Coolier - 新生・東方創想話

忘暇異変録 ~for the girls of leisure

2011/03/25 20:02:59
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[はじめに]
   ・長大になってしまったので連載モノの体裁を取らせていただきます。
   ・不定期更新予定。
   ・できるだけ原作設定準拠で進めておりますが、まれに筆者の独自設定・解釈が描写されていることがあります。あらかじめご注意下さい。
   ・基本的にはバトルモノです。

   以上の点をご了承頂いた上、ぜひ読んでいってください。

    
    前回  C-2D-2 D-3









  ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
















   【 E-3 】



 守矢神社の境内を、弾丸が跳ねる。
 一面を覆う、弾と弾と弾と弾たち。それらが全て、一斉に文へと突き進んでいる。


 そんな全方位を覆う弾幕を前に、文が取った行動――それは、正面突破だった。


 しかもそれは、正面からの弾幕を回避する、という意味だけではなく、文字通り正面を突き破ることである。
 その行動に、鈴仙は思わず息を呑んだ。
 すでに場に展開されている弾幕は濃密、正面にある弾数は、一入に多数だ。よりにもよってそこへと向かってゆくのは、自殺行為にしか思えない。

 文は前に踏み出すのと同時に、愛用のカメラを構える。

 それはなんの変哲も無い普通のカメラ。だが、その機能は普通のカメラと呼べるものではない。
 文がそのカメラで正面の弾の海を撮る。
 カシャッ、という小さなファインダーの音。レンズが見る風景を、中のフィルムへと焼き付ける。
 出来上がった写真には、夥しい数の弾頭、目を見開く鈴仙の顔、そして彼女が背にしていた守矢の神社が映っている。


 カメラを下ろした視界からは――弾幕がゴッソリと消え失せていた。


 まるで弾がカメラに吸収されたかのように、写された部分の弾が掻き消える。空間ごと取り除かれたように、四角く、不自然に、弾の海が消えて無くなっていた。
 そのことに驚く暇など、鈴仙には無い。

「いい写真ですねぇ……今度使わせてもらいますよ」
 そう文が言うや否や、次の瞬間にその手に持っていたものはカメラではなく、スペルカード。


「突風!『猿田彦の先導』!!」


 そう宣誓した時にはすでに文は乱れ吹く風を見に纏い、疾風の如き疾さで鈴仙へと向かっていた。
 すでに視界はクリア。文の目に映る鈴仙までを、遮るものは何も無い。
 辺りを飛ぶ弾丸たちを置き去りに、月の兎まで駆け抜けて行く。

「なっ―――――!?」

 鈴仙はこの一連の流れの中で、そう小さく悲鳴を上げるので精一杯だった。そしてその悲鳴は、彼女が文との戦いで初めて上げた驚きの声となる。
 今回の戦闘はほぼ鈴仙の思ったように動いていた。相手の天狗がいかに強力な妖怪でも、その強さというのは所詮“物理的な強さ”に過ぎない。これが魔法使いなど相手ならまた別だが、ただの力自慢の妖怪なら話は簡単だ。

 攻撃に当たらなければいい。

 言うは易いことを、難なく行える能力を、彼女は持っている。それこそが、鈴仙の最大の特徴であり、最大の武器である。この武器をフルに使えば、天狗を手玉に取ること程度で想定外の事など起きようはずがなかった。

 だが、思わぬアイテムの出現と、それを活用する文の行動力が、その想定外の事態を招いていた。

 鈴仙の位相はズレたままだ。文の網膜に映る像と実際の鈴仙の位置は未だ異なっている。彼女の強みはまだ消えていない。
 だが今は、それでどうこうなる状況ではなかった。
 文の纏う風はもはや小さな嵐の域だ。そのままの突進となれば実像も危うい。

 言わばこれが“狂気の瞳”の弱点だった。
 “位相をズラす”と言ってもそのズレ幅はそう大きいものではない。遠くに分身を映し出すわけではないのだ。つまり、この手の乱戦系のスペルを放たれてしまうと、結局は自分の出しうる回避速度の範囲内で避けなければならない。
 だが、それを疾さ自慢の天狗と渡り合うのは無理な話だ。幻想郷最速の速度で突っ込んでくるこのスペルを、この距離で放たれてしまった時点で、被弾はほぼ確実だった。

 幸いにも文の目標は虚像の方のままだったが、慰め程度にしかならない。力任せに放たれたこのスペルのことだ。虚像・実像問わず、自分から神社本殿まで一直線上を薙ぎ払うだろう。

 至近で嵐と化した文が鈴仙へと辿り着くまで数瞬、鈴仙は位相のズレから実像が致命傷を負わないことに賭け、ガードを固める。
 分の悪い賭けだったが、それを思い返す時間的余裕などは無い。来たる衝撃に歯を喰いしばる。

 文としても、目まぐるしい速度で流れる風景の中で、この一発逆転に確かな手ごたえを感じていた。虎の子である愛用のカメラをギリギリまで取っておいた甲斐があったというものだ。
 あとはこのまま突っ込んでいくだけで――――


 そこで文は不意に……いや、やっと、彼女は思い出した。


 さっき背を預けていた木のことが頭に蘇る。
 鈴仙の能力は、彼女の像を他に結ばせることではない。彼女に向かい合った者の感覚を狂わせる、状態異常だ。


 その瞳にあてられた者は、その瞳に映る全てを、信じてはいけない。


 文の目に映る鈴仙だけではなく、弾も、木も、――も、全てはまやかしの位置取りをしている可能性がある。
 そのことを、文は風の中で思い至った。

 一瞬の逡巡が彼女の中を駆け巡る。
 もうすでに彼女の目に映る“それ”は、だいぶ大きくなってきてしまった。

 文は、咄嗟に決断を下す。

 体を反転させる。頭から突っ込んでいた体勢から、無理矢理足を前に出し、両足で何も無い空に踏み留まる。
 引き連れた風たちが、その急な転身に追いつかず、文の背中目がけて殺到した。
 鈴仙の感想通り、まるで小さな台風のようになっていた彼女は、その台風を今度は自らの背中ひとつで押しとどめていた。

 「ぐぅ…………あぁっ!」

 当然、術者への負担は生半なものでは済まず、従えていた嵐の全てをその小さな背中に受け止めた文は、おそらく数秒後の鈴仙よりもダメージを受けただろう。
 風の刃に全身を打ちつけられ、鈍器で殴られたような重い衝撃に、思わず口からは血が噴き出していた。

 その行動が、鈴仙にはまったく理解できない。
 あまりに突然のことに、彼女の判断が追いつかないでいる。

 空中で足を踏ん張り、後ろからの力にズルズルと動かされていた文が鈴仙のすぐ前、二、三メートルほどの所で完全に停止する。ほとんど緩やかになった風が、ふわりと吹きぬけて鈴仙の髪を揺らす。
 絶体のピンチ切り抜けた体は、思考の出す答えなど待たずに動き出していた。


 「げ、幻爆!!『近眼花火(マインドスターマイン)』!!」


 文が目の前で完全に止まる。纏っていた台風はすでに雲散霧消している。
 ぐったりと力の抜けた彼女に、何の抵抗も無く、弾丸は届いた。

 放たれた魔力弾は数発。すぐ目の前の的に届くのは数瞬。
 着弾と同時に、全てが破裂した。
 紅い光を振りまき、小さな爆発が文を取り巻く。鈴仙が放つ全方位の爆撃が、文もろとも周囲数メートルを覆い――スペルによる爆煙はすぐに晴れる。


 晴れた煙の中からは、宙に浮かぶ文の姿が現れた。
 ゆっくりと空を仰ぐように傾いてゆく。そして、力なく地面へと落下していった。
 ドサッ、という重い音が耳に響く。
 背丈ほどしか浮いていなかったとはいえ、背中から地面に叩きつけられた文は、気を失っているのかグッタリと動かなかった。


 「――はっ、は、はぁ……あ、はぁ…………なんで……」
 乱れた息を整えながら、鈴仙も地に足を着いた。
 心臓が早鐘のように鳴る。ここまで止まっていたんじゃないかと思うくらい、その鼓動は大きく響いている。
 全てが一瞬だったが、息を吐くのも忘れるほどの、目まぐるしい一瞬だった。動悸のように喚く心臓の動きが、なんとか自分の無事を伝えている。
 鈴仙は茫然としながら、目の前に転がっている文を見下ろした。
 酸素が脳に届く。思考がまた動き出す。


 苦々しく歯軋りをして、彼女は文へと銃口を突きつけた。


 「答えなさい!!なんであんな――なんのつもり!?」

 自身も肩で息をしていることなど構わず、搾り出すように叫んだ。
 狂気を映す紅い双眸が、動かない敵を睨みつける。銃把が小刻みに震えていることなど、彼女は気づけていない。
 眼下に転がる文は、何も答えない。
 その姿が返事を拒否しているようにも見えて、鈴仙はことさらに感情的な瞳で彼女を睨む。そうしていても天狗は何も返さないということもまるで今の彼女は分かっていないかのように、人差し指を突きつけ続けていた。


「……みっともない真似はやめなさいな」


 ジャリッという音が横合いから聞こえた。神社に敷かれている石畳と、砂利の擦れる音。誰かの足が、そこにあるという証明。
 それと同時に、真横あたりから不意に響く、それまでいなかったはずの者の声。
 いつからいたのかすら鈴仙には解らない。
 石畳を歩き、静かにこちらへと向かってくる少女がいた。


「レミリア……スカーレット。……いつから、そこにいたの?」
「ついさっきよ。そこのカラスが追い詰められたあたりから」

 相変わらずの尊大な態度のままレミリアは答えた。
 普通なら、このどうみても少女な体格でふんぞり返っていれば、その不一致さから背伸びした可愛らしさを感じられるかもしれないが、彼女は不思議とその態度が堂に入っており、ある種のオーラを纏っていた。

「とにかく、もう勝負は決まってるわ。あなたの勝ちでオメデトー、よ」
 手をヒラヒラさせながら、面白くもなさそうに賛辞を送る。

「ってことで、そこの天狗を五体満足な内に連れて帰りたいんだけど?とりあえずここ三日は私の手下なのよ、そいつ」
 レミリアは真っ直ぐに鈴仙の目を見据えながらゆっくりと語った。
 その口調には反論を許さない雰囲気がある。体格には収まらない風格が、彼女を実像より大きく見せる。

「ちょ……ちょっと待って!!私はまだ聞きたいことが――――」
 レミリアの高圧的な雰囲気になんとか反抗した鈴仙がそう言葉を振り絞った時――――


「いやぁ~なかなか忠義者じゃない。泣かせるわねぇこのカラスさんは」
 すぐ後ろから、声がした。


「きゃっ!――ちょ!ゆ、幽々子さん!?いつの間に!?」
「それはもちろん。ついさっきからよ~」

 鈴仙の反応を見て、幽々子はケラケラと笑っていた。早苗の時といい、どうやらこの幽霊は背後から驚かせずにはいられない性質らしい。鈴仙の顔の高さに浮きながら、楽しそうに笑っている。
「気配を消して近づかないで下さ……い――って、」
目の前の亡霊に文句を言うのもそこそこに、


「それより……さっきなんて……?」


 どうにか幽々子の言葉を拾い上げた。
 何気なく言われたが、聞き逃さない。普段から、そう滅多に聞く単語ではない。

「ん~?なんか言ったかしら?」
「言ったじゃないですか!!忠義者とかなんとか!!さっきのコイツの行動の訳を知ってるんですか!?」
「そんなの知らないわよ~?だって私はそこの天狗じゃないし」
 幽々子は飄々とした態度のまま答えにならない答えを述べている。くすくすという柔らかい微笑みのまま、フワフワと漂うようにそこにいるだけだ。
 
 ――師匠といい、姫といい、この幽霊といい……なんで実力者たちはこうまどろっこしい言い方をするのかしら!?
 歯噛みし、不満をそのままぶつけるような視線を返す。
 こういう時くらい、聞かれたことを解りやすく伝える努力くらいはしてほしいものだ。疑問符を浮かべたままの自分の身にもなってもらいたい、彼女は心底そう思った。

 そんな彼女の苛立ちを汲むかのように、溜め息混じりの声が聞こえた。


「……あなたが背にしていた方には、なにがあったかしら?」
 レミリアが鈴仙へと問いかけた。


 その声に、鈴仙は眼下に横たわる文へと視線を下ろす。
 自分の背後――つまりこの天狗が見ていた風景。彼女の身になったつもりで、鈴仙はそのまま文に背を向けた。
 改めて景色を俯瞰に捉える。
 視界に入るのは先ほど驚かせにかかった幽霊、鬱蒼と立ち並ぶ木々、

 そして――守矢の神社。


「……え?いや、ちょっと待って。……これ?これが原因?」

 視界に映る神社は、暗い闇のなか、荘厳に佇んでいる。
 すぐ目の前の境内で派手に戦ってはいが、その建物には傷一つ付いてはおらず、その姿は戦闘が始まる前と、まるで同じままだ。

 ――さっきのスペルで、神社を巻き込むことを恐れた…………?

 だとすれば、確かに辻褄が合わないこともない。
 なぜ勝てたかもしれないチャンスを潰してまで急ブレーキをかけたのかも、そもそもあんな大技を持っていたにもかかわらず、なぜ最後まで使わなかったのかも、全ては神社を巻き込まないようにするためだとすれば――かなり苦しいが、合点はいく。


 自らが風の塊になって突撃した時、彼女は思い至ったのだろう。
 “この目に映る神社の位置も、虚像かもしれない”ということに。
 これほど大きな物質では、虚像を結んだとしても、そう大きな誤差は出せない。だが、それは術者側の理屈である。現に視界を誤魔化されていた文からすれば、正確なことは解らないままだったのだ。

 もしかしたら、実像は全然平気だったかもしれない。でも、あまり場所の変化までは無いかもしれない。
 それをスペルを使ってから、逡巡してしまった。
 そして結局、彼女の取った選択は…………

 でも…………なんでそこまで?

 そう、後は、“彼女を駆り立てた理由”である。
 普通に考えて、彼女がそこまでするとは思えない。いや、普通そこまではできない。
 山の神と山の妖の間に起きた一悶着が解決して、現在は上手く折り合いをつけて暮らしている――らしいということは、鈴仙も知っていた。
 だが、山の妖怪が自身を投げ打ってまで神社を守るほど忠誠を誓っているという話は聞いたことがない。

 忠誠……そう、忠誠だ。
 彼女は自分の頭の中に浮かんだ単語に、ひとりで合いの手を打つ。
 それを奉るほどの相手でないと、この行動は取れない。

 ――少なくとも、私はそうだ。私は、月の都にはそれを感じられなくて、それで――――


「……いまいち釈然としないようね?」
 レミリアの声で、鈴仙は茫然としていた意識から我に帰る。
 どうもしばらくの間言葉を失っていたようで、声の主のレミリアは文を肩に担いでいるところだった。

「一応言っておくけど……私もそこの亡霊と同じく、何も知らないわ。今あなたが見たものを見て、同じように感じただけ。本当のところは、このカラスしかわからないわ」
 レミリアはそう言って文を軽く揺すった。グッタリと垂れる四肢は、それくらいでは目を覚まさなかった。

「……ひとつ聞かせて下さい。天狗は……そこまで山の神に忠誠を誓っていたんでしょうか?」
「は?忠誠?……ふーん。あなたはそういう人だったのね。まぁ私はそういうの嫌いじゃないけど」
 レミリアはわずかにだけ鈴仙に視線を送り、呟くようにして応えていた。

「でも、きっとコイツはそんなキャラじゃないわよ?知らないけど」
「じゃあなんで――」

そこで吸血鬼の少女は、初めて小さく、微笑んだ。


「さぁ?“サボってお茶飲む所が無くなっちゃ困る”くらいの理由じゃない?」


 笑顔で放たれた言葉に、衝撃が奔る。
 それは鈍器で頭を殴られたみたいな鈍い衝撃。重く響き、鈴仙の体をそのまま丸ごと揺らしているようだった。

「それは命を懸けるに足る理由ね~」
「幽霊のアナタにそんなこと言われてもねぇ」
 そんなことを幽々子と言い合いながら、レミリアは文を近くの木陰へと運んでいく。
 鈴仙はその間、何も言えずにその場に立ちすくんでいた。


 “そんなことを守るために命を懸ける”――月の兎には考えられないこと。
 そして、自分にも考えられなかったであろうこと。


「――――ぷ、ははっ、あははははははっ!!」
 鈴仙は思わず吹き出してしまっていた。
 あまりに突然笑い出すものだから、レミリアと幽々子が目を丸くして彼女を見ている。

「あはははは……あースイマセン。可笑しくって、つい。……いやぁ地上の妖怪は本当にバカねぇー」
 鈴仙はその紅い瞳に涙を湛えるほど笑っていた。
 レミリアも幽々子も何も言わず、黙って彼女を見る。
「でも――――」
 そこでどうにか一息つき、言葉を繋いだ。


「それは確かに、命を懸けるのに値するわ」


 本当に、心の底からそう思えていた。
 今、ここで気づいた。私はどうやら“元”月の兎で、今の私は“幻想郷の妖怪兎”だったみたい。

 忠心、忠誠、それを組織や、不特定の誰かに感じるのは、別に悪いことではない。
 ――だけど、それのために身を粉にするという生き方は、自分には合わなかったみたい。月の兎のように、忠義のために死ぬなんてことは、どうもダメだ。命を懸ける理由なんて……もっとちっぽけでもいいのよね。

 他の目にはちっぽけに映る、体を張る価値。
 ――私は、私の大好きな人たちのためにだけ、この命を懸けたいんだ。彼女たちが悲しむようなことは、絶対にさせない。

 この天狗も、それに基づいて動いた結果、こうなったにすぎない。
 ――いや、まぁ確かにやったのは私だけどね。でもきっと、後悔とかはしてないんじゃないかな。…………知らないけど、ね。

 予期せず教えられた、自分のこと。彼女は思わず笑みを零した。
 レミリアと幽々子もつられるように、小さく微笑んでいた。


 そこに、空から声が降りてくる。


「あーいたいた。お嬢様~」
 タイミング良く美鈴たちが現れた。途中で落ち合ったのだろう妹紅も一緒である。

「あら美鈴、無事……ではないみたいだけど、とりあえず全員生きてるみたいね」
 傷だらけの美鈴や衣玖を見て、レミリアは言った。
「おかげ様で。お嬢様は……ドロドロですね」
 背中に担いだルーミアを揺らさないように、ゆっくりと着地する。他の三人も続々とそこに萃まった。

「そこの幽霊とやりあってね。汚れちゃった。洗濯だけしに咲夜帰ってきてくれないかしらねぇ」
「……天狗はまた随分こっぴどくやられたね」
 レミリアに担がれてグッタリとしている文を見ながら、妹紅は口を開いた。

「えぇ。さすが罰ゲームね。私が当たらなくて良かったわぁ。メンドくさいことになるとこだった」
 しみじみとレミリアも言った。


 そこで鈴仙の長い耳がピクンと動く。


「今……ちょっと聞き捨てならない単語が聞こえたんですけど……?」
「あ、ウドンゲじゃないか。いたの?」
「いましたっ!!さっきからずっと!!それよりなんですかさっきの罰ゲームって!!」
 鈴仙は飾り物の耳を逆立てながら、妹紅に食ってかかっていた。


「なにって……言葉のまんまさ。山を登る道すがらオマエの相手だけ決めたんだよ。誰もやりたがらないからさ、ジャンケンで。そんで負けて、当たりクジを押し付けられたのがそこの天狗さんだった、と」
 何気ない調子でありのままの事実を説明してやる。
 鈴仙を再び衝撃が襲った。鈍器のような痛みはそのままだが、今度の衝撃は頭を揺らし、足にきた。


「そんなぁ……道理でなんか歯切れの悪い始まりだなぁと思ったら…………」
 いや、そりゃ戦って気持ちのいい能力じゃないけど……そんなに嫌わないでも……うぅぅ…………。

「良かったじゃない。アナタは当たりクジだったらしいわよ?」
 ガックリと肩を落とす鈴仙に、すぐそばの幽々子が笑って言った。

「幽々子さん……話聞いてました?あんなの嫌味じゃないですかぁ」
「失礼ねぇ、ちゃんと聞いてたわ。アナタの相手は一人しか選ばれなかったんでしょ?じゃあ確率的にはアナタが当たりでいいんじゃない。まぁ、当たりだからっていいことがあるとは限らない、っていう良い例ね~」
「フォローになってないっ!」


 ついさっき。
 本当についさっきまでの緊張感はウソのように、少女たちは暢気に騒いでいた。
 楽園の妖怪たちの切り替えは早い。そういう意味でも、鈴仙も間違いなく幻想郷の妖怪の一員であった。
 そこにいる少女たちの明るい笑い声が、薄暗い神社に響いていた。


「そういえばウチのチームの人間があと二人足りないわね」
 レミリアが、ふと気づいたように言った。

「あぁ、それなら二人して奥の湖で神様と戦ってるみたいですよ?」
 そう鈴仙が返したところで、彼女も気づいた。

「そういえば、ウチのチームの面々は全然いないわねぇ~」
 鈴仙と同じことを思った幽々子が、辺りを見渡す。

「麓の人達に致命傷の人はいないと思いますから、ボチボチ帰ってくるんじゃないですか?」
 麓にいた面々を思い出しながら、美鈴が返す。

「……そういえば、秋神様のかたっぽってどうしたんだろう……」
 霊夢に邪険にされたっきり、気づけば姿を見ていなかった神様を、橙は思った。

「私が相手した天人なら中腹くらいで寝てると思うよ。ダメージ結構加えちゃったかもしれないから、迎えに行ったほうがいいかもね」
 本拠地であるはずの神社にいない天人を案じて、妹紅がだいたいの場所を口で説明する。

「ふーん……じゃああと行方知れずは霊夢とアリスね~」
「巫女なら麓でやり合いましたよ。先に登って行ったんで、もう着いててもおかしくはないんですが」
 幽々子の声に、衣玖が返事をする。

「じゃあ結局二人ともどこにいるかわからない状況ですね。何してるんだか」
 鈴仙が溜め息とともにそう呟く。
 こうして一通り、話せる状態の者が口を開き、会話がなんとなく締まる。
 その間に滑り込むように、レミリアが空を見上げ、呟いた。


「とりあえず、日も昇ってきちゃったし……さっさと帰りたいわねぇ」


 見上げた空は、東から徐々に明るくなってきていた。











   to be next resource ...
いやぁ……地味というか……わかりにくいというか……。ワケわからんくなってたらゴメンなさい……。
ちょっと後に繋げたかったのでこんな展開にしてみました。
結構無茶、っていうか性急でしたね。ぐぅ。

どうにかやっと、次で一日目のラスト。
一応主人公・魔理沙パートです。せめてここはちょっとでも熱く書けたらいいな。
皆様のご指摘、心よりお待ちしております。次回以降の糧にさせていただきます。
土日に上げられたらいいなー。みなさまも良い週末を。
ケンロク
[email protected]
http://gurasan.kurofuku.com/
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コメント



0.690簡易評価
5.60名前が無い程度の能力削除
幻想郷の彼女たちの空気というか、凄まじい戦闘をしながらも結局は暢気というか
そういった雰囲気が出てたのがよかったと思います。
9.無評価ケンロク削除
ありがとうございます。
それを感じてもらえただけで嬉しいです……。
10.70愚迂多良童子削除
文負けちゃったかぁ。絶対勝つと思ったんだけどなあ。
復帰可能ということなので、文のリベンジがあったら期待したいところ。
12.無評価ケンロク削除
文の逆転パターンでヒキだったので、普通勝つトコですよねぇ。
次の出番をお待ち下さい。