・主要キャラ以外にもカップリングが唐突に出てきます
・心が広い方むけ
私としては非常に残念な事に、そして彼女にとっては非常に嬉しい事に、幻想郷に土砂降りの雨が降った。
なぜ私がそれを残念に思ったか。それは私の種族を考えて欲しい。吸血鬼、レミリア・スカーレットとしては雨など天敵で外に出るなど自殺行為である。だから私の気分が下向きになったのも当然の事といえよう。
まぁそれ以外にも、一つ理由があるのだけど、それはこれから語りたい。
そしてなぜ私の従者、十六夜咲夜が上機嫌になったかというと――。
やや時間は遡り、一時間程の前のヴワル図書館。
出不精で病弱な我が親友はとっくにダウンして部屋に戻っていたのでそれの看病役の小悪魔ごといなくなってしまった。
よって私と咲夜の二人きりという訳だ。
余談だが、私の従者十六夜咲夜は容姿端麗頭脳明晰超人的身体能力。全てを兼ね備えた完全で瀟洒な従者。紅魔館の自慢のメイドなのだ。
「今日は遊びに行きましょ? フラン達もいないし」
朝から美鈴とフランは魔理沙と霊夢のところへ遊びに行った。二人が最早夫婦と呼べる程の仲なのは周知の事実だし、フランも美鈴と恋人関係まで発展したのは知っている。というか嫌々ながら許可した。但し清く正しい交際に限るという条件はつけたけど。
つられてと言ってはなんだが、私も咲夜と遊びに行きたくなった。いつもの気まぐれ。咲夜は頷いてくれると思っていた。
「いえ、本日は雨が降るらしいので駄目ですわ」
思いがけず、ゆるゆると首をふって咲夜が指したのは我が親友が毎朝真面目にやってくれている天気予報。
成る程、咲夜の言うとおり今日は雨マークだ。
「ちょっとくらいなら大丈夫だろう? 傘を持っていけばいいし」
吸血鬼は流水が天敵だが別に触れて直ぐに解けるという訳でも少量でも触れれば死ぬという訳ではない。せいぜい人間でいう硫酸程度の威力しかないのだ。さらに再生能力がある為それすら大した事じゃない。傘を差せば大体問題ないのだ。
「すみませんが今日はお断りします」
正直に言うとこの時既に少し私は苛々していた。いつも二つ返事で了承する咲夜が私の言うことに二度も首を振るなんて珍しい事だったからだ。
ちょっとしたからかいを込めて言ってみる。今思えば墓穴を掘ったと言わざるを得ない。
意地悪をいうように、悪戯のような気持ちで私は咲夜の蒼い目をまっすぐ見て言った。
「もしかして、デートでもいくのかい?」
私と咲夜はその、恋人関係にある訳ではない。咲夜が誰とデートしようが付き合おうがキスしようが仕事に影響が出なければ私には何も言う事は出来ない。
だけど私がもう何年も咲夜を気に入ってるのは密かな事実であり否定する気もない。他の奴と一緒に居る所なんて見たくないというのが本音だった。
それが独占欲からくるものなのか、はたまた別の何かからかなのかなんて私にはどうでも良かったけど。
「はい。デートというのが二人きりで出歩く事を指すならばそうです」
え?
二度目の思いがけない返答にフリーズする。まさか。咲夜に限ってそんな。思わず口をあんぐりと開けてしまい、夜の王の威厳が欠片もなくなる。
咲夜がデート?
他の奴と?
私を差し置いて?
「おい咲夜、今は何月?」
エイプリルフールならさっさと終わってくれ。頼むから。
「五月ですが……。という事なので本日の午後はお暇を頂いても宜しいですか? 仕事は勿論終わらせてありますわ」
今は昼下がりというには少し早いくらいの時間。これからデートに行く気なんだろう。
勿論咲夜は私の従者だから私が一言拒否すれば咲夜は何処にもいけない。絶対の忠誠を誓う咲夜なら私が強く言えばどんな用事ですら無かったことにするだろう。
だけど咲夜を縛るような無様な真似はしたくない。結果として私は嫌々首を振ったのだった……。
そして話は現在に戻るのだけれども。
「雨の日じゃないとデート出来ないんです」
なんて嬉しそうに笑いながら咲夜が出かけて少したつ。腹が立つくらい完璧に仕事は終わらせていたから今更駄目とも言えず、仏頂面で咲夜を送り出した。咲夜はそれすら気づいてなかったが。
あの駄犬は普段は鋭いのにたまにとてつもなく鈍かったりする。
「くそー……。誰だよ、いつの間にだよ……」
なんとなく面白くない。ぶつぶつと独り言を口から漏らす。
別に咲夜が好きな訳じゃないさ。お気に入りの玩具を取られて悔しいだけ。ただそれだけだ。
無駄に広い玄関ホールで毒づいても誰も聞いちゃいない。空しく響いて帰ってくるだけだ。
はぁ……。
それにしても本当にいつ、付き合い始めたんだろうか。すっかり慢心していた。咲夜の一番が自分であると信じていたから咲夜が誰かと付き合うなんて考えた事もなかった。
咲夜を所有しているのは私だ。誰がなんと言おうと譲る気はない。
だがあくまでも所有しているだけで、彼女の全てを縛る鎖にはならないのだ。
自分で導き出した解答に肩を落とす。結局私は咲夜の全てを持っている気になっていただけって訳ね。
「ちょっとレミィ、何茸栽培してんのよ」
降りかかる声は引きこもってるはずの我が親友の声。重たい首を動かしてパチェを見つめる。
「いいじゃない。私だってショックなのよ。咲夜に恋人がいるなんてパチェ知ってた?」
若干うざったそうに私を見る親友の呆れた視線は見て見ぬふりをする。今はそれより大事な話をしてるのよ。
「はぁ? 咲夜に恋人? いる訳ないじゃない」
いやにキッパリとした断言。確信を持ったその言葉はパチェらしいと言えばパチェらしい。だが私の親友は根拠なしでは断言なんかしない。魔法使いというのは大概そんな生き物なのだ。
という事は何か知ってる? 勘に頼った推測によってそこまで行き着く。思わず立ち上がり、パチェの方に向き直った。
肩をガッシリと掴んで揺さぶるように質問をぶつける。
「パチェはなんか知ってるの? 教えて!」
威厳なんて多少崩れてもいいのよ! カリスマ補正でなんとかなるわ!
実際余裕なんてないから焦ってるし。咲夜が誰かと一緒に楽しそうにしてるのを想像すると嫌な気分なんだもん。
「あのね、咲夜には貴女が一番なの。そこんとこ自覚ある?」
「え、あ、まぁ」
「だったらね、咲夜が貴女に何も言わない筈ないでしょう。咲夜をもっと信じなさいよ」
額を軽くこづかれた。私にこんな事するのはパチェくらいで久しぶりだったから地味に痛い。
――でもパチェの言うとおりだわ。
「そうよね。確かにその通りだわ」
落ち着いて考えればわかりそうな事よね、なんてパチェの馬鹿にしたような声。今回はその通りなので何も言えない。
パチェに深く謝罪をして部屋に戻った。
漸くちゃんと落ち着けて、咲夜がデートしてるらしい相手の事を考える。
友達以上恋人未満な誰か? それでも咲夜は私に報告するわよね。そもそも咲夜は鈍いから相手から一方的な片想いならたくさんありそうだけど。
心当たりを考えても思いつかない。誰も出てこないのだ、咲夜とデートしそうな相手なんて。
そもそもなんて咲夜は行き先も一緒に行く相手もはっきり告げずに此処を出たんだろうか。普段の彼女なら全て私に言ってから行くのに。
私には言いづらい場所かしら。でも私は咲夜が何処に行こうが此処に帰ってきてくれるなら何も言わないのに。強欲な悪魔の性で、玩具をあげる事は出来ないけど貸すくらいなら出来る。
やはり考えれば考える程咲夜の思考は読めない。複雑な癖して変な所で単純明快。それでいて肝心なところは隠すなんて意味が分からない。
だが私はそういう意味がわからない所すら気に入っているのだから始末に終えない。自分でも馬鹿だと思う程咲夜を気にいっているのだから仕方が無い。
「だぁあああ。もう」
考えるのやめた。どうせ結論が出ないなら帰ってきた咲夜に直接聞こう。それが一番手っ取り早い。
こうしてる間も咲夜が笑いかけているのかと思うと苛々するけど。咲夜が幸せならそれでいいと無理やりに自分を納得させ、私は咲夜の帰りを待った。
咲夜は夕方日が暮れる少し前に帰ってきた。ニコニコしながら私の方に歩いてきて、両手一杯の何かを籠に入れている。その何かはなんとなく検討がついたけれど、礼儀としてそれには触れず、おかえりと声をかける。
「お嬢様、これを」
挨拶もそこそこに、咲夜は籠に移したそれを私に手渡した。中に入っているのはあまり目立たなさそう花。贈り物の定番中の定番を貰って、単純だと思いつつも少しだけ機嫌が上を向いた。
なんで今日咲夜が花を私に贈ってくるのかは分からないが、嬉しいものは嬉しい。
「これはなんていう花だい?」
「モルセラ、です。花言葉は永遠の感謝。私からお嬢様に贈るのにこれ程相応しい花はないかと思いまして」
満面の笑みで告げられるとこっちまで理由なしに嬉しくなってくる。
永遠の感謝。悪くない。牙を見せてカラカラと笑う。
「有難う、なんて言わない。その代わりこの花を私の部屋に飾っておいてくれ」
一度籠を返して、それでもにこやかな咲夜に聞こうと思っていた言葉をつむぐ。
「で、今日お前は誰といたんだい? この花は何処で?」
「八雲の狐と一緒でしたわ。この花を手に入れるのを少々手伝ってもらってました」
交渉が大変でした、と舌なんか出す咲夜に一先ず安心した。どうやら本当に恋愛的な意味でのデートではないらしい。
それでも湧き上がってくる質問を順番に整理して言葉に変換する。
「なんであのスキマの式なんかに?」
「この花は幻想入りしてるものではありませんので。スキマに直接交渉するより、式と交渉した方が楽かと」
「なんで今日贈り物なんかを?」
「先週、魔理沙から魔導書を読ませて貰ったときにこの花が載っていたのです。それでどうしても贈りたくなって……」
雨の日の結界強化手伝いを条件に手に入れたんです、と誇らしげに胸を張る咲夜。だから雨だと嬉しがっていたのか。
疑問が一つ一つ氷解する。
こう考えると自分が恥ずかしい。勝手に咲夜に恋人が出来たなんてベタな事で盛り上がって。穴があったら埋めたい。
「よし、咲夜。ちょっと屈め」
やや赤い自分の顔を見られたくないから彼女をしゃがませる。出来るだけ厳かな顔をする。
「咲夜、お前の忠義に免じて誓いをたてよう」
子供じみたおふざけのような話。
あくまで私は真剣に言った。
「私は生涯右腕はお前だけにする。これから誰が現れようとも、絶対にだ。―ーその代わり、お前も生涯を私の為だけに尽くせ」
銀色の髪に口付け、誓いは終了。静まりかえった空間に降りしきる雨音だけが響く。
「はい。絶対絶対お嬢様だけを主と認め、一生を捧げますわ」
咲夜の晴れ晴れした笑顔とその台詞に今日一番の満足を覚え、雨音にかき消されるくらいの声を私は出した。
「 」
夜中だというのに、レミリアの乙女っぽさに一人でニヤニヤしちまったぜwww
恋人以上友達未満とは器用ですね、逆じゃないですか?
友達以上恋人未満が正かと。
すいませんミスでした