朝。
昨夜の雨は幻想郷にわずかに残っていた早春を人知れず流し去り、大地に夏の気配となって染み込んだようである。窓から見える山々も、雪から桜、そして今は木の葉へとその装いを変えている。いよいよ、幻想郷にも成長の季節がやってくるのだ。
幻想郷の夏を代表する景色と言えば、木の葉で青緑に染まった山々である。木の葉の持つ青緑というのは紅の反対の色に当たり、元になっている青と緑は紅とともに光の色の源となる。それだけでも青緑が紅と並んで重要な色であることがわかるが、加えて、青緑紅の三色にはあまり知られていない事実が存在する。人間は誕生の瞬間には青緑を見ることがないのだ。言い換えれば、人間が最初に見る色は紅だけであるということである。これは、紅が母親から与えられた色であるのに対し、青と緑は生まれた後に学ばなければならない色である事を意味する。人間は成長の過程で青と緑を学ぶことで、初めて世界に色を塗る。だから、紅が白とともに誕生を表すのに対して、青緑は成長、あるいは生きた証の象徴と言えるのである。
ちなみに、色眼鏡という言葉は特定の色、つまり性質を強調することだと思われているが、本来は当人が未熟なせいで本質の一部が見えていない事を言っている。
ともかく、これから夏まで、幻想郷は一雨ごとに青緑を増し、成長の喜びを全身で表すことであろう。
もっとも、成長しているのかどうかよく判らない妖怪とそれに影響された人間達はこの緑の息吹をどこかで呪っているかもしれない。
それは、花見が出来なくなるからである。
神社の桜は早くに散ってしまったが、花見前線は麓から妖怪の山へと移動してますます活発になるばかりだった。宴会場の標高が上がると、酔いの回りが早くなるので宴は騒がしさを増していく。僕は騒々しいのが苦手なので行かなかったが、店の常連たちは大抵の宴会に参加していたので、いくらでも話を聞く事が出来た。ちなみに、山の桜が散り切ってからは再び神社に戻り、狂い咲き見と称して宴会を開いたそうである。
だが、そんなところにもこの雨だ。今日あたり、桜に狂わされてばかりだった常連たちは手持無沙汰にちがいない。
一方、僕はと言えば早々に花見と騒ぎを分離したので桜の狂気からはいち早く脱する事が出来た。そのおかげで久し振りの仕事も入っていて、今日の僕はやる事が有るという幸せな状況にある。本当は店主という仕事が毎日あるのだが、こちらはなかなか実感する機会が無いのが悲しい。
僕はいつもの椅子に座り、今日の段取りを考えることにした。
今度の依頼は単体ではそう大きくもないが、依頼人の話から推測するとかなりの大商いに発展する可能性が高い。何しろこの依頼は――。
――カランカラン
「いらっしゃいませ」
「おお、いらっしゃるぜ。朝一で神社を一回りしたんだが、桜はついに一輪も無くなっちゃっててな。いよいよ宴会のネタが無くなって手持無沙汰なんだ」
予想通りの魔理沙である。神社と言っているが、朝一で行ったという割には時間が遅い。きっとどこか別の場所にも行って油を売ってきたのだろう。
仕事が有って気分が良いので、魔理沙にもお茶を淹れてやることにした。
「まぁ座ると良い。ちょうどお茶を淹れようと思っていたところだから持って来てやるよ」
「む、今日はいやにサービスが良いな。どうした?店主でも始めたか?」
「ふん、昔からそのつもりだがね」
ただ、確かに魔理沙の前で店主をするのは久し振りかもしれない。それだけ、今日が特別なのだ。
僕はお茶の準備をするために台所に向かった。後ろからは怪訝そうな視線が送られてくるが、今日はそれすら大目に見る事が出来る。僕はまだ霊夢に獲られていなかった(と言ってもそれはつい最近買ったからだが)、店で一番良いお茶を手に取った。
「言っとくが今日のお茶は良いお茶だからな。心して飲むといい」
湯飲みの中のお茶は綺麗に澄み切った緑色をしていた。
魔理沙がお茶を飲んでいる間、僕は昨日倉庫から探し出してきたある道具を調べていた。
その道具は手の平に載るほどの大きさで、薄い金属のベルトによって短冊大の小さな板が14枚、筒型にまとめられている。ちょうど、底の無い小さな樽のような作りだ。見ようによっては魔理沙のミニ八卦炉と似ていなくもない。筒の内側は随分と擦り減っていて、板を束ねる金属も錆ついている。だが、それでも僕にはこの道具が何に使われていたか判る。
けれども、それが判るのは僕の目で見ているからである。道具の名前と用途がすぐに判らない魔理沙は、案の定とんちんかんなことを聞いてきた。
「おい香霖。なんだ、その丸っこいのは。新手の香炉か?」
「いや、これはそういうものではないよ。名前も使い道も、炉なんかとは似て非なるものさ。もっとも、これの材料には特別な力が有るから、丸ごと焚けばかなり匂うとは思うけど」
「匂う?ああ成程。確かに匂うな。ぷんぷん匂う。どうせまた、こんな素晴らしい、いや危険な道具は売ることは出来ない、って言うんだろ」
だからそんなに機嫌が良いんだな、と魔理沙は言い添えた。残念だが、まったくの誤解である。
「ふん、それについて僕はまだ何も言っていないがね。大体その言い方じゃぁ、僕がまるで商売っ気の無い店主のように聞こえるじゃないか」
「まるで商売っ気の無い店主だと思ってるぜ」
失礼な事を言う奴だ。
確かに店には非売品も多いが、それらは全て僕が手放したくない、ではなくて、買い手のためにならないから売らないだけである。決して商売をする気が無いわけではない。なぜなら、
「これは、河童に売る物だからね」
正確には、この道具を参考に僕が作った物を売る。道具の名前は、船舶用の軸受と言った。
河童が店に現れたのは昨日の昼のことである。
にとり、と名乗ったその河童は、僕に「動く橋」の軸受はないか、と尋ねた。なんの事だかわからないので詳しく聞くと、そのにとりという河童は、先日旧都に行った際、偉い鬼から川に「動く橋」を作ってくれと頼まれたという。なんでも、昔住んでいた山の近くに、今は船が通ると動いて避ける橋があるという話を聞き付け、是非こっちにも欲しい、となったらしい。彼女によると、鬼は昔から普請好きなので橋の桁は作るそうだが、機械の方は河童に一任したということだった。普段なら自分たちで作ってしまうところだが、今回は外の橋を再現しなければならないため、要となる軸受の試作を僕に依頼すると言う。
「とにかく、魔理沙から聞いて来たんだ。外に詳しい店主なら間違いはないだろうってね。だから頼むよ」
そう言って、彼女は仕事と材料とを僕に託して出て行った。
さて、そうまで言われると、僕としても張りきらずにはいられない。しかも、今回は依頼主の後ろに鬼という重要な妖怪が控えている。ここで首尾良く依頼を完遂すれば、一挙に旧都一円から香霖堂に仕事が舞い込むかもしれない。そうなれば店は繁盛するし、これまで地上と交流の薄かった旧都も文明化が進む。それによって、更に外の世界の技術、外の世界の道具の良さが広まればしめたものだ。香霖堂はますます大繁盛し、外の世界と幻想郷、さらにその地下を結ぶ要衝として最高級の道具屋の地位を得るだろう。
そう思うと自然と気分が良くなってくる。これなら、仕事もはかどりそうだ。
僕はあらためて、古い軸受と河童の持って来た材料を見比べた。金属のベルトを除けば、軸受は全て、風変りな木でできている。これは間違い無く木ではあるのだが、手に持つと木とは思えないほどに重いのだ。しかも、その色は複雑に煤けた深い青緑である。僕は、こういう木を一種類だけ知っていた。
一方、材料として渡されたのもやはり木である。綺麗に切られて角材になっているが、こちらもまた、信じられないくらい重い。そして、木目は影の有る複雑な青緑をしている。こういう木を僕は一種類しか知らない。どうやら、河童は外の軸受と全く同じ材料を持って来たようだった。まるで誂えたようである。幸運というのは、得てして重なるものかもしれない。
「やっぱり……。どちらも癒創木だ」
思わず口に出すと、魔理沙が驚いたような顔をした。
「今日の香霖は機嫌だけじゃなく性能も良いな。その片方、それってただの棒切れだろ。道具でもないのに、名前が判ったのか?それと、ユソウボクって何だ?」
僕が癒創木を知っているのは、この木が薬として貴重だからである。かつて読んだ薬草薬木の本には、この木を使って病気を治す方法が記されていた。
「これは能力で判ったわけじゃないからね。癒創木というのは貴重な薬木なのさ。何しろ木から採れる脂はグアヤックの脂と言って、」
「ちょっと待て。香霖、今グアヤックって言ったか?」
「言ったね」
「そうか、こいつがグアヤックの脂の元なのか。これって地下から運ばれて来たんだろ。道理で手に入らないわけだぜ」
魔理沙はしきりにうなずいているが、それはきっと、実物の癒創木を初めて見たからであろう。仮にも魔法を扱っているのであればグアヤックの脂くらいは知っていて当然だ。この脂は魔術において神聖な空間を創り出すために焚く香の材料であり、その香りには人間の血液を浄化する力も有る。ただし、外界から結界で隔てられた幻想郷にはなかなか流れつかないので、実物を見ることができる機会は極めて少ない。
「こんなに大きな癒創木の材は僕だって初めて見たくらいだからな。当然だが勝手に持って行ったりするなよ」
「判ってるって。香霖がそんなに大事そうにしてる木だもんな、茸の鑑定なんかに使ったりはしないぜ」
僕の気分が良いのが移ったのか、魔理沙が珍しく殊勝な事を言った。って、何、茸の鑑定だって?
「あぁ。香霖はあれに疎いようだから教えてやるけどな、茸界には、私みたいなプロが見ても判らない事が有るくらいによく似た茸ってのがあるんだ」
茸界、か。僕も多少は知っているが、魔理沙には遠く及ばない世界である。ここは大人しく話を聞いて、彼女が茸を店に持ってくる日に備えるのが賢明だろう。
それにしても、茸の話をさせると魔理沙はいつも嬉しそうだ。
「例えばカキシメジとチャナメツムタケとか、ツキヨタケとムキタケとかな。こいつらは良く見れば判る事も有るが、中にははっきりしない奴も居るんだ。ところが、この連中にグアヤックの脂と強い酒を混ぜた薬を塗ると、やばい方が青緑色に変わるんですぐに判る。ただ、グアヤックの脂がなかなか手に入らないんで試したことはないんだが」
そういう用途があるとは知らなかったが、貴重な癒創木を使うにはあまりに勿体ない気がする。というか、そんなきわどい茸をわざわざ食べる必要があるのか?
「ま、心配するな。この私にかかれば、グアヤックの脂なんて無くても、食べられない茸と食べられるかもしれない茸は区別出来る」
魔理沙一人に鑑定させた茸は、食べないほうが良いのかもしれない。僕は、次に彼女が茸と来店する時までに、少しでも魔法の森の茸界に詳しくなっておこうと思った。
僕が新しい誓いを立てているうちに、魔理沙は癒創木の角材を手に取って、振ったり叩いたりし始めた。彼女もその重さには驚いたようだ。それと、やはり青緑の木肌は気になるようだった。
「それにしても、グアヤックの脂と毒茸が反応すると青緑になるなんて信じ難かったんだが、こうして元の木を見てるとそれも当然に思えてくるな」
すっかり高くなった日の光に癒創木をかざしながら、魔理沙は言った。
だが、その考えは少し浅い。
「魔理沙、ひょっとして君は、この木が青緑だからグアヤックの脂も青緑になる、なんて思っているんじゃないだろうね」
「生憎だがそう思っているぜ。大体、これを見れば誰だってそう思うんじゃないか」
魔理沙の魔法使い歴は人間にしてはそこそこだが、知識の方はまだまだ足りないようだ。僕は彼女に青緑の性質と癒創木の秘密を教えてやることにした。
「確かに、癒創木の角材が青緑なのと、グアヤックの脂が毒茸で青緑になるのとは無関係ではない。だが、それをただ同じ色になるというだけで片付けてしまっては、青緑になる理由がないだろう。そこで考えなければいけないのが、毒茸とだけ反応する、ということだよ」
魔理沙が言ったカキシメジもツキヨタケも、人間が食べれば非常に苦しむ。運が悪ければ命にも関わるかもしれない。
「実は、癒創木には人間の魂が宿っているんだ。それから採れるグアヤックの脂が毒茸で青緑になるのは、脂に含まれる魂の欠片が毒に当たっているからなんだよ」
「おいおい、これはまた随分と飛躍したな。何の事だかさっぱり判らないぜ」
いつもの事だが、と魔理沙は言い足した。
だが僕だって、これを確信したのはさっき茸の話を聞いてからである。何の説明もなしに魔理沙がすぐ理解できるとは思っていない。だからこうして、僕が教えてやっているのだ。
「どうして青緑になるかというと、それは青緑という色が命の成長を表しているからさ。木の葉の青緑は成長の証だし、人間が成長する時期は青春と呼ばれる。それと、死を意識した人間には走馬灯が浮かぶと言われるが、走馬灯というのは成長の軌跡だから、その色は誕生を意味する紅ではなく成長を意味する青緑になるね。つまり僕達はグアヤックの脂が走馬灯を浮かべるかどうかによって、食べられるかどうかを判断しているというわけだ」
まるで身代わりか生贄のようだが、そうでなければ採った本人が毒茸を食べるしかない。毒茸を採るという行為には、そういう責任が伴うのである。もっとも、魔理沙の場合は興味本位で採集しているようなので、そこまで考えていないだろうが。
僕は魔理沙から角材を取り返して、よく見えるように机に置いた。
「同じようにして、これが青緑をしていることも説明できる。実はこの癒創木という木は、元々こんな色はしていないんだ。それをこうして刃物で切ると断面が青緑になる。もう、何が起こっているかは判るだろう?」
「木に宿っていた人間の魂が切られて、断末魔に浮かべる色がこれってわけか。ぞっとしないな」
「ああ。だけど、そうでなければ癒創木が魔術に使われるほどの力を持つことは無いだろうし、薬にもならなかっただろうね。
ちなみに、外の世界ではこの木のことを命の木とも呼んでいるそうだ。人間の魂を蓄えた木に相応しい名前だと思わないかい」
魔理沙は再び角材を取り、しげしげと眺めまわしている。
「なあ香霖、この木に人間の魂が入っているってのは判ったような判らないようなところなんだが、そもそもどうして魂はこの木に入ってるんだ?わざわざこんな木の中でなくても、行けるところは他に一杯あっただろうに」
それに答えるためには、癒創木が生えている土地についての説明が必要である。僕は少し考えたが、今日は気分が良いので説明してやることにした。それに、癒創木の土地の話をすれば、将来この店が繁盛する理由も自ずと明らかになってくる。
「癒創木の生えている土地は熱帯と言う。ちょうど地球の反対側だ」
「熱帯なら知ってるぜ。遠いんだろ」
「ああ。熱帯という土地は一年中日差しが強くて、四季というものが無いんだ。雨だって日本のようにしとしと降らないで、一度に怒涛のように降る。厳しい土地だよ。実際、ある本には緑の地獄と書かれているくらいだ。それに別の本の表紙には悲しい土地だとも書いてあった」
ここで言う緑とは、おそらく青緑のことだろう。つまり、熱帯というのは魂にとって非常に居辛い、機会さえあればどこかに逃げ込みたくなる土地なのだ。
「穴が有ったら入りたい、じゃぁないけれど、木でもなんでも逃げ隠れ出来るなら魂は入ってしまうんじゃないかな。多かれ少なかれ、植物は人の魂を吸い寄せる性質を持っていることだし」
言うまでもなく、日本で人を吸い寄せる木は桜である。魔理沙をはじめとする幻想郷の人妖も、先日まで桜の魔力にとり憑かれていた。もしかするとこの癒創木も、熱帯では人を集める力を持っていたのかもしれない。そんな熱帯の癒創木が、はるばるこの店にやってきたのだ。この事実が表す意味は大きい。
「どうした?さっきから妙ににやついて。機嫌が良いのは判ってるが、それにしたって気味が悪いぜ」
「何とでも言うが良いさ。ところで魔理沙、さっき熱帯は遠いと言ったが、見方によってはそれほど遠くもないんだ。なぜだか判るよな」
「何だよ、禅問答か?」
「そのままの意味だよ。地球は球体だから、地上を通れば距離は長いが地下を通ればそれほどでもない。この角材だって、そうやってこの店までやってきたはずだ」
結界も大洋も隔てた彼の地と香霖堂が繋がるには、このルートが最も現実的である。しかも、実際に角材は幻想郷の地下から現れたのだ。角材が地球の内部を経由して来たのは、ほぼ間違いないと言って良いだろう。それこそ、この店が将来繁盛する理由である。
桜が人を吸い寄せるように、重さの有る物体は別の重さのある物体を吸い寄せる。これが重力だが、地球上の物体では、地球そのものとの間にはたらく重力が大き過ぎてそれ以外はあまり目立たない。だが、この癒創木の角材は違ったのだ。地球の裏側で育った癒創木は、はじめは地球に吸い寄せられるように進んだが、地球の中心を過ぎた辺りで今度は元居た土地の反対側、すなわちこの店を目指して進んだ。どういう事かと言うと、店と角材との間にはたらいた力が、地球と角材との間にはたらいた力を上回ったのである。これは、店としては大いに喜ぶべきことだ。これほどの力が続けば、どんな客でも集まってくる。店の安泰は約束されたようなものである。
「知っているかもしれないが、これは地下から流れ着いたものなんだ。なんでも、今度旧都に新しく作る橋の部品をこれで作ってほしいらしい。いよいよ香霖堂にも、商売の運気が向いてきたってところかな」
僕は努めて冷静に、今の状況を説明した。すると魔理沙は、一瞬申し訳なさそうな顔をして、それからニヤリとした。
「あー、うん。その話は知っているぜ。実はさっき、地下にも行ってきたんだ」
成程、それでこんな時間になったのか。
「それがどうかしたかい」
「地下でだな、鬼に言伝を頼まれたんだぜ」
「ほう。それはまた、どんな」
「あぁ。あの橋、旧都の外れに架けようと思っていたらしい橋だがな、あれ、取り止めになったんだとさ」
「……なんだって!?」
「どうも、元々橋姫のいない宴会で決まった話らしくてな。動く橋なんかにして酔ったらどうするんだ、と後から橋姫が怒ったそうだ。それとこの癒創木なんだが、こいつも返して欲しいと言われたぜ。香霖の言うように貴重な木だから、何も頼んでいないのにくれてやるわけにはいかないんだとさ」
なんてことだ。これじゃぁ、香霖堂の名を旧都に知らしめることは出来そうにない。それにこの角材も、また地下に戻っていってしまう。頼みの店の力も、わずか二日で切れてしまったということか。まさに、天国から地獄の気分だ。
「ま、そう拗ねるなよ。貴重な癒創木も拝めたわけだし、それに……美味いお茶が飲めたじゃないか」
僕はまだ手元に有る癒創木と、冷めてしまったお茶を見比べた。澄んでいるように見えたお茶も、今ではずっと複雑な青緑をしているように見えた。
昨夜の雨は幻想郷にわずかに残っていた早春を人知れず流し去り、大地に夏の気配となって染み込んだようである。窓から見える山々も、雪から桜、そして今は木の葉へとその装いを変えている。いよいよ、幻想郷にも成長の季節がやってくるのだ。
幻想郷の夏を代表する景色と言えば、木の葉で青緑に染まった山々である。木の葉の持つ青緑というのは紅の反対の色に当たり、元になっている青と緑は紅とともに光の色の源となる。それだけでも青緑が紅と並んで重要な色であることがわかるが、加えて、青緑紅の三色にはあまり知られていない事実が存在する。人間は誕生の瞬間には青緑を見ることがないのだ。言い換えれば、人間が最初に見る色は紅だけであるということである。これは、紅が母親から与えられた色であるのに対し、青と緑は生まれた後に学ばなければならない色である事を意味する。人間は成長の過程で青と緑を学ぶことで、初めて世界に色を塗る。だから、紅が白とともに誕生を表すのに対して、青緑は成長、あるいは生きた証の象徴と言えるのである。
ちなみに、色眼鏡という言葉は特定の色、つまり性質を強調することだと思われているが、本来は当人が未熟なせいで本質の一部が見えていない事を言っている。
ともかく、これから夏まで、幻想郷は一雨ごとに青緑を増し、成長の喜びを全身で表すことであろう。
もっとも、成長しているのかどうかよく判らない妖怪とそれに影響された人間達はこの緑の息吹をどこかで呪っているかもしれない。
それは、花見が出来なくなるからである。
神社の桜は早くに散ってしまったが、花見前線は麓から妖怪の山へと移動してますます活発になるばかりだった。宴会場の標高が上がると、酔いの回りが早くなるので宴は騒がしさを増していく。僕は騒々しいのが苦手なので行かなかったが、店の常連たちは大抵の宴会に参加していたので、いくらでも話を聞く事が出来た。ちなみに、山の桜が散り切ってからは再び神社に戻り、狂い咲き見と称して宴会を開いたそうである。
だが、そんなところにもこの雨だ。今日あたり、桜に狂わされてばかりだった常連たちは手持無沙汰にちがいない。
一方、僕はと言えば早々に花見と騒ぎを分離したので桜の狂気からはいち早く脱する事が出来た。そのおかげで久し振りの仕事も入っていて、今日の僕はやる事が有るという幸せな状況にある。本当は店主という仕事が毎日あるのだが、こちらはなかなか実感する機会が無いのが悲しい。
僕はいつもの椅子に座り、今日の段取りを考えることにした。
今度の依頼は単体ではそう大きくもないが、依頼人の話から推測するとかなりの大商いに発展する可能性が高い。何しろこの依頼は――。
――カランカラン
「いらっしゃいませ」
「おお、いらっしゃるぜ。朝一で神社を一回りしたんだが、桜はついに一輪も無くなっちゃっててな。いよいよ宴会のネタが無くなって手持無沙汰なんだ」
予想通りの魔理沙である。神社と言っているが、朝一で行ったという割には時間が遅い。きっとどこか別の場所にも行って油を売ってきたのだろう。
仕事が有って気分が良いので、魔理沙にもお茶を淹れてやることにした。
「まぁ座ると良い。ちょうどお茶を淹れようと思っていたところだから持って来てやるよ」
「む、今日はいやにサービスが良いな。どうした?店主でも始めたか?」
「ふん、昔からそのつもりだがね」
ただ、確かに魔理沙の前で店主をするのは久し振りかもしれない。それだけ、今日が特別なのだ。
僕はお茶の準備をするために台所に向かった。後ろからは怪訝そうな視線が送られてくるが、今日はそれすら大目に見る事が出来る。僕はまだ霊夢に獲られていなかった(と言ってもそれはつい最近買ったからだが)、店で一番良いお茶を手に取った。
「言っとくが今日のお茶は良いお茶だからな。心して飲むといい」
湯飲みの中のお茶は綺麗に澄み切った緑色をしていた。
魔理沙がお茶を飲んでいる間、僕は昨日倉庫から探し出してきたある道具を調べていた。
その道具は手の平に載るほどの大きさで、薄い金属のベルトによって短冊大の小さな板が14枚、筒型にまとめられている。ちょうど、底の無い小さな樽のような作りだ。見ようによっては魔理沙のミニ八卦炉と似ていなくもない。筒の内側は随分と擦り減っていて、板を束ねる金属も錆ついている。だが、それでも僕にはこの道具が何に使われていたか判る。
けれども、それが判るのは僕の目で見ているからである。道具の名前と用途がすぐに判らない魔理沙は、案の定とんちんかんなことを聞いてきた。
「おい香霖。なんだ、その丸っこいのは。新手の香炉か?」
「いや、これはそういうものではないよ。名前も使い道も、炉なんかとは似て非なるものさ。もっとも、これの材料には特別な力が有るから、丸ごと焚けばかなり匂うとは思うけど」
「匂う?ああ成程。確かに匂うな。ぷんぷん匂う。どうせまた、こんな素晴らしい、いや危険な道具は売ることは出来ない、って言うんだろ」
だからそんなに機嫌が良いんだな、と魔理沙は言い添えた。残念だが、まったくの誤解である。
「ふん、それについて僕はまだ何も言っていないがね。大体その言い方じゃぁ、僕がまるで商売っ気の無い店主のように聞こえるじゃないか」
「まるで商売っ気の無い店主だと思ってるぜ」
失礼な事を言う奴だ。
確かに店には非売品も多いが、それらは全て僕が手放したくない、ではなくて、買い手のためにならないから売らないだけである。決して商売をする気が無いわけではない。なぜなら、
「これは、河童に売る物だからね」
正確には、この道具を参考に僕が作った物を売る。道具の名前は、船舶用の軸受と言った。
河童が店に現れたのは昨日の昼のことである。
にとり、と名乗ったその河童は、僕に「動く橋」の軸受はないか、と尋ねた。なんの事だかわからないので詳しく聞くと、そのにとりという河童は、先日旧都に行った際、偉い鬼から川に「動く橋」を作ってくれと頼まれたという。なんでも、昔住んでいた山の近くに、今は船が通ると動いて避ける橋があるという話を聞き付け、是非こっちにも欲しい、となったらしい。彼女によると、鬼は昔から普請好きなので橋の桁は作るそうだが、機械の方は河童に一任したということだった。普段なら自分たちで作ってしまうところだが、今回は外の橋を再現しなければならないため、要となる軸受の試作を僕に依頼すると言う。
「とにかく、魔理沙から聞いて来たんだ。外に詳しい店主なら間違いはないだろうってね。だから頼むよ」
そう言って、彼女は仕事と材料とを僕に託して出て行った。
さて、そうまで言われると、僕としても張りきらずにはいられない。しかも、今回は依頼主の後ろに鬼という重要な妖怪が控えている。ここで首尾良く依頼を完遂すれば、一挙に旧都一円から香霖堂に仕事が舞い込むかもしれない。そうなれば店は繁盛するし、これまで地上と交流の薄かった旧都も文明化が進む。それによって、更に外の世界の技術、外の世界の道具の良さが広まればしめたものだ。香霖堂はますます大繁盛し、外の世界と幻想郷、さらにその地下を結ぶ要衝として最高級の道具屋の地位を得るだろう。
そう思うと自然と気分が良くなってくる。これなら、仕事もはかどりそうだ。
僕はあらためて、古い軸受と河童の持って来た材料を見比べた。金属のベルトを除けば、軸受は全て、風変りな木でできている。これは間違い無く木ではあるのだが、手に持つと木とは思えないほどに重いのだ。しかも、その色は複雑に煤けた深い青緑である。僕は、こういう木を一種類だけ知っていた。
一方、材料として渡されたのもやはり木である。綺麗に切られて角材になっているが、こちらもまた、信じられないくらい重い。そして、木目は影の有る複雑な青緑をしている。こういう木を僕は一種類しか知らない。どうやら、河童は外の軸受と全く同じ材料を持って来たようだった。まるで誂えたようである。幸運というのは、得てして重なるものかもしれない。
「やっぱり……。どちらも癒創木だ」
思わず口に出すと、魔理沙が驚いたような顔をした。
「今日の香霖は機嫌だけじゃなく性能も良いな。その片方、それってただの棒切れだろ。道具でもないのに、名前が判ったのか?それと、ユソウボクって何だ?」
僕が癒創木を知っているのは、この木が薬として貴重だからである。かつて読んだ薬草薬木の本には、この木を使って病気を治す方法が記されていた。
「これは能力で判ったわけじゃないからね。癒創木というのは貴重な薬木なのさ。何しろ木から採れる脂はグアヤックの脂と言って、」
「ちょっと待て。香霖、今グアヤックって言ったか?」
「言ったね」
「そうか、こいつがグアヤックの脂の元なのか。これって地下から運ばれて来たんだろ。道理で手に入らないわけだぜ」
魔理沙はしきりにうなずいているが、それはきっと、実物の癒創木を初めて見たからであろう。仮にも魔法を扱っているのであればグアヤックの脂くらいは知っていて当然だ。この脂は魔術において神聖な空間を創り出すために焚く香の材料であり、その香りには人間の血液を浄化する力も有る。ただし、外界から結界で隔てられた幻想郷にはなかなか流れつかないので、実物を見ることができる機会は極めて少ない。
「こんなに大きな癒創木の材は僕だって初めて見たくらいだからな。当然だが勝手に持って行ったりするなよ」
「判ってるって。香霖がそんなに大事そうにしてる木だもんな、茸の鑑定なんかに使ったりはしないぜ」
僕の気分が良いのが移ったのか、魔理沙が珍しく殊勝な事を言った。って、何、茸の鑑定だって?
「あぁ。香霖はあれに疎いようだから教えてやるけどな、茸界には、私みたいなプロが見ても判らない事が有るくらいによく似た茸ってのがあるんだ」
茸界、か。僕も多少は知っているが、魔理沙には遠く及ばない世界である。ここは大人しく話を聞いて、彼女が茸を店に持ってくる日に備えるのが賢明だろう。
それにしても、茸の話をさせると魔理沙はいつも嬉しそうだ。
「例えばカキシメジとチャナメツムタケとか、ツキヨタケとムキタケとかな。こいつらは良く見れば判る事も有るが、中にははっきりしない奴も居るんだ。ところが、この連中にグアヤックの脂と強い酒を混ぜた薬を塗ると、やばい方が青緑色に変わるんですぐに判る。ただ、グアヤックの脂がなかなか手に入らないんで試したことはないんだが」
そういう用途があるとは知らなかったが、貴重な癒創木を使うにはあまりに勿体ない気がする。というか、そんなきわどい茸をわざわざ食べる必要があるのか?
「ま、心配するな。この私にかかれば、グアヤックの脂なんて無くても、食べられない茸と食べられるかもしれない茸は区別出来る」
魔理沙一人に鑑定させた茸は、食べないほうが良いのかもしれない。僕は、次に彼女が茸と来店する時までに、少しでも魔法の森の茸界に詳しくなっておこうと思った。
僕が新しい誓いを立てているうちに、魔理沙は癒創木の角材を手に取って、振ったり叩いたりし始めた。彼女もその重さには驚いたようだ。それと、やはり青緑の木肌は気になるようだった。
「それにしても、グアヤックの脂と毒茸が反応すると青緑になるなんて信じ難かったんだが、こうして元の木を見てるとそれも当然に思えてくるな」
すっかり高くなった日の光に癒創木をかざしながら、魔理沙は言った。
だが、その考えは少し浅い。
「魔理沙、ひょっとして君は、この木が青緑だからグアヤックの脂も青緑になる、なんて思っているんじゃないだろうね」
「生憎だがそう思っているぜ。大体、これを見れば誰だってそう思うんじゃないか」
魔理沙の魔法使い歴は人間にしてはそこそこだが、知識の方はまだまだ足りないようだ。僕は彼女に青緑の性質と癒創木の秘密を教えてやることにした。
「確かに、癒創木の角材が青緑なのと、グアヤックの脂が毒茸で青緑になるのとは無関係ではない。だが、それをただ同じ色になるというだけで片付けてしまっては、青緑になる理由がないだろう。そこで考えなければいけないのが、毒茸とだけ反応する、ということだよ」
魔理沙が言ったカキシメジもツキヨタケも、人間が食べれば非常に苦しむ。運が悪ければ命にも関わるかもしれない。
「実は、癒創木には人間の魂が宿っているんだ。それから採れるグアヤックの脂が毒茸で青緑になるのは、脂に含まれる魂の欠片が毒に当たっているからなんだよ」
「おいおい、これはまた随分と飛躍したな。何の事だかさっぱり判らないぜ」
いつもの事だが、と魔理沙は言い足した。
だが僕だって、これを確信したのはさっき茸の話を聞いてからである。何の説明もなしに魔理沙がすぐ理解できるとは思っていない。だからこうして、僕が教えてやっているのだ。
「どうして青緑になるかというと、それは青緑という色が命の成長を表しているからさ。木の葉の青緑は成長の証だし、人間が成長する時期は青春と呼ばれる。それと、死を意識した人間には走馬灯が浮かぶと言われるが、走馬灯というのは成長の軌跡だから、その色は誕生を意味する紅ではなく成長を意味する青緑になるね。つまり僕達はグアヤックの脂が走馬灯を浮かべるかどうかによって、食べられるかどうかを判断しているというわけだ」
まるで身代わりか生贄のようだが、そうでなければ採った本人が毒茸を食べるしかない。毒茸を採るという行為には、そういう責任が伴うのである。もっとも、魔理沙の場合は興味本位で採集しているようなので、そこまで考えていないだろうが。
僕は魔理沙から角材を取り返して、よく見えるように机に置いた。
「同じようにして、これが青緑をしていることも説明できる。実はこの癒創木という木は、元々こんな色はしていないんだ。それをこうして刃物で切ると断面が青緑になる。もう、何が起こっているかは判るだろう?」
「木に宿っていた人間の魂が切られて、断末魔に浮かべる色がこれってわけか。ぞっとしないな」
「ああ。だけど、そうでなければ癒創木が魔術に使われるほどの力を持つことは無いだろうし、薬にもならなかっただろうね。
ちなみに、外の世界ではこの木のことを命の木とも呼んでいるそうだ。人間の魂を蓄えた木に相応しい名前だと思わないかい」
魔理沙は再び角材を取り、しげしげと眺めまわしている。
「なあ香霖、この木に人間の魂が入っているってのは判ったような判らないようなところなんだが、そもそもどうして魂はこの木に入ってるんだ?わざわざこんな木の中でなくても、行けるところは他に一杯あっただろうに」
それに答えるためには、癒創木が生えている土地についての説明が必要である。僕は少し考えたが、今日は気分が良いので説明してやることにした。それに、癒創木の土地の話をすれば、将来この店が繁盛する理由も自ずと明らかになってくる。
「癒創木の生えている土地は熱帯と言う。ちょうど地球の反対側だ」
「熱帯なら知ってるぜ。遠いんだろ」
「ああ。熱帯という土地は一年中日差しが強くて、四季というものが無いんだ。雨だって日本のようにしとしと降らないで、一度に怒涛のように降る。厳しい土地だよ。実際、ある本には緑の地獄と書かれているくらいだ。それに別の本の表紙には悲しい土地だとも書いてあった」
ここで言う緑とは、おそらく青緑のことだろう。つまり、熱帯というのは魂にとって非常に居辛い、機会さえあればどこかに逃げ込みたくなる土地なのだ。
「穴が有ったら入りたい、じゃぁないけれど、木でもなんでも逃げ隠れ出来るなら魂は入ってしまうんじゃないかな。多かれ少なかれ、植物は人の魂を吸い寄せる性質を持っていることだし」
言うまでもなく、日本で人を吸い寄せる木は桜である。魔理沙をはじめとする幻想郷の人妖も、先日まで桜の魔力にとり憑かれていた。もしかするとこの癒創木も、熱帯では人を集める力を持っていたのかもしれない。そんな熱帯の癒創木が、はるばるこの店にやってきたのだ。この事実が表す意味は大きい。
「どうした?さっきから妙ににやついて。機嫌が良いのは判ってるが、それにしたって気味が悪いぜ」
「何とでも言うが良いさ。ところで魔理沙、さっき熱帯は遠いと言ったが、見方によってはそれほど遠くもないんだ。なぜだか判るよな」
「何だよ、禅問答か?」
「そのままの意味だよ。地球は球体だから、地上を通れば距離は長いが地下を通ればそれほどでもない。この角材だって、そうやってこの店までやってきたはずだ」
結界も大洋も隔てた彼の地と香霖堂が繋がるには、このルートが最も現実的である。しかも、実際に角材は幻想郷の地下から現れたのだ。角材が地球の内部を経由して来たのは、ほぼ間違いないと言って良いだろう。それこそ、この店が将来繁盛する理由である。
桜が人を吸い寄せるように、重さの有る物体は別の重さのある物体を吸い寄せる。これが重力だが、地球上の物体では、地球そのものとの間にはたらく重力が大き過ぎてそれ以外はあまり目立たない。だが、この癒創木の角材は違ったのだ。地球の裏側で育った癒創木は、はじめは地球に吸い寄せられるように進んだが、地球の中心を過ぎた辺りで今度は元居た土地の反対側、すなわちこの店を目指して進んだ。どういう事かと言うと、店と角材との間にはたらいた力が、地球と角材との間にはたらいた力を上回ったのである。これは、店としては大いに喜ぶべきことだ。これほどの力が続けば、どんな客でも集まってくる。店の安泰は約束されたようなものである。
「知っているかもしれないが、これは地下から流れ着いたものなんだ。なんでも、今度旧都に新しく作る橋の部品をこれで作ってほしいらしい。いよいよ香霖堂にも、商売の運気が向いてきたってところかな」
僕は努めて冷静に、今の状況を説明した。すると魔理沙は、一瞬申し訳なさそうな顔をして、それからニヤリとした。
「あー、うん。その話は知っているぜ。実はさっき、地下にも行ってきたんだ」
成程、それでこんな時間になったのか。
「それがどうかしたかい」
「地下でだな、鬼に言伝を頼まれたんだぜ」
「ほう。それはまた、どんな」
「あぁ。あの橋、旧都の外れに架けようと思っていたらしい橋だがな、あれ、取り止めになったんだとさ」
「……なんだって!?」
「どうも、元々橋姫のいない宴会で決まった話らしくてな。動く橋なんかにして酔ったらどうするんだ、と後から橋姫が怒ったそうだ。それとこの癒創木なんだが、こいつも返して欲しいと言われたぜ。香霖の言うように貴重な木だから、何も頼んでいないのにくれてやるわけにはいかないんだとさ」
なんてことだ。これじゃぁ、香霖堂の名を旧都に知らしめることは出来そうにない。それにこの角材も、また地下に戻っていってしまう。頼みの店の力も、わずか二日で切れてしまったということか。まさに、天国から地獄の気分だ。
「ま、そう拗ねるなよ。貴重な癒創木も拝めたわけだし、それに……美味いお茶が飲めたじゃないか」
僕はまだ手元に有る癒創木と、冷めてしまったお茶を見比べた。澄んでいるように見えたお茶も、今ではずっと複雑な青緑をしているように見えた。
現物は見たこと無いですけど、癒創木について少し調べてみました。
確かに深みある良い色合いをしてるようですね~、店主が手元に置きたかったのも頷けます。
それにしても魔理沙は最初から知ってたのに少し意地が悪いと思います。
得てして好きな人にはイジワルしてみたくなるものですけどねw
こーりんが商売っ気を出してもなかなかうまくいかないのはなんでだろうw
偉大な商人目指して頑張れ!
最後のオチはまさに木侮金、といったところでしょうか。