「咲夜」
「はい、なんでしょう」
名を呼べば一秒で出現する我が従者。
そいつに向けて、私はふとした思いつきを口にした。
「あなた、私の妹にならない?」
「断ります」
拒否された。
「いや、って、え、即答?」
「はい。吸血鬼になるのはお断りですわ」
きっぱりとした口調で言う咲夜。
私は慌てて弁明をする。
「いや何も、そういうガチシリアスな話じゃなくてね。単にそういうフリをしてみようってだけよ」
「ははあ、つまりは姉妹プレイをご所望なのですね」
「しばくぞ」
威嚇をするも、咲夜は顔色ひとつ変えずにしれっとしている。
少しは物怖じしろよ。
「でも、なんでまたいきなり妹なのですか?」
「ん、ただの気まぐれよ、気まぐれ」
これは半分嘘で、半分本当。
私の実の妹―――フランドールは、未だに思考や行動が読めないことが多々ある。
昔に比べれば大分まともにコミュニケーションが取れるようにはなったが、まだまだ未解明の部分が多い。
そこで、別の誰かに『妹』を演じてもらい、『妹』の一般的な行動パターンを把握しておくのも悪くはあるまい、と思ったのだ。
……まあ、あの妹が『一般的な行動パターン』に当てはまるのかどうかは甚だ疑問ではあるのだが。
「そうですか。まあ、別にいいですけど」
咲夜はあっさりと承諾した。
こいつ基本何も考えてないよな。
「じゃあ咲夜。早速始めて頂戴」
「はあ……そう言われましても、まず何をすれば?」
「何をすればって……」
何をすればいいんだろう?
よく考えたらよく分からない。
そもそも、『妹』の一般的な行動パターンを把握しようとしている私が、『妹』の一般的な行動パターンなど知るはずもないわけで。
「……まあ、適当に妹っぽく振舞いなさい」
「はあ」
結局こう言うしかなかった。
咲夜はおほん、と軽く咳払いをすると、
「えーと、じゃあ…………“お姉様”」
「!?」
いきなり爆弾をぶっぱした。
「ど……どうされましたか」
「え、いや……ごめん、なんでもないわ。続けて頂戴」
「はあ」
ヤバい。
今のはマジヤバかった。
いつもの呼び方が少し変わっただけだというのに、なんだ今の核弾頭級の破壊力は……。
「……お姉様」
「ッ!? な、何かしら? 咲夜」
落ち着け。
落ち着け私。
これはただの芝居なんだ。
デモンストレーションなんだ。
「え、えっと……お、お紅茶でも、いかが?」
「お、おーけー。頂くわ、咲夜」
なにこれ疲れる。
しかも咲夜もなんだか顔が赤いし。
「はい、どうぞ。お姉様」
「あ、ありがとう。咲夜」
咲夜の差し出したカップから、ダージリンの香りが漂い、鼻腔を刺激する。
時を止めて用意しただろうに、咲夜の顔もまだほんのり赤い。
「…………」
「…………」
テーブルに向かい合い、無言で紅茶を啜る私たち。
あ、味が分からん。
「ね、ねぇ咲夜」
「な……なに? お姉様」
「えっと……さ、咲夜は私に、何かしてほしいことって、ある?」
「えっ」
咲夜の顔が一層赤くなる。
だ、だからこれは演技なんだって……!
「え、えと。して、ほしい、こと……」
「そう。妹として、姉である私にしてほしい、こと」
そう。
それが私の一番知りたいことなのだ。
姉として、妹のあいつに一体何がしてやれるのか。
何をしてやればいいのか。
そこが未だによく分からないから、多分私はあいつとの距離を測りかねているのだと思う。
「じゃ、じゃあ……」
「うん」
咲夜は空にしたカップをソーサーに置くと、目を私から逸らしながら言った。
「ひ、膝枕……してほしい、かな」
「ッ!?」
い、今なんつった?
ひざ……ひざまくら?
「…………」
咲夜はよほど恥ずかしかったのか、目どころか顔そのものを横に逸らしている。
しかしそのお蔭で、真っ赤に染まった耳たぶがよく見える。
「わ、わかった……わ」
そう返事をするしかなかった。
他でもない、『妹』の頼みなのだから。
……というか、一般的な『妹』は姉に膝枕を頼んだりするものなのか?
そんな疑問はさておき、私はソファに移動すると、咲夜に向けて手招きした。
「……おいで。咲夜」
「……はい。お姉様」
咲夜は言われるがままに来る。
先に座った私の隣に腰を下ろすと、お伺いを立てるような眼差しで私を見た。
「い……いいわよ。咲夜」
「……はい。お姉様」
そう言うや、咲夜はこてんと私の膝の上に頭を落とした。
その僅かな重みと確かな温もりが、紛れもない咲夜を私に感じさせた。
「…………」
「…………」
銀の髪から覗く、咲夜の耳たぶはまだ赤い。
「……お姉様」
「……なに? 咲夜」
消え入りそうな、か細い声で咲夜は言った。
「……頭、なでてくれる?」
「……もちろんよ、咲夜」
その銀を梳かすように、私はそっと頭を撫でた。
「……ぅん」
咲夜の声が漏れる。
とっても、気持ち良さそう。
「……お姉様」
「……なに? 咲夜」
安堵に満ちた声で、咲夜は言った。
「……ずっと、こうしていてくれる?」
「……もちろんよ、咲夜」
私は緩やかな所作で、咲夜の頭を撫で続けた。
「……お姉様」
「……なに? 咲夜」
一瞬の沈黙の後、
「……ずっと、一緒にいてくれる?」
「……もちろんよ、咲夜」
それは演技だったのか、本心だったのか。
いずれにしたって、いずれでもいいことだ。
了
フランちゃんマジ最終鬼畜
思った俺は負け組
これだからレミ咲は・・・!!!
ちゃんと実行するお嬢様素直カワイイ
可愛い主従だなあ。
フランちゃんとは主従ごっこすればいいんじゃないかなぁ
⚪︎お嬢様に甘える機会を得た咲夜さんの、個人的な欲求
レミ咲かわいい……!