吹っ切れが感じられた。
「えぇ、後ろは任せておきなさい、その代わり自分の仕事をちゃんとこなしてね。」
レミリアが軽く挑発するようにパチュリーに言う。自分に自信があるからこその発言だろう。
「言うわね、あなたが打たれたらどう責任を取ってくれるのかしら?」
「私が打たれると思って?」
2人は顔を見合わせて笑った。
次のパチュリーの登板、パチュリーは今季自己最多となる7回のマウンドへと向かっていた。
(球数的にもこのイニングで最後ね、7回投げきるのは久しぶりだわ。)
現在の得点は2ー0でレッツリード。この2点はともにあの日から打撃好調な小悪魔の出塁から取った2点である。
(あの子もあの日から吹っ切れたみたいね、これで主人の私が前回と同じようなピッチングなら笑われちゃうわね。)
パチュリーはこの回を三者凡退に打ち取った。ベンチに帰るパチュリーには大きな歓声。
この後レミリア、ルナサとつないで完封リレーでレッツは勝利を挙げた。
試合終了後の図書館、そこにはいつも通り2人の姿があった。
「小悪魔、あなた今日の試合どう思う?」
「はい!今日の試合はとても良かったと思います!」
今日の図書館は明るいようだ。
>ミスティアが悠々とホームを駆け抜け一点差
慧音の間違いでしょう。
そのうち打つんだろうけど……長打がウリであるルーミアがホームラン打つ姿が、あまり想像できない!
面白かったです。次も頑張ってください~
マエケンやダルビッシュみたいなのがゴロゴロいるのかと思ってたけどw
素で「ハンク・アーロン」と思ってしまった私はどうしたらいいんだろう。
少しくらい感覚が開いてもいいから、長く続けてもらえると嬉しいです。
不調を払拭する2人の描写が嬉しいです。
オーソドックスなストーリーながら綺麗にまとまっていて安心して読めました。
命蓮寺メンバーの成績・能力を見てもよく寝られていると感じました。
東方・野球双方への熱意を感じます。
これは既にただの野球SSではなく、一種の東方群像劇と言う感じがしますね。
ゆっくりでいいので続きも期待してます。
(まあ、ぶっ飛んでるのも東方らしくていいとは思いますがw)
毎回楽しみにしてます。
是非今後も頑張ってください~。
次回も楽しみに待ってます。
幽々子様みたいな掴めない打者が相手だと嫌だなあとひしひし感じるねしかしw
それから小話のかつてはレミリアが美鈴を、今は美鈴が小悪魔をと助け合いが繋がっていくのにちょっと感動した
このお嬢様カリスマに溢れすぎだろ……惚れるわ……