この作品は東方プロジェクトの二次創作小説です
CAUTION! 原作にはない設定 表現を多分に含みます。
苦手な方はもどるをくりっくしてください
なおこの作品は『外の世界から『起』』の続きとなっています
外の世界から 『承』
森の中を転げ回って、泥の斜面を這うように逃げてきた。
「ふぅ・・・」
一張羅の着物は服の中にまで泥が入り込み、肌にべたつき、草木に引っかけたおかげであちこちが破れたりのびたりと二目と見られない有様となっている。
紫に誘拐された先、この世の理不尽と友人関係の希薄さや悪友の暴挙に目眩がする。
紫は一体何のつもりで僕に凶刃を向けたのだろう?
先ほどの森の入り口でのやりとりを思い出す。
「貴方、一体何者なの?!」
「は?」
あまりにもあまりな台詞、流石に失笑を通り越して何も言葉が出てこない。
以前から考えてはいた。
紫に対する陰口で 『彼女はだいぶ年を召している』だの、『いい年して少女趣味的な衣装を着るのはどうか?』とか『ば○ぁ』など、本人が聞いていたらスキマに引きずり込まれて二度とこの世に帰ってこれないような仕打ちをされると考えられる話は幾度か耳にしたことがある。
その陰口と愚痴をきいて。主に霊夢や魔理沙、それと他の神様のをとりわけ良く聞いた気がするが その誹謗中傷に僕は 「人の陰口には感心しない」 「妖怪なんだから歳は関係ないだろ?」「彼女は十分魅力的」などと陰ながら彼女をそれとなく擁護してきたのだ。
しかし、今ならはっきりといえるだろう。
「歳をとりすぎて痴呆が始まったのか?」
「・・・・・」
「いや、君が真剣なのはよくわかっている。 僕としても里にそういう苦労を抱えている人たちはたくさんいる事は知っているんだ。 僕はそういう人々を非難してないがしろにするつもりは毛頭ない、 これっぽちも無いんだ」
「ずいぶん、妙な事をいうのね 貴方・・・・」
「妙? ああ、妙だろうね、君にとっては。 何せ君は今、僕を経験や知識で正しく認識することはできないのだから」
流石に腹に据えかねる、一体どうしてくれようか。
「・・・・なるほど、その通りね。 私は今貴方の事をはかりかねている」
僕を見据えていた目が、さらに厳しくなる。
一見すると耄碌しているようには見えないのだが。
からかうにしても意図がわからないし、やりすぎの感がある。
見た目は全くかわらないのに、まるで別人のように思える。
僕の知っている八雲 紫とは違う?
紫は「ふむ」と考え込む仕草をして僕に問いかけた。
「私の境界に干渉して、幻想境への道を開いた貴方に問うわ、 如何なる用事で此処にきた?」
「・・・・・」
今度は僕が黙り込む番だった。
どう答えればいいか解らない、というのもあったが。
今彼女が僕に突きつけている日傘、 その先端に霊気を集約した輝きが現れたからだ。
弾幕勝負で見られる美しい弾丸、当たるとかなり痛いはず。
もちろん彼女の本気のそれは僕が当たれば死に値する死に神の鎌に等しい代物だ。
僕の理解する所では、彼女は非力な人間に酔狂や芝居でこんな事をする奴ではない。
彼女は本気なのか?
「答えられないようね? そんなに人には言えないようなことなの?」
「ま、待て! 君はいま自分を見失っている!」
「・・・・あなた、死んでもらおうかしら?」
幻想境最強の妖怪、その殺意が僕の体を打ち抜く。
どうやら彼女は僕を蓮根の根にしたいらしい、いくら僕が話をしようとしてもききやしなかった。
「・・・っ!」
「ほらほら、うかうかしてると当たるわ」
危ういところで彼女の光線を避ける。 避けた先の岩にきれいに穴が空いた。
汗が噴き出る。
しばらくの間、こうした一方的なやりとりが続いていた。
逃げようにも逃げられない、もちろん相手をねじ伏せて説教するなどもってのほかだ。
「や、やめてくれ! 僕が何をしたっていうんだ!」
「私の境界に干渉してまで侵入してきたのに、今更なんの命乞いかしら!?」
「君がやったんだろうが!」
「ふざけるな!」
次の光線が放たれる。
それを感じた僕は滅茶苦茶に転び回ってそれをよけた。
彼女は僕をなぶり殺しにするつもりなのか?
彼女が本気なら僕はもう100回は死んでいる。
僕は大木に回り込んで彼女の視界から少しでもはずれるように心がける。
「はぁ・・・・、貴方一体 何なの? さっきから逃げてばっかり、つまらないわね」
やはりおかしい、これが弾幕勝負だとすると彼女のスペルカード宣言がまだでていない。
スペルカード戦の提唱者 博麗 霊夢の近しい存在として紫は幻想郷のルールを破りっぱなしだ。
本当の妖怪の闘争ならそんなこともあり得るかもしれないが、弾幕勝負につきものの幾何学型の美しい弾幕すらない。
殺意むき出しの、超剛速球のみ。
やはり、彼女は僕の良く知る八雲 紫ではないのかもしれない。
「飽きてきたわ」
「うっ!」
耳元で紫の囁き、僕は全力で転げ回って彼女から離れた。
スキマ妖怪である彼女から逃れることはできないようだ、瞬間的に距離を詰められてしまう。
「その、腰のものは飾りなのかしら?」
「!」
あわてて腰に手を伸ばす、存在を忘れていた。
僕の宝物の宝剣、草薙の剣。
「死人に口無し。貴方、なにも口を割らないという点では同じね」
彼女が陰惨な笑みを浮かべる。
「死人と」
やぶれかぶれで渾身の膂力をこめて柄を握り
「残酷に、この大地から往ね!」
無我夢中で剣を振り切った。
「――っ!」
「お・・・」
彼女の放った刃風は僕に届く事はなかった。
草薙の剣は紫の放った刃風をはじき返し、返し矢のように彼女めがけて飛んでいく。
それと同時に草薙の剣は僕の力とは関係なしに、
あたりに桜吹雪のような霊気をはらんだ竜巻を生じさせた。
「あ・・・・・」
紫は突然の事に不意を突かれたのだろうか。
刃風をかわして崩れた体勢のまま、あっけにとられてその桜吹雪を見上げている。
今だ!
僕はその一瞬の間隙を縫って、全力で森の奥へ走った。
どれほど走り続けただろうか?
斜面を転げ落ちたり、茂みをかき分けたりして必死に逃げた。
森の中なら空を飛ぶ彼女からも逃げられるかもと思っての行動。
彼女はそれきり僕を負ってくる事は無かった。
よくよく考えれば境界を操る彼女には通用しない手段なのだが。
それでも彼女が追ってこなかったのは、草薙の剣の威力に臆したからなのだろうか。
それとも森の中にはいって服が汚れるのを嫌ったからだろうか。
とりあえずは助かったらしい。
「はあ―――――っ」
ながーいため息をついて改めて自分の有様を確認。
激しく家に帰りたい。
今日は以前に紫にもらった山菜を食べて酒を楽しむつもりだったのに。
どうして僕はこんな目に遭っているんだ?
あの紫は一体何者なんだ?
家に帰りたいのは山々だったが、帰ろうも今すぐ森の外に出るわけにはいかなかった。
あの凶賊 八雲 紫が外で待ちかまえているかもしれないのだ。
この晩は森で過ごすしかない。
「・・・・ふぅ」
握りしめていた剣を掲げてみせる。
これほどの霊力を秘めていたとは。
刀身が夜の露を吸い、月の光を受けて蒼く光っている。
「助かったよ」
剣におしゃべりをしてみる。
返事はない、当たり前だが。
魔理沙が見たらきっと笑うだろうな。
これを多数のがらくたと持ってきた魔理沙に感謝する。
帰ったら今までのツケをチャラにしても良い。
「川を探すか、な。 喉がかわいた。服も汚れてる」
逃げ切ったと思うと、四肢に疲労がどっと吹き出てきた。
川のせせらぎが聞こえてくる。
ああ、やっと水か飲める。
思うところは山ほどある、しかし今は水のことが一番大事だ。
激しい緊張で喉がからからだ。
川の橋まで行って、身をかがめる。
一口すくって、喉がごくごくとなった。
うまい
そうしていると、疲れも幾分癒えてくる。
汚れた上着を川で洗おうと帯を一つ解く。
「わああああああ!!」
「!? 何だ!」
剣に手をやって、辺りを見渡す。
紫が追いかけてきたのだろうか?
「あっちいけ!」
林のむこうから怒声のような悲鳴のようなどっちつかずの声が聞こえる。
「・・・子供の声?」
「この! あっちいけよーかい!」
「おなかへったぞー?」
「わたしは、おまえになんかよーはないよ!」
「そーなのか?」
「えいっ! やぁ!」
「子供のお肉って美味しいからね、 いっただきまーす」
「きゃあ!」
林の薄暗い場所で二人の少女が向かい合っている。
ただし、片方は怪力の妖怪だ。
「止めろ!」
殴り飛ばされた子供と 妖怪の間に割って入った。
どうやら以前、霊夢や魔理沙が話していたルーミアとかいう妖怪だろう。
妖怪ルーミアは紅い口を大きく開けて威嚇するように僕に向き直った。
正直、おっかない。
「なに、あんた? あんたも一緒に食べられたいの?」
「生憎、妖怪に進んで食べられるような趣味はないよ」
「そーなのか?」
嬉しそうに大口を開けて、闇の妖怪が歩みよってくる。
僕はすかさず剣を抜き放つ。
「おっと、 それ以上寄らない方が身のためだ」
「そーなのか?」
この無知な妖怪に講義してやるとしようか。
「この剣は草薙の剣、神獣八岐大蛇を斬った宝剣だ。 神や仏はどうとして、君みたいな悪霊まがいの妖怪には頗る危険な剣さ」
「そ、そーなのか?」
「お互い、痛い目を見ないうちに引いた方が益になるだろう?」
「そ、そーなのかー」
ルーミアはおとなしく引き下がった。
剣の霊力と僕のはったりにビビったらしい。
「危なかったね」
「・・・・」
子供は殴り飛ばされ、うずくまって僕を見上げている。
「駄目じゃないか、こんな夜に森に入るなんて」
「ねえ」
「なんだい?」
この子供、どうやら女の子のようだ。女の子らしい着物を着ている。
しかし、この顔以前に見覚えがあるような?
「あなたも、ようかいなの?」
「・・・だったら君を助けたりはしなかったろうね」
「えものをよこどりしたかった」
「・・・僕は人間さ。 実はさっき、もの凄くおっかない妖怪に襲われて、やっとやっと逃げてきたんだよ」
八雲 紫にくらべればルーミアなんて赤ん坊みたいなものだ。
「君と同じだよ」
『同じ』だと言われたからか、
少女の表情がゆるんだ。
「うん・・・ たすけてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「うん」
少女の手を取って起こそうとするが、体が痛くて立てないらしい。
仕方ないので、抱えていくことにしようかな。
少女を抱きかかえると
「う・・・」
「ん?」
「う・・・ああ、うああああぁぁ・・・うぁあああん」
漸く、人に会えて安心したのだろうか。
少女は僕の着物の襟に顔をこすりつけて泣き始めた。
「近くに川がある、ご飯もあるから。 一緒にいこう」
僕もこの少女に会えて、本当の意味でほっとしていた。
落ち着いた少女と一緒に紫(ここに来る前の正常な方)が置いていった饅頭と米を食べながら事の経緯を聞いていた。
この少女、どうやら親類一同を妖怪に殺されたらしい。
「・・・で、君は家の短刀を持ち出して敵討ちを?」
少女は饅頭を囓りながら頷いた。
恐ろしい根性、捨て身の上とはいえ、一人で妖怪を殺そうと森の中まで入り込んだというのか。
無謀
僕のよく知る少女達、霊夢や魔理沙も大概無謀だが、この少女も負けず劣らずの猪突猛進ぶりだ。
「家族の敵討ちをしようとする意志は見上げたモノだけど、 実際返り討ちにあってちゃしょうがないな」
「ちがうもん!」
何が違うというのだろう。
「あいつじゃなかった!」
「・・えーっと、つまり?」
「あんなにつよいやつじゃなかった! もっと大きかった!」
お目当ての敵に巡り会う前にルーミアにあってしまったらしい。
しかし、もっと大きいならもっと強いと思うのが普通じゃないだろうか?
「じゃあ、僕も手伝ってあげよう、助太刀だ」
「やだ!」
「君一人じゃ、無理だよ」
こんな年端もいかない少女の力では雑魚妖怪にすら敵わないだろうに。
「ひとりでやる わたしがもっとおおきくなって ひとりでやる!」
「・・・・」
これだけのことがありながらも、一人だけになっても人生をあきらめているわけではない。
彼女の負けん気と根性には心底感服した。
それとも、妖怪に一人で敵討ちをすることが彼女なりの家族への供養なのだろうか。
腹が満ちた少女は僕の腕の中で寝てしまった。
昔の魔理沙みたいだな、あのころは今みたいに品物を勝手に持っていくこともなかったので、可愛かったのだが。
霧雨の旦那はどこでどう教育をしくじったのだろうか?
「やれやれ」
少女の寝顔・・・
・・・ん? この顔、どこかで見たような・・・?
翌日の朝、おそるおそる森の外に出てみるが、紫が現れる事はなかった。
少女も同行させての事である。放っておく訳にもいかない。
なにせ彼女は僕と同様天涯孤独の身なのだから。一度助けてしまったからには面倒はみなくては。
この少女やはりどこかで見たことがある気がする。
以前に香霖堂にやってきたことがあるのかな?
猛烈に既視感がある。
僕にこんな子供の知り合いなんていただろうか?
里にたどり着いた僕たちは彼女の生家の前まで来た。
戸を開けてみるが、誰もいない。
本当に誰もいないんだな・・・・。
「・・・・」
「・・・もしよかったら、僕の店までくるかい? 香霖堂ってお店でね、ご飯ぐらいならごちそうできるよ」
「うん!」
香霖堂までの道は長い、博麗神社によって霊夢に送ってもらおうか。空を飛べる彼女ならこの少女一人ぐらいは抱えて飛んでいけるだろう。
あと、あの紫の凶行についても聞かなくては。
しかし、今紫にあったらどうなるんだろう?
昨晩のように襲われてしまうのだろうか?
寒気が走る、あんな思いは二度と御免被る。
「ねぇ ねぇ」
「なんだい?」
服の端を引っ張る少女、物欲しそうに店先から立ちこめる旨そうな臭いの前で足を止めた。
「おなかへった」
食事をとるために店に入った。
簡単な飯を少女に食べさせる。
里に変わった様子は無い、村人全員が悪人に豹変しているなどということもなく至極、自然な生活。
見慣れた里の様子だったが、ただ一つだけ、恐ろしい違いがあった。
『文文。新聞』
鴉天狗が編集する幻想境の外の世界の文化を真似た読み物で、非日常的なことからどうでも良いことまで書かれている。
内容には全く興味はない、問題は紙面の上隅に書いてある情報だった。
「これは、・・・一体どういう事だ?」
驚くべき事に、日付の年号が、十数年『前』になっていた。
どうやら僕は奇跡的に大昔の新聞を手に入れたらしかった。
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私は、もう長い間掃かれていない境内の賽銭箱の上で呆然とあの出来事を反復していた。
油断では、なかった。
突然、幻想境の結界がゆるんだのだ。
そして、能力に介入される今までに味わったこと無い感覚。
神以上の能力を持つと自負する『境界を操る』能力。
それを一笑にふされたように侵入者を拒むこともできず、能力を浸食され、スキマを空けることを強制的に禁じられた。
慌てふためく間も、侵入者が森の近くにいることだけは知覚できていた。
能力が戻ると、すぐさま侵入者の元へと境界をつなげたのだ。
そこにいたのは銀髪の蒼い衣装の男だった。
男は訳のわからないことを言っていて、全く要領をえなかった。
その眼鏡の男の態度が気に入らなかった、まるでこの私を知古のように馴れ馴れしく話しかけてくる。
五月蝿い蠅
強いというわけでもなさそう。
しかし自分の能力を封じられたという事実に怖気が走った。
殺すか
最初はなぶり殺しにでもしようかと興が乗った。
剣を抜いたら愉快に殺そうとでも思ったが、なかなか剣を抜かない。
何を出し惜しみをしているのか
剣のことを諭してやると初めて気付いたように驚いていた。
おかしな奴
男が漸く剣に手をかける。
私は渾身の霊力を掌に籠めた。
かまいたちで木端微塵にしてやろう
暗い情熱が身を焦がす。
だが、そうはならなかった。
私の渾身の一撃は意外にも易くはじかれる。
剣を抜いた男の刃風が私の領域を支配している。
辺りには、噎せるような香がただよい、桜吹雪が舞っていた。
中心には剣を抜いた男の立ち姿。
一瞬にして、そこはその男の領域となった。
心奪われてしまったのだ。
美しいとおもった
今まで見た、どんなものよりも
我に返ると、そこには男の姿はなかった。
知覚を広げて男の位置を探ると森の中を転げ回って走っていた。
もう、男を追う気力はなかった。
あの垣間見た景色を残しておくために、私は男を殺さないことにした。
それがあの晩に起こった異変。
そして今・・・・
先代の博麗がいなくなってからかなりの時間がたっている。
早く代理を立てるべきなのだが、なかなかふさわしい人間というのはいないモノだ。
「・・・あら?」
参拝客が石段をあがってくる気配がする。
巫女はいないのに酔狂な人間もいる。
父親と娘だろうか、手をつないでこちらに歩いてくる。
「・・・! 貴方」
「やぁ、 昨日の晩、その節はどうも」
あと、自分で駄文というと怒られますよ。
卑屈になりすぎはいけませんよねー
呼んでくださってありがとう。