『ハローハロー この下手糞に構築されてしまったゲロみたいな世界よ
廻るや廻る ヘイトゥ・ラシアリズ・グゥリィーム 廻れ廻れ
私は貴方に 貴方は私に
淀めや淀め
全部全部吐き出したら
さぁ、往こうか 往って終わらせようか』
'22 キャスリー帝国出版 ハインダリデ=プローブ著 小説 『輪が廻る』より
「……いた」
時は午後2時
此処まで夜更かし…とは言わないか
昼更かしをしたのは久し振りだ
…咲夜が向こうで廊下に飾ってある花瓶を磨いている
相変わらず頑張っている様だ
もうあんな姿になってしまって
既に弱りきってしまった人間なのに
頑張りすぎた
終わらせてやらねば
永遠を与えてやらねば
私の脳味噌は一体どうしたのであろうか
だがこの時はまだ
私の 私自体の事をまともだと
勘違いしていたのかもしれない
世界はまるで紅く染まった
夜の如く身体をうねらせ
それをがぶりと牙を剥く
行くぞ
行くぞ…ッ
『人間だから貴方に会えた』
蓄音機から這い出る曲の様に様に
貴方の傍は寄っていく
耳の中へと浸入しようと
至ろうとする
『人間、彼女達からすれば恐ろしく劣等で、貧弱な種族なのだろう』
その手は確実に弱弱しい彼女を捕らえ
もう何処にも逃がさない
籠には鍵をかけた
もう今は 二人きり
きり きり きりと 歯を鳴らし
目的を果たそうと
『だが私は強く生きられる 貴方の御陰で』
「咲夜」
「…お嬢様…?」
『貴女がいてくれた、貴女は私の全て そして、私の全てを委ねた
……愛しております、心より』
『私だけの愛しいお嬢様』
そして、果たした
【2 end】
∇
崇高なる世界とは
己が見て決めるものである
それを、選択と言う
選択と言うのは自分だけで行うから意味があるのだ
そう、即ち
介入など御法度である事に
気付けるかどうかの話なのだ
「……んっ」
咲夜が赤い声を出す
抵抗はない、前にも血を吸う事は幾度もあった
だが、『成り』させようとしたのは今回が初めてだ
咲夜は恐らく気付いていない
この吸血を、多分いつもの事だろうと考えているに違いない
目を閉じ、事が終えるのを待っている
ああごめんよ咲夜
もう終わる、今終わろう
「……どうしたのですか? いきなり後ろから…」
「少し前までのお前ならあれくらい、私が飛んだ瞬間に気付いていたものを…でも、もうじきそれもいつもの様になれるわ」
「……? よくわかりませんが…お嬢様、よくこんな時間まで起きていますね」
「あーお前のためだ、全く」
何を言っているのか全く理解できていない顔だ
それはそうだ、この真相は今の私だけが理解しているのだから
咲夜は理解する必要がない
自分から教えるつもりも、今はない
「私めのよろけた血で良ければ、いつでも飲ませて差し上げますよ この身を貴女に捧げると誓ったあの日から」
おや
おやおや
「急に臭い事言うのね」
「酷いですわ、言ってみたかっただけなのに」
それは酷い事をした
「でも」
目線を背けた私の手を
咲夜がキュッと握ってきた
その時の表情は
本当に疲れているのかとか、本当に老いているのだろうかとか
そんな事を思わせる 美しい 何かだった
「こうして貴女に言えたのですもの、咲夜めは幸せでございますわ」
「そ、そう……何ならもっと言っても良いんだぞ?」
彼女はくすりと笑った
「そう何度も言える台詞じゃありませんわ もうあまりはしゃげる年じゃないですもの」
レミリアはふと我に返る
(成功、しているのだろうか)
何しろ初めてやる事だ
本当にこんな気持ちを込めた程度で咲夜を…?
と、思っていた
それもそうである
現時点で咲夜の体には何の変化も起きていないのだ
……もし失敗していたら あの本の内容が嘘だったのならば
私はまた、何かを調べて咲夜に試すだろうか
…あまり、気が乗らなかった
そして今した事だって少しだけ後悔している
相談してからの方が良かっただろうか
ちゃんと話していた方が良かったのだろうか
ともあれ
やる事は終わってしまった
すぐには結果が出ないのかもしれない
そう願い、咲夜の顔を見上げた
なんて美しい
何年立っても凛々しくあり 従者としての風格を忘れないでいる
彼女は私のもの
私だけの、従者だ
「……そうね、近々良いことがあるかもしれないわ 楽しみにしている事ね」
それだけ言うとレミリアは自室へと続く方角へと足を動かした
駄目だな、やはり昼起きているとすぐこれだ
よく頑張ったもんだよ 私
ああ眠い
次に起きたら今度こそ、咲夜にご飯を作ってもらおう
腹が空いたまま寝るのは
どうなのかしら
と、そんな思考はすぐに頭から消した
後は そうだな
待とう
寝て待つも良しだが
喰って待つのも良い
やるべき事はした
あとは、そうだな
柄でもないが
祈るか
【3 end】
廻るや廻る ヘイトゥ・ラシアリズ・グゥリィーム 廻れ廻れ
私は貴方に 貴方は私に
淀めや淀め
全部全部吐き出したら
さぁ、往こうか 往って終わらせようか』
'22 キャスリー帝国出版 ハインダリデ=プローブ著 小説 『輪が廻る』より
「……いた」
時は午後2時
此処まで夜更かし…とは言わないか
昼更かしをしたのは久し振りだ
…咲夜が向こうで廊下に飾ってある花瓶を磨いている
相変わらず頑張っている様だ
もうあんな姿になってしまって
既に弱りきってしまった人間なのに
頑張りすぎた
終わらせてやらねば
永遠を与えてやらねば
私の脳味噌は一体どうしたのであろうか
だがこの時はまだ
私の 私自体の事をまともだと
勘違いしていたのかもしれない
世界はまるで紅く染まった
夜の如く身体をうねらせ
それをがぶりと牙を剥く
行くぞ
行くぞ…ッ
『人間だから貴方に会えた』
蓄音機から這い出る曲の様に様に
貴方の傍は寄っていく
耳の中へと浸入しようと
至ろうとする
『人間、彼女達からすれば恐ろしく劣等で、貧弱な種族なのだろう』
その手は確実に弱弱しい彼女を捕らえ
もう何処にも逃がさない
籠には鍵をかけた
もう今は 二人きり
きり きり きりと 歯を鳴らし
目的を果たそうと
『だが私は強く生きられる 貴方の御陰で』
「咲夜」
「…お嬢様…?」
『貴女がいてくれた、貴女は私の全て そして、私の全てを委ねた
……愛しております、心より』
『私だけの愛しいお嬢様』
そして、果たした
【2 end】
∇
崇高なる世界とは
己が見て決めるものである
それを、選択と言う
選択と言うのは自分だけで行うから意味があるのだ
そう、即ち
介入など御法度である事に
気付けるかどうかの話なのだ
「……んっ」
咲夜が赤い声を出す
抵抗はない、前にも血を吸う事は幾度もあった
だが、『成り』させようとしたのは今回が初めてだ
咲夜は恐らく気付いていない
この吸血を、多分いつもの事だろうと考えているに違いない
目を閉じ、事が終えるのを待っている
ああごめんよ咲夜
もう終わる、今終わろう
「……どうしたのですか? いきなり後ろから…」
「少し前までのお前ならあれくらい、私が飛んだ瞬間に気付いていたものを…でも、もうじきそれもいつもの様になれるわ」
「……? よくわかりませんが…お嬢様、よくこんな時間まで起きていますね」
「あーお前のためだ、全く」
何を言っているのか全く理解できていない顔だ
それはそうだ、この真相は今の私だけが理解しているのだから
咲夜は理解する必要がない
自分から教えるつもりも、今はない
「私めのよろけた血で良ければ、いつでも飲ませて差し上げますよ この身を貴女に捧げると誓ったあの日から」
おや
おやおや
「急に臭い事言うのね」
「酷いですわ、言ってみたかっただけなのに」
それは酷い事をした
「でも」
目線を背けた私の手を
咲夜がキュッと握ってきた
その時の表情は
本当に疲れているのかとか、本当に老いているのだろうかとか
そんな事を思わせる 美しい 何かだった
「こうして貴女に言えたのですもの、咲夜めは幸せでございますわ」
「そ、そう……何ならもっと言っても良いんだぞ?」
彼女はくすりと笑った
「そう何度も言える台詞じゃありませんわ もうあまりはしゃげる年じゃないですもの」
レミリアはふと我に返る
(成功、しているのだろうか)
何しろ初めてやる事だ
本当にこんな気持ちを込めた程度で咲夜を…?
と、思っていた
それもそうである
現時点で咲夜の体には何の変化も起きていないのだ
……もし失敗していたら あの本の内容が嘘だったのならば
私はまた、何かを調べて咲夜に試すだろうか
…あまり、気が乗らなかった
そして今した事だって少しだけ後悔している
相談してからの方が良かっただろうか
ちゃんと話していた方が良かったのだろうか
ともあれ
やる事は終わってしまった
すぐには結果が出ないのかもしれない
そう願い、咲夜の顔を見上げた
なんて美しい
何年立っても凛々しくあり 従者としての風格を忘れないでいる
彼女は私のもの
私だけの、従者だ
「……そうね、近々良いことがあるかもしれないわ 楽しみにしている事ね」
それだけ言うとレミリアは自室へと続く方角へと足を動かした
駄目だな、やはり昼起きているとすぐこれだ
よく頑張ったもんだよ 私
ああ眠い
次に起きたら今度こそ、咲夜にご飯を作ってもらおう
腹が空いたまま寝るのは
どうなのかしら
と、そんな思考はすぐに頭から消した
後は そうだな
待とう
寝て待つも良しだが
喰って待つのも良い
やるべき事はした
あとは、そうだな
柄でもないが
祈るか
【3 end】