霧の湖で遊ぶ三人の子どもたち。チルノ、大妖精、小悪魔。
彼女たちは鬼ごっこをして遊んでいました。
「つっかまーえたー」
「うわー、あたいつかまっちゃった」
大妖精はチルノを捕まえました。
「私チルノちゃんが好き。チルノちゃんも私が大好き」
二人は本当に仲が良い。これは素晴らしいことです。
「小悪魔ちゃんはどこに行ったのかな。全然見つからない」
「たいへーん! 二人とも、たいへーん!」
「あ、小悪魔ちゃん見っけ」
非常に慌てた様子で飛んできた小悪魔。彼女は自らの背後を指差し、二人に危機を伝えます。
そう、すぐそこまで迫っていた恐ろしいロボット、非想天則の存在を。
突如現れた謎の非想天則はとにかくでかい。まるで山が動いているかのようです。
「うわー、おっきなロボットだ。あたいあれ欲しい」
「何言ってるのチルノちゃん!? あれはきっと悪いやつが造った恐ろしい武器だよ。この湖を奪いに来たんだわ」
「そうだよね。私もそう思う」
三人は急いでこの場を離れました。そしてそれと入れ違いになるように、邪悪な人影が姿を現します。
「ひゅっひゅっひゅ、偉大なる天才科学者にとり様の野望、幻想郷征服への足掛かりとして、まずはこの霧の湖を支配下に置く。その為に私自ら出向いてやったよ」
世紀の大発明家河城にとり。彼女こそこの騒ぎの犯人に間違いありません。
「やれぇ、非想天則! まずはこの湖にはびこる邪魔な妖精たちを片付けるんだ! キューカンヴァ~」
彼女の声に従い、非想天則が腕を振るうと、か弱い妖精たちはことごとくピチュっていきました。
「ぬぬぬ、むごいことをする」
その様子を見ていた美鈴は、このことを咲夜に伝えようと飛び立ちます。
走る、走る、空を翔ける! 野を越え山越え谷を超え、ついに紅い館へと辿り着きました。
彼女が入り込んだこの館こそ、悪魔が住むという噂で有名なあの紅魔館なのでしょう。
「咲夜さん大変です」
「あらあなた、門番サボってどこ行ってたのよ。お昼ご飯冷めちゃったじゃない」
「そんな事より、とんでもなく巨大なロボットが攻めてきました。もうダメです。早く逃げましょう!」
「落ち着きなさい。とにかくパチュリー様に何とかしてもらいましょう」
「それは名案です。お嬢様には知らせますか?」
「んー、そうしたいのは山々だけれど、今はお昼寝の時間だからそっとしておきましょう」
かくして、二人は館の地下にある広大な書斎へとやって来ました。
そこに彼女たちの探し求める天才魔法少女、パチュリー・ノーレッジはいるのです。
『助けてくださいパチュリー様!』
「わかったわ。何とかしましょう」
事態を把握したパチュリーは早速館を飛び出し、湖で暴れる非想天則に向けてロイヤルフレアを放ちました。
「ダメだわ、全く歯が立たない。早くここから逃げないと」
パチュリー程の魔法少女の力をもってしても非想天則には敵いませんでした。このまま湖は、幻想郷は、世界はにとりの手に落ちてしまうのでしょうか!?
「ククククク、ハーッハッハッハッハ」
とその時、辺りに響き渡る笑い声。いったいどこから聞こえてくるのか。咲夜たちは耳を澄ませ、そして空を舞う物体を発見しました。
「あっ、あれは何?」
「鳥です!」
「飛行機よ!」
「いいえ、違いますわ。蝙蝠の化け物ですよ!」
謎の物体は優雅に滑空しながら彼女たちの目の前へ降りてきました。
なんとそれは蝙蝠の翼をはやした少女でした。それも大きなマントに髑髏のマスクを付けた異様な姿でした。
もしかすると日の光に弱いのでしょうか。しかしこのマントとマスクさえあれば平気です。
「正義の味方、王紅バット!」
そう。彼女は鳥でも飛行機でも、はたまた化け物でもありません。何を隠そう、彼女こそが正義の味方、王紅バットその人なのです!
「ひゅいっ、誰だ!?」
大変です。にとりめに気づかれてしまいました。
「キュウーカンーヴァー。何だい君たちは。私に逆らうつもりかい? ええい小癪な。返り討ちにしてやる!」
非想天則が標的を妖精たちから咲夜たちに変えました。このままでは踏み潰されてしまいます。
しかし心配はいりません。彼女たちには心強い味方、王紅バットがいるのですから。
「王紅バットはきっと吸血鬼だわ。吸血鬼は天狗の速さに鬼の腕力を備えてるから楽勝ね。凄いわ! やっちゃって!」
パチュリーの応援を受けて、王紅バットは非想天則に果敢に立ち向かいました。
どうでしょう。王紅バットが鬼の腕力で殴る! 蹴る! 叩く!
おまけにグングニルまで投げたならば、非想天則に抗うすべなどあろう筈がありません。あっという間に爆散しました。
「やったーかっこいー!」
「凄いわやっぱり王紅バットは!」
「うちのお嬢様にも見習って欲しい程のカリスマですわね」
三人とも大喜びです。
「キュゥウクァンブァアア。そんなバカなぁ~!」
にとりは恐れ慄き、額に汗まで浮かべています。
「おのれ王紅バットめ。流石だよ。次こそは息の根を止めてやるぞ、覚えてろ! キュウカンバァー」
尻尾を巻いて退散するにとり。今回はまんまと逃げられてしまいましたが、例え何度やってこようと王紅バットにはそうそう敵わないので、きっと大丈夫です。
悪は去った。こうしてひとまず、幻想郷に平和が戻ったのだ。
夕日の空を颯爽と飛んでいく王紅バットへ、皆が感謝の気持ちを叫びながら手を振ります。ありがとう、ありがとう王紅バット、と。
強い! 絶対に強い! 我らが王紅バット!!
和んだよ。
紙芝居のおじさんの売ってた水あめの味を思い出しました。