Coolier - 新生・東方創想話

Q 冴月 麟の正体は?

2011/04/12 21:02:53
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一生に一度だけでも、弾幕使いになってみたい。
一人の村娘である私は、ある日そう思った。
不思議な力を持った者達が、美しい花火のような『弾幕』を駆使し、儀礼的な戦いで親交と信仰とを深めていく。人間と妖怪の適度な緊張感を保つための営み。
このままお父さんの花屋を手伝って、何時か誰かのお嫁さんになって、子供を儲けるのも決して嫌じゃないけれど、一瞬でも平凡な毎日から抜け出し、非日常の世界を垣間見てみたい。そう思った私は、お父さんに内緒でいろいろなつてを当たってみる事にした。
まずは、幼いころに通っていた寺子屋に顔を出してみよう。






午後の郷のはずれ、田んぼに囲まれた寺子屋、授業を終えた子供達が出てくるまで待つ。
しばらくして、さようならの挨拶の後に、遊びたくてたまらない男の子たちが堰を切ったように飛び出してきて、一人が私に、お姉さんこんにちはと声をかけて走り去っていった。私も笑顔で返し、その後、おしゃべりに興じる女の子達に混ざって、数年ぶりに寺子屋の雰囲気を味わった後、懐かしの慧音先生に会った。
先生は今も昔も美人だった。女性の私から見てもそう思えるほどに。

「お久しぶりです、先生」
「おお、…………じゃないか、元気でやってるか」
「はい、おかげさまで、慧音先生はお変わりありませんか」
「ああ、いつもの調子だよ」

授業を終えた幼い男の子たちがボール遊びに興じていた。
元気な声が教室にも聞こえてくる。
飛んできたボールを私が軽く蹴り返す。
ありがとーの声の後、試合再開となる。

「男の子の面倒を見るのは骨が折れますね」
「ははは、あいつらは元気の塊だしな」
「あの、所で、慧音先生も弾幕少女なんですよね?」
「ああ、そう言う呼び方もあるがね」
「私も弾幕少女、いや弾幕使いになれますか?」
「う~む、生まれつきの能力に加えて、修行をつまないと難しいな」
「小さいころから修行してないと無理ですか」
「一概には言えんが……でもどうしてそんな事を?」慧音先生は首をかしげた。
「はい、一度でいいから、弾幕ごっこに参加してみたいんです」
「一度だけでもいい? それならできない事も無いぞ」

慧音先生は地図に曜日と時間を書いた紙を私にくれた。行ってみろと言う事らしい。
久しぶりに会った先生なので、いくつか雑談を楽しんで後、お礼を言ってその場所に向かってみることにする。
ここに行けば、弾幕少女(と言う年でもないが)になれるのだろうか。






「あの半獣の紹介ウサね、任せておくウサ」

定められた曜日の時間帯に、里を貫く大通りのから少し離れた、迷路のような場所。
そこにいたのは、ピンク色のワンピースにどてらを羽織り、首にお守りをぶら下げ、サングラスをかけた(比良坂真琴氏の東方三月精新2巻のカラーうさぎ屋参照)胡散臭そうな妖怪兎だった。
語尾もなんかウサんくさい。
話をすると、てゐと名乗る彼女は弾幕少女の籍を一日だけ譲ってくれると言った。
知らなかった。弾幕少女に籍なんてあったのか。
彼女はこう説明する。

「異変を起こす妖怪も、解決する人間も、あらかじめそれを行う者を龍神様に報告するのだウサ。その者達のリストを便宜上弾幕少女籍、あるいは原作キャラ籍というのウサ」

「じゃあ、その籍を買えと? バチが当たるんじゃない?」
「一日だけなら問題ないウサ。もし危険な場合はすぐに籍を放棄できるウサから、心配無いウサよ」
「代金は?」
「弾幕ごっこ中に手に入るアイテム、その一つを除いた全部ウサ」
「法外じゃないのよ」
「でも、普通の人でも、極端な話大人でも男性でも弾幕少女になれるのですウサ。貴重な体験はプライスレスウサよ」

念願の弾幕少女を体験できるし、慧音先生の紹介なのだ。
私は思い切って承諾する。

「分かりました、一日だけ、その籍を買うわ」
「ありがとうございますウサ。今から詳しい説明に入るウサ」






危ない場合はいつでも降りる事が出来るが、それでもある程度の事故は覚悟する事、などが書かれた契約書にサインし、ある日のある日時、里外れのほこらに来るよう指示された。

私は帰りにもう一度寺子屋へより、慧音先生からいくつかの注意事項を聞いた後、では頑張って来いと励ましてくれた。
家に帰ってもニヤニヤが止まらない。
お母さんにどうしたのと尋ねられた。私はお父さんには内緒よと言って今日あった事を打ち明けると、少し心配しながらも理解を示してくれた。
夕飯の時、いつもより私が嬉しそうなので、お父さんも気になったようだ。

「おい…………、そんな顔で、何かいい事でもあったのか」
「うん、でもお父さんには秘密、ねえ、お母さん」
「そうよ、これは女の子だけの話」と互いにうなずき合う。
「ま、まさか、恋人でも出来たとか?」うろたえるお父さん。
「まだよ、でも、とっても素敵な事には違いないの」
「ううむ、女の幸せというのは、男の俺には皆目分からん」

お父さんはそのまま食事を続けた。

「ねえ、お父さん、弾幕使いになりたいと思った事はない?」
「ない、あんなチャラチャラした遊びなんぞ人間のやるもんじゃない」
「でも、時には日常を捨てて羽を伸ばしたくなるんじゃない?」
「仕事の後の一杯の酒、これがあれば俺は十分だよ」

やれやれ、やっぱりお父さんに話さなくて良かった。

その夜も、緊張とそれを上回る嬉しさで寝付けなかった。






その日、里外れのほこらで、てゐさんと会う。
姿が見えなくなる不思議な結界のなかで、借り受けた服を身に付けた。
博麗の巫女様のような赤と白を基調にした和洋折衷の服。大きなリボン。初めてはくドロワーズ。とてもかわいらしい。
そして、一般人でも使える『花符・風符』と呼ばれるスペルカードを袖の中に隠し、二胡と呼ばれる楽器状の不思議な道具を持つ。これで完成。

「これであんたは一日弾幕少女、名は『冴月 麟』だウサ」
「どうすれば飛べるのかしら」
「ひたすら強く想うのウサ」

今までの夢を心に描き、空を飛ぶイメージを思い浮かべる。
ふわりと体が浮かぶ。生まれて初めての感覚。
私は少しずつ速度と高度を上げ、飛ぶ感覚に慣れていく。
森や、寺子屋や、人里、私の店がおもちゃのように小さく見えた。
心地よい風が私の体を撫でていく。
空を飛ぶって、こんなにも気持ち良かったんだ。

妖精が寄り集まって来る、かわいい。
近づいて触ってみようとした途端、不意にピンクの球をぶつけられ、ちょっと痛かった。私にちょっかいを出してきてる? ようし。

「その楽器を適当に引いてみるウサ」

後ろを飛んでいた妖怪兎、てゐさんの言う通りに二胡の弦を弾くと、光の球が生まれ、妖精を消し去って行く。
妖精達が消えた後、『P』の字や『点』の字が書かれた小さなタイル状のアイテムが現れた。それを取ると少し自分が強くなったような気がした。
光の球もちょっとだけ強くなったみたい。

「すごい」
「そのまま紅魔館に向かって飛んでみるウサ、飛ぶ体力が無くなったら終了ウサ」

私は妖精をやっつけながら進んだ。宵闇の妖怪に出会い、弾幕少女にありがちなちょっと過激なトークを楽しんで、本格的な弾幕ごっこ開始となる。

夢中で球を避け、ショットを打ち込むと、相手の子はスペルカードを宣言した。
落ち着いて球が飛ぶコースを読み、こちらもスペルカードをかざす。

「えーと、『風符 早春のウインドミル』」

スペルカードの名前は『風符・花符』としか記されていない。
だから適当に思いついた技の名を宣言する。
私の思念通り、西洋の風車のような弾幕がその子を包み、負けを認めた。

「あなた、『昨日の冴月 麟』より飲み込みがいいわね、頑張って」

ルーミアという名の妖怪は手を振って私を見送ってくれた。






霧におおわれた湖を飛んでいくと、大きめの妖精に遭遇した。
彼女を何とか追い払い、アイテムを回収して力を蓄えると、急に寒気がして、この当たりのボスらしき妖精の子が立ちはだかる。その子はチルノと名乗った。

「『今日の冴月 麟』だね、あたいが力試ししてやるよ」

氷の弾幕が飛んでくるが、ある場所が安全地帯だと分かった。
たぶんこの子は手加減してくれているのだろう。
そこでやり過ごし、普通のショット、光の球を氷の妖精にぶつける。

「一般人ですぐそこに気づくのは大したもんだよ。でもこれを喰らっちゃえ」

次の弾幕を避けきれなくなったところで、二枚目のスペルカードをかざす。

「えーと『花符 枝垂桜の恋心』」

こっ恥ずかしい命名だが、とっさに思いついてしまったものは仕方がない。
ようやくチルノを退けると、霧が晴れて、真っ赤な洋館の姿が目に入った。

「あんた、結構やるわね」
「そんな、チルノさんこそ、私のレベルに合わせて、楽しませてくれてありがとう」
「へぇ~わかるんだ。次はちょっときついわよ」

少し疲れたが、まだガッツは残っている。
洋館の正門を目指して進む。






しかし、私の弾幕ごっこは門の前で終わってしまった。
紅 美鈴さんという門番はとても強い人で、弾幕も美しかった。
つい七色の雨のような弾幕に見とれているうちに被弾してしまう。
日が暮れてへとへとになるまで挑んでみたが、やっぱり無理だった。

「日が暮れると危ないですよ。降参しますか?」
「はあ、そうします」
「楽しめましたか?」
「ええ、すっごく」

少し痛かったけど、美鈴さんは大けがするような攻撃は避けてくれた。
その後、私は美鈴さんにお茶をごちそうになった後、お礼を言ってゆっくりとスタート地点に向けて飛び、付いたころには夕陽が射していた。
湖の方角をみて、今日一日起きた事を振り返ってみる。なんと貴重な体験だった事か。
きっとあの門の向こうには、もっとすごい人達がいるんだろうな。
巫女様や魔法使いの子は、日常的にこんな事をしているのだろう。
たぶん表層に過ぎないんだろうけど、奥深い世界に触れた一日だった。






「楽しかったウサか? 『昨日の冴月 麟』より筋が良かったウサね。昨日の人間は一日じゅうルーミアちゃんと戦っていたけど、とうとう勝てなくてギブアップしたウサ」
「ホント、じゃあ私、お母さんより強かったんだ」
「お母さんだったウサか。それで、約束通り集めたアイテムを、一つを残してすべて渡してもらうウサ、良いウサね」

私は記念に、『P』の字のアイテムを貰った。

「まいどありウサ」

私は心地よい疲労感と共に家路を歩く。夕焼けが全てを包み、カラスの鳴き声が聞こえる。
家々の台所から、美味しそうな香りが漂ってくる。
籍を買う、と言うとなんだか危ないイメージがするが、要は普通の人間向けの、弾幕使い一日体験ツアーみたいなものだった。そしててゐさんの話だと、リピーターも結構多いらしい。
それにしても、お母さんに勝ってしまえたなんて、もしかして才能ある? なんてね。





お母さんに貰ったPアイテムを見せると、お母さんも内緒で持っていた点アイテムを見せてくれた。
それをお父さんに見つかり、あれこれ言いあったが、2対1でこっちが優勢。
特に私達に罰を与えるとかはしなかったけれど、ずっとぶつぶつ文句を言っていた。
でも、お父さんが怒っているのは、こっそり遊んでいた事に対してじゃなくて、私達を心配して言ってくれているのは分かる。
だって自分の奥さんや娘が、体にあざを作って帰ってきたら誰だって心配するから。
やっぱり、薔薇に棘があるように、美しい弾幕の世界にも危険が潜んでいるのだ。

「畜生、弾幕なんて誰が考え出しやがったんだ。お前達も全く、あんな危険な遊戯なんぞに現を抜かしおって! お前達にもしもの事があったら……うっ、父さん、泣いちゃう」

口喧嘩の後、一応お母さんと二人で謝っておいた。ごめんね。






数日後、お使いから帰る最中、弾幕使いの勝負を見かけた。
ルーミアと、『今日の冴月 麟』の戦いだ。
『冴月 麟』の体つきがどうも女の人らしくないと思ったら、男の人だった。
男の人がなっても良いとてゐさんから聞いていたから、別に驚くほどの事でもない。
そりゃあ男性だって弾幕ごっこしたい時もあるだろう。
でも片手をおでこに当てて、注意深く顔を見てみたら、お父さんだったのでビビった。



「よーしパパ妖怪退治しちゃうぞー」



メッチャ楽しそう。
あれほど弾幕を嫌っていたのに、本当はやって見たかったんだ。



「風よ! 花よ! わが魂に力を与えたまえ『風符 断罪の風(パニッシュメントディザスター)』 敵は死ぬ」 

……なんか、私より恥ずかしい、思春期の男の子が考えるような技の名をスペルカードにつけている。
でもお父さんの顔は、すっごく活き活きとしていた。

「我が名は太陽のフローラルダディ 冴月 麟 覚えておくがいい」

まあ、楽しそうで何よりだ。
私は苦笑しながら、しばらくお父さんを見守る事にした。
ルーミアを負かした後、お父さんは湖の向こうへと飛んで行った。






その日の夕方、私が見ていた事を帰ってきたお父さんに伝えると、お父さんは見られてしまったか、と照れくさそうに頭をかいた。でもこれで、お父さんとも弾幕ごっこ体験の話を堂々と共有できるようになったわけで、かなり嬉しい。
話によると、お父さんは図書館の魔女に出会ったところで力尽きたらしい。
お土産は一本の小悪魔のクナイで、無理を言って貰って来たとのこと。
それは今でも、お母さんの点アイテム、私のPアイテムと一緒に額縁に飾ってあって、我が家の宝物となっている。

『冴月 麟』の一日限定の弾幕少女籍は、ちょっとした人気があり、友人の阿求ちゃんもしてみた事があったみたい。もう一度申し込んでみようかな。
A 俺が、俺たちが冴月 麟だ。(一般人一同)
とらねこ
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コメント



0.1100簡易評価
2.50名前が無い程度の能力削除
誤字 子どもを設ける→儲ける 

そういえばいたなぁそんなキャラ
解釈としては面白いけど、物語の中にもう少し盛り上がりが欲しかったな
5.80奇声を発する程度の能力削除
ああ、そういえば居ましたねぇ…
6.無評価とらねこ削除
誤字を修正しました。まだまだ精進が足りないようです、がんばってみます。
8.80名前が無い程度の能力削除
わははは、なんだか夢のあるお話ーw
ではあたしもちょっくら、『冴月 麟』に申し込んで来よっかなー

・・・なにげにてゐ、道中アイテム儲かりまくりでうはうはだなw
普段からこういう商売して力を溜め込んでるのかな?
13.80名前が無い程度の能力削除
いややられた。全体的に薄味だけどこれはこれで面白い。
15.90名前が無い程度の能力削除
ああ、なつかしいなぁ

小悪魔は忍者みたく本物の苦無を投げていたのか
くのいち小悪魔か……いいな
22.100GOJU削除
まさかこういう切り口がありえるとは思わなかった。
厨二病の父上に乾杯!