Coolier - 新生・東方創想話

耐えよ天子

2011/05/08 20:30:58
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「精がでるねえ」

後ろからそんな声が聞こえてきて、
私は動きを止めた。

……この酔いどれボイスは…

ザン!と緋想の剣を地に突き刺し、
柄に左手を乗せてゆっくりと振り向く。
小鬼がいた。
能力で萃めたらしい霧の上に体を横たえて頬杖をつき、酒の入った瓢箪を軽く掲げている。

「状況から見るに、修行……かね?がんばるねー」

ただでさえ細めていた目を更に細めて、愉快そうに言う。
状況というのは辺りに散らばった石や岩の破片や、小さなクレーターとかのことだろう。

「…何しに来たのよ、酔っ払い」
「よっぱらいだよーん」

嫌悪感を隠しもせずストレートにぶつけると、なんとも気の抜ける返事が返ってきた。
むしろ、嬉しそうにも見える。
まったく、調子が狂う。
近くにあった手ごろな岩に腰をかけて、小鬼を見据える。
小鬼は笑っていた。にやにやと薄気味の悪い笑みを浮かべて、こっちをみていた。
なんとなしに帽子の位置を直しながら、で、と切り出す。

「ほんとに何しに来たのよ、こんな辺鄙なところに」

ここは天界の端の端。ある物と言えば、あまり実をつけない桃の木が数本ばかり。
今や誰も寄り付かないこの場所に、一体何の用があるというのだ。
私の問いに小鬼は、んー、と声を漏らして沈黙した。

………え?今のが返事?
…いくら何でも馬鹿にしすぎでしょう。

「ちょっと…」

と、抗議の声をあげようとすると、小鬼が瓢箪を突きつけてきた。
一瞬その行動の意味が理解できなかったが、『待った』のつもりなのだと気がついて、
口を噤んだ。
小鬼は私が黙ったのを見て腕を引き戻し、瓢箪に口をつけてぐいとあおった。
きっかり五秒ほどして、ぷは、と口を離し、余韻に浸ること五秒。
小鬼は口を開いた。

「なんとなく」
「あぁ…そう」

脱力した。
まあそうよね、酔いどれの行動原理なんてそんなものよね。
大きく息を吐いて、それから立ち上がる。
この小鬼はどこかに行く気は無いみたいだし、続きをやることにしたのだ。
地に突き立つ剣に歩み寄って抜き放ち、一度天に掲げてから勢い良く振り下ろした。
風を切る高い音に口角を吊り上げて、それから一息に力を入れる。
途端、ボシュウ!と私の体から光が噴出し、纏わりついた。
体の奥底から絶え間なく溢れ出る力。

「っふ!!」

気合を入れると、私を中心に突風が放たれ、地を撫ぜていった。
どてん、ころころと何かが落ちて転がっていく音が聞こえたが、無視する事にする。
心地良い。
体に張る力が、心地良い。
頭の中が透き通り、感覚が研ぎ澄まされていく。
すっと左腕を上げ、手の平を真っ直ぐに突き出す。
そこに力を溜めていくと球状の光が現れ、光り輝きながら肥大していった。
おおー、と小鬼の声がするが、無視する。
人一人飲み込めそうなほどにまで成長した光弾を、頭の大きさくらいに圧縮し、
そのまま押し出すように放った。
ポヒー、と気の抜ける音とともに飛んでいった光弾は、音速の壁を越えてすぐに
見えなくなった。
差し出していた手をぐっと握り締め、勢いよく胸元に引き寄せる。
すると、先ほど見えなくなった光弾が戻ってきた。
衝撃に備え、足に力を入れる。光は目の前まで迫っていた。

胸に重いものがぶち当たったかと思えば炸裂し、轟音が鼓膜を揺るがす。
光が視界一杯に広がり、痛みが脳を突き刺した。
僅かに地面を削って後退したところで光は収まり、静寂が戻ってきた。

「……っは、はぁ、ふ…」

荒く息をつきながら、口元を拭う。
ほぼ全力に近い出力の光弾に、その直撃。
大分参る。
ぱちぱちと、手を叩く音が聞こえて振り返った。

「やあやあ、すごいねえ今の。あ、飲むかい?」

突き出された瓢箪を見て、首を振る。
それから、遠慮しとくわ、と呟いた。

「そうか、残念。……ひょっとしてさ」
「…何よ」

戻しかけた顔を、体ごと小鬼に向ける。
はやく次に移りたいのに、まったく。

「耐える修行だったり?」

こてんと首を傾げて、小鬼が言う。
吹く風に、オレンジ色の長髪がなびいていた。

「そうだったら、何なのよ」

腰に手を当てて言う。何か文句あんのか、と。
いんや、別に?と小鬼は言った。愉快そうなのは、酔っているからだろう。

「たださ、効率がよくないなー、とかね?」
「あるんじゃない、文句」

少し声に苛立ちが含まれる。
それは、そうだ。誰だって自分が良かれと思ってやっていることに
けちをつけられたら、良い気分じゃない。
それは私だって例外じゃない。
腰に当てていた手を帽子にやって、位置を直す。
頭が擦れるのがもどかしい。

「あんたはなんでそんなことしてんの?」
「唐突ね。……あんたがさっき言ったとおり、耐えるためよ。
どんな攻撃にもびくともしないようになるの。そうすれば、最強じゃない?」
「…へえ?で、それは誰から聞いた話?」
「……お父様よ」

自分が思いついたことの様に話してたのに、
ぱっと見破られて恥ずかしくなった。
赤くなってるような気がするほほを指で掻きながら、
顔を背ける。
お父様。
お父様とは、今朝方大喧嘩して、それで私は飛び出してきたんだ。
ほんとはこんな修行なんてするつもりは無かったんだけど……鬱憤晴らしには丁度良い。

「はい、この話はもうお終い。続きをやるから、静かにしててよ」

そう言って、小鬼に背を向ける。
ああもう、恥ずかしいったらありゃしない。お父様の馬鹿!
脳裏に浮かんだあの人の姿に罵声を浴びせかけ、気持ちを落ち着かせる。
それから、キッ!と前方を睨みつけた。
左手を突き出して、そこに力を溜め「あー、待った待った」……られずに、項垂れた。
ほんとに気の抜ける声だ。集中を妨害する効果でもあるのかしら。

「なに!」
「うんうん。手伝ったげようか?」

声を荒げて振り返れば、胡坐を掻いた小鬼がそんなことを言った。
はあ?と思わず抜けた声がでる。

「だってさ、そんなの自分でやったって自然とストップかかっちゃうでしょ?
駄目だってそんなの。意味無いって」
「…やってみなきゃわかんないじゃない」
「やーや、わかるね。『お父様』もそう言うだろうに」

お父様が?
…そんなこと言うかな?
……言うかも。

「まあ、お父様ならそう言うとして。で?あんたがどうするってのよ。言っておくけど、
踏み潰されるのとかは勘弁よ?」
「いやー、だいじょぶだいじょぶ。光弾だから。あっはっは」

何が可笑しいのかひとしきり腹を抱えて地面をばんばん叩きながら笑った後、
さて、と呟いてやおら腕を掲げ始めた。

「……何のつもりよ」

腰に手を当てて、緋想の剣を弄びながら聞く。

「あー、あの妖精が言ってたのはなんだっけ…。ほしよー、ほしよー、力をくりゃれー、だっけか」

駄目だこれ。
完全に呂律が回ってないじゃない。いや、よくわからないけど。
所詮は酔っ払いの戯言だったのかしらと息を吐いていると、変な力を感じた。
それはどこからともなく、あちらこちらから流れてきて小鬼の手に萃まっていく。
……気質だ。色んな気質がそこにあった。
見ている間に力はどんどん萃まってきて、ついには肉眼で見えるまでになった。
なんて、密度。凄まじい力。
よっ、という小鬼の掛け声とともに気質は形を変え、人の頭ほどの球体となって
小鬼の手の上に浮かんだ。
形容しがたい音を響かせるそれを眼前にやって、立ち上がる小鬼。足元はしっかりしていた。

「地球のみんな、ありがとう…」

は?地球?何言ってるのこの小鬼。
いよいよもって酒に飲まれたのかしら。
……いやしかし、あながち間違いじゃない?
これほどまでに多種多様の気質なんて、天界と下界だけじゃあ到底足りないだろう。
それに、この密度。いくらなんでも凄まじすぎる。
一体何人から萃めればこうなるのよ。
ふと、小鬼が薄ら笑いを浮かべてこちらを見上げているのに気がついた。
…何かしら?
………っ!!まさか!!!

「耐えろよー?」
「ちょっ、まっ」

小鬼は勢いよく腕を振りかぶり、そして、鬼の腕力を持ってして振り下ろした。


「 元 気 玉 ぁ あ あ あ あ ! ! !」


ポヒー、と気の抜けた音がして、眼前に光が広がる。

「…ぁ」

ほぼ零距離と言ってもいい射撃。
もちろん、心の準備はおろか、耐える準備すらできなかった。

「……ぁあ」

光の広がりが突如として遅くなった。
そして走馬灯の様に記憶が頭の中を駆け巡る。

私が起こした異変のこと。

戦ってきた奴らの姿。

交わした言葉。

幻想郷の管理者の恐ろしさ。

お父様の格好良さ。

神社での宴会。

酒を飲み、みんなで騒いだこと。

天界とは違う、弾けてしまいそうな楽しさのあった下界。

そして、今朝お父様に行って来ますのちゅーをしていなかったこと。


「…!!!こ、」


死ねるか。死んで堪るか。まだお父様とちゅーしてない。ぎゅーってしてもらってない。
してもらわないと……いや、してもらってからも、死んで堪るもんですか!!
ばっ!!と両手を頭上に掲げ、瞬時に全力全開の光弾を作り出す。


「ここで終われるかぁあああああああっ!!!」


無我夢中で腕を振り下ろした。
私のすぐ前で力どうしがぶつかっているのが分かる。
お願い、勝って…!!

顔をあげる。


「……ぁ」


光が、迫っていた。


「うわぁああああああああああああ!!!」


衝撃が来たかと思えば重力が無くなったかのように打ち上げられ、腕が足が、無茶苦茶な方向に
引っ張られて引きちぎれてしまいそうだった。


「ぁああああああああああああああ!!!」


叫んでいるのか、裂けそうな位に開いた口から声が漏れているはずなのに、
雷が鳴るような音に耳をやられて、何も聞こえなかった。
帽子が外れていくのが、嫌に鮮明に感じられた。


「ぁ   ああ      あ  !!!」


白い。
何もかもが白い。
どうなってる。
私は今、どうなってる。
もう終わったの?
…っ!!ま、まだ、なの……?
お願い、はやく終わって…
お、おわっ……


「         あ      ! !」


誰かがいた。
遠くに、誰かが立っていた。
ううん、誰かじゃない。
私にはすぐにわかった。
手を伸ばして、手を伸ばして。
掴む、手を……
……お、



「おとうさまぁああああああああああああっ!!!!!」



ぶつんと、意識が切れた。






































そうか、元気玉か。成る程なあ。

遠くで、渋い声がした。

にゃはは。ちょっとやりすぎちってさあ。

遠くで、気の抜ける声がした。

薄く目を開けると、見知った天井があった。

「……おお、起きたかてんこ」
「お目覚めだね」

左右から覗き込んでくるのは、小鬼と……お父様だった。
ほれ、と眼前に帽子をぶらさげられる。
それを掻っ攫って、それから、頭まで布団をかぶった。

「何だ、まだ怒ってるのか?」

と、お父様の声。
呆れてるみたいで、少し、嫌。
許してあげても良いけど、それも、嫌。

「おーい、てんこー」

ぎゅっと目をつぶる。
わかってはいるけど、感情が邪魔して顔を出せない。
ああもう、なんで私はこうなのかしら。

「ほれ、あの言葉を使うべし」

と、小鬼が言った。
うむ、とお父様が返事をする。
何よ、仲良さそうじゃない。
ばーか、お父様のばーか。
ふん、と拗ねて、不貞寝でもしようとしたその時、お父様が言った。

「あー、てんこあいしてる」


……もう、お父様のばか。
………元気玉やりたかっただけなんだけど、何これ。
中華妖精
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コメント



0.600簡易評価
6.90名前が無い程度の能力削除
ファザコンな天子にニヤニヤ。
ここまで好かれてしまうとパパも大変だな。
それは別としても天子の感情が豊かで良かったです。
13.60名前が無い程度の能力削除
どんだけパパ大好きなんだよ。
あとそこの酔っ払いちょっとは手加減しろ。できないよね酔っ払いだもん。
14.無評価削除
お父様 子供の名前
間違えてません?
「てんこ」て「てんこ」て!
18.無評価名前が無い程度の能力削除
突然の元気玉は卑怯だ.