ざっ、ざっ、ざっ、と小気味の良い音が境内に響く。
音を立てているのは使い込まれた古い竹箒。それを奏でているのは私、博麗霊夢である。
神社の周りにはすっかり葉桜になった桜の木々が拡がり、そよ風に吹かれて若々しい緑の葉をざわざわと揺らしている。
春も終わりに近づいた博麗神社の境内にて、私はいつものように境内の掃除に勤しんでいた。
燦燦と降り注ぐ暖かな陽射しに眼を細めながら、ついつい欠伸が漏れる。
石畳の上には役目を終えた桜の花弁が降り積もり、掃いても掃いても終わりが見えない。
新緑の天幕と桜の絨毯が拡がる境内と言う名の舞台の上で、独り竹箒を奏でる私はさながら春の湊の演奏者といったところか。
うん、我ながら似合わないことを考えたと思う。
魔理沙や紫あたりが聞いたら大笑いするに違いない。
ほうと嘆息し、竹箒の柄の頂上に顎を乗せながら眼を閉じる。
小鳥たちのさえずりが耳に心地良く響き、頬を流れていく風は暑くもなければ寒くもなく非常に気持ちが良い。
境内の掃除はこれくらいにして、早くお茶が飲みたい。
どうせいくら掃いてもきりがないのは目に見えている。
それに、もとより境内の掃除なんて境内に立つ為の言い訳みたいなものだった。
(―――そろそろかしら)
走る予感に心の中で呟いた刹那、優しい風が頬を撫でる。
先ほどの風とは同じようで違う風。
他の奴らには分からないだろうが、私には分かる。
彼女の来訪を告げる優しい風。
「こんにちは、霊夢さん」
耳元に届く、彼女の声。
竹箒の柄から顎を外し、ゆっくりと眼を開けると、目の前には微笑みを浮かべた早苗が立っていた。
「こんにちは、早苗。一日と二十二分ぶりね」
気に入ったんですかその台詞と、私の返した挨拶に早苗が苦笑する。
終わらない円舞曲だっけ。あれは実に良いものだったわ。
最後の引鉄を引く場面などもうたまらない。
今度、守矢神社に行った時には是非ともまた見せてほしい。
それはさておき。
「今日は里からの帰りかしら」
「はい。里の分社の様子を確認して、皆さんへの布教を。お布施もいただいてしまいました」
早苗は嬉しそうに手に持った手提げの籠を持ち上げてみせる。
中には野菜やら雑貨やら色々な物が詰まっている。
どうやら彼女のところは順調に信仰を獲得しているようだ。うちの神社とは大違いである。
別に自分で言っていて悲しくなんてならない。
悲しくなんてならないんだからね。
大切なことだから二回言った。くれぐれも勘違いしないように。
「あら、その包みはひょっとして」
ふと、早苗の持った手提げの籠に見覚えのある包みがあるのを見つける。
私にとって馴染み深く、されどなかなかお目にかかれないそれは。
「はい。御土産に持ってきた、霊夢さん御用達のお店の羊羹です」
にっこりと微笑んで、羊羹の包みを渡してくれる早苗。
後光すら見えるその姿は、私にとってまさしく女神様そのものだ。
「早苗、貴女が私の神様だったのね」
「ふふっ、私は現人神ですから。霊夢さんの信仰をいただいて100万パワーです」
誇らしげに張られる早苗の大きめな胸が彼女の動きに合わせて大きく揺れる。
そのまま胸に飛び込みたくなる衝動を心の中に留めながら、嬉々として包みを受け取る
まずは羊羹である。お楽しみは後でゆっくりと堪能させてもらうことにしよう。
「早速お茶の準備をするわ」
「あ、私がお淹れしますよ」
慌てて申し出る早苗をやんわりと制止し、ひらひらと手を振って見せる。
「いいからいいから。早苗は縁側でのんびり座っていて頂戴」
「でも」
申し訳なさそうな表情を浮かべる早苗に軽く首を竦め、少し思案する。
「じゃあ、羊羹切ってくれる。私のは大きめでよろしく」
「は、はい!」
ぱぁっと嬉しそうな表情になる早苗に微笑を返し、彼女に手を差し出す。
微笑んで私の手を取る早苗と手を繋いで、二人一緒に母屋の方へと歩き出した。
件の異変を解決し、首謀者である神奈子達と和解した後、守矢神社の風祝である早苗は時折博麗神社を訪れるようになった。
訪問の理由は、博麗神社に設置された分社の様子を見に来たということらしい。
とは言え、滅多に人の訪れることのない博麗神社に設置された分社である。
特に何か変わったことがあるわけでもなく、簡単な掃除とお供えを済ませると、もう何もやることがなくなってしまっていた。
すると早苗は博麗神社における雑務を手伝うことを申し出てきた。
早苗曰く、神奈子様を祀る分社のある神社とその巫女が適当な状態なのは困るということらしい。
何事も気の向くままに適当に済ませるのが信条である私としては何とも煩わしい話である。
別にそんなことまでしなくていいとは言ったものの、早苗は頑として譲らなかった。
なかなかどうして早苗は頑固な娘だった。
結局、言い争うのも面倒なので早苗の好きなようにやらせることにした。
真面目で思い込みの激しい面倒な娘。
それが当時における私の早苗に対する印象であった。
そんなこんなで早苗は博麗神社を訪れる度に神社の雑務をこなすようになった。
最初こそ煩わしく思っていた私だったが、自分でせずとも日々の雑務が片付いていく様に、まあいいかと思うようになった。
それどころか、せっせと掃除や料理等に精を出す早苗を手伝い、一緒に雑務をこなすようになったのである。
面倒くさがりの自分にしては驚くべきことだった。
一通りの雑務を済ませると、私と早苗はいつも縁側に並んで座ってお茶を飲む。
時には早苗が持ってきてくれたお茶菓子を一緒に食べながら、のんびりと時間を過ごす。
とりとめのない話をするときもあれば、特に会話のない静かなときもある。
いずれの場合も私にとって、とても居心地の良い時間だった。
それをきっかけに、私が早苗と過ごす時間はだんだんと増えていった。
一緒に人里に買い物に出かけたり。
一緒に異変解決に出かけたり。
宴会で泥酔した早苗を介抱したり。
早苗が神社に泊まった時は一緒にお風呂に入り、夜は同じ布団で眠ったりもした。
気づけば、早苗と初めて出会ってからいくつもの季節が巡り、いつの間にやら早苗と一緒に時間を過ごすのが当たり前になっていたのだった。
「霊夢さん。はい、あーん」
「あーん」
早苗と並んで縁側に座り、早苗が差し出してくれた羊羹に齧り付く。
口の中いっぱいに羊羹の甘さが拡がり、舌を通じて身体中に染み込んでいくように溶けていく。
甘味を感じ取った舌が身体中にその刺激を伝えていき、身体中がぴりぴりと震える。
五臓六腑に染み渡るとはまさにこういうことを言うのだろう。
私は羊羹が大好きだ。
丹精込めて煉り上げられたことでできるあのしっとりとした食感。
口の中いっぱいに拡がる小豆餡の上品な甘さ。
それでいて決して後に引くことのない絶妙な甘さ加減。
まったくもって非の打ちどころがなさすぎる。
一番最初に羊羹を作った奴はまさしく天才としかいいようがない。
いつか羊羹を大棹一本丸ごと口に咥えて食べるのが私の密かな夢だったりする。
「霊夢さん。あーん」
「あーん」
考えるのもそこそこに、早苗が差し出してくれた羊羹に齧り付く。
口の中いっぱいに拡がる羊羹の甘味。
甘い。美味しい。ああ、幸せ。
「ふふっ、霊夢さんったら。口の周りに付いちゃってますよ」
くすくすと笑いながら、早苗がふきんで私の口を優しく拭ってくれる。
なんだか色んな意味でくすぐったい気分になる。
「別にそんなの気にしなくていいのに」
「もう、霊夢さんも女の子なんですから。こういうことにちゃんと気を使わないと駄目ですよ」
まるで小さい子供を窘めるような早苗の言葉に、むぅと唸る。
早苗は普段からやたらと私の世話を焼こうとする。
そして、私の世話を焼いている時の早苗はいつもお姉さんっぽく振る舞うのだ。
どうやら世話好きなのに加えて、私より年上なのを意識しているらしい。
世話好きお姉さん仲間ということで咲夜とも仲が良いらしく、宴会の時はよく話をしている姿を見かける。
まあ、ちょっと思い込みが激しくて時々暴走することもあったりするのだが。
それもまた早苗という少女の一面なのだから、別に私は気にしない。
しかし、このまま子供扱いされるがままというのもなんだか面白くない。
はてさてどうしたものか。
ふと、早苗の口元を見ると、小さな小豆のかけらがついているのが見えた。
いつもその辺りに気を使っている早苗にしては珍しいことだ。
そうだ、さっきのお返しをするのにちょうどいい。
私は早苗の肩を掴んで彼女の口元に顔を寄せると、そのまま唇でかけらを拭い取った。
「―――っ!?」
うむ、美味しい。
かけらまでちゃんと美味しいとはさすがである。
これだからあの店の羊羹はやめられない。
今度行ったら「博麗の巫女が認めた店」と書いた札でも進呈しよう。
「……あ……あの……霊夢さん……?」
消え入りそうな声に意識を目の前に戻すと、顔を真っ赤に染めた早苗がこちらを見つめていた。
大きな翡翠色の瞳が落ち着かないようにゆらゆらと揺れている。
「どうかした?」
澄まし顔で早苗の瞳を見つめ返すと、早苗はますます顔を赤く染め上げる。
今にも湯気を噴出しそうな様子に、心の中でしめしめと頬を緩ませる。
早苗は案外恥ずかしがり屋なのだ。
しかも、恥ずかしがるときの様子がまたたまらなく可愛らしいのである。
これが見たいが為についいつも彼女をからかってしまう。
いじめっこ?
いいえ、ただ好きな娘にちょっかいを出しているだけですよ。
そもそも早苗が可愛い過ぎるのがいけないのだ。私は悪くない。
さて、それでは早苗の恥ずかしがる姿をもっと堪能しようかと思ったとき。
「え、あ、その……うぅ……」
しどろもどろになった早苗が緑茶の入った湯呑を引っ掴んだ。
そしてそのまま、湯気を立てるそれを口元に近づける。
なんだかとても嫌な予感がした。
慌てて制止しようと腰を浮かせるが間に合わず、早苗はそのまま湯呑を口に運んでしまう。
「あっつぅ!」
直後に響く早苗の悲鳴。
嫌な予感が見事に的中したらしい。
私は素早く台所に駆け込むと、水瓶から水を汲んで縁側に取って返す。
涙目になって口元を抑えている早苗の手を剥がし、ゆっくりと口に水を含ませる。
「しばらく飲まないで。舌を冷やしなさい」
私の言葉に早苗がこくこくと頷く。
しばらく会話は無理だろう。
痛みを和らげるように早苗の背を優しく撫でてやる。
早苗は結構な猫舌である。
普段、お茶を飲む時は息を吹きかけて冷ましながらゆっくりと啜る。
ふーふーと一生懸命お茶を冷まそうとする早苗の姿は見ていてまた実に可愛らしい。
そういえば、前にそのことについてからかったら、今と同じように真っ赤になってこれまた一気にお茶を飲み干して悶絶していたっけ。
私としたことがなんという迂闊。
「うぅっ、ひりひりします」
舌を冷やして落ち着いたのか、ようやく早苗が声を上げた。
火傷してしまったのか、痛みを堪えるように顔を顰めている。
「早苗、ちょっと舌見せて」
「あ、はい」
ちろりと出された早苗の舌を見ると、舌先が赤くなっていた。
これはしばらくひりひりと痛みそうだ。
永遠亭からもらった薬箱に火傷用の傷薬はなかっただろうか。
しかし、あったとしても舌に塗っても良いものかどうかまでは私では判断がつかないだろう。
早苗は大きな翡翠色の瞳に涙を浮かべ、形の良い唇から赤くなった小さな舌をちろちろと覗かせている。
その表情はやたらと扇情的に映った。
「―――ふむ」
このまま早苗が火傷に苦しむのは忍びない。
けれども、薬は使えない。
それならば、今の私にできる処置はこれしかない。
「え、ちょっと霊夢さん、なにを―――んっ……」
戸惑った表情を浮かべる早苗の顔を引き寄せ、唇を重ね合わせる。
そのまま舌で唇を割り、彼女の舌をそっと舐め上げた。
「んむぅっ……」
びくりと身体を震わせて、私から身体を離そうとする早苗の背に腕を回し、逃げられないようにしっかりと抱き寄せる。
同じように、奥に引っ込もうとする早苗の舌を自身の舌で絡め取る。
「……ぁっ……んぅ……ぁっ……」
早苗の艶やかな桜色の唇から切なげな吐息が漏れる。
最初は身をよじって抵抗していた早苗だったが、徐々に身体から力が抜けていき、やがて私に身体を預けてくる。
私は早苗の身体を抱きしめると、火傷した部分を優しく舐め上げる。
「……ぁっ……んぅ……ぁぅ……ぁぁっ……」
私の背中をぎゅっと掴んで、早苗が甘い声を漏らす。
されるがままだった自身の舌をおずおずと私の舌に絡めてくる。
それに答えるように、私も自身の舌を早苗の舌に深く絡める。
早苗の舌を強く吸うと、早苗も同じことを返してくれた。
「……んむぅ……ぁっ……んぁ……ぁぁっ……んぁぁっ……」
絡み合う舌と舌。
身体中を通して伝わり合う熱と熱。
重ね合わせた唇から漏れる甘い声と切ない吐息。
その全てに頭がくらくらして、思考が蕩けていく。
理性が飛びそうになる感覚に、頭のどこかが警告を発する。
けれども、今さら昂った感情と甘美な誘いを跳ね除けることなどできないし、もとよりそのつもりもなかった。
結局、私は当初の目的も忘れて、ただひたすらに早苗と唇を求め合った。
「……霊夢さんは、ずるいです……」
ぐったりと私の肩口に顔を埋めながら、消え入るような声で早苗が呟く。
まだ息が追い付いていないのか、細い肩が忙しく上下している。
「あら、私のどこがずるいのかしら」
息も絶え絶えな様子の早苗の頭をそっと撫でながら、耳元に素っ気なく囁いてやる。
早苗の綺麗な白い肌は耳朶どころかうなじまで赤く染まっていた。
相変わらず初心なんだからと思わず口元が緩んでしまう。
そんな私の態度が不満だったのか、早苗は恨みがましげな眼で私を見る。
「だって、霊夢さんはいつもいきなりこういうことしてくるんですもん。私、すごく恥ずかしいのに……」
「別に今更恥ずかしがるような間柄じゃないでしょう。それに、早苗が私のことを想ってしてくれるみたいに、私も早苗にしてあげたいし」
「あ、うぅ……」
私の言葉を聞いて、早苗の顔がますます赤くなる。
私が何か言うと早苗はいつもこんな感じだ。
その様はとても可愛いらしくて、見ていて飽きない。
「早苗は本当に可愛いわね」
「むー、そういうところがずるいんですよぉ」
頬を膨らませて可愛く唸る早苗。
そんな彼女の態度に堪え切れず笑みが零れてしまう。
「ほら、そんなに拗ねないの」
「拗ねてません!怒ってるんです!」
いじけたような声と一緒に肩口に歯を立てられる。
やったわねとこちらも早苗の耳朶に唇を寄せると、早苗はひゃっと声を漏らしてくすぐったそうに身をよじる。
「ほらほら、ここがいいのかしら」
「きゃっ、ちょっと霊夢さん、くすぐったい」
「耳が弱いのよねえ、早苗は」
逃げられないように早苗の身体を抱きしめたまま床を転がり、そのままどたばたごろごろと二人でじゃれ合う。
「ふっ、あははははっ」
「ふふっ、うふふふふふ」
いつの間にか早苗の頭を胸にぎゅうぎゅう押しつけながら私は笑っていた。
早苗も私の胸に頬を摺り寄せながら、くすぐったそうに笑う。
「早苗。火傷、大丈夫?」
「あ、はい。もう大丈夫です。霊夢さんのおかげで……」
先ほどのことを思い出したのか、早苗の頬が赤くなる。
早苗の顔に手を伸ばし、赤くなった頬をそっと撫でる。
早苗の頬は温かく、柔らかい感触がした。
「ごめん。もっと気をつけるべきだった」
「そんな、私が勝手にやってしまったことですから」
私の言葉に早苗は困惑したような声を漏らす。
それに構わず、私は言葉を続ける。
「ううん。あそこで早苗にちょっかいをかけたら、ああなるって分かったはずなのに。いつもみたいに早苗を恥ずかしがらせて、痛い思いまでさせちゃった。だから、ごめん」
「霊夢さん……」
早苗は眼を伏せて、私の胸の中に顔を埋める。
「……もっと素直になれたらって、思うんです」
私の胸に顔を埋めながら、早苗がぽつりと呟いた。
「霊夢さんにこうしてもらうと、すごく嬉しくて、すごく幸せな気持ちになるんです。なのに、私、いつも、恥ずかしがってばかりで……霊夢さんに、何も返せなくて……」
寂しげな響きを持った弱弱しい声。
表情は見えないけれど、きっと泣きそうな顔をしてると思った。
「……そんなことないわ」
震える身体を抱き寄せて、早苗の額に自身の額をこつんと合わせる。
身体と温もりを通じて、私の想いが伝わるように。
「私はいつだって早苗にたくさんのものをもらってる」
不安げに揺れる翡翠色の瞳の中に、やわらかい表情を浮かべた自分の顔が映る。
以前の私では考えられなかった表情。
「私は、早苗が来てくれると嬉しい。早苗が一緒にいてくれると胸が温かくなる。早苗とこうしていられるだけで、すごく幸せ」
私の世話を焼いている時の優しい表情。
縁側に並んで座ってお茶を飲むときの穏やかな微笑み。
私の意地悪な言葉に詰まって、拗ねたように頬を膨らませる子供っぽい姿。
私の膝を枕にして眠る、あどけない寝顔。
一緒にお風呂に入ったときに見せる、恥ずかしそうに頬を染める初心な反応。
早苗の見せる、それらの一つ一つの全てが愛おしい。
「だから、そんなこと気にしなくていい。早苗は、早苗の思った通りにすればいいの」
私は早苗と一緒にいたい。
私は早苗と一緒に歩んでいきたい。
今まで出会った他の人妖達の誰に対しても感じることのなかった感情。
それを私の心に呼び覚ましたのは、他の誰でもない、早苗だけだから。
「私は、早苗のことが、大好きだから」
早苗が瞳を大きく見開く。
翡翠色の瞳に涙が溢れて、零れ落ちた滴が幾筋も頬を伝っていく。
早苗の背をあやすように撫でながら、早苗の頬に唇を寄せて零れる涙をそっと拭う。
「……やっぱり、霊夢さんはずるいです……」
嗚咽を漏らしながら、早苗は微笑んだ。
大きな翡翠色の瞳からはとめどなく涙が溢れ出ていたけれども、その声にはもう不安や寂しさの感情は感じられない。
返事の代わりに早苗の背に回す腕に力を込め、柔らかい身体をぎゅっと抱きしめる。
それに答えるように、早苗も私の身体を抱きしめ返してくれた。
胸が静かに音を立てて、温かいものが拡がっていく。
二人でこうしていられる時間が何より嬉しくて、何より幸せで。
腕の中で微笑む早苗が、何よりも愛おしかった。
「ねえ、早苗」
早苗の耳元に唇を寄せて、そっと囁く。
「さっきの続き、しない?」
囁かれた言葉に、早苗がびくんと身体を震わせる。
遅れて、早苗の顔が真っ赤に染まっていく。
早苗は恥ずかしそうにうつむいて、それからこくんと小さく頷いた。
微笑んで、早苗の顔をそっと引き寄せ、涙で潤んだ翡翠色の瞳をまっすぐ見つめる。
「……早苗、大好き……」
「……私も、大好きです、霊夢さん……」
紡がれた言葉は重ね合わせた唇に溶けていく。
早苗の身体を強く抱きしめて、深く唇を求める。
早苗も私の身体を強く抱きしめ返して、私の求めに答えてくれる。
耳に聞こえるのは互いを求め合う声と音。
二人きりの縁側で、私と早苗は一つに重なった。
音を立てているのは使い込まれた古い竹箒。それを奏でているのは私、博麗霊夢である。
神社の周りにはすっかり葉桜になった桜の木々が拡がり、そよ風に吹かれて若々しい緑の葉をざわざわと揺らしている。
春も終わりに近づいた博麗神社の境内にて、私はいつものように境内の掃除に勤しんでいた。
燦燦と降り注ぐ暖かな陽射しに眼を細めながら、ついつい欠伸が漏れる。
石畳の上には役目を終えた桜の花弁が降り積もり、掃いても掃いても終わりが見えない。
新緑の天幕と桜の絨毯が拡がる境内と言う名の舞台の上で、独り竹箒を奏でる私はさながら春の湊の演奏者といったところか。
うん、我ながら似合わないことを考えたと思う。
魔理沙や紫あたりが聞いたら大笑いするに違いない。
ほうと嘆息し、竹箒の柄の頂上に顎を乗せながら眼を閉じる。
小鳥たちのさえずりが耳に心地良く響き、頬を流れていく風は暑くもなければ寒くもなく非常に気持ちが良い。
境内の掃除はこれくらいにして、早くお茶が飲みたい。
どうせいくら掃いてもきりがないのは目に見えている。
それに、もとより境内の掃除なんて境内に立つ為の言い訳みたいなものだった。
(―――そろそろかしら)
走る予感に心の中で呟いた刹那、優しい風が頬を撫でる。
先ほどの風とは同じようで違う風。
他の奴らには分からないだろうが、私には分かる。
彼女の来訪を告げる優しい風。
「こんにちは、霊夢さん」
耳元に届く、彼女の声。
竹箒の柄から顎を外し、ゆっくりと眼を開けると、目の前には微笑みを浮かべた早苗が立っていた。
「こんにちは、早苗。一日と二十二分ぶりね」
気に入ったんですかその台詞と、私の返した挨拶に早苗が苦笑する。
終わらない円舞曲だっけ。あれは実に良いものだったわ。
最後の引鉄を引く場面などもうたまらない。
今度、守矢神社に行った時には是非ともまた見せてほしい。
それはさておき。
「今日は里からの帰りかしら」
「はい。里の分社の様子を確認して、皆さんへの布教を。お布施もいただいてしまいました」
早苗は嬉しそうに手に持った手提げの籠を持ち上げてみせる。
中には野菜やら雑貨やら色々な物が詰まっている。
どうやら彼女のところは順調に信仰を獲得しているようだ。うちの神社とは大違いである。
別に自分で言っていて悲しくなんてならない。
悲しくなんてならないんだからね。
大切なことだから二回言った。くれぐれも勘違いしないように。
「あら、その包みはひょっとして」
ふと、早苗の持った手提げの籠に見覚えのある包みがあるのを見つける。
私にとって馴染み深く、されどなかなかお目にかかれないそれは。
「はい。御土産に持ってきた、霊夢さん御用達のお店の羊羹です」
にっこりと微笑んで、羊羹の包みを渡してくれる早苗。
後光すら見えるその姿は、私にとってまさしく女神様そのものだ。
「早苗、貴女が私の神様だったのね」
「ふふっ、私は現人神ですから。霊夢さんの信仰をいただいて100万パワーです」
誇らしげに張られる早苗の大きめな胸が彼女の動きに合わせて大きく揺れる。
そのまま胸に飛び込みたくなる衝動を心の中に留めながら、嬉々として包みを受け取る
まずは羊羹である。お楽しみは後でゆっくりと堪能させてもらうことにしよう。
「早速お茶の準備をするわ」
「あ、私がお淹れしますよ」
慌てて申し出る早苗をやんわりと制止し、ひらひらと手を振って見せる。
「いいからいいから。早苗は縁側でのんびり座っていて頂戴」
「でも」
申し訳なさそうな表情を浮かべる早苗に軽く首を竦め、少し思案する。
「じゃあ、羊羹切ってくれる。私のは大きめでよろしく」
「は、はい!」
ぱぁっと嬉しそうな表情になる早苗に微笑を返し、彼女に手を差し出す。
微笑んで私の手を取る早苗と手を繋いで、二人一緒に母屋の方へと歩き出した。
件の異変を解決し、首謀者である神奈子達と和解した後、守矢神社の風祝である早苗は時折博麗神社を訪れるようになった。
訪問の理由は、博麗神社に設置された分社の様子を見に来たということらしい。
とは言え、滅多に人の訪れることのない博麗神社に設置された分社である。
特に何か変わったことがあるわけでもなく、簡単な掃除とお供えを済ませると、もう何もやることがなくなってしまっていた。
すると早苗は博麗神社における雑務を手伝うことを申し出てきた。
早苗曰く、神奈子様を祀る分社のある神社とその巫女が適当な状態なのは困るということらしい。
何事も気の向くままに適当に済ませるのが信条である私としては何とも煩わしい話である。
別にそんなことまでしなくていいとは言ったものの、早苗は頑として譲らなかった。
なかなかどうして早苗は頑固な娘だった。
結局、言い争うのも面倒なので早苗の好きなようにやらせることにした。
真面目で思い込みの激しい面倒な娘。
それが当時における私の早苗に対する印象であった。
そんなこんなで早苗は博麗神社を訪れる度に神社の雑務をこなすようになった。
最初こそ煩わしく思っていた私だったが、自分でせずとも日々の雑務が片付いていく様に、まあいいかと思うようになった。
それどころか、せっせと掃除や料理等に精を出す早苗を手伝い、一緒に雑務をこなすようになったのである。
面倒くさがりの自分にしては驚くべきことだった。
一通りの雑務を済ませると、私と早苗はいつも縁側に並んで座ってお茶を飲む。
時には早苗が持ってきてくれたお茶菓子を一緒に食べながら、のんびりと時間を過ごす。
とりとめのない話をするときもあれば、特に会話のない静かなときもある。
いずれの場合も私にとって、とても居心地の良い時間だった。
それをきっかけに、私が早苗と過ごす時間はだんだんと増えていった。
一緒に人里に買い物に出かけたり。
一緒に異変解決に出かけたり。
宴会で泥酔した早苗を介抱したり。
早苗が神社に泊まった時は一緒にお風呂に入り、夜は同じ布団で眠ったりもした。
気づけば、早苗と初めて出会ってからいくつもの季節が巡り、いつの間にやら早苗と一緒に時間を過ごすのが当たり前になっていたのだった。
「霊夢さん。はい、あーん」
「あーん」
早苗と並んで縁側に座り、早苗が差し出してくれた羊羹に齧り付く。
口の中いっぱいに羊羹の甘さが拡がり、舌を通じて身体中に染み込んでいくように溶けていく。
甘味を感じ取った舌が身体中にその刺激を伝えていき、身体中がぴりぴりと震える。
五臓六腑に染み渡るとはまさにこういうことを言うのだろう。
私は羊羹が大好きだ。
丹精込めて煉り上げられたことでできるあのしっとりとした食感。
口の中いっぱいに拡がる小豆餡の上品な甘さ。
それでいて決して後に引くことのない絶妙な甘さ加減。
まったくもって非の打ちどころがなさすぎる。
一番最初に羊羹を作った奴はまさしく天才としかいいようがない。
いつか羊羹を大棹一本丸ごと口に咥えて食べるのが私の密かな夢だったりする。
「霊夢さん。あーん」
「あーん」
考えるのもそこそこに、早苗が差し出してくれた羊羹に齧り付く。
口の中いっぱいに拡がる羊羹の甘味。
甘い。美味しい。ああ、幸せ。
「ふふっ、霊夢さんったら。口の周りに付いちゃってますよ」
くすくすと笑いながら、早苗がふきんで私の口を優しく拭ってくれる。
なんだか色んな意味でくすぐったい気分になる。
「別にそんなの気にしなくていいのに」
「もう、霊夢さんも女の子なんですから。こういうことにちゃんと気を使わないと駄目ですよ」
まるで小さい子供を窘めるような早苗の言葉に、むぅと唸る。
早苗は普段からやたらと私の世話を焼こうとする。
そして、私の世話を焼いている時の早苗はいつもお姉さんっぽく振る舞うのだ。
どうやら世話好きなのに加えて、私より年上なのを意識しているらしい。
世話好きお姉さん仲間ということで咲夜とも仲が良いらしく、宴会の時はよく話をしている姿を見かける。
まあ、ちょっと思い込みが激しくて時々暴走することもあったりするのだが。
それもまた早苗という少女の一面なのだから、別に私は気にしない。
しかし、このまま子供扱いされるがままというのもなんだか面白くない。
はてさてどうしたものか。
ふと、早苗の口元を見ると、小さな小豆のかけらがついているのが見えた。
いつもその辺りに気を使っている早苗にしては珍しいことだ。
そうだ、さっきのお返しをするのにちょうどいい。
私は早苗の肩を掴んで彼女の口元に顔を寄せると、そのまま唇でかけらを拭い取った。
「―――っ!?」
うむ、美味しい。
かけらまでちゃんと美味しいとはさすがである。
これだからあの店の羊羹はやめられない。
今度行ったら「博麗の巫女が認めた店」と書いた札でも進呈しよう。
「……あ……あの……霊夢さん……?」
消え入りそうな声に意識を目の前に戻すと、顔を真っ赤に染めた早苗がこちらを見つめていた。
大きな翡翠色の瞳が落ち着かないようにゆらゆらと揺れている。
「どうかした?」
澄まし顔で早苗の瞳を見つめ返すと、早苗はますます顔を赤く染め上げる。
今にも湯気を噴出しそうな様子に、心の中でしめしめと頬を緩ませる。
早苗は案外恥ずかしがり屋なのだ。
しかも、恥ずかしがるときの様子がまたたまらなく可愛らしいのである。
これが見たいが為についいつも彼女をからかってしまう。
いじめっこ?
いいえ、ただ好きな娘にちょっかいを出しているだけですよ。
そもそも早苗が可愛い過ぎるのがいけないのだ。私は悪くない。
さて、それでは早苗の恥ずかしがる姿をもっと堪能しようかと思ったとき。
「え、あ、その……うぅ……」
しどろもどろになった早苗が緑茶の入った湯呑を引っ掴んだ。
そしてそのまま、湯気を立てるそれを口元に近づける。
なんだかとても嫌な予感がした。
慌てて制止しようと腰を浮かせるが間に合わず、早苗はそのまま湯呑を口に運んでしまう。
「あっつぅ!」
直後に響く早苗の悲鳴。
嫌な予感が見事に的中したらしい。
私は素早く台所に駆け込むと、水瓶から水を汲んで縁側に取って返す。
涙目になって口元を抑えている早苗の手を剥がし、ゆっくりと口に水を含ませる。
「しばらく飲まないで。舌を冷やしなさい」
私の言葉に早苗がこくこくと頷く。
しばらく会話は無理だろう。
痛みを和らげるように早苗の背を優しく撫でてやる。
早苗は結構な猫舌である。
普段、お茶を飲む時は息を吹きかけて冷ましながらゆっくりと啜る。
ふーふーと一生懸命お茶を冷まそうとする早苗の姿は見ていてまた実に可愛らしい。
そういえば、前にそのことについてからかったら、今と同じように真っ赤になってこれまた一気にお茶を飲み干して悶絶していたっけ。
私としたことがなんという迂闊。
「うぅっ、ひりひりします」
舌を冷やして落ち着いたのか、ようやく早苗が声を上げた。
火傷してしまったのか、痛みを堪えるように顔を顰めている。
「早苗、ちょっと舌見せて」
「あ、はい」
ちろりと出された早苗の舌を見ると、舌先が赤くなっていた。
これはしばらくひりひりと痛みそうだ。
永遠亭からもらった薬箱に火傷用の傷薬はなかっただろうか。
しかし、あったとしても舌に塗っても良いものかどうかまでは私では判断がつかないだろう。
早苗は大きな翡翠色の瞳に涙を浮かべ、形の良い唇から赤くなった小さな舌をちろちろと覗かせている。
その表情はやたらと扇情的に映った。
「―――ふむ」
このまま早苗が火傷に苦しむのは忍びない。
けれども、薬は使えない。
それならば、今の私にできる処置はこれしかない。
「え、ちょっと霊夢さん、なにを―――んっ……」
戸惑った表情を浮かべる早苗の顔を引き寄せ、唇を重ね合わせる。
そのまま舌で唇を割り、彼女の舌をそっと舐め上げた。
「んむぅっ……」
びくりと身体を震わせて、私から身体を離そうとする早苗の背に腕を回し、逃げられないようにしっかりと抱き寄せる。
同じように、奥に引っ込もうとする早苗の舌を自身の舌で絡め取る。
「……ぁっ……んぅ……ぁっ……」
早苗の艶やかな桜色の唇から切なげな吐息が漏れる。
最初は身をよじって抵抗していた早苗だったが、徐々に身体から力が抜けていき、やがて私に身体を預けてくる。
私は早苗の身体を抱きしめると、火傷した部分を優しく舐め上げる。
「……ぁっ……んぅ……ぁぅ……ぁぁっ……」
私の背中をぎゅっと掴んで、早苗が甘い声を漏らす。
されるがままだった自身の舌をおずおずと私の舌に絡めてくる。
それに答えるように、私も自身の舌を早苗の舌に深く絡める。
早苗の舌を強く吸うと、早苗も同じことを返してくれた。
「……んむぅ……ぁっ……んぁ……ぁぁっ……んぁぁっ……」
絡み合う舌と舌。
身体中を通して伝わり合う熱と熱。
重ね合わせた唇から漏れる甘い声と切ない吐息。
その全てに頭がくらくらして、思考が蕩けていく。
理性が飛びそうになる感覚に、頭のどこかが警告を発する。
けれども、今さら昂った感情と甘美な誘いを跳ね除けることなどできないし、もとよりそのつもりもなかった。
結局、私は当初の目的も忘れて、ただひたすらに早苗と唇を求め合った。
「……霊夢さんは、ずるいです……」
ぐったりと私の肩口に顔を埋めながら、消え入るような声で早苗が呟く。
まだ息が追い付いていないのか、細い肩が忙しく上下している。
「あら、私のどこがずるいのかしら」
息も絶え絶えな様子の早苗の頭をそっと撫でながら、耳元に素っ気なく囁いてやる。
早苗の綺麗な白い肌は耳朶どころかうなじまで赤く染まっていた。
相変わらず初心なんだからと思わず口元が緩んでしまう。
そんな私の態度が不満だったのか、早苗は恨みがましげな眼で私を見る。
「だって、霊夢さんはいつもいきなりこういうことしてくるんですもん。私、すごく恥ずかしいのに……」
「別に今更恥ずかしがるような間柄じゃないでしょう。それに、早苗が私のことを想ってしてくれるみたいに、私も早苗にしてあげたいし」
「あ、うぅ……」
私の言葉を聞いて、早苗の顔がますます赤くなる。
私が何か言うと早苗はいつもこんな感じだ。
その様はとても可愛いらしくて、見ていて飽きない。
「早苗は本当に可愛いわね」
「むー、そういうところがずるいんですよぉ」
頬を膨らませて可愛く唸る早苗。
そんな彼女の態度に堪え切れず笑みが零れてしまう。
「ほら、そんなに拗ねないの」
「拗ねてません!怒ってるんです!」
いじけたような声と一緒に肩口に歯を立てられる。
やったわねとこちらも早苗の耳朶に唇を寄せると、早苗はひゃっと声を漏らしてくすぐったそうに身をよじる。
「ほらほら、ここがいいのかしら」
「きゃっ、ちょっと霊夢さん、くすぐったい」
「耳が弱いのよねえ、早苗は」
逃げられないように早苗の身体を抱きしめたまま床を転がり、そのままどたばたごろごろと二人でじゃれ合う。
「ふっ、あははははっ」
「ふふっ、うふふふふふ」
いつの間にか早苗の頭を胸にぎゅうぎゅう押しつけながら私は笑っていた。
早苗も私の胸に頬を摺り寄せながら、くすぐったそうに笑う。
「早苗。火傷、大丈夫?」
「あ、はい。もう大丈夫です。霊夢さんのおかげで……」
先ほどのことを思い出したのか、早苗の頬が赤くなる。
早苗の顔に手を伸ばし、赤くなった頬をそっと撫でる。
早苗の頬は温かく、柔らかい感触がした。
「ごめん。もっと気をつけるべきだった」
「そんな、私が勝手にやってしまったことですから」
私の言葉に早苗は困惑したような声を漏らす。
それに構わず、私は言葉を続ける。
「ううん。あそこで早苗にちょっかいをかけたら、ああなるって分かったはずなのに。いつもみたいに早苗を恥ずかしがらせて、痛い思いまでさせちゃった。だから、ごめん」
「霊夢さん……」
早苗は眼を伏せて、私の胸の中に顔を埋める。
「……もっと素直になれたらって、思うんです」
私の胸に顔を埋めながら、早苗がぽつりと呟いた。
「霊夢さんにこうしてもらうと、すごく嬉しくて、すごく幸せな気持ちになるんです。なのに、私、いつも、恥ずかしがってばかりで……霊夢さんに、何も返せなくて……」
寂しげな響きを持った弱弱しい声。
表情は見えないけれど、きっと泣きそうな顔をしてると思った。
「……そんなことないわ」
震える身体を抱き寄せて、早苗の額に自身の額をこつんと合わせる。
身体と温もりを通じて、私の想いが伝わるように。
「私はいつだって早苗にたくさんのものをもらってる」
不安げに揺れる翡翠色の瞳の中に、やわらかい表情を浮かべた自分の顔が映る。
以前の私では考えられなかった表情。
「私は、早苗が来てくれると嬉しい。早苗が一緒にいてくれると胸が温かくなる。早苗とこうしていられるだけで、すごく幸せ」
私の世話を焼いている時の優しい表情。
縁側に並んで座ってお茶を飲むときの穏やかな微笑み。
私の意地悪な言葉に詰まって、拗ねたように頬を膨らませる子供っぽい姿。
私の膝を枕にして眠る、あどけない寝顔。
一緒にお風呂に入ったときに見せる、恥ずかしそうに頬を染める初心な反応。
早苗の見せる、それらの一つ一つの全てが愛おしい。
「だから、そんなこと気にしなくていい。早苗は、早苗の思った通りにすればいいの」
私は早苗と一緒にいたい。
私は早苗と一緒に歩んでいきたい。
今まで出会った他の人妖達の誰に対しても感じることのなかった感情。
それを私の心に呼び覚ましたのは、他の誰でもない、早苗だけだから。
「私は、早苗のことが、大好きだから」
早苗が瞳を大きく見開く。
翡翠色の瞳に涙が溢れて、零れ落ちた滴が幾筋も頬を伝っていく。
早苗の背をあやすように撫でながら、早苗の頬に唇を寄せて零れる涙をそっと拭う。
「……やっぱり、霊夢さんはずるいです……」
嗚咽を漏らしながら、早苗は微笑んだ。
大きな翡翠色の瞳からはとめどなく涙が溢れ出ていたけれども、その声にはもう不安や寂しさの感情は感じられない。
返事の代わりに早苗の背に回す腕に力を込め、柔らかい身体をぎゅっと抱きしめる。
それに答えるように、早苗も私の身体を抱きしめ返してくれた。
胸が静かに音を立てて、温かいものが拡がっていく。
二人でこうしていられる時間が何より嬉しくて、何より幸せで。
腕の中で微笑む早苗が、何よりも愛おしかった。
「ねえ、早苗」
早苗の耳元に唇を寄せて、そっと囁く。
「さっきの続き、しない?」
囁かれた言葉に、早苗がびくんと身体を震わせる。
遅れて、早苗の顔が真っ赤に染まっていく。
早苗は恥ずかしそうにうつむいて、それからこくんと小さく頷いた。
微笑んで、早苗の顔をそっと引き寄せ、涙で潤んだ翡翠色の瞳をまっすぐ見つめる。
「……早苗、大好き……」
「……私も、大好きです、霊夢さん……」
紡がれた言葉は重ね合わせた唇に溶けていく。
早苗の身体を強く抱きしめて、深く唇を求める。
早苗も私の身体を強く抱きしめ返して、私の求めに答えてくれる。
耳に聞こえるのは互いを求め合う声と音。
二人きりの縁側で、私と早苗は一つに重なった。
GW最後に天国を見たぜ
見方によっては本番よりべろちゅーのがえっちく思える不思議。
しかし終わらない円舞曲ってEWかw
この霊夢さんとは気持ちよく語り合える気がする
ご馳走さま
やっぱりレイサナは良い
糖尿病注意?そんなの関係ねぇ!
ただちょっと創想話でやるにはアウアウな表現なのでは…?
ギリギリを狙うのもいいですが、直接的な表現を避けても良いものは書けると思いますし。
最高です!!!
もう少し百合表現をマイルドにした方がいいかもしれないな。
表現がどうとかそんなことはいい、取り敢えずこの溢れる砂糖と何かを何とかしてくださいw
面倒見のいいお姉さんぶりな早苗が可愛い
クールなのに素直な霊夢も可愛い
そんな二人がいちゃいちゃしてるのは眼福です。
でも縁側でイチャイチャしてると誰かに見られる可能性がww
よろしいならば妄想だ