「And Then There Were None...... 」
薄暗い部屋の中、私は一人、唄を歌っている。
紅い館の地下、食事を運ぶメイド達、たまに仕事の後に来てくれる美鈴や魔理沙くらいしかここには来ない。
来てほしくて、けれども来てほしくない相手は未だ現れず。
「……」
近くにあったくまのぬいぐるみを掴み、投げる。
ぼふっ。と、音を立て床に落ちる。
そっと、閉じられた扉を見る。
かつてあの扉は固く閉ざされていた。
しかし今は鍵さえ付いていない。
初めて魔理沙と出会ったあの日、永遠と閉ざされたあの扉は開かれた。
それ以来鍵はかけられず、何時でも開いて外に出れる状態になっている。
けれど、今の私には外に出る勇気はなかった。
怖かった。美鈴や魔理沙は誘っているけれど、―― に会うのが怖くて外に出れなかった。
―― せめて、きっかけが欲しかった。
「……?」
扉の前に、誰かがいる。
美鈴やメイドでは無い、知らない誰か。
「そこにいるのはだぁれ?」
声をかけてみる。
「ああ、ごめんなさい。どなたかいらしたのね。お邪魔してよろしいかしら?」
知らない声。どこからか迷い込んだ人間?妖精?妖怪?それとも?
「どうぞ。押せば開くよ」
相手は何かに気付いた様子で、ゆっくりと扉を開いた。
そして扉の向こうにいたのは紫の服を着た金髪の少女。
何処かで見たことがあるような少女。
「こんにちわ。どうしてここに来たの?」
「こんにちわ。迷ってしまったの」
どうやら迷い人の様だ。
触れればこわれてしまいそうな少女。
「貴女は何処から来たの?」
「なんて言えばいいのかしら……。ベットの中から?」
……どういう事なのだろうか?しかし、雰囲気が違うので、咲夜や魔理沙とは違う所から来た事は判る。
それだけでは無く、不思議な感じもする。
なんというか、とても不安定。
「隣、いいかな?」
「ん、いいよ」
少女は隣に腰掛ける。その手にはいつの間にか先程投げた人形を持っていた。
「はい」
けれど、その言葉に少し目を逸らす。
そして、そのまま顔をうずくませる。
「……どうしたの?」
「怖いの。その優しさが。扉の向こうのセカイが」
何でこんなこと言っているのだろう。美鈴や、魔理沙では無く、今さっき会ったばかりの見知らぬ少女に。
「どうして?」
「私は外に出た事がないの。セカイをよく知らない。そして会うのが怖い。だから外に出る勇気がないの」
「貴女はどうしたいの?」
「私は……外に出たい。そしてみんなと話をしたい。外のセカイをこの目で見たい」
少女はそっと、私を抱いた。優しく、包むように。
なんか、いいにおいがする。
「それならば外に出ればいいと思う。何もしないから段々と怖くなって、結局出来なくなったしまう。今、貴女はそんな悪循環に陥っていると思うの。一度行動すれば、全部変わる筈だから。もし、一人で出来ないのであれば、私が一緒に扉を開けてあげる」
顔を上げる。そこには優しい笑顔があった。
ああ、そうか。美鈴も、魔理沙も、同じような事を言っていた。ただ、二人はこの少女と違って不器用なだけだ。
少女は二人にない何かを持っている。
私を縛っていた何かが、音を立てて外れた気がした。
「ううん、ありがとう。でも大丈夫、一人で出来るから」
その言葉に少女は頬笑み、立ち上がった。
「どこへ行くの?」
「そろそろ失礼するわ。もう、貴女一人でも大丈夫みたいだしね」
そう言い、扉へと向かう。
そしてある事に気付き、扉を開こうとする少女を呼び止めた。
「あ、まって。貴女の名前は?」
「ああ、そう言えばまだ言ってなかったわね。私はマエリベリー・ハーン」
「そう。私はフランドール・スカーレット」
そして彼女は微笑み、
「さようならフランドール。また会える事を」
「ええ、さようならマエリベリー。またいつか」
扉の向こうへと消えていった。
また、部屋の中に一人きり。
マエリベリーとの会話は夢の様な気がした。けれどもそれは現実である。
扉を見る。その先にはセカイがある。
そっと、扉に手を伸ばし、
きゅっ。
砕け散った扉を尻目に外へと飛び出す。
まずはどうしよう?
美鈴に会って、魔理沙と遊んで、そして ―――
紅き満月の下で……
これだけでは物足りないかな
メリーがフランドールに対して微塵も恐怖心だとかを出していないのが不思議。
でも物足りないのでこの点数で
そしてフランが勇気をもって飛び立とうする気持ちが伝わってきました。
ですが、腑に落ちない点もいくつか……
すでに他の方が指摘していらっしゃいますが、フランに対するメリーの言動は不思議でした。
見ず知らずの館に一人で迷い込んだ時点でかなり怖いはずですし、いきなり出会ったばかりのフランにも親切過ぎじゃないかなって気が。
そのあたりの経緯を含めてもっといろいろと読んでみたかったです。
ただ雰囲気はとてもよかったので、期待の意を込めてこの点数で。