「藍ー、らーんー?」
ん…紫様の声?
「はぁい、今行きまーす」
藍は掃除していた手を止めて声のする方へパタパタと向かう。そして居間の前まで来て、障子を静かに開いた。
「お呼びでしょうか?」
「よく来たわねラム」
「誰が羊ですか」
「何を言ってるの、あなたは私の執事のようなものでしょう?」
「もう掃除に戻ってもいいですか?」
つれないわねぇ、と溜め息をつく紫。そう言われてもこっちは仕事していたのだから…それに座布団の上に頭を乗せて気持ち良さげに寝転びながら話されては、こちらもつれない態度になろう。
「それで、本当はどんな用件なんですか?」
呆れた調子で藍は再び尋ねた。
「そう、そうなのよ藍!ちょっと聞いてくれる!!」
「はい…何でしょうか?」
そんな興奮気味に話されては式として聞かざるを得ないだろう。とは言え、紫がこのような言い方をする時は大抵ロクな話ではないのだが・・
「あのね、藍…」
「はい…」
「今日のね?」
「はい…」
「晩御飯ね?」
「…はい」
「お刺身が食べたいわ!」
「…はぁ」
やっぱりそんなのか。
「ちょっとー、何で溜め息なんかつくのよー。溜め息一つで不幸が一つって知らないのかしら?」
誰のせいだ!!…とは言い返せないのが式の定めである。というかそろそろ夕方になろうというこのタイミングでその要望は、正直勘弁してほしい。
「それにしても紫様、何でお刺身なんですか?」
「今日暑いからよ。刺身って涼しい気がしない?」
「水でも被ってて下さいよ」
「つまりアレね、水も滴る良い女だと!そう言いたいのでしょう?」
「…」
引き際が大切だ。これ以上張り合ってもしょうがない…藍は口先では勝てないことは十分に分かっていた。
「ですが今から釣ってくるとなると時間かかりますよ?」
「里の市場があるじゃない」
「それこそ遠いし時間かかりますよ。まだ掃除も少し残ってますし…というか紫様の能力使えばすぐじゃないですか」
「今日は年に何度かある能力が使えない日なのよー」
「…」
そう言って畳の上をゴロゴロ転がる紫。そんな日なんてあるわけがない、きっと面倒なだけなのだろう。
何とかして諦めてもらえないだろうか…そんなことを藍が考えていると、ふと紫はゴロゴロするのを止めた。
「いえ、やっぱり刺身は止めましょうか」
「あれ、いきなりどうされたんですか?」
今日はやけに諦めが早い。いつもならしばらくは駄々をこね続けて結局藍が折れるというパターンなのに…
「だってこんな時間から出かけるだなんて…藍が大変ですものね」
「…はい?」
この御方は今何と言った?
「いつも家事や私の仕事を手伝ってくれているのだし…」
「ゆ、紫様っ!今ならきっと間に合うはずです、すぐに永遠亭に向かいましょう!安心して下さい、私は紫様を見捨てたりなんて絶対にしませんから!!」
「…藍、私があなたを心配することがそんなにおかしいかしら?」
「だだだっ、だってあの紫様が私の身を案じて下さるなんて…真冬に蛍が見たいと言って雪が降っているのに外へ探しに行くよう命じたり、夜中にお腹が空いたと言って私を叩き起こして夜食を作らせたりしていたあの紫様が!?」
「…そんなことあったかしら?」
今度からはもう少し藍を気遣ってあげよう…紫はそう心に決めた。
そう、今度からは。
「もう…藍、聞きなさい?」
「えっ、あ、はい」
そう言って藍は居住まいを正した
「藍、あなたは私の式であると同時に家族なのよ?心配に思わない訳がないでしょう?」
藍は、はっとした表情で紫を見つめる。
「紫様…」
「いつもいつも私を助けてくれてありがとうね。あなたは私の誇りよ。」
「うっ、紫さ、まぁ…」
主に仕えることが式の喜び。そして今、その主が自分を誇りに思ってくれているのだ。嬉しくないはずがない。
ふと気がつくと、藍は紫に優しく抱き締められていた。
「そんな大切なあなたなんですもの、私の我が儘で振り回してしまってはいけないわよね。それに藍はいつも頑張ってくれているのだし…今日はもう仕事も上がってゆっくり休んで頂戴。後のことは私が引き受けるから、ね?」
紫はそう言って優しく藍に囁いた。
しかし藍はとめどなく流れる涙をなんとか拭い、紫の方へ顔を上げた。
「紫さま、私は幸せ者です。こんなにも愛されて、大切に想って下さって…本当に嬉しく思っています。しかし、いえ、だからこそ、私は紫さまの願いを叶えてあげたいのです。式として…いや…か、家族の…一員として」
そう言うと藍は少し恥ずかしげに、そしてとても幸せそうに笑った。
「藍…でも…」
「いえ、大丈夫です。何て言ったって、私は八雲の藍ですから!…その代わり、後でゆっくりと…私と一緒にお酒でも呑んで頂けないでしょうか?」
「…ええ、もちろんよ。楽しみにしているわ」
紫は優しい笑顔を見せた。その様子に藍はぱぁっと嬉しそうな顔になり、
「では、早速行って参ります!すぐに戻ってきますので!!」
そう言い残して意気揚々と刺身を買いに市場へ出かけて行った。
「まったくもう…藍ったら可愛いんだから」
そして
――――――――――――
「…あれ?」
市場まで辿り着いた時に藍はどことなく思った。
…もしかして私、うまく乗せられてる?
――――――――――――
「計画通りっ!!」
紫は楽しそうに笑った
ん…紫様の声?
「はぁい、今行きまーす」
藍は掃除していた手を止めて声のする方へパタパタと向かう。そして居間の前まで来て、障子を静かに開いた。
「お呼びでしょうか?」
「よく来たわねラム」
「誰が羊ですか」
「何を言ってるの、あなたは私の執事のようなものでしょう?」
「もう掃除に戻ってもいいですか?」
つれないわねぇ、と溜め息をつく紫。そう言われてもこっちは仕事していたのだから…それに座布団の上に頭を乗せて気持ち良さげに寝転びながら話されては、こちらもつれない態度になろう。
「それで、本当はどんな用件なんですか?」
呆れた調子で藍は再び尋ねた。
「そう、そうなのよ藍!ちょっと聞いてくれる!!」
「はい…何でしょうか?」
そんな興奮気味に話されては式として聞かざるを得ないだろう。とは言え、紫がこのような言い方をする時は大抵ロクな話ではないのだが・・
「あのね、藍…」
「はい…」
「今日のね?」
「はい…」
「晩御飯ね?」
「…はい」
「お刺身が食べたいわ!」
「…はぁ」
やっぱりそんなのか。
「ちょっとー、何で溜め息なんかつくのよー。溜め息一つで不幸が一つって知らないのかしら?」
誰のせいだ!!…とは言い返せないのが式の定めである。というかそろそろ夕方になろうというこのタイミングでその要望は、正直勘弁してほしい。
「それにしても紫様、何でお刺身なんですか?」
「今日暑いからよ。刺身って涼しい気がしない?」
「水でも被ってて下さいよ」
「つまりアレね、水も滴る良い女だと!そう言いたいのでしょう?」
「…」
引き際が大切だ。これ以上張り合ってもしょうがない…藍は口先では勝てないことは十分に分かっていた。
「ですが今から釣ってくるとなると時間かかりますよ?」
「里の市場があるじゃない」
「それこそ遠いし時間かかりますよ。まだ掃除も少し残ってますし…というか紫様の能力使えばすぐじゃないですか」
「今日は年に何度かある能力が使えない日なのよー」
「…」
そう言って畳の上をゴロゴロ転がる紫。そんな日なんてあるわけがない、きっと面倒なだけなのだろう。
何とかして諦めてもらえないだろうか…そんなことを藍が考えていると、ふと紫はゴロゴロするのを止めた。
「いえ、やっぱり刺身は止めましょうか」
「あれ、いきなりどうされたんですか?」
今日はやけに諦めが早い。いつもならしばらくは駄々をこね続けて結局藍が折れるというパターンなのに…
「だってこんな時間から出かけるだなんて…藍が大変ですものね」
「…はい?」
この御方は今何と言った?
「いつも家事や私の仕事を手伝ってくれているのだし…」
「ゆ、紫様っ!今ならきっと間に合うはずです、すぐに永遠亭に向かいましょう!安心して下さい、私は紫様を見捨てたりなんて絶対にしませんから!!」
「…藍、私があなたを心配することがそんなにおかしいかしら?」
「だだだっ、だってあの紫様が私の身を案じて下さるなんて…真冬に蛍が見たいと言って雪が降っているのに外へ探しに行くよう命じたり、夜中にお腹が空いたと言って私を叩き起こして夜食を作らせたりしていたあの紫様が!?」
「…そんなことあったかしら?」
今度からはもう少し藍を気遣ってあげよう…紫はそう心に決めた。
そう、今度からは。
「もう…藍、聞きなさい?」
「えっ、あ、はい」
そう言って藍は居住まいを正した
「藍、あなたは私の式であると同時に家族なのよ?心配に思わない訳がないでしょう?」
藍は、はっとした表情で紫を見つめる。
「紫様…」
「いつもいつも私を助けてくれてありがとうね。あなたは私の誇りよ。」
「うっ、紫さ、まぁ…」
主に仕えることが式の喜び。そして今、その主が自分を誇りに思ってくれているのだ。嬉しくないはずがない。
ふと気がつくと、藍は紫に優しく抱き締められていた。
「そんな大切なあなたなんですもの、私の我が儘で振り回してしまってはいけないわよね。それに藍はいつも頑張ってくれているのだし…今日はもう仕事も上がってゆっくり休んで頂戴。後のことは私が引き受けるから、ね?」
紫はそう言って優しく藍に囁いた。
しかし藍はとめどなく流れる涙をなんとか拭い、紫の方へ顔を上げた。
「紫さま、私は幸せ者です。こんなにも愛されて、大切に想って下さって…本当に嬉しく思っています。しかし、いえ、だからこそ、私は紫さまの願いを叶えてあげたいのです。式として…いや…か、家族の…一員として」
そう言うと藍は少し恥ずかしげに、そしてとても幸せそうに笑った。
「藍…でも…」
「いえ、大丈夫です。何て言ったって、私は八雲の藍ですから!…その代わり、後でゆっくりと…私と一緒にお酒でも呑んで頂けないでしょうか?」
「…ええ、もちろんよ。楽しみにしているわ」
紫は優しい笑顔を見せた。その様子に藍はぱぁっと嬉しそうな顔になり、
「では、早速行って参ります!すぐに戻ってきますので!!」
そう言い残して意気揚々と刺身を買いに市場へ出かけて行った。
「まったくもう…藍ったら可愛いんだから」
そして
――――――――――――
「…あれ?」
市場まで辿り着いた時に藍はどことなく思った。
…もしかして私、うまく乗せられてる?
――――――――――――
「計画通りっ!!」
紫は楽しそうに笑った
だが小説の作法が甘いかも
視点がコロコロ変わったり、「…」の用法とかさ
ただ藍を口車に乗せるだけというのが少し寂しいと思います。
唯ののろけ話だったぜ☆
ゆからん好きだから問題ないが。
寄生虫に中たっちゃえ☆
山奥にあるとされる幻想郷で刺身とは……紫さん、アンタ鬼やで。
もうちょっと話に山があっても良かった気がする
たまにはこんなホッコリする話もいい