「もうすぐ年越しかぁ」
炬燵で蜜柑を頬張り、しんしんと降る雪を眺めながら、誰に聞かせる訳でもなく独り呟いてみる。
「はぁ」
そして出てくるのは大きなため息。
「そろそろ正月の準備、やらなくちゃよねぇ」
……準備が、出来ていない。
もうすぐ大晦日、ならびにお正月になるのだけど(ちなみに今日は12月24日)、現段階でそれに対する準備が、何も出来ていない。
一応ここは神社な訳で、初詣に来る方々の為に神社の装飾をしたり、色々と出し物を準備しておかないといけない。
私は別にそんな事しなくてもいいと思うのだけど、やらないと紫に説教されちゃう訳。
……面倒よねぇ。
面倒だから説教の時間をよく睡眠時間にあててるけど。
まあなんにせよ、寝てるとはいえ説教されるのは面倒。
だから何かしら準備しなきゃだけど、そっちもまた面倒。
双方面倒。
この面倒のうちのどちらかを取らないといけない。
うむむ、考えただけでため息が出る。
「……おみくじでもつくろ」
とりあえず、今日も寝たまま過ごすと段々やる事が溜まっていきますます面倒な事になっていきそうなので、数ある準備の中で一番労働力が少ないおみくじ作りから始めよう、と私は決めてみる。
で、頑張って行動を始めてみる。
「……さぶい」
うぅ、炬燵を出ただけなのにこの寒さ。
やはり炬燵は偉大。
……さて、まずはおみくじを作る為に紙やら筆やらを……
「にゃーん」
……なぜか境内に、黒猫が居た。
霊夢と黒猫とプレゼント
その黒猫はスッゴくスマートな体型(痩せすぎ?)で、さらにめちゃくちゃ体を震わせ(寒いのかも)、雪の降る雪原で丸まっていた。
白い雪原に黒い猫が居るので、黒猫の存在はかなり目立っている。
……なんにせよ、あのまま放置しとくと凍死しそうなので、救助しに行ってあげようか。
あ、目が合った。
「にゃーん」
黒猫は私と目が合うとすぐにくるっと体の向きを反転、そして駆け出し……
ずてっ
「にゃうぅぅ...」
こけた。
よく見ると後ろの両足を怪我している。
見た所切り傷、何かで切れたのね。
「まったくそんな状況で動くから」
黒猫に駆け寄り、黒猫を抱っこする。
「にゃーっ!!」
「ちょ!」
結果黒猫がバタバタと暴れてくる。
救助してやってるのに暴れるとか何考えてるんだか。
もしかしたら食べられるとか思ってたりして。
「こーら、暴れないの あんたを救助してるだけ、食べたりなんてしないから」
しっかり猫の目を見て食べる気は無い意思を告げる。
ついでに頭をゆっくりと撫でてあげる。
「……」
安心したのか言葉が通じたのかは知らないけど、急に黒猫がおとなしくなった。
「そうそう、いい子ね~」
ふむ、やはりこうなにかを抱きながら頭を撫でるのはいいものね。
無意味に心が安らぐ。
黒猫の方も私の腕の中でぐったりと目を閉じ……ぐったり?
「ちょっとこれヤバいって!!」
現在黒猫が非常に危険な状態にある事を理解した私は、黒猫を抱き抱え炬燵が在る部屋に急行した。
ウィーン
クルクル
ずぼっ
「これでよし」
先程の黒猫、怪我はしてるし寒さで凍えそうだしでとにかく死にそうだった。
だからそれに対応した治療をしっかりとしてあげた。
まあ黒猫だって年越し目前まできて死にたくないだろうし、私としても見殺しにするなんて事は出来ないし。
とりあえず怪我してた両足に治癒結界を施し博麗印の包帯を巻き、炬燵の中に体を入れて温まるようにさせといた。
あと状況的にお腹も空いてるだろうから、起きたら何か食べさせてあげるつもり。
……それにしても、
「気持ちいい♪」
いや突然何を言い出すかっていうとね、猫が炬燵の中に居る訳だけどその猫の柔らかい体毛が足をくすぐってくるのね。
これが実に気持ちいい。
「ふはぁ~...っておみくじ作るんだった」
あぁ、ほんわか和んでいる場合ではなかった。
おみくじ作るの忘れてた。
「よーし紙を切るぞ~」
ハサミを使ってちょきちょきちょき~っと。
うーん人助け(猫助け)をした後はやっぱり気分が良いものね。
てかさっきまでの気分と正反対。
普段なら面倒でしかない紙を切る作業も、今日はなんとなく楽しい。
「~♪」
今年はおみくじ何枚用意しようかなぁ。
限られた人達しか訪れないからそれほど多く作る必要性は無いと思うけど。
ま、100枚くらいでいいか。
その100枚の内『大吉』は……5枚、『中吉』は30枚、他は『凶』でいいや。
あ、今年は1枚だけ『絶望』ってのを混ぜてみるのも面白そう。
てかいっその事『大吉』とか普通のはやめて、『絶望』や『幸福』みたいなものだけにしても意外に楽しいかもしれない。
もぞぞ...
「ん?」
ずぼっ
「にゃーん」
「あら、もう目が覚めたの?」
おみくじの役(でいいのかな?)を考えてる内に、いつの間にか目覚めた黒猫が炬燵からはい出てきていた。
とんでもなくかわいい。
「にゃーん」
うーん後ろ足を引きずってる所をみると、まだ安静にしておくのが安定か。
「あーこらこら まだ動いちゃダメだってば」
黒猫を優しく抱き上げ再び抱える。
「にゃーん」
私の腕に抱かれながら、私の事を調べるように見てくる黒猫。
これは観察されてるなぁ、黒猫に。
……今思ったんだけど、黒猫って呼び方、ちょっと変ね。
えーっと、見た感じ首輪はついてないから誰かに飼われていた訳では……ない?
つまりこの黒猫、名前が無いのかもしれない。
という事は、私が名前を付けてあげてもいいってこと……よね?
「何がいいかな……」
「にゃーん」
「あぁ、せっかくだし今からあんたに名前をあげるわ」
「にゃん?」
言ってる言葉の意味を理解出来ず(当たり前)首をかしげる黒猫。
うは、首をかしげる猫ってかわいいわねこれ。
「んっと……じゃあ黒いから『エリザベス』にしましょ」
「にゃ!?」
なんか露骨に嫌そうな顔されたんだけど。
「嫌なの? うー、黒いから……『小太郎』とか?」
「にゃぁ...」
黒猫が、哀れむような瞳で私を見ている。
こいつ、ほんとは私の言ってる事を理解してるんじゃないの?
「わ、分かったわよ しっかり考えるから」
ほんとは最初からしっかり考えているのだけれど。
やっぱ人間と猫では感性が違うわね。
こりゃ誰もが納得しそうな名前でいくしかないか……
「……妥当に『クロ』 これでどう?」
「……」
黒猫が黙った。
でも嫌がってなさそうだからもう『クロ』でいいや。
「うん、あんたはたった今から『クロ』よ!」
「にゃーん」
ということで、この黒猫はクロになった。
「あっとクロ、あんたお腹空いてるでしょう? 今からご飯作ってきてあげる」
「にゃーん♪」
なんかご飯の話題を出した途端しっぽを振って露骨に嬉しそうになったクロを一旦炬燵に戻し、私は台所へ向かった。
………
で、台所へ来たのはいいけど、
猫って何食べるの?
という疑問が浮上する。
恐らく猫だから魚は食べると思うけど、生憎と神社にある魚はマグロしかない。
マグロはクロには大きすぎるよねぇ。
まあでも他に魚は無いし、ちょっと捌いていくらか切り身を持っていく形でいこ
うか。
食べ物はもうこれでいいや、マグロ三昧ってことで。
次は飲み物ね。
何飲むのかな……ってあんま考えてるとクロがかわいそうだし、もう普通にホットミルクに決めちゃえ。
ズバッズバッ
トクトクトク...
ボッ
チーン!
カタカタッ
現在私が持つおぼんには、マグロの切り身盛り合わせが2個と醤油、ホットミルク、お茶がある。
ちなみにマグロ切り身盛り合わせの1個とお茶は自分の分。
ほら、絶対自分も食べたくなるだろうなぁと思ってね。
「クロ~ご飯~」
「にゃ~い!」
火燵部屋に戻るなり尻尾を振りまくり私の側までやってくるクロ。
これは相当お腹空かしてるんじゃないだろうか。
……あれ、今気づいたけどクロって尻尾が二本あるのね。
割と変わった猫なのかも。
「にゃー」
「……あ、はいはいどうぞ」
クロに催促された私は、クロの目の前にマグロとミルクをおいてあげる。
もぐもぐもぐ...
以下、猛烈な勢いでマグロを食すクロ。
かわいい。
私も食べよっかな。
「いただきまーす」
はむっ
実に、おいしい。
はむっ
もぐもぐもぐ
マグロを食す音だけが響く博麗神社。
はぁ~おいしいわねぇ、マグロ。
普段全然食べないから余計においしい。
そういえばなんでマグロがあるんだっけ?
「……あ」
このマグロ、正月の宴会に使う予定の物だった。
ドンドンドンッ!
「れーむぅ~居る~?」
わっとビックリした来客か。
こんな雪の日によく来たわねぇ。
ドンドンドンッ!
「れーむぅ」
そんなにドアを叩かないで下さい壊れます。
家の玄関は木製です。
「はーい居るわよ~ クロ、ちょっと待っててね」
依然マグロを食すクロを一撫でして、玄関へと向かう。
来た奴は柔らかい口調で既に判明している。
後はもう一人居るかどうか、多分居るとは思うが。
ガラガラ
「ふぅ、やっぱり幽々子ね、あと妖夢」
「こんにちは~れーむぅ」
「こんにちはです」
やっぱり居た。
玄関にはいつも通りぽわーんとした幽々子とキリッとした妖夢が居た。
「まあ、こんにちは 用件は?」
「ふふっ 今日はね、れーむにプレゼントを持ってきたの」
「プレゼント? あ、妖夢が持ってるソレ?」
ソレってのは、妖夢が大事そうに両手で抱えている箱の事。
リボンで飾られてたり小さかったりで、箱なのにどこかかわいい印象を受ける。
「って何? どうしたの急に?」
「えっとですね 紫様から聞いた事なのですが、本日12月24日と明日の12月25日というのはクリスマスといって、日頃お世話になっている方にプレゼントを贈る日になっているそうです」
「え、そうなの?」
そんな日があるんだ。
全然知らなかった。
「だからね はい、れーむ」
「いつも、お世話になってます」
にこっ
と笑顔で妖夢がプレゼントを私に渡してくる。
「え、あぁ」
特に断る理由も無いから、一応受け取ったは受け取ったけど……
「ほんとにいいの?」
「いいのよれーむ 私とよーむの感謝の気持ちなんだから♪ ね、よーむ?」
「はい!幽々子様!」
……まあいいか。
拒否するのも二人に悪いし、ここは素直に貰おう。
「ありがとね、妖夢、幽々子」
「にゃーん」
あれ、クロの奴いつこっちに来てたのかしら。
もうマグロは完食したようね。
「あ、猫さんだ!」
「あら、ほんとねぇ れーむの猫?」
「いや、そういう訳じゃないけどちょっとね」
「……ふーん」
おぉー二人ともクロに超注目。
妖夢なんか目をキラキラさせながら超注目。
ほんとに妖夢は無邪気なんだから。
「霊夢、あの、抱っこしてもいいですか?」
「どうぞ~ ただしクロが嫌がらなければね」
「わーい!」
妖夢が両手を構えゆっくりクロに近づいていく。
「動いちゃダメですよ……」
「にゃ、にゃ?」
でもクロは怯えるように後ずさり。
ありゃ抱っこは出来なそうねぇ。
「……その黒猫」
で、妖夢の後ろからじっとクロを眺めてる幽々子。
何を考えてるんだか。
「幽々子?」
「……あ、えっと……クロちゃんだっけ?」
「そうだけど」
「……おいしそうね」
「おい!!」
ほんとに、何考えてるんだか。
それから二人が帰るまで、私はしばらく幽々子とくだらないながらも充実した世間話をしてた。
「……でね、準備が大変なのよ」
「頑張ってれーむ 新年早々博麗神社に来る予定だから色々楽しみにしてるわよ~」
なんだかんだで幽々子は意外に話しやすい。
意識した事はないけど、お母さんみたいな感じなのかも。
「はぁ……私は猫さんに嫌われてるみたいです」
妖夢は結局クロを抱っこ出来なかったらしく、帰る際ちょっとうなだれていた。
「よいお年を~」
「来年もよろしくです」
「えぇ、また」
二人が帰ると、博麗神社は再びクロと私が居るだけとなった。
ま、せっかくだし貰ったプレゼントを開けようかな。
冬場の定位置である炬燵に戻りプレゼントを開けてみると、中から出てきたのは毛糸で出来たピンク色の帽子とマフラーだった。
「わぁ……」
プレゼントを貰ったという事での純粋な嬉しさと、帽子とマフラーがとても暖かそうという二つの要素に、思わず声が漏れた。
「ん?」
と手紙を発見。
なになに...
『私がマフラーを、幽々子様が帽子を編みました』
あぁ、なんか、四苦八苦しながら編みものをする妖夢の姿が目に浮かぶ。
もし妖夢が編みもの得意だったら失礼だけど。
……いや、それはないわね。
妖夢だし。
てか私もプレゼントあげようかな。
幽々子には意外とお世話になってるしね。
もちろん妖夢にも。
「にゃーん」
そんな事を思っていると、クロが顔をこすりつけ私に甘えてきた。
まったくかわいいわねぇほんと。
「んー?今ねー妖夢達にプレゼントあげよっかなーって思ってたんだよ?」
「にゃ~ん」
クロの首を撫でてやると、クロはゴロゴロと喉を鳴らして実に嬉しそうにしてくれる。
「ほ~ら♪」
だんだん自分の顔や声が緩んでいくのが分かる。
クロがかわいいから仕方ないよね。
「クロ~」
ふ~、かわいい。
あーそれにしても、もし誰かにこんな声や顔を聞かれたり見られたりしたら、本格的に恥ずかしいわね。
まあでもさっき玄関はしっかりと閉めてきたし、境内には私とクロしか居ない
「いつの間に猫を飼いはじめたの?」
「ぶっ!! さ、さ、さくやぁ!?」
……なぜか、いつの間にか、私の目の前に咲夜が居た。
「かわいいわね~その猫……勿論、霊夢もかわいかったけど」
「な、なんで居るのよ!!玄関閉まってるのに!」
「ん?縁側の障子は普通に開いてたけど」
「あ……うぅ」
迂闊だった……
よく考えたらこの神社の中に玄関から入ってくる人なんてほぼ皆無、ほとんどの人達(人じゃ無いのが大半だけど)は縁側からの不法侵入だった。
「霊夢ー!」
しかもというか何と言うか、レミリアまでもが現れた。
状況から察するにレミリアにはさっきの光景を見られて無さそうだ。
まあよかった。
しかしながら咲夜だけじゃなくて、今日はレミリアまでいるのね。
「珍しいわね わざわざレミリアまで 雪は平気なの?」
「心配するな 私には咲夜がいる それにこれは乾いた雪だ 流水ではない」
「お嬢様の為に全力で傘を挿しましたわ」
「フフフ...さすが咲夜 私の誇る最高の従者だ」
一言言う、今日のレミリアはカリスマ度が高い。
100点満点中95点カリスマがあるって感じだ。
「まあそんなことより霊夢、私と咲夜からプレゼントよ 受け取りなさい」
っといきなり手の平サイズの小箱(プレゼント?)を渡された。
「えぇ?」
とりあえず受け取ったものの、あまりにも予想外すぎて変な声が出てしまう私。
「なに、私がプレゼントって変かしら?」
あ、レミリアの顔が膨れた。
「まあ、うん、正直、スッゴく変」
「……さ、さくやぁ、霊夢に変って言われた……」
ありゃりゃ、今度は泣き出しそうになった。
さっきのカリスマ度は一体何処へ。
「お、お嬢様! 霊夢は事情を知らないから変に思っているだけで、事情を詳しく話せば大丈夫ですよ!」
「そうかな……?」
泣きそうなレミリアをあやす咲夜。
まるで園児をあやす保母さんみたい。
「(霊夢もお嬢様を泣かさないでよ)←小声」
「(いやそんなつもりじゃなかったんだけど)←小声」
「(まったく……)←小声
コホンッ ではまあ、霊夢にこちらの事情を説明致しますわ」
一回咳ばらいをする咲夜。
何て言うかレミリアが側に居ると咲夜は普段の三倍カッコイイ。
いやまあ普段もカッコイイけど。
それにしても、私達に接する咲夜とレミリアに接する咲夜。
果たしてどちらが咲夜の素なのだろうか。
もし後者だったら、それはそれで色々と凄いわ。
まあ何はともあれ事情解説のターン。
「先程妖夢と亡霊が紅魔館にやってきてね、私とお嬢様に
『いつもお世話になってます、これは感謝の気持ちです』
ってプレゼントをくれたのよ」
あぁ、なるほど。
もう事情が分かった。
「聞けば今日は日頃世話になっている奴らにプレゼントを贈る日らしいじゃないか」
いつの間にかレミリアが再びカリスマ度95点な状態に復活してる。
「そこでだ、霊夢には日頃から咲夜がよく世話になっている……つまり! 私は霊夢にプレゼントをあげるわけだ」
「なるほど、いい理由ね」
レミリアの背後にいた咲夜をちらっと横目で見る。
笑顔で軽く会釈される。
「分かったわ、プレゼントありがとう レミリア、咲夜」
私はプレゼントをぎゅっと抱きしめる。
小さいけれど、プレゼントはプレゼント。
嬉しい事に変わりはない。
「やったー!霊夢にあげられた!」
「お嬢様!よかったですね!」
あ、またカリスマ度が消えた。
ってカリスマ度計ってる場合じゃないわ。
レミリア達にお返しあげなきゃ。
「二人とも待ってて、私もお返しあげるから」
「お返し? 何を言ってるの霊夢」
「え?」
「妖夢の話だと、プレゼントを貰った人へのお返しは禁止されてるそうよ」
なんだこのお返し出来ない流れは。
「なにそのルール」
「さあ?私達も妖夢達にお返しをしようと思ったけど、こう言われてしまってね 結局お返ししてないの」
「まあつまり、このプレゼントやりは先手必勝って事だ 渡されたらお返し出来ない……見方を変えると、渡されたら嬉しいけど負けなのよ、霊夢」
なんだか知らないけど、今日明日は何か貰ったら嬉しいけど負け確定という状況になった。
「にゃーん」
「おぉ」
レミリア達から貰ったプレゼントの中には、小粒のチョコレートが大量に入って
いた。
「クロも食べる?」
「にゃー」
そんな訳で、私とクロは炬燵にあたりつつチョコレートをむしゃむしゃ食し始める。
……それにしても、お返し出来ないってなかなか厳しいわね。
私としては、やっぱこう何かしてくれた人にはお礼的な何かを返さないとスッキリしないのに。
「れーむー!!」
……この外から聞こえた元気いっぱいな声の主は、魔理沙。
「とーちゃーく!」
ズシューッ
とホウキで縁側に突っ込んできた魔理沙は、畳に降り立つと同時に彼女の帽子や服など至る所に積もっていた雪を掃う。
……あぁ、畳が濡れる。
「こら、雪を掃う順番をもっと早めなさいよ」
「ん、なんか問題だったか?」
「……畳が濡れちゃうでしょ」
「あ、確かに でもまあいいや」
いやいやよくないんだけど。
「そんなことより、ほら霊夢」
「わわっ」
突如魔理沙からひょいっと飛んできた何かを私はギリギリキャッチ。
飛んできたのはよく配管工の兄弟が食べてるタイプのキノコ。
「なに?このキノコ」
「私から霊夢へのプレゼントだぜ」
「え……」
魔理沙からも、プレゼントがきた。
「いや~妖夢曰く今日は日頃世話になってる奴にプレゼントをあげる日らしくてな こりゃ霊夢にあげるしかないって思ってさ そんで――」
また負けてしまった。
こうなるともう私は魔理沙にプレゼントをあげられない。
うぬぬ、魔理沙には特に私からプレゼントをあげたかったのに。
……はぁ、まあいいや、もうかなり嬉しいし幸せだし。
「――ちょうどキノコが……って霊夢聞いてる?」
「魔理沙、ありがとう とっても嬉しい」
「へ? あ……いや、霊夢が嬉しいなら……よかったぜ」
礼を言われてなんか照れてそうな魔理沙。
へへ、私にプレゼントをくれた罰よ。
もっと照れちゃえ、なんてね。
「にしても魔理沙 キノコ手渡しがプレゼントって異色すぎない?」
「そこは気にするなって、霊夢からプレゼントを貰わないよう急いでたし」
「いや……それも、そっか」
「そのキノコ、醤油にでもつけて食べるとヤバい美味いぞ」
「……まあ、うん、ふふっ、楽しみ♪」
「にゃーん」
美味しいキノコの妄想をしてたらクロが私の足に体を擦り合わせてきた。
「ん、猫だと」
「ああ、そうそうさっき拾ったの クロっていうのよ」
「にゃ~」
「ほぉ、クロねぇ」
まあ流れでクロを魔理沙に紹介し、
「てか魔理沙も一緒にキノコ食べようよ」
「え、でもそれ霊夢へのプレゼントだし」
「いいからいいから」
そしてさらに流れで魔理沙とキノコを食べる事にした。
「せっかくだし泊まってけば?」
「お、じゃあお言葉に甘えて泊まるかな」
ついでに、今夜はクロと魔理沙と一緒に過ごす事にもした。
きっと賑やかになるんだろうな。
やっぱりというか何と言うか、その夜はとても賑やかだった。
夕食で再び発生したマグロ三昧、風呂場で発生した背中洗いっこ(もちろんクロも傷に注意しながら洗った)、そして布団に入ってから発生した雑談タイム...
で、雑談も終わり私の左にはクロ、右には魔理沙、どちらも既に夢の中。
「にゃ...」
クロは猫らしく丸まって寝ている。
実に猫である。
体に触れると微かにビクッとするところがまたかわいかったり。
そういえば、早い事に足の怪我が既に完治してるみたい。
よかったよかった。
「Zzz...」
魔理沙は私に手を……というか私を抱きまくらのように抱いて寝ている。
それでいて、時々むにゃむにゃ寝言を呟くもんだから……もうね、やっぱ魔理沙よね。
そんな一人と一匹の温かさが布団を通じて伝わってくる。
これだけ温かいと、私もすぐに、寝ちゃいそうね...
翌日、12月25日。
目覚めると、クロの姿がどこにもなかった。
魔理沙と一緒に博麗神社の隅々まで探したが、クロは居なかった。
変わりに、開けっぱなしの玄関や、水浸しで洗剤まみれのお風呂場、さらになぜか電源が入っていた炬燵などを発見。
おまけに炬燵の上には、手紙と紙袋が置いてあった。
手紙は紙袋の下に添えられる形で置いてあり、
『↓
お姉さんへ
ありがとうございました
とんでもなく優しくしてく
ださり、あたいとても嬉し
いんだ
はじめは怯えていたけど、
じょじょに慣れました
もう分かると思うけれど、上の紙袋はお世話になったお礼のプレゼントだよ いや、お返しかも クロ』
こんな文章が記してあった。
「……なんだ あの猫、文章下手くそだけど字が書けるんだな」
「……そうね、プレゼントだなんて クロにまで負かされるとはね……」
「負かされたのか?」
「魔理沙にもね」
「は?」
クロは、自分が居るべき場所へ帰っていった、と私は思う。
そう思う根拠は?
って聞かれるとちょっと対応に困るけど、私の勘が言っているから間違いない。
にしても、一緒に過ごしたの一日だけだったのにしっかりプレゼントをくれるなんて、やっぱりクロの奴、私達の言葉分かってたのね。
……プレゼントは嬉しいけど、せめて顔ぐらい見せてから帰りなさいよ。
「――なあ霊夢、紙袋開けないのか?」
「――今、開けるわ」
紙袋の中にはクロからのプレゼント、というかお返し、というか汚れ一つ見つからない綺麗な博麗印の包帯が入っていた。
「……こんなに寒いのに」
「ん?」
「いや、なんでもない……さて、おみくじを作らなきゃ」
「なんだと? クロはどうするんだ?」
「クロはもう平気だよ」
「そうなのか?」
「そ、だから私はおみくじを作る」
「……? あ、待てよ私も手伝うぜ!」
いや、そりゃちょっとは寂しいに決まってるじゃない。
でもクロにはクロの居場所がある。
その居場所こそが、クロが居るべき場所なの。
もともと足を怪我してたから治療してあげただけで、それ以上でもそれ以下の関係でもないし。
足が治れば私の元を出ていくのは当然よ。
……
ま、クロの話はこれでおしまい。
プレゼントやクロで忘れてたけど、正月に向けての準備を再開しなくちゃね。
愛されいむ良かったです
何故死にかけてたのかが少し疑問ですが面白かったです。
あとキャラがそれぞれみんな可愛かった
まじめに丁寧に書かれたのだろうなあ、とおもう。いい感じ。
地の前だとは思うので、再会したときの妄想が捗ります