新聞の一生は短い。
ルナチャイルドの一日は、新聞が届いているか確認することから始まる。
幻想郷の新聞は、天狗が好き勝手に発行しているので、届く日もあれば届かない日もある。
まあ外の世界に比べ、大きな事件もなく、時の流れの緩やかな幻想郷では、日々情報に追い立てられることもないのだろう。
家の外に出て、木を見上げるルナチャイルド。
少し分かりにくかったが、折り畳まれた新聞が木の枝に引っかかっている。
ルナチャイルドはそれを取ると、家に戻り、眼鏡をかけ、椅子に座って新聞を勢い良く広げた。
その瞬間、新聞が産声をあげる。
新聞をどこから読むかは、実に十人十色であって、人それぞれの考えが出るが、
ルナチャイルドは毎回一面から読むことにしている。
「『月で姉嫁派が妹嫁派を数で圧倒し結婚式を強行』ねぇ」
そこに書かれていたのは、幻想郷で今一番ホットな話題。
『姉嫁(姉は妹のお嫁さん)派』と『妹嫁(妹は姉のお嫁さん)派』の抗争の記事であった。
これがどれぐらいホットな話題なのかといえば、
もし屋台で顔見知り同士が隣合った席に座ると、
「あら、貴女は妹嫁派?」
「いえ、私は姉嫁派ですよ」
「へぇ、だけど世に『姉より優れた妹はいない』って言うわ。なら姉が夫で妹が嫁になるのが筋じゃない?」
「スキマさんともあろう人がそんな常識にとらわれてていいのですか!!」
「だれがスキマさんよ!!」
などと真剣に話し合われるぐらいにホットな話題である。
どちらが嫁か夫かなど大した問題ではないかと思うかもしれないが、
古き家長制度が色濃く残る幻想郷。嫁か夫かは一生に関わる大問題なのだ。
記事には写真付きで、
『やっぱり食っちゃ寝の豊姫様より凛々しい依姫様の方が夫にふさわしいですよ(レイセン氏)』
なるウサギのインタビューが載せられていた。
「え~と関連記事は……二面と三面、まずは二面ね」
一面記事に関連する記事を探すルナチャイルド。
『魔界で夢子政権発足』
「これはなんか違うような気がするわ。次は三面ね……
『紅魔館、地底、共に盤石であると主張』、まあ当然そう言うわよね」
古今東西自分の力が盤石でない、などと言う者は居ない。
だがルナチャイルドは、今回の事が原因でドミノ式に姉が妹のお嫁さんになるのではないか、などと考えていた。
「ふわぁぁぁぁぁ、おはようルナ」
大きな欠伸をし目を擦りながらルナチャイルドに挨拶したのは、サニーミルクである。
「おはようサニー」
顔を上げ、挨拶を返すルナチャイルド。
「スターは?」
「今朝ご飯の準備してるわ」
確かに耳を澄ませば、調理場から『とんとんぐつぐつ』と、食事の用意をする音がしていた。
「ルナ、市況面ちょうだい」
「はいサニー」
新聞の束の中から市況面だけを外して渡すルナチャイルド。
こうして特定の面だけ外して見られるのも新聞の利点である。
「う~む」
難しい顔をするサニーミルク。
とはいえ、彼女が書かれていることを理解しているわけではない。
この市況面、幻想郷で日常売り買いされる数多くの品物の値段が網羅されており、
里の商人達にしてみれば、ある意味生命線と言える物である。
見る人が見れば、幻想郷で一番安い宝の地図らしいのだが、
妖精であるサニーミルクがそんな大それた物を解読できる筈もなし。
単純に難しい顔をしてみたいだけである。
とはいえ、全く読んでないわけでもないようで、
「ねーねールナ」
「なによサニー」
「『栗価格が至上最高値』だって!!」
「それがどうしたのよ?」
「ルナの口も売れるんじゃない」
にやっと笑って、日頃『栗みたいな口』と言われるルナチャイルドをからかうサニーミルク。
だがルナチャイルドは真顔で、
「だめよ。私の口を食べていいのはサニーとスターだけだから」
などと返した。
言葉の意味を理解して、一気に顔が真っ赤になるサニーミルク。
言ってしまってから恥ずかしくなったのか、同じく顔を真っ赤にするルナチャイルド。
「全体的に物の値段が上がってるね!!」
「月で色々あって紅魔館や地底の情勢が不安定だと思われてるのよ!!」
「そーなのか!! 今度お寺で屋台やるけど大丈夫かな!!」
「きっとお寺の方で材料用意してくれるわよきっと!!」
誤魔化すように早口でまくし立てる二人。
「……」
「……」
そんな会話が途切れてしまうと、今度はお互いどう口を開いて良いものかわからず、二人は無言になった。
「朝ご飯できたわよ。あら、どうしたの二人とも?」
「なんでもないよ!!」
「そ~よ!!」
「朝から元気ね~」
そこに丁度良く食事を運んできたのはスターサファイアである。
慌てて取り繕う二人に対して疑問を抱かず、食卓の上に三人分のコーヒーを置いていく。
それを手に取ると急いで飲みはじめるサニーミルク。
「あらサニー、ミルクはいらないの?」
「いらない!!」
普段サニーミルクはコーヒーにたっぷりのミルクと砂糖を入れる。
だが、火照った心を冷やすには、黒い苦みが丁度良い。
「はいスター」
「ありがとルナ」
食卓にサンドイッチを置き終わったスターサファイアに、何も言われる事無く芸能欄を渡すルナチャイルド。
その顔はサニーミルクに比べれば些か冷静な様子である。
「今日はなにがあるかしら」
因みにスターサファイアは芸能欄しか読まない。
「え~と『神霊伝一ボスにレギュレーション違反の疑い。公正ボス委員会は調査を開始。
一ボス組合長のルーミア氏は「そーなのかー」と発言し事態の推移を見守ることを表明』あら?」
記事を要略して声に出すのはスターサファイアの癖である。
「どうしたのスター?」
「ちょっとここ見て」
のぞき込む二人。
「『連続掲載小説魅魔様の行方を探して三千里』」
「いや、そこじゃなくて……」
『魅魔様の行方を探して三千里』とは、ある魔法使いの少女が師匠を探してふらふらする物語である。
現在連載している二期は、一期の最後の腕試しで弟子が「魅魔様に勝っちゃった、うふふふふふふ……」
と言ったせいでヘソを曲げた師匠を追いかける話だ。
それはともかく、スターサファイアが指を指したのは芸能欄、の下にくっついていた求人欄である。
そこには……
『蓬莱山輝夜を働かせる人募集。仕事の種類は問いません。同行人一名付属。時給……』
「……」
「……」
「……これじゃ求人欄じゃなくて求職欄じゃない」
ルナチャイルドのツッコミももっともである。
もっとも『働かせる仕事』なので厳密には間違いではない。
「仕事の種類は問わない、ってことは私たちの屋台を手伝ってもらってもいいって事じゃない?」
「でも手伝いはアリスさんに頼んじゃったよ」
「アリスさんには人形での客引きに専念してもらえばいいのよ。なんなら屋台をもう一つ出してもいいし」
「とりあえず話だけでも聞いてみましょう」
「そうだね」
そんなこんなを話している内に朝食のサンドイッチも無くなっていた。
「それじゃー今日はまず竹林まで行こう!!」
サニーミルクが元気良く立ち上がりいつものように音頭をとる。
「そうね」
「賛成!」
いつものように同意する二人。
素早く準備を終えると三人並んで出かけてゆく。
そして、玄関を出る際、先ほどまで読んでた新聞を新聞入れに放り込む。
乾いた音がして、新聞は静かに息を引き取った。
ルナチャイルドの一日は、新聞が届いているか確認することから始まる。
幻想郷の新聞は、天狗が好き勝手に発行しているので、届く日もあれば届かない日もある。
まあ外の世界に比べ、大きな事件もなく、時の流れの緩やかな幻想郷では、日々情報に追い立てられることもないのだろう。
家の外に出て、木を見上げるルナチャイルド。
少し分かりにくかったが、折り畳まれた新聞が木の枝に引っかかっている。
ルナチャイルドはそれを取ると、家に戻り、眼鏡をかけ、椅子に座って新聞を勢い良く広げた。
その瞬間、新聞が産声をあげる。
新聞をどこから読むかは、実に十人十色であって、人それぞれの考えが出るが、
ルナチャイルドは毎回一面から読むことにしている。
「『月で姉嫁派が妹嫁派を数で圧倒し結婚式を強行』ねぇ」
そこに書かれていたのは、幻想郷で今一番ホットな話題。
『姉嫁(姉は妹のお嫁さん)派』と『妹嫁(妹は姉のお嫁さん)派』の抗争の記事であった。
これがどれぐらいホットな話題なのかといえば、
もし屋台で顔見知り同士が隣合った席に座ると、
「あら、貴女は妹嫁派?」
「いえ、私は姉嫁派ですよ」
「へぇ、だけど世に『姉より優れた妹はいない』って言うわ。なら姉が夫で妹が嫁になるのが筋じゃない?」
「スキマさんともあろう人がそんな常識にとらわれてていいのですか!!」
「だれがスキマさんよ!!」
などと真剣に話し合われるぐらいにホットな話題である。
どちらが嫁か夫かなど大した問題ではないかと思うかもしれないが、
古き家長制度が色濃く残る幻想郷。嫁か夫かは一生に関わる大問題なのだ。
記事には写真付きで、
『やっぱり食っちゃ寝の豊姫様より凛々しい依姫様の方が夫にふさわしいですよ(レイセン氏)』
なるウサギのインタビューが載せられていた。
「え~と関連記事は……二面と三面、まずは二面ね」
一面記事に関連する記事を探すルナチャイルド。
『魔界で夢子政権発足』
「これはなんか違うような気がするわ。次は三面ね……
『紅魔館、地底、共に盤石であると主張』、まあ当然そう言うわよね」
古今東西自分の力が盤石でない、などと言う者は居ない。
だがルナチャイルドは、今回の事が原因でドミノ式に姉が妹のお嫁さんになるのではないか、などと考えていた。
「ふわぁぁぁぁぁ、おはようルナ」
大きな欠伸をし目を擦りながらルナチャイルドに挨拶したのは、サニーミルクである。
「おはようサニー」
顔を上げ、挨拶を返すルナチャイルド。
「スターは?」
「今朝ご飯の準備してるわ」
確かに耳を澄ませば、調理場から『とんとんぐつぐつ』と、食事の用意をする音がしていた。
「ルナ、市況面ちょうだい」
「はいサニー」
新聞の束の中から市況面だけを外して渡すルナチャイルド。
こうして特定の面だけ外して見られるのも新聞の利点である。
「う~む」
難しい顔をするサニーミルク。
とはいえ、彼女が書かれていることを理解しているわけではない。
この市況面、幻想郷で日常売り買いされる数多くの品物の値段が網羅されており、
里の商人達にしてみれば、ある意味生命線と言える物である。
見る人が見れば、幻想郷で一番安い宝の地図らしいのだが、
妖精であるサニーミルクがそんな大それた物を解読できる筈もなし。
単純に難しい顔をしてみたいだけである。
とはいえ、全く読んでないわけでもないようで、
「ねーねールナ」
「なによサニー」
「『栗価格が至上最高値』だって!!」
「それがどうしたのよ?」
「ルナの口も売れるんじゃない」
にやっと笑って、日頃『栗みたいな口』と言われるルナチャイルドをからかうサニーミルク。
だがルナチャイルドは真顔で、
「だめよ。私の口を食べていいのはサニーとスターだけだから」
などと返した。
言葉の意味を理解して、一気に顔が真っ赤になるサニーミルク。
言ってしまってから恥ずかしくなったのか、同じく顔を真っ赤にするルナチャイルド。
「全体的に物の値段が上がってるね!!」
「月で色々あって紅魔館や地底の情勢が不安定だと思われてるのよ!!」
「そーなのか!! 今度お寺で屋台やるけど大丈夫かな!!」
「きっとお寺の方で材料用意してくれるわよきっと!!」
誤魔化すように早口でまくし立てる二人。
「……」
「……」
そんな会話が途切れてしまうと、今度はお互いどう口を開いて良いものかわからず、二人は無言になった。
「朝ご飯できたわよ。あら、どうしたの二人とも?」
「なんでもないよ!!」
「そ~よ!!」
「朝から元気ね~」
そこに丁度良く食事を運んできたのはスターサファイアである。
慌てて取り繕う二人に対して疑問を抱かず、食卓の上に三人分のコーヒーを置いていく。
それを手に取ると急いで飲みはじめるサニーミルク。
「あらサニー、ミルクはいらないの?」
「いらない!!」
普段サニーミルクはコーヒーにたっぷりのミルクと砂糖を入れる。
だが、火照った心を冷やすには、黒い苦みが丁度良い。
「はいスター」
「ありがとルナ」
食卓にサンドイッチを置き終わったスターサファイアに、何も言われる事無く芸能欄を渡すルナチャイルド。
その顔はサニーミルクに比べれば些か冷静な様子である。
「今日はなにがあるかしら」
因みにスターサファイアは芸能欄しか読まない。
「え~と『神霊伝一ボスにレギュレーション違反の疑い。公正ボス委員会は調査を開始。
一ボス組合長のルーミア氏は「そーなのかー」と発言し事態の推移を見守ることを表明』あら?」
記事を要略して声に出すのはスターサファイアの癖である。
「どうしたのスター?」
「ちょっとここ見て」
のぞき込む二人。
「『連続掲載小説魅魔様の行方を探して三千里』」
「いや、そこじゃなくて……」
『魅魔様の行方を探して三千里』とは、ある魔法使いの少女が師匠を探してふらふらする物語である。
現在連載している二期は、一期の最後の腕試しで弟子が「魅魔様に勝っちゃった、うふふふふふふ……」
と言ったせいでヘソを曲げた師匠を追いかける話だ。
それはともかく、スターサファイアが指を指したのは芸能欄、の下にくっついていた求人欄である。
そこには……
『蓬莱山輝夜を働かせる人募集。仕事の種類は問いません。同行人一名付属。時給……』
「……」
「……」
「……これじゃ求人欄じゃなくて求職欄じゃない」
ルナチャイルドのツッコミももっともである。
もっとも『働かせる仕事』なので厳密には間違いではない。
「仕事の種類は問わない、ってことは私たちの屋台を手伝ってもらってもいいって事じゃない?」
「でも手伝いはアリスさんに頼んじゃったよ」
「アリスさんには人形での客引きに専念してもらえばいいのよ。なんなら屋台をもう一つ出してもいいし」
「とりあえず話だけでも聞いてみましょう」
「そうだね」
そんなこんなを話している内に朝食のサンドイッチも無くなっていた。
「それじゃー今日はまず竹林まで行こう!!」
サニーミルクが元気良く立ち上がりいつものように音頭をとる。
「そうね」
「賛成!」
いつものように同意する二人。
素早く準備を終えると三人並んで出かけてゆく。
そして、玄関を出る際、先ほどまで読んでた新聞を新聞入れに放り込む。
乾いた音がして、新聞は静かに息を引き取った。
単に「その人の手に渡って消費されて捨てられるまでが物の一生ですよ」と言うのであれば、
別に新聞じゃなくても何にだって当てはまるたとえのように思います。
そういう意味であまり面白いたとえ話ではありませんでした。
次に話の内容ですが、ただ新聞を読むだけの話にしてももう少しいろいろと描いて欲しかったかなと思います。
たとえば途中のサニーとルナの会話。
読んだ感じちょっと百合的な空気を出したかったのだと思うのですが(違ったらすみません)、
それでしたら新聞の読み方が分からないサニーがルナに読んで解説してもらうだとか、
その内容がちょっとアダルトな感じだったのでお互い照れるだとか、
くっついて読んでる内にサニーがどんどん密着してきてルナが困るだとか。
……多分に個人的な好みが入ってしまいましたが、ともかくもうちょっと何かしら欲しかったかな、と思います。
今のままですとどの要素も薄くてあまり印象に残らない感じです。
ただ新聞を読むだけの話だからこそ、新聞という要素をもっと利用していろいろ書いた方が面白いのではないでしょうか。
話の空気や結末などは本家三月精っぽくて悪くないなと思いました。
読んでいて感じたことは以上です。ありがとうございました。
つまり、新聞紙で窓をしめらせてからふくとぴかぴかになるわけですね。
流石さくやさん! 内容の文には目もくれない、
そこにしびれるあこがれるぅ!
言ってみれば死者に鞭打つということなのか。
姫様を働かせるのでもう一話作れそう。
三月精らしいほのぼのとした話でありました。
こいしなんか浮気性の夫にしか見えんし