Coolier - 新生・東方創想話

輝夜の作戦会議

2011/04/10 10:14:33
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※ここには人気投票ネタが含まれます
※苦手な方は戻るボタンを推奨します


 
 竹林の奥深くに佇む広大な屋敷、永遠亭。
 その日一枚の紙が輝夜のもとに届けられた。タイトルには『第8回東方シリーズ人気投票』の文字。
 見つめること数分。次第に紙を持つ手はわなわなと震え、底のない落とし穴に吸い込まれていく感覚に陥っていた。
 
「こんな……こんなことって……」
 
 輝夜はその身を動かす決意をした。
 
 
 
 
「ヘタレイナバー!!」
「わわっ! ど、どうしたんですか、姫様。いきなり大声出されて。あと私の名前は鈴仙です」
 
 呼び出されたるは、天気もよく、縁側でのんびりとくつろいでいた鈴仙・優曇華院・イナバ。へにょったウサミミがトレードマークである。
 突然の呼び出しに驚くも、何事かと訝る間もなく命令が下された。
 
「今から緊急会議を開くわ。至急永琳を呼んできなさい。妹紅も」
「わかりま……ええっ!? も、妹紅さんですか?」
「そうよ。早くなさい」
 
 驚くのも無理はない。確かに妹紅といえば輝夜とは殺しあう仲であり、浅からぬ関係にあるといえる。しかし、なぜまた部外者ともいえる妹紅が必要なのだろうか、それに……
 
「でも、どこにいるかわからないですよ」
「アイツのことだから、いまごろ竹林をほっつき回っているわよ」
「竹林って言ったって広いし、私が迷子になっちゃいますよ~」
「あー! うだうだ言わないの! さっさとなさい!他のイナバを総動員してでも探してくるのよ」
 
 かなり理不尽な要求ではあったが、当然逆らうこともできず、泣く泣く探しに行くこととなった。
 
 
 
 
 それからしばらくして、永遠亭の一室に会議室が設けられた。参加者は住人の輝夜、永琳、鈴仙、そして竹林の護衛・案内をしている妹紅、さらには人里の寺子屋で教師をしている慧音という面々である。
 
「んで、わざわざ呼び出して一体何の用なの?」
 
 とジトっと輝夜を睨む妹紅。それには答えず、鈴仙に問いかける。
 
「へにょりイナバ。私、ハクタクは呼んだ覚えはないんだけど」
「ちょうど妹紅さんと一緒に歩いていたので、ついでに来てもらったんです。あと私の名前は鈴仙です」
 
 実のところ、輝夜が言うとおり散歩していた妹紅をさほど苦労することなく見つけることができた。おそらくは日ごろの行いがよいからだろうと自分勝手に解釈したところで、慧音も一緒であることに気が付いた。
 輝夜が何を考えているのかは皆目見当がつかないが、幻想郷きっての常識人と呼ばれる慧音がいたほうが話が建設的に行きやすくなるのではないかと思い、誘ったのであった。
 
「そこの弾丸兎の言うとおりだ。もっとも、私はお呼びでないようであれば帰らせてもらうが」
 
 そう慧音が言うと、輝夜はしばらく思案した様子であったが、それには及ばないと判断した。
 
「ん~まあいいわ、いてちょうだい。あなたにも少なからず関係があることだし」
「ふむ。そうか」
「だから、何を始めるつもりなのよ」
 
 無視される形となっていた妹紅の再度の問いに、めんどくさそうに答える輝夜。
 
「うるさいわね。会議よ会議」
「会議ぃ? なんで私が必要なのよ」
 
 鈴仙と同様、妹紅の疑問は当然であろう。しかし、輝夜はさも当然とばかりに答える。
 
「どうしてもよ」
「どうしてもって……。なんか、いやな予感しかしないんだけど……」
「いいから黙って聞きなさいな。じゃあ始めるわよ」
「私の名前は鈴仙です」
 
 こうして輝夜主催の会議が開催された。
 
 
 
 
「さて、みんなこれを見てどう思う?」
 
 壁に貼り付けられたしわくちゃの紙をバンバンと叩く輝夜。
 明らかに「どうといわれてもなぁ……」とでも言いたげな表情で、互いの顔を見回す他のメンバー。いきなり人気投票結果を見せられてどうもこうもないではないか。一体何を言えと言うのか。
 
「じゃあヒントをあげる」
 
 場の沈黙に痺れを切らした輝夜がおもむろに口を開いた。
 
「いまからここにいるメンバーの順位を読み上げるわ。永琳44位、私33位、慧音30位、イナバ24位、そしてトップの妹紅11位。もうここまでくればわかるでしょ」
 
「正直全然わからないね」
 
 と、幾分投げやりな表情の妹紅。
 
「私もだ。妹紅が飛びぬけているのはいつものことだしな」
「特筆するとすれば、そこの兎が大きく順位を上げたことかしらね。まさかそれが気に入らないとか」
「いやいや、それであればわざわざ妹紅さんを呼び出す理由がないですよ。あと鈴仙って呼んでください」
「となると、やはり妹紅が大きく関与していると考えるべきか」
 
 各々思いついたままに考えを出すものの、なかなか正解には至らないようである。
 
「私がねぇ。順位落としてTOP10から外れちゃったくらいしか思いつかないけど」
「それよ!!!」
 
 突然輝夜が大声を上げた。どうやら正解であったようだ。
 興奮さめやらぬといった態で正解発表を行う。
 
「妹紅、あんたが落ちちゃったことで、永夜組はTOP10に誰もいなくなってしまったのよ!」
 
 唖然とする他メンバー。だからなんだと言うのか……
 過去の結果を見てみると、常に鈴仙や慧音など誰かはランクインしていたのである。しかし、結果は結果。どうすることもできないだろうに。
 
「ま、まあ確かにいままでは誰かしらは入っていたわけだが……」
「でも、そんなに憤慨することでもないじゃない」
「そうですよ。11位って十分人気キャラですし」
 
 理解に苦しむとばかりに口に出すものの、輝夜のテンションはあがる一方。
 
「なに言ってるの! 妹紅あんたこのままだと下がる一方よ! へたすりゃ私達誰もTOP20にすら入らなくなるかもしれないのよ!? だから私は考えたの。まず妹紅あんたのイメージアップから図る必要があるとね! だからみんなでいい案を出しなさい!」
「わ、私の!?」

 一体いきなり何を言い出すんだこいつは。
 明らかに温度差が異なる両極にまた重苦しい空気が流れていた。
 
 
 
 
 これ以上付き合っていられない。何を言いたいかも全然わからないし。
 帰ろうかと本気で思っていた妹紅であったが、輝夜の勢いに飲まれ、動けずにいた。
 隣を見れば慧音も微動だにしない。ただ、こちらは何事か思案している。
 
「あのぉ姫様?」
 
 しばらくの沈黙の後、雰囲気に呑まれながらも、鈴仙がおずおずと声を上げた。
 
「イメージアップっていっても何すればいいんです?」
「だからそれをみんなで考えて決めるんじゃない」
「それなんだが、私も先ほどから考えていたんだが、なかなか出てこないもんだな」
「え!? 慧音本気で考えていたの?」
 
 いつの間にやらその気になっている慧音とそれに驚く妹紅。
 その二人をよそに再度鈴仙は問いかける。
 
「それに、そもそもなんで妹紅さんなんです? まず姫様ご自身でやられてもいいんじゃないでしょうか」
 
 おお! すごいぞこの兎。主人の輝夜に向かってそこまで言えるとは。ぜひ名前を教えてくれ!
 これで輝夜も少しは落ち着くだろうとかなりの期待を込めて妹紅は鈴仙を見つめていた。
 
 が、結果は逆効果。さらにヒートアップさせてしまったようであった。
 
「なんでって?決まってるじゃないの!」
「私の可愛い妹紅がゴシップ好きの鴉天狗や得体の知れない地底妖怪に負けるなんて我慢ならないのよ!!」
 
 勢いとまらず出てしまった言葉に再三静まり返る会議室。
 
「わたしの」
「かわいい」
「もこう?」
 
 犬猿の仲として知らぬものはいない妹紅と輝夜。その片割れから、よもやそのような言葉が発せられるとは。
 ここにきてようやく問題発言の張本人も気がついたらしく「あ、いや、それは違うから……ダメだから……」と真っ赤な顔をして、なにやらぶつくさつぶやいている。が、しかし、時すでに遅し。
 みれば重苦しい雰囲気は一変。鈴仙はぽかんと口をあけ、ここまで一言もしゃべっていない永琳はニコニコと謎の笑みを浮かべ、妹紅は目を紅白させていた。
 
「ふぅ、やれやれ。よいか輝夜」
 
 そのようななか、ここで唯一表情の変わらぬ慧音が状況を打開すべく道を示す。常に冷静沈着に物事を考えられる存在は、やはりどの場面においても必要とされるものである。
 

「そういうことはまずせんせいにそうだんしないといかんなあ。もこうがかわいいのはみとめるがひとりじめはよくないぞぉ。ほらわたしってせんせいやってるだろ。せんせいにとってつごうのわるいことはたべるなりなんなりしてきちんとしょりしなくちゃだめなんだな。それに……」
 
 ダメダメであった。
 
 
 
 
 結局、場が落ち着きを取り戻したのは、恥ずかしさのあまり輝夜が一度リザレクションしたところであった。
 
「まったく私としたことが。でもおかげでいい案が浮かんだわ。妹紅、あなた紅魔館で働きなさいな」
「はい?」
 
 こちらも平静を取り戻しつつあった妹紅であったが、"いい案"とやらに再度混乱の渦に放り込まれた。
 
「だから、紅魔館でメイドとして働きなさい」
「意味わからないんだけど。ついでに訳もわからないんだけど」
「怨恨を纏いし少女、メイドとして健気に働く。これはイメージアップ間違いなしね。目の保養にもなるし」
「人の言うことを聞け。それに今最後なんつった?」
「ふむ。なかなかすばらしい案じゃないか。妹紅、ここは社会経験を積む良い機会を与えられたと考えてだな」
「ちょっと、慧音! あんたまで!?」
 
 慧音さん?なんでそんなにノリノリなんです?
 
「そのとおりよもこたん。社会勉強は大切よ?」
「年中引き篭もりのお前が言うな! もこたん言うな!」
「よし、合意も取れたし、早速手配を」
「何訳のわからないこと言ってるのよ慧音! ちょっと永琳、黙ってないであんたからもなんか言ってよ!」
 
 さすがに手に負えなくなり、永琳に助けを求める。が、
 
「え、永琳? ちょ、ちょっと、どうしたのさ」
 
 様子が変だ。これは……
 
「え? し、師匠!?」
 
 ここにきてようやく我に返った鈴仙も、自分の師匠の様子がおかしいことに気づいた。
 
「息をしてない。し、死んでる!?」
「そ、そんな、師匠!なにもしゃべることなく、笑ったまま死んでしまうなんて……」
 
 いつの間にやらお亡くなりになっていた月の頭脳。
 
「さすが月人、理解の範疇を超えている」
「どこに死ねる要素があったのですか! 残された私は一体どうすればいいのですか!」
「落ち着きなって、あんたコイツの弟子だったんでしょ」
「ですけど、いきなりこう不自然死されたんじゃ、何をどうすればいいかわからないですよ! せめて最後くらいは名前で呼んでほしかった……」
「しっかりしな、ダメうさぎ! あんたがやらなくて誰が永琳の後を継ぐのさ」
 
 途方にくれる鈴仙に妹紅の叱咤激励が響き渡る。
 はっとなにかを取り戻したような表情の鈴仙。
 見ろよこの満足げな死に顔。すべて信頼している私に押し付け……もとい、託したんだ。後悔はきっとないに違いない。涙が止まらない。師匠、後は私にお任せください。
 
「も、妹紅さん……そ、そうですよね、私がしっかりしなきゃ。ありがとうございます、おかげで目が覚めました! あと、私の名前はれいs」
「うんまあ、がんばってね。ああっと、こんな漫才してる場合じゃない。早く逃げなきゃ」
 
 どうせほっといてもそのうち生き返るでしょ。そんなことより、この場は逃げたほうがよさそうだと仕度を始める妹紅。
 いやな予感的中だよ。慧音もなんだかおかしいし。
 
 遅かった。
 
「あらあら、どこに行くのかしら。わたしのもこたん」
 
 ガシっと右腕をつかまれる。そして、すっかり開き直っている。
 
「そうだぞ。社会人たるもの、言ったことは守らなければならん。妹紅は私のものだ」
 
 左腕もしっかりとロック。泣きたくなった。
 
「は、離せ! 誰もやるなんて言ってないぞ。吸血鬼にこき使われるなんていやだ」
「もう、往生際が悪いわね」
「安心しろ、たまには私達も様子を見に行くから」
「はなせぇ! たすけてえ!」
 
 どうしてこうなった。どうしてこうなった。
 
 悲痛な叫びをあげながら、ずるずると紅魔館へ連行されていく妹紅。
 両脇には喜々とした表情の輝夜と慧音。 
 感動の涙、涙の鈴仙に、安らかな表情の永琳。
 
 こうして、三者三様に喜怒哀楽の表情を浮かべ、永遠亭会議は閉幕した。
初投稿になります。
ご意見など、いただけましたら幸いです。

ご拝読ありがとうございました。
ふぇんねる
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コメント



0.1300簡易評価
13.80奇声を発する程度の能力削除
>ぜひ名前を教えてくれ!
ひっでえwwww
皆の駄目駄目感がとても面白かったです
メイド服もこたん、見てみたいなー……(チラッ
17.無評価ふぇんねる削除
>>13

感想いただきまして、ありがとうございます。
初投稿ということもありドキドキしながらの投稿でしたが、そういって貰えてうれしい限りです。
メイド服もこたん、どこかなー……(チラッ チラッ
20.100名前が無い程度の能力削除
続編待ってます
ちなみにけねもこなのかてるもこなのかwktkしております
22.無評価ふぇんねる削除
>> 20

おおお。ありがとうございます~
ただいま構想を練っています。
てるもこもけねもこも。あれはいいものだ……
23.70カナリア削除
ちょっ、ちょっと!永琳先生ぇー死なないで!
モコたんメイド・・・ジュルリてゐが居ない・・・だと?
面白かったです!
24.100名前が無い程度の能力削除
妹紅がトップ10から外れたということに危機を感じていたのは
俺だけじゃなかったのか!ちょっと感動だわ・・。
よーしこうしちゃいられねぇ!俺もなんか書くぞー!←あんまり自信ない(´・ω・`)
25.無評価ふぇんねる削除
>>23
感想いただきまして、ありがとうございます。
はじめはてゐもいたのですが、自分の力量ではこれ以上のキャラはうまく扱えなさそうだったので、途中から外すことにしました。
多数キャラが登場して、みなキャラが立ってるSSをみると、つくづくパルパルします。


>>24
落ちる予感はしてたんですよ。
でも、これまでみたくもこたん(もちろんイチオシ)踏みとどまってくれるかも! とも思っていたのですが、残念……
永夜抄には思い入れがあって、特に大好きです。
34.90名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
永琳は何しに来たんだw