……200年。
それは今まで私が過ごした時間。
200歳の誕生日の日、私は一人部屋にいた。
部屋と言っても、端が欠けた机ひとつに、ぼろぼろのベッドだけ。椅子もない。豪華な食事もない。
机の上にパンが一つ。これが、記念すべき誕生日の晩餐であった。
……200年。
それは今まで私がこの部屋で過ごした時間。
200歳の誕生日の日、この部屋に来たのは一人。名前も知らない使用人だけ。
おめでとうございますの言葉もなしに、パンだけ置いて出ていった。
……200年。
それは今まで私がこの部屋で一人で過ごした時間。
200歳の誕生日の日、私は幾度となく思考した問いを、再度自らに問いかけた。
すなわち──
私の生きる意味って、なんだろう?
QED ~375年の意味~
なぜ生きてきたのか、と問われれば、死ぬことが出来なかったから。としか言えない。
私は吸血鬼だから、軽い外傷ならすぐ治る。
腕を切り落としたまま放置しても、血はすぐ止まり、数日で元通り。
敗血症にもなりやしない。
そして、この部屋には杭はない。それは優しさなのか、それとも。
しかし、そんなことはどうでもいいことだった。考えるだけ無駄だった。
考えたところで、魔法のかかったこの部屋から出られない私に、真実は振り向かない。
なぜ私は幽閉されたのだろう?
それすらも覚えていない。
生まれたときから既に幽閉されていたような気さえしてくる。
しかし、それもまた、考えるだけ無駄なのであった。
ところで、私はなぜか、魔法については一通りの知識を持っていた。
それもなぜかは覚えていないが、考えるだけ以下同文である。
私は術式を組み始めた。私に生きる意味があるかを教えてくれる、世界一優秀な計算装置を作る術である。
(ここでいう世界とは、私にとっての世界、すなわちこの部屋の中を指す)
私程度が持っている魔法知識では難しいかと思われたが、案外あっさり完成した。
床いっぱいに描かれた六芒星とヘブライ文字。それを見てふと思う。
……私の立ち位置がないな。
この大きさでは、部屋のどこにいても術に巻き込まれてしまう。
と言って、部屋を出ることもできないし、小さく書き直すと細かいところが分からなくなりそう。
……まぁいいや、私なんて、なんで生きてるのか分からない程度の価値しかないんだし。
──私は、構わず術を発動した。
六芒星が発光する。次いでヘブライ文字が発光する。次いで……
羽が、狂ったように熱くなった。
あまりの熱さと痛みに悶え、のたうち回る。
しかし、生まれてはじめて、このままでは死んでしまうかも、と本能が知覚した時から、痛みが徐々に引いていった。
実際に痛みが薄れているのか、感覚が麻痺して死に向かっているのか。
──どうでもいいや、考えても仕方ない。
自分が生きているか死んでいるか、とうとうそれすらもどうでもよくなった私の意識は、既にゼロに近くなっていた痛みの感覚とともに、静かに手放された。
…………あれ?生きてるや……。
次に意識を取り戻した時、私は床に突っ伏して寝ていた。
床の魔方陣は既に跡形もない。
あんな痛みでも生き残れるのか、吸血鬼ってやつは。
自分の生命力に半ばあきれつつ身体を起こす。
ふと、自分の右羽に目が行った。
……え、なにこれ?
そこには見事な宝石……かよくわからないが、とにかくそのようなものが8つもぶら下がっていた。
あわてて左羽を見ると、そちらにも同じように8つ。
それを視覚し、知覚し、落ち着いて、私は。
……あーあ、羽までこんなになっちゃった……
再び自己嫌悪に走った。
……まぁ、どうせ部屋からは出られないのだし、あまり影響はないのだが。
しかし影響がないということは、希望にもならないということである。
……本当に、私の生きる意味ってあるのかな……
ふと思ったその瞬間、羽が明るく光りだした。思わず身構えるが、今度は熱はない。
部屋を満たした16の光は、やがて徐々に収まり、頭のなかに答えをだした。
「意味はある。生きろ」と。
どうやら、本来の用途、演算装置としては、ちゃんと機能しているらしかった。
それにしても……生きろって言うのね?
私は歪んだ興味を覚えた。
じゃあ分かった。生きてあげようじゃない。事態は好転するのかしらね?
自分の発明品を、私はまだ、全く信用できていなかった。
それが出した答えが、あまりに希望と離れたものだったので。
その希望は本心ではなく、表面的なものであったのだが……
……250年。
それは今まで私が過ごした時間。
250歳の誕生日、私の苛立ちは限界にきていた。
部屋には、端の欠けた机、ぼろぼろのベッド。
晩餐はパンいっこ。
……250年。
なにも、なにも変わっていやしない。
何度となく検算した。本当に生きるべきなのか。
210歳、215歳、220歳、223歳、225歳、226、227、228229230231232233234235……
ついには毎年のように検算した。
──しかし、答えはずっと同じ。
「意味はある。生きろ」とだけ。
その度にストレスは増した。いくら壊しても壊れない壁を何度も何度も殴り、殴り、羽の宝石をもぎとって叩き割ったりもした。
……計算装置に修復機能をつけていたのは、幸運なのか、不運なのか。
……250年。
状況も、答えも。
なにも変わらない。
もううんざりだ。
──変えてやろう。
現状を変えてやろう。
最悪な方向に。
この頑固な演算装置の結論をもねじ曲げるような、最悪の状況に。
計算を始める。この狭い部屋のなかで思い付く限り、最悪な状況に陥る、その方法を計算する。
──家族殺し。
……なるほど。殺したのち集まった親戚があるいは殺してくれるかもしれない。
幽閉だとしても出られる可能性はゼロになるだろう。
まぁ、この部屋で一番賢い"彼"が言うのだから、間違いないだろう。
私はマイナス方向にのみ、装置を完全に信用していた。
家族を確実に殺りとげる方法を計算する。扉の破りかた、行動のタイミング、位置把握のための生気の捕捉方法、ベストな殺し方まで。
その殺し方に、私は興味を覚えた。
破壊能力。
すべてを根底から破壊しつくせる能力を習得、それを施行して殺す。
へぇ、面白いじゃない。
家族を破壊することで、現状まで破壊できるってことね。
早速、能力習得のための術式を組む。
発動したときの熱さも痛みも、今や心地よくさえあった。
──これで、ようやく。
どんな形であれ、現状が変わることを、何よりも望んでいた。
──某月某日。
わかんないもん、こんな窓もない部屋のなかじゃあ。
とにかく、計画は実行に移された。
扉の一点、修復機能ごと停止させることのできる部位を捕捉。掌の上に。
……どうせなら、派手にいこうか。
扉の周り、半径二メートルごと吹き飛ばすために必要な、14の点を一斉に捕捉。握り潰す。破壊。
瞬間、爆音とともに、きれいに穴が開いた。
……この間、0.5秒。
この日のために、どれだけ練習しただろうか。我ながら笑えてくる。
──生きてきたなかで一番努力したことが、家族殺し目的というのは。
廊下を悠々と歩く。
始めは壁すら突き抜けて最短ルートで飛んでいくつもりだったが、結果が変わらないなら、激情に動かされたように見せない方が罪は重くなるだろう。
……もっとも、先ほどから目撃者は全員潰しているのだが。
もはや、それほど家族を憎んでいたわけではなかった。
ただ、自分の現状打破のためだけに殺される家族が哀れに思えてきて、失笑する。
失笑しながら右手を何度も握りしめ、ばたばたと倒れていく音を聞きながら廊下を血染める私は、どう見えていたのだろう。
目撃者は全員すでに亡いから、確かめようもないのだが。
……先ほどからだいぶ殺したけど、まだいるのかな?
生気を捕捉。生命反応が10得られた。
……こんなに使用人がいたとは。
実は、結構な名家なのかもしれない。
……名家の幽閉お嬢様が一家惨殺。
まことに愉快なお話でございますわ。
生気捕捉の時に見えた、居間らしき広めの部屋の方へ歩いていく。その部屋の生命反応は、特に強いのが二つ、そこそこが二つ、弱いのが三つ。
……うちって何人家族だっけ?
まぁたぶん、両親と、兄弟姉妹二人といったところだろう。あと三つは使用人かな。
扉の前についた。
さぁ、この手で、私の運命を変え、自らを救い出しましょう。
扉の周り、半径5メートルを一斉に破壊するために必要な点、35個──なんだ、意外ともろいな──を一斉に捕捉、掌にのせ……破壊。
開いた穴の向こうを見る。
恐怖に怯えたような顔、4。使用人三人と……弟?
必死でなにかを呟く顔、1。たぶん姉。
信じられないといった顔、2。両親。
……まったく……名家の偉大なる吸血鬼だってこんなものか。
こんなやつらに幽閉されてたのか、私は……
血染めの居間。
屋敷に他の場所に残っていたあと三人の使用人は、もう片付けた。
この屋敷にはもう私しかいない。
シャンデリアも壊れ、暗くなった居間に光るのは、私の羽だけ。
計算の合間に調べたところでは、どうやらうちは六人家族だったらしい。
私は5歳の時、1歳の妹を殺したんだってさ。そんな理由か。
それだけで250……いや、245年か、とにかく幽閉。可笑しな話だ。
やはりうちは相当な名家だったようなので、余計罪が重くなったのだろう。
……そういえば、吸血鬼にとって身内殺しは自殺以上の罪であった、ような気もする。
その辺りがいろいろ相まって、こういう結果になったのだろう。
さて、計算結果が出たようだ。
内容はもちろん、「私はまだ、生きているべきなのか?」
答えは?
──意味はある。生きろ。
「…………何でよ……何でよ!!」
どうしてだ!?いったいどうしてだ!?
こんな大罪人に、なんの意味がある!?
お前は生きて罪を償えとでも言いたいのか!?
──否。
じゃあ、なんでよ!?
私はただ動けるだけの一介の肉片に過ぎないと言うのに!!
罪を犯した肉片は、動きを止めることすら許されないと言うのか!?
「……あんまり、だよ……」
──私は、果たして死にたいのだろうか。
本当に、死にたかったのだろうか。
……下の方から誰かの声が聞こえてきた。……親戚かな?ずいぶん早いな。家族の誰かが蝙蝠でも飛ばしていたのかもしれない。
……どれ程の罪になるだろうか。身内殺しはないからたぶん幽閉だろうが、今度は食事も与えられないだろうな。
……ふとテーブルの上を見ると、ちょうど晩餐時だったらしく、まだ食事が残っていた。
涙を拭いて、立ち上がる。
……245年ぶりのまともな食事、今のうちにたっぷりと堪能しないと……
私は血まみれの家族のとなりで、静かにステーキを頬張った。
その味すらも忘れていた、久方ぶりの牛肉は、自分の肉なんかよりもはるかに、甘い綺麗な味がした。
……300年。
家族を殺して50年。
私はいまだに生きていた。
今、部屋の中にあるものは、杭。以上。他にはなし。
……300年。
真の一人になって50年。
私はのうのうと生きていた。
食事は一切運ばれない。
屋敷にも、誰もいない。
……300年。
涙も枯れ果て50年。
私はまだまだ生きている。
計算結果は「生きろ」「生きろ」
死ぬのはとっくにあきらめた。
泣くのもとっくにあきらめた。
……おや。
屋敷の玄関に生命反応。
20年ぶりのお客様か。
出迎えができなくてごめんなさいね。
魔法が相当強力で、内側からはもう出られないんですの。
20年前はこなかったけど、うまくこっちに来ないかなぁ。
適当に壁を破壊して音を出す。
すぐに修復するから「壁切れ」の心配もない。便利だこと。
ほら、生命が近づいてきた。
結構強いな。私ほどじゃないけど。
お仲間さんなのかな?
鬼さん、こちら。なんちゃって。
「……そこに、誰かいるの?」
ほらきた。
「うん。いるよー」
声を出すのも久方ぶり。
ちゃんと出て安心した。
「……貴女、何をしたの?」
そりゃ疑問に思うよね。
女の子の部屋一つに、めちゃくちゃに魔法かかってたらさ。
「んー、ちょっとね」
「ちょっとって……ちょっとじゃここまではされないでしょ」
「ちょっとでここまでされる家だったのよ、うちは」
私にとってのちょっとは常識とはかけ離れておりますけど。
「……ちょっとまって、解除するから……」
「ん、魔法できるの?」
「……これでもちょっとはかじってるのよ?」
「これって言われても見えないんだけど」
「そりゃそうか。……ほらできた」
「おぉ、外からだとそんなに簡単なんだ」
「うん。おじゃましまーす……」
ガチャ。
部屋としては50年ぶりのお客様。
やっとおもてなしができる。
「うふふ、はじめましてー♪」
「はじめまして……ってなに、この部屋……ひっ」
杭を見て戦慄する吸血鬼。
髪は青色。背は同じくらいかな?
「ん?どうしたの?」
「だ、だってほら、杭が……」
「あぁ、気にしたら負けよ」
「負けって……杭しかないじゃない、この部屋……」
「うん、そうね。ついでに食事もないわ。まともなおもてなしができなくてごめんね」
「いや、それは気にしないけれど……?ちょっとまって、ここに前に誰か来たのは?」
「ん?えーと、20年前?」
「にじゅ……!?」
「あぁ、この部屋に誰かが来たのは50年前が最後よ」
「50!?あなた本当に何をしたのよ!」
いやー、驚く姿もすごく新鮮。
他人がいるって楽しいなー
「何って……うーん、どう言えばいいのかな。一家惨殺?」
「!?」
おぉ、引いてる引いてる。
一挙一動がすごく新鮮だ。
「ち、ちょっとのことじゃないじゃないの……」
「ちょっとよ。あんなやつら、もともとなんの価値もなかったもの」
「な、なんで……殺し、たの?」
ふふ、大罪者と二人でお喋りするのは、さぞ恐ろしいでしょうねぇ。
「なんで?……うーん、現状を変えたかったから?」
「な、何かされていたの?」
「何も。一切何も」
「じゃあ……」
「何もなのよ。一緒に遊んだり、食事したり、飛んだり走ったり、泣いたり笑ったり。一切、何もされなかったのよ!……250年間、ね」
……声が出ないみたい。
300年間閉じ込められた少女の悲しみや苦しみが、しがない吸血鬼のあなたに理解ができるでしょうか?
……できないでしょう?そうでしょう?できてたまるもんですか!
「……だから私は、壊したのよ」
「……壊した?」
「ええ。こうやって……」
壁を指差す。
相手が壁の方を向いたのを見て……右手を握る。
どん。
壁が弾けた。
……あ、魔法解除したんだっけ。もとに戻らないや。
「……なにをしたの?」
「壊したのよ」
「……説明になってないわ」
「壁の弱点を突いたのよ」
「……壁の?弱点?」
「そう。たとえば貴女の弱点は……これ」
手の上に彼女の"目"を召喚する。
「……これは?」
「たぶん、あなたの心臓か何かの一点じゃないかしら?」
「──!?」
「あとはこれを握りつぶすだけ」
そうすれば……
「ぐ……は……」
バタッ
「"壊せる"のよ」
もう青髪の吸血鬼は動かなかった。
ごめんなさいね。本当に。
お喋りするのは楽しかったけど、それより私は、お腹が空いていたの。
「それにね……」
壁はいつのまにか元通りになっている。
「この魔法、解除されても数分で自己修復するのよ。あなたがこの先数十年、空腹に耐えられるとは思えなかったから」
だからこれは、私の優しさなのよ?
勘弁してちょうだいね?
……ただ、"彼"は、殺すなって、叫んでたけどね……
私がはじめて計算装置を裏切った瞬間だった。
その吸血鬼の肉は、私とは違った苦さを持っていた。あまり美味しくなかった。
とても空腹がおさまるとは思えなかった。
……それでも空腹はおさまってしまった。
──あとから考えれば、私はなぜ、この時脱出しなかったんだろう。
すべてを諦めた、そのことは、自らのすべての行動をも、縛ることになっていたのかもしれない。
その後、私が後悔することはなかった。
話し相手になっていたとて、どうせいつかは餓死していたろうし、その時悲しみが生まれるようになってしまうかも知れなかったから。
あれから20年。私は次の食料を待っていた。
……来た。生命反応2つ。
屋敷の中に入ってくる。
早速壁壊しで音を出す。
近づいてきた。
なかなか強そうな同族さん一人と……なんだろ、よくわからないけど、結構強そうなの一人。
「……そこにいるのね?」
「うん。ここにいるよー」
「………、ここ……」
「どう……。…………」
二人はドアの向こうで何やら話し始めた。入るかどうか議論しているのか?
……いや、魔法解除の方法だろう。
まぁ、それは暫定的な解除に過ぎないわけだが……
「今、開けるわね」
「はいはいー」
能天気にそう答える。
ガチャ。
「おお、早いね。結構魔法やってたの?」
「私じゃなくて、連れが、ね。本職なのよ」
「初めまして。しがない魔法使いよ。私たちは、貴女を助けに来たの」
「助けにきた?偶然立ち寄ったんじゃなくて?」
「そう。私が望んだことよ」
「レミィは言い出すと聞かないからね」
「いいのよ、ある程度のわがままは」
なんか愉快なお客さん達。
私を助けにきたって、どういうことだろう?
「私が幽閉されているって、知ってたの?」
「ええ、もちろん」
「……なんで、助けようと思ったの?」
こんな生きる価値も分かってない私を。
「まぁ、表向きには、名声よね」
「名声?」
「そうよ。知ってた?貴女、ヴラドツェペシュの末裔なのよ」
「……それは……」
70年前に家系図を見て知った……けど
「……本当に?」
「ええ。間違いないわ。そして、本心は……単純に、かわいそうだと思ったのよ」
「……何よ、それ……」
「370年、かしら。そんなに長い間一人で閉じ込められていたなんて。私にはとても耐えられない。……よく、頑張ったわね」
……
「……私は、なにも頑張ってないよ。諦めただけだもん。泣くのも、死ぬのも……」
「諦め、というのも決断のひとつだし、あなたのそれは普通の諦めじゃない。つらい方向に諦めている。皆はそれを、諦めとは呼ばないわ」
「……」
「……お疲れさま。そして、おめでとう。今日からあなたは、つらいことなんて一切無い、ほんとうに自由な毎日を送ることができるわ」
……、……
「……嘘」
「嘘じゃない」
「嘘よ」
「嘘じゃないわ」
「絶対嘘だ」
「絶対、嘘じゃないのよ」
……強情だと思った。
彼女も、私も……
「あなたが望むなら、いつだってそれは現実になるのよ」
「……そんなはず、ない」
「ある」
「いや……ないんだ」
「あるのよ」
彼女たちが入ってきてから、二分、経過。
「……あると、思うの?」
「絶対に。……世の中でも数少ない、絶対の一つよ」
「だって……」
さっき魔法解除されたはずの壁は……
……壊れたまま。直って、ない……。
「!………」
「ほらね。パチェが解除したって言ったんだから間違いはないのよ」
「やたら複雑だったけどね。でも複雑にしただけ。50年生きてるだけでもあっさ
り解けるわ」
……………、………。
「……ねぇ」
「どうした?」
「最後に一つ教えて?」
「………」
「……これは、現実、なの?」
……涙が、止まらなかった。
50年前、枯れ果てたはずの涙が。
許容量を遥かに越えて、溢れ出してくる。
それは生まれてはじめての、嬉し泣きだったのかも、しれない。
「……もちろんだ。我が……妹よ」
優しく、しかししっかりと、私を抱き止めてくれたその吸血鬼は……
私にとってかけがえのない、大切な姉となっていた。
にしても50年ぶりのお客様って、誰だったのだろうか
もう8?9?回ぐらい読んでしまった・・・
フランの部屋に入って来なかった人って誰なんでしょうか…