Coolier - 新生・東方創想話

アンデッド王者決定戦――ゾンビなんかに絶対負けないとお嬢様は言った

2011/05/04 07:37:45
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 わが主、レミリアお嬢様はとてつもなく負けず嫌いであらせられます。
 その小さな御身体からあふれんばかりの矜持と、自らの出自に対する誇り。
 尊大不遜にして、絶対的強者としての態度。
 誰にも止めることはかないません。
 つまりは――
 墓地をほっつき歩いていたゾンビを偶然発見し、『ゾンビなんかに絶対負けない!』と無駄に対抗心を燃やしてらっしゃいました。
 お嬢様それは敗北フラグ。危険ですのでゆめゆめお口になさらぬよう、などと従者が言ったところで、聞く耳など持つはずもございません。
 べつにこれはどうでもよいことなのですが……、当然のことながらゾンビさんを鹵獲したのはわたくし十六夜咲夜でございます。
 かの御仁は体力がありあまっているようでしたので、時間を止める手品がなければ少々苦労したでしょうが、まあなんとか平和的にお連れすることができました。ドサ袋に入れて。
 やれやれだぜ、なんてことは口が裂けても言いません。
 瀟洒なメイドですので、沈黙のまま控えております。

「宮古芳香といったか」
「我らの眠りを覚ますのはだれだー」
 いきなりハイテンションなゾンビさんでございます。
 時を止めて連れてきたとはいえ、ずっとそうであったわけではございません。単に記憶力が哀しいことになっているだけのようでございました。
 お嬢様が名前を聞き出したのも、23回目にしてようやく成功、確認が今のところ12回目でございます。
「こいつは、話もできないのか」
「そう、宮古芳香だぞー」
「うお、いきなり話が通じた」
 おそらくは、回線が通じるのに少しばかり時間がかかるのでございましょう。
「ふむ、しかし名前などどうでもいい。オマエに今日は大事なことを教えてやろうと思って連れてきたのだ」
「う、う、私にはもっと大事なことがあったような気が」
「気にするな。私と語らうよりも大事なことなどあるまい」
 さすが、お嬢様。
 どこまでもわが道を行く。そんなところに痺れたり憧れたりします。
「さて。宮古芳香よ。われらバンパイアこそがアンデッド最強であることを教えてやろう」
 それこそがお嬢様が宮古芳香さまをお連れした理由でした。
 しかし、アンデッドという枠組なら、他にもライバルがいそうですが……。例えば西行寺の亡霊とか。


「説明しましょう」
 さらっと現れたのはパチュリー様です。
「レミィが言うアンデッドとは、いわゆる不死者のことを指すのよ。不死者とは肉体を持ちながら死を固定した存在のことを言うの。つまり亡霊や幽霊は死んで肉体を失っているのでアンデッドじゃないのよ。ゾンビ。グール。バンパイア。さまよう鎧みたいなのがアンデッドね」
 簡潔な説明、おそれいります。
 ともあれ、そういったわけで、お嬢様が対抗心を燃やすのも必至でございます。
 なにしろ相手はゾンビ。
 正確にはキョンシーと呼ばれる種族でありまして、お嬢様と同じカテゴリーに属するのでございます。
 お嬢様は下々のものには情けと慈愛をもって、他者の心を容れることができるお方でございますが、さすがに同じアンデッドという種族内間最強の称号はそのプライドにかけて渡すことができないということなのでございましょう。
 まったくもって、お嬢様の負けずぎらいは幻想郷でも随一のものであると、頭が下がる思いです。

「アンデッド最強は我らキョンシーだ」
 おお。これは真っ向からの対決姿勢です。
 お嬢様も負けじと無い胸を張ります。
「ほほう。その意気だけは認めよう。しかし、我らバンパイアは貴様らには無い力をいくつも持っている。パチェ!」
「はいはい」
 パチュリー様が魔法で出現させたのは、巨大なバーベルでございます。
 ひとつ百キロ。さすがに筋骨隆々な人間でも辛い重さです。
 それをお嬢様はなんと片手でひょいと持ち上げてしまいました。
 バンパイアは力に優れた種族なのです。技が無用となるほどの圧倒的パワー。それこそがバンパイアの最大にして最強の武器です。このお力の前ではわたくしの時を止める術も児戯に等しいものと成り果ててしまうでしょう。
 おや、芳香さまもどうやら挑戦なさるようです。
 しかし、奇妙な格好でした。
 腰の部分しか曲がらないのか、身体をくの字にまげて、しかも指先も曲げることができないのか突き出したポーズのまま。
 これではバーベルを握ることはできない。そのように思われました。
「ほっ!」
 なんということでしょう。
 芳香さまは中指と薬指の間にバーベルを挟み、二本の指だけで軽々と持ち上げてしまいました。

「説明しましょう」
 またもやパチュリー様です。
「キョンシーの腕力は尋常ではないわ。実際はキョンシーに限らずアンデッドというのはおよそ腕力が強いものなのよ」
 おそれいります。
「く、くく」
 お嬢様。口もとがひきつっております。
「少しはやるようだな。だが、この程度はまだほんの序の口だ。私は貴様にできないことができるぞ。咲夜!」
 お嬢様が呼んでおりましたので、わたくしは答えようと口を開きかけました。
 しかし、わたくしは口を開くどころか、指先一本も動かせなくなっていたのでございます。
 これはバンパイアの持つ精神感応系の能力、チャーム。
 要するに相手を魅了して意のままに操る技でございます。相手を隷従させるこの技、一見すると無敵のようですが、実際は自分より弱い相手にしか効かなかったりもしまして、わたくしの場合は最初からお嬢様に身も心も捧げておりますから、少々こずるい一手であるともいえます。
 もっとも、お嬢様はそのようなズルをしているという意識など毛頭ないようでした。人間であればおよそチャームを免れることはないので、それでよいのでしょう。大事な点は、芳香さまがチャームを使えないということにあるのですから。
「どうだ。ゾンビよ。我らは人間を操ることができる。こんな繊細なことができるのは我らぐらいなものよ」
 本当は覚りとかも催眠術使えますけどね。
「私もできるぞ」
「そうだろうそうだろう、おまえたちゾンビごときが――ってできるのかよ」
 ノリが少々古いお嬢様でございます。
「あまり知られてないが、できるのだ。我々は最強だからな」
「やってみろ」
 芳香さまは身体ごと頷いて、私の背後に周りこみます。
 ボムン。ボムン。
 足を曲げないジャンプで近づいてくるときのこの音。一度聞けば忘れそうにありません。
 ボムン。ボムン。
 ボムン。ボムン。
 背後に冷たい気配を感じます。おそらく芳香さまが何かをしようとしているのでしょう。殺気とは違うのですが、身体のほうが反応してしまいそうでございます。
 それから、ひゅん。
 と、身体が浮く感覚。
 すわなにごとかと下を見てみると、芳香さまはその足を私の足の下にすべりこませるように入れておりました。
 これは気持ちの悪い感覚です。
 勝手に腕がピンと伸びて、キョンシースタイル。
 決して腕力ではないのです。私の神経が乗っ取られて、勝手に動いているような、そんな感じでございます。
「説明しましょう」
 パチュリー様曰く。
「キョンシーは自分のつま先を相手の足の下に入れることで相手を操れるのよ。場合によっては精神ごと乗っ取られることもあるそうだわ。このとき、操ってるほうのキョンシーの姿は消えるみたいね」
 いま、わたくしは後ろを見ることはできない状態でしたが、どうやら芳香さまのお姿は他の方には見えないようでした。
 場合によってはお嬢様のチャームよりも強力な操りかもしれません。
 お嬢様はスカートの裾をぎゅうっと握って、なにかに耐えていらっしゃるようでした。人に弱みを見せるようなお方ではないのです。
「は、ははは。に、人間程度を操れるぐらいでいい気になってもらっては困るな」
「おまえが始めたことではないか」
「ば、バンパイアは再生能力がぬきんでているぞ!」
「キョンシーもそうだ!」
「説明しましょう」
 パチュリー様は説明に余念がありません。
「バンパイアの再生能力は蝙蝠一羽ぶんもあれば再生が可能なほど強力なものよ。そもそもレミィたちバンパイアはノスフェラトゥと呼ばれることもあるのだけど、ノスフェラトゥの語源はノスホロス、つまり病原菌なのよね」
 わたくしのなかのお嬢様のイメージが、腐った死体からめでたく病原菌へとクラスチェンジしました。
「病原菌の伝播性と再生能力はやはり侮れないものがあるのよね」
「キョンシーはどうなの?」
 小声なお嬢様。
「キョンシーのほうの再生能力は正直微妙なところね。確かに捕食で回復したりはするけれど、粉々になってから復活っていうレベルではないわね」
「ふふ、パチェ。さすがわが友。私のことをよく知っている。どうだキョンシーよ、貴様らの再生能力など我らに比べれば遙かに及ばん」
「あ、でも」パチュリー様が再び口をお開きになられました。「キョンシーのほうが防御力高いから、あまり再生する必要がないのかも……」
「ともかく最強なのよっ!」
 ついに理詰めすら放棄してしまいました。
「だが、おまえ達吸血鬼は弱点も多いと聞くぞ」
「むぐっ」
「説明しましょう」
 パチュリー様以下略。
「確かに吸血鬼こそは制約の多い種族ね。一番有名なところでは、太陽の光に弱いというものが挙げられるけれど、その他にも、十字架に弱い、にんにくがダメ。銀製品がダメ。流れ水を渡れない。主人に招かれないと入れない天然住居侵入禁止効力。鏡にうつらないという地味に日常生活で困りそうな特性。あと豆の数をつい数えちゃうマメな性格とか……。まあ実際迷信も多いみたいだけど、弱点てんこもりね」
「きょ、キョンシーだって多いって聞いたわ!」
「キョンシーの弱点も多いわね。吸血鬼と共通してる弱点も多くて、例えば、太陽、鏡なんかはキョンシーにも効果があるわ。もっともキョンシーの場合は太陽の光を浴びたからって気化したりはせず、ちょっと動きが鈍くなるだけって聞いた覚えがあるわね。鏡のほうは姿が見えないだけの吸血鬼に比べれば、ちゃんとひるんだりはするみたい。その他、吸血鬼とは異なる弱点としては、もち米、鶏の血、そして忘れがちなところで位牌とか」
「位牌ってなんだ?」
「ご先祖様の偶像みたいなもんよ」
「ふん。先祖が怖いのか」
「迷信だぞー」
 芳香さまが久しぶりに再起動しました。どうやら、脳みそがぼーっとする周期があるみたいです。
「まあいい。だが由来こそが私が私であることの最たるものだ。歴史のない存在など時間の中で磨耗し果てるのみ。宮古芳香。貴様は自分の起源を言えるか」
「うー?うー?」
 あ、そのうーうーはちょっとお嬢様と似ています。
「ふん。自分の起源すらいえないのか。愚かなるものよ。私は言えるぞ。そう……我らバンパイアの起源とは復讐なのだ。生命の裏側に死があり、死の裏側に生がある。我らは夜の一族として生あるものと敵対し、その最大にして最強の生命を司るものと戦ってきた」
「あ、いっしょ」
「は?」
「我らキョンシーは埋葬方法をミスったら、その怨みでキョンシーになったりするのだぞ」
「ちょっと違うでしょ。私の壮大かつドラマティックなテーゼと、あんたのしょぼい埋葬ミスってたって話をいっしょにしないで!」
「いやー、同志」
「同志じゃねー!」
「ははは。しかし、よくわかったぞ。吸血鬼とキョンシーはかなり似てるのだな! 仲間になるのもよいぞ」
「だれがあんたみたいな前時代のファミコン並の頭しかないやつの仲間にならないといけないのよ」
「それは月に行ける程度の能力ということか?」
「う?」
「説明しましょう」パ略。「人類が始めて月にいった宇宙船に使われていたコンピュータはファミコンと同じ程度の能力しかなかったのよ」
「私が言いたいのはそういうことじゃない」
「私の妹がこんなに可愛いわけがない!?」
 ツッコミ待ちでございましょうか。
 最近のゾンビさんはわりと高度なようでございます。



 てなわけで。
 埒があかないとお思いになられたお嬢様はついに直接対決を望まれたのでした。
「初めからこうしておけばよかった。まったく無駄な時間を過ごしてしまったわ。さぁかかってきなさい。宮古芳香」
「戦うのは本意ではないが、戦うのは翻意ではない!」
「そうか。ではこちらから行くぞ!」
 お嬢様は考えるのをやめてしまいました。
「説明させてちょうだいな」
 もちろんパチュリー様のご随意に。
「キョンシーとバンパイアの最も大きな違いは速さね。レミィは『お前に足りない物、それは~以下略~速さが足りない』と主張すればよかったのよ」
 しかし、先ほどの説明を聞いた限りでは、キョンシーのほうが防御力は上のようですし、捕まれた場合の力の差はほとんどない。
 となると、長期戦となるのでございましょうか。
「いえ。それよりも一撃必殺の武器があるでしょう?」
 はて?
「吸血よ。キョンシーもバンパイアも相手の力を奪うことができる。だから先に相手に歯を突きたてたほうが勝つ! 見なさい勝負がきま……?」

 見ると、そこにはお嬢様と芳香さまが仲良く互いの首筋に歯を突き立てているお姿がありました。
 この場合はどうなるのでしょう。
 わたくしが困惑の視線を送ると、パチュリー様もご存知ないようでございました。
 しかたないので、そのまま推移を見守ります。
 すると――
「きゃん」
「お、お?」
 という小さなお声を立てて、手のひらサイズのお嬢様と芳香様のお姿がありました。
 しかも、お嬢様はいつもの蝙蝠羽ではなく、ずいぶんとメルヘンな蝶々の羽。
 芳香様はトンボのような透明な虫の羽がなぜか背中から飛び出しています。
 これは一体……!?
 ミニサイズなお嬢様をお持ち帰りしろという天の啓示でしょうか。

「せ、説明しましょう。にわかには信じ難いことなんだけど。レミィはバンパイア、そしてそこにいるのはキョンシー。互いに互いの血を吸ったから」

 吸ったから?

「スコットランド生まれの妖精さん、バンシーになったのよ!」

 な、なんだってー!?

 オチがついたのかは少々疑問でございました。


響子「「「「な、なんだってー!!」」」」
やったね響子ちゃん。一人四役できるよ。

あとこの作品は体験版に準拠しているので、こっそり消える可能性があります。
超空気作家まるきゅー
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コメント



0.2560簡易評価
3.80名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
8.100名前が無い程度の能力削除
言われてみればヴァンパイアとキョンシーって似てるな確かに。
9.100KASA削除
これを消すなんてとんでもない!
お嬢様も芳香さんも可愛かったです。
11.100名前が無い程度の能力削除
いいキャラだなぁ芳香。
16.90奇声を発する程度の能力削除
お嬢様も芳香さんも可愛すぎるよ!
18.80名前が無い程度の能力削除
パチュリーと咲夜さんがいい味出してる
24.80名前が無い程度の能力削除
なにこのアンデッドかわいい
35.80名前が無い程度の能力削除
ゾンビには勝てなかったよ・・・
36.100名前が無い程度の能力削除
b
39.90名前が無い程度の能力削除
d
43.100名前が無い程度の能力削除
かわいいな。
しかしパチェさん色々と便利過ぎるw
45.80名前が無い程度の能力削除
>「戦うのは本意ではないが、戦うのは翻意ではない!」

吹いたW
48.100名前が無い程度の能力削除
最後www

最近のファンタジーにおける吸血鬼の活躍が無ければ本当に似たようなものかもしれませんね
脳が無いのと腐ってるのどっちがマシなんだろうw
50.100名前が無い程度の能力削除
頼むから消さないでー!宮古ちゃん良いキャラしてるよね。パ略に吹いた。
54.80Admiral削除
レミィと芳香の掛け合いが楽しめました。
テンポ良く一気に読んでしまいましたが、読後感も良い感じ。
不死者繋がりでのお話も増えるかも知れませんね。期待しちゃいます。

後書きの響子ちゃん一人四役の意味が分からない…。
56.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
バンシーな二人カワエエ。
67.100名前が無い程度の能力削除
確かにそっくりさんですねw
いっぱい笑わせてもらいました