それは異変であった。
博麗霊夢が掃除を終え神社に戻ると、賽銭箱の前に博麗霊夢が倒れていた。
「……なによこれ」
「聞こえてる?起きなさい」
自分の家の前に自分が倒れていたら流石に放っておく人間はいないだろう。
眠っているのか、声をかけても霊夢は起きそうにない。
「起きなさいってば」
体をゆすってみると、うーんとくぐもった声を出し、顔だけをこちらに向けた。
それは紛れもなく博麗霊夢の顔であった。
「……幻覚が……とうとう死ぬのね」
「ちょっと待って話が見えないわ」
自分の家の前で倒れている自分が死にそうだったら流石に放っておく人間はいないだろう。
よくみるとこの霊夢、顔こそ同じであるが非常にげっそりしている。体も痩せている、というより痩せ細っているという表現が適当だろう。
「何も食べてないの?」
幻聴に返事をしても仕方がない、とでも言うように霊夢は口を動かさない。このまま放っておいたら本当に死んでしまいそうだ。
「待ってなさい」
「ほら食べなさい」
霊夢は饅頭を皿に盛って霊夢の横に置いた。
霊夢は伏せていた目を見開いて霊夢を見上げた。
「……いいの?」
「いいから」
霊夢恐る恐る手を伸ばし、饅頭を掴んだ。
「……こんな哀しい夢なら見たくなかったな……」
「いいから」
霊夢は腑抜けた自分を見ているのが嫌になったので無理やり霊夢の口に饅頭を詰め込んだ。
ようやく霊夢も夢ではないことがわかったようだった。
久方ぶりに口にした饅頭は他の何も考えられなくなるほど甘くて美味しかった。
「何泣いてんのよ、饅頭くらいで」
もっとも霊夢は夢であって欲しいとずっと思っていたのだが。
「もう本当にこの恩は絶対忘れないわ。自分だけど」
結構な量盛ってあった饅頭は全て消え失せた。若干後悔した。
「それはいいんだけど結局あんたは何なの?」
「私は博麗霊夢よ。それ以上でも以下でもないわ」
「私からしたら貴方がいきなり現れた救世主にしか思えないんだけど」
「突然現れたのはあなたの方よ」
「そうかもね。私の家に饅頭があるはずはないもの」
暫く話し合ってみたが、別の平行世界から紛れ込んでしまったのではないか、という憶測以上のものは得られず、後でスキマ妖怪に訊こうということに落ち着いた。
その時だった。外から助けを求める声が聞こえてきた。
「霊夢ーっ!助けてくれ!アリスが!アリスが!」
どうやらそれは魔理沙のもののようだった。
「ちょっと行ってくるわ。あんたは待ってなさい、混乱させるから」
そう言って障子を開けて目に飛び込んできたのは二人の魔理沙だった。
「あんたらもなの?」
呆れて口からため息が漏れた。
「”も”ってなんだぜ!?霊夢も二人になったのぜ!?」
「それよりもアリスが大変なんだよ!……って来た!」
鳥居の下にアリスが居るのが見えたが、明らかにいつもとは違う。息を荒らげて顔をにやつかせている。
「魔理沙が二人……3Pよ!恥ずかしがらずにいらっしゃぁーい!!」
なにこれきもい。霊夢が最初に思ったのはそれだった。
「アリスってあんなんだったっけ?」
「まああんなんだったけど今日はなんかスイッチ入っちゃってるのぜ」
「ええ!?あんなんじゃないだろ!?流石に……って来る!助けてくれ霊夢!」
とは言ってもねえ、と渋る。他人の争いにはあまり興味がないしあのアリスには正直関わりたくない。
「なら私がやるわ」
「うわっ!!!びっくりしたのぜ」
「本当にそっちも二人なんだな……」
話は聞いたわ、とばかりに二人目の霊夢が外に出てきた。
「そっちの私には恩があるから」
霊夢は何か呪文を唱えたかと思うと、大量の札をアリスに投げつけた。
札はアリスの体を縛り付け、身動きを取れなくする。
「なにこれ!?そういうプレイなの!?」
ここにいる全員が全員きもいと思っていた。
「ところでお前はだぜだぜ言い過ぎだと思う。私そんな言わないぞ」
「そうか?」
「それは思ったわね……『なったのぜ』とかおかしいし」
「私と同じ世界の魔理沙だから私は違和感はなかったけど……あ、このアリスもこっちのアリスね」
もしかしたら幻想郷全体が影響を受けているのかもしれない。
とりあえず、原因を確かめに皆でスキマ妖怪のところに行くことにした。
「放置プレイ?放置プレイなの?……どうしよう興奮しちゃう……ハァハァ」
紅魔館でも異変は起こっていた。
「お嬢様が二人……ブフォッ」
「ええ!?ちょっと大丈夫?そっちの私」
「平気よ。いつものこと」
「えぇ……」
ご多分に漏れず紅魔館の主人とその従者も二人になっていた。
「そっちの従者はあんなんで大丈夫なの?」
「あんなんでもやるときはやるのよ。使えない奴だったら一瞬で殺してるわ」
「まあ、貴方がまともっぽくて良かったわ。他の世界とはいえ、自分がおかしいのには耐えられないわ」
「あら、それはこっちのセリフじゃないかしら」
「お嬢様、プリン食べますか?」
「食べるー!!!うー!!!」
一瞬にしてカリスマブレイクした他世界の主人を見て従者は何を思うのか。
忠誠心を鼻から噴出させる他世界の従者を見て主人は何を思うのか。
「咲夜、貴方もああいう可愛げのある方がいい?」
「……いえ、お嬢様はお変わりなさらず、そのままでいてくださいね」
「もちろんよ……咲夜も咲夜のままでいて」
「御意」
「うー!うー!」
「ブフォッ……麗しゅうございますわお嬢様」
紅魔館の門前。
(気づいたら私とそっくりな人が隣で立ったまま寝てるんですけど……どうしよう)
幻想郷の人口は今や倍となっていた。全ての人間、妖怪が二人ずつになったのである。
山ではやたら毒舌な巫女や、仲の悪かったはずの鴉天狗と狼天狗が仲良くしてるのが目撃され、永遠亭では姫がジャージ姿でゴロゴロしていると大騒ぎになったりした。
もちろんそれはこの八雲亭も例外ではない。
「ちぇええええええええええええええん!!!!!!!!!!!」
「うわっ!びっくりさせるな……ってなんで裸なんだよ!おかしいだろう!」
「ちぇんがかわいいからに決まってるだろう!!」
「橙は確かに可愛いけど、そのリアクションはおかしい」
「ら、藍しゃま……」
「ブフォア」
鼻血キャラが増えた。
「あたしもあんな風に甘えたほうがいいですか?」
「いや……今のままでいい」
ちょっとでもあんな風に甘えられてみたいと思った自分が情けないと首を振る。
「で、結局こうなったのはあんたらのせいなの?」
霊夢一行は八雲紫――もちろん二人――に詰め寄った。
「こっちの世界の私は何もしてないわ。本当よ。そっちの私に聞いて頂戴」
「だそうで」
「……結界をいじってたらちょーっとね、ほんとにちょーっと」
「ミスった?」
「……ミスっちゃった☆」
こつんと自分の頭を叩き舌を出す紫の仕草は、非常に腹立たしいものであった。
「妖怪の賢者が聞いて呆れるわね」
「これじゃあ認知症とか言われても仕方ないな」
「異次元の私がこんなじゃあ、ちょっと恥ずかしいわ」
罵詈雑言、皮肉の嵐であった。
「……ぐすん。ゆかりん、わるくないもん」
そろそろぶん殴ろうかと霊夢が前に出た瞬間、先程まで自身の式と戯れていた藍が飛び出してきた。
「お前ら、何をしているんだ!誰に物を言っているのかわかってるのか!?」
「うるさいわね、その婆さんが気色悪いのよ」
「婆さんだと……!?ふざけるな!!」
「紫様は、17歳でいらっしゃるんだぞ!!」
瞬間、こっちの紫が二人をスキマに蹴り飛ばした。本気っぽかった。目が笑ってなかった。
結局、二人の紫の活躍によって、こっちに流れこんで来た異世界の住人は帰り、この異変は幕を閉じた。
紫によると、向こうの世界は「虹の幻想郷」といって、外の世界の影響を受けやすい場所なのだという。
この世界も一時は騒然となったが、今でこそ以前の平穏を取り戻している。
……アリスが異世界の自分の話を聞いてショックで寝こんでしまったこと以外は。
おわり
博麗霊夢が掃除を終え神社に戻ると、賽銭箱の前に博麗霊夢が倒れていた。
「……なによこれ」
「聞こえてる?起きなさい」
自分の家の前に自分が倒れていたら流石に放っておく人間はいないだろう。
眠っているのか、声をかけても霊夢は起きそうにない。
「起きなさいってば」
体をゆすってみると、うーんとくぐもった声を出し、顔だけをこちらに向けた。
それは紛れもなく博麗霊夢の顔であった。
「……幻覚が……とうとう死ぬのね」
「ちょっと待って話が見えないわ」
自分の家の前で倒れている自分が死にそうだったら流石に放っておく人間はいないだろう。
よくみるとこの霊夢、顔こそ同じであるが非常にげっそりしている。体も痩せている、というより痩せ細っているという表現が適当だろう。
「何も食べてないの?」
幻聴に返事をしても仕方がない、とでも言うように霊夢は口を動かさない。このまま放っておいたら本当に死んでしまいそうだ。
「待ってなさい」
「ほら食べなさい」
霊夢は饅頭を皿に盛って霊夢の横に置いた。
霊夢は伏せていた目を見開いて霊夢を見上げた。
「……いいの?」
「いいから」
霊夢恐る恐る手を伸ばし、饅頭を掴んだ。
「……こんな哀しい夢なら見たくなかったな……」
「いいから」
霊夢は腑抜けた自分を見ているのが嫌になったので無理やり霊夢の口に饅頭を詰め込んだ。
ようやく霊夢も夢ではないことがわかったようだった。
久方ぶりに口にした饅頭は他の何も考えられなくなるほど甘くて美味しかった。
「何泣いてんのよ、饅頭くらいで」
もっとも霊夢は夢であって欲しいとずっと思っていたのだが。
「もう本当にこの恩は絶対忘れないわ。自分だけど」
結構な量盛ってあった饅頭は全て消え失せた。若干後悔した。
「それはいいんだけど結局あんたは何なの?」
「私は博麗霊夢よ。それ以上でも以下でもないわ」
「私からしたら貴方がいきなり現れた救世主にしか思えないんだけど」
「突然現れたのはあなたの方よ」
「そうかもね。私の家に饅頭があるはずはないもの」
暫く話し合ってみたが、別の平行世界から紛れ込んでしまったのではないか、という憶測以上のものは得られず、後でスキマ妖怪に訊こうということに落ち着いた。
その時だった。外から助けを求める声が聞こえてきた。
「霊夢ーっ!助けてくれ!アリスが!アリスが!」
どうやらそれは魔理沙のもののようだった。
「ちょっと行ってくるわ。あんたは待ってなさい、混乱させるから」
そう言って障子を開けて目に飛び込んできたのは二人の魔理沙だった。
「あんたらもなの?」
呆れて口からため息が漏れた。
「”も”ってなんだぜ!?霊夢も二人になったのぜ!?」
「それよりもアリスが大変なんだよ!……って来た!」
鳥居の下にアリスが居るのが見えたが、明らかにいつもとは違う。息を荒らげて顔をにやつかせている。
「魔理沙が二人……3Pよ!恥ずかしがらずにいらっしゃぁーい!!」
なにこれきもい。霊夢が最初に思ったのはそれだった。
「アリスってあんなんだったっけ?」
「まああんなんだったけど今日はなんかスイッチ入っちゃってるのぜ」
「ええ!?あんなんじゃないだろ!?流石に……って来る!助けてくれ霊夢!」
とは言ってもねえ、と渋る。他人の争いにはあまり興味がないしあのアリスには正直関わりたくない。
「なら私がやるわ」
「うわっ!!!びっくりしたのぜ」
「本当にそっちも二人なんだな……」
話は聞いたわ、とばかりに二人目の霊夢が外に出てきた。
「そっちの私には恩があるから」
霊夢は何か呪文を唱えたかと思うと、大量の札をアリスに投げつけた。
札はアリスの体を縛り付け、身動きを取れなくする。
「なにこれ!?そういうプレイなの!?」
ここにいる全員が全員きもいと思っていた。
「ところでお前はだぜだぜ言い過ぎだと思う。私そんな言わないぞ」
「そうか?」
「それは思ったわね……『なったのぜ』とかおかしいし」
「私と同じ世界の魔理沙だから私は違和感はなかったけど……あ、このアリスもこっちのアリスね」
もしかしたら幻想郷全体が影響を受けているのかもしれない。
とりあえず、原因を確かめに皆でスキマ妖怪のところに行くことにした。
「放置プレイ?放置プレイなの?……どうしよう興奮しちゃう……ハァハァ」
紅魔館でも異変は起こっていた。
「お嬢様が二人……ブフォッ」
「ええ!?ちょっと大丈夫?そっちの私」
「平気よ。いつものこと」
「えぇ……」
ご多分に漏れず紅魔館の主人とその従者も二人になっていた。
「そっちの従者はあんなんで大丈夫なの?」
「あんなんでもやるときはやるのよ。使えない奴だったら一瞬で殺してるわ」
「まあ、貴方がまともっぽくて良かったわ。他の世界とはいえ、自分がおかしいのには耐えられないわ」
「あら、それはこっちのセリフじゃないかしら」
「お嬢様、プリン食べますか?」
「食べるー!!!うー!!!」
一瞬にしてカリスマブレイクした他世界の主人を見て従者は何を思うのか。
忠誠心を鼻から噴出させる他世界の従者を見て主人は何を思うのか。
「咲夜、貴方もああいう可愛げのある方がいい?」
「……いえ、お嬢様はお変わりなさらず、そのままでいてくださいね」
「もちろんよ……咲夜も咲夜のままでいて」
「御意」
「うー!うー!」
「ブフォッ……麗しゅうございますわお嬢様」
紅魔館の門前。
(気づいたら私とそっくりな人が隣で立ったまま寝てるんですけど……どうしよう)
幻想郷の人口は今や倍となっていた。全ての人間、妖怪が二人ずつになったのである。
山ではやたら毒舌な巫女や、仲の悪かったはずの鴉天狗と狼天狗が仲良くしてるのが目撃され、永遠亭では姫がジャージ姿でゴロゴロしていると大騒ぎになったりした。
もちろんそれはこの八雲亭も例外ではない。
「ちぇええええええええええええええん!!!!!!!!!!!」
「うわっ!びっくりさせるな……ってなんで裸なんだよ!おかしいだろう!」
「ちぇんがかわいいからに決まってるだろう!!」
「橙は確かに可愛いけど、そのリアクションはおかしい」
「ら、藍しゃま……」
「ブフォア」
鼻血キャラが増えた。
「あたしもあんな風に甘えたほうがいいですか?」
「いや……今のままでいい」
ちょっとでもあんな風に甘えられてみたいと思った自分が情けないと首を振る。
「で、結局こうなったのはあんたらのせいなの?」
霊夢一行は八雲紫――もちろん二人――に詰め寄った。
「こっちの世界の私は何もしてないわ。本当よ。そっちの私に聞いて頂戴」
「だそうで」
「……結界をいじってたらちょーっとね、ほんとにちょーっと」
「ミスった?」
「……ミスっちゃった☆」
こつんと自分の頭を叩き舌を出す紫の仕草は、非常に腹立たしいものであった。
「妖怪の賢者が聞いて呆れるわね」
「これじゃあ認知症とか言われても仕方ないな」
「異次元の私がこんなじゃあ、ちょっと恥ずかしいわ」
罵詈雑言、皮肉の嵐であった。
「……ぐすん。ゆかりん、わるくないもん」
そろそろぶん殴ろうかと霊夢が前に出た瞬間、先程まで自身の式と戯れていた藍が飛び出してきた。
「お前ら、何をしているんだ!誰に物を言っているのかわかってるのか!?」
「うるさいわね、その婆さんが気色悪いのよ」
「婆さんだと……!?ふざけるな!!」
「紫様は、17歳でいらっしゃるんだぞ!!」
瞬間、こっちの紫が二人をスキマに蹴り飛ばした。本気っぽかった。目が笑ってなかった。
結局、二人の紫の活躍によって、こっちに流れこんで来た異世界の住人は帰り、この異変は幕を閉じた。
紫によると、向こうの世界は「虹の幻想郷」といって、外の世界の影響を受けやすい場所なのだという。
この世界も一時は騒然となったが、今でこそ以前の平穏を取り戻している。
……アリスが異世界の自分の話を聞いてショックで寝こんでしまったこと以外は。
おわり
チルノは何人いたのかなぁ。クラウドチルノ、チル姉、普通にダメな子とバリエーションがやたら多いけど。
確かに、二次創作と原作を比較するとこんな感じ。
面白かった!
タイトルも上手いだけに惜しかったです
せっかくのテーマに対して短すぎる気がしました。
でも個人的にすごく好きです。
ただやっぱりもっと広げてほしかったし、描写ももっと分かりやすくできたと思うのが残念
虹紅魔組み最強。。。
もっと読ませてもらいたかったなぁ
「東方の二次ってこんなのがやたら多いですよね!」
って言いたいだけに見えてしまう