Coolier - 新生・東方創想話

境目の季節

2011/04/21 01:26:40
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もうすぐ、大好きなレティがいなくなる季節。
ずっと一緒に遊んでいたいのに、いつもアイツがやって来る。
アイツは春をそこらじゅうにまき散らし、
大事なひとを奪っていく。
懲りもせず、毎年、毎年、毎年……。
















私は寒気を操る冬の妖怪、レティ=ホワイトロック。冬が大好きだ。
でももうこの季節も終わり。
雪は徐々に解け、ふきのとうが芽を出し、桜が咲き乱れている。
そして、自分の力が衰えているのも感じている。この感じだと、自分は一週間もしないうちにこの幻想郷から消え去るだろう。
もちろん、それは不可逆的な現象ではなく、冬が来れば自然と復活し、力も回復していく。
それに加え、季節の変化は当たり前のサイクルだから、その事に別段不満はない。
ただ、私を慕う氷の妖精、チルノが別れを嫌がり、また春の季節を憎んでいるのが残念に思えてならないのだ。
私は冬にしか活動できないけれど、冬以外の季節も素晴らしいものなのに。





「今年こそは、レティを消させない。ずっと一緒にいるの!」
「それは無理よ、季節が移り変わるのが自然の摂理、お願いだから分かって」
「冬を終わらせない、そうすれば、レティとずっと一緒にいられるんだ」




春を告げるアイツをやっつける。そうすれば春が来なくなるだろう。
そう思ってアイツを探しに山へ行ったら、何やら春を告げる準備をしていやがった。
あろうことかレティもそこにいて、何か話をしている。
私と目が合って、のんきに私にも笑顔であいさつしたソイツに無性に腹が立ち、氷のつぶてを弾幕にして、ぶつけてやった。
ソイツは何故こんな目に会うのか分からず、両手で顔を覆ってめそめそ泣いた。ざまあみろ。
レティがこっちへ来る、レティを消し去るヤツをやっつけてやった。ほめてくれるのかな。
でもレティはそうしなかった。
ほめるかわりに私を叱った。




「チルノ、どうしてこんな事するの? 彼女も妖精でしょ」
「何で怒るの? こいつのせいでレティが居られなくなるんだよ」
「馬鹿ねえ、冬になれば会えるでしょ」
「レティ、私よりそいつが大事なの? 私なんかどうでもいいの?」
「あなたは大切な存在よ、でもね、私は次の季節にきちんとバトンタッチしたいの。この妖精に謝りなさい」
「嫌だ」
「そんなら、もう二度と遊んであげない」
「何でよ、何で属性違いのヤツに、レティの馬鹿!」
「待ちなさい!」




私はその場から逃げ出した。
本当は分かっていた。
アイツが来るから春が来るんじゃなくて、春が来るからアイツが来るのだ。
それは分かる、分かるのに、私の中に、八つ当たりする事で寂しさを紛らわそうとするもう一人の私がいる。どす黒い私の分身が。
属性違いとは言え、同じ妖精を傷つけ、レティにまで嫌われた。

「ははっ、あたいったら最低ね」




あの子は冷気を好み、この子は暖気を好む。
性質は違えど、同じ自然現象の化身。
どうにか尊重しえないのだろうか。
私のあの子への接し方は間違っていたのか?
しかし結論を出す前に、私は消え去ろうとしている。
だんだん意識が薄れ、冬までの眠りがやって来る。





一晩悩んで、大ちゃんとも相談して、アイツに謝ろうと決めた。
レティにも謝ろうと思い、あちこちを探してみたが、もう彼女はいなかった。
私に愛想を尽かしたのだろうか。それとも、もう消えてしまったのか。
自業自得、昔誰かに言われた言葉の意味をかみしめる。




さらに暖かくなり、アイツが春を告げにやってきた。
私は償うために何をすればいいのか、はっきりとは分からない。
でも不安を抑えて、空を飛ぶアイツの前に立ちはだかった。




「この前は、アタイが悪かった、ごめん。罰として、あたいに弾幕をぶつけてもいいよ」




アイツは驚いて、少し考えていたが、やがて両手を広げて春のエネルギーを集め、私の前に放出する。
私は目を閉じて衝撃を待った。



ぽんっ



弾幕の代わりに、暖かい風が私を包んだ。
気がつくと手にはタンポポの花束が握られている。
アイツは笑顔で、仇であるはずの私にこう言ったのだ。

















「あなたにも春の喜びを」

















そうしてアイツは去って行った。
他の場所にも春を告げるため、自分の役目を果たすため。
てっきり仕返しされると思っていた。
そして、実際たっぷり仕返しされた。
私の憎悪に満ちた汚い弾幕ではなく、綺麗なタンポポの花束という形で。
完全に私の負け。




「ねえ、レティ、バトンタッチってこれでよかったのかな?」




ひゅうっ、と私には心地よい冷たい風が吹いた。
きっとそれは最後の寒風。
確かに次の冬までレティに会えないのは寂しい。
でもたまには、冬以外の季節も愛してみよう。
これで私の話はひとまずおしまい。
あまり凝らずに書いてみました。
とらねこ
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コメント



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5.80奇声を発する程度の能力削除
チルノもリリーも良い子だ
6.100名前が無い程度の能力削除
小話みたいな感じで綺麗にまとまっていて良かったと思いました。
うわぁぁぁぁぁチルノもレティもリリーも皆いい子すぎるよぉぉぉぉ!!
何はともあれ、ご馳走様でした。