彼女は今、憂鬱だった。
「う~嫌だ~嫌だよ~」
彼女は今、自室にある彼女専用の椅子・レミリアチェア(パチュリー作、ただひたすら紅いだけの椅子)に座り、黒い羽を小さくパタパタさせ、また小さな両手で頭を抱え、さらには小さく呻いている。
彼女の名はレミリア・スカーレット、紅魔館の主であり吸血鬼である。
紅魔館の豆まき大会
レミリアは憂鬱だった。
せっかくの楽しい午後のティータイムだというのに、レミリアは憂鬱だった。
「嫌だな~」
砂糖が紅茶に溶ける。
レミリアがスプーンを回す事によって、紅茶に入っている砂糖がじわじわと溶けていく。
机の上には砂糖に紅茶、マカロンなどのお菓子が綺麗に並べられている。
しかしレミリアはスプーンを回すだけで、お菓子や紅茶に口をつけることはない。
「あぁ、嫌だなぁ……」
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
レミリアの発した暗い言葉に反応してか、メイドである十六夜咲夜がレミリアの視界に現れた。
咲夜は容姿端麗なんでもござれのスーパーメイドで、レミリアも咲夜に対し絶対的信頼感というものを抱いている。
そんなメイドが、レミリアの顔色をうかがう。
「あぁ咲夜、私はもうダメだ、鬱すぎる……今夜が鬱すぎるわ、今夜が来て欲しくない」
レミリアはほんとに嫌そうな表情をしている。
まるで嫌いなピーマンを食べる子供のように。
「お、お嬢様?」
近年稀に見るくらいの嫌そうな表情を目にした咲夜。
とりあえず先程の言動から察するに、今夜にレミリアを鬱にする原因があるようなので、咲夜は頭をひねってその原因を考えてみた。
(今夜は雨だったかしら? いや、仮に雨だったとしてもここまで鬱にはならないはず……ネタ切れ早いわね、もう何も浮かばないとは……)
考え始めてわずか7秒、早くも咲夜の思考タイムは終了した。
「はぁ……咲夜、私の鬱の原因はあれよあれ」
「あれ……ですか」
咲夜の思考タイム終了を見計らったかのように、レミリアが自ら原因を語りだす。
「今夜、節分ってことで豆まきが行われる、それで憂鬱なの」
「あぁ~うっかり忘れていました 今夜開催されるのですか、豆まき そういえばパチュリー様がさきほど厨房にて豆を炒っていましたね」
豆まき――そう、紅魔館では毎年この時期にパチュリー主催、紅魔館豆まき大会が行われる。
それは紅魔館住人全員で、館内全域に散らばり豆をまきまくるというもの。
実に単純な催し物だが、これが意外にも楽しく毎年かなり盛り上がっている。
「とても楽しみですね! お嬢様、今夜は一緒に豆を投げまくりましょう!」
咲夜がとても楽しそうに話す。
咲夜がこう言う事で、豆まき大会がいかに楽しいかがひしひしと伝わってくる。
「……あ」
しかし、咲夜は話し終えた後先程の自分の発言にかなり後悔した。
なぜならこの豆まき大会の話題は、レミリアが自ら憂鬱の原因を語りだした所から始まった。
つまり、憂鬱の原因はこの豆まき大会なのである。
(し、しまった……憂鬱の原因を満面の笑みで『楽しみですね』などと……)
しかも咲夜には、レミリアがなぜこの豆まき大会のせいで憂鬱になっているのかだいたいの見当がついてしまった。
「楽しそうね……咲夜」
咲夜をじっと見つめるレミリア。
その瞳からは羨ましいオーラがビンビンに放出されている。
「も、申し訳ありませんお嬢様! お嬢様が参加出来ない事を忘れていた上に、お嬢様の気持ちを無視した発言を……本当に申し訳ありません!」
自分のミスを認めた咲夜は、ジャンピング土下座(大袈裟に聞こえるが本気で)を決め、凄まじい勢いでレミリアに謝罪を開始。
「いいのよいいのよ~どうせ私は吸血鬼なんだから~炒った豆に触ったら火傷しちゃうんだから~恵方巻を静かに食べるしか道がないんだから……咲夜達は私の事なんかほっといて、楽しんでいればいい」
顔は膨らみ、どこか投げやりな感じでレミリアは言う。
そう、レミリアやフランの吸血鬼といった種族は、炒った豆に触れた瞬間、皮膚が焼けるという謎の性能を持っていた。
ゆえに炒った豆を使う節分大会に、レミリア達は参加する事が出来ないのだ。
では、大会中のレミリア達はいつもどうしているかというと、
――例年自らの部屋に篭り、咲夜達が豆をまく楽しそうな声を聞きながら一晩中恵方巻を無言で食べ続ける――
という儀式じみた事を行っている。
みんなが楽しく豆まきを行っている横で、自分はただひたすら無言で恵方巻を食べ続ける……
みんなで盛り上がる事が大好きなレミリアには、この状況はとても辛く、いつしか憂鬱の原因になっていたのだった。
「はぁ」
「……あ、えーと……」
憂鬱そうな主を見ているのはとても辛いので、何か気分を晴らすような話題を振りたい咲夜だったが、ちょうどいい話題が見つからず結果、口をもごもごさせてしまう。
「はぁ~」
そんな咲夜を見てレミリアはより一層、無念感の漂うため息を漏らす。
午後の優雅なティータイム会場であるレミリアの部屋は、現在かなり残念な空気が支配している。
コンコン
「レミィ、入るわよ?」
そしてそんな空気の部屋に、豆まき大会主催者、パチュリーが本を片手に眠そうな眼をしながらやってきた。
「な~に~パ~チェ~」
今度はそんなパチュリーの姿を見て、なんかもう今年も恵方巻食っていればいいや、な声を出すレミリア。
挙げ句喋っている途中で机にぐてーっと突っ伏す。
一方で部屋に入ってきたパチュリーはとてもニヤニヤしている。
「……どうしたのレミィ? 机に突っ伏したりして まるでジェットコースターに乗りたいけど身長制限の為乗ることが出来ない子供みたいね」
「……もうさ、そこまで言えるのなら、私がなんでこんな状態か聞かなくても分かってるんでしょ?」
言動からして、明らかに自分の事情をパチュリーは知っていると判断したレミリア、声量と迫力の無い声でパチュリーに言葉を返した。
「ええ、大方見当はついているわ わざわざ聞いたのはレミィの反応が見たかっただけ」
「むぅ~パチェのいじわる~」
どことなく意地悪なパチュリーのせいで、レミリアの憂鬱感はさらに増してくる。
「まあまあ、そんなレミィに心躍る素敵な朗報を持ってきたわ、きっと気が晴れるわよ」
「朗報? 気が晴れる?」
朗報と言ってもどうせ今のこの気分から脱出する事は出来ないだろう、ましてや気が晴れるなどありえない、どうでもいいから聞くだけ聞いて、さっさと図書館に返そう。
レミリアはそんな気分だった。
「今年の節分大会、レミィも参加出来るわよ」
「!?」
しかしレミリアの予想とは裏腹に、その朗報はレミリアの鬱な気分を吹き飛ばすには充分過ぎるくらいの朗報だった。
「ほ、ほんとなのパチェ?」
机を飛び越え、パチュリーの目の前に瞬間的な移動を見せたレミリア。
さきほどまでの憂鬱感はどこへやら。
レミリアは両目をキラキラさせている。
「ほんとよ、今夜は一緒に楽しみましょう」
再び出たパチュリーの声は、レミリアの憂鬱を完全に吹き飛ばした。
「やったーっ!」
レミリア、万歳。
そして嬉しさのあまり部屋の中をジェット機のように高速で飛翔し始める。
実に危ない。
「パ、パチュリー様……」
と、今まで事態を静観していた咲夜がそわそわしながらパチュリーに話しかける。
「ん、何かしら?」
「その……ほんとうにお嬢様も楽しめるのですか?」
「ええ、楽しめるわよ」
「ほんとうに、楽しめるのですか?」
「楽しめるわよ……何度も言わせないで」
「あ、ありがとうございますパチュリー様!!」
レミリアが本当に豆まき大会に出場出来ると知った咲夜、レミリアが参加出来ると言った張本人であるパチュリーに向かい猛烈な勢いで頭を下げて感謝の言葉を述べる。
ついでにパチュリーの両手を握ってとても嬉しそうに何度も頷く。
「いいから、いいからちょっと落ち着きなさい咲夜」
「あ……申し訳ありません、お嬢様が豆まきを楽しめると思うと嬉しくて……」
「いや、謝らなくてもいいのだけど」
とりあえず咲夜を落ち着かせるパチュリー。
一応咲夜は落ち着いたが、主が豆まきを出来るという事実にまだ頬が緩んでいる。
「……で、咲夜、あなたにお願いしたいことが」
ちょっと落ち着いた所で、パチュリーが咲夜に何かお願いをする。
「霊夢を連れてきてちょうだい」
「霊夢……ですか?」
「そうよ、その方がレミィも喜ぶと思うの、あとあなたもその方がいいでしょうし」
「……そう、ですね」
「ひとまず私達は図書館に居るから、連れてきたらそこに来てちょうだい」
「かしこまりました、では行ってきます」
パチュリーのお願いを承った咲夜は、パチュリーに軽く会釈したかと思うとその場から消えた。
「さて、咲夜が霊夢を誘いに行った事だし、私は妹様でも誘いに行きましょうか ほら、レミィも図書館に行くわよ」
「お?」
未だに高速で部屋を飛び回っていたレミリアを呼び止め、そのレミリアも含めてパチュリーは一足先に図書館へと移動した。
陽も暮れて、辺りは暗闇になった。
当然、ただでさえ窓が少ない紅魔館も例外なく暗くなる。
まあそれでもロウソクが一定間隔に設置されているため、ロウソクの灯りで明るいといえば明るいのだが。
……そんな不気味な明るさを放つ紅魔館にある、大図書館。
咲夜に誘われて紅魔館にやってきた霊夢も含め、豆まき大会に出席する紅魔館住人(具体的に咲夜、フラン、レミリア、パチュリー)は現在全員この図書館に居る。
「さて皆さん、いよいよ豆まき大会よ」
「「やったー!!」」
立ち並ぶ本棚の上に勇ましく立ち号令をかけるはパチュリー。
その号令を聞き楽しそうに盛り上がるのは豆まきに初参加となるレミリアにフラン。
「ねえ咲夜、私は 『豆まきをする』 って聞いていたのだけど、ほんとにこれから豆まきが行われるの?」
「ええ……多分……おそらく」
盛り上がる二人を見ていた霊夢と咲夜は、ほんとにこれから豆まきが行われるのかということに疑問を抱き始めた。
なぜならレミリアとフランが、なぜか自衛隊が着ていそうな迷彩服を着ていて、なぜかフルフェイス形のヘルメットを装備、またなぜか巨大なマシンガンを肩に背負っていたからだ。
「豆まきをしたいかー!」
「「おぉーっ!」」
「ニューヨークに行きたいかー!」
「「おおぉぉーっ!!」」
図書館内部に、とても楽しそうな三人の声が響く。
レミリアとフランは重装備にも関わらずピョンピョンと楽しそうに跳ね、パチュリーはなぜか魅力的な腰を左右に振って踊っている。
ノリノリとはまさにこのことに違いない。
「えー……ちょーっと聞きたい事があるんだけどー?」
ノリノリな所悪いなと思いながらも、霊夢は頑張って言葉を入れる。
「んもう、なによ霊夢 せっかく盛り上がってたのに~ 空気の読めない奴はサイテーよ、吸血鬼の風上にもおけない」
「ぶーぶー せっかくのノリが削がれちゃった これだから巫女ってもんはダメだねー」
「うぐぐ……」
色々とぼろくそに言われ危うく弾幕を発射しそうになる自分を、霊夢は頑張っておさえる。
「ごめんってば、でもノリノリな所を切ってでも、聞きたい事があってね」
そしてなんとなく聞こうとする。
とりあえず、霊夢は謎の迷彩服とヘルメット、さらに謎のマシンガンの意味を知りたかった。
「すみませんお嬢様、私もお聞きしたい事が」
ここぞとばかりに咲夜も便乗。
咲夜も霊夢同様にレミリア達の謎の武装が気になって仕方がなかった。
「咲夜まで? なにかしら?」
レミリアは迷彩服姿のままこちらに向かってくる。
肩には依然として居座るマシンガン。
小さいレミリアには(フランもだが)、迷彩服やマシンガンといったミリタリー系の装備が全く似合わず(ヘルメットにおいてはブカブカ)、レミリアがこちらに向かってくる様は、なかなかにシュールである。
見方を変えればコスプレみたいでかわいいかもしれないが。
ちなみにマシンガンはレミリアより大きい、当たり前だがフランよりも大きい。
「……レ、レミリア達はこれから何をするの?」
レミリアが放つ異彩な雰囲気に負けやっとこさ質問する霊夢。
「は? 豆まきに決まってるじゃん、霊夢もそれで咲夜に呼ばれたんでしょ?」
レミリアは奇妙な物を見る目をしている。
「ま、まあそうだけどさ……にしても、豆まきよね? ……じゃあその迷彩服とかマシンガンはなに?」
「え? 豆まきに必要って言われたから装備してるんだけど」
霊夢の質問に対してレミリアは当然の事と言ったような口ぶりで返答する。
「豆まきに必要……ですか」
「ってか、その言い回しだと……」
霊夢と咲夜は顔を見合わせる。
それから一緒にある人物の方に顔をビシッと向ける。
「霊夢に咲夜、これからの豆まきに必要なものは、スリルよ」
向けられた人物……パチュリーはビシッと霊夢達を指差し、いかにも自分が装備させましたという雰囲気で堂々と言葉を放った。
(パ、パチュリー様……)
(やはり原因を作ったのはあんたか)
霊夢に咲夜、二人はレミリア達がフル装備の理由を理解する事に成功。
「さて、理解したようなので、これから今日行う豆まきの説明をするわ」
「楽しく遊ぶ為にもしっかり聞くわよフラン」
「うん!」
「「せ、説明?」」
何やら豆まきの説明が行われるようです。
豆まきの説明……いったいパチュリーは豆まきの何を説明するのだろうか。
とにかくパチュリーによる豆まきの説明が始まった。
「今回の豆まき大会、レミィ達も楽しめるようにルールを一新したわ まず、制限時間は三十分」
「ほぉ、豆まきというのは制限時間があるのね」
「ねー、普段恵方巻きを食べてるだけだから全然知らなかったよー」
「三十分だってよ咲夜」
「霊夢、ひとまず全部聞きましょ」
「んで、レミィと妹様以外の人達は、頭に風船を貼り付けて……はい」
パチュリーから風船を貰う霊夢達。
風船には頭に貼る為の両面テープと、鬼の写真(萃香)が貼ってあった。
「なぜか風船を貰ったわね」
「とりあえず言われた通り頭に貼りましょっか」
霊夢と咲夜は言われた通り頭に風船を貼り付ける。
ちなみに霊夢は赤いリボン、咲夜はカチューシャにそれぞれ風船を貼り付けた。
風船の色は両方とも目に優しい緑色。
「ふふ、変な頭ね霊夢」
「咲夜もね」
「そしたらレミィ達は三十分以内に……」
説明の途中でパチュリーはおもむろにマシンガンを取り出す。
そして銃口を天井に向けて――
ズダダダダダ
と乱射。
本棚の上でマシンガンを乱射する、パチュリー。
「とまあこんな風にマシンガンを撃って、霊夢達の風船を破裂させる」
「「!?」」
「「わっはー!!」」
その光景に霊夢と咲夜は驚愕、レミリアとフランは驚喜。
「私達の風船を全て破裂させたらレミィ達吸血鬼の勝ち、一個でも風船が残っていれば私達の勝ちよ ちなみに迷彩服とヘルメットで完全防備してるからレミィ達に豆があたっても平気だからね
さあ、サバイバルゲームを開始しましょう!」
言い終えたパチュリーは本棚から浮かび上がる。
パチュリーもこの豆まき(もはやサバゲー)に参加するようで、風船を帽子にある三日月の飾りに貼り付けている。
「フィールドは紅魔館全体! レミィ達は私たちが散らばって一分経ってから出撃してね」
「分かったわ」
「楽しそーだねお姉さま!」
「そうね、頑張って勝ちましょう、フラン」
「うん!」
またとても楽しそうなレミリアとフラン。
ひとまず豆まきが楽しみで仕方ないらしい。
「咲夜ー手加減したらキツイお仕置きだからね~」
「そだねー、もし手加減したらすんごい怒っちゃうよ~!」
「か、かしこまりました」
さらに純真無垢な笑顔でこんな事を言うスカーレット姉妹。
咲夜はというと、引き攣った笑顔を浮かべている。
「ぬぉらパチュリー!」
そして霊夢はとても不満げな表情で宙に浮かぶパチュリーをひっ捕らえる。
「むきゅ!? ……なによ霊夢?」
「マシンガンとか撃ち込まれたら私達死ぬからね!?」
小声だが激しく言う霊夢。
まあ確かに、手元が狂い風船ではなく体に撃ち込まれた場合、霊夢と咲夜の場合はもれなく死ぬ可能性がある。
「別に平気よ、弾は豆まき用の豆だし威力も風船を割る程度だし……ちなみに弾幕とかで防御してもいいわよ」
「……ん~なら平気か」
「はい開始一分前~! 頭に風船つけてる組は館内に散らばって~」
「ちょ! こら待て! てか普通に豆まき……」
まだ何か言いたかった霊夢だが、パチュリーは霊夢を無視してまた浮かび上がりふよふよとどこかへ浮遊していってしまった。
しかも強制的に開始一分前を宣言。
霊夢は早いとこ館内に散らなくてはならない状況になる。
「あぁ~本気でこの豆まきやるの~?」
「霊夢」
「?」
「私達二人とも、無事にこの戦いを乗り越えましょうね」
咲夜は嘆いている霊夢にこう言ったあと、親指を立ててグッドラック、その後一瞬にして消滅。
「はぁ…………よし、やるしかないか」
霊夢も宙に浮かびどこか宛てもない浮遊の旅へ。
「フラン、もちろん勝利も目指すけれど……どちらが多くの風船を殺れるかも勝負しない?」
「えへへ~いいよぉ おねぇさま!」
浮遊し始めた霊夢の眼下では、目がマジなスカーレット姉妹が出撃をいまかいまかと待っている光景があった。
――そしてようやく、紅魔館豆まき大会が開幕した。
開幕と同時にレミリアとフランも散らばり、各自別個で風船狩りを開始。
……既に戦いは始まっている。
霊夢達が各自紅魔館内に散らばり、それをレミリア達が探して見つけ次第マシンガンで霊夢達の頭についた風船を破壊するゲーム。
果たして吸血鬼達は、三十分でこの広大な紅魔館内から三つの風船を探し出し、それらを全て割る事が出来るのだろうか――
――肩に居座る重い感触にはもう慣れたわ。
今度はヘルメットを被っている事で、普段よりも視野が狭い事に早く慣れた方がいいみたいね……
――ここに居れば風船が割られる事はないわね。
もしこの位置で三十分隠れきれば、きっとレミリアは悔しがるわよ~。
まさに灯台元暗しって感じだわ……
――私が本気を出すと、お嬢様達が風船を割るのは無理な気がしますが、まあ仕
方ないですね……
――このマシンガンでズダダって咲夜達の風船をバリリっと…くくく
――ふぅ、こういう時の為に前作った発信機を皆に付けといてよかったわ、全員の居場所が一瞬で分かるもの……
マシンガンの引き金を引くたびに豆が燕の如く飛んでいく。
そして豆は紅魔館の硬い壁にあたり乾いた音を立てて粉々になる。
「快……感」
……なにこれ楽しい。
霊夢のでも咲夜のでもいいから、早いとこ風船を殺りたいとこね。
ふふふ……
私の見事な豆さばきで二人を屈服させたいわ。
……
にしても私の弱点である炒った豆、まさかこれが私の武器になる時が来ようとは……
「これも運命か」
にしても静かね。
こんなに静かだとテンションが下がるから、マシンガン乱射でもしましょうか。
「あ、意外にいいかも」
私の周囲は豆の雨。
普段の私なら火傷の嵐だけど、今回はそうじゃない。
「……パチェ達にもフランにも勝つわ いくぞ、我が豆達!」
豆に向かい気合の一声。
降り注ぐ豆達が返事をする訳ないし、この豆達は普段相当憎たらしく見えたりするけど、今日だけはいつもと違いかわいく見えるわね。
「独り言であのテンションってねぇ……しかしまあ、ずいぶんご機嫌ね」
さきほど見たレミリアの言動があまりにもアレだったので、つい私は小声で呟いてしまった。
……もうなんて言ったらいいのかねぇ。
とにかくレミリアが満面の笑みなのよねぇ。
すっごく楽しそうなのよねぇ。
得意げで偉そうに歩いているのよねぇ。
……豆を率いているからかな。
まあ服装も迷彩服だしそういう気分なのかしらね。
「よし、豆達突撃だ!」
「……」
またなんか言ってるし。
ちなみにレミリアは私の真下にいる。
え? 私はどこに居るかって? ……私はレミリアの真上、天井裏に居るわ。
少々蜘蛛の巣とかあって汚いし移動手段は匍匐前進だけど、天井の隙間からちょうど下の様子が見えるのよここ。
だから常にレミリアの真上に居ればレミリアの行動を常時見れるっていうね。
それにここならよほどの事がない限り見つからないし、まさかレミリアも自分のすぐ側、真上に居るとは思わないだろうし。
灯台元暗し……いや灯台上暗しとはこの事よ。
レミリアを楽しませようと誘ってくれた咲夜には悪いけど、私は本気で逃げ切るつもりだからね。
だってどうせやるなら勝ちたいじゃない?
ま、私は三十分天井裏からレミリアの姿を観察させて貰うわね。
……あーでも三十分レミリアを匍匐前進で尾行ってすっごく疲れそうねぇ。
手加減したらお仕置きと言われてしまったので、まあ手加減はしません。
手加減するなということは、豆が飛んできたりお嬢様達が近づいた場合、本気で逃げろって事ですよね?
本気で逃げるとなると時止めの出番、時止めを行えば確実に逃げられます。
こうすれば私の風船が割られる事なんて確実にないと思います。
つまりこれが私の本気ですね。
……でも、これではお嬢様達が私の風船を割る事が出来ません。
お嬢様達には是非とも私の風船を割って楽しんで頂きたいですし……
でも私は本気を出さなきゃですし……
うーん……難しいものですね。
「あう~肩が痛いよ~」
もうっ!
このマシンガンっての重すぎだよぉ。
肩が痛くておかしくなってきちゃったよ。
「あ~誰でもいいから風船破壊させてくれないかなぁ」
さっきから色々と捜し歩いているのだけど、霊夢も咲夜もパチュリーも全然見当たらない。
どこにいるんだー。
うぅ……こうも見つからないと段々イライラしてくるのだけど……肩痛いし……
「もうダメ!」
ガシャーン!
「あ……」
まずいまずい!
つい叩きつけちゃった!
こ、壊れてないかな……?
ズダダダダダ
あ、よかった~、お豆がたくさんでたよ~
「うん、気を取り直して捜すぞぉ!」
よし、まずは食堂の方に行ってみよー!
「ふふ、分かるわ……皆の居場所が手に取るように分かる……」
まあ私は事前に仕込んでおいた発信機のおかげで、特に苦労することなくレミィ達と距離をとっている。
まさかレミィ達もマシンガンに充填されている大量の豆の一つが、『豆型発信機』だとは夢にも思わないでしょうね。(ちなみに霊夢達の風船にも発信機が付いている、というか風船そのものが発信機)
やっぱこういう戦いは事前準備が大事よねぇ~、言いだしっぺは自分だけど。
「さてさて、具体的に居場所を確認していきましょうか」
と私は目の前にある賢者の石の形をしたモニターを見る。
このモニターに全員の居場所が光の点となって映り、バレバレという素晴らしさ。
「えっと……」
妹様は現在食堂に居る。
食堂は私とは正反対の場所にある、妹様の事は特に気にしなくても平気そうね。
……レミィは自分の部屋辺りをウロチョロとしている。
レミィも私とは正反対の位置に居るから問題ない……で、レミィとほぼ同じ位置に霊夢が居るのだけど……あの巫女は何をやっているのかしらね、あんな近距離にいたら風船割られちゃうじゃない。
まあいいのだけど。
……咲夜はトイレの中に居る、咲夜は咲夜で全く動かないわね~。
……ちなみに私は図書館の本棚と本棚の間に居るわ。
とりあえず、今のところ私の側にレミィ達は居ない、つまり安全圏。
仮に居たとしても予想進路を弾き出しそこを迂回して逃げればいいだけ。
……強い。
私の風船が壊される要素が微塵もない、完璧な論理だわ。
「ごめんなさいねレミィ、最初はそんな気無かったけど、やっぱ勝負事は勝ってこそよね」
と言った具合に、それぞれが様々な思惑を巡らせている豆まき大会。
早くも二十分が経ち豆まき大会は残り十分となった。
さてさて、レミリアとフランは風船を割る事が出来たのか。
「く、くそぉ……二十分も歩いているのに……探しているのに……割りたいのにぃ!」
「……ってか本気で誰も居ないんだけどさぁ、ナニコレ?」
はい、ご覧の通り全くもって割れていません。
頭に風船をつけた咲夜は、トイレのある部屋からひょこっと顔を出し、紅魔館の長い廊下の様子を伺っていた。
ちなみにここのトイレは洋式で、咲夜によっていつも清潔に保たれている。
ついでに利用者も多い。
まあとても大事にされている幸せ物な洋式トイレなのである。
「なんだかんだであと十分……お嬢様はもう風船をお割りになったのでしょうか……私の風船は本気ゆえ割らせられませんが」
廊下に誰も居ない事を確認し、いったん便器に座る咲夜。
「私をずっと匿ってくれてありがとね、もし無事風船が割られずに済んだら……とても綺麗に掃除してあげるわ」
そして何やら洋式トイレ相手に独り言。
さらに地味になくなりかけていたトイレットペーパーを新たに補充し、微笑む。
こんな時でも身の回りの事に配慮が出来る辺りさすが紅魔館のメイド長といったところか。
「あと数分、ここに居させてね」
再度洋式トイレに話し掛けた咲夜は、再び立ち上がりまた廊下の様子を伺う。
その時、
ドッガ-ン!
「なに!?」
突如凄まじい爆音が発生し、背後の洋式トイレが木っ端微塵に吹き飛んだ。
さらにすぐさま爆風や破片が猛烈な勢いで咲夜に吹き付けてきた。
「くっ!」
だがさすがは咲夜。
驚きながらも反射的に体をかがめていた為、まったく怪我を負う事はなかった。
「咲夜み~っけ」
続けざま幼い声が辺りに響く。
「……!!」
……洋式トイレが元あった場所には、マシンガンを咲夜に向け完全武装し浮かんでいる、ついでに幼い声の発信源でもあるフランが居た。
(しまった! まさかトイレから……と、とにかく時止め逃げ安定……)
このままでは風船を撃たれると判断した咲夜は、すぐさま時を止めて逃げようとする。
が、そんな咲夜の耳に、
「やっと風船に出会えたぁ……ようやく豆を、豆を撃てるよぉ」
というフランのとても嬉しそうで安心した言葉が入ってきた。
(ようやく撃てる……だと?)
フランが既に風船を割っているのではないかと考えていた咲夜。
しかし実際フランはこれが一個目のようで、しかも風船に出会うのすら初めてな口ぶり。
さらにはようやく豆を撃てるとの言葉も。
(うぬぬ……)
いくら本気とはいえ、私を見つけてこんなに喜んでいる妹様の前で……果たして私は逃げていいのか?
咲夜の脳裏にこんな考えが浮かぶ。
ズダダダ!
パァン!
「あ!」
……遅かった。
咲夜の注意が頭の風船に向いた時には、既に風船は軽快な音を発して砕け散っていた。
さらに咲夜の足元には無数の豆。
(う、撃たれた……!)
咲夜は風船を撃たれてしまった。
「ふぅ……お見事です、妹様 心の迷い……といいますか、完全に隙をつかれました」
ほんとに一瞬の隙をつかれたわね……
咲夜はフランを褒めると共に、最後のところで本気になれなかった自分にちょっとだけ後悔。
「……違う」
自分を褒める咲夜に対しフランは小さく声をだす。
咲夜の賞賛など聞こえていないようだ。
「?」
ちょっと聞き取れず、顔に?を浮かべる咲夜。
フランはそれに応じて声量を強め、再度声を出す。
「私が撃ったんじゃない!」
「……え?」
今度はしっかり聞き取れた。
同時に、フランの発した言葉の意味を考える。
(妹様が撃ったのではないとすると……)
「撃ったのはこの私よ」
「「!?」」
突如幼い上に威厳たっぷりな声が響いた。
「レミリア・スカーレット参上!」
そしてすぐに完全武装したレミリアがこの場に飛びこんできた。
「お、お嬢様!」
「咲夜の風船、討ち取ったり!」
そのままシャキーンとポーズも決める。
「ふふふ……」
不気味に笑う完全武装レミリア。
ヘルメットのせいで笑い声が篭り、より一層不気味さが増す。
「残念だったわねフラン、見つけ次第とっとと撃っちゃえばよかったのにねぇ 咲夜の風船、私が頂いたわ」
レミリアはとても満足感溢れる表情で、ガックリと床に膝をつく妹を見下ろす。
「お姉さま……!」
目の前の獲物を横取りされたフランは、今にも泣きそうな顔で姉を見上げる。
「このまま霊夢の風船もパチェの風船も、私が頂いちゃおうかしら?」
「う~させないもん! 霊夢とパチュリーの風船は私が割るもん!」
ズダダダ!
レミリアの挑発を受けたフランは、涙声になりながらマシンガンを天井に向かい乱射する。
パァン!
「「「!?」」」
と、突然風船が割れた軽快な音が天井から聞こえた。
「もう~脆すぎよこの天井~ たまたま撃った豆が天井突き破って私の風船割るってなんなのよ」
そして天井裏からぶつくさ言いながら霊夢が登場。
見ると頭の風船が割れている。
ちなみにちょっと蜘蛛の巣まみれ。
「ここなら絶対割られないと思ってたのに~」
「なに!?」
「あ、霊夢が割られたのね」
「天井のせいよ、天井の」
霊夢は顔を膨らませて座り込む。
さらに突然風船を割られたのが大変気に入らないらしく、天井を指差しプンプンしている。
「や、や……やったー! 霊夢討ち取ったりー!」
理由はどうあれ霊夢の風船を割ったのは自分だ、フランはその事を理解し、とっても嬉しいそうにはしゃぐ。
「フラン、それくらいではしゃがないの 同点に戻っただけ パチェの風船を破ってからはしゃぐべきよ」
冷静に語るレミリアだが、霊夢を討ち取られた事で悔しさが顔に滲み出ている。
「……そうだね」
フランはもうかなり優越感に浸っているらしく、頬が緩む緩む。
にしてもさきほどとは全く逆の構図である。
「よーし!パチュリー狩りだ!」
「ふ、負けないわよフラン!」
フランの言葉を皮切りに、吸血鬼二人は残ったパチュリーの風船を探して凄い勢いでどこかへ飛び去っていく。
「「……」」
で、残された人間二人。
「……これからどうする?」
「うーん、図書館に戻る?」
ということで、二人は特に逃げたり隠れたりする必要がなくなってしまったので、最初に皆で集まった図書館に一旦戻っていった。
「……あ、寝てた」
あまりにも負ける可能性が無かったため、本棚を背もたれ代わりに寝ていたパチュリーが目覚めた。
しかし負ける可能性がないとはいえ、寝るのはちょっと不味いのではなかろうか。
「残り時間はあと三分か……どれ、戦況はなんか変わったかしら?」
眼を眠そうにでろーんと垂れさせ大あくび、そしてから賢者の石の形をしたモニターをじぃっと注視するパチュリー。
「あ、霊夢と咲夜の反応がない……意外ね、霊夢と咲夜が風船を割られるとは……レミィ達、頑張ったわね~」
パチュリーはむきゅーっとニヤついた後、ふむふむと頷きレミリア達に感心した。
「で、現在レミィ達は……」
続けてレミリア達の居場所を確認するパチュリー。
「嘘っ!?」
思わず叫ぶ。
「……寝たのはミスったわね 意図したものかは分からないけど、レミィと妹様に挟み撃ちにされてる……」
なぜ叫んだのか。
それはレミリアとフランが、パチュリー目掛けて両方向から猛スピードで突撃してきていたからだ。
本棚と本棚の間に居るパチュリーにとって両方向からの突撃は、地味に逃げ場もないわけで。
「残り二分……この風船は割らせないわ」
頭にある風船に軽く触れ、パチュリーは決意したように浮かび上がる。
と、すぐさま五色(それぞれ赤、青、黄、緑、黄土色)の石が地面より湧き出てきて、パチュリーの周りにパチュリー同様浮遊した。
「……来たわね」
パチュリーの視界にレミリアとフランが侵入。
「パチェ確認!」
「覚悟ーっ!」
こちらの二人もほぼ同時にパチュリーを視界に捉えた。
ズダダダ!
二人とも捉えると同時にマシンガンを乱射し、パチュリーに凄い勢いで豆をぶちまける。
「風船破壊はさせないわ! 火水木金土符「賢者の石」!」
「「えぇ?」」
パチュリーまさかの弾幕発動。
五色の石からそれぞれの色をした大量の米粒弾が全方位に放出された。
「そんな豆なんてあたらないわ」
大量の米粒弾はパチュリー目がけて飛んでくる豆とあたり相殺。
相殺と言っても明らかに弾幕の方が豆よりパワーがあるので、豆は弾幕があたった瞬間に塵となり消える。
「「いだっ」」
弾幕は豆を突っ切った勢いそのままにレミリア達にもあたる。
しかも完全武装をしているため素早く動けず、かなりの弾幕をレミリア達は体で受ける事になってしまう。
「う~痛いよぅ」
「いたた……パチェ! 何するのよ!」
突然弾幕を放たれたものだから怒るレミリア。
まあ当然の反応だが。
「弾幕使って豆から風船を守ってるだけよ? レミィ達が食らったのは誤差の範囲」
「ぐぬぬ」
パチュリーに涼しく言われ悔しさを滲ませるレミリア。
「あ」
が、レミリアはある事に気づいてしまった。
「ふっふっふ」
妖しく笑いながらヘルメットやマシンガンを地面に置き、ならびに迷彩服も脱ぎ捨てる。
レミリアは普段通りの服装へと戻っていく。
「武装解除なんかしてどうしたの?」
「パチェ、私は気づいたわ」
「?」
「私も風船を割る為に弾幕を使えばいいのよ! 紅符「スカーレットマイスタ」!」
レミリアは素早く両手を胸の前で構え、パチュリーを押し潰す勢いで大小様々な大きさの紅い弾幕を発射。
「あ、私も割る為に使えばいいのね?」
そんなレミリアを見たフランも一気に武装解除。
いつもの身軽な状態へと戻る。
「風船破壊、いっくよー! QED「495年の波紋」」
そして宝石の羽をぱたぱたさせつつ跳びはねながら弾幕を発射。
フランが出す弾幕は、まるで水面に発生する波紋のように広がりながらパチュリーへ迫る。
なんにせよ、二つの凶悪な弾幕がパチュリー目がけて向かってくる。
「まあこの展開を予想しなかった訳じゃないけど…… 月符「サイレントセレナ」」
しかしパチュリーはいたって冷静。
すぐさま両手を構え自分の周囲に月光のような青白い色をした弾幕を発生させる。
続いてその弾幕を束にして壁を形成。
壁が形成されるのとほぼ同時に、吸血鬼二人が放った凶悪な弾幕が壁に衝突し大きな爆発を起こす。
その凶悪さゆえか、爆発の衝撃波や辺りに立ち込める煙は相当なもの。
「……ま、手応え無し……よね?」
まるで分っているかのようにレミリアは言う。
「そだね~、相手はあのパチュリーだもの」
「ひとまず煙がひくのを待ちましょう」
爆発から少々の間を置き、立ち込めていた煙がだんだんとひいてくると、
「ふぅ、危なかった」
多少疲れた感じで膝をつくパチュリーが現れた。
パチュリーの頭にある風船は、あの爆発に見舞われたというのに健在だ。
「ふふ、ずいぶんと丈夫な風船ね!」
吸血鬼二人の弾幕に襲われながらも未だ傷一つ無い風船を見たレミリアが笑いながら驚く。
その右手には紅い弾幕が収束してきていて、だんだんと紅い槍に姿を変える。
「神槍「スピア・ザ・グングニル」」
レミリア、その紅い槍をパチュリー目掛けてぶん投げる。
槍は天を駆ける雷鳴のような速さで突き進む。
「あたらなければどうという事はないのよ?」
パチュリーはすんでのところで回避する。
その回避はグレイズ回数が一気に五十くらい跳ね上がりそうなギリギリな回避であった。
「ふーせん!ふーせん! 禁忌「レーヴァテイン」!」
「くっ!」
ギリギリ避けたのも束の間、間髪入れずに今度は炎の剣を持ったフランが背後からパチュリーの風船に襲い掛かる。
「させない! 日符「ロイヤルフレア」」
しかしフランが風船を割るよりか先に、パチュリーが両手をあげ朱い色した大量の弾幕を爆発的に大放出。
「ちょちょちょ!」
ロイヤルフレアを超至近距離で放たれてしまったフランは大慌て。
「あ!!」
またレミリアもパチュリーに向かい突貫していたせいで大慌て。
「あわわわ……っと 禁弾「スターボウブレイク」!」
「れ、「レッドマジック」!」
この距離でロイヤルフレアを回避するのは不可能と悟った二人は必死に防御型のスペカにて対処を開始。
大慌てな上必死なレミリアとフラン、さらに豆まきはいったいどこへ行ったのだろうというこの状況。
しかしそんな状況ではあるが、吸血鬼姉妹二人は口元が緩んでいた。
ロイヤルフレアのまばゆい朱色の輝きと、吸血鬼の放つまるで宇宙を連想させる弾幕や、血の滴るような紅さの弾幕、そしてそれらがぶつかり激しい爆音が響き渡る紅魔館の大図書館。
「……でさ、豆まきはどうなったの?」
本棚の上にて緑茶を啜り、レミリア達の激しい弾幕ごっこを見物しながら霊夢が言った。
「今やってるじゃない、霊夢にはアレが見えないの?」
霊夢の隣に座り紅茶を飲んでいる咲夜が、同じくレミリア達を見ながら言う。
「アレが豆まきなら、私達はしょっちゅう豆まきしてるわね」
「豆まき楽しいわよね~」
「そうですね~」
そして図書館が騒がしい為先程こちらにやってきた小悪魔が、見事に空気を読み咲夜に相槌をうつ。
「うは、あんたまで豆まき発言か なんだかだんだんアレが豆まきに見えてきたわ」
確かに豆みたいな弾を撃ち合っているので、ひょっとするとアレは豆まきなのかもしれない。
「霊夢さん大丈夫です、私にはアレが弾幕ごっこに見えますよ」
おっと空気の読めないお方が一人居る。
「空気読みなさいよ美鈴」
それは、門番の仕事をしていたけれど賑やかだったのでつい来ちゃいました! な紅美鈴さん。
お互いが本気な豆まきは制限時間が過ぎても終わる事がなく、フランとレミリアが十分に満足し、疲れて眠りにつくまで行われたそうな。
「つ……疲れた」
「お疲れ様ですパチュリー様」
二人が疲れて果てるまで付き合ったパチュリーが疲労困憊なのは、言うまでもない。
現在パチュリーは安楽椅子に座りつつ、咲夜に肩を揉まれている。
「でもま、なんかしらレミィ達は楽しめていたようだし、今年はいい豆まきだったわね」
「はい、今日は本当にありがとうございました、パチュリー様」
「いいのよ咲夜、私もあなたと同じで、憂鬱なレミィを見たくなかっただけよ」
レミリア達を含めて行われた紅魔館の豆まき大会は、これにて無事閉幕。
ちなみにこの豆まき大会の勝者は、最後の最後まで風船をレミリア達に割らせなかったパチュリーの居る、霊夢・咲夜・パチュリーの頭に風船つけてる組だった。
「う~嫌だ~嫌だよ~」
彼女は今、自室にある彼女専用の椅子・レミリアチェア(パチュリー作、ただひたすら紅いだけの椅子)に座り、黒い羽を小さくパタパタさせ、また小さな両手で頭を抱え、さらには小さく呻いている。
彼女の名はレミリア・スカーレット、紅魔館の主であり吸血鬼である。
紅魔館の豆まき大会
レミリアは憂鬱だった。
せっかくの楽しい午後のティータイムだというのに、レミリアは憂鬱だった。
「嫌だな~」
砂糖が紅茶に溶ける。
レミリアがスプーンを回す事によって、紅茶に入っている砂糖がじわじわと溶けていく。
机の上には砂糖に紅茶、マカロンなどのお菓子が綺麗に並べられている。
しかしレミリアはスプーンを回すだけで、お菓子や紅茶に口をつけることはない。
「あぁ、嫌だなぁ……」
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
レミリアの発した暗い言葉に反応してか、メイドである十六夜咲夜がレミリアの視界に現れた。
咲夜は容姿端麗なんでもござれのスーパーメイドで、レミリアも咲夜に対し絶対的信頼感というものを抱いている。
そんなメイドが、レミリアの顔色をうかがう。
「あぁ咲夜、私はもうダメだ、鬱すぎる……今夜が鬱すぎるわ、今夜が来て欲しくない」
レミリアはほんとに嫌そうな表情をしている。
まるで嫌いなピーマンを食べる子供のように。
「お、お嬢様?」
近年稀に見るくらいの嫌そうな表情を目にした咲夜。
とりあえず先程の言動から察するに、今夜にレミリアを鬱にする原因があるようなので、咲夜は頭をひねってその原因を考えてみた。
(今夜は雨だったかしら? いや、仮に雨だったとしてもここまで鬱にはならないはず……ネタ切れ早いわね、もう何も浮かばないとは……)
考え始めてわずか7秒、早くも咲夜の思考タイムは終了した。
「はぁ……咲夜、私の鬱の原因はあれよあれ」
「あれ……ですか」
咲夜の思考タイム終了を見計らったかのように、レミリアが自ら原因を語りだす。
「今夜、節分ってことで豆まきが行われる、それで憂鬱なの」
「あぁ~うっかり忘れていました 今夜開催されるのですか、豆まき そういえばパチュリー様がさきほど厨房にて豆を炒っていましたね」
豆まき――そう、紅魔館では毎年この時期にパチュリー主催、紅魔館豆まき大会が行われる。
それは紅魔館住人全員で、館内全域に散らばり豆をまきまくるというもの。
実に単純な催し物だが、これが意外にも楽しく毎年かなり盛り上がっている。
「とても楽しみですね! お嬢様、今夜は一緒に豆を投げまくりましょう!」
咲夜がとても楽しそうに話す。
咲夜がこう言う事で、豆まき大会がいかに楽しいかがひしひしと伝わってくる。
「……あ」
しかし、咲夜は話し終えた後先程の自分の発言にかなり後悔した。
なぜならこの豆まき大会の話題は、レミリアが自ら憂鬱の原因を語りだした所から始まった。
つまり、憂鬱の原因はこの豆まき大会なのである。
(し、しまった……憂鬱の原因を満面の笑みで『楽しみですね』などと……)
しかも咲夜には、レミリアがなぜこの豆まき大会のせいで憂鬱になっているのかだいたいの見当がついてしまった。
「楽しそうね……咲夜」
咲夜をじっと見つめるレミリア。
その瞳からは羨ましいオーラがビンビンに放出されている。
「も、申し訳ありませんお嬢様! お嬢様が参加出来ない事を忘れていた上に、お嬢様の気持ちを無視した発言を……本当に申し訳ありません!」
自分のミスを認めた咲夜は、ジャンピング土下座(大袈裟に聞こえるが本気で)を決め、凄まじい勢いでレミリアに謝罪を開始。
「いいのよいいのよ~どうせ私は吸血鬼なんだから~炒った豆に触ったら火傷しちゃうんだから~恵方巻を静かに食べるしか道がないんだから……咲夜達は私の事なんかほっといて、楽しんでいればいい」
顔は膨らみ、どこか投げやりな感じでレミリアは言う。
そう、レミリアやフランの吸血鬼といった種族は、炒った豆に触れた瞬間、皮膚が焼けるという謎の性能を持っていた。
ゆえに炒った豆を使う節分大会に、レミリア達は参加する事が出来ないのだ。
では、大会中のレミリア達はいつもどうしているかというと、
――例年自らの部屋に篭り、咲夜達が豆をまく楽しそうな声を聞きながら一晩中恵方巻を無言で食べ続ける――
という儀式じみた事を行っている。
みんなが楽しく豆まきを行っている横で、自分はただひたすら無言で恵方巻を食べ続ける……
みんなで盛り上がる事が大好きなレミリアには、この状況はとても辛く、いつしか憂鬱の原因になっていたのだった。
「はぁ」
「……あ、えーと……」
憂鬱そうな主を見ているのはとても辛いので、何か気分を晴らすような話題を振りたい咲夜だったが、ちょうどいい話題が見つからず結果、口をもごもごさせてしまう。
「はぁ~」
そんな咲夜を見てレミリアはより一層、無念感の漂うため息を漏らす。
午後の優雅なティータイム会場であるレミリアの部屋は、現在かなり残念な空気が支配している。
コンコン
「レミィ、入るわよ?」
そしてそんな空気の部屋に、豆まき大会主催者、パチュリーが本を片手に眠そうな眼をしながらやってきた。
「な~に~パ~チェ~」
今度はそんなパチュリーの姿を見て、なんかもう今年も恵方巻食っていればいいや、な声を出すレミリア。
挙げ句喋っている途中で机にぐてーっと突っ伏す。
一方で部屋に入ってきたパチュリーはとてもニヤニヤしている。
「……どうしたのレミィ? 机に突っ伏したりして まるでジェットコースターに乗りたいけど身長制限の為乗ることが出来ない子供みたいね」
「……もうさ、そこまで言えるのなら、私がなんでこんな状態か聞かなくても分かってるんでしょ?」
言動からして、明らかに自分の事情をパチュリーは知っていると判断したレミリア、声量と迫力の無い声でパチュリーに言葉を返した。
「ええ、大方見当はついているわ わざわざ聞いたのはレミィの反応が見たかっただけ」
「むぅ~パチェのいじわる~」
どことなく意地悪なパチュリーのせいで、レミリアの憂鬱感はさらに増してくる。
「まあまあ、そんなレミィに心躍る素敵な朗報を持ってきたわ、きっと気が晴れるわよ」
「朗報? 気が晴れる?」
朗報と言ってもどうせ今のこの気分から脱出する事は出来ないだろう、ましてや気が晴れるなどありえない、どうでもいいから聞くだけ聞いて、さっさと図書館に返そう。
レミリアはそんな気分だった。
「今年の節分大会、レミィも参加出来るわよ」
「!?」
しかしレミリアの予想とは裏腹に、その朗報はレミリアの鬱な気分を吹き飛ばすには充分過ぎるくらいの朗報だった。
「ほ、ほんとなのパチェ?」
机を飛び越え、パチュリーの目の前に瞬間的な移動を見せたレミリア。
さきほどまでの憂鬱感はどこへやら。
レミリアは両目をキラキラさせている。
「ほんとよ、今夜は一緒に楽しみましょう」
再び出たパチュリーの声は、レミリアの憂鬱を完全に吹き飛ばした。
「やったーっ!」
レミリア、万歳。
そして嬉しさのあまり部屋の中をジェット機のように高速で飛翔し始める。
実に危ない。
「パ、パチュリー様……」
と、今まで事態を静観していた咲夜がそわそわしながらパチュリーに話しかける。
「ん、何かしら?」
「その……ほんとうにお嬢様も楽しめるのですか?」
「ええ、楽しめるわよ」
「ほんとうに、楽しめるのですか?」
「楽しめるわよ……何度も言わせないで」
「あ、ありがとうございますパチュリー様!!」
レミリアが本当に豆まき大会に出場出来ると知った咲夜、レミリアが参加出来ると言った張本人であるパチュリーに向かい猛烈な勢いで頭を下げて感謝の言葉を述べる。
ついでにパチュリーの両手を握ってとても嬉しそうに何度も頷く。
「いいから、いいからちょっと落ち着きなさい咲夜」
「あ……申し訳ありません、お嬢様が豆まきを楽しめると思うと嬉しくて……」
「いや、謝らなくてもいいのだけど」
とりあえず咲夜を落ち着かせるパチュリー。
一応咲夜は落ち着いたが、主が豆まきを出来るという事実にまだ頬が緩んでいる。
「……で、咲夜、あなたにお願いしたいことが」
ちょっと落ち着いた所で、パチュリーが咲夜に何かお願いをする。
「霊夢を連れてきてちょうだい」
「霊夢……ですか?」
「そうよ、その方がレミィも喜ぶと思うの、あとあなたもその方がいいでしょうし」
「……そう、ですね」
「ひとまず私達は図書館に居るから、連れてきたらそこに来てちょうだい」
「かしこまりました、では行ってきます」
パチュリーのお願いを承った咲夜は、パチュリーに軽く会釈したかと思うとその場から消えた。
「さて、咲夜が霊夢を誘いに行った事だし、私は妹様でも誘いに行きましょうか ほら、レミィも図書館に行くわよ」
「お?」
未だに高速で部屋を飛び回っていたレミリアを呼び止め、そのレミリアも含めてパチュリーは一足先に図書館へと移動した。
陽も暮れて、辺りは暗闇になった。
当然、ただでさえ窓が少ない紅魔館も例外なく暗くなる。
まあそれでもロウソクが一定間隔に設置されているため、ロウソクの灯りで明るいといえば明るいのだが。
……そんな不気味な明るさを放つ紅魔館にある、大図書館。
咲夜に誘われて紅魔館にやってきた霊夢も含め、豆まき大会に出席する紅魔館住人(具体的に咲夜、フラン、レミリア、パチュリー)は現在全員この図書館に居る。
「さて皆さん、いよいよ豆まき大会よ」
「「やったー!!」」
立ち並ぶ本棚の上に勇ましく立ち号令をかけるはパチュリー。
その号令を聞き楽しそうに盛り上がるのは豆まきに初参加となるレミリアにフラン。
「ねえ咲夜、私は 『豆まきをする』 って聞いていたのだけど、ほんとにこれから豆まきが行われるの?」
「ええ……多分……おそらく」
盛り上がる二人を見ていた霊夢と咲夜は、ほんとにこれから豆まきが行われるのかということに疑問を抱き始めた。
なぜならレミリアとフランが、なぜか自衛隊が着ていそうな迷彩服を着ていて、なぜかフルフェイス形のヘルメットを装備、またなぜか巨大なマシンガンを肩に背負っていたからだ。
「豆まきをしたいかー!」
「「おぉーっ!」」
「ニューヨークに行きたいかー!」
「「おおぉぉーっ!!」」
図書館内部に、とても楽しそうな三人の声が響く。
レミリアとフランは重装備にも関わらずピョンピョンと楽しそうに跳ね、パチュリーはなぜか魅力的な腰を左右に振って踊っている。
ノリノリとはまさにこのことに違いない。
「えー……ちょーっと聞きたい事があるんだけどー?」
ノリノリな所悪いなと思いながらも、霊夢は頑張って言葉を入れる。
「んもう、なによ霊夢 せっかく盛り上がってたのに~ 空気の読めない奴はサイテーよ、吸血鬼の風上にもおけない」
「ぶーぶー せっかくのノリが削がれちゃった これだから巫女ってもんはダメだねー」
「うぐぐ……」
色々とぼろくそに言われ危うく弾幕を発射しそうになる自分を、霊夢は頑張っておさえる。
「ごめんってば、でもノリノリな所を切ってでも、聞きたい事があってね」
そしてなんとなく聞こうとする。
とりあえず、霊夢は謎の迷彩服とヘルメット、さらに謎のマシンガンの意味を知りたかった。
「すみませんお嬢様、私もお聞きしたい事が」
ここぞとばかりに咲夜も便乗。
咲夜も霊夢同様にレミリア達の謎の武装が気になって仕方がなかった。
「咲夜まで? なにかしら?」
レミリアは迷彩服姿のままこちらに向かってくる。
肩には依然として居座るマシンガン。
小さいレミリアには(フランもだが)、迷彩服やマシンガンといったミリタリー系の装備が全く似合わず(ヘルメットにおいてはブカブカ)、レミリアがこちらに向かってくる様は、なかなかにシュールである。
見方を変えればコスプレみたいでかわいいかもしれないが。
ちなみにマシンガンはレミリアより大きい、当たり前だがフランよりも大きい。
「……レ、レミリア達はこれから何をするの?」
レミリアが放つ異彩な雰囲気に負けやっとこさ質問する霊夢。
「は? 豆まきに決まってるじゃん、霊夢もそれで咲夜に呼ばれたんでしょ?」
レミリアは奇妙な物を見る目をしている。
「ま、まあそうだけどさ……にしても、豆まきよね? ……じゃあその迷彩服とかマシンガンはなに?」
「え? 豆まきに必要って言われたから装備してるんだけど」
霊夢の質問に対してレミリアは当然の事と言ったような口ぶりで返答する。
「豆まきに必要……ですか」
「ってか、その言い回しだと……」
霊夢と咲夜は顔を見合わせる。
それから一緒にある人物の方に顔をビシッと向ける。
「霊夢に咲夜、これからの豆まきに必要なものは、スリルよ」
向けられた人物……パチュリーはビシッと霊夢達を指差し、いかにも自分が装備させましたという雰囲気で堂々と言葉を放った。
(パ、パチュリー様……)
(やはり原因を作ったのはあんたか)
霊夢に咲夜、二人はレミリア達がフル装備の理由を理解する事に成功。
「さて、理解したようなので、これから今日行う豆まきの説明をするわ」
「楽しく遊ぶ為にもしっかり聞くわよフラン」
「うん!」
「「せ、説明?」」
何やら豆まきの説明が行われるようです。
豆まきの説明……いったいパチュリーは豆まきの何を説明するのだろうか。
とにかくパチュリーによる豆まきの説明が始まった。
「今回の豆まき大会、レミィ達も楽しめるようにルールを一新したわ まず、制限時間は三十分」
「ほぉ、豆まきというのは制限時間があるのね」
「ねー、普段恵方巻きを食べてるだけだから全然知らなかったよー」
「三十分だってよ咲夜」
「霊夢、ひとまず全部聞きましょ」
「んで、レミィと妹様以外の人達は、頭に風船を貼り付けて……はい」
パチュリーから風船を貰う霊夢達。
風船には頭に貼る為の両面テープと、鬼の写真(萃香)が貼ってあった。
「なぜか風船を貰ったわね」
「とりあえず言われた通り頭に貼りましょっか」
霊夢と咲夜は言われた通り頭に風船を貼り付ける。
ちなみに霊夢は赤いリボン、咲夜はカチューシャにそれぞれ風船を貼り付けた。
風船の色は両方とも目に優しい緑色。
「ふふ、変な頭ね霊夢」
「咲夜もね」
「そしたらレミィ達は三十分以内に……」
説明の途中でパチュリーはおもむろにマシンガンを取り出す。
そして銃口を天井に向けて――
ズダダダダダ
と乱射。
本棚の上でマシンガンを乱射する、パチュリー。
「とまあこんな風にマシンガンを撃って、霊夢達の風船を破裂させる」
「「!?」」
「「わっはー!!」」
その光景に霊夢と咲夜は驚愕、レミリアとフランは驚喜。
「私達の風船を全て破裂させたらレミィ達吸血鬼の勝ち、一個でも風船が残っていれば私達の勝ちよ ちなみに迷彩服とヘルメットで完全防備してるからレミィ達に豆があたっても平気だからね
さあ、サバイバルゲームを開始しましょう!」
言い終えたパチュリーは本棚から浮かび上がる。
パチュリーもこの豆まき(もはやサバゲー)に参加するようで、風船を帽子にある三日月の飾りに貼り付けている。
「フィールドは紅魔館全体! レミィ達は私たちが散らばって一分経ってから出撃してね」
「分かったわ」
「楽しそーだねお姉さま!」
「そうね、頑張って勝ちましょう、フラン」
「うん!」
またとても楽しそうなレミリアとフラン。
ひとまず豆まきが楽しみで仕方ないらしい。
「咲夜ー手加減したらキツイお仕置きだからね~」
「そだねー、もし手加減したらすんごい怒っちゃうよ~!」
「か、かしこまりました」
さらに純真無垢な笑顔でこんな事を言うスカーレット姉妹。
咲夜はというと、引き攣った笑顔を浮かべている。
「ぬぉらパチュリー!」
そして霊夢はとても不満げな表情で宙に浮かぶパチュリーをひっ捕らえる。
「むきゅ!? ……なによ霊夢?」
「マシンガンとか撃ち込まれたら私達死ぬからね!?」
小声だが激しく言う霊夢。
まあ確かに、手元が狂い風船ではなく体に撃ち込まれた場合、霊夢と咲夜の場合はもれなく死ぬ可能性がある。
「別に平気よ、弾は豆まき用の豆だし威力も風船を割る程度だし……ちなみに弾幕とかで防御してもいいわよ」
「……ん~なら平気か」
「はい開始一分前~! 頭に風船つけてる組は館内に散らばって~」
「ちょ! こら待て! てか普通に豆まき……」
まだ何か言いたかった霊夢だが、パチュリーは霊夢を無視してまた浮かび上がりふよふよとどこかへ浮遊していってしまった。
しかも強制的に開始一分前を宣言。
霊夢は早いとこ館内に散らなくてはならない状況になる。
「あぁ~本気でこの豆まきやるの~?」
「霊夢」
「?」
「私達二人とも、無事にこの戦いを乗り越えましょうね」
咲夜は嘆いている霊夢にこう言ったあと、親指を立ててグッドラック、その後一瞬にして消滅。
「はぁ…………よし、やるしかないか」
霊夢も宙に浮かびどこか宛てもない浮遊の旅へ。
「フラン、もちろん勝利も目指すけれど……どちらが多くの風船を殺れるかも勝負しない?」
「えへへ~いいよぉ おねぇさま!」
浮遊し始めた霊夢の眼下では、目がマジなスカーレット姉妹が出撃をいまかいまかと待っている光景があった。
――そしてようやく、紅魔館豆まき大会が開幕した。
開幕と同時にレミリアとフランも散らばり、各自別個で風船狩りを開始。
……既に戦いは始まっている。
霊夢達が各自紅魔館内に散らばり、それをレミリア達が探して見つけ次第マシンガンで霊夢達の頭についた風船を破壊するゲーム。
果たして吸血鬼達は、三十分でこの広大な紅魔館内から三つの風船を探し出し、それらを全て割る事が出来るのだろうか――
――肩に居座る重い感触にはもう慣れたわ。
今度はヘルメットを被っている事で、普段よりも視野が狭い事に早く慣れた方がいいみたいね……
――ここに居れば風船が割られる事はないわね。
もしこの位置で三十分隠れきれば、きっとレミリアは悔しがるわよ~。
まさに灯台元暗しって感じだわ……
――私が本気を出すと、お嬢様達が風船を割るのは無理な気がしますが、まあ仕
方ないですね……
――このマシンガンでズダダって咲夜達の風船をバリリっと…くくく
――ふぅ、こういう時の為に前作った発信機を皆に付けといてよかったわ、全員の居場所が一瞬で分かるもの……
マシンガンの引き金を引くたびに豆が燕の如く飛んでいく。
そして豆は紅魔館の硬い壁にあたり乾いた音を立てて粉々になる。
「快……感」
……なにこれ楽しい。
霊夢のでも咲夜のでもいいから、早いとこ風船を殺りたいとこね。
ふふふ……
私の見事な豆さばきで二人を屈服させたいわ。
……
にしても私の弱点である炒った豆、まさかこれが私の武器になる時が来ようとは……
「これも運命か」
にしても静かね。
こんなに静かだとテンションが下がるから、マシンガン乱射でもしましょうか。
「あ、意外にいいかも」
私の周囲は豆の雨。
普段の私なら火傷の嵐だけど、今回はそうじゃない。
「……パチェ達にもフランにも勝つわ いくぞ、我が豆達!」
豆に向かい気合の一声。
降り注ぐ豆達が返事をする訳ないし、この豆達は普段相当憎たらしく見えたりするけど、今日だけはいつもと違いかわいく見えるわね。
「独り言であのテンションってねぇ……しかしまあ、ずいぶんご機嫌ね」
さきほど見たレミリアの言動があまりにもアレだったので、つい私は小声で呟いてしまった。
……もうなんて言ったらいいのかねぇ。
とにかくレミリアが満面の笑みなのよねぇ。
すっごく楽しそうなのよねぇ。
得意げで偉そうに歩いているのよねぇ。
……豆を率いているからかな。
まあ服装も迷彩服だしそういう気分なのかしらね。
「よし、豆達突撃だ!」
「……」
またなんか言ってるし。
ちなみにレミリアは私の真下にいる。
え? 私はどこに居るかって? ……私はレミリアの真上、天井裏に居るわ。
少々蜘蛛の巣とかあって汚いし移動手段は匍匐前進だけど、天井の隙間からちょうど下の様子が見えるのよここ。
だから常にレミリアの真上に居ればレミリアの行動を常時見れるっていうね。
それにここならよほどの事がない限り見つからないし、まさかレミリアも自分のすぐ側、真上に居るとは思わないだろうし。
灯台元暗し……いや灯台上暗しとはこの事よ。
レミリアを楽しませようと誘ってくれた咲夜には悪いけど、私は本気で逃げ切るつもりだからね。
だってどうせやるなら勝ちたいじゃない?
ま、私は三十分天井裏からレミリアの姿を観察させて貰うわね。
……あーでも三十分レミリアを匍匐前進で尾行ってすっごく疲れそうねぇ。
手加減したらお仕置きと言われてしまったので、まあ手加減はしません。
手加減するなということは、豆が飛んできたりお嬢様達が近づいた場合、本気で逃げろって事ですよね?
本気で逃げるとなると時止めの出番、時止めを行えば確実に逃げられます。
こうすれば私の風船が割られる事なんて確実にないと思います。
つまりこれが私の本気ですね。
……でも、これではお嬢様達が私の風船を割る事が出来ません。
お嬢様達には是非とも私の風船を割って楽しんで頂きたいですし……
でも私は本気を出さなきゃですし……
うーん……難しいものですね。
「あう~肩が痛いよ~」
もうっ!
このマシンガンっての重すぎだよぉ。
肩が痛くておかしくなってきちゃったよ。
「あ~誰でもいいから風船破壊させてくれないかなぁ」
さっきから色々と捜し歩いているのだけど、霊夢も咲夜もパチュリーも全然見当たらない。
どこにいるんだー。
うぅ……こうも見つからないと段々イライラしてくるのだけど……肩痛いし……
「もうダメ!」
ガシャーン!
「あ……」
まずいまずい!
つい叩きつけちゃった!
こ、壊れてないかな……?
ズダダダダダ
あ、よかった~、お豆がたくさんでたよ~
「うん、気を取り直して捜すぞぉ!」
よし、まずは食堂の方に行ってみよー!
「ふふ、分かるわ……皆の居場所が手に取るように分かる……」
まあ私は事前に仕込んでおいた発信機のおかげで、特に苦労することなくレミィ達と距離をとっている。
まさかレミィ達もマシンガンに充填されている大量の豆の一つが、『豆型発信機』だとは夢にも思わないでしょうね。(ちなみに霊夢達の風船にも発信機が付いている、というか風船そのものが発信機)
やっぱこういう戦いは事前準備が大事よねぇ~、言いだしっぺは自分だけど。
「さてさて、具体的に居場所を確認していきましょうか」
と私は目の前にある賢者の石の形をしたモニターを見る。
このモニターに全員の居場所が光の点となって映り、バレバレという素晴らしさ。
「えっと……」
妹様は現在食堂に居る。
食堂は私とは正反対の場所にある、妹様の事は特に気にしなくても平気そうね。
……レミィは自分の部屋辺りをウロチョロとしている。
レミィも私とは正反対の位置に居るから問題ない……で、レミィとほぼ同じ位置に霊夢が居るのだけど……あの巫女は何をやっているのかしらね、あんな近距離にいたら風船割られちゃうじゃない。
まあいいのだけど。
……咲夜はトイレの中に居る、咲夜は咲夜で全く動かないわね~。
……ちなみに私は図書館の本棚と本棚の間に居るわ。
とりあえず、今のところ私の側にレミィ達は居ない、つまり安全圏。
仮に居たとしても予想進路を弾き出しそこを迂回して逃げればいいだけ。
……強い。
私の風船が壊される要素が微塵もない、完璧な論理だわ。
「ごめんなさいねレミィ、最初はそんな気無かったけど、やっぱ勝負事は勝ってこそよね」
と言った具合に、それぞれが様々な思惑を巡らせている豆まき大会。
早くも二十分が経ち豆まき大会は残り十分となった。
さてさて、レミリアとフランは風船を割る事が出来たのか。
「く、くそぉ……二十分も歩いているのに……探しているのに……割りたいのにぃ!」
「……ってか本気で誰も居ないんだけどさぁ、ナニコレ?」
はい、ご覧の通り全くもって割れていません。
頭に風船をつけた咲夜は、トイレのある部屋からひょこっと顔を出し、紅魔館の長い廊下の様子を伺っていた。
ちなみにここのトイレは洋式で、咲夜によっていつも清潔に保たれている。
ついでに利用者も多い。
まあとても大事にされている幸せ物な洋式トイレなのである。
「なんだかんだであと十分……お嬢様はもう風船をお割りになったのでしょうか……私の風船は本気ゆえ割らせられませんが」
廊下に誰も居ない事を確認し、いったん便器に座る咲夜。
「私をずっと匿ってくれてありがとね、もし無事風船が割られずに済んだら……とても綺麗に掃除してあげるわ」
そして何やら洋式トイレ相手に独り言。
さらに地味になくなりかけていたトイレットペーパーを新たに補充し、微笑む。
こんな時でも身の回りの事に配慮が出来る辺りさすが紅魔館のメイド長といったところか。
「あと数分、ここに居させてね」
再度洋式トイレに話し掛けた咲夜は、再び立ち上がりまた廊下の様子を伺う。
その時、
ドッガ-ン!
「なに!?」
突如凄まじい爆音が発生し、背後の洋式トイレが木っ端微塵に吹き飛んだ。
さらにすぐさま爆風や破片が猛烈な勢いで咲夜に吹き付けてきた。
「くっ!」
だがさすがは咲夜。
驚きながらも反射的に体をかがめていた為、まったく怪我を負う事はなかった。
「咲夜み~っけ」
続けざま幼い声が辺りに響く。
「……!!」
……洋式トイレが元あった場所には、マシンガンを咲夜に向け完全武装し浮かんでいる、ついでに幼い声の発信源でもあるフランが居た。
(しまった! まさかトイレから……と、とにかく時止め逃げ安定……)
このままでは風船を撃たれると判断した咲夜は、すぐさま時を止めて逃げようとする。
が、そんな咲夜の耳に、
「やっと風船に出会えたぁ……ようやく豆を、豆を撃てるよぉ」
というフランのとても嬉しそうで安心した言葉が入ってきた。
(ようやく撃てる……だと?)
フランが既に風船を割っているのではないかと考えていた咲夜。
しかし実際フランはこれが一個目のようで、しかも風船に出会うのすら初めてな口ぶり。
さらにはようやく豆を撃てるとの言葉も。
(うぬぬ……)
いくら本気とはいえ、私を見つけてこんなに喜んでいる妹様の前で……果たして私は逃げていいのか?
咲夜の脳裏にこんな考えが浮かぶ。
ズダダダ!
パァン!
「あ!」
……遅かった。
咲夜の注意が頭の風船に向いた時には、既に風船は軽快な音を発して砕け散っていた。
さらに咲夜の足元には無数の豆。
(う、撃たれた……!)
咲夜は風船を撃たれてしまった。
「ふぅ……お見事です、妹様 心の迷い……といいますか、完全に隙をつかれました」
ほんとに一瞬の隙をつかれたわね……
咲夜はフランを褒めると共に、最後のところで本気になれなかった自分にちょっとだけ後悔。
「……違う」
自分を褒める咲夜に対しフランは小さく声をだす。
咲夜の賞賛など聞こえていないようだ。
「?」
ちょっと聞き取れず、顔に?を浮かべる咲夜。
フランはそれに応じて声量を強め、再度声を出す。
「私が撃ったんじゃない!」
「……え?」
今度はしっかり聞き取れた。
同時に、フランの発した言葉の意味を考える。
(妹様が撃ったのではないとすると……)
「撃ったのはこの私よ」
「「!?」」
突如幼い上に威厳たっぷりな声が響いた。
「レミリア・スカーレット参上!」
そしてすぐに完全武装したレミリアがこの場に飛びこんできた。
「お、お嬢様!」
「咲夜の風船、討ち取ったり!」
そのままシャキーンとポーズも決める。
「ふふふ……」
不気味に笑う完全武装レミリア。
ヘルメットのせいで笑い声が篭り、より一層不気味さが増す。
「残念だったわねフラン、見つけ次第とっとと撃っちゃえばよかったのにねぇ 咲夜の風船、私が頂いたわ」
レミリアはとても満足感溢れる表情で、ガックリと床に膝をつく妹を見下ろす。
「お姉さま……!」
目の前の獲物を横取りされたフランは、今にも泣きそうな顔で姉を見上げる。
「このまま霊夢の風船もパチェの風船も、私が頂いちゃおうかしら?」
「う~させないもん! 霊夢とパチュリーの風船は私が割るもん!」
ズダダダ!
レミリアの挑発を受けたフランは、涙声になりながらマシンガンを天井に向かい乱射する。
パァン!
「「「!?」」」
と、突然風船が割れた軽快な音が天井から聞こえた。
「もう~脆すぎよこの天井~ たまたま撃った豆が天井突き破って私の風船割るってなんなのよ」
そして天井裏からぶつくさ言いながら霊夢が登場。
見ると頭の風船が割れている。
ちなみにちょっと蜘蛛の巣まみれ。
「ここなら絶対割られないと思ってたのに~」
「なに!?」
「あ、霊夢が割られたのね」
「天井のせいよ、天井の」
霊夢は顔を膨らませて座り込む。
さらに突然風船を割られたのが大変気に入らないらしく、天井を指差しプンプンしている。
「や、や……やったー! 霊夢討ち取ったりー!」
理由はどうあれ霊夢の風船を割ったのは自分だ、フランはその事を理解し、とっても嬉しいそうにはしゃぐ。
「フラン、それくらいではしゃがないの 同点に戻っただけ パチェの風船を破ってからはしゃぐべきよ」
冷静に語るレミリアだが、霊夢を討ち取られた事で悔しさが顔に滲み出ている。
「……そうだね」
フランはもうかなり優越感に浸っているらしく、頬が緩む緩む。
にしてもさきほどとは全く逆の構図である。
「よーし!パチュリー狩りだ!」
「ふ、負けないわよフラン!」
フランの言葉を皮切りに、吸血鬼二人は残ったパチュリーの風船を探して凄い勢いでどこかへ飛び去っていく。
「「……」」
で、残された人間二人。
「……これからどうする?」
「うーん、図書館に戻る?」
ということで、二人は特に逃げたり隠れたりする必要がなくなってしまったので、最初に皆で集まった図書館に一旦戻っていった。
「……あ、寝てた」
あまりにも負ける可能性が無かったため、本棚を背もたれ代わりに寝ていたパチュリーが目覚めた。
しかし負ける可能性がないとはいえ、寝るのはちょっと不味いのではなかろうか。
「残り時間はあと三分か……どれ、戦況はなんか変わったかしら?」
眼を眠そうにでろーんと垂れさせ大あくび、そしてから賢者の石の形をしたモニターをじぃっと注視するパチュリー。
「あ、霊夢と咲夜の反応がない……意外ね、霊夢と咲夜が風船を割られるとは……レミィ達、頑張ったわね~」
パチュリーはむきゅーっとニヤついた後、ふむふむと頷きレミリア達に感心した。
「で、現在レミィ達は……」
続けてレミリア達の居場所を確認するパチュリー。
「嘘っ!?」
思わず叫ぶ。
「……寝たのはミスったわね 意図したものかは分からないけど、レミィと妹様に挟み撃ちにされてる……」
なぜ叫んだのか。
それはレミリアとフランが、パチュリー目掛けて両方向から猛スピードで突撃してきていたからだ。
本棚と本棚の間に居るパチュリーにとって両方向からの突撃は、地味に逃げ場もないわけで。
「残り二分……この風船は割らせないわ」
頭にある風船に軽く触れ、パチュリーは決意したように浮かび上がる。
と、すぐさま五色(それぞれ赤、青、黄、緑、黄土色)の石が地面より湧き出てきて、パチュリーの周りにパチュリー同様浮遊した。
「……来たわね」
パチュリーの視界にレミリアとフランが侵入。
「パチェ確認!」
「覚悟ーっ!」
こちらの二人もほぼ同時にパチュリーを視界に捉えた。
ズダダダ!
二人とも捉えると同時にマシンガンを乱射し、パチュリーに凄い勢いで豆をぶちまける。
「風船破壊はさせないわ! 火水木金土符「賢者の石」!」
「「えぇ?」」
パチュリーまさかの弾幕発動。
五色の石からそれぞれの色をした大量の米粒弾が全方位に放出された。
「そんな豆なんてあたらないわ」
大量の米粒弾はパチュリー目がけて飛んでくる豆とあたり相殺。
相殺と言っても明らかに弾幕の方が豆よりパワーがあるので、豆は弾幕があたった瞬間に塵となり消える。
「「いだっ」」
弾幕は豆を突っ切った勢いそのままにレミリア達にもあたる。
しかも完全武装をしているため素早く動けず、かなりの弾幕をレミリア達は体で受ける事になってしまう。
「う~痛いよぅ」
「いたた……パチェ! 何するのよ!」
突然弾幕を放たれたものだから怒るレミリア。
まあ当然の反応だが。
「弾幕使って豆から風船を守ってるだけよ? レミィ達が食らったのは誤差の範囲」
「ぐぬぬ」
パチュリーに涼しく言われ悔しさを滲ませるレミリア。
「あ」
が、レミリアはある事に気づいてしまった。
「ふっふっふ」
妖しく笑いながらヘルメットやマシンガンを地面に置き、ならびに迷彩服も脱ぎ捨てる。
レミリアは普段通りの服装へと戻っていく。
「武装解除なんかしてどうしたの?」
「パチェ、私は気づいたわ」
「?」
「私も風船を割る為に弾幕を使えばいいのよ! 紅符「スカーレットマイスタ」!」
レミリアは素早く両手を胸の前で構え、パチュリーを押し潰す勢いで大小様々な大きさの紅い弾幕を発射。
「あ、私も割る為に使えばいいのね?」
そんなレミリアを見たフランも一気に武装解除。
いつもの身軽な状態へと戻る。
「風船破壊、いっくよー! QED「495年の波紋」」
そして宝石の羽をぱたぱたさせつつ跳びはねながら弾幕を発射。
フランが出す弾幕は、まるで水面に発生する波紋のように広がりながらパチュリーへ迫る。
なんにせよ、二つの凶悪な弾幕がパチュリー目がけて向かってくる。
「まあこの展開を予想しなかった訳じゃないけど…… 月符「サイレントセレナ」」
しかしパチュリーはいたって冷静。
すぐさま両手を構え自分の周囲に月光のような青白い色をした弾幕を発生させる。
続いてその弾幕を束にして壁を形成。
壁が形成されるのとほぼ同時に、吸血鬼二人が放った凶悪な弾幕が壁に衝突し大きな爆発を起こす。
その凶悪さゆえか、爆発の衝撃波や辺りに立ち込める煙は相当なもの。
「……ま、手応え無し……よね?」
まるで分っているかのようにレミリアは言う。
「そだね~、相手はあのパチュリーだもの」
「ひとまず煙がひくのを待ちましょう」
爆発から少々の間を置き、立ち込めていた煙がだんだんとひいてくると、
「ふぅ、危なかった」
多少疲れた感じで膝をつくパチュリーが現れた。
パチュリーの頭にある風船は、あの爆発に見舞われたというのに健在だ。
「ふふ、ずいぶんと丈夫な風船ね!」
吸血鬼二人の弾幕に襲われながらも未だ傷一つ無い風船を見たレミリアが笑いながら驚く。
その右手には紅い弾幕が収束してきていて、だんだんと紅い槍に姿を変える。
「神槍「スピア・ザ・グングニル」」
レミリア、その紅い槍をパチュリー目掛けてぶん投げる。
槍は天を駆ける雷鳴のような速さで突き進む。
「あたらなければどうという事はないのよ?」
パチュリーはすんでのところで回避する。
その回避はグレイズ回数が一気に五十くらい跳ね上がりそうなギリギリな回避であった。
「ふーせん!ふーせん! 禁忌「レーヴァテイン」!」
「くっ!」
ギリギリ避けたのも束の間、間髪入れずに今度は炎の剣を持ったフランが背後からパチュリーの風船に襲い掛かる。
「させない! 日符「ロイヤルフレア」」
しかしフランが風船を割るよりか先に、パチュリーが両手をあげ朱い色した大量の弾幕を爆発的に大放出。
「ちょちょちょ!」
ロイヤルフレアを超至近距離で放たれてしまったフランは大慌て。
「あ!!」
またレミリアもパチュリーに向かい突貫していたせいで大慌て。
「あわわわ……っと 禁弾「スターボウブレイク」!」
「れ、「レッドマジック」!」
この距離でロイヤルフレアを回避するのは不可能と悟った二人は必死に防御型のスペカにて対処を開始。
大慌てな上必死なレミリアとフラン、さらに豆まきはいったいどこへ行ったのだろうというこの状況。
しかしそんな状況ではあるが、吸血鬼姉妹二人は口元が緩んでいた。
ロイヤルフレアのまばゆい朱色の輝きと、吸血鬼の放つまるで宇宙を連想させる弾幕や、血の滴るような紅さの弾幕、そしてそれらがぶつかり激しい爆音が響き渡る紅魔館の大図書館。
「……でさ、豆まきはどうなったの?」
本棚の上にて緑茶を啜り、レミリア達の激しい弾幕ごっこを見物しながら霊夢が言った。
「今やってるじゃない、霊夢にはアレが見えないの?」
霊夢の隣に座り紅茶を飲んでいる咲夜が、同じくレミリア達を見ながら言う。
「アレが豆まきなら、私達はしょっちゅう豆まきしてるわね」
「豆まき楽しいわよね~」
「そうですね~」
そして図書館が騒がしい為先程こちらにやってきた小悪魔が、見事に空気を読み咲夜に相槌をうつ。
「うは、あんたまで豆まき発言か なんだかだんだんアレが豆まきに見えてきたわ」
確かに豆みたいな弾を撃ち合っているので、ひょっとするとアレは豆まきなのかもしれない。
「霊夢さん大丈夫です、私にはアレが弾幕ごっこに見えますよ」
おっと空気の読めないお方が一人居る。
「空気読みなさいよ美鈴」
それは、門番の仕事をしていたけれど賑やかだったのでつい来ちゃいました! な紅美鈴さん。
お互いが本気な豆まきは制限時間が過ぎても終わる事がなく、フランとレミリアが十分に満足し、疲れて眠りにつくまで行われたそうな。
「つ……疲れた」
「お疲れ様ですパチュリー様」
二人が疲れて果てるまで付き合ったパチュリーが疲労困憊なのは、言うまでもない。
現在パチュリーは安楽椅子に座りつつ、咲夜に肩を揉まれている。
「でもま、なんかしらレミィ達は楽しめていたようだし、今年はいい豆まきだったわね」
「はい、今日は本当にありがとうございました、パチュリー様」
「いいのよ咲夜、私もあなたと同じで、憂鬱なレミィを見たくなかっただけよ」
レミリア達を含めて行われた紅魔館の豆まき大会は、これにて無事閉幕。
ちなみにこの豆まき大会の勝者は、最後の最後まで風船をレミリア達に割らせなかったパチュリーの居る、霊夢・咲夜・パチュリーの頭に風船つけてる組だった。
感想をいただけてとても嬉しいです
霊夢軽いなー
終始ほのぼの(豆まきを除く)で読んでいてとても楽しかったです