わたしはここが好きだ
紫陽花の咲く花畑の中なぜか一角だけユリが咲く場所
わたしはふとそう思った
なぜだかはわからないけど
花たちに抱かれているような
やさしい場所
心が鏡みたいに静まって
写りこむ世界がよく見える
わたしの好きな場所
幸せであたたかい場所
………
……
…
澄み切った青い季節
そんな季節にわたしは生まれた
生まれた というよりは目が覚めた といったほうがいいかもしれない
世界を感じられるのが嬉しくて、すぐに空を飛んでみた
空気を掻き分ける快感を感じながら振り返って
わたしの通った道から光があふれているのを見たとき
思い出した
わたしの生まれてきた意味を
多くの友がわたしを待っていることを
急がなくてはいけない
眠っている友たちを早く起こさねばならない
わたしの愛するこの世界を少しでも早く
少しでも長く感じてほしいから
わたしは青く澄んだ世界を光で塗り替えながら空を飛んだ
ああ今年も春が来たんだね
久しぶりに会う命にはこんにちは
やっと春が来た!
初めて出会う命にははじめまして
そんな挨拶をしながらわたしは空を飛んだ
みんなみんなわたしの大切な友達だ
ああ楽しい
この世界はなんて素敵で美しいのだろう
そうして世界を光で満たしたら
次は雨を降らせた
すこしの間太陽の光はさえぎられてしまうけど
一部の友は小言を言うけれど
雨のあとにみんなはもっと世界を謳歌できるはずだから
みんなはこれからも生きていくから
わたしは長い雨を降らせなければいけない
もうすぐ夏がやってくるから
…
……
………
ああ眠い
よく見たら私の服も体もぼろぼろだ
たくさんのユリの花たちに囲まれて
わたしはもうすぐ眠るだろう
あら、今年もここで寝るの?
誰かの声がする
毎年毎年こんなになるまでご苦労ね
あなたには感謝しているけども
あなたはつらくないの?
つらくなんてない
もう十分すぎるほど楽しかったから
みんなからいろんなものをもらったから
ふぅん
幸せなのね
そう
だから私はもう満足
それにここはとても居心地のいい場所だから
少し休みたいの
そう
よかったわね
ならもうゆっくりお休みなさい
また来年待ってるわ
そういえば前も
ありがとう
あなたもわたしの大切な友達なんだね
まわりめぐる時の中で
またあなたに
会える日まで
おやすみなさい
・
・
・
そうしてあの子は今年も眠ったわ。
幸せそうな寝顔でね。
だから私は傘を立ててそこにあの子を寝かせたわ。
私の腕より花に抱かれて眠ったほうがあの子もよく眠れるだろうから。
その次の日...そうよ、梅雨明けで久しぶりに晴れた日。
傘を取りに行ってみたら、あの子の寝ていた場所にはユリの種が落ちてたわ。
ええ、その窓際においてあるユリよ。
増やしてまたあの子が迷わずあの場所を見つけられるように植えてくるつもり。
え?どうしてそんな面倒なことするかって?
私は花の妖怪。
私ほどこの花を上手く咲かせることのできる者はいない。
そんな理由じゃダメかしら?
貴方がまず作品を愛さなければ、周りがその作品を愛することなど出来ません。
せっかくの花を、自分で枯らしてはいけません。