下賎な犬が牙剥いた
高貴な私に牙剥いた
じゃれる駄犬に鞭打って
首に二つの穴を穿ち
運命の鎖で体を繋ぎ
怨嗟と遺恨と憎悪と恐怖
仲良く手を取りその身を縛れ
歌う様に言葉をつむぐ私の敵。
私は仰向けになったままそれをただ聞いているしかなかった。
切断された私の手首が勝手に動いてくれれば話は違うのだが、残念ながら私はただの人間だ。
ただの、ではないかもしれないが。
人間なんだ
「楽しかったわ」
私の頭上で、見下すように浮かぶ少女。
「今まで私を殺しに来た人間は沢山いたけれど、ここまで戦ったのはあなたが初めてよ。誇っていいわ。いえむしろ誇るべきよ。この私が言うんだから間違いないわ」
返り血一つ浴びてない癖によく言う。最初の一撃で確かに頚動脈を叩き切ったはずなのにその傷も、流れた血すら影も形も残っていない。
悪態の一つもついてやりたい所だが、血が喉に絡んで声が出しづらい。内蔵をやられているらしい、と妙に冷静に自己分析する。ここで悪態をついた所で至る結末は同じなんだろうけど。
悪態の代わりにできる限りの嫌悪を込めて睨んでやったら悪魔の少女はケラケラと楽しそうに笑った
「いい眼ね。欲しくなっちゃうわ」
次の瞬間。視界が赤く染まる。
眼を抉られたのだと気付くのに僅かな時を要したのは、多分もうすでに脳が痛みを感じる事を止めているからだろう。
他人事のような感覚のまま、残った方の眼で少女を見上げると抉ったばかりの私の眼をコロコロと手のひらで弄んでいた。
「悲鳴も上げないのね。ああ、そっか。もう痛みすら感じてないのかしら?一応教えておくと、あなた今左手と右足と左足がずたずたのぼろぼろで右手はナイフ握ったまま、貴女の足元辺りに転がってるし、あばら骨もバッキバキでその折れたアバラが内臓に所々刺さってるような状態よ。運良く、いや、運悪くかしら。心臓には刺さってないみたいだけど。ああ、後片目が抉れてるわね」
そんなにひどい状態なのか。そりゃ痛みも感じないわけだ。というか全部あんたにやられたんだけど。よくまだ意識保ってるな私。
「ああ、すぐに死なれちゃつまんないし。とりあえず止血っぽい事はしてみたのよ。私の魔力で血管圧迫して。もっとも、あなたが死んだ後に私のご飯になるんだからもったいないって言うのが本当の所だけどね」
私の言いたい事がわかったのかぺらぺらと得意げに語ってみせる吸血鬼。ご飯とか言うな。
「さて、せっかく残された最後の時間位お話しましょうよ。まさかこの私が致命傷受けるなんて。ネタばらしぐらいしてって欲しいわ。」
とんとん、と自分の頚動脈を指してあくまでもにこやかに吸血鬼は笑う
「いくら油断しててもさ。人間のスピードについていけないわけないじゃない。吸血鬼が。でもあなたは私が切られた事にすら気付かないくらい綺麗に頚動脈掻っ切ってくれたでしょ?そりゃ油断は思いっきりしてたんだけど。それにしてもねぇ・・・・・・。すごいスピードというより本当に気付いたら切られてた。そう、切り終わってたのよねー」
腕組みして考え込む姿だけ見ていると本当に人間の幼い女の子にしか見えない。これが泣く子も黙る夜の王、吸血鬼というのだから全く持ってわからないものだ。
あちらが油断した、と言っているのと同様に私も油断していた。頚動脈を切った程度で終るなんて思ってはダメだったのだ。それだけが唯一の悔いである。
「ねぇ、教えてよ。どうやったの?人間が私用に新しい武器とか作ったのかしら?それとも・・・・・・」
私の中で何かがドクン、と脈打つ
「あなたも、化物なの?」
「ち・・・・・・がう・・・・・・っ!!」
ごぼり、と口の端から血がこぼれる。が、そんな事構いやしない。
「私は・・・・・・普通の人間だ・・・・・・っ!」
「へぇ、そう。人間の皮をかぶった化物なのね」
「違・・・・・・うっ!」
「そうね。私から見れば、あなたは人間よ。どうしようもなく脆弱で貧弱な、私が優しく触っただけで死んでしまいそうになってる人間よ。でも、周りから見たらあなたも化物だったみたいね。どんな力かわからないけれどその力は人間には過ぎた・・・・・・」
「お前に何がわかる!!」
「わかるわよ。同じだもの。」
ありったけの憎悪をこめて叫んだ私を受け流すかのように。まるで母親がぐずる子供をあやすように。
汚れ一つなかったその薄紅いドレスを私の血で汚すことも構わず、彼女は動けない私の隣にそっと座って血で濡れた頬を手で包み込み、どこまでも沈んでいきそうな暗い紅い眼を私としっかり合わせて囁いた
「普通の人間は化物と呼ばれて・・・・・・そんなに悲しい眼をしないもの」
それは、悪魔とは思えないくらい優しい響きを持って私に染み込んだ。
この力のせいで周りから化物と呼ばれながら、自分を人間だと何度も言い聞かせてきた私を最初に理解してくれたのが私が殺すべきだと思っていた吸血鬼だなんて皮肉な話だ。ああ、そもそもヴァンパイアハンターになったのだって、人間の敵を殺すことで人間であろうとしたからだっけ。
不思議な事に、目尻から涙が零れて止まらない。これはなんだろうか。吸血鬼に同情された悔しさか。それとも理解された嬉しさか。
ああ、もうどうでもいい。疲れた。
「殺して・・・・・・」
どうせほおっておいても死ぬ身ではあるが、最後は吸血鬼に殺される、とても人間らしいじゃないか。
自殺願望なんかなかったけれど、自分を人間だと言ってくれたこいつになら殺されてもいい。
本気で、そう思った。
「私を・・・・・・殺して」
しかし
「・・・・・・嫌よ」
彼女の口から発せられたのは予想外の答え
「気が変わった。いえ、運命が変わったわ」
その瞳をさっきまで無かった狂気と狂喜に紅く輝かせながら楽しそうに彼女は笑う
「あなたは死なせない。私に仕えなさい。あなたが生きている限り、この私がこのレミリア・スカーレットがあなたを人間として扱ってあげるわ。強く美しい悪魔の隣なら、人外の能力を持つあなたですらそこらの人間と変わらない。人間から迫害された人間は人のまま悪魔の犬となる。うふふふ、楽しいじゃない。拒否権なんか無いわ。そしてあなたは自分が殺し損ねた敵に顎で使われるのよ。嬉しいでしょう?」
そんな事を嬉しがる趣味はない。はずなのだが、それも悪くないと思ってしまっている自分に少なからず驚いた。しかしそれを認めるのも癪なので、できるだけ冷たい眼で彼女を睨み
「いつか・・・・・・寝首をかいてやるから」
と、言ってやった。
そんな私に一瞬キョトンとした眼を向けて、次の瞬間それはそれは楽しそうに破願する吸血鬼。不覚にも見とれてしまった。
「それは考えてなかったわ」
ケタケタと無邪気に笑う彼女に、こちらも釣られて僅かに笑みがこぼれる。
不敵に笑って「後悔させてやるから」と嘯いてみたものの、実力の差がどうこうではなく、たぶん私はこのレミリアと名乗る吸血鬼を殺せない。気に入ってしまったのだ。信じられないことに。
「それじゃ」
しばらく笑い合っていたが唐突に一息ついて、彼女はいとも容易く自らの手首を切り裂いた。一瞬肉の裂けた赤い断面が見え、すぐに思い出したように血液があふれ出す。
その傷口にそっと自らの唇を寄せてその血を口に含んだかと思うと、そのまま動けない私の唇に唇を重ねてきた。
とろりと彼女の口から流し込まれる紅い液体を生物としての本能が吐き出させようとしたが、こちらが吐き出そうとするのを見越していたかのように、そのまま彼女の小さな舌が私の口腔に滑り込む。
驚きに身をよじろうとするが、そもそも動けるような体ではない。口を塞がれたことによる酸素不足と、飲め、と言わんばかりに私の口腔内をうごめく舌に耐え切れなくなり遂にゴクリと音を立てて悪魔の血を嚥下する。
それを確認するようにもう一度だけ私の口内を舌が這い回って、ようやく紅く染まった粘液の糸を引きながら彼女の唇が離れていく。
そして私は、酸欠でぼおっとした頭で朗々と謳う声を聞いた
「夜の王、レミリア・スカーレットの名において、お前に名を与えよう。この名を持って盟約とし、この血を持って契約とす。彼の者、姓を十六夜、名は咲夜。悪魔との誓いによって、その名で縛り、この血で従えよう。首に二つの穴を穿ち
、運命の鎖で体を繋ぎ、怨嗟と遺恨と憎悪と恐怖、仲良く手を取りその身を縛れ」
シャラン、という鎖の鳴る音が聞こえる。彼女の周りに浮かび上がる紅い鎖が彼女の言葉に呼応し生き物のように私に巻きついてくる
「運命の鎖を手繰り繋がれ、永久の時を主の為に尽くせ」
トン、と彼女が私と繋がるその鎖に触れた瞬間、巻きついていた鎖はスゥッと私の中に溶け込んでいった。
それと同時に猛烈な睡魔が私を襲う
「少し眠りなさい。体の事なら心配ないわ。私の友人に治させるから。優秀な魔法使いなのよ。ああ、後、私今日引っ越す予定だったのよね。もちろん咲夜も連れて行くからね。起きたらあなたの今までの常識なんか通用しない素敵な楽園である事を約束するわ。行き先は---」
薄れていく意識の中で私が覚えていたのはここまでである。
しかし、意識を失う直前だと言うのに行き先を告げる彼女の声だけははっきりと聞こえていた。
目覚めたら、忙しくなりそうだと思ったが、今はこの状況を楽しもう。
私が新しく人間として、悪魔の従者としての一歩を踏み出す土地。
彼女は誇らしげに胸を張って言っていた
「---幻想郷よ」
と。
高貴な私に牙剥いた
じゃれる駄犬に鞭打って
首に二つの穴を穿ち
運命の鎖で体を繋ぎ
怨嗟と遺恨と憎悪と恐怖
仲良く手を取りその身を縛れ
歌う様に言葉をつむぐ私の敵。
私は仰向けになったままそれをただ聞いているしかなかった。
切断された私の手首が勝手に動いてくれれば話は違うのだが、残念ながら私はただの人間だ。
ただの、ではないかもしれないが。
人間なんだ
「楽しかったわ」
私の頭上で、見下すように浮かぶ少女。
「今まで私を殺しに来た人間は沢山いたけれど、ここまで戦ったのはあなたが初めてよ。誇っていいわ。いえむしろ誇るべきよ。この私が言うんだから間違いないわ」
返り血一つ浴びてない癖によく言う。最初の一撃で確かに頚動脈を叩き切ったはずなのにその傷も、流れた血すら影も形も残っていない。
悪態の一つもついてやりたい所だが、血が喉に絡んで声が出しづらい。内蔵をやられているらしい、と妙に冷静に自己分析する。ここで悪態をついた所で至る結末は同じなんだろうけど。
悪態の代わりにできる限りの嫌悪を込めて睨んでやったら悪魔の少女はケラケラと楽しそうに笑った
「いい眼ね。欲しくなっちゃうわ」
次の瞬間。視界が赤く染まる。
眼を抉られたのだと気付くのに僅かな時を要したのは、多分もうすでに脳が痛みを感じる事を止めているからだろう。
他人事のような感覚のまま、残った方の眼で少女を見上げると抉ったばかりの私の眼をコロコロと手のひらで弄んでいた。
「悲鳴も上げないのね。ああ、そっか。もう痛みすら感じてないのかしら?一応教えておくと、あなた今左手と右足と左足がずたずたのぼろぼろで右手はナイフ握ったまま、貴女の足元辺りに転がってるし、あばら骨もバッキバキでその折れたアバラが内臓に所々刺さってるような状態よ。運良く、いや、運悪くかしら。心臓には刺さってないみたいだけど。ああ、後片目が抉れてるわね」
そんなにひどい状態なのか。そりゃ痛みも感じないわけだ。というか全部あんたにやられたんだけど。よくまだ意識保ってるな私。
「ああ、すぐに死なれちゃつまんないし。とりあえず止血っぽい事はしてみたのよ。私の魔力で血管圧迫して。もっとも、あなたが死んだ後に私のご飯になるんだからもったいないって言うのが本当の所だけどね」
私の言いたい事がわかったのかぺらぺらと得意げに語ってみせる吸血鬼。ご飯とか言うな。
「さて、せっかく残された最後の時間位お話しましょうよ。まさかこの私が致命傷受けるなんて。ネタばらしぐらいしてって欲しいわ。」
とんとん、と自分の頚動脈を指してあくまでもにこやかに吸血鬼は笑う
「いくら油断しててもさ。人間のスピードについていけないわけないじゃない。吸血鬼が。でもあなたは私が切られた事にすら気付かないくらい綺麗に頚動脈掻っ切ってくれたでしょ?そりゃ油断は思いっきりしてたんだけど。それにしてもねぇ・・・・・・。すごいスピードというより本当に気付いたら切られてた。そう、切り終わってたのよねー」
腕組みして考え込む姿だけ見ていると本当に人間の幼い女の子にしか見えない。これが泣く子も黙る夜の王、吸血鬼というのだから全く持ってわからないものだ。
あちらが油断した、と言っているのと同様に私も油断していた。頚動脈を切った程度で終るなんて思ってはダメだったのだ。それだけが唯一の悔いである。
「ねぇ、教えてよ。どうやったの?人間が私用に新しい武器とか作ったのかしら?それとも・・・・・・」
私の中で何かがドクン、と脈打つ
「あなたも、化物なの?」
「ち・・・・・・がう・・・・・・っ!!」
ごぼり、と口の端から血がこぼれる。が、そんな事構いやしない。
「私は・・・・・・普通の人間だ・・・・・・っ!」
「へぇ、そう。人間の皮をかぶった化物なのね」
「違・・・・・・うっ!」
「そうね。私から見れば、あなたは人間よ。どうしようもなく脆弱で貧弱な、私が優しく触っただけで死んでしまいそうになってる人間よ。でも、周りから見たらあなたも化物だったみたいね。どんな力かわからないけれどその力は人間には過ぎた・・・・・・」
「お前に何がわかる!!」
「わかるわよ。同じだもの。」
ありったけの憎悪をこめて叫んだ私を受け流すかのように。まるで母親がぐずる子供をあやすように。
汚れ一つなかったその薄紅いドレスを私の血で汚すことも構わず、彼女は動けない私の隣にそっと座って血で濡れた頬を手で包み込み、どこまでも沈んでいきそうな暗い紅い眼を私としっかり合わせて囁いた
「普通の人間は化物と呼ばれて・・・・・・そんなに悲しい眼をしないもの」
それは、悪魔とは思えないくらい優しい響きを持って私に染み込んだ。
この力のせいで周りから化物と呼ばれながら、自分を人間だと何度も言い聞かせてきた私を最初に理解してくれたのが私が殺すべきだと思っていた吸血鬼だなんて皮肉な話だ。ああ、そもそもヴァンパイアハンターになったのだって、人間の敵を殺すことで人間であろうとしたからだっけ。
不思議な事に、目尻から涙が零れて止まらない。これはなんだろうか。吸血鬼に同情された悔しさか。それとも理解された嬉しさか。
ああ、もうどうでもいい。疲れた。
「殺して・・・・・・」
どうせほおっておいても死ぬ身ではあるが、最後は吸血鬼に殺される、とても人間らしいじゃないか。
自殺願望なんかなかったけれど、自分を人間だと言ってくれたこいつになら殺されてもいい。
本気で、そう思った。
「私を・・・・・・殺して」
しかし
「・・・・・・嫌よ」
彼女の口から発せられたのは予想外の答え
「気が変わった。いえ、運命が変わったわ」
その瞳をさっきまで無かった狂気と狂喜に紅く輝かせながら楽しそうに彼女は笑う
「あなたは死なせない。私に仕えなさい。あなたが生きている限り、この私がこのレミリア・スカーレットがあなたを人間として扱ってあげるわ。強く美しい悪魔の隣なら、人外の能力を持つあなたですらそこらの人間と変わらない。人間から迫害された人間は人のまま悪魔の犬となる。うふふふ、楽しいじゃない。拒否権なんか無いわ。そしてあなたは自分が殺し損ねた敵に顎で使われるのよ。嬉しいでしょう?」
そんな事を嬉しがる趣味はない。はずなのだが、それも悪くないと思ってしまっている自分に少なからず驚いた。しかしそれを認めるのも癪なので、できるだけ冷たい眼で彼女を睨み
「いつか・・・・・・寝首をかいてやるから」
と、言ってやった。
そんな私に一瞬キョトンとした眼を向けて、次の瞬間それはそれは楽しそうに破願する吸血鬼。不覚にも見とれてしまった。
「それは考えてなかったわ」
ケタケタと無邪気に笑う彼女に、こちらも釣られて僅かに笑みがこぼれる。
不敵に笑って「後悔させてやるから」と嘯いてみたものの、実力の差がどうこうではなく、たぶん私はこのレミリアと名乗る吸血鬼を殺せない。気に入ってしまったのだ。信じられないことに。
「それじゃ」
しばらく笑い合っていたが唐突に一息ついて、彼女はいとも容易く自らの手首を切り裂いた。一瞬肉の裂けた赤い断面が見え、すぐに思い出したように血液があふれ出す。
その傷口にそっと自らの唇を寄せてその血を口に含んだかと思うと、そのまま動けない私の唇に唇を重ねてきた。
とろりと彼女の口から流し込まれる紅い液体を生物としての本能が吐き出させようとしたが、こちらが吐き出そうとするのを見越していたかのように、そのまま彼女の小さな舌が私の口腔に滑り込む。
驚きに身をよじろうとするが、そもそも動けるような体ではない。口を塞がれたことによる酸素不足と、飲め、と言わんばかりに私の口腔内をうごめく舌に耐え切れなくなり遂にゴクリと音を立てて悪魔の血を嚥下する。
それを確認するようにもう一度だけ私の口内を舌が這い回って、ようやく紅く染まった粘液の糸を引きながら彼女の唇が離れていく。
そして私は、酸欠でぼおっとした頭で朗々と謳う声を聞いた
「夜の王、レミリア・スカーレットの名において、お前に名を与えよう。この名を持って盟約とし、この血を持って契約とす。彼の者、姓を十六夜、名は咲夜。悪魔との誓いによって、その名で縛り、この血で従えよう。首に二つの穴を穿ち
、運命の鎖で体を繋ぎ、怨嗟と遺恨と憎悪と恐怖、仲良く手を取りその身を縛れ」
シャラン、という鎖の鳴る音が聞こえる。彼女の周りに浮かび上がる紅い鎖が彼女の言葉に呼応し生き物のように私に巻きついてくる
「運命の鎖を手繰り繋がれ、永久の時を主の為に尽くせ」
トン、と彼女が私と繋がるその鎖に触れた瞬間、巻きついていた鎖はスゥッと私の中に溶け込んでいった。
それと同時に猛烈な睡魔が私を襲う
「少し眠りなさい。体の事なら心配ないわ。私の友人に治させるから。優秀な魔法使いなのよ。ああ、後、私今日引っ越す予定だったのよね。もちろん咲夜も連れて行くからね。起きたらあなたの今までの常識なんか通用しない素敵な楽園である事を約束するわ。行き先は---」
薄れていく意識の中で私が覚えていたのはここまでである。
しかし、意識を失う直前だと言うのに行き先を告げる彼女の声だけははっきりと聞こえていた。
目覚めたら、忙しくなりそうだと思ったが、今はこの状況を楽しもう。
私が新しく人間として、悪魔の従者としての一歩を踏み出す土地。
彼女は誇らしげに胸を張って言っていた
「---幻想郷よ」
と。