幻想郷の一角にある迷いの竹林。一度入ると出るのが困難であり、妖怪の餌食になったり、餓死する者が絶えず続出し、人々は近づこうとすらしなかった。
小雨が降り続くその竹林をまるで自分の庭のように歩く一人の少女がいた。
妹紅「今日は満月か。輝夜を殺すには絶好の夜だな。」
紅いもんぺにサスペンダー、美しい銀色の髪に複数のリボンを結んだその少女の名は藤原妹紅。
不老不死である彼女は、生涯老いることもなければ死ぬこともない。そんな、彼女を人々は気味悪がるようになり、彼女は自分からこの迷いの竹林に移り住むようになった。
妹紅「輝夜の奴、よりにもよって雨が降っている時に殺ろうとか言いやがって。」
彼女が口走った輝夜とは、彼女の目の敵であり、幼い頃、輝夜に求婚した妹紅の父親に無理難題を押し付けただけでなく、公衆の面前で恥をかかせたのである。
妹紅「今度こそ、地獄の業火であの世に送ってやるぜ輝夜。」
手に小さな炎を灯しながら、約束の場所へ向かう妹紅。
すると、木陰から一人の女性が現れた。
慧音「妹紅、今日も行くのか」
妹紅「慧音…心配してくれているのか?。それよりもどうしてこんな所に。」
慧音と呼ばれた女性は里の寺子屋で教師をしており、頭脳明晰でスタイルも良く、里の人々からは絶大な人気を誇るワーハクタクと呼ばれる半獣である。
慧音「今日、久しぶりに寺子屋に来てくれたのに、妹紅の顔が一段と倹しい表情だったからな。何かあると思ってな。」
妹紅「鋭いな慧音は。」
妹紅は慧音に隠し事はできないのだ。例えしたとしても、慧音の鋭い洞察力ですぐに見破られてしまう。何時も寺子屋で子供の相手をしている慧音は伊達ではないのだ。
慧音「妹紅…もう、輝夜と争うのは止めないか。いくら、不老不死のお前でも痛みは感じる。私は、壊れていくお前の姿はもう見たくない。」
妹紅「……はは、慧音は心配性だな。そういえば、あの時も同じようなこと言ってたな……………。」
~時を遡ること数百年前。まだ、幻想郷に博麗大結界が存在せず、人間と妖怪が争っていた時代。~
妹紅「輝夜の野郎一体どこに居やがるんだ。この幻想郷に居るという手掛かりは掴んだのだが…。」
妹紅はひょんなことから幻想郷に輝夜が居ることを知った。しかし、あくまで居るという情報を得ただけで何処に居るかは分からず、宛もなく探し続けた。ふと、妹紅は幾つかの建物が並ぶ集落を見つけた。
妹紅「あんなところに人里があるな。あそこに住んでいる奴らに聞いてみるか。」
妹紅が訪れた人里はとても賑やかで、道ですれ違う人々は皆妹紅に挨拶をしてくる。他人との関わりを拒絶してきた妹紅にとっては居心地のいい場所ではなかった。
妹紅「私を見ても顔色一つ変えないなんて、変な奴らだ。あそこの建物にいる奴に聞いて、さっさとこんな里出よう…。」
妹紅は他の建物よりも一回り大きな建物を見つけ、少し歩幅を大きくしながらその建物へ向かう。
妹紅「ごめんください、誰か居ませんか?。」
返事がない、ここの主は留守なのかと思っているとき、奥の方で話し声が聞こえてきた。
慧音「こら廉待て、今度という今度は許さないぞ。」
廉「へへ~ん、ここまでおいで~。」
不法侵入を承知で中に入ってみると、教師のような女性とやんちゃな子供が追いかけっこしていた。
慧音「大事な花瓶を割って、これで何回目だと思っているんだ。」
廉「忘れちゃった。俺、記憶力悪いし。」
慧音「授業中も必ず寝る上に試験は毎回赤点。これはもう補習を受けてもらうしかないな。」
廉「それは嫌だ~。」
そう言うと、廉と呼ばれた少年の逃げ足が一層に速くなった。しかし、前をよく見ていなかったのか少年は盛大に妹紅にぶつかった。
廉「いててて~。」
妹紅「大丈夫かお前……。」
妹紅はそう言うと少年に手を差し伸べた。しかし、少年は妹紅の手を払い除けた。
廉「何処見て歩いてんだよ~。気をつけろよ~。」
慧音「こら廉、人の親切を無駄にするものではない。」
そういうと、教師のような女性は少年に頭突きを食らわせた。少年は、半泣きになりながら奥の方へ走っていった。
慧音「さっきはすまなかった。あの子に代わって私が謝る。すまない。」
妹紅「いや、いいんだ。私も黙って入ってきたし。」
慧音「私は、上白沢慧音。この寺子屋で教師をしている。君は見たところ里の者ではないようだが。」
妹紅「私は、藤原妹紅。ちょっと人を探しててね。この里なら何か手掛かりを掴めるかと思って来てみた。」
慧音「そうか、立ち話もなんだ中へ入ってくれ。」
そういうと、慧音は妹紅を寺子屋の中へ案内した。寺子屋の中はとても広く、子供達が書いたのであろう書き初めが沢山壁に飾られていた。
慧音「ここで少し待っていてくれないか。授業が終わったから子供達を帰してくる。」
妹紅「ああ、分かった。」
そういうと慧音は妹紅を客間に案内した後、子供達の元へ戻っていった。
妹紅(しかし、なんなんだろうなこの里の奴らは。私を見ても顔色一つ変えないし。あの慧音とかいう女、初対面の私を平気で寺子屋の中へ案内しやがったし。)
妹紅は不思議で仕方がなかった。他人から見たら妙な身形をしているのは間違いないし、何より銀色に輝く髪なんて見たら、普通は気味悪がるだろう。
妹紅はふと外を見た。家へ帰る子供達を手を振りながら見送っている慧音がいた。
妹紅「そういえば、あの女の髪も綺麗な銀色だな。」
妹紅は慧音の髪を見ながらそう思った。しかし、今更同じ色の髪を持つ奴を見ても何も思わない。
妹紅「私が探している奴は漆黒の髪を持つ輝夜だけだ。私を奈落の底の暗い闇に叩き落としたあの女。」
輝夜への憎しみを募らせている間に慧音が子供達を見送り終わったのか客間に戻ってきた。
慧音「遅くなってすまん。何か、言っていたようだがどうかしたか?。」
妹紅「何でもないよ、ただの独り言だ。」
慧音「そうか?。なら、いいんだ。」
不思議そうに見つめる慧音に対して必死に誤魔化す妹紅。
慧音「さて、本題に入ろう。一体誰を探しているんだ?。知っている限りのことは話す。」
妹紅「ああ、助かるよ。」
そう言うと妹紅はできる限り遠回しに輝夜のことを話した。慧音はただひたすら無言で妹紅の話しを聞いてうなずいた。
慧音「なるほど、つまりその輝夜という人を探しているんだな。」
妹紅「ああ、特徴は長髪で漆黒の色をした美しい髪をしている。」
慧音「う~ん、心当たりはないな。すまない、力になれなくて。」
妹紅「いや、あんたが謝ることはないよ。私こそ邪魔したね。」
そう言って妹紅は出ていこうと扉を開けると、先程の廉と言われていた少年が立っていた。
廉「話はこっそり聞かせてもらったよ。俺、その人に心当たりがあるよ。」
慧音「こら廉、まだ帰ってなかったのか。」
慧音は廉を捕まえようと飛びかかるが、難なく避けられてしまう。
妹紅「本当か本当に心当たりがあるのか。」
廉「うん、この前竹林の中で親父と筍狩りしていたら、綺麗な黒色の髪をした女の人が銀色の髪をした女の人と歩いてた。」
妹紅「銀色の髪だと……。」
妹紅は慧音を見た。慧音も銀色の髪をしている。妹紅は、慧音は本当は輝夜を知っているのではないかと疑いを持った。
妹紅「その、銀色の髪をした女の人はどんな人だった?。」
廉「う~ん、わからないよく見えなかった。」
妹紅「……そうか、ならいいんだ。」
慧音「こら廉、早く帰りなさい。」
廉「はあ~い。」
いつの間にか慧音は廉を捕まえていた。そして、追い出すような感じで門の外へ出した。
慧音「妹紅、この後どうするつもりだ、泊まる場所は確保しているのか?。」
妹紅「いや、私文無しだから……。でも、大丈夫だ私は頑丈だし野宿で十分だよ。」
慧音「何を言っている。野宿なんて妖怪に襲われたらどうするんだ。それに、いくら頑丈でも餓死には勝てん。私の家に泊まっていくといい。無駄に広い屋敷だからな。」
妹紅「しかし、それじゃあんたに迷惑を……。」
言い切る前に、慧音は妹紅に頭突きを食らわせた。
慧音「人の親切は無駄にするものではない。それに、あんたではなくちゃんと名前で呼ぶのだぞ。」
妹紅「わかったよ…………慧音。」
名前で呼ばれると慧音はニコニコしながら荷物をまとめるため部屋を出ていった。
妹紅(…………まさかな。)
妹紅は、廉が言っていた銀髪の女の人が慧音ではないことを祈った。いや、信じたかった。
慧音「妹紅は何が食べたい?。私は、料理には自信がないけど何でも言ってくれ。」
妹紅「別にいいよ何でも。何か、悪いし……。」
慧音の家から寺子屋までの帰路では市場があるので、慧音はいつもそこで買出しをするのだ。
慧音「何を言っている。せっかく妹紅に会えたんだから、精一杯おもてなしさせてもらうぞ。」
妹紅(本当にこの女は呑気だな。もし、輝夜の仲間だと分かったら、躊躇わず殺すってのに。)
慧音「どうかしたか妹紅?。何か浮かない顔をしているが。」
妹紅「別に………。」
結局、慧音は妹紅が何を食べたいか聞くことができず、山菜や秋刀魚などを買った。
慧音「ここが私の家だ。」
妹紅「想像していたより大きいな。あんた……慧音は一人でここに住んでいるのか。」
慧音「ああ、本当は寺子屋として使うつもりだったのだが、里の者達が無償で寺子屋を建ててくれたからな。家として使用することにした。」
慧音の家は、寺子屋として使うつもりがあっただけに、敷地はかなり広く、酒蔵や物置などがこれでもかというぐらい建っていた。
慧音「さあ、上がっていってくれ。私は、お風呂を沸かしてくる。」
妹紅「ああ、お邪魔するよ。」
慧音は風呂を沸かしに浴場へと歩いていった。
妹紅「何百年ぶりだろ。こんな穏やかな気分になれたの。」
妹紅は、他人と深く関わるのを拒絶し心を閉ざしてしまった。そして、何百年も輝夜への憎しみを楯に孤独に生きてきた。しかし、慧音のそばにいると何故か忘れてしまうのだ。自分が過去に受けた屈辱や犯した過ちを。
妹紅「このまま、ずっと時間が止まっていればいいのに。」
不老不死なんて望んで手に入れた力ではない。すべては輝夜を殺すため。自分と輝夜の過去の因縁を断ち切るために、不老不死である輝夜に少しでも近づくために得た力。出来るならば、こんな力捨ててしまいたい。
慧音「妹紅お風呂沸いたぞ。」
考えに浸っている間にお風呂を沸かした慧音が戻ってきた。
妹紅「慧音の後でいいよ。」
慧音「遠慮するな。妹紅はお客人なんだから。」
そう言うと、慧音は妹紅の背中を押して浴場へと向かわせる。
妹紅「わ…わかった、ありがたく頂くよ。」
妹紅は早歩きで浴場へ向かった。浴場に着き、妹紅は服を脱ぐと自分の体に刻まれた生々しい傷跡を見た。あらゆる、妖怪や賊が不老不死の生肝を食らって、不老不死の力を得ようと妹紅に襲いかかってきた。しかし、叶うはずがなく殆どが妹紅に返り討ちにあった。
妹紅「不老不死か……。」
妹紅はそう呟くと浴場に入り、自分の体を清めた。
妹紅「慧音上がったぞ~。」
慧音「おお、丁度いいな。今、夕食の準備ができたところだ。」
机の上には、豪華な料理が並べられていた。秋刀魚の塩焼き、筍ご飯、南瓜の煮物、旬な野菜が入った味噌汁。どれも、とても美味しそうだった。
妹紅「これ……全部慧音が作ったのか?。」
慧音「ああ、口に合うかわからんが。」
慧音は照れながらそう言った。
慧音「さあ、食べてみてくれ。」
妹紅「ああ、頂くよ。」
そう言って、妹紅は箸を進めた。どれもこれも、今まで食べたこどがないくらい美味しかった。こんな、温かい食事は初めてだった。思わず、妹紅の瞳に涙がこぼれる。
慧音「ど…どうした。やっぱり、口に合わなかったのか。」
妹紅「そんなことはない。こんなに美味しいご飯は初めてだよ。」
慧音「そ…そうか、それはよかった。」
安心したのか、慧音も箸を進めた。
食事が終わり、慧音は入浴を済ませ、寺子屋の試験の採点の為、深夜にも関わらず筆を握っていた。
妹紅は来客用の部屋で月を見ながら考えていた。
妹紅(廉って子が言ってた銀色の髪の女が慧音だったら、私は慧音を殺してしまうことになる。私は、また人を殺めてしまうのか。純粋に私と向き合ってくれる慧音を。そんなの嫌だ。私は、慧音を殺したくない。これ以上、人が死んでいくのを見たくない。これ以上、血で染まる自分の手を見たくない。私は、一体どうしたらいいんだ。)
妹紅は、自分の不甲斐なさに苛立ちを隠せなくなり、地面を軽く叩いた。月は、そんな妹紅を包み込むように静かに銀色の光を放っていた。
>>~時を遡ること数百年前。まだ、幻想郷に博麗大結界が存在せず、人間と妖怪が争っていた時代。~
ここも最後の句点は不要だと思います。
それと、~を使うより、ダッシュ(―)を二つ使って区切ったほうがいいかと。
台詞の前に喋っているキャラの名前を入れるのも良くないですね。戯曲なら問題ないでしょうが、小説では嫌われます。
というか、誰が喋っているかちゃんと分かる文章になっているので必要ないと思うんですが。
内容に関しては、ちょっと妹紅がいきなり馴れ馴れしいかな、という以外は特に問題ないと思います。