庭に置かれた白いテーブルに、余白の多い本。
私はその前に腰掛け、くるくるとペンを回す。
今日は日差しも温かく、ここならレミィにも邪魔はされまいと思ったのだが、照りつける光と自らの才のなさに、私は早くも目を回し始めていた。
「ふぅ」
大きくため息をつき、音を立てて本を閉じる。
「読むのは簡単だけど、書くとなると、なかなか、上手くいかないものね」
独りごちて本の上にペンを置く。ペン先が太陽の光を受けて、きらりと輝く。
その輝きが私の文章にも宿れば良いのに。そう思うと一層ため息が深くなる。
「あれ、パチュリー様。庭に出ているなんて珍しいですね」
と、声を掛けてきたのは門番の紅美鈴。
本を開いている時でなくて良かった、と心の中で胸をなで下ろす。
「あら、私に構ってる暇があったら、ちゃんと仕事をしたらどうかしら」
「やだなあ。こんな暖かい日に態々悪魔の館に来る客なんていませんよ。それより……」
門番の目が鋭く光る。獲物を狩る、虎の目だ。
その額の星に書かれた文字と逆ではないか。
「なにか、物書きをなさってるようでしたので――」
ぞくり。そんな音を立てて空気が震えた。いや、震えたのは私の身体か。
思わず両手で本に体重をかける。
「ははーん。ちょっと見せて下さいよ。私、これでもよく物書きとかするんですよ。ほら、門番してる時とか暇だし」
真面目に仕事をしろと突っ込みたい。しかし、そのような余裕はなかった。
肉食獣の目が近づく、しなやかな手が伸びる。今まさに、私は虎に狩られる兎であった。
取っ組み合いになれば、間違いなく敵わない。
本を抱き、全速で走って逃げても間に合わないだろう。
そして、走って逃げれば私の命が危ない。喘息で。
ええい、ままよ!
意を決し、立ち上がる!
懐から素早くカードを取り出し、掲げる!
恥を晒すくらいなら、燃やしてしまえ!
「日符『ロイヤル――』」
「はい、どうもですー」
テーブルの上に放置された本は、門番の手にあっさりと渡った。南無三。
「ええと、どれどれ――」
◆◆◆◆
「パチュリー。あなたが好き。食べてしまいたいくらい」
レミィはそう言うと、私にそっとキスをした。雛を慈しむ母鳥の羽のように柔らかく、優しく、そして暖かい。その暖かさは、口唇から私の身体に染み渡り、心を身体ごと溶かしてしまいそうで――
◆◆◆◆
門番が高らかに朗読する。静かな庭に恥ずかしい台詞がこだまする。
発動しかけのロイヤルフレアが顔の温度を上げ、目から耳から火を吹く。
「ふんふん。なるほどー」
ひと通り読み終わると、門番は本を置いて、テーブルに腰掛けた。
立ったまま硬直していた私も、へなへなと腰を下ろす。
「パチュリー様。これ自分で読んでみて、どう思いました?」
「え、それはその……なんというか、書きたいことだけ書いてるというか、山も落ちもないなあと……」
とりあえずは内容への言及がないことに安心しつつも、思いがけない問いに言葉が上手くまとまらない。
最後は消え入りそうな声になりながら答える。
「うんうん。それが分かってるなら、パチュリー様はいずれきっと、素敵なお話を書くことができますよ。世の中には、自分の書いたものを読み返しもしないで、上手く書けない、評価されない、って嘆いてる人も多いですからねぇ」
今度は別の意味で照れてしまう。
久しぶりに太陽に照らされてみたらこれだ。
「そ、そうなの?」
「ええ、ええ。さすがにパチュリー様は本を沢山読まれているだけあって、ある程度の文章を書けていると思います。でも――」
一呼吸。
「読む人のことをあまり考えていないですねえ」
そう指摘する。
図星だ。私は、自分が自分が妄想したこと、何が書きたいかということしか考えていなかった。
「やっぱりそうなんですね。パチュリー様、人を見るときってどこから見ます?」
「え、何よ唐突に……。まずは、顔かしら」
腕を組み、ウンウンと頷く門番。
「そう、顔です。言い方は悪いですが、顔がその人の印象の8割ほどを決めるそうです。文章もそれは同じで、始めに目に入る部分、書き出しが悪いと、ああ駄目だ、とそっぽを向かれてしまいます。次に目に入るのはどこですか?」
「そうね、その人の身につけているものかしら。服とか、装飾品とか……」
「そう! さすがはパチュリー様。それが文章で言うところの、文体だとか、文章の質といわれる部分です。まずは整っていないと良い印象を与えません。読み返しての推敲・改稿は当然のことですが、飾りすぎてもいけませんし、あまりに前衛的でもいけません。流行り廃りもあります。まあ、ここは、書こうと思ったことがある人なら、ある程度の水準には達してることが多いので、そこまで気にしなくていいと思います。ただ、これはと思うくらい好きな文章や作家があったら、暗誦できるくらい朗読したり、書き下したりしてみた方が良いですね」
人差し指を立てて、したり顔で話す。
だんだん腹が立ってこなくもないが、役に立つ話をしそうなので大人しく聴く。
「で、それだけ見てようやく中身を見てもらえるというわけです。世の男の子たちの言葉を借りるなら、顔も悪くてセンスもない女の子の服なんて脱がせようとは思いませんからね」
「でも、中身を見ても、平坦ならガッカリするというわけです。なだらかな胸を見て興奮する男の子は少ないです。パチュリー様に足りないのは胸なんです!」
ガガーン!
言葉が重い岩となって頭の上に落ちてくる。
レミリアよりはずっとあるのに……、と胸を抱くようにして縮こまりながら反論する。
「む、胸がない子はどうすればいいのよ」
門番は胸を張って答える。豊かだ。
「胸がないものは仕方がありません。胸というのは自然に膨らむもので、いわゆる『物語の神』が降りてこないと中々大きくなるものではありません」
自慢かよ、おい。
「そこで!」
がたりと立ち上がり、足を踏ん張り、拳でひゅうと風を切る。
「背骨をへし折るのです!」
「は?」
私は文章を書く話をしていたはずだ。なぜ、そんな物騒な話に。
「そうです。背骨というのは、文章の中心にあるものです。それを、へし折る……。
今、なんでそんな話に? って思いましたよね?」
首肯する。
「それは今まさに私が背骨を折ったからです。まっすぐ進んで来たものを、そこで急転直下させる。これは胸だとかくびれだとか、そんなものよりも余程衝撃を与えます。逆に、そんなものがないほど急転直下の衝撃は大きく、読者には驚きと感銘を与えます。貧乳はステータスです! 希少価値なのです!」
拳で机を叩きながら力説する。
私はこめかみが動いた気がした。
庭に出たのは間違いだったかもしれない。これほど私の目を回すものが多いとは。
「……いいわ、続けて」
こめかみをほぐし、眉間を抑え、先を促す。
「はい。大事なのは、先ほど私がやってみせたように、これは意識してできることだということです。パチュリー様は映画などはご覧になったことありますか?」
「ええ、少しは」
咲夜がレミィの暇つぶしにと香霖堂で買ってくるそれを、本を読む合間に見ることが時折あった。レミィの趣味なのか、宇宙へ行くものが多かった気がする。
門番は立ち上がったまま、時折よく分からないタコ踊り、拳法の型だろうか? をしながら説明を続ける。
「実はこの背骨をへし折る技法は、映画脚本の世界では『ミッドポイントの設定』と言って、比較的一般的な技法なんです。……起承転結ってきいたことありますよね?」
「もちろんよ。物書きをしない人でも知ってると思うわ」
「はい。元は漢詩の絶句の構成を指した言葉ですが、今では物語の基本構成として有名ですね。
説明するまでもないかもしれませんが、
『起』は、物語の導入部。
『承』は、それを発展させる部分。
『転』は、物語の核となる部分。『ヤマ』とも言われますね。
『結』は、オチの部分です」
これだけ知ってると、起では何を書こうか、「承」では? 核は何を書けばいいだろう……。オチはどうしようか。って悩むと思います。でも、大事なのはそこではないんですよ」
京の三条の糸屋の娘、姉は十六妹十四、諸国大名は弓矢で殺す、糸屋の娘は目で殺す。そんな一句が思い出される。これほどテンポとバランスの良い起承転結を作ることができたら、私も売れっ子なのに。と思ったことがある。
「なんとなく分かるわ。それぞれの場面で何を書くかは思いついても、それがうまく繋がらないのよね。なんとはなしに繋がるように工夫してるうちに、ヤマもオチもなくなってしまって……」
「そこが思考の罠なんです。本当に大事なのは、それぞれの部分のつなぎで、特に重要なのが『承』と『転』のつなぎ目、ミッドポイントなんです。そこで大きく事件を起こすと、物語が引き締まるんですよ。ただ、どこで事件を起こしても良いってわけじゃない」
「なるほど、だからミッドポイント(中間点)というのね」
「そうです。宇宙船が異星生物に襲われる2時間弱の映画があるのですが、その映画はちょうど1時間のところで、乗組員の身体から異星生物が孵化するという大事件が起こっています。
本で考えると、100ページの短編を書く時に、事件が20ページ目のところにあったら後の展開が間延びしてしまうし、80ページ目のところにあったら、後の展開が速すぎる上に途中がだらけて最後まで読んでもらえないかもしれません。
あれこれ悩むくらいなら、いっそど真ん中で事件を起きるように話を書くのが一番なのです」
「事件を考えたら、それが起きる原因や起きた結果は自然と思い付きそうだわ。それが承と転になるのね」
「あとは、事件を考える前に、導入とオチ……つまり、書きたい内容は考えておくことをオススメします。そうすると全体量が見えてきて、どこで事件を書けばいいか分かりやすくなりますからね。」
そう言って、門番は再び腰掛け、私の未完の本を開いた。
指を指し、文章をなぞりながら続ける。
「つまり、パチュリー様のこの話を完成させるためには、一番書きたい部分――レミリア様とパチュリー様が仲良くする場面ですよね? それを引き立てるための事件……。ありがちなのは、ケンカとか誤解ですかね。そういったものがあると、ぐっと良くなると思いますよ」
そう言って門番は微笑んだ。
春の陽を受けてやわらかく輝くそれは、暗がりに消えつつあった私の本に光明を与えた。
私はこの門番が初めて役に立ったと思った。
ありがとう。右手を差し出し、そう言葉に出そうと思ったのもつかの間、
その微笑みが唐突にして下卑たものに変貌した。
「それはそうと――パチュリー様。レミリア様のこと、そんなふうに見てたんですねぇ~。デュフフフフ。咲夜さんと三角関係ですかぁ。いやぁ、妄想が広がりますねえ。デュフッ、デュフフッ」
「土&金符『エメラルドメガリス』」
私は門番の背骨をへし折った。
私はその前に腰掛け、くるくるとペンを回す。
今日は日差しも温かく、ここならレミィにも邪魔はされまいと思ったのだが、照りつける光と自らの才のなさに、私は早くも目を回し始めていた。
「ふぅ」
大きくため息をつき、音を立てて本を閉じる。
「読むのは簡単だけど、書くとなると、なかなか、上手くいかないものね」
独りごちて本の上にペンを置く。ペン先が太陽の光を受けて、きらりと輝く。
その輝きが私の文章にも宿れば良いのに。そう思うと一層ため息が深くなる。
「あれ、パチュリー様。庭に出ているなんて珍しいですね」
と、声を掛けてきたのは門番の紅美鈴。
本を開いている時でなくて良かった、と心の中で胸をなで下ろす。
「あら、私に構ってる暇があったら、ちゃんと仕事をしたらどうかしら」
「やだなあ。こんな暖かい日に態々悪魔の館に来る客なんていませんよ。それより……」
門番の目が鋭く光る。獲物を狩る、虎の目だ。
その額の星に書かれた文字と逆ではないか。
「なにか、物書きをなさってるようでしたので――」
ぞくり。そんな音を立てて空気が震えた。いや、震えたのは私の身体か。
思わず両手で本に体重をかける。
「ははーん。ちょっと見せて下さいよ。私、これでもよく物書きとかするんですよ。ほら、門番してる時とか暇だし」
真面目に仕事をしろと突っ込みたい。しかし、そのような余裕はなかった。
肉食獣の目が近づく、しなやかな手が伸びる。今まさに、私は虎に狩られる兎であった。
取っ組み合いになれば、間違いなく敵わない。
本を抱き、全速で走って逃げても間に合わないだろう。
そして、走って逃げれば私の命が危ない。喘息で。
ええい、ままよ!
意を決し、立ち上がる!
懐から素早くカードを取り出し、掲げる!
恥を晒すくらいなら、燃やしてしまえ!
「日符『ロイヤル――』」
「はい、どうもですー」
テーブルの上に放置された本は、門番の手にあっさりと渡った。南無三。
「ええと、どれどれ――」
◆◆◆◆
「パチュリー。あなたが好き。食べてしまいたいくらい」
レミィはそう言うと、私にそっとキスをした。雛を慈しむ母鳥の羽のように柔らかく、優しく、そして暖かい。その暖かさは、口唇から私の身体に染み渡り、心を身体ごと溶かしてしまいそうで――
◆◆◆◆
門番が高らかに朗読する。静かな庭に恥ずかしい台詞がこだまする。
発動しかけのロイヤルフレアが顔の温度を上げ、目から耳から火を吹く。
「ふんふん。なるほどー」
ひと通り読み終わると、門番は本を置いて、テーブルに腰掛けた。
立ったまま硬直していた私も、へなへなと腰を下ろす。
「パチュリー様。これ自分で読んでみて、どう思いました?」
「え、それはその……なんというか、書きたいことだけ書いてるというか、山も落ちもないなあと……」
とりあえずは内容への言及がないことに安心しつつも、思いがけない問いに言葉が上手くまとまらない。
最後は消え入りそうな声になりながら答える。
「うんうん。それが分かってるなら、パチュリー様はいずれきっと、素敵なお話を書くことができますよ。世の中には、自分の書いたものを読み返しもしないで、上手く書けない、評価されない、って嘆いてる人も多いですからねぇ」
今度は別の意味で照れてしまう。
久しぶりに太陽に照らされてみたらこれだ。
「そ、そうなの?」
「ええ、ええ。さすがにパチュリー様は本を沢山読まれているだけあって、ある程度の文章を書けていると思います。でも――」
一呼吸。
「読む人のことをあまり考えていないですねえ」
そう指摘する。
図星だ。私は、自分が自分が妄想したこと、何が書きたいかということしか考えていなかった。
「やっぱりそうなんですね。パチュリー様、人を見るときってどこから見ます?」
「え、何よ唐突に……。まずは、顔かしら」
腕を組み、ウンウンと頷く門番。
「そう、顔です。言い方は悪いですが、顔がその人の印象の8割ほどを決めるそうです。文章もそれは同じで、始めに目に入る部分、書き出しが悪いと、ああ駄目だ、とそっぽを向かれてしまいます。次に目に入るのはどこですか?」
「そうね、その人の身につけているものかしら。服とか、装飾品とか……」
「そう! さすがはパチュリー様。それが文章で言うところの、文体だとか、文章の質といわれる部分です。まずは整っていないと良い印象を与えません。読み返しての推敲・改稿は当然のことですが、飾りすぎてもいけませんし、あまりに前衛的でもいけません。流行り廃りもあります。まあ、ここは、書こうと思ったことがある人なら、ある程度の水準には達してることが多いので、そこまで気にしなくていいと思います。ただ、これはと思うくらい好きな文章や作家があったら、暗誦できるくらい朗読したり、書き下したりしてみた方が良いですね」
人差し指を立てて、したり顔で話す。
だんだん腹が立ってこなくもないが、役に立つ話をしそうなので大人しく聴く。
「で、それだけ見てようやく中身を見てもらえるというわけです。世の男の子たちの言葉を借りるなら、顔も悪くてセンスもない女の子の服なんて脱がせようとは思いませんからね」
「でも、中身を見ても、平坦ならガッカリするというわけです。なだらかな胸を見て興奮する男の子は少ないです。パチュリー様に足りないのは胸なんです!」
ガガーン!
言葉が重い岩となって頭の上に落ちてくる。
レミリアよりはずっとあるのに……、と胸を抱くようにして縮こまりながら反論する。
「む、胸がない子はどうすればいいのよ」
門番は胸を張って答える。豊かだ。
「胸がないものは仕方がありません。胸というのは自然に膨らむもので、いわゆる『物語の神』が降りてこないと中々大きくなるものではありません」
自慢かよ、おい。
「そこで!」
がたりと立ち上がり、足を踏ん張り、拳でひゅうと風を切る。
「背骨をへし折るのです!」
「は?」
私は文章を書く話をしていたはずだ。なぜ、そんな物騒な話に。
「そうです。背骨というのは、文章の中心にあるものです。それを、へし折る……。
今、なんでそんな話に? って思いましたよね?」
首肯する。
「それは今まさに私が背骨を折ったからです。まっすぐ進んで来たものを、そこで急転直下させる。これは胸だとかくびれだとか、そんなものよりも余程衝撃を与えます。逆に、そんなものがないほど急転直下の衝撃は大きく、読者には驚きと感銘を与えます。貧乳はステータスです! 希少価値なのです!」
拳で机を叩きながら力説する。
私はこめかみが動いた気がした。
庭に出たのは間違いだったかもしれない。これほど私の目を回すものが多いとは。
「……いいわ、続けて」
こめかみをほぐし、眉間を抑え、先を促す。
「はい。大事なのは、先ほど私がやってみせたように、これは意識してできることだということです。パチュリー様は映画などはご覧になったことありますか?」
「ええ、少しは」
咲夜がレミィの暇つぶしにと香霖堂で買ってくるそれを、本を読む合間に見ることが時折あった。レミィの趣味なのか、宇宙へ行くものが多かった気がする。
門番は立ち上がったまま、時折よく分からないタコ踊り、拳法の型だろうか? をしながら説明を続ける。
「実はこの背骨をへし折る技法は、映画脚本の世界では『ミッドポイントの設定』と言って、比較的一般的な技法なんです。……起承転結ってきいたことありますよね?」
「もちろんよ。物書きをしない人でも知ってると思うわ」
「はい。元は漢詩の絶句の構成を指した言葉ですが、今では物語の基本構成として有名ですね。
説明するまでもないかもしれませんが、
『起』は、物語の導入部。
『承』は、それを発展させる部分。
『転』は、物語の核となる部分。『ヤマ』とも言われますね。
『結』は、オチの部分です」
これだけ知ってると、起では何を書こうか、「承」では? 核は何を書けばいいだろう……。オチはどうしようか。って悩むと思います。でも、大事なのはそこではないんですよ」
京の三条の糸屋の娘、姉は十六妹十四、諸国大名は弓矢で殺す、糸屋の娘は目で殺す。そんな一句が思い出される。これほどテンポとバランスの良い起承転結を作ることができたら、私も売れっ子なのに。と思ったことがある。
「なんとなく分かるわ。それぞれの場面で何を書くかは思いついても、それがうまく繋がらないのよね。なんとはなしに繋がるように工夫してるうちに、ヤマもオチもなくなってしまって……」
「そこが思考の罠なんです。本当に大事なのは、それぞれの部分のつなぎで、特に重要なのが『承』と『転』のつなぎ目、ミッドポイントなんです。そこで大きく事件を起こすと、物語が引き締まるんですよ。ただ、どこで事件を起こしても良いってわけじゃない」
「なるほど、だからミッドポイント(中間点)というのね」
「そうです。宇宙船が異星生物に襲われる2時間弱の映画があるのですが、その映画はちょうど1時間のところで、乗組員の身体から異星生物が孵化するという大事件が起こっています。
本で考えると、100ページの短編を書く時に、事件が20ページ目のところにあったら後の展開が間延びしてしまうし、80ページ目のところにあったら、後の展開が速すぎる上に途中がだらけて最後まで読んでもらえないかもしれません。
あれこれ悩むくらいなら、いっそど真ん中で事件を起きるように話を書くのが一番なのです」
「事件を考えたら、それが起きる原因や起きた結果は自然と思い付きそうだわ。それが承と転になるのね」
「あとは、事件を考える前に、導入とオチ……つまり、書きたい内容は考えておくことをオススメします。そうすると全体量が見えてきて、どこで事件を書けばいいか分かりやすくなりますからね。」
そう言って、門番は再び腰掛け、私の未完の本を開いた。
指を指し、文章をなぞりながら続ける。
「つまり、パチュリー様のこの話を完成させるためには、一番書きたい部分――レミリア様とパチュリー様が仲良くする場面ですよね? それを引き立てるための事件……。ありがちなのは、ケンカとか誤解ですかね。そういったものがあると、ぐっと良くなると思いますよ」
そう言って門番は微笑んだ。
春の陽を受けてやわらかく輝くそれは、暗がりに消えつつあった私の本に光明を与えた。
私はこの門番が初めて役に立ったと思った。
ありがとう。右手を差し出し、そう言葉に出そうと思ったのもつかの間、
その微笑みが唐突にして下卑たものに変貌した。
「それはそうと――パチュリー様。レミリア様のこと、そんなふうに見てたんですねぇ~。デュフフフフ。咲夜さんと三角関係ですかぁ。いやぁ、妄想が広がりますねえ。デュフッ、デュフフッ」
「土&金符『エメラルドメガリス』」
私は門番の背骨をへし折った。
オチがタイトルの時点で予測出来たかな?
説明の割合が多くて東方でやる必要ないかも……と、一瞬思いました
が、あとがき読んでなるほどと感じました
こうゆー論説タイプのお話嫌いじゃないです
美鈴がひどい目に遭うオチもこういう形なら許せるかなw
確かにバストサイズが小さくても、さらに身長低くてウエストが細いとDカップとかになったりしますからねえ
例で言うと、某ルイズがCカップ相当とか
非常に参考になるものでした。