Coolier - 新生・東方創想話

花見の穴場。

2011/04/09 21:10:24
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 人間は理解ができない状況下に落とされると、動きが固まります。
 それは私達白狼天狗も文さん達烏天狗も同じことでした。大方の種族はそうなんですよね。
 そして、次に慌てふためく……ここまでテンプレですね。普段落ち着いた人ほどこういうときには慌てるもので。

「……椛! 椛! 椛!」
「黙ってください」

 半泣きの文さんの無駄口を一蹴、黙らせることには成功しました。さて、一体どうしたものか……。




 始まりは本当に些細なことでした。とある春の日の午前中のことです。花見に行こう、と文さんに誘われました。
 文さんと言えば部下のことをなかなかに省みない人で、引っ張り廻されたり暇つぶし要因にされたりと本当にそばにいるのが大変なんですよね。でもたまに弱いところを見せるから……いや、これは関係ないか。
 そんな文さんが、私を花見に。基本私が花見に行くとしてもそれはにとりと将棋を打ちながらだったり宴会を兼ねたりする時で。文さんとこういう機会はあまりありませんでした。
 酒に誘われることはあれど、大抵は接待や取材、二人かと思えば愚痴を聞かされる。でも今日のはなんだか違いそうな感じがしていました。弁当を二人で作るなんて、それはもうだってその、ああ何を言っているのかよくわからない。
 そして、弁当と二人で飲むのには少しだけ多そうなお酒……まあ、気がつけばなくなってますし多いに越したことはないんですが……を二人で持ってその場所に行ったんです、はい。いつもなら荷物持ちなのに、それも今日はなかった。
 まあそりゃ、私としてもとても嬉しいわけですよ。私の気分も上々、鼻歌まで歌い出す始末でした。曲は童謡……最近はやりの歌なんて知りません。何がはやってるんでしょうか、今度文さんに聞いてみましょうかね。

 で、到着です。そう、到着したんですよ。それはそれはきれいな桜並木でした。満開の桜、舞い散る桜吹雪。顔にかかる花弁が心地よくて、私の心がくすぐられました。
 見渡すと、遠く離れたところで河童たちが花見をしているのが見えました。でも、それ以外には誰もいない。簡単に言うなら、ここはまさに穴場だったんですよ。そう、穴場。穴場です。穴場でした。


 誰だこんな所に落とし穴掘ったやつ。そうです、二人して落ちたんですよはい。




 直径は7mほどでしょうか。きれいな円柱型の大きな落とし穴です。深さは10mくらいですかね? 
 いや、それにしてもよくできた落とし穴だと思います。そのことに感銘を受けてなければ今頃私も文さんのように慌てふためいていたことでしょう。
 これはまさに匠の仕事でしょうか……ってそんな判断をしている場合じゃないですね。常識的に考えて……ないでしょう。ここ幻想郷ですけど、常識に囚われるべきではないけど!
 しかも時間差トラップで。すぐ落ちるわけじゃなかったんですよね。ちょうど荷物を広げ、座ったところで落ちました。スイッチでしょうか? とりあえず、嫌がらせであることには変わりません。
 そうそう、嫌がらせと言えば、底に泥が引いてあったようです。御座を引いてなければ、なんかもう筆舌し難いほど泥まみれになってましたね。いやほんと、何を考えてこんなことをするのか。
 しかも落ちて、そしてまた蓋が戻ったんですよね。戻したのか、それともそういう仕掛けなのか。まあそれは私達には関係のないこと。最も重要なのは私達が閉じ込められていることです。
 この蓋が重くて外れないんですよ。私と文さんの二人がかりでも無理でした。
 風を使えばいい? 穴の中で風を起こすなんて死にたいんですか? と、天孫を降臨させようとしてた文さんを先ほど叱ったばかりですけど。
 しかも、この蓋には弾幕耐性もあるようで、こっちが弾幕を打ったら撃ち返し弾を放ってきましたからね。見えない中の弾幕なんて避けれません。二人して被弾しましたよ、ああ痛い。

 と、いうわけで。今私達は落とし穴の中です。
 明かり? そんなもんありませんよ、外が夜になったら真っ暗になるのと同じです。こんな穴の中に電灯やら発光性の植物やらがあるわけないじゃないですか。
 私達も多少夜目は利くんですが、こうも暗いと不便なことには変わりありません。それに、真っ暗な中だと心細くもなるもので――

「……ねぇ椛」
「なんですか文さん」
「ごめんね、私が誘わなきゃ…」
「珍しいですね、文さんが弱気になるなんて」
「だって…」
「気分が落ち込むだけです、やめましょう……誘ってもらえてうれしかったですし」
「椛…」
「がんばりましょうよ、文さん」

 いつものどこか自信満々で元気はつらつな文さんとは違い、弱々しい様子を見せる文さん。
 大体何やっても駄目でしたからね。結構文さんも参ってるんでしょう。中から蓋を強く叩くだけの作業、外に音が漏れてればいいんですが……それを続けていては、文さんの気が滅入るのも当然です。
 そんな文さんの姿を見ていたくない私は壁を触って横穴やスイッチがないかを確認中。落とし穴にしては凝りすぎですし、なにか抜け穴があってもいいんじゃないかと思ったまでです。
 時折這っているミミズやらなにかに触れて、悲鳴を上げるのももはや飽きました。今では見つけたら引っ張りだしてその穴を広げようと土まみれの指で頑張ったりもしてます。
 数えだしてから23匹目のミミズを地面に投げ、私はふとため息をつきました。そろそろドッキリと掲げた札を持って仕掛け人が出てきてもいいころなんですが……殴りたいですし。

 それにしても、何やら嫌な予感がしてきました。空気がまずくなったというか……二重の意味で。いや、なにかまずいことが起こってるっていうニュアンスだと三重でしょうか……まさかね?

「ねぇ、椛」
「なんですか、文さん」
「……酸素、薄くなってません?」
「……気のせいですよ」
「ですよねー、まさかそんなことありませんよね」
「ははは」

 畜生笑えねぇ。
 
 いやな予感が的中、このままだと窒息死的ななにかになってしまうようななにかです。このですは死ぬ方のデスと掛けてっていう謎の思考回路が働くのも、仕方ないんですよね。
 落ち着かないと……落ち着いて深呼吸深呼吸……あれ? 深呼吸って沢山酸素を使うのかな?
 多分空気穴はあるんでしょうけど。ないなんて、そんな馬鹿な話があってたまるもんか。信じる者は救われる、山の上の神様でも信じましょう。ここは山ですし、ね。



 気付けば同じところを掘っていました。ここ掘れワンワン。宝よりも出口をください、こちとら切実ですよ。若干命かかってるんですよ。
 ふと、何の気なしに上を見上げます。いつもの短いスカートがめくれながらも文さんは天井を連打してました。でも見えない。軽快なリズムを刻んで。楽しそうですね、あれが今はやりの曲なんでしょうか?
 いやあれが気晴らしだって事くらいわかっていますが。険しい顔をしているのがここからでも手に取るように分かります。千里眼なめんな。


 ……あれ? 今、なにやら地響きのような音が。そしてなにかが開くようなって蓋が開いたっ!
 そう、内側に開きました。なるほど、内開きだったんですか。どおりで押しても開かないわけですね。
 挟まれてカエルが潰れたような声を出し、そして落ちてくる文さんともう一人。残念ながら蓋はもう一度閉じられてしまいました……が、脱出法は見つかりましたね。よかったよかった、そろそろ遺言を用意しなければいけないかな、と思い始めたころですし。

 さてここで問題です。落ちてくる二人の人影、片方は文さん。救えるのは一人だけ。私はどちらを救うべきでしょうか?
 避けました。無言で避けました。これが求められる最善の答えでしょう。
 いや、だってですよ? その落ちてくる人が文さんの上司かもしれませんし、友人かもしれませんし、全く見知らぬ人かもしれないじゃないですか。
 一番あたりさわりのない選択肢を選んだだけですって。それに、文さんが丈夫だっていうのもありますし。でも、呻く文さんを見ると心配になるのは仕方がないことです。

「……大丈夫ですか?」
「椛ー、なんで助けてくれなかったんですかー?」
「文さんは大丈夫そうですね。で、そちらは…」
「いたた……あれ、妹紅じゃない!?」

 落ちてきた方は竹林深くにある永遠亭の主、蓬莱山輝夜さんでした。なんで妖怪の山の中にこんな人が。
 十二単がクッションになったのか、死んではないみたい……いや、死なないけど。怪我も特にないようですね。
 で、何か知ってるような口ぶりです。まさか……まさかとは思いますが、輝夜さんがこの落とし穴を……?
 たしか聞いたことがありますね、永遠亭にすむ兎の中には因幡てゐという現代のトリックスターがいる、と。輝夜さん、非常に怪しいですね。

「貴女の仕業だったんですか?」
「い、いやね、私は妹紅を嵌めようとしてたの。ここで妹紅が花見をする事は調べ済みだったのよ!」
「で?」
「てゐに頼んで落とし穴を掘ってもらって」
「……で?」
「貴女達が勝手に落とし穴に落ちただけじゃない。私は確認しようと思ったらついドジ踏んじゃって」
「そのまえにいうことがありませんか?」
「ごめんなさい」
「よろしいです」
「他に言い訳は?」
「ありません」

 私は輝夜さんを詰問しました。いや、そこまで怒ってませんよ? ただ、謝罪が欲しかっただけです、あはは。土下座させて、何度か謝らせます。
 そして聞いたところによると、天井にある取っ手を全力で引っ張ると開くらしかったです。私達が壊しちゃったみたいですが。
 単純な妹紅なら気付かないだろう、燃えて酸素が薄くなってドツボに嵌まった所を見て嘲笑ってやろうと思った、と輝夜さんは笑顔でいいました。
 その妙にきれいな笑顔が憎くて、私は無意識で輝夜さんをぶん殴っていました。一発だけではなく、五発ほど。
 せっかくの花見。そして珍しい文さんの誘い。私達が頑張って作った弁当は木端微塵。許せん、とまた一発。もう少し位なら許してくれると思うんで蹴りを数発叩きこんでおきました。
 今なら格闘技で鬼に勝てるような気もします。いやごめんなさいやっぱり無理です。せめて河童くらいなら……。

 まあ、でもこれで出られる。まだ呻いている文さんを抱え――あれ、軽い、最近ダイエットをしたのかなって羽ばたいてますね元気ですよね文さん――蓋のところまで。
 輝夜さんが運よく蓋から出ていた小さな突起物を強く引っ張ります。でも開きませんでした。仕方なく、情けない顔をする輝夜さんを強く引っ張ります。
 小さな地響きとともに蓋が開きました。これで一安心。わーい、出口だ。これで、帰れる。私帰ったら文さんと新聞作るんだ……。
 でもそううまくはいかないんですよ、はい。ここまでフラグを立てれば成功するはずもないですよね。

「な、なんだ!」
「きゃっ」
「地面が!」

 運悪く……いや、輝夜さんの情報通りだったんでしょう。ちょうど妹紅さんが上にはいたようです。そう言えば妹紅さんはたまに妖怪の山に登っていた気も……多分その時に知っていたんでしょう。
 しかし妹紅さんだけではなかったんです。妹紅さんが誘ったんでしょうが、慧音さんに阿求さん……見えた! じゃなくて、阿求さんはまずい。人間は、この高さから落ちたらいくら底が柔かいからって命を落とす弱い生き物ですから。
 輝夜さんを巻き込んだ妹紅さんをかわし、文さんを慧音さんに向けて投げぶつけて地上へ送ります。あ、文さん反作用で落ちた。でも、そんなのに構ってる暇はない。
 阿求さんをキャッチし、閉まりかける蓋に滑りこむように飛び上がって何とか生還することに成功しました。今のは新聞記事になってもいいレベルのアクションだと自負出来ます。

 私は帰って来た。暗いところにいた所為で眼に痛みが走りましたが、すぐに普通に見えるように。
 ああ疲れた、と阿求さんを見ると顔が真っ青です。死の恐怖でしょう、人間は本当に脆いですからね……噂では段差に躓いただけで死ぬと聞きました。
 ……で、文さん。助けないと駄目ですよね。いやまあ助けたいんですよ? でも、多分この状況だと焼き鳥に……ここは中国じゃないし私は食用じゃないんで焼かれるのだけは避けたいんです。
 
 まあ、仕方がない。蓋をよく見てみると、スイッチらしきものを発見しました。上空に立たないようにして、阿求さんと慧音さんをかばいながらそのスイッチに小さな弾幕をぶつけます。
 すると予想通り火柱が上がりました。哀れ文さん、貴女は焼き鳥になってしまったんですね。
 そしてすぐに皆が出てきました。多分逃げるようにして輝夜さんが出て、それを追うように妹紅さんが出てきたんでしょう。
 ……文さんは、妹紅さんに掴まれていました。明るいところで見ると本当にひどい姿……と、私も同じような姿でした。文さんとの違いは焦げてないくらいでしょう。
 と、横からため息が聞こえました。隣には阿求さんがいます、何やらとても残念そうな顔をしながらもう一度溜息。そして、一言つぶやきました。

「せっかく上質の酒を持ってきたのに……」
「……」

 慰めの言葉を掛けてあげたい、でもいい言葉が見つからない。もどかしい気分になりながら、ただそこにいることしかできませんでした。
 ……あれ? よくよく考えてみると……私達も酒を持ってきましたよね。しかも大量に。
 阿求さん達ももちろん持ってきている。そして、上質な酒は対外度数が高い……きっと、中には大量の酒瓶が転がっているんでしょう。
 下が泥だから多分そこまで割れてはいないんでしょうが……それぞれがぶつかり合って割れたとしたら。
 引火、しますよね? ここまで届くかどうかは分かりませんが……でも選択肢は一つです。

「逃げる!」
「え、ちょ」

 阿求さんを片手に抱え、そしてなるべく遠くへ飛びます。タイミングが良かったのか、ちょうどその時後ろで爆発音が聞こえました。南無。慧音さんが怪我してなければいいんですが。
 文さん? 他2名? あの人達は気にしてません。文さんはそう簡単に被弾するような人ではありませんし、二人に限っては死にませんし。それに、空気より比重の重いアルコールですから底の方で爆発が起こっただけなんでしょうね。
 阿求さんと私の安全を確認して振り返ってみますと、慧音さんは文さんとともに脇に避けて事なきを得たようですが、二人の姿が見えません……多分あの時上空にいて巻き込まれたんでしょう。少々グロテスクな光景が広がってるだけです。
 視力がいいと基本的に便利ですが、こういうとき不便ですよね。

「……桜、散っちゃいましたね」

 ふと阿求さんから声をかけられました。花見に来る目的は、花を見ながらわいわいすることにありますからね。その目的は同じです。
 火柱と爆発で吹き飛んだ花弁。私達が見ていた大きな桜は目の前で妙な哀愁を漂わせながら花弁を散らせました。残る桜並木も煤で黒ずんだり、巻き込まれて散っていったり。今日満開だった桜並木は結構無残な姿になってしまいました。
 ああ無情。世知辛い世の中です。せめて、死ぬときくらいは安らかに逝きたいものですよね。何年先のことかはわかりませんが。

「桜……はぁ」

 そう言えば、阿求さんは……ええと、そこまで長くないんですよね。私なんかはこの程度のがっかりは慣れっこですけど。そこから頭が沸騰するのもいつもの流れですけど。文さんといると本当にいつものことで困るんですけどね。
 でも、阿求さんは……よし。出来ることは限られてますけど一肌脱ぐとしましょうか。一応、文さんの為にも。爆発で熱いですしね。






「文さん、花見に行きましょう!」
「……はい?」
「花見です」
「あんなことがあったのに? 椛だけで行ったら」
「行きましょうよ」
「……わかりましたよ、はいはい……ネタにもなるかもしれませんしね」

 後日、私は文さんを駆りたてました。あの日は阿求さん達に一つ約束をし、慧音さんに文さんを返してもらい帰宅。
 慧音さん達は責任を持って輝夜さんに説教をしてくれるそうで、伝言を一言頼んで置きました。
 文さんは軽くトラウマになっているのか渋りましたが、無理矢理引っ張ります。すると、ジト目でしたが一緒に花見の準備をしてくれました。

 そして、集合時間に少し遅れてまた前回の場所へ。舞い落ちる花弁の中、既に大量の人妖が集って騒いでいました。


 そう、私はあの日の数日後に某フラワーマスターのところへ行ったんです。妹紅さんと輝夜さんと一緒に。
 そして、色々と大切な何かが消えたような経験をしたようなしてないような時間を過ごして約束と金を手に入れました。
 え? 何があったかって? 覚えてません。ええ、覚えてないんです、聞かないでください。安月給ですし、お金ももらえたしいいんです……とまあ、それは関係ない話ですが。
 彼女に桜をもう一度咲かせてもらいました。無理矢理咲かすのは、と最初は否定的でしたが、長い説得と濃厚な時間を経てやっと了承を取り付けたんです。そのかわりとして宴会にすることが約束でしたけど。
 特に向かう場所はありませんが、文さんが取材に行ってしまったので私は何の気なしに阿求さんと慧音さんのところへ向かっていました。彼女は笑顔でした、色々とやったかいがあるってものです。いろいろと、ね。

「ご一緒してもいいですか?」
「あ、椛さん! いろいろとありがとうございました!」
「……頑張ったな、白狼天狗。聞いたところによると、幽香のところに」
「その話はなかったことにしていただけるとありがたいです」
「むぅ、すまんな」
「え~、何の話ですか椛さん、慧音さん。私にも教えてくださいよ~」

 もうすでに阿求さんは出来上がっていました。慧音さんに差し出された杯を受け取り、まずは一杯。それを一気に呑み、おかわりを求めると慧音さんは苦笑しながら注いでくれました。
 文さんは……トラウマの解消は結構速かったようですね。何事もなかったように取材に駆けまわってます。でもこれで万事うまく行ったはずです、まあまさか同じことになるはずが……あれ?
 桜を咲かすことに夢中で、落とし穴は直してなかったような……あー、やってしまった。
 そのことに気付いた私が前回の惨事の場所に目を向けると、奇しくもそこでは妹紅さんと輝夜さんが飲み比べをしていて。そして、文さんが取材をしていました。
 文さんはその場所が前回の場所だと気付いているんでしょうか。たぶん、気付いていないでしょうね。気付いていたら流石の文さんでも近づかないでしょうし。

 そこに、永遠亭の兎の鈴仙さんが走り寄ってきました。なるほどなるほど、酒を持ってきたんですか。でも、皆さんご臨終です。後少しで、3,2,1、はい踏みましたー。
 落ちましたね。しかもきれいに。ああもう……見なかったことにしちゃいましょうか。いや、そうすると後の文さんが怖い、いやでも気付かなかったふりをすれば……八つ当たりを喰らいそうですが。
 私はその光景を無視して、慧音さんが注いでくれた次の一杯をいただきました。いやぁ、桜を見ながら飲む酒はおいしいですね。
 残念なことを一つ上げるとすると、ここが穴場じゃなくなったことでしょうか。あの穴さえ埋めれば本当に穴場じゃなくなるんですけど……これが終わったら埋めましょうか――





 ……でも、私はやっぱり文さんと花見がしたかった。仕方なく荷物を持って立ち上がった私は、騒がしい酔っ払いたちをかき分けて落とし穴のもとへ。
 蓋を開けて文さんだけを引っ張り出します。他に落ちた人なんて見なかった。若干涙目になっている文さんを引っ張って行き、人気のない場所まで連れて行きました。
 荷物からコップと一升瓶をだして酒を注ぎ、座らせた文さんにも持たせます。その一杯を一気に飲み干して文さんは口を開きました。

「椛……もう花見はいやです」
「二人で酒呑んで、全部忘れちゃいましょうよ」

 そう言って私も酒を流し込んで、また注ぎました。おかわりを求める文さんには新しい一升瓶を渡します。たまには文さんも自分で注げばいいんですよ。
 ……だけど。結構寂しそうな顔をした文さんのその表情を見て、私は文さんの杯にも酒を注いでしまいました。
 すると、文さんの表情はみるみるうちに明るくなりました。多分既に酔っているんでしょう、取材時に酒は必須ですし。

 紆余曲折を経たけど、文さんと二人で花見ができてよかった……おっと、私も酔っているんでしょう。つい本音が出てしまいましたね。でも、たまには――
 たまには、素直になってみるのも悪くないかもしれません。
花見、する友人がいるっていうのは羨ましいですよね。
友人がほとんどいない自分から見ると……書いてる途中で妙な感情が浮かんできました。

泣いてませんよ?

0:48 誤字訂正。報告ありがとうございました
沢田
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コメント



0.890簡易評価
4.100愚迂多良童子削除
取材の際に飲酒っていいのか?w
慌てふためく文かわいい。
 
誤字報告
>>穴の中で風を起こすなんて使うなんて死にたいんですか
 「使うなんて」が余計かと。
8.100名前が無い程度の能力削除
エクストリーム花見
21.70名無し程度の能力削除
良かった