Coolier - 新生・東方創想話

星の光と古道具屋さん

2011/05/05 23:19:49
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カランコロン

最近新しく扉につけた鈴が、軽快に来客を告げる。
僕は読んでいた外の世界の本から顔をあげて、店の入り口に目を向けた。

「こんにちは」

入ってきたのは、背丈からして十中八九妖精だった。
背に受ける逆光で姿はよく見えず、長く伸びた影が僕のいるところまでかかっている。

さて、ここで僕が取るべき行動は、なんだろうか。
商品に悪戯でもされては堪らないと追い出すか、
それともいないように扱うか。

ふうむ、と、そんなくだらないことを真剣に思い悩んで、それから僕は、その妖精が顔見知りだと気がついて、おもむろに立ち上がった。

「やあ、いらっしゃい」

開口一番、僕は客に向ける為の言葉を放った。
薄暗い店内を静々と歩みながら、彼女――その妖精のことだ――は僕の立つカウンターまでやってきた。

「こんにちは、森近さん」
「やあ、こんにちは」

にこにこしながらの挨拶に、こちらも少しばかり笑顔を作りながら挨拶をする。
彼女のくりくりとした瞳が、真っ直ぐに僕を見上げていた。

「今日は、何をお求めだい?」

カウンターに置いた本に手を乗せながら、僕は聞いた。
よいしょ、と小さく掛け声をかけて、彼女はカウンターに身を乗り出して、それから、小首を傾げて見せた。

「そうねえ。それじゃあ、森近さんでも」

そう言って、小さな手を僕の手に重ねてきた。
真っ白く、柔らかで暖かい。
何故そんなことをしたのかなんて深読みをしようとして――やめた。
したたかな彼女のことだ、突飛な事をして、その理由を僕が考え込むのを見て笑うに違いない。
僕は手を引きながら笑って、

「冗談が上手いね」

とだけ言った。
ふと、彼女が手を伸ばしても落ちないのは浮いているからだろうか、なんてことが頭の中に浮かんだ。

「うーん、顔色一つ変えないのね」

ころころと、彼女が笑った。鈴の音のような声。だけれど、鈴とは違う音。
ふむ、しかし顔色一つ変えない、か。まあ、それはそうだ。
何しろ僕には少女に手を握られて顔色を変えるような特殊な趣味は……持ち合わせていない。

「君がもう少し大きければ、顔色の一つは変えたかもしれないね」

なんとなく、考え無しにそんなことを言った。
すると彼女は、

「あら、今の私には魅力がないっていうのかしら」

そういって、むくれてしまった。
不意打ち気味のその思わぬアクションに、僕は少々びっくりして、本を取り落としてしまい、慌てて拾う羽目になった。
更には頭をあげる際に、カウンターにぶつけてしまい、情けない声が口から漏れた。
みっともない所を見せてしまったという思いからか、こみあげてくる羞恥心を気合で押さえ込んで、よく無愛想だと言われる表情を作る。
再び彼女と対面してみれば、彼女はにこにこと笑っていた。
こうなることを狙ってやったのだろうか。まったく、困ったお客様だ。
眼鏡のツルを指で押し上げながら、で、と言う。

「本当は何を探してるんだい?」

彼女はうんと一つ頷いて、

「最近ので、何か面白そうなのは?」

最近の、か。彼女はここに頻繁に来るから、新しいものと言われると……ああ、昨日拾ったばかりのがあったな。
ちょっと待っててくれと言い残し、店の奥に引っ込む。
扉一つこえればそこはもう、生活か溢れる僕の住まいだ。
軋む床を気にもかけずに自室へと戻り、部屋の隅にある大きな机の上に置いてあったくすんだゴブレットを手にとって、抱えながらカウンターに戻った。
が、彼女がいない。
そこだけ聞くと独り身の寂しい男の心の叫びにも聞こえるが、実際に彼女がいないのだから、困ったものだった。
カウンターの上にゴブレットを乗せて、店内を見回す。

――物置みたいね。

いつか誰かに言われたその言葉が、ふと脳裏に蘇る。
ああ、これは……彼女の言葉か。
確かにこうしてみると物置の様に見えなくも無いが、僕はこれを気に入っているし、物置だなんて思ってはいない。

――こうも物があると、転んでしまいそうだわ。

しかし、だ。
たまには整理してみるのも悪くは無いと思う。うん。
今度整理しよう。
僕が気持ちを新たにしていると、隅のほうからどたんと何かが倒れる音がした。
彼女がなにかやらかしたかと思ってそちらに目をやる。
が、彼女は別段何かを倒した様子はなく、何も無い床をただ見ていた。
それがまるで、転んだ誰かを心配しているように見えて、僕は頭を振った。
顔をあげれば、彼女と目が合った。
ゴブレットを手に取り、掲げて見せる。
彼女がとてとてとこちらへやってきた。そのあまりに愛らしい足音に一瞬噴出しそうになるも、
それは失礼だと自分に言い聞かせてなんとか抑えた。

「お待たせ。ごめんなさいね」
「いや、いいよ」

謝っている割には悪びれた様子も無い彼女ににべもなく返す。
返事が短いのは、彼女が何をしていたのかが気になって考えていたからだ。
それなら聞けばいいじゃないかと思うのは素人の浅はかさだ。
こういうものはまず自分で考えることが重要で、そこから常の思考速度と展開に繋がっていくものだ。
考えることも、また経験。……別に僕が彼女に話し掛けるのがなんとなく躊躇われたからといって
こんなことを考えているわけでは断じてない。
そこまで思考して、彼女が黙って待っていてくれているのに気がついた。
悪いと思ったので、さっそくゴブレットを紹介することにした。
知に溢れる彼女のことだ、きっとこれには興味を示すだろう。
案の定、彼女は知的探究心に瞳を輝かせて、これは何?と聞いてきた。
その気持ちに大いに共感できる僕は、熱弁を振るうためにもまず僕の能力で分かったことを説明していく。

「これはね、ポートキーっていうんだ」
「ぽーときー?」

彼女が小首を傾げて僕の言葉を繰り返した。
日常生活的なその仕草が、酷く可愛らしく感じられて、うろたえそうになった。

「ああ。字は『移動鍵』だと思う。それで、このポートキーの機能だけど、これは驚きだよ」
「なになに!?」

もったいぶった言い方をすれば、彼女は見事に食いついてきた。
少し興奮しているらしく、顔が赤らんでいる。カウンターに身を乗り出すどころか、浮いて…って、顔が近い!

「しゅ、瞬間移動、さ。指定した場所に、あっというまに行ける。ちょっとコツがいるけどね」

少し背を逸らしながら説明すると、彼女は戻っていって、興味深そうにゴブレットを眺め始めた。
瞬間移動、ねえ……なんて呟いて、ゴブレットの装飾を指でなぞったりなんかしている。
その指先から、腕をつたって、彼女の顔まで視線を移す。
小さな唇に目が留まった。
……柔らかそうだ。
まるでそうするのが当たり前の様に、僕は手を伸ばしていた。
と、彼女がこちらを見て、

「でも、使い方は分からないんでしょう?森近さん、いつもそうだもの」

痛いところを突いてくる。
僕は苦笑しながら手を引っ込めて肩を竦めて見せた。一種のパフォーマンスだ。
いつも。彼女は、そう口にした。いつもなんて言われると、まるで彼女が毎日の様にここに来ているかのように聞こえるが、それは別段間違いではない。
彼女はこの店に足繁く通ってくれる数少ない良心的なお客で、僕の個人的な友人だ。
最初こそ妖精だった事もあって邪険にしていたが、彼女が他の客よりも余程ものを買っていくので、普通に接し始めた。
それと同時に、ちょこちょこ会話をするようにもなった。
そしたらなんだ、彼女も僕と同じ『外の世界のものの蒐集』という趣味を持っているじゃないか。
彼女の来店頻度と礼節を弁えた上でのフレンドリーな態度もあって、僕らが親しくなるのは確定的で、時間の問題だった。
さながら春告精が春を告げるより明らかだった、とも言い換えられるだろう。
趣味話に花が咲いて、夜を語り明かすなんてこともざらではなかった。
そんな中で、いつしか彼女は僕のことを『森近さん』と呼ぶようになっていた。
生憎と、僕は未だに彼女の名前を呼んだ事は無いのだが、彼女は気にしていないようである。


「森近さん?」
「…ん?おっと、悪いね。考え事だ」

思考の海に沈んでいると、彼女の声によって現実へと引き戻された。
とりあえず、謝罪と言い訳を同時にするという高等技法を披露してお茶を濁すことにする。

「もう、森近さんったら」

ころころと、彼女が笑った。
彼女の艶やかな黒髪が流れるように揺れて、彼女が笑うのにあわせて、華奢な肩が小刻みに震える。
細められた目から覗く瞳が、光源のうすい店内でさえ輝いていた。
それがまるで夜空に瞬く星の輝きの様に綺麗で、吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥る。

「また考え事?」

ハッとした。いつのまにか、彼女が顔を近づけて来ていた。

「ん、んん。まあね」

と濁しながら顔を背けて空咳をする。……少し、わざとらしすぎたかな。

「それで、使い方は?……やっぱり分からない?」

彼女が楽しそうに言うのに、いいや、ときっぱり言う。
そこは安心と信頼の香霖堂だ、胸を張っていえる。

「ちょっと気になって、色々と試してみたんだよ。そうしたら使い方がわかってね」

まあ、と胸元で手を合わせて言う彼女。
その仕草はとても演技臭く、わざとらしかった。いや、恐らくわざとやっているのだろう。

「言うよりやって見せるほうが早いだろう。まずは書くものを……メモ帳でいいか。
この紙に、行きたい場所を書くんだ」

彼女が僕の手元を覗き込んでいるのを意識しながら、『香霖堂のカウンター内』と手早くペンを走らせる。

「紙は大きければ折って、杯の中に入れるんだ」
「杯?取っ手があるのに?」
「これは飾りさ」

言いながら紙を折って見せ、杯の上に持っていく。彼女が僕の手を目で追っている。
彼女の背にある羽が、ゆっくりと動いていた。
紙を杯の中に落とす。すると、ボッ!という割かし大きい音と共に、真っ青な炎が杯の中から溢れて紙を包み込んだ。

「……びっくり」

と、彼女が目を丸くして言う。
僕は唐突に、彼女を抱きしめたくなる衝動に駆られた。
何て事を考えてるんだ!!
頭の中で瞬時に怒鳴って、自制する。そんなことをすれば、彼女の細い体が折れてしまうかもしれないじゃないか、と。
内心を取り繕うように、ははっと笑いを零すと、笑わないでよと怒られてしまった。

「それで、その後はどうするの?」
「うん。それはね」

杯に据え付けられた取っ手を掴んで持ち上げ、台座にある円柱状のでっぱりを指で示す。
「ここを押して…」と言いつつその通りにして、カウンターの上に置く。

「一旦手から離して、もう一度触れれば瞬間移動ができる。でもね、注意することがあって」
「えいや」

僕が喋っている途中で、彼女が杯の取っ手を握った。
瞬間、空間が歪んで、彼女が描き消える。と同時に凄い衝撃が僕を襲って、床に背を打ち付けた。
視界に僕の使っていた椅子がとんでいくのが見える。
コンコン、コロコロと何かが落ちて転がっていく音と椅子の落ちる音に、背中の痛みを堪えつつ薄目を開けると……。

―――天使がいた。

ああいや、彼女だ。彼女が僕の胸に馬乗りになっている。
柔らかな手は両方とも僕の肩に添えられていて、驚いているのか、丸く開いた目が僕の目と合っている。
ぶわ!と、全身の汗腺という汗腺が開いた気がした。
不味い柔らかい可愛い思ったより重くない瞳が綺麗だスカートの中が見えない
嫌われるかもしれない何が起こって抱きしめたいどいてもらわねば杯はどうなった……。
様々な思いが頭の中を駆け巡り、様々な感情が胸のうちで渦を巻く。
ずるりと、眼鏡がずりさがるのを僕が感じていると、彼女の小さな口が微かに動いた。

「森近、さん……」

ゆっくりと、彼女が前屈してくる。
それはつまりええと、僕の顔に彼女の顔が近づいて来るという訳で…。
このまま何もせず成り行きに任せるか、瞬発的に湧いた羞恥心に任せて押し退けるか。
一瞬のうちに、僕の心に反する二つの気持ちが出来上がって押し合いを始めた。
そうしているうちにも、彼女の顔は近づいてくる。もう息がかかる距離だ。
僕は、自分の吐く息が熱っぽくなっていないかが気にかかって、彼女の息遣いを然程感じていられなかった。

「……森近さん」

声の震えが首筋に届いて、くすぐったさに身悶えしそうになる。
が、彼女を乗せた状態でそんな変態的行動を取るのは男としてあれなので、必死に堪えた。
彼女の吐息が首筋にかかる。ああ、駄目だ。理性を保てそうにない。この僕が。
汗ばんだ手を持ち上げて、恐る恐る彼女の背に回していく。羽よりも下。腰辺りだ。
いいのか。それをして、いいのか。
どこかで、そんな声が聞こえた気がした。
知る物か。そんなの、僕の知ったことじゃあない。
気付くべきだったんだ。
普通、友人にこんな感情を抱くものなのかと、疑問に思うべきだったんだ。
こんな事態に陥った時に、劣情を抱くものなのかと。
何を考えてるんだ、それは今起こっていることで、疑問に思えることじゃあ……。
また思考の海に落ちそうになる。
そんな僕を引き上げたのは、彼女の声だというのはもはや言うまでもない。


「こんな所に、ほくろがあるのねえ……」


全身の筋肉が硬直した。
石造の様にぴしりと固まって、動けなくなってしまった。
今、なんて?
え?好き、ではない?このままで、でも、思いつく限りの愛のある言葉でも?
ぱっと彼女は体をあげて、僕の上から降りた。周りを見回して、何かを見つけるととてとてと行ってしまった。
僕は、動けなかった。その一因に、胸に彼女の温もりが残っているのが挙げられると思う。
ころころと笑う声が聞こえてきて、そちらに顔だけを向ける。
逆さになった視界には、柔らかな笑みをたたえた彼女が、杯を抱えて僕を見ていた。

「……何で笑うんだい」

やっとそれだけ搾り出すと、ふふっ、と笑いを零した後、だって、と彼女は言った。

「森近さん、のっぺりしてて面白いんだもの」

とてとてと、彼女は僕の横を通り過ぎ、カウンターの前に立った。
ぴょんと跳んで、カウンターに身を乗り出す。
のっぺり?と首を傾げていた僕は、そんな彼女に目を向けて…重大なことに気がついた。
見えそうで見え……いや、なんでもない。
そもそもなんだ、僕は何で見ようとしているんだ。
そんなことは、彼女に失礼じゃないか。
見たい、見たいと囃したてる脳内の自分にサマーソルトキックをお見舞いしながら、あげるのも億劫な右腕を額において、目を閉じた。
一度、落ち着こうという心積もりだ。
壁にかけられている柱時計から、コツコツと針の動く硬い音がする。
ぱた、ぱたと断続的に聞こえるのは……彼女が足をぶらつかせてでもいるのだろう。
その姿を想像するのには二秒とかからなかった。
カリカリとペンを走らせる音が聞こえてくる。
紙の擦れる音がする。
僕と彼女の息遣い。…多く感じるのは、気のせいか。
それらの何気ない音が、僕の心を落ち着かせていった。
後ろに手をついて身を起こす。彼女の方を見ると、杯に折った紙を入れていた。
青い炎が燃え上がる音がする。彼女の顔がその色に染まって、幻想的に見えた。
立ち上がり、彼女の元へと歩いていく。

「何処宛のを書いたんだい?」

意識して彼女のすぐ傍に立って少し腰を折ると、彼女の髪の香りがした。
年甲斐もなく騒ぐ心臓を宥めつつ、なるべく平静を装って問いかけると、彼女は振り向いて、

「ひみつ!」

と、目を細めて言った。
自然と笑顔になる。未だずれていた眼鏡をかけ直しながら、僕は彼女の瞳を見つめていた。
抱きしめてもいいかい?

「え?」
「!…ああいや、なんでもないさ」

危ない危ない。口に出してしまうとは、気を付けなければ。
どんなに体勢を崩しても、浮いて問題が無い彼女に感心している振りをしていると、
彼女は小首を傾げて、それから杯に向き直り、台座の出っ張りを押した。

「うん、あとはもう一度触れるだけだね」

頷きながら僕が言うと、彼女はカウンターから降りて僕の横に来た。
僕の着物の袖をちょいと掴んで、

「今はまだいいわ。後でにする」

僕を見上げるその姿に、彼女とは反対側の手を握りしめながら、「そうかい」とだけ返した。
彼女は手を離し、さっと奥へと走っていった。そっちは、僕の住まいだ。
そっちは店じゃない、と呼びかけると、彼女は立ち止まってこちらに振り向き、
「入ってみたいわ」と言った。
ううん。それは困る。困るが、断りたくは無い。
いつもの僕なら即座に拒否するだろうところを悩んで…結局僕は、彼女を住まいへと案内することにした。
別に他意はない。ただ彼女が見たいというから、見せてあげるだけだ。
今まで、店のしまった後も彼女が店に居たことはあっても、僕の住まいへと侵入させたことが無かったから、
なんだか不安を感じる。
自室に通すと、彼女はやたらキョロキョロし始めた。そこらへんに置いてある物に歩み寄っては手に取って、
これは何?使い方は?と聞いてくる。
この部屋にある者は大体が使い方がわかっているもので、僕の気に入っているものばかりだ。
聞かれれば、嬉々として説明する。
彼女は楽しそうだったが、それ以上に僕は楽しかった。
部屋の隅にある机の上に乗った箱を指差して、これは何?と彼女が聞いてくる。
外の世界の式だよ、と言うと、俄然彼女は興味を示した。
小一時間も話せば、彼女は満足して、別のものを手に取ったり指を差したりして質問をしてくる。

「これは何?」
「パトリオットさ」
「使い方は?」
「そこの所の…そうそれ、それに指をかけて引くんだよ。おっと、実際にやろうとしないでくれ、危ないんだ」
「どうして?」
「それが銃だからさ」
「じゅう?」

そんなふうに、ずっと話していた。
彼女の興味は次々と移り変わっていく。ついていくのはちょっと骨が折れるものだ。
途中、お茶を淹れて部屋に戻ると、彼女がドラゴンボールを不思議そうに見つめていた。
僕に気付くと、例の如く名前と用途を聞いてくる。

「それは、ドラゴンボールさ。願いを叶えるものみたいだけれど、今まで一度も願いが叶ったことは無いね」
「へぇー」

オレンジ色に透き通って光を反射する玉に、薄オレンジ色に染まる顔を寄せて、中にある小さな星を覗く。
そんな彼女から目を背けることが出来ないまま、僕は湯飲みをのせた盆を机に置いた。

「頂いてもいいかしら?」

笑顔でそう言う彼女に、僕は頷いていた。
あら、気前が良いのね、と彼女は驚く。
しまった、あれは結構気に入っていたものなのに。
しかし、両手で掬い上げるように玉を掲げて喜んでいる彼女を見ていると、やっぱり駄目だ、
なんてことは言えず。
まあいいか、あっても意味の無いものだ、と自分に言い訳して諦めることにした。
出そうになった溜息を飲み込んで、彼女に湯飲みを渡す。
それから、他に気になるものはないかい?と聞いた。
彼女は受け取った湯飲みの中身にふー、ふーと息を吹きかけながら、楽しそうに指を差し向けた―――。





「あー、楽しかった」

とーん、と軽やかなステップで敷居を跨ぎ、店へと戻って行く彼女の背に続いて、僕も店に戻る。

「それは良かった」
「ええ。……あら?」

彼女が口を手で覆って声を上げた。
何事かと、彼女の視線を辿る。
カウンターの上にあったゴブレットが、忽然と姿を消していた。

「これは…」
「なくなってるわね」

僕の呟きに彼女が反応する。
無くなっている。誰かに取られた…?
いや、あるいは魔理沙あたりがやって来て、置いてあったゴブレットに触れてしまったのかもしれない。
彼女にあげようかと思っていたのに……今から取り返しに行こうか?いや、魔理沙ではなかったら…
と色々考えつつ壁にある時計に目を向けると、かなり遅い時刻を回っていた。
ああ、そろそろ彼女を帰さないと。
泥棒かしら、と彼女が言うのに、その泥棒には心当たりがあるな、と言いながら、背中を押す。

「ほら、もう遅い。君はもう帰って、後は僕に任せてくれ」
「…いいの?」

何故かきょとんとして言う彼女に頷いてみせると、彼女は笑顔になって、

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ。またね、森近さん」

スカートの両端をちょいとつまんで、可愛らしくお辞儀をした後、彼女はカウンターを飛んで
超えて、店を出る前にもう一度お辞儀をしてから出て行った。

「ああ、また…」

軽く手を掲げて挨拶をし、扉が閉まったのを見てから、床に倒れていた椅子を立てて座る。
カランカランと、最近新しく扉につけた鈴が淋しげに客の帰りを告げる。
背もたれに背を預けて、大きく息をつき、カウンターの上に置かれた本に目を向けてから、
ふと気がついた。
彼女に、ゴブレットに入れた紙になんて書いたのかを聞いておけばよかったな。
……いや、意味は無い、か。
眉間を指先で揉んで目の疲れを解しながら、天井を仰ぐ。
何にせよ、明日は店を閉めなければ。そして誰かしらからゴブレットを取り返して、
彼女に渡さないと。
カチコチと秒針の進む音に眠気を覚えながら僕はそう思い、目を閉じた。

眠気はすぐに僕を眠りへと導いていった。
「「「いえーい!」」」

ぱちん!とハイタッチを交わす三妖精は、一様に悪戯が成功した時の表情だった。

「お疲れスター!」
「お疲れさまー」

スターサファイアに労いの声をかけるのは、サニーミルクとルナチャイルドだ。
スターは胸元で両手を合わせて、むしろ楽しかったわ、と言ってころころと笑う。

「いやあ、それにしても便利なものが手に入ったねえ」
「ほんと。わざわざ家まで運ぶ手間がはぶけたわー」

サニーがゴブレットを弄りながら楽しそうに言い、ルナが戦利品の数々を眺めながら言った。
テーブルの上には様々な名称・用途不明のものが置いてあり、それら全ては三精が香霖堂から頂戴してきた
ものたちだ。

「宝の山ねー」

手の内でドラゴンボールを転がしながら、スターが言う。
彼女の瞳は未知なるものへの探究心で輝いていた。

「でも良かったの?あそこのお店には良く行くんでしょ?」
「うーん。ばれなければいいのよ、ばれなければ」

心配そうなルナにスターは笑って見せ、それからドラゴンボールをテーブルの上に置いた。

「さて、明日からは行動の範囲が広がりそうね!わくわくしてきたわ!!」
「あ、私、こないだの竹林にもう一度行ってみたいなあ」
「私は里の向こうね」
「お、さっそく意見が!じゃあ私は―――」



きゃいきゃいと、三妖精の声が家から漏れて、夜の森に溶けて消えていく。


空には太陽の光を反射して煌々と光る半月が、満天の星空の中に浮かんでいた。
中華妖精
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コメント



0.620簡易評価
6.無評価名前が無い程度の能力削除
なんか色々無理がある・・・
7.70名前が無い程度の能力削除
こりゃまたエライものが幻想入りしましたねー。
本編とは別にゴブレットの元ネタでトラウマシーンを思い出してちょっと鬱に……
どのアイテムも幻想入りには少々早過ぎる気もするんですけど、この際そういう事考えるのも無粋ですかね。

それにしても後書き読んだら霖之助が可哀想に思えた。
タグに釣られて読んだのですがスター完全に悪女じゃないっすか!?
いや、悪女というより見た目的にも小悪魔か? どちらにせよ純情ボーイにはちと辛い手合いだ。
まあカワイイは正義だから、自分だったらなんだかんだで結局許しちゃうんだろうな~w
16.80Admiral削除
なんかいいな。
こんな少女になら騙されてみたいかもw
スターも他のものは結構買っているようですし。
しかしこれではこーりん堂が儲からないはずだw
20.80名前が無い程度の能力削除
ゴブレットが幻想入りするのはまだ早い気もするが。
パトリオットはまぁ…。ギリギリOKなのかな。

読んでいて自然と頬が緩む作品でした。
後書きに思わず笑ってしまいましたがw
21.90名前が無い程度の能力削除
部屋の掃除ちゃんとしよう