Coolier - 新生・東方創想話

謎の集団の秘密をもとめて!

2011/05/27 15:23:43
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 外の世界とは結界で遮断されている幻想郷は、決して大きなところではない。
人間の足ならば、数日で幻想郷を一周することができる範囲である。
そんな狭い空間の中で、ひっそりと開かれるの秘密の集会があるという。
様々な情報をやり取りしており、個々がそれらを共有するため、一人ひとりが情報屋となっていた。
妖怪達が跋扈するこの世界で、地位向上を目論んでいるらしいが、なかなかそうはいかないのが現状である。
小さなことの積み重ねが大切なんですよ、というのは集会の長の話。

 幻想郷には必死に情報を嗅ぎ付けて我がものにしようとする者達がいる。
ここでは珍しくない、新聞を書いている天狗達だ。
新鮮な情報を求める天狗達よりも早く、知らない情報が裏で流れているとなれば、それを得ずして何を得ようか。
さて、これはそんな秘密の集会の正体を暴き、我も情報を得ようと考えた烏天狗のお話。



 烏天狗で新聞記者たる文が、情報に疎いということを知ったのはつい最近のこと。
行く先々で見も聞きもしない情報を聞くようになってきたのだ。

「うぐぐぅ」
「どうしたのよ。最近いつもそんな感じね」
「いやぁ、幻想郷最速のこの私が、最近どうも最速ではないのではないかと疑ってならないのです」
「まぁ、自称でしょでもそれ」
「そうですけれども。いや、そこじゃなくて、私が一番大切にしている新鮮な情報がすでに他の人が知っているということが多いんです」

 それに対して霊夢は、はぁ、と生返事。
別にどうでもいいといわんばかりの返事に、文はため息をついた。

 幻想郷最速なのは、誰より早く情報を得られるのには最高の条件であり、様々な情報を知っていなければならないのだ。
それなのに、行く場所で情報を自分で得るのではなく、他人の口から情報を得てばかりいるのでは、最速が名折れである。

「そんな適当に聞き流さないで下さいよー! 霊夢さんでいうところの、賽銭のなさくらいに困ってるんですから!」
「まぁ賽銭なくて十分生きていけるし? 元はといえばあんたら妖怪のせいで賽銭がないわけだし? 諦めも肝心かなって思わされるわ」
「うー……。何かいい案はありませんかねぇ?」

 かといって、何もせずにただ情報だけ得て喜んだり悔しがったりするのは凡才のやることである。
何が何でも文屋として情報は誰より早く得られなければいけないのだ。

「あんたが大切に持ち歩いてるその手帖、情報が詰まってんでしょ? その情報をいつ聞いたかとか、誰から聞いたかとか、そういうことも書いていきなさいよ」
「はぁ、それまたなぜ」
「私の勘が言ってるのよ。そうすれば答えは出てくるわ」
「じゃあここは博麗の巫女の勘に頼ってみますか」
「よろしい。で、賽銭箱はすぐそこだから」
「それじゃあさようならー」
「ちょ、ちょっと! こらー!」

 言われてみれば、きっと何らかの関連、繋がりがあるかもしれない。
霊夢に言われたその日から、時間と手間はかかるが逐一書き取ることにした。
いつ、どこで、誰から、どの情報を得たかをメモし、データベース化する。
そうすることで、答えを導き出すような手がかりが浮き彫りとなるはずである。
たった一言、霊夢のその勘を信じて。

「いやはや、あの一言がなければここまでたどり着けなかったですね……」

 パソコンなど幻想郷にはないため、すべて手書きでデータベース化しなければならない。
しかし、そんな血の滲むような努力の結果が功を奏したのだ。
データをそのまま資料とするのも面倒なので、それを簡単にわかりやすくまとめることにした。

◆手がかり1
 まず、同じ時期にまったく違う場所、人物から同じ情報が出てきたこと。
このことから、その者たちが繋がっていることがわかる。

◇事例

「……なぜ私にそんなことを言うんだ?」
「いやぁ、賢将として命蓮寺を引っ張っているあなたならどうすることかできるんじゃないかと思ってですね」
「無理じゃないですかー? 聖はああ見えても頑固ですからね」

 とある日、聖さんにどうしても聞きたいことがあって取材を試みたが、断れた文。
どうにかして聞き出したい文は、命蓮寺の賢将、ナズーリンに尋ねるも、星はそれは無理じゃないかと切り捨てた。

「いくら妖怪のためとはいえ、個人の情報に関することを新聞に書かれるとなれば、尚更聞き出すのは難しいのではないでしょうか」
「別に新聞に大々的に取り上げるわけではなく、ちょっとしたところ、新聞の端っこのほうに書くようなことなのですが……」
「でも断られたのなら、やはり素直にあきらめた方が……」
「いや、手段がないわけでもない。たとえば聖が最近はまっているものを渡す、とか」

 星の言葉を塗りつぶすようにして放たれた言葉に、文は目を輝かせた。
しかしここで疑問が生まれてくる。
ナズーリンがいう、聖の最近はまっているものという言葉に、星は明らかに思い当たる節がない顔をしている。
命蓮寺で、誰よりも聖の傍にいるであろう星がそのことを知らなくて、ナズーリンが知っているとはどうしたものか。

「はまっているものですか。そんなものあるんですか、ナズーリン」
「あぁ、あるともご主人様。人里にある甘泉堂っていう茶屋がある。そこのおはぎが今はまっているみたいだ」
「ほぉ、それは有力な情報ですね! ありがとうございます!」
「わ、私は聞いたことがないですよ!? 聖は私にそんな隠し事を……。言っていただけば私の能力を用いていくらでも……」
「やめるんだ」

 どうやら星もやはり知らなかったらしく、文は釈然としなかったが、その時はその有力な情報を得たため、早速おはぎを買いに行った。
おかげで聞き出せたため、その時はそれだけで満足だったのだが。

 その一日後、永遠亭にて。

「あれ、そのおはぎって甘泉堂のおはぎですよね?」
「あら、よくわかったわね。なに、文も好きなの?」
「まぁおはぎは好きですけど最近ちょっと甘泉堂に行ったので記憶に新しいだけですよ」

 文も好きなの、と返ってきた。
ということは、輝夜もこのおはぎが好きだということなのだろうか。

「てゐから聞いたんだけど、なんでも命蓮寺の白蓮ってのが好きらしいわね」
「あ、そうなんですよー。先日それを持って取材に伺ったらすごい喜んでくださって」
「ご機嫌どりだけは上手ね」
「またまたー。ただ単にそういう情報を聞いたから持って行っただけですよー」

 その時はさらっと聞き流していたが、今となっては重要なデータの一つとなった。
一日後に同じ情報を、命蓮寺と永遠亭という離れた場所で聞くことができた。
さらに、これと同じように、同じ時期にまったく違う場所、人物から同じ情報が出てきたという事例を集めていくと、もう一つの手がかりが生まれてくる。

◆手がかり2
 結びついている人物の把握だ。
たくさんのデータを照らし合わせる中で、人物が過去のデータと被ってくる部分が出てくる。
すると、その人物にはとある関連性があることが浮き出てきたのだ。
種族でいうところの、獣が元となっている妖怪達であった。
それも、人型の耳ではなく、どれも動物として生きていたころの耳が今もついている者達。
適当に集まった集団というわけではなく、意図的に集まっている集団ということが容易に想像できる。
何を目的にしているかはわからないが、誰が情報を共有しているかというだけでも十分な手がかりであった。

◆手がかり3
 それらの情報を共有するのには、その者達が集まらなければならないはず。
となれば、集会がきっとあると文は踏んでいた。
そこで重要になってくるのが、いつ情報を耳にしたかというデータ。
すると、木曜日に新しい情報を聞くことが一番多かった。
このことから、集会は水曜日に行われ、木曜日にその情報を他の知らない者に喋っているのだろうと予測できる。
真昼間から集会をしているとは考えられないので、夜中にどこかでひっそりと行われているはずだと文は考えた。



「これだけの手がかりがあればもう答えは目と鼻の先」

 手がかりが全て揃ってからというもの、水曜日の夜はどこで集会を行っているかを密かに探していた。
堂々と遥か空から探していたら確実に見つかってしまう。
椛は目が良く、優曇華は僅かな波長を読み取るため、いつもと違う人物が来たことがばれてしまうかもしれない。
だから、とにかく集会所を発見するまでは見つからないようにこそこそ探すしかなかったのだ。
しかし、前回の探索で集会所を見つけた文は、今回そこに乗り込むつもりでいるので、普段通り空を飛んでいた。

「さて、目的地はすぐそこね」

 場所は、迷いの竹林の中でやっているらしい。
夜だと迷いの竹林の付近に人間が来るなんてことはほとんどないし、妖怪でもよほどのことがない限り近づかない。
竹林の中は非常に迷いやすいため、相当面倒なことになっているが、何食わぬ顔で入っていけば入れる可能性だってないわけではない。
竹林の位置が正確にわかる優曇華は誰かが来たかを察知することができるが、その人物が誰かまではわからないはずだ。
となれば、姿を現した時が狙い目。

 何一つ躊躇うことなく、ずかずかと竹林の中に入っていく。
中は、集会が行われているとは考えられなほどの静寂に満ちていた。
しばらく歩いていれば誘い出してくれるだろうと文は考え、歩くこと数分。
ガサッという音を聞き、振り返ればそこには長い耳を付けた兎がいるではないか。

「え、文? こんな時間に何してんの」
「あなたこそこんな場所で何をしてるんですか? いやまぁ、何をしてるかはもう既に知っているんですがね」
「な、何のことかしら?」

 明らかな動揺を見るなり、しめたと文はにこりと笑う。
やはりここで行われているのは確定的で、これで黙って逃げることもできないだろう。

「私もお邪魔させてください、せめて覗くだけでも、ね?」
「うぅー」
「おやぁ? いいんですかぁ? 別に私は放っておいてもいいんですよー。新聞の記事にできますからねー」
「ぐぅ、卑怯な……」
「いいですよね?」
「仕方ないです。私は入れますけど、他の方がなんと言っても知りませんからね?」
「はいはい」

 嬉々とした表情で、優曇華の後をついていく。
するとどうしたものだろうか。
先ほどまで静まり返っていた竹林が、少しずつ騒がしくなってくるではないか。
やがて明かりと共に人影が見え始める。
それこそが、今まで努力を重ねて突き止めた集会場だった。

「こんばんはみなさん」
「え、文!? ちょっと優曇華! 誰を連れてきてんのよ!」
「す、すみません。脅されたので、仕方なく……」
「どうするんですか、藍様」
「どうするもこうするもない、帰ってもらうしかないさ」

 その場にいる全員が獣の耳を付けている。
猫の耳、兎の耳、鼠の耳、狐の耳、狼の耳、鳥の耳。
様々な耳がそこにはあった。
文の耳は人のそれであり、獣の耳ではない。
同じ鳥類でも耳が獣の名残があるミスティアをこの時ほど羨んだことはないだろう。

「いいじゃないですかー。私だってもとは獣ですよ? 烏ですよ、烏! かー! かー! ほら、獣の名残として羽もあるじゃないですか! だめなんですか、藍さん?」
「羽じゃダメなんだよ。耳じゃなきゃ」
「な、なんでそこまで耳にこだわるんですか……」

 必死に抵抗してもダメだったので、素直に聞いてみることにする。
すると藍はふふ、と笑い、耳をぴくんと動かした。
それに合わせるように、他の皆も耳をぴくんと揺らす。

「さぁ、お耳を拝借」

 輪を作り、耳を寄せ合う獣達。
文には、正面を向きながら耳を寄せることなんてできない。

「面を向かい合い、耳を寄せることができないでしょう? お耳を拝借できない貴方じゃダメってことさ」
「うぐぐぅ……、そんなぁ! 目の前で情報がやり取りされているというのに、私はただ指を咥えてみてることしかできないだなんて……」
「まぁ、そういうことさ。さぁ、帰った帰った」

 今まで努力はなんだったのかと、僅かな後悔と憤りを感じていた。
しかし、どうすることもできないのだ。
情報を生いがいとする文が、目の前の情報を得られずしてして去っていく。
獣達の密会を、横目でちらりと見つめながら。

「お耳を拝借かぁ……」

 別に勝負でもなんでもないのに、負けた気がしてならない。
同じ獣なのに仲間外れだなんて酷いと心底文は思った。

「いいもん、私には翼があるもん……。最速だもん……」

 一人ぶつぶつ呟きながら、夜の空を最速に似つかぬ速さで駆けていった。
エルフ耳じゃダメなようです、残念だったね文ちゃん。
はぁ、獣の耳はむはむしたい。
へたれ向日葵
[email protected]
http://twitter.com/hetarehimawari
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コメント



0.460簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
文章は読みやすく、内容もすらすら頭に入ってきましたが、オチが少し弱いように感じました。
3.100白銀狼削除
後書きに全面的に同意。
椛の獣耳はみはみしたい。
5.70名前が無い程度の能力削除
いやあ……なんかオチがやはり……
捻りが足りないというか、インパクトさに欠けてるような

あなた様らしくも無く
6.80奇声を発する程度の能力削除
とても面白かったです
11.100名前が無い程度の能力削除
はむはむ!!

サラダみたいなあっさり感がしていいなぁ。
尻尾の集いもあると信じてます。
13.100名前が無い程度の能力削除
ほう…
15.90名前が無い程度の能力削除
くっ…耳…オオオオ