" />くるくる迷路 作者: アン・シャーリー
Coolier - 新生・東方創想話

くるくる迷路

2011/05/11 23:04:33
最終更新
サイズ
7.62KB
ページ数
1
閲覧数
4978
評価数
47/131
POINT
8290
Rate
12.60

分類タグ

大嫌いなお姉さま
レミリア・スカーレットへ



 おひさしゅう。
 私が地下室を出てから一ヶ月になります。まずはまわりのことを書きます――今は夜で、雨が降っていて、空から落ちてくる雨の粒が家の屋根や、扉や、まわりの森の木の葉や枝を叩く音がいくつもかさなって、ザーッとかゴーッとかの音がしています。風も吹いています。もちろん吸血鬼に雨は大敵だから、私は家の中でおとなくしてる。雨と風がすごいいきおいで同時にやってくるのを、えーっと、嵐といいます。お姉さまは知ってたかな。もちろん知ってただろうな。でも、私に教えてくれなかったね。

 家の屋根は粘土をこねたものを硬く焼いたものでできていて、雨漏りはしないから、大丈夫です。魔理沙はいろんなことを教えてくれます。風にだってそよ風とか、葉風とか夕立風とかたくさん種類があるのを教えてくれたし(葉風は木の葉をかさこそ吹き鳴らす風で、夕立風は夕立の前に吹く生暖かい風です。夕立は雨です)、星の名前とか、キノコの見分け方とかを一日の間にたくさん教えてくれました。私が地下室にいて考えたことや、やったことの全部より何倍も多くのことを、ここにいて見聞きできたと思う。

 わかるかな。私はうらみごとを言っています。お姉さまは、偉そうにするだけで、ちっとも良いことをしなかったんだ。一ヶ月前に喧嘩したときに、ほんとにもう、全部のぜーんぶを壊しちゃえば良かったって、そう考えてた。
 でも、魔理沙はそれは良くないと言います。レミリアはいろいろやっかいな奴だが芯まで悪い奴じゃないから、飽きたら帰って仲良くしてやれとか、そういうことを言うんだけど、じゃあ魔理沙が実家に帰るかっていうと、そんなことはないんだから勝手なもので、じゃあって言って魔理沙の親の話をしようとすると、うまいぐあいに別の話をはじめられて、またその話が面白いから、私は聞き入ってしまいます。この前は、恋愛について教えてもらったの。

 お姉さまは、恋愛ってしたことあるかな? 私はないです。ずっと地下室にいたんだから、あたりまえだと思う。お姉さまは、霊夢が好きなのかな。それとも咲夜? パチュリー? どれにしたって、恋愛っていうのはずいぶん大変なことみたいだから、心してものごとをすすめるよう、注意しておきます(こういう偉そうな物言いは、お姉さまから学びました)。
 魔理沙によると、ほんとうにむかしのむかしは、かぎられた立派な人しか恋愛ができなかったそうで、というのも、むかしのむかしは修道院に入っている女の人を、何にもしなくっても生活に困らない脳天気な男の人が「ああ、あの人としたい! でも(修道女だから)できない!」ともんもんとして愛の詩をつくることが、すなわち恋愛だったからだそうです。よくわかんないけど、できない、というのは、つまり、できないんだそうです。魔理沙がいうには、つまるとこ愛についての詩を書くことから恋愛ははじまったんだって。はじまりがそうだったから、そのふたつは切り離せないもの。恋愛ってようするに、愛の歌のことなの。

 それでね。魔理沙は恋愛には詳しいの、と訊いたら「そりゃエキスパートだぜ」だって。誰に恋してるの? って訊いたら「そりゃ秘密だぜ」って、そんなのないよ。そしたら「甘いものおごってくれたら教えてやる」って言うから、夜中だったけど魔理沙の家を出て飛んで人里に行って、でもお店が開いてなくって、そもそも私はお金をもってないしで、ひどい気分になった。だから興奮して目につくもの何でもかんでも壊しちゃうところだったけど、思い出したんだ。お姉さまと喧嘩したとき、お姉さまの体が壊れるのを見て、私はものすごくひどい気分になったの。それを思い出したから、だから――やっぱりやめようと思って、急いで帰った。そしたら魔理沙は勝手にもう寝てて、ひどいなあと思った。魔理沙もお姉さまとおなじで、口ばっかで自分勝手なんだ。
 魔理沙が起きるまでそばで待ってた。そしたら朝になって、私はすごく眠いのに、魔理沙が目を覚まして、起き上がると窓から射す朝の光が魔理沙の金髪にきらきら降り注いで、魔理沙が頭を振ると光の粒があたりに散らばったみたいになってすごくきれいで――お姉さまは私の髪を褒めるけど、魔理沙のほうがきれいだと思うな――ふわーって大あくびした。

 私はそれを見て、頭にきちゃった。こっちが苦労してるのに、ひとりだけ絵みたいにきれいになっちゃって、そんなとこもお姉さまといっしょなの。だから前の晩のいらいらが、いちどに爆発しちゃって――だから魔理沙の家は今、半分壊れてる。魔理沙はなんだっけ、竹やぶの中の家に入院してるんだけど、魔理沙も家も半分は大丈夫なので、雨も風も私がいるところには入ってこないから、大丈夫です。私だってがまんできるところはできるのよ。だからね、今、私はひとりっきり。ひとりっきりで魔理沙の家にいる。

 ひとりっきりなのは昔もそうだったから、別にいいし、ぜんぜん何も感じないけど、でも、あのころは上にお姉さまや、パチュリーや、咲夜が上にいるのがわかっていたから、だから怖くなかったんだって、そういうふうに、今考えています。魔法の森は雨と風の音のほかにいろんな音がするみたいで、紅魔館とはちがいます。紅魔館では、何も音が聞こえなくっても、ぜんぜん心配することなかったし、ずっとそこにいても飽きることがなかった。魔理沙の家は、音がいっぱいして、賑やかで、いろんなものがあって、でも時々、何だかわからないんだけど、とつぜん泣きそうな気持ちになるし、でもいろんなことが起きて騒がしいから、その気持ちもずんずん後ろのほうに押し流されていくみたいで、まるで去年のお誕生日、お姉さまがはじめてお酒を飲ませてくれたときのような、あんな感じで、ちっとも心がはっきりしないの。

 で、今夜はひとりっきりになっちゃったから、やることがなくって、それで私は、がんばってひとりで頭の中をすっきりさせようと思ったの。するとずっと前に考えたことや、こっちで聞いた話なんかが混ぜこぜに思い出されて、それが少しずつ順番に並ぶようになって、それで私は、どうも、自分の心のなかからある種のきわめて大事なことを、見つけだしたように思う。いちど見つけだしてみると、ずっと前からそれがあたりまえだったように感じました。

 お姉さまは水色の髪をしていて、黒に赤を混ぜたような色の目をしていて、紅い色が大好きで、私よりも少し背が高い。でも咲夜と比べるとすごくちっちゃいから、ちっちゃいようにしか見えない。咲夜はいつもお姉さまのそばにいて、いろいろとお世話をしてる。パチュリーは紫色で、ずっと本を読んでいて、ぼそぼそしゃべるから暗い感じがするけどとても物知りで、お姉さまの親友である。私がひどい気分になったときに、方法はわからないけど、どうやってか助けてくれる。美鈴は門の前に立っていて、眠ってたり武術の訓練をしていたり、魔理沙にやられたり庭の手入れをしたりしてる。美鈴はお姉さまが見つけてきたんだった。パチュリーも、咲夜もみんなそう。魔理沙だって、お姉さまが起こした異変のせいで、やってきたんだったね。

 霊夢もそうだった。お姉さまは、よく神社に行ってるのかな。あの日だって、お姉さまがいなくって、訊いたら神社に行ってるっていうから私も行こうとして、そしたらみんなに止められて、頭にきていたところにお姉さまが帰ってきたの。だから、お姉さまが悪いんだよ。謝ってほしかったのに、お姉さまったらいつもみたいに偉そうに私のことをたしなめるもんだから、それでこっちもひっこみがつかなくなって、それでああなったわけだよ。やっぱりお姉さまが悪いよ。これを読んだら、謝ってほしいな。
 お姉さまはいつも偉そうで、かっこつけで、でも怒るととても乱暴で、わがままで、どうしようもないと思います。咲夜だってパチュリーだって、困っています。私もそうです。外に出てからわかったんだけど、かわいい妹を495年も閉じ込めておくなんて、正気のさたではありません。反省してね。

 でも、それはもういいや――それよりも、やってほしいことがあるんだ。私にやり方を教えてほしい。何のやり方かって、恋愛のやり方よ。魔理沙から恋愛のことを教えてもらって、いろいろわかったつもりになったけど、やっぱり、やってみないとわからないな。すごく大変です。でも、魔理沙によると、簡単な恋愛なんてにせもので、恋愛ってとにかく苦労して苦労して苦労して、その苦労が恋愛なんだそうなの。問題がなんにもない恋愛なんて話にならないんだって。で、思うんですけど、私とお姉さまのあいだでなら、問題はいっぱいあると思わない?

 さて、何だか音が少なくなって、まわりが明るくなってきたように思います。書くのにいっしょうけんめいで、気づかなかったけど、雨はザーッという雨から霧雨に変わっていて、空には少しずつ太陽が昇ってきているみたい。朝です。吸血鬼は朝を嫌うものなので、もう寝ようと思います。その前に、いちばん大事なことを書きます。お姉さまはいろいろわかってるから、このことも、もう、わかってるんだろうけど、つまり、これは私がはじめて書いたラブ・レターです。ラブレターとは、愛の手紙のことで、この手紙がすなわち恋愛そのものってわけ。ね、ちょっと教えてもらっただけなのに、もう書き方を知っているところが、おもしろいでしょ。



 大好きなお姉さまへ
 フランドール・スカーレット
おひさしぶりでございます
よろしくお願いいたします
アン・シャーリー
http://ameblo.jp/an-n-e/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.3860点簡易評価
2.80点名前が無い程度の能力 削除
最後の下りが愛に溢れててよかったなぁ。
3.100点KASA 削除
フランちゃんに何をおしえたんだ魔理沙!っと思ったけど体半分吹き飛ばされてかわいそうに。。。
おかえりなさい。
次作はレミリアからの返信の手紙!?
6.100点名前が無い程度の能力 削除
好きだ この作品
7.100点カミソリの値札 削除
いいねえ、センスを感じる。
大人❤のフランちゃんですね、文章が。
お久しぶりです。おかえもです
9.100点ユナ 削除
これ読んだお嬢様の反応が気になる。
フランちゃんらしい手紙だな、と思いました。
10.100点名前が無い程度の能力 削除
ブラボーッ!
フランちゃんが可愛いフランちゃんがヤバいフランちゃんが愛おしいぃいイヤッホー!!

マスター、お代わりだッ!!
12.90点名前が無い程度の能力 削除
「おもしろいでしょ」と言う結びの言葉が何と言うか「らしい」と言うか言葉にできないえけど感銘を受けました
15.90点名前が無い程度の能力 削除
和んだ
16.100点名前が無い程度の能力 削除
ホントにフランが書いたみたいな文章でよかったです
17.90点つくし 削除
実に可愛らしい文章でした。
19.100点名前が無い程度の能力 削除
フランかわいいよフラン
21.100点名前が無い程度の能力 削除
この作者は偽物だ!
だってこれを書いたのはフランちゃんに違いないんだからな!!
29.100点奇声を発する程度の能力 削除
とても和みました
30.30点名前が無い程度の能力 削除
え?え?なんで和むんだ?魔理沙の体半分吹っ飛ばされたんだろ?
普通に死ねるよね?人間だし。あ、ギャグ?ギャグなの?
34.90点名前が無い程度の能力 削除
>30
残念な読解力だな
36.100点名前が無い程度の能力 削除
アン・シャーリーさん生きてたのねよかったー

フランが本当に手紙みたいだった
キャラクターがよくわかっててすごいなぁ
40.100点名前が無い程度の能力 削除
キタコレ
41.100点名前が無い程度の能力 削除
レミフラ良かった。
ギャザーの続きも待ってますよー。
43.100点名前が無い程度の能力 削除
最高だ。
45.100点名前が無い程度の能力 削除
吹き飛んだの家でしょ?
52.100点oblivion 削除
これが乙女心かぁ
54.100点名前が無い程度の能力 削除
フランの文章、精神、行動が未熟で、原作設定に忠実なのがいいですね。
魔理沙もレミリアもシャレにならない目にあわされてて、これから先も外にいたら何をやらかすかわからないけど、でも成長もしていて。
フランのこれからやこれを読んだレミリアの反応がすごく気になります。
57.80点名前が無い程度の能力 削除
しかしフランが脱走して、魔理沙までやられても動かない巫女ってw
59.80点名前が無い程度の能力 削除
可愛い手紙だな
60.70点名前が無い程度の能力 削除
サイコパスではないけれど、狂気と呼ぶのにはちょうどいい感じの、変わり者なフランドールで良かったです。
友人にはしたくないけど養子にはしたいようなしたくないような――なんてことを言っているとナイフが刺さったりしそうなので口を噤みます。
61.90点Dark+ 削除
魔理沙もいい人ですね。
フランかわいいよフラン。
68.100点名前が無い程度の能力 削除
和むというよりゾッとする。
サイコパスの書くラブレターって感じで。
善悪の判断基準が自分の気持ち一つってこれほど
恐ろしいことはない。
だけどこのSSの狙いはどこにあったんだろ?
いくつか考えて見たけど、案外気ままに書いただけで
特段メッセージのあるものでもなかったのなや?
70.100点名前が無い程度の能力 削除
文頭の「おひさしゅう」でフイタw

とりとめの無い内容の羅列がいかにも幼い子供の文章みたいですが、所々に意外と大人びた表現がありますね~。
さすが吸血鬼、495歳児は伊達じゃ無いね。
 
慣れないお手紙を一生懸命書くフランちゃん、健気過ぎるでしょう。最高!
72.100点名前が無い程度の能力 削除
素晴しい、これは紛れも無くフランちゃんのラブレターだ。
77.100点名前が無い程度の能力 削除
ものすごく「フランドール・スカーレット」を堪能させてもらえました。
面白かった!
78.90点名前が無い程度の能力 削除
読み易いし、面白かった。
羨ましいな、お嬢様。こんなにも素敵なラブレターを貰えてさ。
81.100点名前が無い程度の能力 削除
フランはレミリアが一番好きなのだなぁ…フフフ
拙いようでどこかちゃんとした伝えたいものが書いてある、愛らしいラブレターですね。
82.80点名前が無い程度の能力 削除
フランらしさ溢れる手紙を楽しみ
これを受け取ったレミリアの反応を想像して楽しむ
2度楽しめるお話でした
85.100点ハマー 削除
しばらくお忙しかったのですね、またアン・シャーリーさんの書くお話が読めて嬉しいです。いつも思いますが台詞回しが大好きです。フランドールに幸あれ。
88.100点名前が無い程度の能力 削除
嬉しいねえ。ここで再びあなたの投稿した作品が読めるとは。
89.100点名前が無い程度の能力 削除
こういう作品も面白いです。
90.100点名前が無い程度の能力 削除
フランちゃんったら……。
94.100点名前が無い程度の能力 削除
すてきです
95.100点名前が無い程度の能力 削除
フランらしさが溢れ出ていて、とても面白かったです。
104.90点幻想 削除
可愛さメガトン級
105.無評価名前が無い程度の能力 削除
食らいボムミスるとかまりささんだらしねぇな
117.90点名前が無い程度の能力 削除
フランの良さが一杯に詰まった作品。いいね!
118.100点名前が無い程度の能力 削除
フラレミきたな 次はレミリア視点だね
119.100点もなつ 削除
素敵でした。とっても純粋できれいな心を持っていたんだねフランちゃん。大好きです
123.100点名前が無い程度の能力 削除
うおぉ、何だこれ……
面白いな。
126.90点Na 削除
フランちゃんLAST文才に溢れすぎ…
131.100点名前が無い程度の能力 削除
フランドールの語りが思春期の子どもみたいにちょっと大人に背伸びした感じでしっくりきたし可愛かった
132.100点名前が無い程度の能力 削除
ちょっと怒ってる感じの始まりからぐるっと回って最後の文まで、話の流れが実に良かったです。