Coolier - 新生・東方創想話

わんだーらんど

2011/05/05 06:46:02
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【Q&A】
 
 Q.なんでアリス関西弁なん?
 A.プライベートでは関西弁なんだよ。知らないの? 詳細は、作品集121『まりあり』にて。
 
 Q.他に予備知識はいる?
 A.過去作からの引き継ぎ有りですが、必須じゃないよ。
  興味のある方は作品集67『てんれい』作品集72『さなあり』あたりを合わせてどうぞ。
 
 では、何事もなかったかのように。

──────────────────────────────────────────────────

『アリス in幻想郷わんだーらんど
 
 
 
 朝です。初夏の陽射しがまっすぐ届き、少しばかり暑さも感じられそうな朝です。
 あなたはいつも、決まった時間に起きてきますから、そろそろ頃合いかもしれません。
 まあ起きる、というよりは、決まった時間になると人形に叩き起こされるわけですけれども。
 
「あいたたた……」
 
 ほら、眠い目をこすり、頭を押さえながら階段を下りてきました。
 おや、後ろから着いてきた人形が分厚い魔導書を抱えています。朝からガツンと一発くらいましたね。
 あなたは姿見でたんこぶができていないことを確認すると、浴室へと向かいます。
 朝風呂、好きですよね。
 
 風呂を沸かしに行ったと思えば、歯ブラシをくわえて戻ってきました。今度はキッチンへ向かいます。
 きっとあなたのことですから、人形にいくつか命令を与えて朝食の準備をさせるのでしょう。
 その間、自分は優雅にお風呂タイムですね、判ります。
 風呂から上がれば朝食が出来ているなんて、独り暮らしには考えられない贅沢です。
 では、いってらっしゃい。
 
 あなたは浴室でゴキゲンな歌声を響かせています。
 相変わらずのきれいな声。さすがに人形劇の劇中歌までこなすだけのことはあります。
 あらあら、人形が一体、キッチンからやってきました。手にはコップ、中には白い液体。牛乳ですか。
 ははあ、さては風呂上がりに一杯ひっかけるつもりですね。
 
「いやあ、ええお湯やったわ」
 
 誰も見てないからって、バスタオル一枚巻いただけの姿で大股で歩くのはやめてください。
 あなたはそのままテーブルに直行して、コップをがっと掴むとあらま見事な仁王立ち。
 ぐいっと一気に牛乳を飲み干します。
 
「あ~最高っ。風呂上がりは絶対牛乳やね」
 
 はいはい。白ひげ生えてますよ。もともと肌が白いから目立ちませんけどね。
 そして目立たないからって気づかないまま髪を乾かすのもあなたらしいというか何というか、ですが。
 あ、やっと気づきましたね。でも舌で舐めとろうとしないでください。大人しくタオル使ってください。
 
「んー、そろそろ暑なってきたから夏服出さんとあかんかな」
 
 着替えながら、あなたは何やら思案顔。クローゼットとにらめっこしています。
 
「とりあえずご飯にしよか」
 
 答えが出たのか出ないのか、あなたは思考を途中で打ち切ってテーブルに向かいます。朝食です。
 都会派を自称しているだけあって、きっと洋風のはず。トースト、スクランブルエッグ、ミルクティーetc。
 ……ご飯にお好み焼きでしたか。ほんとにあなたはその組み合わせが好きですね。
 炭水化物をおかずに炭水化物を食べても太らないなんて乙女の敵ですよ。
 
「いただきまーす」
 
 それにしても美味しそうに食べますね。
 あなたは一人だと食べるスピードが上がるから長くは見れないですけども。
 
「ごちそうさまでした、っと」
 
 片づけを人形たちに任せて、あなたは再び浴室のほうへと向かっていきます。
 しばらくすると、薄化粧をまとって戻ってきました。お出かけですか。
 あなたは最終チェックのため、姿見の前でくるりと回ってみせます。
 
「鏡よ鏡よ鏡さん。世界で一番美しいのはだ~れだ?」
 
 もちろん答えはありませんし、鏡に映る姿が変わったりもしません。
 
「そっかー、やっぱりうちが一番かー。しゃーないなー」
 
 どうしてそんなに嬉しそうなのでしょう。サービスでもう一回転ですかそうですか。
 きっとみんな、あなたのそんな姿を見たらびっくりしてしまうでしょうね。
 あなたにはクールな森の魔法使い兼人形師さんだってイメージがありますから。
 まあ、親しい人にはだいぶ本性がばれてきてますけれども。
 
「そしたら、行ってくるわー」
 
 あなたは戸締りもきちんと……人形にやらせましたね。
 それにしても今日は一段と人形がぞろぞろと着いていきます。何の行列でしょう。
 先頭のあなたはずば抜けて大きく、人形はまるで笛吹きについて行く子供たちのようです。
 違っているのは、人里から出ていくのではなく、人里に向かっているところでしょうか。
 
  ♠  ♦  ♣  ♥
 
 森を抜けてしばらく進むと、向こうに人里が見えてきました。
 あなたは人形を整列させると、風で曲がってしまったタイなどを直したりします。
 
 人里の入り口まで来ると、あなたを待っていたかのように声がかかります。
 
「アリスさん、おはようございます」
「おはよう、早苗」
 
 あなたに早苗と呼ばれた少女は、青と白の衣装に身を包んだ緑髪の巫女さんです。
 
「悪いわね。いつも手伝ってもらっちゃって」
「いいんですよ。いつも楽しみにしてますから」
 
 二人は並んで歩き出します。
 巫女さんは人形たちにちょっかいを出したがり、あなたはそれを止めようとします。
 はたから見ると、とても仲が良さそうに見えますね。
 
「今日はついに紅い子と銀の子が直接対決ですねえ」
「そうね。バトルパートは久しぶりかしら」
「しばらく日常パートが続いてましたし、子供たちも喜んでくれるんじゃないですか?」
 
 今日の人形劇についての話です。あなたは、寺子屋の先生から頼まれて定期的に人形劇を開いていました。
 最初のうちは一人でやっていましたが、巫女さんと仲良くなってからは、彼女が手伝ってくれています。
 人形を操るのはあなたの仕事です。巫女さんは舞台効果を担当していて、風とかびゅんびゅん吹かせます。
 
「ああ、いらっしゃい。もうみんな揃っていますよ」
「あら、遅かったかしら」
「そうではなくて、みんな楽しみで待ち切れなかっただけですから」
「じゃあ急がなくっちゃね」
 
 出迎えてくれた先生へのあいさつもそこそこにして、子供たちのもとへと向かいます。
 寺子屋の前にある広場が即席の劇場になるのです。
 あなたはいつもどおりに、まずは人形たちにあいさつをさせます。
 人形たちが独りでに動き、思い思いにあいさつをするのを見て、子供たちは目を輝かせるのです。
 
 ここでは人形劇の内容は詳述されません。紙幅の関係、と言っておきましょうか。
 ちなみに、紅い子と銀の子は弾幕格闘戦を繰りひろげました。
 初めは銀の子が優勢でしたが、蒼い子と翠の子の協力を得て、ついにスペルカードを創り出して銀の子を退けたのです。
 子供たちのなかには、銀様などと言って銀の子を応援するような子もいたりします。
 あなたが劇の後にあいさつすると、たくさんの拍手で迎えられました。少し照れていますね。
 
「いや、素晴らしかったです。よく一人で何役も演じ分けられますね。さすが七色の腹話術師」
「ありがとうございます」
 
 先生も気に入ってくれたようでした。
 
「やはり物語は、努力・友情・勝利が一番ですね」
「この話は早苗から教えてもらった外の世界の出来事をもとにしているの。私としては、美形・才能・勝利がいいのだけど」
「教育上はよろしくないですが、個人としては美形いいですねえ」
 
 先生意外とものわかりがいい。あなたと気が合いそうです。
 
「そろそろお昼か。ねえ、どこか良いところないかしら」
「うーん、ここを真っ直ぐ行ったところに甘味処があるんですが、昼時は食事も出していたはずです」
「甘味処! ぜひ行きましょうアリスさん」
「いきなり出てきたわね。まあ早苗がそう言うならそこにしましょうか」
 
 あなたと先生が話をしていた間に、巫女さんは子供たちに神社謹製のお札を配っていました。
 お父さんお母さんに渡してね、と言いながらです。信仰のためなら手段選ばず。まさに巫女さんの鑑ですね。
 
 先生と子供たちに別れを告げて、あなたと巫女さんは甘味処を目指します。
 道すがら、二人の話題はやはり先ほどの人形劇です。
 
「今日も良かったですねえ。ついに棘符『ローズテイル』を習得した紅い子の勢いにはさすがの銀の子も敵いませんでしたね」
「今度は逆に、銀の子が壁を乗り越えなければならないわけだけど、そこはどうしようか」
「これは、ついに蒼い子に出番が回ってきそうですね」
 
 そんな話をしていると、お目当ての店が見えてきたようです。
 昼時といってもまだ早めの時間ですが、中には既に客がちらほらと見えます。
 
「アリスさん、お昼のセットにはわらび餅がついてくるみたいですよ!」
「じゃあそれにしましょう」
 
 あなたは何のためらいもなくお店に入っていきます。お昼のセットが何なのかも確かめないままでした。
 
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「お昼のセット二つ」
「おそばとうどん、それぞれ温かいのと冷たいのがありますが、どちらにしますか」
「えっ!?」
 
 ほらよく見ないからそういうことになるんです。
 あなたは温かいうどんを、巫女さんは冷たいそばを頼みました。それぞれかやくご飯と、香の物にお吸い物がつきます。
 料理が来るまで、あなたと巫女さんは薄口しょうゆと濃口しょうゆの違いについて熱く語り合いました。
 あなたは……確認するまでもなく薄口派ですね。うどんの出汁が黒かったらどうするんですか。
 
「お待たせしました~」
「わ、美味しそう。いただきます」
 
 出汁、黒くなかったですね。ちっ。いえいえ、何でもありません。
 巫女さんのおそばは十割そばのようです。そばには思い入れがあるようで、十割と二八の違いを語っています。
 どうやら巫女さんの神社ではそばを手打ちするようです。
 
「神様の手打ちそばなんて、売ったらみんな買いそうね」
「売りましたよ、年末に。市場調査して値段を少し抑えたら飛ぶように売れました」
「酷い話もあったもんだわ」
 
 巫女さんは外の世界の手法を取り入れて活動しているようです。ハイブリッド巫女さんです。
 紅魔館の図書館から経営に関する本を借りて勉強しているのだとか。いったい何を目指しているのでしょう。
 
「今はドラッガーの『マネジメント』を読んでいるところなんです」
「それ、ここに来る前に読んだことある」
「アリスさん、『もし守矢神社の風祝がドラッガーのマネジメントを読んだら』って本を執筆して販売する気あります?」
「何がしたいのよ」
「何って、マネジメントですよ。別に恋愛ものでもいいんですけど」
 
 どうやら巫女さんはあなたの書いた小説が読みたいだけのようです。
 
    書きますか
  ⇒書きませんか
 
「遠慮しとくわ。誰かが書いてくれたら読むけど」
「他にも『蓬莱人のカルテ』とか『謎解きはおゆはんのあとで』とか読みたいです」
「自分で書けばいいじゃない」
「そんな恥ずかしいことできるわけないですよ」
「お願いだからそんなものを他人にさせようとしないで」
「そうですか。仕方ないですね。あ、そば湯くださーい」
 
 おしゃべりしながらも順調にそばは減っていたようです。あなたもそろそろ食べ終わる頃合いですね。
 
「そば湯になります~。デザートお持ちしてもよろしいですか?」
「お願いしますー」
「わかりました~。では、こちらは下げさせていただきますね」
 
 ほどなくして待望のわらび餅が到着しました。
 
「わらび餅です~」
 
 ぷるん。ぷるるん。
 テーブルに置かれた拍子にわらび餅が揺れます。乙女のハートをがっちりキャッチします。
 
「すごいぷるぷるしてますねぇ」
「ちょっとつついてみようかしら」
 
 あなたはフォークの先でちょいちょいとわらび餅を突きます。
 つん、ぷるん。つんつん、ぷるんぷるん。
 
「これは凄いわ……」
「何かに目覚めそうな感じがしますね」
 
 さっそくいただくことにします。弾力があるのにフォークを入れると滑らかに切れました。
 小さいぷるぷるを慎重に口まで運びます。
 
「あ……ありのまま、今起こったことを話すわ!」
「私はわらび餅を口に入れたと思ったらいつの間にか融けてなくなっていた」
「何を言っているかわからないと思うけど、私も何があったのかわからなかった……」
「頭がどうにかなりそうだった……催眠術とか超スピードとかそんなチャチなものでは断じてない」
「もっと美味しいものの片鱗を味わったわ……」
 
 どうして二人で一つの台詞が完成しているのでしょう。よく覚えてますね。というかノリノリですね。
 
「やだ……何これ美味しい」
「わらび餅って、優しい奇跡でできているんですねえ」
「恥ずかしい台詞禁止」
「えー」
 
 ちなみにこちらのお店ではきな粉と抹茶きな粉がついてきます。それをまぶすとさらに美味。
 
「店員さーん、これって持ち帰り用のってあります?」
「ありますよ~」
「一つ、いや二つお願いします」
「私も一つお願いします!」
 
 お土産用のわらび餅もゲットしたところでお会計です。あなたが払おうとすると、巫女さんが自分も出すと言いました。
 少し考えて、巫女さんには自分のおみや代だけ出してもらうことにしました。
 
「ごちそうさまでした」
「まいどあり~」
「美味しかった。また来るわ」
「どうぞごひいきに~」
 
 あなたはすっかり満足しました。巫女さんも同じようです。
 二人は相談して、もう一人の巫女さんの神社に行くことにしました。
 
  ♠  ♦  ♣  ♥
 
 あなたと巫女さんは、特に急ぎでもなかったので、ゆっくりとおしゃべりしながら神社へと向かいました。
 小高いところにあるからか、人里よりは少し涼しい感じがします。
 
「こんにちわ」
「あら、いらっしゃい。早苗も」
「お邪魔します」
 
 こちらの巫女さんは紅白の衣服で黒髪です。
 
「今日は一人?」
「いや、天子がいるよ」
「相変わらず入り浸ってますねぇ」
 
 居間に向かうと、青髪の天人さんがくつろいでいました。
 
「そりゃあ私の神社だもの」
「出たな外れ天人」
「外れ言うな。せめてはぐれにしてちょうだい」
「あんた倒しても大して経験値もらえなさそうじゃない」
「ほう。倒しもできないくせに偉そうな」
「あら、試してみる?」
 
 あなたはすっかり売り言葉に買い言葉、天人さんと勝負するつもりです。
 
「霊夢さん、止めないでいいんですか?」
「ほっときなさい。それよりお茶飲む?」
「あ、いただきます」
 
 紅白巫女さんと青白巫女さんはどうやら傍観を決め込むことにしたようで、お茶を飲みながら巫女巫女しています。
 
「それで、何でやるつもりなの。バストサイズ対決?」
「小さいほうが勝ちよ」
「参りました」
「くっ!」
 
 あなたは誇らしげに敗北宣言をして、勝者の顔が歪んでいます。不思議なこともあるものです。
 
「気を取り直して、スペルカードしりとりなんかどうかしら」
「いいわよ。魔界のしりとりマスターと呼ばれた実力を見せてあげるわ」
「魔界って大会でもあるの?」
「いや、今作った」
 
 あなたしれっと嘘ついてたんですね。巫女巫女さんたちも呆れ顔ですよ。
 
「……調子狂うわ。ま、それじゃあ始めるわよ。ルールは標準、符名は無しね」
「いいわ、かかってきなさい」
「では、『マスタースパーク』」
「『首吊り蓬莱人形』」
「う……『海が割れる日』」
 
 青白巫女さんが、私のスペカ、とほのかに喜びましたが、既に勝負の世界に突入した二人には関係ないことですね。
 
「『百万鬼夜行』」
「またう? そうねぇ、『うろ覚えの金閣寺』」
「『地獄の人工太陽』」
「なるほど、そうきたのね……『丑の刻参り』」
「『輪廻の西蔵人形』」
「『ウォーターエルフ』」
「『ファツィオーリ冥奏』」
「えっと、標準ルールだから持ち時間は15分よね。ちょっと考えさせなさい」
「どうぞ、お好きなように。霊夢、私にもお茶をいただけるかしら」
「ん、どうぞ」
 
 あなたはお茶を受け取ると、一口飲んで、ふうと息を入れます。
 
「私、アリスさんとは絶対にスペルカードしりとりをしないことに決めました」
「何でよ」
「終わった後に友達でいられる自信がありません」
「いや、大したことないから」
 
 青白さんの顔が軽くひきつっています。
 あなたは後でフォローしておかないと誤解されると思いましたが、助け船は意外なところから出ました。
 
「よし、『ウォーターカーペット』。これならどうだ」
「ほら破られちゃった。この程度のものよ」
「どういうことですか?」
「『と』で始まって『う』で終わるスペルカードが無いから、う責めはこれで終わり」
「今度はこっちからう責めとやらを仕掛けるチャンスもあるのよ」
「だから大したことないって言ったのよ」
「はぁ。しりとりも奥が深いんですねぇ」
 
 青白さんはスペルカードしりとりに関してはまだまだ素人さんのようですね。
 あなたは、いずれ特訓しないといけないなあ、なんて考えています。
 一方、紅白さんは我関せずをつらぬいて、ぽけっと境内を眺めています。
 
「霊夢」
「あ?」
「最後が長音符のときはそのひとつ前の字でよかったのよね」
「そうよ」
「ありがと。じゃあ、『トリップワイヤー』」
「むぅ。反撃できず、か。やるねお前」
「あなたに言われたくないわ」
 
 そこから、あなたと天人さんのしりとりは長期戦の様相を呈してきました。
 「詰めろ」を掛けるもののなかなか決めきれないで、だんだんと使える文字が少なくなっていきます。
 神経戦もいいところですが、あなたはこういうのを得意としていますから、余裕の表情で優雅なお茶タイムです。
 天人さんはうんうんうなって何とかスペルカードを思いだしていきます。
 
 ちなみに、巫女さんたちは二人をほっといておしゃべりしたり、試しに服を取りかえてみたりしていました。
 青白さんはバストがきついと言い、紅白さんはウエストがあまると言い、互いにダメージを受けています。
 あなたは、全然気づいていなかったですけどね。
 
「そろそろ終わりにしたいから降参してくれないかしら。『忘れ傘の夜行列車』」
「そっちが降参すれば終わる勝負じゃないのよ。や、や……『八坂の神風』」
「『禅寺に棲む妖蝶』。これでもまだ続ける気?」
「そう同じ手を何度も喰うかっての。『ウー』、虚人『ウー』よ」
「外れのくせに面倒な。『雲界クラーケン殴り』」
「……ねえ、引き分けってことにしない?」
「……そうね」
 
 あなたと天人さんは互いの健闘を称えあって握手をしました。それから感想戦です。
 二人してどうやったら相手を効率的にはめられるか検討しないでください。また青白さんに怖がられますよ。
 
「よ、邪魔するぜ」
 
 そこへやってきたのは金髪で黒白の魔法使いさんです。この人も神社の常連ですね。
 
「何してるんだ」
「スペルカードしりとりの感想戦よ」
「おお、面白そうだな。私も交ぜてくれ。霊夢、悪いがお茶でもくれないか」
「そっちは早苗よ」
「うおっ。何だお前ら服を交換してるのか」
「あんたは服で人を識別していたのか」
「もう紅白まんじゅうを見ても霊夢に見えるくらい慣れちまったからな」
「ああん?」
 
 元紅白の現青白巫女さんも本気で怒っている風ではありません。それでも十分怖いですけどね。
 あなたも、普段と違う色の巫女さんには違和感を覚えましたが、あえて口には出しませんでした。
 君子危うきに近づかず、です。
 
 さて、感想戦も一段落してスペルカード談義ですね。
 これは巫女さんたちも参加して、というか、みんなそれぞれ思うところがありますから議論百出です。
 やれパワーだブレインだ奇跡だ地震だお茶だ酒だと好き勝手。まとまりようがありません。
 あれ、一人増えてますね。いつの間にか鬼さんが交じっていたみたいです。
 
「萃香いつからいたの?」
「ん、さっきからだよ。ねえ霊夢、お酒ちょうだい」
「そっちは早苗よ」
「うわっ。入れ替わって私を騙そうとするなんて酷いな」
「あんたも服で人を識別していたのね……」
「いやいや、慣れってやつは怖いもんだ。もう紅白幕が霊夢に見えてもおかしくない」
「良く判ったわ。あんたら夜道には気をつけることね」
 
 そろそろ現青白巫女さんの堪忍袋がたいへんなことになりそうです。
 けれど、空が赤くなりはじめていることもあり、現紅白巫女さんはもうすぐ帰る時間のようでした。
 ということで服をもとに戻して紅白さんと青白さんを正しく認識できるようになりました。
 
「今日はありがとね」
「いいえ、またお願いします」
 
 あなたは改めて人形劇のお礼を言います。青白さんも丁寧に頭を下げて、それに応えました。
 
「早苗は帰ったけど、あんたたちは食べてくの?」
「そのつもりだぜ」
「よし、それじゃあ各自何らかを提出のこと」
「本日のきのこは以下のとおり」
「魚釣ってきて台所においてあるよ」
「デザートにわらび餅なんていかがかしら」
「天界の銘酒持ってきたわ」
「とすると、魚ときのこを焼いて、後は米と野菜で適当にって感じかしら」
 
 紅白巫女さんがぱん、と手をたたいたのを合図に、全員で夕食の準備に取りかかります。
 あなたは人形たちに部屋を片づけさせるとともに、台所で野菜を物色します。
 今日は全員が神社の勝手を知っているため、作業はとてもスムーズでしたね。
 
 さて、夕食の献立は次のようになりました。
 まずお米です。神社に代々伝わる土鍋で炊いたご飯は今日も見事な立ちっぷり。
 鬼さんが釣ってきた魚は、岩魚と山女魚でした。こちらは塩焼きです。
 これにざっくり裂いた焼ききのこを添えて大根おろしとおしょうゆでいただきます。
 お椀は野菜たっぷりで白みそ仕立てのおみそ汁ですね。漬けてあった白菜と大根も出されました。
 ちょっと珍しいものとしては骨酒です。コップに岩魚の塩焼きを入れて、熱燗を注ぎます。
 気持ち強めに塩を振った岩魚の香ばしさが酒にうつって、何とも言えない風味をかもし出します。
 酒に浸した岩魚はもう一度パリッと焼き上げてこちらも美味しくいただけます。
 
 それにしてもあなたは美味しそうに食べますね。いや、実際美味しいんだと思いますけども。
 食事中の話題は、主に鬼さんの釣り談義でした。良い岩場の見つけ方とか、幻想郷の釣りスポットとか。
 やっぱり妖怪の山がメインスポットのようです。鬼さんフリーパスですからね。
 それに喰いついたのが天人さんです。自分も行ってみたいということで、明日の約束を取りつけます。
 巫女さんに明日も魚でいいか聞く姿というのもなかなか微笑ましいものです。
 というか天人さんと鬼さんは神社にお泊りですか。あなたは……さすがに帰りますね。
 
 はい、ごちそうさまでした。あなたは人形たちに片づけを任せてわらび餅を取り出します。
 二つ買っていたのは、こうなるのを見越していたからでしょうか。一つだと足りなかったかもしれません。
 小皿に取り分けていきますが、そのたびにぷるんぷるんとわらび餅が揺れて、あなたの心が躍ります。
 見た者すべてを虜にする、まさに魔性のぷるんぷるんです。これに心奪われないのはよほどの朴念仁でしょう。
 もちろん、みんな虜になりました。
 
  ♠  ♦  ♣  ♥
 
 帰りは、方向が同じな黒白魔法使いさんと一緒でした。涼しい夜の空中散歩です。
 
「しかし、あのわらび餅は反則だったぜ」
「今度行ってみるといいわよ」
「もちろんだ。百聞は一食に如かずと言うしな」
「昼に食べたのはさっきのと比較にならないくらいぷるんぷるんだったわ」
「ぷるんぷるんか」
「そうね。私とあなたぐらい差があったかしら」
 
 あなたは黒白さんの胸元に視線を落としてそう言いました。安い挑発です。
 
「あんだとこら。ちょっとあるからって調子に乗るんじゃないぞ」
 
 あらま見事に引っかかってます。まあお約束とでもいいましょうか。
 それから、二人でわらび餅のぷるぷる加減はどうやって生み出されるのかを考えました。
 一応、本職の魔法使いです。化学反応や物理法則まで持ち出してあれこれ言い合っています。
 
「よし、明日からしばらくぷるんぷるんについて研究するぜ」
「がんばってー」
 
 あなたがあまりに棒読みだったので、黒白さんも反応する気をなくしてしまったようです。
 魔法の森の適当なところで二人の道が分かれます。
 
 家に着くと、あなたはまず風呂を沸かしに浴室へ行きます。
 そして、歯ブラシをくわえて戻ってきました。食事は済んでいますから、キッチンには行きません。
 歯を磨いたら、人形たちの服を脱がせます。ついでに状態をチェック。破損などしていないか確かめます。
 あなたの眼差しはとても優しげで、人形を大事に想っているのが良く判ります。
 裸の人形たちはぞろぞろと衣装をまといに二階へと上がっていきました。
 
 あなたはやっぱり浴室で歌うんですね。ゴキゲンさが増しているのは気のせいでしょうか。
 風呂上がりも当然のように牛乳でした。何が最高や、ですか。
 あなたは部屋着に着替えましたが、まだ眠るには早い時間です。これから研究の時間ですね。
 
 あなたの人形に対する想いは知っているつもりです。いつの日か、上手くいくのを待っていますよ。
 では、頑張って。
 
 

 ── あなたは、今は届かないその想いが、いつか通じ合うことを、心から願っています ──
 
 
 他の投稿作品はこちら(作者:guardi)
 ちなみに、私が思い描いていたわらび餅は、京都の笹屋昌園のものでした。
 
 追記:慣れない二人称ということもあり、至らぬ点を指摘いただけるとありがたいです。
 (5/20)タイトルを「ありす いん わんだーらんど」から「わんだーらんど」のみに変更しました。
 コメント返しはこちら
guardi
[email protected]
http://guardi.blog11.fc2.com/
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コメント



0.1260簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
関西弁アリス久々に見たなぁ。
わらび餅食べたい。
5.100名前が無い程度の能力削除
b
7.100奇声を発する程度の能力削除
関西弁も良いなぁ
19.100名前が無い程度の能力削除
所々に入れられている各アニメネタ反応してしまったのは、私だけではないはずw
まさにわんだーらんどでしたw
26.100名前が無い程度の能力削除
ハートフルな幻想郷、大変よかった。ご馳走様でした。
27.100zs削除
guardiさんの関西弁アリスさん大好きです
そして貴重な二人称
ゆるい幻想郷、よかったです