CAUTION!
この作品は東方プロジェクトの二次創作小説です
連作のなかで最も危険な内容になっておりますので
これを見て危機感を覚えた人はもどるをクリックすることをおすすめします。
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血が沸き立つような、異変。
幻想郷の母としてのプライドがそれを拒んできた。
先代の博麗が死んでからというもの、後継者を見つけるでもなく、自ら異変の解決に赴いて妖怪共の喧嘩の仲裁をする日々。
お互いに、行き場のない幻想郷を頼って来た者同士のあらそいだから、本当に危険のある闘争をする妖怪というのはなかなかに居ない。
だが、ある日、その状況が一変した。
山から出てきた、一匹の妖怪が里の住民を襲ったのだ。
襲われた付近の住民は、全て食われ、踏み砕かれ、無惨な死体をさらした。
それに集る鴉の群れ。
辺りは地獄絵図と化していた。
今まで、幻想郷に君臨する形になってからというもの、これほどに陰惨な異変はそう類を見ない。
妖怪で在る以上は、生命の保持のために人間を喰う妖怪も多くいる。
それを禁止してしまうほどに、私はおこがましくはないし、自惚れてもいない。
だが、この事件は、妖怪と人間とのバランスを大きく欠くほどに、殺しすぎた事件だ。
もちろん、その妖怪の出所を探る調査を始めたのだが、どういうわけか、その出所はようとしてしれない。
次の犠牲者が出るのを待つのみなのか?
そう、考え始めていたところだった。
また、もう一つの異変が起こった。
外からの、外来者である、それも、相当に異様な。
境界を操る能力を持った私のスキマに干渉する能力をもった存在だった。
私は、この連日の事件、人間を虐殺した妖怪と、この侵入者がなにかしらの関係を持っていることに当たりをつけた。
そして、現れた、大きな妖怪。
私は、その「香霖」と名乗る妖怪を攫って、その里で噂される「でいだらぼっち」という妖怪の元に急いだ。
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誤植版
突如、高所からの滑空を余儀なくされた唯の道具屋、僕こと「霖之助」通称「香霖」は尻餅を付いてその場にうずくまってしまった。
もの凄く、痛い。
腰骨が歪んでしまった気さえする。
ここ最近、紫に関連する事項で僕が痛い目を見なかった事がない。
友人関係を見直さなくてはいけないかな、などと臆面もないことを考えていた。
「・・・・消えたわね・・・・」
「え?」
辺りを見渡すと、そこは寂れた様子の村、人がいそうな気配はない。
「・・・貴方が消してしまったのかしら? それとも、あの妖怪の正体が貴方というわけかしら?」
「ちょっと、 ちょっと待ってくれ、 話が一向に見えてこないのだが・・」
紫は「ふん」と、何をしらばっくれているのかと小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
なんだその態度は。
こっちはいきなり大妖怪に攫われたり、いきなりタイムスリップしたりと忙しい毎日なんだ。
最近は子育ても初めて、生活環境の変化に忙しいというのに、次は一体なんだというのか。
「・・・この村は?」
「最近現れた 『でいだらぼっち』。 貴方も里で噂は聞いているわね? それに襲われた村、 そのなれの果てよ」
「・・・」
辺りをぐるりと見渡してみる、
どことなく、死臭が漂うような、陰鬱な気配。
噂に聞いていた、 妖怪の仕業だという辺りの惨事は、 僕の考えている『妖怪』の概念を覆しそうな光景を展開していた。
「貴方、 最近は里で暮らして居るみたいね? 小さな女の子と一緒に」
「そうだが、 僕に何の用だって言うんだ」
「その、女の子はね、 その妖怪に襲われた人間では唯一の生き残りなの」
『すっごくおおきかった!』
いつか、聞いた少女の話を思い出す。
予想はしていたが、やはり、彼女の敵は、今、里で噂される妖怪『でいだらぼっち』だったようだ。
「そんな、童女が最近一風かわった現れ方をした、どこぞの強い半妖と一緒に暮らし始めた・・・・疑わない、と言う方が理解に苦しむわね?」
「強い? 僕がか?」
紫はこのやり取りに苛々を募らせ始めたらしい、
「・・・・歩きなさい・・・・」
また、いつかのごとく、日傘に霊気を集中させて、僕を脅迫し始めた。
「お・・・おいおい、 紫それをおろしてくれよ・・・」
「・・・・紫? 前から思っていたけど、 貴方、私に馴れ馴れしいわ、 うっとおしくて仕方がないの」
紫は傘の先端を揺らして、 僕の行く先を誘導し始める。
「・・・私の感覚では、 まだ妖怪は近くに居るわ、 きっと身を隠している。 やり過ごすか、 それとも待ち伏せをするか」
「で?」
「貴方が、おとりよ、 歩きなさい」
紫がここまで利己的な立場をとる奴だとは思っていなかった。
「なぁ、紫は釣りをするかい?」
「やったことはないわね、 何故?」
「釣りをするには、 餌がいるんだ、 そのくらいはしっているだろう?」
「ええ、私は餌にする虫が気味悪いから、やらないでしょうけど」
「じゃあ、知っておくといい、 釣りをしたら餌は必ず、 釣りが成功しようがしまいが、必ず死ぬんだ」
「釣り人は私ね、・・・・さぁ、 餌をつけたら、糸を上手に垂らさないとね?」
紫に「下手な動きはしないで」と釘を刺されたために、剣を携えることも出来ない。
依然として紫は僕の後ろを黙って、誘導・・・というのも可笑しいが、 付いてくる。
そうして、暫く、村を散策、調査しながら少しの時間が経った。
僕たち以外の気配はそれほど感じられない。
「なぁ」
「なにかしら?」
「いや、もしかしたらさ、君は僕の事を知りたいんじゃないかと思ってね」
正直、この無音の関係に退屈していたので、話題があればいいと思っただけだ。
「ええ、 興味が尽きないわ」
即答だった。
「じゃあ、話をしようか。 まずは自己紹介からだ、 いいかな?」
「ええ、どうぞ?」
「僕の名前は森近 霖之助、 元居たところでは香霖堂という道具屋を経営していたんだ」
「へぇ、 じゃあお店の店主さんなの。 それがまたなんで幻想郷にやってきたのかしら?」
「もしかして、 あの夜のことまだ根にもってるのかい? やけにきつい口調じゃあないか」
「質問に質問で答えるのはルール違反ね、 なんで幻想郷にきたの?」
「・・・やれやれ」
紫はさらに僕の行く先を日傘の先端で誘導した。
正直、この関係は息がつまりそうなのだが。
「信じてはもらえないかもしれないが・・・・」
「貴方の、いかれとんちきな返答にもいい加減慣れてきたわ、 どうぞ遠慮無く言って頂戴」
「実は、僕は未来からこの世界に来たんだよ」
「・・・・・・」
「なぁ、 どうした?」
「・・・み、未来から? ・・・ぷっ・・・、つまり・・・・貴方は、未来の幻想郷の住人、 そう主張するのかしら?」
「その通り。 しかもだ。 僕と未来の君は、実は大変仲の良い友人でね。この過去に来た理由もそれが原因なのさ」
「あーははははっ!!」
「・・・なぁ、 喜んでくれるのはいいが、 この日傘を僕に突きつけるの止めてくれないか? 友人のよしみで」
「だめ」
「ああそうかい」
予想はしていたが、 まぁ取り合ってくれはしなかった。
「僕の自己紹介はこんな所だ」
僕は「次は君だな」と紫に催促する。
「そうねぇ・・・・」
と、紫が首を捻り始めたところで。
僕の行く先で、地響きのような大きな音が轟いた。
「・・・・・」
今までの呑気な雰囲気も四散し、一気に緊張感が高まる。
「・・・近いわよ・・・・」
紫が警告する。
といっても、僕ではなく、自分自身にだろうが。
「・・・あれは?」
僕たちが進む先、その向かう先は、 少し開けた村の中心の場所。
そこに、 小さくうずくまる、明らかにその場から浮いている、 実際に空中に浮いている物体が在った。
「・・・・誰?!」
紫が緊張を高めた声を張り上げる、
僕の緊張感も跳ね上がった。
紫がその小さな影に告げる、 僕は思わず、身をかがめて、警戒の態勢をとった。
その小さな影はくるりとおもむろに振り向いた。
「・・・・あっ」
「貴方は・・・」
「こーりん!!」
そこに、居たのは、僕がよく見知った、小さな女の子だ、先ほど紫が『唯一の生き残り』と称した人間でもある。
最近は同じ生活をしている仲間だ。
しかし、何故こんなところに?
「こーりん!」
女の子は、安心したかのように安堵の表情を浮かべて、 僕達に浮きながら近寄って来た
のだが、
「動くな!」
紫の怒声によって、お互いに動きを止めた。
少女はびくりと肩を震わせて、 目を見開いて紫を見つめた。
「なるほど、なるほど・・・・そう言う事ね、 確かにこれは盲点だったわ」
紫は納得しつつ、僕に向けていた、霊気を集中させた日傘を今度は、
「な!?」
その少女のほうに向けた。
「貴女自身が、 村を襲った妖怪というわけね?」
「?」
空中に浮く、少女は その日傘をきょとんとして、見つめている。
「違う! そんなんじゃない!」
「黙っていて!」
紫は、僕を少女との間に挟んだまま、後ろで僕を制していた。
考えようによっては、紫の予想もあながち勘違いだろう、とは言えなく無い。
確かに
生き残った人間が実は妖怪だった
そういう結末は、怪談でもよく好まれるオチの部類には入るだろう。
だが、僕は、この少女と一緒に暮らす内に、 ある確信を手に入れていた。
この少女は、 断じて妖怪でもなく
それでいて、唯のひ弱な人間でもない
「・・・私は、幻想郷の母、 幻想郷を乱す、異端分子は断じて許しはしないわ・・・」
紫の躯を中にして、 冷たい霊気の風がその周りを取り巻き始めた。
いっそう強くなる、 紫の気配。
「疑わしき存在、 貴女も、一人は辛いでしょうしね・・・」
憐憫か、それとも滑稽なのか、僕には解らなかったが、
紫は笑っていた。
少女の視線が、 その日傘からはずれて、 少し上に向き始める。
辺りの影が、深くなっていく。
・・・・これは、 雲の影か?
「貴方達には、悪いけど死んでもらうわ」
「こーりん!! 後ろ!」
少女の大声、 僕ははっとして、後ろをとっさに振り向いた。
日傘を構える、紫の後ろには、 入道雲と見間違えるほどの巨体が在った。
あれほどの巨体を隠せる遮蔽物はどこにも無いはずだったのに・・!
大きな凶悪な牙から、 あふれるように唾液がしたたっている。
幻想郷にこんな妖怪がいるなんて、聞いたこともないし、見たこともない。
想像すらしたことがない。
紫はまだ気付いていない。
「紫、 後ろだ!」
紫が辺りの影に漸く気づき、後ろを振り向く。
でいだらぼっちと呼ばれる獣のような妖怪は、 太く、強靱な腕を振り上げて、紫目掛けて振り下ろした。
「ッ!」
これだけの接近を紫が許してしまっていた。
幻想郷の賢者の感覚を欺くほどの
闘争性の高さ。
この妖怪は、 僕が知るような、 弾幕を楽しむ少女の妖怪達とは一線を画する妖怪かもしれない。
明らかに、 妖怪本来の闘争を目的とした、荒々しい極めて獣性の高い妖怪だ。
紫の集約していた霊気の束がでいだらぼっちの頭部目掛けて発射される。
だが、でいだらぼっちは、その殺意をはらんだ弾を余っていたもう片方の腕で防ぎ、 無理矢理に腕を振り切ってきた。
空気をうねらせて、 滝のような音を巻き上げ渾身の力を込めた握り拳が振り下ろされてしまう。
紫は身をよじらせて、非情の攻撃から身を守ろうとする。
「・・・!」
だが、それも間に合わず、紫の細い躯が、その何倍もある腕に巻き込まれて、後方に吹き飛んだ。
「紫!」
遠くの無人の人家が音を立てて崩れる音がする。
紫が衝突した音だろう。
僕は、晴れて紫から解放されたわけだが、 今度はもっと危険な状況に追い込まれた。
でいだらぼっちがその歪んだ、醜い顔を醜悪にさらに歪ませ微笑んだ。
「くそっ!」
紫に駆け寄って、安否を確かめたいと思う反面、目の前の大きな妖怪に気圧され、動くことも出来ない。
僕は唐突に理解した、
こいつの狙いは、最初から紫だったんだ
だから、大げさに暴れもせず、
普通に戦っては勝てないだろう、格上の紫が油断した瞬間をずっと狙っていたに違いない。
じろりと、大きな目玉が僕を凝視している。
そして、べろりと、舌なめずりをして、大きく歩を進めてきた。
どうやらこの妖怪、 僕を喰ってしまいたいらしい。
それに気付き、かっと頭に血が上り、
さっきまでは、怠く、諦めかけた心が、いきなり熱く燃えたようになった。
いきなり、漫画顔負けのホラーに追い込まれて、僕は滅茶苦茶に興奮したのかもしれない。
それなのに、僕は妙に冷えた頭で。
ゆっくりと、のんびり鞘から草薙の剣を抜いた。
剣が、あのときの夜のように、 蒼く輝いていた。
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私は、 醜い豚のような妖怪に良いように殴られ、 無様に吹き飛ばされた。
民家に衝突し、 悔しいことだが、 視界が歪み まともに立ってすら居られないのだ。
油断した
そう言えば、なんとも体の立つように聞こえは良いが。
もし、私がこのままあの妖怪に喰われるようなことが在れば、
それは、わたしの力があの無様な妖怪に劣ることになる。
許されないことだ。
なんとか、力を振り絞って、瓦礫を吹き飛ばし、その場の自由を手にする。
躯の損傷が激しい。
うまく、動かせない。
この場で戦う事が出来るのは私だけなのに。
やっと這いだしてくるものの、 そこで地面に手を付いて、 躯がへたってしまう。
先ほどの一瞬のやり取りを思い出してみる。
渾身の霊気の矢を軽々と防がれてしまった。
そして反転する意識と大地と空。
悔しさに、 ぎりぎりと歯噛みするが、 どうしようもない。
あの妖怪は、 幻想郷が出来る前の、 もっと昔の、 自分たちが丁寧に幻想郷から駆除したはずの
私とは違う、 吸血鬼とも違う、 妖精とも違う、 不死者ともちがう、 天狗や河童とも違う
そんな優雅で、人々に噂され、 愛される存在とは全く違った、 もっと無様で恐怖すべきなにかだ。
まだ、そんな妖怪が幻想郷に居るなんて思いもしなかった。
ずしり、ずしりと、地響きのような歩を進める音が聞こえる。
必死に躯に鞭打つが、 どうしても躯が動かない。
境界に逃げこみたいと思うも、 能力が激しい損傷のために使えないことを悟る。
これまでか? この私があんな妖怪に喰われて終わってしまうのか?
「う・・・・・?」
白濁する知覚、 いつしかでいだらぼっちの大きな足音が聞こえなくなっていることに気付く。
首を向けるだけで、 とばされた方向を向く。
「・・・?」
でいだらぼっちが、 歩みを止めていた。
その視線は私ではなく、 足下のもっとちっぽけな存在に集中していた。
あの男だ。
男は、 剣を抜いていて、 威圧するようでもなく、 唯立っているだけだ。
そのまま踏みつぶされて殺されそうでもある。
事実、 そうすれば男に為す術はないように思えた。
だが、あのときの晩のように、 男には異様な雰囲気が取り巻いていた。
でいだらぼっちは困惑したように、 じわりじわりと男を見定めるように近づいてくる。
男は、 剣を納めて居合いの体勢を取った。
でいだらぼっちは意を決したように、
私にした、同じように大木のような腕を巻き上げて駆けながら腕を振り切る。
納まっていた剣は、 蒼い光りを放って、
でいだらぼっちの腕めがけて放たれた。
その大きな腕が、 暗く、淀んだ銀色の空に舞った。
一瞬きするだけの、 短い時間だった。
肘から先を無くした妖怪は 無様に血を吹き上げて、耳に触る雄叫びを上げて 後方に飛び下がる。
眼鏡をかけた銀髪の妖怪は、 その様子を、 何でもないかのように静かに眺めていた。
一見すると、圧倒的な力の差に思える。
しかし、私の感覚では、 あの男にそんな力は無かったはずだ。
対照的な、 光景だと思った。
美しい、男の立ち姿に、 醜く恐怖に歪んだ豚のような痛んだ巨体を晒す妖怪。
剣を一振りすると、 辺りに桜吹雪のような 霊気が満ちた。
男は無造作に妖怪との距離を詰めていく。
美しい
そう思った。
何故私はあんな矮小な醜い妖怪に遅れをとったのだろう?
でいだらぼっちは、このままでは勝てないと踏んだのか、
里で噂されたような山のように大きな姿に変化していく。
見上げるように大きくなっていく妖怪、 辺りの影がいっそう濃くなっていく。
なるほど、 これが里で噂された妖怪の正体か。
妖怪は、自在に大きさを操る能力を持っていたようだ。
ここで妖怪は、初めて、 男の後方に居た、小さな少女の姿に気付いたらしい。
でいだらぼっちは大きく足を上げて、 少女に狙いをつける。
男がそれに泡を食ったように、何かを喚きちらしながら、 少女を救おうと走り出した。
そのまま踏み込まれてしまう足。
男は無茶な体勢でその影に飛び込んでいった。
ああ、 あの男は一体何をして居るんだ・・・
でいだらぼっちは踏み込んだ足の裏に痛みを感じたのか、 直ぐさまその足をどけた。
このころになると、流石に躯の痛みが引いてきていた。
私はもう一度立ち上がり、
霊気の矢を巨体目掛けて雨のように降らせた。
でいだらぼっちはそれにたまらず、と言った具合に、 歩幅を広く、 里の方に駆けて逃げていった。
里が危険に晒されるかもしれない、そう思うが。
今あの巨体とやり合うほどには、躯の回復は追いついていない。
男の安否も気になり、私は踏み込まれた辺りによたよたと躯を引きずるように近寄っていった。
「こーりんさん! こーりんさん!」
どうやら、童女のほうは生きているらしい。
大声を上げて、悲痛な面持ちでぐったりしている男の側から離れようとしない。
童女が男の肩を何度も揺り起こそうと、必死に語りかけている。
「貴女・・・・・」
どうやら、私はとんでもない思い違いをしていたようだ。
「退きなさい」
私は童女に告げた、 このままでは男の容態を看ることが出来ない
童女は私を敵と見なしているのか、私の存在に気付くと、袖から素早く破魔札を取り出した。
近づけば命は無いぞ!
克明に敵意を表す童女の視線はそう告げていた。
怒りで、 目を充血させて、少女と呼ぶにはあまりに不釣り合いな風貌になっている。
実際、先ほどまではこの男を殺す気で居たのだから無理もない。
「・・・・」
「退いて頂戴、 傷を治すことが出来ないわ」
「・・・・」
「おにいさんが死んでも良いの?」
この歳で、マジックアイテムの使用に長けている。
少女の経歴が気になったが今はそれどころではない。
少女は交互に、男と私とを目配せして。
おずおずと、場所を譲った。
「良い子ね」
私は男の傷を治すべく、 掌に霊気を籠めて男の額に当てた。
男の顔に生気が戻っていく。
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『ちょっと、起きてよ!』
どこからか、声がする。
『ねぇ! ねぇってば!』
・・・・ああ、この声は知ってるな・・・・
『霖之助さん! 霖之助さん!』
・・・なんだい、霊夢、そんなに慌てて・・・
『た、大変なのよ! これ見てよ! この袴の裾!』
うわっ! よせっ! 何をするんだ君はいきなり!
『さっきの弾幕勝負で魔理沙がムキになって・・・!』
わかった! 分かったから! 袴を履いてくれ!
『リボンもよ! どうしてくれようか! あの白黒・・・!』
ほら、 これを着て、 僕が直すからしばらくはこれを履いていてくれ!
『ひどいわ! 私がこれに弱いって知っていてやるのよ・・!』
・・・そうなのか?
『そう! これ私の宝物なのに!』
なんだか珍しいね、君がそんなに物に執着するなんて
『当然よ! だってこれは大切な物なんだもの』
へぇ・・・、 もしかすると初恋の人の贈り物とかかい?
『・・・なっ!』
おや? もしかして図星かい?
『・・・・そんなんじゃないわ』
・・・もしかして、家族の形見・・?
『・・・・』
・・・魔理沙にはよく言っておくよ・・・
『・・・まぁ、似たような物かしらね・・・』
え?
『何でもないわ、 それ早く直してくれないかしら?』
はいはい
『・・・ひとの・・・しらなぃ・・・・』
え?
『なんでもない!』
え、おい! どこに行くんだい・・?
「・・・!」
おい、霊夢・・?
「・・・りんさん!!」
「こーりんさん!」
「・・・・」
「あっ! こーりんさん!」
ゆっくりとぼやけていた視界が広がっていく。
目の前には、僕のよく知った少女が居た。
「こーりんさん・・・」
「あー・・・・なんてこった」
僕が握りしめていた草薙の剣、 鍔から先がポッキリと無くなっていた。
これは修復は無理そうだ。
これは確実に魔理沙にどやされるな。
「貴方、大丈夫?」
紫も居たようだ。
僕を心配そうにのぞき込んでいる。
「・・・その様子じゃ、 僕の疑惑も晴れたみたいだね」
「・・・・まぁね」
「それはどうも」
じわりと体を起こそうとするが、全身がズキズキと痛んでそれすらもままならない。
逆に考えれば、草薙の剣が折れるまで力を出し切ってくれなければ、僕は間違いなくぺしゃんこだったのだろうが、何とはなしに悔しい。
「・・・っう」
「・・・!」
よく見てみると、僕の足が痛々しいほどにはれて、全く動かない。 もしかしたら骨が折れているのかもしれなかった。
「あいつ・・・!」
少女の目が充血して怒りに燃えている。
遠くで地響きのような歩みを進める、でいだらぼっちに殺意をむき出しにする。
おいおい、そんな顔をするもんじゃあないぞ、 女の子がはしたない。
「ああ、ちょっと待ってくれ」
「・・・ううッ!」
今にも飛び出しそうな少女を制して、彼女に手をさしのべる。
「ちょっと、見てほしいんだ」
「・・・なんで・・・」
「ほら、あそこ・・・・。 あそこは僕の家でね『香霖堂』って店だったんだ。 ああ、あれじゃああの足に踏みつぶされてぺしゃんこだな」
「・・・なんで・・・こーりんさんは・・・・」
「それに、・・・あらら、いまあの巨人、あれが踏みつけた所、あれは、魔理沙って友達の家なんだよ・・・、きっと怒り狂うだろうな・・・」
小さな『彼女』は震える手で僕の掌をしっかりと握りしめていた。
少し、鼻を鳴らして、綺麗な滴を目から零して。
「・・・なんで、こーりんさんは、わたしのことたすけてくれるの・・?」
「・・・・・」
それはそうだ。
僕も不思議には思っていたけど、実のところ森で助けて暫くしたら何故助けたのか、分かってはいたんだ。
だって、僕がさっき飛び込まなかったら
あの晩、もしも僕が君を森の中で救えなかったとしたら・・・
僕は君に『出会えない』じゃないか・・・
「はは・・・、それは、 それが運命だからだよ」
「・・・え?」
紫がこの不思議な会話に入ってこれずに、困惑しているようだった。
さっき僕のことを、いかれとんちきと称したばかりだしな。
「僕が君を助けるのは、唯、君が大切だからだけじゃない、 君が居ないと僕はとても困るんだ・・・・、分かるかい?」
「・・・あはっ・・・、それなに・・・?」
泣きながらも、少女はちょっと落ち着いたらしい。
それでいいんだ、それでこそ君らしい。
「なぁ・・・、ちょっと頼みごとがあるけど、いいかい?」
「・・・うん」
僕のよく知る少女、
泣き顔を見るのはこれが初めてかもしれないな。
「・・・僕はこの通りだし、後ろのお姉さんはあれをどうすることも出来ないんだ・・・」
「うん・・・・」
紫も満身創痍のようだ。
今あの妖怪とやり合って、勝ちを拾えるかは少し危うい。
紫はあれをどうすることもできない、 もしかしたら里まで暴れてどうにかしてしまうかもしれない。
「だから、 君が、あれを止めるんだ」
「・・・・・」
「あれは、君の家族の敵さ」
少女の表情に変化はない。
「だけど、 家族の為じゃなくてもいい、 自分の為ですら無くて良い」
この少女は、 家族の敵を討つことに何故憤りや、気負いが無いのだろうか?
なんでこんなに飄々としていられるのか。
その僕のよく知る少女は、納得したのか、それとも信じられないのだろうか、 僕の話を黙って聞いていた。
「君の力のほんの少しだけで十分のはずだ、 それで僕達を助けてほしい。 出来ないかな・・・?」
少女の手をそっと、しかし力を込めて握り返す。
「あ、あなた・・!? 一体何を言って・・?」
紫は後ろで抗議らしき言葉を吐くが、かまいはしない。
「頼むよ・・・・」
僕は、いつか『彼女』に使い方を教えた札を握らせる。
少女はじっと僕の目を見つめていたが、
ちょっとして「わかった」とだけ短く呟いて空を舞っていった。
「頑張って・・・・」
僕のよく知る、少女の背中を見ながら、僕は痛むからだを持ち上げて、行く先を目で追った。
「貴方! 一体どういうつもり!?」
「まぁ、みてなよ」
紫がわけがわからないと、後ろで喚くが、此処は無視だ。
銀色の空の下で、でいだらぼっちは森を踏みしだいて、里へと向かっている。
だが、その先に、ふわりと浮いて、行く手を阻む小さな女の子の姿を発見する。
少女は、 手にした破魔札をでいだらぼっちの大きな目玉目掛けて投げつける。
炸裂した爆炎がでいだらぼっちの目を焼いた。
隻腕のでいだらぼっちは 残る片方の腕を振り回して、少女を地面にたたきつけようとする。
それを、 蝶のようにゆらゆらと、 危なげにかわしていく。
彼女にあんな攻撃なんて当たるわけがない。
突き出された大きな腕を、躯に這わせるよう避けていく。
僕が彼女の戦いぶりを見るのはこれが始めてではないだろうか?
いらない心配とは知りながらも、僕はそれを大声を上げて応援する。
それに応えるように彼女は、でいだらぼっちに攻撃を加える。
美しく、弾幕を張って敵を翻弄する姿は、話に聞く以上の美しさだった。
削り取られていく躯に、恐怖したのか、でいだらぼっちは、体当たりをかまそうとする。
その瞬間、 少女の周りに七色の輝きが現れた。
その輝きは、彼女の躯から離れたと同時に、でいだらぼっちの頭部を貫いた。
あれが、幻想郷最強の少女の戦いぶりだ。
遠くから、砂煙を巻き上げて倒れるでいだらぼっち、
その紅く染まった夕焼けを背景に、一つの小さな影が近づいてきた。
「えへへ」
ほめられるのを期待しているのだろうか、彼女の埃だらけの頬を少しぬぐって、頭を撫でてやる。
「やったな」
「うん!」
彼女の手には、ちいさな、気味の悪いけむくじゃらの キィキィと鳴き声をあげる妖怪が一匹いた。
これが、あの巨大な妖怪の本体なのか?
僕はそれを受け取って、 その哀れな妖怪を紫に投げ渡した。
「あとは、ご随意に」
「・・・・・」
紫は依然として唖然とそれを無感動に受け取って、それを眺めていた。
僕の膝や体の痛みもずいぶんと引いていた。
妖怪の体って言うのはずいぶんと易くできているらしい。
「さて、帰ろうか?」
「うん!」
「貴方達、・・・・一体・・・」
紫が僕たちのやり取りを呆然と眺めてた。
「さて、疑いも晴れたし、 晴れて僕たちは放免ってわけだ、 そうだね?」
紫は、力なく、無表情に頷いて僕らに道を譲った。
僕らは沈みかけた夕暮れを後にして、彼女の生家まで帰る。
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異変を解決して幾日が経った。
きっと、あれが紫の言っていた、僕の満たすべき必然だったのだろう。
結果的に、過去に来た僕は、紫の生命を救ったことになるのだろうか?
それが僕にとっての運命だったのか。
「毎度ありがとうございます!」
霧雨の旦那のもとで働きながら、どこかもう人生を達観したような気分で居た。
「よーし、香霖! 上がっていいぞ、 最近ちょっと時間外労働がおおいからな! ははは!」
「はい、 お疲れ様です旦那」
肩をぐるぐると回して、肩をほぐしながら店を後にする。
店先の広場、今日は子供達の姿はない。 里が通常運転に戻った証拠だ。
しかし、その広場には普段は居るはずのない人物が座り込んでいた。
「ご機嫌よう、霖之助さん」
「君は・・・・」
紫色の衣装、 自慢の日傘、 長い輝くような金髪。
八雲 紫だった。
「何か用かい?」
まだ、僕の要らぬ疑いは晴れていないのか?
「なんだい、 僕がまた何かしでかしたとおもっているのか?」
「・・・あなたの、言ったこと、 真剣に検討してみたの」
「は?」
何をだろうか?
「未来から来たって言う話よ」
「・・・ああ、その話か」
そういえば、僕のよく知っている方の紫は『迎えに来る』なんて言っていたが、いつやってくるのだろうか?
「・・・未来の私は、 たぶん、 昨晩起こったことを知っていたと思うの」
「だろうね、 でなきゃ、 君は今頃あの妖怪の腹の中かもしれないしね」
紫が、 にらみつけてくるが 特に気にしない。
彼女は「はぁ」とため息をついてから、話を切り出し始めた。
「多分、 私の能力で、 貴方を元居たところに戻せると思うわ」
「本当か!」
「え!?」
僕が突然進み出て手を握ったのに驚いたのか紫が驚きの声を上げる。
「え、ええ。 現在と未来の境界を曖昧にすることは、 出来るはずよ」
「・・・・」
僕は喜びか、それとも突拍子もない話に驚いたのか、 唖然とするしか出来なかった。
帰れる? 僕があの日常に?
「ただし、 条件があるわ」
「なんだ!?」
いちいち詰め寄る僕に紫は貌を真っ赤にして後退る。
そんなに、気味悪がらなくてもいいじゃないか。
若干落ち込みつつも、ぼくは「すまない」と紫から距離をとる。
「あの、 貴方が手込めにしていた童女がいたでしょう?」
「めったなことをいうな!」
僕を一体なんだと思って居るんだ!?
紫は「違うの?」と不思議そうな貌をしている。
もしかして、魔理沙とか、霊夢にもそんな風に思われていたのかもしれない・・・。
確かに僕には、小さい女の子の知り合いは多いが・・・・。
本気で衝撃をうけている、僕を尻目に話を続ける。
「あの童女、 私に預けてほしいの。 博麗の後継者として、 育てたい」
「あ・・・」
僕は、しばしの逡巡の後に、 その申し出を快諾した。
「・・・じゃあ、 ちょっと、準備がある。 今すぐというわけにはいかない」
「そう」
色々と、荷物を持ち忘れたし、 女の子を説得する時間も必要だ。
霧雨の旦那にもいきなり消えてしまうわけにも行かないだろう。
「では、日が沈むそのときに、博麗神社で待っています」
紫はそう言い残して、スキマに消えていった。
僕は踵を返して、霧雨店に入った。
「・・・旦那、ちょっといいでしょうか?」
「・・・ん? なんだ香霖? お前は今日は上がりだぞ?」
朗らかな、人を信頼させるに足りた旦那のにやけ面がちょっとまぶしいと思った。
僕も店の店主としてこのぐらいの人格がないと駄目だと思う。
「実は、 少し、この里を離れることになりました」
「・・・・」
旦那は、ふかしていた煙管を置いた。
周りの店員も僕の突然の発言に視線を集中させる。
「・・・・おいおい、そんな話聞いてねぇぞ?」
「はい、実は、いまそこの外に出たときに知り合いに突然決められました」
「・・・ふざけんなよ・・・・まてよ香霖 それぱっかしじゃな、俺も納得いかねぇぞ?」
「すいません、 本当に。 けど、僕は本当は此処に居るべき人間じゃないんです」
「・・・・」
旦那はまた煙管を拾い上げてふかしはじめた。
そして大きなため息を吐いた。
「・・・・はぁ・・・、やっぱお前・・・・」
「・・・・」
旦那が言いたいことは何となく僕にも分かっていた。
旦那が煙管をとんとんと二三回叩いた、一呼吸置く。
「・・・・旦那、多分明日か、近いうちに僕にそっくりな奴がこの店にやってくるはずです」
「・・・はぁ? なんだそりゃ?」
「はい、そいつは僕じゃないですけど、僕だと思って、存分にこき使って下さい、ただ働きでもかまいません」
「・・・・」
旦那は苦い顔で「やれやれ」と呟いた。
「ったく! ほら、いっちまえ! お前みたいにコロコロ休み取られても困るんでな! こちとら真剣に商売してんだ!」
「はい、ご迷惑おかけしました」
僕が店を後にしようとすると。
「ちょっと待て!」
旦那が僕に巾着袋を投げて寄こした。
「・・・・今日の給金だ」
「・・・・はい、今日もおつかれさまでした」
後は彼女を博麗神社に送り届けるだけだ。
僕は女の子の生家の前までやって来た。
「ただいま」
家の中から、感覚の短い足音がドタドタと聞こえてきた。
「おかえりー!」
「ああ、良い子にしてたかい?」
「うん!」
彼女に手を引かれて居間に座る、
「ほらみて!」
「ん?」
彼女の差し出された掌を見る、
そこにはたくさんのスペルカードがあった。
おそらく、昨日の妖怪のとどめをさしたのも、スペルカードによる攻撃だろう。
「ほら!」
「・・・・ああ、こんなに作ったのか、相変わらず凄いな君は」
「これが、こーりんさんの! これとこれとこれがあのおばちゃんの分!」
おばちゃんて・・・・まさか。
「これで、みんな遊べるよね?」
「・・・・ああ、そうだな・・・・」
ぼくは、弾幕自体はれないかもしれないから、結局は使えないかもしれないが。
そして、いつものように彼女と少し早い夕飯を終えた。
「・・・・」
楽しげになにか作り始めた彼女、僕はこれからの事を彼女に切り出すことにした。
「・・・・なぁ」
「んー?」
「大切な話がある、少し手を休めて聞いてほしい」
「・・・?」
「実はね、君の世話をしてくれる人が見つかったんだよ」
「? こーりんさんは?」
「僕は、 元の居場所に戻らなくちゃならなくなったんだよ」
彼女に動揺が見え隠れする、少し見ただけでは無感動に見えるのに。
「君は、これからあの山の上の神社で暮らすことになる、世話してくれる人もそこにいるはずだ」
それから、少し、それでいて長い間彼女と話し込んで、漸く彼女を説得することが出来た。
彼女に荷造りをさせて、今は山の博麗神社への山道を上がっていく。
生の身のままの彼女は、何か2、3点の物を包みに大切そうに入れていた。
僕は、以前から彼女にあげるつもりだった、ここに来てから作っていた物を持って行く。
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先代の博麗がいなくなってからかなりの時間がたっている。
早く代理を立てるべきなのだが、なかなかふさわしい人間というのはいないモノだ。
「・・・あら?」
参拝客が石段をあがってくる気配がする。
巫女はいないのに酔狂な人間もいる。
父親と娘だろうか、手をつないでこちらに歩いてくる。
「貴方・・・・」
「やぁ、 昨日の晩、その節はどうも」
あの晩に現れた男だった、そして手を引くのは同じくあの晩に現れた少女だ。
昨晩こーりんと呼ばれていた男は手を引いて黒い髪をした少女を正面に立たせた。
「ほら、約束通り、連れてきたよ」
「・・・・・」
「これ以上の才物は居ないと思う、保証するよ」
昨日の晩を思い出す。
少女の才能は私も昨日目の当たりにした。
だが、それ以上に今は、この男の事が気になる。
どんな男なのだろう?
どんな店なのだろうか?
私もいつか、 その店に訪れることがあるのだろうか?
「本人の承諾はあるのかしら?」
「もちろん、 な」
男は肩を抱いていた少女をのぞき込む、
「・・・・」
が、返事はなく、いじけたような顔でとりあえず一つ頭を縦に振ることしかしなかった。
「出生もはっきりしているよ、才能も誰よりもある、なにより根性もあるしね」
男が「ほら、行ってきなさい」と少女の肩をそっと押した。
少女は歩み出てきて、私の顔を無感動に見つめるだけ。
「こんにちは」
「・・・・」
童女は、ぶすっと無愛想に唇をとがらせて荷物を胸に抱いて、押し黙っている。
私は、スキマから、文房具を取り出して、さらさらとある姓を書き連ねる。
「博麗 それが今日からの貴方の姓よ」
「はくれい?」
「そう 博麗の巫女が代々名乗る姓名 貴方はこれから幻想郷を守る 博麗の巫女になる」
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事の成り行きを後ろで眺めていた、 これで僕がやるべき事は終わった。
今から何もかも元通りの生活が僕をまっているだろう。
「ちょっとこっちに来てくれ」
小走りで走ってくる少女は、 絹の浅黒い服しか持っていない。今着ている服だってそうだ。
それじゃあいけない
「これは、博麗の君への贈り物だ」
あらかじめ此処で渡そうと思っていた品を取り出した。
それは、白と紅がまぶしい、 いつもの博麗の巫女の衣装だ。
「・・・きれい・・・」
「気に入ったかい?」
「うん!」
いつも君が着ていたヘソの見えるような物ではなく、子供が着ていても不思議のないちゃんとした物だ。
「まってて!」
彼女はそれを抱えて自分の服を勢いよく脱ぎだした。
「って! ええ!?」
僕のお手製の巫女服にあっという間に着替える。
「どう?」
「・・・・・うーん、何かたりないな?」
「ええ?!」
彼女は若干ショックを受けたようだが、僕は何が足りないかは分かっていた。
「ほら、ちょっと目をつぶっていて」
「・・?」
さらにもう一品、彼女には無くてはならない衣装がある、僕はそれを彼女の髪に結った。
「よし、いいぞ。 ほらこの鏡を見て」
「・・・・」
彼女のお気に入りのリボンだ。
これで、正真正銘、博麗の巫女の誕生だった。
「僕はこれから行かなくちゃいけない」
そう、そろそろ日が暮れる。 いつもの日常が僕を待っているはずだ。
彼女は慌てて、包みから一冊の本を取り出した。
「あげる!」
「え?」
僕の鼻先に突きつけるそれには見覚えがあった。
それは、いつか彼女にあげた、一冊のコミックだ。
「えー、と、 もらっていいのかい?」
「ちがう! もらっちゃだめ!」
とうとう、頭がおかしくなったのかと不安になったが、どうも違うようだった。
「あげるから、 ぜったいにかえしにきて!」
「・・・・」
彼女の目は真剣だった、 別にそんなに慌てなくても僕と君はもうすぐ会えるのに。
「・・・ああ、分かったよ、絶対に返しに行くよ」
博麗神社を後ろにして、必死に手を振る彼女。
「こーりんさん! ぜったいだよ!」
「ああ、絶対に返しに行くよ」
僕は、一段を踏みしめて夕暮れの中を歩いていく。
それに付いてくる、八雲 紫。
彼女に僕が消える瞬間をなぜか見せたくなかった。
彼女が、僕がどこかで元気に暮らしていると思わせたかった。
紫に頼んで、「彼女の見えないところで」と要望を付け足したのだ。
さて、家に帰ったら何をしようか?
そういえば草薙の剣が折れてとんだ出費になったなぁ、 などと栓のない事ばかり考えているウチに目的地に到着した。
少し離れた場所で幾千の目がこちらを見ていた、スキマだ。
「ここに飛び込んで」
「・・・・はぁー 疲れたよ」
僕がおもむろにスキマをくぐろうとすると、
「ねぇ」
「ん?」
紫に静止された。
「おいおい、まだ何かあるのか?」
もう正直、新たなやっかいごとに巻き込まれるには精神力が摩耗しすぎているのだが・・・・。
「いつか・・・・」
「・・・・」
「貴方の店に遊びにいってもいいかしら?」
「・・・・・」
そう、不安げに聞かれた。
どうもこうもない、
君が居ないと、僕の店のストーブの燃料は誰が調達するのか?
「ああ、 いつでもご来店をお待ちしてるよ」
「・・・・」
紫はぷっと吹き出した。
「ええ、 いつか遊びに行くわ」
「いつかと言わずに、 毎日来ても良いよ、 店が閑古鳥が鳴いてるものでね、 君みたいな奴でも居ないと寂しいんだ」
僕は彼女に見送られるように、隙間をくぐった。
僕の上下の感覚が無くなっていく。
僕の少し不思議な幻想郷の旅はこれで終わる。
完結
いくら妄想やオリ設定等でも原作無視が酷いな。違和感がありすぎる。
神様がくるまでお空は核の力をもっていない等。
誤字 途中から×麗夢 ○霊夢
創想話でアンケートをとった訳では無いから知りませんけど……
なんのトレーニングもしてないブヨブヨな体でモデル会場に紛れ込むような自殺行為は全力で回避したいと思うのが一般的だと思うが、作者はどのような認識をお持ちなのか。
設定を調べてください。
設定を知っていてやるねつ造なら少し違和感あろうと大概受け入れるのですが、
本家の東方の作品(同封の設定集)を一切見ずニコ動等の二次設定しか知らずに書いたとしか思えません。
(例えばさとりやお空などは地上の妖怪からも嫌われていたため交流再開したの東方地霊殿から等)
末も読ませていただきましたが結のみが見事に失敗しているので非常に残念です。
怖いもの知らずな作者を見ているこっちが怖い。
なんであれ人に見せる様な作品ではないな
東方ssの投稿サイトは他にもありますから、そちらでしたら評価も高めだったかもしれないと思いました。