[はじめに]
・長大になってしまったので連載モノの体裁を取らせていただきます。
・不定期更新予定。
・できるだけ原作設定準拠で進めておりますが、まれに筆者の独自設定・解釈が描写されていることがあります。あらかじめご注意下さい。
・基本的にはバトルモノです。
以上の点をご了承頂いた上、ぜひ読んでいってください。
前回 I-2 K-2
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【 J-2 】
妖怪の山の中、鈴仙は人知れず愚痴をこぼしていた。
「――なんなのよアレ。いくら神様でも、これは無いでしょ…………」
薄暗い森の中、木にもたれ掛かりながら乱れた息を整える。
愚痴をこぼしながらも周囲の警戒は怠らない。もちろん頭の片隅で今日の自分の巡り合わせの悪さを恨むことも欠かさない。
「ほらほら~休んでないで、動いた動いた~!」
乱立する木々の合間から、諏訪子がピョンと踊り出てくる。息も絶え絶えな鈴仙と違い、諏訪子の声は楽しげに弾んでいた。
「あーもう!はいはいっ、やりますよっ!!」
呼吸を整える間もくれない相手に舌打ち混じりで応え、彼女は背にしていた木の影を飛び出す。脇から現れた諏訪子から一足飛びに距離を取り、鈴仙は右手を構える。
突き出した一本の指、銃の形に握った右手の人差し指の照準を素早く諏訪子に合わせる。対象との距離は数メートル。この間合いなら外さないという絶対の自信が、彼女にはある。
心の中でトリガーを引く。
銃身から出た弾は三発。
その一発目が、真っ直ぐな弾道を描き、諏訪子の眉間を一息に貫いた。
続く二発もそのまま諏訪子へと駆け、それぞれに急所にヒットしてゆく。
ほぼ同時に三つの急所に穴を空けられた諏訪子が――パシャアン、と水の音を響かせてその姿を無くし、大地を濡らした。
「わーお、なかなか容赦無いねー。いいよいいよー」
諏訪子の声は依然健在。
それもそのはず、鈴仙が頭を打ち抜いたのは、水で作られた諏訪子の分身にすぎなかったのだから。
諏訪子についていった先あったのは小さな池。その池の名は、“大蝦蟇の池”という。
外の世界から突然やってきた“御柱の墓場”とは違い、妖怪の山がここにあった時からその池は存在していた。
さほど大きくないその池は、鬱蒼とした森のなかにポツンとあり、暗い水面に蓮の葉を揺らしている。
花が咲いている時は、池の雰囲気と相まって、それは幽玄な池なのだろうが、花期も過ぎた夜中の池は、魔界の入り口のように、暗く底の知れない恐ろしさを醸し出していた。
霊験のある池なのか、畔には小さな祠がひとつある。それが何を祀っているのかなんてことは、もちろん鈴仙は知らない。
その場所まで案内された後、いざ戦いを始めようかとなると、諏訪子はその池に手を突っ込み、魔力を込めて自らの分身を作り出していった。
――あの写し身は間違いなく、媒体となる水が無いと発動しない。つまり水場が必要不可欠なんだ。
諏訪子の分身がいた場所へと目をやる。およそ人一人分程の体積の水分が地面へと溶け、小さく水溜りを作っていた。
――なんで私はアウェイだってのに、普段ここがホームの敵に案内なんか任せたのかしら…………。
要するに、鈴仙は完全に誘い出された形になったと言わざるを得なかった。
「はいはい、次行くよ~」
諏訪子は矢継ぎ早に新しい分身を送り込んでくる。さっきのもので五体目。
絶え間なく送り込まれる分身に押し込められるように、鈴仙は開けた湖付近から離され、ひとりで再び木々の合間にいた。
術者の諏訪子からそう遠くにいるわけではないが、無策で飛び込むには距離がある。
遠距離射撃もできないことはないが、遮蔽物が多すぎた。木々をなぎ払ってまで諏訪子にダメージを与えるような火力は彼女には無い。
当の諏訪子は、依然変わらず池の淵に座り込んでいた。
写身のクオリティはそれほど高いものではなく、今永遠亭で行われている輝夜の分身ほどの写実性は無い。元が水から生成されているだけに色がついていないのだ。
だが、命を吹き込まれたように水の塊は攻撃を仕掛けている。放たれる水弾にもそれほどの攻撃力は備わっていなかったが、それでも際限無く出てこられては数で圧倒されてしまうだろう。
――そんなのを自分で作っちゃうんだから、神様っていうのはズルいわよね……。
これだけの質の写身を作るからには、神とは言え、かなり力を使う術であるはずだ。
このままを維持し、持久戦に持っていくのも鈴仙に残された選択肢のひとつだが――彼女はあえて、それを選ぶ気は無かった。
相手は地上の神格クラス。どう考えても私の方が格下だ……なら、
彼女の赤い瞳が一際紅く輝く。
狂気の魔眼に、灯が燈る。
「ここは……真っ向勝負しかないでしょ!!」
鈴仙の気配を見つけた分身が木々の隙間を縫って背後から襲いかかる。
放たれる水弾。完全な死角からの攻撃。いくら分身のものと言えど、不意を突いて当たればそれなりの威力となる。
が、それはほんの目の前の敵に弾を当てることが出来ない。
いや、分身の視点からは当たって見えているが、実際の鈴仙には当たっていない。
狂気を操る能力――分身の眼を借り、実際に操っていた諏訪子も一瞬狐につままれる。
そしてその一瞬こそ、鈴仙が狙っていた一遇。
彼女は諏訪子の分身に軽く微笑みかけると、それを無視し、駆け出す。視界を遮る木々を躱すようにして進み、一気に突き抜ける。
木々を抜けた先、池畔へと躍り出した。
そのまま、鈴仙は諏訪子へ向かって走る。遮るものは、もう何もない。
迂闊に飛び出せば返り討ち。だが、諏訪子には分身から意識を切り離すタイムラグがある。分身を操って迎撃に向かわせるには距離を詰められすぎていた。
諏訪子は分身を放棄し、自身で迎撃の構えを取り、そして――――
両者が交錯した。
すれ違いの様は、まさに一瞬の出来事だった。
「―――ふふ、はははっ!やるぅ~!!幻想郷のウサギは強いんだね!!」
「……それはどうも」
鈴仙が振り返るより先に、諏訪子の楽しげな声が響いた。
それを聞き、彼女はゆっくりと振り向く。すでに神様はこちらを向き、声に釣り合った楽しそうな顔でいた。
鈴仙はこっそりと自分の身体を状態に意識を巡らせてみる。――怪我は無し。
そして目の前の諏訪子を観察する。――袖に穴……でも、ぱっと見た限り、やはり怪我は無し。
そこまでを把握した上で、鈴仙は内心で愕然とした。
もちろんそのことを顔には出さないように努めていたが、それでも彼女の驚きは滲んでしまっていたかもしれない。
鈴仙の放った弾は、“当たっていなければおかしい”のだ。
彼女の“狂気の瞳”は、中・近距離で絶大な威力を発揮する力だ。
対象の感じる波長を狂わせ、距離感に異常をきたせる。相手が視界に映るすべてを正確に位置認識できなくなるこの能力を発動した以上、あちらの攻撃はほぼ当たらないし、こちらの攻撃はほぼ無条件で当たる。
相手の脳に直接、“ズレた世界”を見せているようなものだ。視覚のある生物な以上、眼から入る情報を切り離すことはできない。
この能力を使い、視覚的に優位な状態で一撃を見舞う。これがこの奇襲の意義である。
決して一撃で片がつくとは思っていなかったが、ここで決めておけば後々体力的にも精神的にも半歩は有利になるであろう、重要な一撃でもあった。
だが、その思惑はこうしてあっけなく外れてしまった。
至近距離で放った弾を、諏訪子は紙一重の所で避けたのだ。
目の前の自分、そしてその攻撃に対する、前後左右全ての距離感が完全に狂っているというのに、正確に。
この能力を知っていて対応したのか、知らずに適応したのかはわからない――どのみち、同じことはもう通じないだろう。
一度見せて対応されることを恐れて、今回の戦闘では昨夜のように使用しっぱなし、ということはしなかったのだが、もう遅い。
この奇襲で鈴仙は、諏訪子の袖に付けた傷と引き換えに自分の能力を晒してしまったのだ。
どう考えても、割に合わない買い物である。
――過ぎたことを考えても仕方ない。考えろ。手持ちの武器で何ができる?
控え目な風が木々を揺らす。
静かに揺らぐ湖面には満月も浮いている。
二人は振り返り、はっきりと向かい合っていた。
二人を遮るものは、今は何も無い。
「いやぁ~まさかこんなに戦える子だとは思ってなかったな~」
諏訪子は腕を組ながらうんうんと唸っている。
鈴仙はそれに対しては何も答えない。彼女は今必死にいろいろな作戦を検討中だ。そうそう独り言にまで構ってもいられない。
「あ、今ので気分悪くしたんならゴメンね?でも、お互いのことよく知らないんだから仕方ないよね。――さて……うーん、次はどうしようかなぁー」
そんな鈴仙そっちのけで、諏訪子はブツブツと喋っている。
「ん~~~~………よし!決めたっ。ちょーっとだけ本気出しちゃおっかなっ。ウサギさんも強そうだし、少しくらいなら大丈夫だよね」
鈴仙は一瞬、背筋にピクンと微かな電流が走るのを感じた。
諏訪子の様子は変わらない。だが確かに、殺気――とは違う、プレッシャーのような何かを感じ取った気がしたのだ。
違和感、疑問、不自然さ……やっぱり、殺気?
当の鈴仙としても、その一瞬の気配をどう形容していいのかわからなかった。
結局、その時感じたものがなんなのかわからなかったが、それは瞬間的に訪れ、掴んで正体を暴く前に消えてしまった。
諏訪子はまたひとりで勝手にうんうんと唸っている。
「……私には、優曇華院・イナバって名前がありますよ」
口だけ関係無い反論をしておいた。過ぎ去ったはずの圧迫感が、まだ頭から離れない。
「お、じゃあオッケーだね?」
よーし、と意気込み肩を回す。
そこに割って入る声が――――
「そういうことでしたら、私も加わらせてもらおうかしら」
突如として二人とは違う声がする。
“今まで話は聞いてましたよ”と言わんばかりの入り方をしてきたその声は、静かに、ゆっくりと、鈴仙の背後の闇から姿を現してゆく。
鈴仙はその影に、諏訪子とは違う意味で大きく驚いた。
「って師匠!?なんでこんなトコにいるんですか!?」
木々の合間から現れた人影は――八意永琳。現在白玉楼詰めの八雲紫チームの構成員。
昨日今日と単身敵陣をプラプラしていた、超A級の不審人物。
「あ!あなたは知ってるよ。竹林に住んでるっていうお医者さんだね?里の人たちから聞いたことがある。そっか~ウサギさんのお師匠でもあったんだねぇ」
「不肖の弟子が至らなさ過ぎてお恥ずかしい限りですわ。煮るなり焼くなり供物にするなり、お好きにして下さって構いませんよ」
「出頭からヒドイおっしゃりよう!!」
永琳は鈴仙のリアクションを無視して、“ただ……”と言葉を繋げる。
「あなたが本気を出すと言うなら……微力ながら、私も力をお貸ししようと思っています」
永琳は鈴仙と並び立ち、諏訪子にそう言い放った。
「し、師匠…………」
永琳の隣では、鈴仙が瞳を潤ませて彼女を見上げている。いつも頼れるその立ち姿が、いつもよりもさらに頼もしく映った。
実力差が明白な上、切り札までバレて、状況最悪の今、一騎当千の援軍の登場に彼女は泣き出さんばかりである。
そんな弟子の視線に気づき、永琳は隣の弟子へと視線を下げる。
鈴仙よりも僅かに背の高い彼女が、小さく笑った。
「ん?あなたの助けに入ったわけじゃないわよ?」
「ししょ、――――――――――――――はい?」
鈴仙は思わず固まっていた。
潤んだ瞳の水分も一気に引いてしまっている。
あまりに予想外過ぎた言葉は未知の言語のようで、何を言ってるのか解読するのに時間がかかった。
「私が助けるのはあの神様の方。“力をお貸しします”って言ったじゃない。あなたに敬語使ってどうするのよ」
永琳はやれやれと溜め息混じりに言っている。
長いこと彼女と一緒に住んでいる鈴仙は、ここで一瞬で理解した。
おそらく、いや、確実に。これは本気で言っている。
「い、いやいやいやいや!!諏訪子さんと師匠が組んでどうするんですか!?師匠入って二対一じゃ勝負になりませんって!!とりあえず、私が死んじゃう!!」
「あらあら、一対一なら勝負になるみたいに聞こえるわ。大きく出たわねぇ」
「いや、一対一でも敵いませんでしたけど!!」
鈴仙はもはや悲鳴に近い声で訴えていた。瞳に再び涙が溜まる。今度は悲痛な意味で。
そんな様子を永琳は、なぜか少し満足そうに眺めていた。
「そうね。半分わかってるじゃない」
半分?と、あえて口に出して聞き返しはしなかったが、その疑問はちゃんと正しく永琳へと伝わっていたらしい。
「そう半分。ウドンゲはさっきまでどうにか戦えていたわよ。自信持っていいわ。でも、ここからこの神様が本気を出したら、その時はあなたじゃ戦いにならなくなる。だから、“敵いませんでした”の過去形は誤りね」
諏訪子も便乗し、
「ウサギさんは強かったよ~」
と声を上げた。ついでに破れた袖の片手も上げてヒラヒラと振っている。
「――――あのぅ……結局師匠は何がしたいんですか。とりあえず私が師匠と戦わなきゃな状況なんですかね?」
「いいえ。私はあなたに加勢するわ。言ったでしょう?諏訪子さんの手助けをしたい、って」
「え~………っと。それって、どういう……」
鈴仙はおずおずと永琳を見上げながら質問をぶつけていた。
諏訪子は一方で、なんとなくこの月人の意図することがわかっているようだった。
「ふぅ、結局イチから説明しなきゃなのね。まぁいいわ。―――まず、ウドンゲ。あなたはさっきまで手を抜いてもらってたのよ」
さっきまで、というとあの分身たちとの戦いのことだろうか。
――手を抜いている?あれが?充分過ぎる火力を持つ分身をあれだけぶつけてきて……手加減?自分はそれに対して攻めあぐねた挙句に、奇襲の切り札たる“狂気の瞳”まで使ったというのに?
鈴仙の見立てでは、あの術はかなりの魔力を食うものだ。しかもあの完成度。とても手を抜いて出すようなものには思えなかった。
「あの神様に感謝しなさい。あの程度の写身なら、よっぽど当たり方が悪くない限り大きなダメージにはならないわ。それでしばらくあなたは遊んでもらっていたようなものよ」
永琳のその言葉に、思わず鈴仙は諏訪子の方を見た。
それはやはり信じられないという心境がなした行動であったのだが、
「あーうー………ゴメンね。決して馬鹿にしてやってたわけではないんだけど……」
諏訪子は手を抜かれたことに腹を立てていると思ったらしく、うつむき気味になって謝っていた。
あっさりと肯定されたことよりも、目の前で小さくなっている神様に気兼ねし、思わず鈴仙も頭を下げてしまう。
「あ!いえ、そんな私こそ!そんなつもりで見たわけでは!」
なにせ神様とは言え、見た目は小さな少女なのだ。そんな彼女におずおずと謝られては、さすがに気後れしてしまう。
「そうね。手加減とは強者が弱者に対しての温情から来る行為。それを怒れるほど力が競っていないことくらい、あなたならわかっているはずよ」
永琳はそんなことなど気にしていないかのように、鈴仙に厳しい言葉を投げかけていた。
言葉にはトゲがあるようだが、もしかして褒められているのかもしれない。しかし、判然としない以上、鈴仙はそれを態度には出さないでおいた。
「そして、諏訪子さんは」
「諏訪子でいいよー」
「あら、ありがとうございます。―――諏訪子はあなたの力を認めてくれて、本気を出すと言った。でも、本気を出されたらあなたじゃどうしようもない。結局、適当なところまで力を落としての戦いになるわ」
“だから”
「私がウドンゲに加勢するわ。それならば、まぁあなた一人よりは力を出して戦ってくれるでしょう」
「つまり師匠は―――――」
「そうね。……諏訪子に、本気で戦ってもらいたいだけよ」
そうきっぱりと言い切り、永琳はにこやかに微笑んだ。
鈴仙は呆気に取られている。
諏訪子はなぜか、かりかりと頬をかきながら、困ったような顔をしていた。
「え、と……し、師匠はなんでそこまでして諏訪子さんを戦わせたいんですか?」
「……そんなの当然。せっかく幻想卿中の“お遊び”なんだから、力のある人が楽しめないのは可哀相だからよ」
どうにかひねり出した疑問すらもあっさりと回答されて、鈴仙はもう言い返す言葉が思い浮かばなかった。
そして呆然とする以外にすることのなくなってしまった鈴仙の代わりに、諏訪子が口を開く。
「あー………………せっかく気をつかってくれてるのはありがたいんだけど……それはアレだよね?私に“手加減一切無しで、本気の力”を出せ、って言ってるんだよね?」
突然の申し出に困惑しているのは、彼女も同じようだった。
「そうです」
永琳はしかし、きわめて簡潔に、そしてはっきりと言い切る。
そこに打算や裏打ちなどは無いように見えた―――が、そう見せるのが得意な彼女の本心を、見抜ける者などほとんどいない。
「いやぁ、それはまぁやぶさかではないのだけれどもね…………自慢じゃないけど、結構ハンパじゃないよ?一応土着神のトップにいたことのある私の本気って」
「大丈夫ですよ。私は不老不死の薬のおかげで死にませんから」
私は死んじゃうんですけど……とは、もはや言えないような空気になっていて、結局鈴仙は口を噤んだ。
――やっぱり、今日は厄日だ。占いを見たら“よく知った顔が波乱を持ち込みます”と出るに違いない。
彼女にできることは、もはや溜め息を零すことだけだった。
「うー……じゃあ……やる?そこまで言うんなら……」
そう言ってどうにかモチベーションを上げた諏訪子が、目の前の二人を見据える。
思惑通りに事が進んでうっすらと笑顔の永琳と、怒涛の状況の変化にまだなんとなく取り残されている鈴仙の二人がいる方を見る。
三人の視線が交錯する。
「その必要はありませんわ」
そこに横槍を入れるように、声がする。
またしても別の誰かの声が割って入ってくる。今度は諏訪子の後ろ側から。
「――――――あれ?いつからいたの?」
「ほんの今ですわ」
木々の闇の中から現れたのは、その場にもっとも似つかわしくない“人間”。
いや、人間という種族が場違いなわけではなく、夜の森の中にそぐわないのは、彼女の恰好である。
「あなたは呼んでないわよ?」
「あなたに呼ばれたわけじゃないですしね」
純白のエプロンをたなびかせ――完全で瀟洒な従者、十六夜咲夜が、そこにいた。
「なにやら人の気配と話し声が聞こえましてね。それを頼りに来てみれば、チームメイトが敵と二対一でいるようでしたので」
咲夜は諏訪子の隣まで歩み寄り、一同を見渡した。
歩き方から佇まいまで、非の打ち所の無い完璧な所作。紅魔の館に住まう唯一の人間である彼女は、そこにいる全ての“人間以外”を前に、少しも怯んだ様子は見られない。
「少しですが、話は聞かせていただきました。こちらには私が加勢させてもらいます。それで二対二。イーブンでしょう」
咲夜は鈴の音のような、よく通る声で滑らかに宣言してゆく。
隣では諏訪子が再び困ったような顔になっている。
永琳は表情を変えずに、それを眺めている。
ちなみに鈴仙は困る余裕すらなく、ぽかんとしたままだった。
「それは助かるけど……でも、あのお医者さんはどうしても私に本気を出させたいみたいだよ?」
「あぁ、あんなインチキ薬師の言うことなんて話半分に聞いてないと損をしますよ?」
本人を目の前にしながらも、しれっと言ってのける。
「それに、永琳も言っていましたが、これは“お遊び”ですわ。無理してまで本気になって取り組む必要などないはずです。あなたが望む、あなたの程度で取り組むことに、誰も文句など言えませんわ」
そう言って咲夜は隣にいるチームメイトに微笑みかけてみせた。完璧な従者の評判を欲しいままにする彼女は、今回の異変にもすっかり対応していた。
彼女の今の所属は、永遠亭チーム。
仕えるべきは、リーダーたる輝夜。
そしてその中においても彼女は、従者としてこの異変に臨んでいる。
諏訪子はそんな彼女の言葉に安心したのか、やっと笑顔を見せ、
「―――――だよね!!やっぱりホントのホンキを出すのはヤメよう!いくら私でも、神格以外に全力全開ってのは気が引けてたんだよね」
その諏訪子の笑顔に、咲夜も笑顔を返す。
「仰せのままに。――では僭越ながら、私がお供させて頂きます。よろしくお願いしますわ」
「こちらこそー!!」
どうやら話はついたようだ。鈴仙は内心で胸を撫で下ろした。
――なんかどうにも後半はそっちのけだったけど、なんにせよ話は落ち着いたようで良かった。
とりあえず、神様クラスの本気とやらに正面からぶつかるのは避けられたようである。
いくらなんでも土着神のトップだったという彼女の力が解放されて、永琳はともかく、自分が無事でいられる自信はさらさら無かったため、彼女は心底安心した。
あとは予定を狂わされた師匠が変なことさえ言い出さなければ…………。
そう思って鈴仙は、チラリと盗み見るようにして隣の永琳の方を見た。
永琳は腕を組んで溜息をひとつ吐いてみせている。さきほどまでの笑顔はなかったが、とりあえず、不機嫌という感じではない。…………はず。たぶん。
「――――仕方ないわね。神様の本気を拝むのはまた後日にしましょう。とりあえず、せっかくですからこのまま二対二の“お遊び”を満喫させていただくわ」
永琳はやれやれといった調子で組んでいた腕を解き、半身を下げて諏訪子と咲夜の方を見やった。
「ウドンゲ。行くわよ」
「あ!はい。あ、最後にひとついいですか?」
「――?なにかしら?」
すでに一歩を踏み出そうとしていた彼女が、鈴仙へと視線を戻した。
「私と師匠って……チーム違うけどいいんですかね?」
永琳は一瞬固まっていた。鈴仙は本気で言っている。
二人の温度差が諏訪子と咲夜まで巻き込んで、妙な沈黙を生み出していた。
――え?何この空気?
「ふ、ふふっ。そうね。確かにそうだわ」
――師匠に至っては笑い出すし。……え?変なこと聞いたかしら?
「でもまぁ、いいでしょ。さすがの紫も、こんなことくらいでいちいち目くじら立てるほど“暇”じゃないわ」
永琳は心底可笑しそうにしながらそんなことを言った。
そうして諏訪子と鈴仙の戦いは、互いにひとりずつ味方を加えての、第二幕へと移ってゆく。
【 G-3 】
遡っていた時を戻し、永遠亭。
「……やっぱりね……ハメられた、と…………」
不自然に巨大な客間の中に八人の少女たち。その中の一人、妹紅が小さく呟いていた。広い広い部屋に彼女の声がよく響く。
「って」
一拍間を置き、彼女は高らかに吼えた。
「く、ぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!口惜しいっ!輝夜の手の上で踊らされたみたいで、やっっっっったら口惜しいっ!殺してぇぇぇっ!!」
がぁぁっ、と叫び、頭を抱えるようにしてのた打ち回る。
すぐ傍にいた橙が思わずビクン、と肩を跳ね上げるが、そんなことなどお構いなしだ。
「…………うっさいわよ、妹紅。もう少し大人しく、」
「あぁ!?レミリアは口惜しくないの!?明らかに馬鹿にされてるでしょコレ!」
「うるさいっ!私だって腹立たしいわよっ!あぁぁぁぁぁぁっ!もう、あの宇宙人の小バカにしたような顔が目に浮かぶわぁぁ――っ!」
「でしょ!?あの澄まし顔のカタチをボコボコに変えてやりたいっ!無駄に造りがいいのがまた腹が立つ!」
結局二人して思いの丈を吐き散らしていた。声にならない声を上げ、ひたすらに広い一室に叫び声をこだまさせている。
そんな彼女たちのテンションにはついていけず、残りの三人は溜め息混じりに彼女たち二人を眺めていた。
「しっかし、ホントに“まんまと”って感じですね」
「私たちが来るってバレてたのかなぁ?」
「いや、どのチームが来てもいいようにの措置でしょう。……この様子なら、ウチが来るのが一番効果的だったようですが」
飽きることなく叫び倒しているレミリアと妹紅を横目で見て、衣玖が静かに溜め息を漏らしておいた。あまり大きな声で肩を落としても、収拾のつかない二人から睨まれるだけなので、あくまでこっそりと。
こうして、叫ぶに任せている者が二名、冷静に分析しているのが三名。
レミリアのチームの面々は、大別すれば、この二種類のリアクションに分かれていた。
そして、そこに立ちふさがる敵チームの面々はといえば――
「結局、総合的な単体出力が今ひとつ足りなかったみたいだけど……なにがいけなかったのかなぁ。当初の目算では、もう少しは見込めるはずだったんだけど」
「魔力量は申し分無いはずです。やはり個体数を増やし過ぎたのでは?広げた屋敷をカバーするのにかなりの数を投影したことですし」
「幻影への魔力伝導率の問題かもね。もっと上手く力を伝えられれば、この程度の数なら理論上問題無いはず――――あ、レミィ。暴れるのは勝手だけどここで暴れないでね。幻影のための魔術装置もあるし」
敵チームの研究者三人。彼女たちは侵入者の面々を目の前にしながらも、それを無視し、淡々と装置の検証をしていた。
パチュリーたちが頭を突きあわせる先には、黒い箱。
侃々諤々の議論が交わされるその中心にある奇妙な箱がつまり、幻影を生み出す魔術装置――外の世界では、“映写機”と呼ばれる装置である。
永遠亭の倉庫から掘り出してきたものではあるが、それはあくまで普通の映写機だった。機能としては、搭載されたフィルムの中に残っている映像記録を映し出す程度のものに過ぎない。
だが、パチュリー始め三人の知的好奇心の塊は、その映し出される“影”に魔力を込め、半実体化させるという方法をもって、これを魔術装置へと改造したのだ。
魔術式への変換機構をパチュリー・ノーレッジが。
映写機本体の簡単な改造を河城にとりが。
理論構築と魔力供出を八雲藍が。
それぞれの知識を結集して作りあげた、言わば“影写機”。
それは、この機械自体を貸し与えた蓬莱山輝夜の思惑よりもはるかに優秀な装置として機能していた。輝夜たちがここを出る前に完成していた試作段階を披露した際、言いだしっぺの輝夜でさえ舌を巻いたくらいだ。
それでも彼女たちはまだ、この共同開発の装置の可能性を模索していた。今夜限りの賑やかし装置ではあったが、彼女たちの探究心は未だに刺激され続けている。
彼女たちでなくとも、見る人が見れば垂涎モノのこの装置。
だがもちろん、そんなことなどどうでもいいと思っている二人がここにいて――そんな彼女たちは、すでに叫び疲れていた。
「妹紅……今私は無性に戦いたい気分だわ……このまま手ブラで帰って寝る、なんて、私には出来ない」
「奇遇だなレミリア……私も同じ気分だ。もういっそ、二人で戦るか?」
口惜しくて仕方ない派の二人は、完全に変な方向にスイッチが入ってしまっている。メラメラと燃える炎が彼女たちの背景に見えそうなほどだ。
その火力は竹林を焼き尽くせそうなほどだったが、いかんせん、当人たちも方向性を見失っている。
「ちょっ!!ス、ストップ!!味方同士でやり合うのなんてヤメましょう!ね!」
今にも開戦しそうな雰囲気の二人を見て、思わず美鈴が間に割って入った。
「戦う相手なら、ほら、あそこにいるじゃないですか!ね!」
そう言って目の据わり出した彼女たちをなだめ、小さく車座になっているパチュリーたちを指差す。
確かにこの状況は肩透かし以外の何物でもなかったが、まだ敵チームは目の前にいるのだ。
量産された幻影などではなく、生身の対戦相手。しかも三人。
彼女たちならきっと、レミリアと妹紅のフラストレーションも解決してくれるはずである。
だが、そんな美鈴の願いもあっさり露と消える。
「あぁ、私そっちはパスで。幻影装置の固定化に魔力使い過ぎて、戦う余裕なんて無いし」
「悪いが私も辞退させてもらうよ。この装置の出力には私も力を貸していてね。自分の戦闘分はすでに使いきってしまった」
「私は開発だけだから疲れてないけど……吸血鬼と不死人でしょ?そんなの私がやってもどうにもなんないし!パス!」
「……ってことらしいわよ」
「やる気無っ!!!」
仮にもチーム戦。そして相手チームの大将を前にして、あまりに潔すぎる白旗だった。
しかも各々理由を述べた先からまた頭を突き合わせて装置の検討に入ってしまっている。取り付く島も無いとはまさにこのことである。
こうなってしまってはもう彼女たちが動くことはないだろう。投げ捨てるような戦闘放棄に、美鈴は思わず呆然としてしまっていた。
「じゃあこの憤りは美鈴――おまえで晴らしていいのかな?」
「あら妹紅、それ名案。退きなさい、私からやるわ」
「え゛――ちょ、ちょちょちょちょちょっ!!勘弁して下さいよ!!」
結局二人の気炎は治まらず、その矛先は口を挟んだ美鈴の方へと向いてしまっていた。
完全にヤブヘビ。不運としか言いようがない。
「と、止めなくていいのかなぁ?」
「さぁ、どうしましょうか?――まぁ確かに紅魔館からここまでの距離を考えたら、今から別の拠点を目指すのは時間的にも厳しいですし……今日はここで時間を潰すか、もう帰るか、くらいしか選択肢は無さそうですね」
橙と衣玖はちゃっかり傍観を決め込みながら、改めて現状の確認をしていた。
永遠亭は妖怪の山とも冥界・白玉楼とも離れた場所に位置してしまっているため、急いで向かったとしても、行った先で相手を見つけるころには夜明け前。結局尻すぼみでグダグダになることは火を見るより明らかである。
そうなると、もう今夜は黙って帰るということになるが、それを今のリーダーが納得するとは――とても思えなかった。
「よし、これで――――レミィ、幻影の実験相手でいいなら募集中よ。どうせ暇でしょう?」
おもむろに幻影装置を弄っていた一団から、パチュリーが声を上げた。
名前を呼ばれたレミリアは、とりあえず美鈴を追いかけ回すのを止めて、つまらなそうに返事をする。
「えぇ~……ヤだ。だってそれ相手になんないし」
「バカねレミィ。バカみたいにバカ言っちゃいけないわ」
「バカバカ言い過ぎよコラ」
「それはさっきまでの幻影。今出力機である装置の設定を変えたから、単純に魔力等、各種能力値が、」
ゴガァァァァァァッ!!!
「…………上がってる………わよ?」
説明の最中、突如として轟音が部屋を駆け抜けた。
音の発生源を見る。そこは襖仕切りの一角。上座として設えられているレミリアたちのいる場所とは、ちょうど反対側に当たる。
壁にはポッカリと大きな穴が開けられていた。
襖戸が吹き飛ばされるだけではなく、鴨居も長押も一緒になって瓦解しているため、そこは“穴が開いている”という表現の方が近い。
しかもかなりのサイズであり、余程の力を加えないと開かないような大穴だ。
「…………あれ、暴走したかしら」
「…………どんだけ出力上げたって?」
ボソッと漏らした一言をレミリアは聞き漏らさず、首を傾げている友人を流し見た。
この知識人は前からこうである。失敗をやらかすときはやらかすし、やらかす時は随分派手だ。
しかし、そのパチュリーの疑問とレミリアの冷ややかな視線は、すぐに杞憂と消える。
よく見てみれば、崩れた壁の瓦礫の中に今にも消えかけの輝夜の幻影がいた。判で捺したような例の薄い笑みを浮かべたままに、それは今にも消え去りそうだ。
そして、瓦礫を踏む、もう一人の姿。
「あらら、穴開いちゃったわね。ま、いいわよね。私の家じゃないし」
すでに木と紙の塊でしかない、襖だったものを踏みしめ、彼女はゆっくりと部屋へと歩を進めてゆく。
パキン、と木片の折れる音が聞こえる。彼女はショートカットの髪を揺らし、不敵に微笑んだままに八人の少女たちを見ていた。
「この変な幻影作ってたのは、そこにいるうちの誰かみたいね。私はそれに襲われたから撃退した。それで壁が壊れちゃったんだから、コレは幻影を作った人のせいってコトでいいかしらね?」
紅魔館の者でも、ましてや永遠亭の者でもない乱入者は、登場の仕方と同じくらい乱暴な理屈を述べていた。どう見ても壁はその少女のせいである。
だが目の前のその彼女には、明らかな暴論にも口を挟ませない雰囲気があった。柔らかく微笑むその顔も、しかし、どこか空恐ろしい空気さえ帯びている。
「ねぇ美鈴」
「な、なんでしょう?」
「あれ、誰?」
レミリアのその感想は、彼女だけのものではなかった。
実際、その場にいる少女たちのほとんどは、急に現れ、笑顔でそこに佇んでいる彼女をよく知らなかった。
それ以外の数人――つまり、彼女の正体が判っている者は、みな一様に思っていた。
ヤバイ奴が来た、と。
「私も直接目にしたのは初めてですが……外見的特徴は一致していますし、間違いないでしょう」
美鈴は思わず声を少し落として喋る。
「彼女は――風見幽香。噂では博麗神社近辺で見掛ける妖怪の中では最強クラスだ、と」
その瞬間、レミリアの羽根がピクンと小さく反応した。
「あら、誰だか知らないけど、その評価は間違いよ。私は神社近辺最強なんかじゃないわ。――――“幻想郷最強の妖怪”、よ」
彼女はなんの臆面もなく、きっぱりとそう言い切った。顔には微笑みすら浮かんでいる。
絶対の自信、彼女からはそれがはっきりと見て取れる。
求聞史紀にさえ描かれる、花の妖怪。長きを生きた強力な妖怪であるが、積極的に他と交わろうとはしない彼女の実力を知る者は少ない。
だが彼女の纏っている雰囲気は、そんな下知識など必要としなかった。
誰もが自身で高らかに宣言した“幻想郷最強”の肩書きに唾を飲む。文字通り、“幻想郷で最も強い”かどうかまでは判然とせずとも、目の前で微笑む彼女の力が、下手な妖怪とは隔絶しているであろうことが空気で伝わる。
そして――それが面白くない者が、そこに一名。
「……パチェ、実験台役はパスよ。今夜の私の相手が決まったわ」
そう言いながら、幽香へと向かって一歩を踏み出す。
「幽香……だっけ?私と遊びましょう?」
自称とは言え“幻想郷最強”の肩書きをチラつかされて、このお嬢様が黙っているはずが無かった。
不遜な態度をほしいままにし、彼女はゆっくりと幽香へと歩み寄ってゆく。
顔にはあからさまに、“なにを生意気な”と書いてあった。
「あらぁ、吸血鬼のお嬢ちゃんが相手をしてくれるだなんて光栄だわ」
「私のことは知ってるみたいね。私はあなたのことなんか全っ然知らなかったんだけど?」
「ふふ……あなたは有名人ですからね。先の紅霧異変の首謀者で、解決に来た巫女にボッコボコにやられた方でしたわよね?」
すでに二人の間では激しい火花が散っていた。互いに笑顔のまま、「あはは」、「ふふふ」、と睨み合っている。
その様子に、なぜか関係無い美鈴が震えながら小さくなっていた。サディスティックな微笑みのレミリアに何か嫌な思い出でもあったのかもしれない。
「どうでもいいけど、ここでやるのかしら?出力機の再調整とかしたいから出てって欲しいんだけど」
「ほ、ホントどうでも良さそうですね……」
「嫌なら退いてなさいパチェ。さぁ、やる前に――――」
レミリアは右手に魔力を収束させてゆく。
彼女の体を流れる力が濃密に萃められ、紅く視覚化される。
姿を成したのは、さきほど輝夜の幻影を屠った紅い槍。
それはしかし、幻影に放ったものとは明らかに大きさが違っていた。身の丈を大きく超え、バチバチと紅い魔力を散らしている。
力が充分に溜まったと判断したところで、彼女は大きく振りかぶり、オーバースローでそれを真上に投げ放った。
紅色の魔力の塊は速度を上げながら、瞬く間に部屋の天井まで迫ってゆく。
そしてそのまま轟音を上げ――天岩戸を破砕する。
『ハートブレイク』は、天井を突き破り、巨大な穴を開ける。夜の空を真っ直ぐと飛び続け、星に届く前に消えていった。
パラパラと降る木屑も気にせず、レミリアは目を細め、開いた穴から空を眺めた。
「――いい月夜ね。紅くないのが残念だけど……キレイな満月」
開けた天井の大穴から、夜空に浮かぶ月を見やる。
満月――彼女の愛する月光の白が、永遠亭の一室に降り注ぐ。
「こんなにも月がキレイだから……本気で殺すわよ」
レミリアの瞳が紅く輝く。
今宵は満月。
ひと月に一度来る、吸血鬼が最も強い力を得る日。
「「楽しい夜になりそうね」」
拳に力を込め飛び出したのは、二人同時だった。
to be next resource ...
・長大になってしまったので連載モノの体裁を取らせていただきます。
・不定期更新予定。
・できるだけ原作設定準拠で進めておりますが、まれに筆者の独自設定・解釈が描写されていることがあります。あらかじめご注意下さい。
・基本的にはバトルモノです。
以上の点をご了承頂いた上、ぜひ読んでいってください。
前回 I-2 K-2
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【 J-2 】
妖怪の山の中、鈴仙は人知れず愚痴をこぼしていた。
「――なんなのよアレ。いくら神様でも、これは無いでしょ…………」
薄暗い森の中、木にもたれ掛かりながら乱れた息を整える。
愚痴をこぼしながらも周囲の警戒は怠らない。もちろん頭の片隅で今日の自分の巡り合わせの悪さを恨むことも欠かさない。
「ほらほら~休んでないで、動いた動いた~!」
乱立する木々の合間から、諏訪子がピョンと踊り出てくる。息も絶え絶えな鈴仙と違い、諏訪子の声は楽しげに弾んでいた。
「あーもう!はいはいっ、やりますよっ!!」
呼吸を整える間もくれない相手に舌打ち混じりで応え、彼女は背にしていた木の影を飛び出す。脇から現れた諏訪子から一足飛びに距離を取り、鈴仙は右手を構える。
突き出した一本の指、銃の形に握った右手の人差し指の照準を素早く諏訪子に合わせる。対象との距離は数メートル。この間合いなら外さないという絶対の自信が、彼女にはある。
心の中でトリガーを引く。
銃身から出た弾は三発。
その一発目が、真っ直ぐな弾道を描き、諏訪子の眉間を一息に貫いた。
続く二発もそのまま諏訪子へと駆け、それぞれに急所にヒットしてゆく。
ほぼ同時に三つの急所に穴を空けられた諏訪子が――パシャアン、と水の音を響かせてその姿を無くし、大地を濡らした。
「わーお、なかなか容赦無いねー。いいよいいよー」
諏訪子の声は依然健在。
それもそのはず、鈴仙が頭を打ち抜いたのは、水で作られた諏訪子の分身にすぎなかったのだから。
諏訪子についていった先あったのは小さな池。その池の名は、“大蝦蟇の池”という。
外の世界から突然やってきた“御柱の墓場”とは違い、妖怪の山がここにあった時からその池は存在していた。
さほど大きくないその池は、鬱蒼とした森のなかにポツンとあり、暗い水面に蓮の葉を揺らしている。
花が咲いている時は、池の雰囲気と相まって、それは幽玄な池なのだろうが、花期も過ぎた夜中の池は、魔界の入り口のように、暗く底の知れない恐ろしさを醸し出していた。
霊験のある池なのか、畔には小さな祠がひとつある。それが何を祀っているのかなんてことは、もちろん鈴仙は知らない。
その場所まで案内された後、いざ戦いを始めようかとなると、諏訪子はその池に手を突っ込み、魔力を込めて自らの分身を作り出していった。
――あの写し身は間違いなく、媒体となる水が無いと発動しない。つまり水場が必要不可欠なんだ。
諏訪子の分身がいた場所へと目をやる。およそ人一人分程の体積の水分が地面へと溶け、小さく水溜りを作っていた。
――なんで私はアウェイだってのに、普段ここがホームの敵に案内なんか任せたのかしら…………。
要するに、鈴仙は完全に誘い出された形になったと言わざるを得なかった。
「はいはい、次行くよ~」
諏訪子は矢継ぎ早に新しい分身を送り込んでくる。さっきのもので五体目。
絶え間なく送り込まれる分身に押し込められるように、鈴仙は開けた湖付近から離され、ひとりで再び木々の合間にいた。
術者の諏訪子からそう遠くにいるわけではないが、無策で飛び込むには距離がある。
遠距離射撃もできないことはないが、遮蔽物が多すぎた。木々をなぎ払ってまで諏訪子にダメージを与えるような火力は彼女には無い。
当の諏訪子は、依然変わらず池の淵に座り込んでいた。
写身のクオリティはそれほど高いものではなく、今永遠亭で行われている輝夜の分身ほどの写実性は無い。元が水から生成されているだけに色がついていないのだ。
だが、命を吹き込まれたように水の塊は攻撃を仕掛けている。放たれる水弾にもそれほどの攻撃力は備わっていなかったが、それでも際限無く出てこられては数で圧倒されてしまうだろう。
――そんなのを自分で作っちゃうんだから、神様っていうのはズルいわよね……。
これだけの質の写身を作るからには、神とは言え、かなり力を使う術であるはずだ。
このままを維持し、持久戦に持っていくのも鈴仙に残された選択肢のひとつだが――彼女はあえて、それを選ぶ気は無かった。
相手は地上の神格クラス。どう考えても私の方が格下だ……なら、
彼女の赤い瞳が一際紅く輝く。
狂気の魔眼に、灯が燈る。
「ここは……真っ向勝負しかないでしょ!!」
鈴仙の気配を見つけた分身が木々の隙間を縫って背後から襲いかかる。
放たれる水弾。完全な死角からの攻撃。いくら分身のものと言えど、不意を突いて当たればそれなりの威力となる。
が、それはほんの目の前の敵に弾を当てることが出来ない。
いや、分身の視点からは当たって見えているが、実際の鈴仙には当たっていない。
狂気を操る能力――分身の眼を借り、実際に操っていた諏訪子も一瞬狐につままれる。
そしてその一瞬こそ、鈴仙が狙っていた一遇。
彼女は諏訪子の分身に軽く微笑みかけると、それを無視し、駆け出す。視界を遮る木々を躱すようにして進み、一気に突き抜ける。
木々を抜けた先、池畔へと躍り出した。
そのまま、鈴仙は諏訪子へ向かって走る。遮るものは、もう何もない。
迂闊に飛び出せば返り討ち。だが、諏訪子には分身から意識を切り離すタイムラグがある。分身を操って迎撃に向かわせるには距離を詰められすぎていた。
諏訪子は分身を放棄し、自身で迎撃の構えを取り、そして――――
両者が交錯した。
すれ違いの様は、まさに一瞬の出来事だった。
「―――ふふ、はははっ!やるぅ~!!幻想郷のウサギは強いんだね!!」
「……それはどうも」
鈴仙が振り返るより先に、諏訪子の楽しげな声が響いた。
それを聞き、彼女はゆっくりと振り向く。すでに神様はこちらを向き、声に釣り合った楽しそうな顔でいた。
鈴仙はこっそりと自分の身体を状態に意識を巡らせてみる。――怪我は無し。
そして目の前の諏訪子を観察する。――袖に穴……でも、ぱっと見た限り、やはり怪我は無し。
そこまでを把握した上で、鈴仙は内心で愕然とした。
もちろんそのことを顔には出さないように努めていたが、それでも彼女の驚きは滲んでしまっていたかもしれない。
鈴仙の放った弾は、“当たっていなければおかしい”のだ。
彼女の“狂気の瞳”は、中・近距離で絶大な威力を発揮する力だ。
対象の感じる波長を狂わせ、距離感に異常をきたせる。相手が視界に映るすべてを正確に位置認識できなくなるこの能力を発動した以上、あちらの攻撃はほぼ当たらないし、こちらの攻撃はほぼ無条件で当たる。
相手の脳に直接、“ズレた世界”を見せているようなものだ。視覚のある生物な以上、眼から入る情報を切り離すことはできない。
この能力を使い、視覚的に優位な状態で一撃を見舞う。これがこの奇襲の意義である。
決して一撃で片がつくとは思っていなかったが、ここで決めておけば後々体力的にも精神的にも半歩は有利になるであろう、重要な一撃でもあった。
だが、その思惑はこうしてあっけなく外れてしまった。
至近距離で放った弾を、諏訪子は紙一重の所で避けたのだ。
目の前の自分、そしてその攻撃に対する、前後左右全ての距離感が完全に狂っているというのに、正確に。
この能力を知っていて対応したのか、知らずに適応したのかはわからない――どのみち、同じことはもう通じないだろう。
一度見せて対応されることを恐れて、今回の戦闘では昨夜のように使用しっぱなし、ということはしなかったのだが、もう遅い。
この奇襲で鈴仙は、諏訪子の袖に付けた傷と引き換えに自分の能力を晒してしまったのだ。
どう考えても、割に合わない買い物である。
――過ぎたことを考えても仕方ない。考えろ。手持ちの武器で何ができる?
控え目な風が木々を揺らす。
静かに揺らぐ湖面には満月も浮いている。
二人は振り返り、はっきりと向かい合っていた。
二人を遮るものは、今は何も無い。
「いやぁ~まさかこんなに戦える子だとは思ってなかったな~」
諏訪子は腕を組ながらうんうんと唸っている。
鈴仙はそれに対しては何も答えない。彼女は今必死にいろいろな作戦を検討中だ。そうそう独り言にまで構ってもいられない。
「あ、今ので気分悪くしたんならゴメンね?でも、お互いのことよく知らないんだから仕方ないよね。――さて……うーん、次はどうしようかなぁー」
そんな鈴仙そっちのけで、諏訪子はブツブツと喋っている。
「ん~~~~………よし!決めたっ。ちょーっとだけ本気出しちゃおっかなっ。ウサギさんも強そうだし、少しくらいなら大丈夫だよね」
鈴仙は一瞬、背筋にピクンと微かな電流が走るのを感じた。
諏訪子の様子は変わらない。だが確かに、殺気――とは違う、プレッシャーのような何かを感じ取った気がしたのだ。
違和感、疑問、不自然さ……やっぱり、殺気?
当の鈴仙としても、その一瞬の気配をどう形容していいのかわからなかった。
結局、その時感じたものがなんなのかわからなかったが、それは瞬間的に訪れ、掴んで正体を暴く前に消えてしまった。
諏訪子はまたひとりで勝手にうんうんと唸っている。
「……私には、優曇華院・イナバって名前がありますよ」
口だけ関係無い反論をしておいた。過ぎ去ったはずの圧迫感が、まだ頭から離れない。
「お、じゃあオッケーだね?」
よーし、と意気込み肩を回す。
そこに割って入る声が――――
「そういうことでしたら、私も加わらせてもらおうかしら」
突如として二人とは違う声がする。
“今まで話は聞いてましたよ”と言わんばかりの入り方をしてきたその声は、静かに、ゆっくりと、鈴仙の背後の闇から姿を現してゆく。
鈴仙はその影に、諏訪子とは違う意味で大きく驚いた。
「って師匠!?なんでこんなトコにいるんですか!?」
木々の合間から現れた人影は――八意永琳。現在白玉楼詰めの八雲紫チームの構成員。
昨日今日と単身敵陣をプラプラしていた、超A級の不審人物。
「あ!あなたは知ってるよ。竹林に住んでるっていうお医者さんだね?里の人たちから聞いたことがある。そっか~ウサギさんのお師匠でもあったんだねぇ」
「不肖の弟子が至らなさ過ぎてお恥ずかしい限りですわ。煮るなり焼くなり供物にするなり、お好きにして下さって構いませんよ」
「出頭からヒドイおっしゃりよう!!」
永琳は鈴仙のリアクションを無視して、“ただ……”と言葉を繋げる。
「あなたが本気を出すと言うなら……微力ながら、私も力をお貸ししようと思っています」
永琳は鈴仙と並び立ち、諏訪子にそう言い放った。
「し、師匠…………」
永琳の隣では、鈴仙が瞳を潤ませて彼女を見上げている。いつも頼れるその立ち姿が、いつもよりもさらに頼もしく映った。
実力差が明白な上、切り札までバレて、状況最悪の今、一騎当千の援軍の登場に彼女は泣き出さんばかりである。
そんな弟子の視線に気づき、永琳は隣の弟子へと視線を下げる。
鈴仙よりも僅かに背の高い彼女が、小さく笑った。
「ん?あなたの助けに入ったわけじゃないわよ?」
「ししょ、――――――――――――――はい?」
鈴仙は思わず固まっていた。
潤んだ瞳の水分も一気に引いてしまっている。
あまりに予想外過ぎた言葉は未知の言語のようで、何を言ってるのか解読するのに時間がかかった。
「私が助けるのはあの神様の方。“力をお貸しします”って言ったじゃない。あなたに敬語使ってどうするのよ」
永琳はやれやれと溜め息混じりに言っている。
長いこと彼女と一緒に住んでいる鈴仙は、ここで一瞬で理解した。
おそらく、いや、確実に。これは本気で言っている。
「い、いやいやいやいや!!諏訪子さんと師匠が組んでどうするんですか!?師匠入って二対一じゃ勝負になりませんって!!とりあえず、私が死んじゃう!!」
「あらあら、一対一なら勝負になるみたいに聞こえるわ。大きく出たわねぇ」
「いや、一対一でも敵いませんでしたけど!!」
鈴仙はもはや悲鳴に近い声で訴えていた。瞳に再び涙が溜まる。今度は悲痛な意味で。
そんな様子を永琳は、なぜか少し満足そうに眺めていた。
「そうね。半分わかってるじゃない」
半分?と、あえて口に出して聞き返しはしなかったが、その疑問はちゃんと正しく永琳へと伝わっていたらしい。
「そう半分。ウドンゲはさっきまでどうにか戦えていたわよ。自信持っていいわ。でも、ここからこの神様が本気を出したら、その時はあなたじゃ戦いにならなくなる。だから、“敵いませんでした”の過去形は誤りね」
諏訪子も便乗し、
「ウサギさんは強かったよ~」
と声を上げた。ついでに破れた袖の片手も上げてヒラヒラと振っている。
「――――あのぅ……結局師匠は何がしたいんですか。とりあえず私が師匠と戦わなきゃな状況なんですかね?」
「いいえ。私はあなたに加勢するわ。言ったでしょう?諏訪子さんの手助けをしたい、って」
「え~………っと。それって、どういう……」
鈴仙はおずおずと永琳を見上げながら質問をぶつけていた。
諏訪子は一方で、なんとなくこの月人の意図することがわかっているようだった。
「ふぅ、結局イチから説明しなきゃなのね。まぁいいわ。―――まず、ウドンゲ。あなたはさっきまで手を抜いてもらってたのよ」
さっきまで、というとあの分身たちとの戦いのことだろうか。
――手を抜いている?あれが?充分過ぎる火力を持つ分身をあれだけぶつけてきて……手加減?自分はそれに対して攻めあぐねた挙句に、奇襲の切り札たる“狂気の瞳”まで使ったというのに?
鈴仙の見立てでは、あの術はかなりの魔力を食うものだ。しかもあの完成度。とても手を抜いて出すようなものには思えなかった。
「あの神様に感謝しなさい。あの程度の写身なら、よっぽど当たり方が悪くない限り大きなダメージにはならないわ。それでしばらくあなたは遊んでもらっていたようなものよ」
永琳のその言葉に、思わず鈴仙は諏訪子の方を見た。
それはやはり信じられないという心境がなした行動であったのだが、
「あーうー………ゴメンね。決して馬鹿にしてやってたわけではないんだけど……」
諏訪子は手を抜かれたことに腹を立てていると思ったらしく、うつむき気味になって謝っていた。
あっさりと肯定されたことよりも、目の前で小さくなっている神様に気兼ねし、思わず鈴仙も頭を下げてしまう。
「あ!いえ、そんな私こそ!そんなつもりで見たわけでは!」
なにせ神様とは言え、見た目は小さな少女なのだ。そんな彼女におずおずと謝られては、さすがに気後れしてしまう。
「そうね。手加減とは強者が弱者に対しての温情から来る行為。それを怒れるほど力が競っていないことくらい、あなたならわかっているはずよ」
永琳はそんなことなど気にしていないかのように、鈴仙に厳しい言葉を投げかけていた。
言葉にはトゲがあるようだが、もしかして褒められているのかもしれない。しかし、判然としない以上、鈴仙はそれを態度には出さないでおいた。
「そして、諏訪子さんは」
「諏訪子でいいよー」
「あら、ありがとうございます。―――諏訪子はあなたの力を認めてくれて、本気を出すと言った。でも、本気を出されたらあなたじゃどうしようもない。結局、適当なところまで力を落としての戦いになるわ」
“だから”
「私がウドンゲに加勢するわ。それならば、まぁあなた一人よりは力を出して戦ってくれるでしょう」
「つまり師匠は―――――」
「そうね。……諏訪子に、本気で戦ってもらいたいだけよ」
そうきっぱりと言い切り、永琳はにこやかに微笑んだ。
鈴仙は呆気に取られている。
諏訪子はなぜか、かりかりと頬をかきながら、困ったような顔をしていた。
「え、と……し、師匠はなんでそこまでして諏訪子さんを戦わせたいんですか?」
「……そんなの当然。せっかく幻想卿中の“お遊び”なんだから、力のある人が楽しめないのは可哀相だからよ」
どうにかひねり出した疑問すらもあっさりと回答されて、鈴仙はもう言い返す言葉が思い浮かばなかった。
そして呆然とする以外にすることのなくなってしまった鈴仙の代わりに、諏訪子が口を開く。
「あー………………せっかく気をつかってくれてるのはありがたいんだけど……それはアレだよね?私に“手加減一切無しで、本気の力”を出せ、って言ってるんだよね?」
突然の申し出に困惑しているのは、彼女も同じようだった。
「そうです」
永琳はしかし、きわめて簡潔に、そしてはっきりと言い切る。
そこに打算や裏打ちなどは無いように見えた―――が、そう見せるのが得意な彼女の本心を、見抜ける者などほとんどいない。
「いやぁ、それはまぁやぶさかではないのだけれどもね…………自慢じゃないけど、結構ハンパじゃないよ?一応土着神のトップにいたことのある私の本気って」
「大丈夫ですよ。私は不老不死の薬のおかげで死にませんから」
私は死んじゃうんですけど……とは、もはや言えないような空気になっていて、結局鈴仙は口を噤んだ。
――やっぱり、今日は厄日だ。占いを見たら“よく知った顔が波乱を持ち込みます”と出るに違いない。
彼女にできることは、もはや溜め息を零すことだけだった。
「うー……じゃあ……やる?そこまで言うんなら……」
そう言ってどうにかモチベーションを上げた諏訪子が、目の前の二人を見据える。
思惑通りに事が進んでうっすらと笑顔の永琳と、怒涛の状況の変化にまだなんとなく取り残されている鈴仙の二人がいる方を見る。
三人の視線が交錯する。
「その必要はありませんわ」
そこに横槍を入れるように、声がする。
またしても別の誰かの声が割って入ってくる。今度は諏訪子の後ろ側から。
「――――――あれ?いつからいたの?」
「ほんの今ですわ」
木々の闇の中から現れたのは、その場にもっとも似つかわしくない“人間”。
いや、人間という種族が場違いなわけではなく、夜の森の中にそぐわないのは、彼女の恰好である。
「あなたは呼んでないわよ?」
「あなたに呼ばれたわけじゃないですしね」
純白のエプロンをたなびかせ――完全で瀟洒な従者、十六夜咲夜が、そこにいた。
「なにやら人の気配と話し声が聞こえましてね。それを頼りに来てみれば、チームメイトが敵と二対一でいるようでしたので」
咲夜は諏訪子の隣まで歩み寄り、一同を見渡した。
歩き方から佇まいまで、非の打ち所の無い完璧な所作。紅魔の館に住まう唯一の人間である彼女は、そこにいる全ての“人間以外”を前に、少しも怯んだ様子は見られない。
「少しですが、話は聞かせていただきました。こちらには私が加勢させてもらいます。それで二対二。イーブンでしょう」
咲夜は鈴の音のような、よく通る声で滑らかに宣言してゆく。
隣では諏訪子が再び困ったような顔になっている。
永琳は表情を変えずに、それを眺めている。
ちなみに鈴仙は困る余裕すらなく、ぽかんとしたままだった。
「それは助かるけど……でも、あのお医者さんはどうしても私に本気を出させたいみたいだよ?」
「あぁ、あんなインチキ薬師の言うことなんて話半分に聞いてないと損をしますよ?」
本人を目の前にしながらも、しれっと言ってのける。
「それに、永琳も言っていましたが、これは“お遊び”ですわ。無理してまで本気になって取り組む必要などないはずです。あなたが望む、あなたの程度で取り組むことに、誰も文句など言えませんわ」
そう言って咲夜は隣にいるチームメイトに微笑みかけてみせた。完璧な従者の評判を欲しいままにする彼女は、今回の異変にもすっかり対応していた。
彼女の今の所属は、永遠亭チーム。
仕えるべきは、リーダーたる輝夜。
そしてその中においても彼女は、従者としてこの異変に臨んでいる。
諏訪子はそんな彼女の言葉に安心したのか、やっと笑顔を見せ、
「―――――だよね!!やっぱりホントのホンキを出すのはヤメよう!いくら私でも、神格以外に全力全開ってのは気が引けてたんだよね」
その諏訪子の笑顔に、咲夜も笑顔を返す。
「仰せのままに。――では僭越ながら、私がお供させて頂きます。よろしくお願いしますわ」
「こちらこそー!!」
どうやら話はついたようだ。鈴仙は内心で胸を撫で下ろした。
――なんかどうにも後半はそっちのけだったけど、なんにせよ話は落ち着いたようで良かった。
とりあえず、神様クラスの本気とやらに正面からぶつかるのは避けられたようである。
いくらなんでも土着神のトップだったという彼女の力が解放されて、永琳はともかく、自分が無事でいられる自信はさらさら無かったため、彼女は心底安心した。
あとは予定を狂わされた師匠が変なことさえ言い出さなければ…………。
そう思って鈴仙は、チラリと盗み見るようにして隣の永琳の方を見た。
永琳は腕を組んで溜息をひとつ吐いてみせている。さきほどまでの笑顔はなかったが、とりあえず、不機嫌という感じではない。…………はず。たぶん。
「――――仕方ないわね。神様の本気を拝むのはまた後日にしましょう。とりあえず、せっかくですからこのまま二対二の“お遊び”を満喫させていただくわ」
永琳はやれやれといった調子で組んでいた腕を解き、半身を下げて諏訪子と咲夜の方を見やった。
「ウドンゲ。行くわよ」
「あ!はい。あ、最後にひとついいですか?」
「――?なにかしら?」
すでに一歩を踏み出そうとしていた彼女が、鈴仙へと視線を戻した。
「私と師匠って……チーム違うけどいいんですかね?」
永琳は一瞬固まっていた。鈴仙は本気で言っている。
二人の温度差が諏訪子と咲夜まで巻き込んで、妙な沈黙を生み出していた。
――え?何この空気?
「ふ、ふふっ。そうね。確かにそうだわ」
――師匠に至っては笑い出すし。……え?変なこと聞いたかしら?
「でもまぁ、いいでしょ。さすがの紫も、こんなことくらいでいちいち目くじら立てるほど“暇”じゃないわ」
永琳は心底可笑しそうにしながらそんなことを言った。
そうして諏訪子と鈴仙の戦いは、互いにひとりずつ味方を加えての、第二幕へと移ってゆく。
【 G-3 】
遡っていた時を戻し、永遠亭。
「……やっぱりね……ハメられた、と…………」
不自然に巨大な客間の中に八人の少女たち。その中の一人、妹紅が小さく呟いていた。広い広い部屋に彼女の声がよく響く。
「って」
一拍間を置き、彼女は高らかに吼えた。
「く、ぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!口惜しいっ!輝夜の手の上で踊らされたみたいで、やっっっっったら口惜しいっ!殺してぇぇぇっ!!」
がぁぁっ、と叫び、頭を抱えるようにしてのた打ち回る。
すぐ傍にいた橙が思わずビクン、と肩を跳ね上げるが、そんなことなどお構いなしだ。
「…………うっさいわよ、妹紅。もう少し大人しく、」
「あぁ!?レミリアは口惜しくないの!?明らかに馬鹿にされてるでしょコレ!」
「うるさいっ!私だって腹立たしいわよっ!あぁぁぁぁぁぁっ!もう、あの宇宙人の小バカにしたような顔が目に浮かぶわぁぁ――っ!」
「でしょ!?あの澄まし顔のカタチをボコボコに変えてやりたいっ!無駄に造りがいいのがまた腹が立つ!」
結局二人して思いの丈を吐き散らしていた。声にならない声を上げ、ひたすらに広い一室に叫び声をこだまさせている。
そんな彼女たちのテンションにはついていけず、残りの三人は溜め息混じりに彼女たち二人を眺めていた。
「しっかし、ホントに“まんまと”って感じですね」
「私たちが来るってバレてたのかなぁ?」
「いや、どのチームが来てもいいようにの措置でしょう。……この様子なら、ウチが来るのが一番効果的だったようですが」
飽きることなく叫び倒しているレミリアと妹紅を横目で見て、衣玖が静かに溜め息を漏らしておいた。あまり大きな声で肩を落としても、収拾のつかない二人から睨まれるだけなので、あくまでこっそりと。
こうして、叫ぶに任せている者が二名、冷静に分析しているのが三名。
レミリアのチームの面々は、大別すれば、この二種類のリアクションに分かれていた。
そして、そこに立ちふさがる敵チームの面々はといえば――
「結局、総合的な単体出力が今ひとつ足りなかったみたいだけど……なにがいけなかったのかなぁ。当初の目算では、もう少しは見込めるはずだったんだけど」
「魔力量は申し分無いはずです。やはり個体数を増やし過ぎたのでは?広げた屋敷をカバーするのにかなりの数を投影したことですし」
「幻影への魔力伝導率の問題かもね。もっと上手く力を伝えられれば、この程度の数なら理論上問題無いはず――――あ、レミィ。暴れるのは勝手だけどここで暴れないでね。幻影のための魔術装置もあるし」
敵チームの研究者三人。彼女たちは侵入者の面々を目の前にしながらも、それを無視し、淡々と装置の検証をしていた。
パチュリーたちが頭を突きあわせる先には、黒い箱。
侃々諤々の議論が交わされるその中心にある奇妙な箱がつまり、幻影を生み出す魔術装置――外の世界では、“映写機”と呼ばれる装置である。
永遠亭の倉庫から掘り出してきたものではあるが、それはあくまで普通の映写機だった。機能としては、搭載されたフィルムの中に残っている映像記録を映し出す程度のものに過ぎない。
だが、パチュリー始め三人の知的好奇心の塊は、その映し出される“影”に魔力を込め、半実体化させるという方法をもって、これを魔術装置へと改造したのだ。
魔術式への変換機構をパチュリー・ノーレッジが。
映写機本体の簡単な改造を河城にとりが。
理論構築と魔力供出を八雲藍が。
それぞれの知識を結集して作りあげた、言わば“影写機”。
それは、この機械自体を貸し与えた蓬莱山輝夜の思惑よりもはるかに優秀な装置として機能していた。輝夜たちがここを出る前に完成していた試作段階を披露した際、言いだしっぺの輝夜でさえ舌を巻いたくらいだ。
それでも彼女たちはまだ、この共同開発の装置の可能性を模索していた。今夜限りの賑やかし装置ではあったが、彼女たちの探究心は未だに刺激され続けている。
彼女たちでなくとも、見る人が見れば垂涎モノのこの装置。
だがもちろん、そんなことなどどうでもいいと思っている二人がここにいて――そんな彼女たちは、すでに叫び疲れていた。
「妹紅……今私は無性に戦いたい気分だわ……このまま手ブラで帰って寝る、なんて、私には出来ない」
「奇遇だなレミリア……私も同じ気分だ。もういっそ、二人で戦るか?」
口惜しくて仕方ない派の二人は、完全に変な方向にスイッチが入ってしまっている。メラメラと燃える炎が彼女たちの背景に見えそうなほどだ。
その火力は竹林を焼き尽くせそうなほどだったが、いかんせん、当人たちも方向性を見失っている。
「ちょっ!!ス、ストップ!!味方同士でやり合うのなんてヤメましょう!ね!」
今にも開戦しそうな雰囲気の二人を見て、思わず美鈴が間に割って入った。
「戦う相手なら、ほら、あそこにいるじゃないですか!ね!」
そう言って目の据わり出した彼女たちをなだめ、小さく車座になっているパチュリーたちを指差す。
確かにこの状況は肩透かし以外の何物でもなかったが、まだ敵チームは目の前にいるのだ。
量産された幻影などではなく、生身の対戦相手。しかも三人。
彼女たちならきっと、レミリアと妹紅のフラストレーションも解決してくれるはずである。
だが、そんな美鈴の願いもあっさり露と消える。
「あぁ、私そっちはパスで。幻影装置の固定化に魔力使い過ぎて、戦う余裕なんて無いし」
「悪いが私も辞退させてもらうよ。この装置の出力には私も力を貸していてね。自分の戦闘分はすでに使いきってしまった」
「私は開発だけだから疲れてないけど……吸血鬼と不死人でしょ?そんなの私がやってもどうにもなんないし!パス!」
「……ってことらしいわよ」
「やる気無っ!!!」
仮にもチーム戦。そして相手チームの大将を前にして、あまりに潔すぎる白旗だった。
しかも各々理由を述べた先からまた頭を突き合わせて装置の検討に入ってしまっている。取り付く島も無いとはまさにこのことである。
こうなってしまってはもう彼女たちが動くことはないだろう。投げ捨てるような戦闘放棄に、美鈴は思わず呆然としてしまっていた。
「じゃあこの憤りは美鈴――おまえで晴らしていいのかな?」
「あら妹紅、それ名案。退きなさい、私からやるわ」
「え゛――ちょ、ちょちょちょちょちょっ!!勘弁して下さいよ!!」
結局二人の気炎は治まらず、その矛先は口を挟んだ美鈴の方へと向いてしまっていた。
完全にヤブヘビ。不運としか言いようがない。
「と、止めなくていいのかなぁ?」
「さぁ、どうしましょうか?――まぁ確かに紅魔館からここまでの距離を考えたら、今から別の拠点を目指すのは時間的にも厳しいですし……今日はここで時間を潰すか、もう帰るか、くらいしか選択肢は無さそうですね」
橙と衣玖はちゃっかり傍観を決め込みながら、改めて現状の確認をしていた。
永遠亭は妖怪の山とも冥界・白玉楼とも離れた場所に位置してしまっているため、急いで向かったとしても、行った先で相手を見つけるころには夜明け前。結局尻すぼみでグダグダになることは火を見るより明らかである。
そうなると、もう今夜は黙って帰るということになるが、それを今のリーダーが納得するとは――とても思えなかった。
「よし、これで――――レミィ、幻影の実験相手でいいなら募集中よ。どうせ暇でしょう?」
おもむろに幻影装置を弄っていた一団から、パチュリーが声を上げた。
名前を呼ばれたレミリアは、とりあえず美鈴を追いかけ回すのを止めて、つまらなそうに返事をする。
「えぇ~……ヤだ。だってそれ相手になんないし」
「バカねレミィ。バカみたいにバカ言っちゃいけないわ」
「バカバカ言い過ぎよコラ」
「それはさっきまでの幻影。今出力機である装置の設定を変えたから、単純に魔力等、各種能力値が、」
ゴガァァァァァァッ!!!
「…………上がってる………わよ?」
説明の最中、突如として轟音が部屋を駆け抜けた。
音の発生源を見る。そこは襖仕切りの一角。上座として設えられているレミリアたちのいる場所とは、ちょうど反対側に当たる。
壁にはポッカリと大きな穴が開けられていた。
襖戸が吹き飛ばされるだけではなく、鴨居も長押も一緒になって瓦解しているため、そこは“穴が開いている”という表現の方が近い。
しかもかなりのサイズであり、余程の力を加えないと開かないような大穴だ。
「…………あれ、暴走したかしら」
「…………どんだけ出力上げたって?」
ボソッと漏らした一言をレミリアは聞き漏らさず、首を傾げている友人を流し見た。
この知識人は前からこうである。失敗をやらかすときはやらかすし、やらかす時は随分派手だ。
しかし、そのパチュリーの疑問とレミリアの冷ややかな視線は、すぐに杞憂と消える。
よく見てみれば、崩れた壁の瓦礫の中に今にも消えかけの輝夜の幻影がいた。判で捺したような例の薄い笑みを浮かべたままに、それは今にも消え去りそうだ。
そして、瓦礫を踏む、もう一人の姿。
「あらら、穴開いちゃったわね。ま、いいわよね。私の家じゃないし」
すでに木と紙の塊でしかない、襖だったものを踏みしめ、彼女はゆっくりと部屋へと歩を進めてゆく。
パキン、と木片の折れる音が聞こえる。彼女はショートカットの髪を揺らし、不敵に微笑んだままに八人の少女たちを見ていた。
「この変な幻影作ってたのは、そこにいるうちの誰かみたいね。私はそれに襲われたから撃退した。それで壁が壊れちゃったんだから、コレは幻影を作った人のせいってコトでいいかしらね?」
紅魔館の者でも、ましてや永遠亭の者でもない乱入者は、登場の仕方と同じくらい乱暴な理屈を述べていた。どう見ても壁はその少女のせいである。
だが目の前のその彼女には、明らかな暴論にも口を挟ませない雰囲気があった。柔らかく微笑むその顔も、しかし、どこか空恐ろしい空気さえ帯びている。
「ねぇ美鈴」
「な、なんでしょう?」
「あれ、誰?」
レミリアのその感想は、彼女だけのものではなかった。
実際、その場にいる少女たちのほとんどは、急に現れ、笑顔でそこに佇んでいる彼女をよく知らなかった。
それ以外の数人――つまり、彼女の正体が判っている者は、みな一様に思っていた。
ヤバイ奴が来た、と。
「私も直接目にしたのは初めてですが……外見的特徴は一致していますし、間違いないでしょう」
美鈴は思わず声を少し落として喋る。
「彼女は――風見幽香。噂では博麗神社近辺で見掛ける妖怪の中では最強クラスだ、と」
その瞬間、レミリアの羽根がピクンと小さく反応した。
「あら、誰だか知らないけど、その評価は間違いよ。私は神社近辺最強なんかじゃないわ。――――“幻想郷最強の妖怪”、よ」
彼女はなんの臆面もなく、きっぱりとそう言い切った。顔には微笑みすら浮かんでいる。
絶対の自信、彼女からはそれがはっきりと見て取れる。
求聞史紀にさえ描かれる、花の妖怪。長きを生きた強力な妖怪であるが、積極的に他と交わろうとはしない彼女の実力を知る者は少ない。
だが彼女の纏っている雰囲気は、そんな下知識など必要としなかった。
誰もが自身で高らかに宣言した“幻想郷最強”の肩書きに唾を飲む。文字通り、“幻想郷で最も強い”かどうかまでは判然とせずとも、目の前で微笑む彼女の力が、下手な妖怪とは隔絶しているであろうことが空気で伝わる。
そして――それが面白くない者が、そこに一名。
「……パチェ、実験台役はパスよ。今夜の私の相手が決まったわ」
そう言いながら、幽香へと向かって一歩を踏み出す。
「幽香……だっけ?私と遊びましょう?」
自称とは言え“幻想郷最強”の肩書きをチラつかされて、このお嬢様が黙っているはずが無かった。
不遜な態度をほしいままにし、彼女はゆっくりと幽香へと歩み寄ってゆく。
顔にはあからさまに、“なにを生意気な”と書いてあった。
「あらぁ、吸血鬼のお嬢ちゃんが相手をしてくれるだなんて光栄だわ」
「私のことは知ってるみたいね。私はあなたのことなんか全っ然知らなかったんだけど?」
「ふふ……あなたは有名人ですからね。先の紅霧異変の首謀者で、解決に来た巫女にボッコボコにやられた方でしたわよね?」
すでに二人の間では激しい火花が散っていた。互いに笑顔のまま、「あはは」、「ふふふ」、と睨み合っている。
その様子に、なぜか関係無い美鈴が震えながら小さくなっていた。サディスティックな微笑みのレミリアに何か嫌な思い出でもあったのかもしれない。
「どうでもいいけど、ここでやるのかしら?出力機の再調整とかしたいから出てって欲しいんだけど」
「ほ、ホントどうでも良さそうですね……」
「嫌なら退いてなさいパチェ。さぁ、やる前に――――」
レミリアは右手に魔力を収束させてゆく。
彼女の体を流れる力が濃密に萃められ、紅く視覚化される。
姿を成したのは、さきほど輝夜の幻影を屠った紅い槍。
それはしかし、幻影に放ったものとは明らかに大きさが違っていた。身の丈を大きく超え、バチバチと紅い魔力を散らしている。
力が充分に溜まったと判断したところで、彼女は大きく振りかぶり、オーバースローでそれを真上に投げ放った。
紅色の魔力の塊は速度を上げながら、瞬く間に部屋の天井まで迫ってゆく。
そしてそのまま轟音を上げ――天岩戸を破砕する。
『ハートブレイク』は、天井を突き破り、巨大な穴を開ける。夜の空を真っ直ぐと飛び続け、星に届く前に消えていった。
パラパラと降る木屑も気にせず、レミリアは目を細め、開いた穴から空を眺めた。
「――いい月夜ね。紅くないのが残念だけど……キレイな満月」
開けた天井の大穴から、夜空に浮かぶ月を見やる。
満月――彼女の愛する月光の白が、永遠亭の一室に降り注ぐ。
「こんなにも月がキレイだから……本気で殺すわよ」
レミリアの瞳が紅く輝く。
今宵は満月。
ひと月に一度来る、吸血鬼が最も強い力を得る日。
「「楽しい夜になりそうね」」
拳に力を込め飛び出したのは、二人同時だった。
to be next resource ...
この作品の優曇華院は見せ場が多くていいですね。美鈴にももっと頑張ってもらいたい。
当初の予定に、幽香vs美鈴っていうプロットも実はありました。
レミ「こう見えて、意外と門番は戦えるのよ」で焚きつけてゆうかりんと……っていう流れでしたが、お嬢様ルートにしてみました。
いまさらだけど、美鈴でも良かったなぁ。