第1章
楽園の祭事
「早苗ーーっ!! 遊びに来たよーー!!」
神社の敷地内に明るい能天気な声がこだましていた。
比那名居天子は広々とした境内の石畳にスタンと降り立つ。
妖怪の山の守矢神社。
ここの所、ほぼ毎日天子は守矢神社に顔を見せる様になっていた。
ここの巫女の東風谷早苗のことは前から知っていたが、かなり親密に話すようになったのはつい最近のことだ。
早苗とは何故かとてもウマが合う。
神奈子や諏訪子も、おもしろい性格をしているし、外の世界の話を聞くのも楽しかった。
天子は博麗神社とは比べ物にならない程立派な境内を、我が家の様に突き進む。
風祝である早苗は、よくここの境内の掃除をしていて、天子が来ると大抵は笑顔で出迎えてくれる。
霊夢もよく境内の掃除をしている。天子はそのことについて、以前早苗に尋ねた事があった。
(神様のお住まいを常に清浄に保つのは、とっても大事な仕事なんですよ~?)
そう言う早苗の真剣な顔を、天子はぼんやりと思い出していた。
「~~~~~~」
神社の敷地の脇の、家屋の中から騒がしい声が聞こえてきた。
この家は神社と繋がっていて、早苗や二柱達の住居スペースでもある。天子が早苗と遊ぶのも、いつもココが中心となる。
天子は当然のように、縁側にずかずかと入り込んでいった。
「うおおりゃゃゃあああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!」
「ドラドラドラドラドラドラァァァァァァァ~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!」
家の中で、八坂神奈子と洩矢諏訪子が神遊びに興じていた。
二人が良くしているこの遊びはゲームの一種だと言う。
賽銭箱の様な形をした箱に神像現象が映し出され、手元の神器を操作する事でそれを自由に動かして遊ぶというものだ。一種の式神遊びの様なものらしい。天子の理解を超えた遊びだ。
「ごふっ!! ……てめやりやがったな諏訪子ぉぉぉ!!!! ええいっっ!! もう一番ぞっ!!!」
「うふふ……これで2勝2敗のイーブンだ……。おもしろくなってきたじゃないか……神奈子ぉ……」
二柱は額に青筋をたてて神遊びに興じている。
直ぐ横の縁側に立っている天子に気づく由も無い。
やはり弾幕勝負と一緒でかなりの神力を消耗するものらしい。二柱は互いにぜえぜえ言いながら遊びに興じている。
「ねー。真剣にやってるとこ悪いんだけどー。早苗いるー?」
天子は冷めた目線で、大汗掻いて白熱している二柱を見下ろした。
「ん? なんだ天子か。早苗ならいないよ」
神奈子がチラリとこちらを一瞥したが、すぐに前方の箱に獣の様な目線を移す。
天子が来るのはここのところ毎日の事なので、とくに関心も反応もなくなっているのだ。
「どっかいってるの?」
天子は半眼で神奈子を見下ろすが、ふとしたことに気がついた。なんだか家の中が、とても甘くいい匂いがするのだ。
「きょうからバレンタインだからね。信者に挨拶にまわっているよ」
神奈子は今度は一瞥もくれない。彼女の膝の下には、かわいい包みに入ったチョコレートが置かれていた。
「ふ~ん。で、どこにいるの?」
「知らないね。郷じゅう回ってるから帰りは遅くなるよ」
だから諦めて帰んなと言わんばかりの言い草で、神奈子は吐き捨てる。今はそれどころじゃないんだよオーラが駄々漏れしていた。
胡坐を掻いて、背中を丸め小さな神器を握る姿は、なんだかとても神々しくは見えなかった。
「あ、そ。わかった」
そういって天子は、ひょいと神奈子の膝元の包みからチョコを摘み上げた。ムカついたので最後に一つだけ残っていた白い方のチョコをとった。
「おい! ちょ……っ!! この!! 私の恋人返せよぉ!!! 白い恋人を~~~~!!!!!!」
「じゃあね」
「おい……!! ちょ! 待ちなこのコソ泥天人!! ドロボー天子ー!!! 罰当たりーーーっっ!!!!」
神奈子の声を背中に聞きながら天子は空に飛び上がった。
「隙アリもらったぁぁ!! ドラドラドラドラドラドラドラドラ!!!!!!!!!!!!!!」
「ぶっ!! 何やってんだよぉ諏訪子ぉぉ!!!! この卑怯モンがぁぁ~~!!! てめそれでも神かぁぁぁぁ~~~~~!!!!!」
神奈子の悲鳴が僅かに聞こえたが、それは直ぐに風の音にかき消されていった。
口に含んだチョコは甘い香りがして、とてもおいしい。
「さて、どこへ行こう?」
天子は清浄な空の空気を吸い込みながら、とりあえず人里をめざした。
眼下に広がる妖怪の山の景色を眺めながら、天子はその広大な山々の間を縫う様に飛んだ。
この辺は標高が低いのだが、目に映る景色は山また山の絶景だ。山間部には所々白い雪が被っている。
「あ、でもその前にあそこかも?」
冷たい風に頭が冴えて行くのを、天子は感じていた。天子は冬特有の強い横風に身を任せ、くるくると体を横転させながら進路を東にとった。
香霖堂は魔法の森のはずれにあるのだが、これがなかなか見つけにくい。
大体の方向はわかるのだが、上空からだと森が邪魔して正確な位置が掴みづらかった。実際天子は方向音痴で聞こえていた。
軽く三十分ほど辺りを飛んで、漸く彼女が目印にしているサイカチの木を見つけた。もっとも、これは永江衣玖に教えてもらった事なのだが。
見慣れた古ぼけた店の前に、天子はストンと降り立つ。足の裏がじーんと疼いた。
店の中に誰かが居る気配がした。
天子の感覚は妖怪や動物達ほどではないが、それなりに鋭敏に出来ている。
天子は、それが親友東風谷早苗のものであることを信じて疑わない。この自信に根拠は無いのだが、それが彼女の性格なのだ。
「早苗ーー!! 遊びにきたよーー!!」
カランカランというベルの耳障りな音の向こうに、東風谷早苗の驚いた表情があった。
「っ!? ……びっくりしたあ……。どうしてここが分かったんですか? 天子さん?」
そしてそこに居るのが本当に東風谷早苗であることが、比那名居天子の「星」なのである。そう言う星の下に彼女は生まれているのだ。
「勘よ勘。霊夢じゃ無いけどね」
天子はフフンと鼻を鳴らして髪をかきあげる。この無意識のクセを、郷の人妖達が時々マネするのを彼女は知らない。目の前でされてもおそらく知る事はない。
「……いらっしゃいとは言わないぞ。『お客さん』では無いのだからな……」
早苗の前のカウンターの向こうから、店主のじっとりとした目が覗いていた。
「どうぞお構いなくってやつよ。あ、私日本茶でいいから」
天子はそう言ってずかずかと狭い店内をすすむ。店主がため息混じりに奥の台所に入っていった。もう発言に突っ込む気もないのだ。
「郷、回ってるんだって? 大変だよねー」
「あ、はい。でもココが最後なんです。午前中に意外と早く終わっちゃいましたから」
「よかったー。じゃ遊べるね」
天子は円い木のイスを引き寄せてそれに腰掛ける。
この木のイスは天子のお気に入りのものだった。
というよりは正真正銘天子の所有物だ。代金をちゃんと支払ってココに置いているのである。
持ち帰るという事を彼女がしないのは、単にこのイスはここにあるのが一番と思ったからだ。「ここにあるこのイス」そのものを買ったのだ。
その行為を霖之助は「人間よりも妖怪に近い買い物の仕方」と評していた。
「神社に来てくれたんですね? 神奈子様には人里にいるってお伝えした筈なんですが……?」
「ああ、そう。そんな事も言ってたかな?」
天子はそう言って出された湯飲みに口を付ける。あのチョコ、もう二三個取ってきた方がよかった。
天子の目の前のカウンターテーブルに、小皿がちょこんと置かれた。見上げると霖之助の顔があった。
「まあ、ちょうどよかったよ。ホラ、これは僕からのバレンタインチョコだ」
小皿の上に一口サイズのチョコが数個載っている。
天子の目がキラキラと輝いた。
「わあ。いいの!?」
「来ない者にはあげないけどね。来る者に用意だけはしてある」
「ありがとう。霖之助。大好きよ」
天子は屈託のない笑顔を霖之助に向けている。
早苗はちょっと顔に熱が登ってくるのを感じた。幻想郷の少女達はとにかく何事もストレートだ。別に気にする必要も無いのだが、かといって早苗にマネ出来る事でもなかった。
幻想郷のバレンタインは、早苗の知る外の世界のバレンタインデーとは大きく異なっていた。
早苗がこちらにやってきた時には、既にこの風習は伝わっていた様だ。
当然驚いたのだが、何よりもユニークな事においては、外の世界のモノとは比べ物にならない。
「そういえば。そもそもバレンタインは外の世界から伝わったものだったね」
「はい。私の居た外の世界では、バレンタインはコッチと全然違うものでした。日にちも一日だけでしたし」
「え!? そうなの??」
天子が驚いているのも無理はなかった。
幻想郷でバレンタインと言えば、それは一週間にも及ぶチョコレートのお祭りを指す。
だから末尾に「デイ」という特定の日を現す表現は、ここ幻想郷ではしないのだ。
今日はその初日。「前夜祭」の段階なのである。
「そうだね。そもそもバレンタインは女性が男性に求愛する為の行事だったと、何かの本で読んだことがある」
「はい。以前までは私の認識もそうでした」
「へえ~~。そうなんだ~~~」
天子は心底驚いたように目を丸くしている。
当然元を知らなければ、そう言う反応になるだろう。幻想郷ではチョコのやり取りをするのは男女の関係は無い。男が男に渡す事もあるくらいで、早苗が大いにカルチャーショックを受けたことも無理からぬことだ。
「幻想郷ではチョコそのものを楽しむという事が先ず先にありますね。とにかく皆で大騒ぎしてチョコを食べようみたいな」
「その方が楽しいじゃん」
天子はひょいとチョコを口に放り込みながら言う。
「恋愛の行事と言っても確かにそうなんですけど、どっちかと言うと田畑の収穫祭に近い感じですよね」
「う~ん。確かにそうかもしれないな。言われてみればその通りだ」
「それは私に言わせれば、とても驚いたことの一つなんですよ。最初知った時は妙に感心しましたもん」
恐らく「相手を好きだ」という感情。その表現の方法が、幻想郷と外の世界では微妙に異なるのだ。
幻想郷の少女達は恋愛ももちろん好きだ。だが同じくらいにチョコレートも大好きなのだ。
「好き」がイコールで「恋愛」ではない。
この辺りの感覚が、幻想郷と言う世界を知る為の重要な手がかりになるだろうと、早苗には思えてならなかった。
「まあ、つまりは花より団子ってことさ。まったく色気の無い事だ。恋愛や心の交歓といったものより、食い気、飲み気が先行するからね、ここの連中は。それに比べて外の世界の人達は心が豊かだよ。うらやましい限りさ」
霖之助はそう言ってため息をついている。
「でも私は幻想郷のバレンタインは好きです。外の世界でもココまで熱くなれるお祭りはあんまりありませんから」
「騒々しいのが好きなだけさ」
霖之助はそう言って、しょうがないと言わんばかりに笑った。
早苗もクスリと微笑を洩らす。
霖之助は確かにそう思えるかもしれない。これは「幻想郷の人間の意見」だ。
彼の言う「心の交歓」や「心が豊か」と言ったものが、本当はどんなものか。二つの世界を見た早苗の目には、おぼろげながらその輪郭が見え始めていたのだった。
* * * * *
香霖堂からの帰路、早苗と天子は手を繋いで並んで飛んでいた。
繋いだ手の中だけに、温かな早苗の温もりを感じる。
この時期の上空の気温は、天人の体にすら寒気を催す程の厳しいものだ。
彼女のいる天界の空気はもっと生ぬるい。飛んでいる感覚や、生きている心地すら疑いたくなるほどの、無感情な空気なのだ。
天界の空では、この早苗の手の温もりは伝わるだろうか?
隣で飛んでいる早苗を見て、天子はぼんやりとそんな事を考えていた。
「寒いですねぇ」
早苗は気持ちよさそうに呟いた。尤もその声は風音に遮られて殆ど届いていないのだが。
「あ、あれ見て。湖の方」
天子は上空で立ち止まって指を差す。
湖の麓の赤い洋館で、沢山の旗が揺れていた。
「本祭の準備だね」
「そうですねぇ! はりきってるな~」
館の周りを妖精メイド達がせわしなく飛び回っている様子が、ここからでも良く見える。
「今日からずっと下界にいるんですよね? 天子さん」
早苗はそう言って天子の顔を覗き込んだ。
天子はちょっと返事に困った。今日からバレンタインだという事をあまり意識していなかったからだ。ぶっちゃけ、忘れていたと言ったほうがいい。
「え?……う、う~ん……。どうしよっかな……あはは……」
天子は目線を泳がせて曖昧な言葉を返す。
先ず何よりも、彼女が人にあげる為のチョコを用意しないといけない。早苗や霖之助や二柱にあげるチョコも買っていなのだから。
「よかったらウチの神社に泊まって下さいよ! 一緒にお祭りの準備もしたいですし!」
「え? ええっ!?」
思っても見ない提案に天子は驚愕した。
「え……ええ~~……??」
嬉しさと戸惑いで、表情がころころ変化していくのが自分でも分かる。
「……い、いいの?」
「モチロンです。 神奈子様も諏訪子様も何だかんだで、天人の天子さんを歓迎してるみたいだし」
「わ、わかった。わかったわ! でも……ちょっと待って!!」
天子が慌てて早苗を制すると、早苗はちょっと首を傾げた。
天子は手と首を必死にぶんぶん振って、言葉を搾り出す。
「わたし……私……!! そう、一旦家に帰って荷物取ってこないと……!! 着替えとか……寝巻きとか……ないじゃん!! うんうん!!」
「パジャマや着替えなら貸してあげますよ?」
「いいっっ!!??」
天子の目が飛び出した。
思わず、早苗の持っている外の世界の服を着ている自分を想像してしまう。
「い……うっ……ええと、お、お父さんに言わないと!! ……ホラ、一応早苗の家に居るって知らせとかないと、もしもの時に困るでしょ??」
「あ、、そうかぁ」
早苗は成る程もっともだと言わんばかりの顔をした。
天子はほっと胸を撫で下ろす。
「じゃあ私は晩御飯の仕度をしておきますね? それまでには戻ってきて下さい」
「う、うんうん! 分かった分かった……っ!!」
天子は必死に首をぶんぶん縦に振る。
先に神社へ帰っていく早苗の背中を見送りながら、天子はなんだかぼんやりとした気持ちになっていた。
しかし直ぐに、こうしちゃいられないとばかりに、そのまま来た道を引き返す。
(とりあえずは、先ずチョコを買わなくっちゃ!!)
痛いくらいに顔に風があたるが、紅潮した頬の熱はなかなか冷めなかった。
天子は人里で手当たり次第にチョコを買い漁った。
どんなものを買っていいのか分からなかったので、とりあえず自分の好きな、ごく普通のアーモンドチョコを買うことにした。
カウンターでバンと1万円札を出して、まるで強盗の様にアーモンドチョコをふん掴んで店を出る。
「衣玖ーー!! 私よーーー!!! 衣玖ーーー!!」
天界に戻った天子は衣玖の屋敷に直行した。
竜宮の使いは天人に比べれば下位の存在だが、それでも高貴な種であることに変わりは無い。
大きな屋敷の奥の厨房で、永江衣玖はエプロン姿で奮闘している所だった。
「総領姫様御機嫌よう」
衣玖は大きなボールにどっぷりと入れたチョコを湯煎しているところだった。あきらかに、今それどころでは無いオーラーを発散させている。
天界では地上の風習など見向きもされない。しかし、衣玖の準備は地上のバレンタインの本祭を意識したものである事は明白だ。
彼女もまた、天界では変り種の一人であるといえた。
「ホラ」
天子はビニール袋からガサッとアーモンドチョコを取り出して、衣玖の胸に突きつけた。
衣玖はハトが豆鉄砲を食らわされたような顔で、動きを止めた。
「え?」
衣玖はボールを抱えたまま、胸の前に突き出された箱をみている。
彼女の瞳が下を向いたまま、パチパチンと数回まばたく。
『 ケロコのあ~もんどチョコ 』
パッケージの表紙で、カエルを模したキャラクターがウインクしている。幻想郷の住民には見慣れた菓子箱だ。
「受け取ってよ。いらないの」
天子はぶりぶりと口を尖らせてチョコを突き出している。
衣玖は慌ててボールを傍らに置き、それを手に取った。
「あ……こ……え?」
「じゃあね。渡したからね」
天子はそう言うとくるりと向きを変えて、逃げるように立ち去った。
何故かこれ以上、衣玖の前に素面を晒す事はできなかったのだ。
うううぉぉぉおおおぉぉぉおおおおおおおおぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!
庭から空へ飛び上がったあと、屋敷の中から物凄いシャウトが聞こえてきた。天子の後ろで、屋敷の戸や窓がばりばりと音をたてた。
「私がガンダムだっっ!!!!!」
意味不明の叫びを背に受けながら、天子は天界のなまぬるい風を切って飛んだ。
「お父さん」
「ち……地子……こ…………これは?」
比那名居の屋敷では、総領事である父が体をぷるぷる震わせていた。
彼の胸元には先程の衣玖と同じように、ケロコのアーモンドチョコがぐいと突きつけられている。
やはりどこかむすっとした顔の天子。先程の再現をしているかのようだった。
「バレンタインのチョコ。あげる」
父が地上に居る頃は、まだバレンタインなどという風習は無かったが、彼も一応の知識としてそういったことがあるのは知っていた。
夢にまで見た娘からの贈り物、バレンタインのチョコが、目の前にあるのだ。
総領事の心臓が止まりそうになっていた。実際ちょっと止まったり、動いたりしていた。
ううおおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉおおおおおおおおおぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!
「今日から祭りが終わるまで早苗ん家に居るから」
天子はそれだけ言い残すと、逃げるように父の前から退散した。やはり父は物凄い声でシャウトしていた。屋敷の窓ガラスが一斉に砕けた。
「俺がガンダムだっっ!!!!!!」
何事かと大変な騒ぎになっている屋敷を後に、バック一つを提げて天子は天界の空に飛び上がっていた。
「あ~! ケロコのチョコだ!! わ~~い!!」
守矢神社の居間で、諏訪子が箱を手にはしゃいでいた。
天子のチョコは諏訪子にはストライクだったらしい。神奈子は昼間にチョコを取られたこともあり微妙な顔をしたが、諏訪子が喜んでいたので良しとしたようだ。
「ありがとう天子さん。わざわざ買ってきてくれたんですね!」
早苗には特別に二千円くらいの馬鹿でかいチョコを買ってあげていた。アーモンドチョコをそのままでっかくしたようなやつだ。
渡す者が天子で無ければネタ以外の何物でも無いが、彼女は大真面目だということは既に早苗達には分かっている。
「べ、別に! 前から渡そうと思って置いてあっただけだからっ!」
天子のウソは0.1秒で見破れるのだが、ありがたく受け流すのが正道だ。
早苗はお返しに、彼女に手作りのチョコを渡した。
「わぁ~~!! 何コレ?? きなこ餅みたいだね~~!」
天子は口に入れたチョコを旨そうに堪能した。
口にいれたチョコはふんわりと舌の上でトロけてしまう。今まで食べた事の無い味がした。
「生チョコっていう種類のものです。私はコレが一番好きなんですよね~」
「へぇ~~! 早苗って何でも出来るんだね! スッゴ~い!」
早苗は料理も旨いし家事も万能だ。ここまで色んな事が出来るのは、衣玖以外には見たことが無かった。
天子は新しい味に素直に驚き、喜んだ。
「喜んでもらえて私も嬉しいです」
早苗は本当にいい笑顔で笑った。その後ろで、諏訪子と神奈子がビックサイズのアーモンドチョコを、わいわい言いながらひっくり返している。どうやら何かおまけが入っていたらしかった。
初日の前夜祭が終わり、二日目、三日目を過ぎると、幻想郷はにわかに慌しさを増してくる。
早苗の守矢神社も、最終二日間にわたる本祭に出るための準備に追われていた。
「早苗、こんなモンでいい?」
「はいバッチリです! では次はお湯を沸かして下さい」
「お湯だね、オッケー!」
本祭は毎年場所を変えて行なわれるのだが、これが幻想郷の人妖を巻き込んだ大戦争になるのである。
非常にたくさんのチョコが必要になるのだ。
最初は集団でのごく普通の交換パーティーのようなものだったらしいのだが、いつしかそれが昂じて、イタリアのトマト祭りのようなチョコのぶつけ合いに変わってしまっていた。
「それで、ただチョコをぶつけ合うんじゃおもしろくないだろ?」
(いや、十分おもしろいと思うけど……)
以前早苗は魔理沙に教えてもらった、「バレンタインのルール」なるものを思い出していた。
「郷で採れた一番立派なカカオの枝を、決められた『親』がもつ。それを取ったものに福が備わる、ていうルールを考えたのさ」
「はあ~…………」
外の世界でもそういった神事があるのを早苗は知っていた。
ただ、そういう行事はたいてい男の祭りであり、場合によっては会場が「女人禁制」になることもしばしばである。
その点幻想郷では男女の隔ては無い。むしろ参加者は女の子の方が多い。
幻想郷でのバレンタインはまさに女の祭りであり、チョコレートの収穫祭なのだ。
「コレくらいでいいかな?」
早苗の隣で、天子が大きな釜でお湯を沸かしている。
「はい、そうですね…… もう少し冷ましてから砕いたチョコを湯煎してください。チカラが要りますから大変ですよ?」
「大丈夫! まかせて!」
しばらくお湯を冷ましてから、天子がチョコを入れた大鍋を釜に漬け込む。このお湯の温度が結構大事らしい。
早苗はその間、テーブルに新聞紙を敷き詰め、大きなトレーを並べてゆく。
その時、ふと、新聞の或る記事に目がとまった。
『今年もバレンタイン開催!! 本祭用のカカオの枝決まる』
立派な枝振りのカカオの木の横で、秋姉妹が注連縄を巻いている写真が載っていた。その横には誇らしそうな農家のおばあさんの笑顔が写っている。
郷じゅうのカカオ畑の中から、神様の選んだ一本だ。ご利益が無いはずは無い。
「今年の『親』は霊夢だよね?」
早苗の横から天子がその記事を覗き込んだ。
彼女のブルーの髪は頭上で括られ、三角巾の隙間からびんが僅かに覗いている。
早苗は天子のブルーの髪が大好きだ。密かに憧れてもいる。
「ええ、霊夢さんも今頃大変だと思います」
「だね~」
早苗はさっき、天子と二人で買い物に行く途中、遠くに望んだ博麗の山の事を思い出していた。
山の周りは先週辺りから閉鎖されていた。
上空と地上の道を封鎖する白狼天狗達が大勢飛び交っているのが見えたのだ。
これは枝を念入りに隠す為の処置であり、その枝を守る為の仕掛けを施す準備期間なのだ。
この間、神社に入ることは許可されたものでなければ出来なくなっている。早苗自身も、しばらく霊夢の顔を見ていなかった。
最終日の夜の零時まで枝を守り抜く為、霊夢もあらゆる手段を尽くさなければならない。
見事枝を守り切れれば霊夢の勝ちだ。福女の称号と、沢山の副賞賞品が手に入るのである。
「ふおおおおおぉぉぉぉぉおおおお!!!!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!!!!」
居間から、神奈子と諏訪子の神遊びの蛮声が聞こえてきた。
天子は最初この二柱の自堕落な様子に「ちょっとは手伝えよ」と憤っていたが、あれも大事な祭りの準備なのだと早苗に聞いてからは、あまり口出しをしなくなっていた。どうみても遊んでいる様にしか見えなかったが。
天子は早苗に教えられながら、生まれて初めて手作りのチョコを作ってみた。
本祭で皆にあげるチョコが、自分の手作りのチョコになったのだ。
(早く祭りの当日にならないかな)
小さな袋に詰めた自分のチョコを飽くことなく眺めながら、天子は夜も眠れない高揚した気分を味わっていた。
第2章
ホンマツリ
四日目、五日目は瞬く間に過ぎた。
天子は充実した時間を満喫していた。
早苗には手伝わせて申し訳ないと何度も謝られたが、天子は全然嫌な気分になったり、億劫になったりはしなかった。
自分でもめずらしい事だなと思う。
普段はめんどうくさがりで、自分の家の手伝いなんかは、今迄一度もした事がない。ただ、下界にくると、宴会の準備や里の土木治水の工事などを良く手伝ってるような気がする。不思議なものだった。
そもそも働いている間は「手伝わされている」とうい認識はこれっぽっちも無いのだから。
大量のチョコレートが仕上がったのは、本祭の前日。五日目の夕方だった。
太陽は山の向こうに沈みかけ、雲にわずかに夕暮れが差し始めている。
「何とか間に合ったね!!」
頭の上に持ち上げているチョコの木箱を落とさないように、天子は慎重に飛んだ。
「はい! 天子さんのおかげです!」
「私が居てよかったね~早苗」
「えへへ、はい!」
天子のすぐ上を、早苗が飛んでいた。横風が強いので、バランスを崩さないように上で木箱を押さえている。
神奈子と諏訪子は、昼間に山の妖怪達を引き連れて出発していた。目指す場所はもちろん博麗の山だ。
神によって選び抜かれたカカオの枝、つまり「御枝」を渡さない為に守る側と、それを奪おうとする郷の人妖達の側。
博麗の山には幻想郷中から、たくさんの人妖達が集まっているだろう。
「うは~~っ!! 早苗ぇ!! 見て見て!!!」
木箱の下で天子が歓声を上げた。
早苗は頭を傾けて木箱の横からひょいと顔を出す。
「うわぁぁ~~~~~!!!」
早苗は目を丸くして歓声をあげた。
遥か前方に博麗の山が見えたのだ。
ただ、すごいのはその周りだ。
どれくらいの数の人妖がいるのだろう。
数え切れないほどの人妖達が、黒い群となって山を取り囲んでいた。
「すっご~~~い!!!」
天子の興奮した声が箱の下から聞こえてくる。
まさに大軍だった。
その黒い群集からは、おびただしい数の旗指物やバルーンの様なものが林立している。まるで新しい森が突如出現したような異様な光景である。
それらが、生き物の様にうごめきながら山の裾野に延々と広がっていた。
辺り一帯を埋め尽くさんばかりの数だ。
赤い旗が見えた。ハートに十字架が突き刺さったシンボルマークが描かれている。
あれは前夜祭の初日に天子と一緒に見た紅魔館の旗だ。
それらの旗が何千本とはためいている。その下から、悪魔達の気勢をあげる黄色い声がわんわん響いてくる。
その向こうには『南無阿弥陀仏』の白い旗が見えた。命蓮寺の集団だろう。何千人という檀家の人妖達の読経の声が、低く聞こえてくる。
なんとも迫力迫る重低音が、ゆっくりと風に乗って流れてくる。
群集の間からは何本もの櫓が、まるでビルの様に立ち上がっていて、その櫓の間にもやたらめったら旗が突き刺さっていた。
太鼓の音、ラッパの音、何だか良く分からない鳴り物が好き勝手に辺り構わず鳴り響いている。
まさに壮観の一言に尽きる。早苗は言葉を失ってその光景に圧倒された。
「さぁ~~~!! りんご飴だよ~~!!! 甘~~い甘~~い飴ちゃんだよ~~~!!」
「八目鰻はいらんかね~~~? おなじみ八目鰻の蒲焼だよ~~~~!!」
上空を飛び交う物売りの妖怪達の姿も見える。
カメラを提げた天狗、早苗達の様に物資を運搬する妖精達、様々な種の生き物たちが上空を飛び交っていた。
早苗は視線を博麗の山に移す。
博麗の山も完全武装の様子だ。
山の上の神社の周りに『博麗大明神』の旗が物々しく並んでいるのが霞んで見えた。
沢山の松明が煌々と燃やされ、いかにも勇ましい山城に様変わりしている。
山の中腹にもかなり手が加えられているらしく、櫓や建物や柵がハリネズミの様に設置されているのが僅かに見えた。
まさに合戦の風景そのものだった。
早苗と天子は上空の他の妖怪達の邪魔にならないように、慎重に高度を下げた。
眼下に煌びやかに武装した妖怪や、妖精達の姿がよく見えた。屋台や縁日もかなり出ていて、ここがお祭り会場であることをイヤでも思い出させてくれる。
「おっとごめんネ~!」
早苗達は寸前のところで天狗にぶつかりそうになってしまった。
旗指物や飛んでいる妖怪達を避けて進むだけでやっとのことである。
「あ、こらー!!」
天子が腰に誰かの旗を引っ掛けた。
「あ、ごめんごめ~ん!!」
下に向かって謝るが、誰の物だかもう分からない。天子はしょうがないから、そのまま旗をお腹に巻きつけて飛んでいる。
こんなやりとりが其処かしこで行なわれていた。
程なくして前方に『諏訪南宮上下大明神』の旗と御柱の威容が見え始めた。守矢神社の本陣だ。
「あそこだね!」
天子がそれを指差す。二人は天幕が張り巡らされた守矢の陣屋に向かって降りていった。
陣屋の中では山の河童や天狗達がせわしなく行き来していた。
本陣というがかなり広い。
天幕がまるで迷路の様になっていて、早苗達は途中で出会った河童や妖怪達に道を聞きながら進んだ。
彼らは怪訝な顔をしながらも、この守矢の風祝に本部までの道を教えてくれる。
守矢神社は主に妖怪の山の天狗や河童等の妖怪達を連れて参戦している。
出不精な(有体に言えば引きこもりな)山の主、迦楼羅王天魔に変わって神奈子と諏訪子が山を率いているので、かなりの大所帯だ。
陣屋の中を随分歩き回って、二人は神奈子と諏訪子のいる本部にようやくたどり着いた。
「やあ、早苗。間に合ったね」
「は、はい……。お待たせしました……っ!」
早苗は既に息がきれてしまっている。
天子はこの先大丈夫だろうかと少し心配したが、本祭は明日だ。まあ大丈夫だろうとムリヤリ自分を納得させた。
「さて、いよいよ明日から本祭だ。早苗と天子には一働きしてもらうよ」
神奈子が中央の御座で杯を傾けながら笑っている。天子は、彼女の体からただならぬオーラが漂っているのを感じた。
数日神遊びを続けて調整してきたことで、二柱の神格がいっそう高まっているのだ。
神々しい圧力が、こちらの肌身に伝わってくる。天子はなるほど確かに違うものだなと感心していた。
「今夜はここで攻め手側のメンバーの顔合わせと作戦会議があるからね。今から本陣の棟上を済ませておこうか?」
諏訪子がそう言って早苗達を本部の横のスペースに連れ出す。
そこでは河童達が棟上用の祭壇を、今立ち上げた所だった。
早苗と天子は、儀式の為に木で組まれた、出来立ての壇上にあがる。
「じゃあご相伴にあずかろっかな……」
天狗の姫海棠はたてがコンコンと下駄を鳴らして上がってくる。大天狗と河童の代表、他の妖怪の何人かが祭壇に上がった。
天子も知っている、早苗の友人の河城にとりがいなかった。博麗側についているのだ。射命丸文の姿も見えない。
妖怪達の選択肢は、何も「御枝」を奪う事だけには無い。
もし博麗側が御枝を守り通した場合、その福の恩恵に与ることが出来るのだ。
博麗側も枝を守り通す為に、事前に周りの妖怪達をスカウトしまくっているのだ。
「天狗も河童も半分くらい博麗方に流れたからね。結構もっていかれたよ今回は」
はたては天子にそう耳打ちした。
天子は祭壇の上から望める、博麗の山を見上げた。山の周りを、何人かの哨戒の天狗が回っているのが確かに見える。
ここに来る途中にも見たが、山は完全に要塞化されていた。河童達の手が加わっているのは明らかだ。
「それでは、皆さん頭の物をお取り下さい」
早苗が静かに口を開いた。天子は帽子をとり、胸元にそっと掲げる。
かがり火が煌々と灯され、祭壇の周りの御柱の上に、神奈子と諏訪子が座した。
山の周りに集結した、幻想郷の人妖達が何だ何だと騒ぎ始めている。
高天原に神留まり坐す 皇が親神漏岐神漏美の命以て八百万神等を神集へに集へ給ひ
早苗の朗々とした祝詞が始まった。
彼らの棟上の儀式は、山を取り囲んだ郷の人妖達の注目を集めた。
周りの黒山の群集達は屋台の屋根にあがったり、その場に浮いたりしてその儀式を興味深そうに見つめている。
棟上の最後には「菓子撒き」神事が行なわれる。
祭壇の上から、早苗と天子達がチョコを群集に向かってばら撒くのだ。もちろん二人がせっせと作った手作りチョコである。
これは何だか知らないがご利益がありそうだというので、人妖達は我先に守矢の陣地の回りに集まった。
「ご照覧あれーーーー!!!」
早苗が最初の一掴みを撒くと、守矢の陣地の周りは物凄い騒ぎになった。
わああああぁぁあぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!
「ご照覧あれーーーーっっ!!!!」
天子も一口サイズのチョコを群集に向かって撒いた。
群集はまるで沸騰した鍋の中のように飛び上がって沸き立っている。
これは言わば祭りの前のセレモニーだ。
自陣をアピールする為と、相手を威圧する為のショーの様なものである。陣地の場所は坤を司る諏訪子がキチンと選定したものだが、棟上の行事はここまで派手にする必要は無い。派手好みの幻想郷の少女達に対するオープニングセレモニーみたいなものだ。
御柱の上で、神奈子が腕を組んで満足そうにその様子を見下ろしている。
夕日のオレンジ色の光が、二柱のシルエットを神々しく浮かび上がらせていた。
似たような儀式は、各勢力の陣地でも盛んに行なわれた。
同時に防御側の博麗の陣地も、負けじとそれに対抗する。両者は互いの陣地を隔てて応援合戦の様な騒ぎに発展していった。
日が完全に落ち、辺りがすっかり暗くなっても、その騒ぎは収まるどころか、益々盛り上がっていった。
妖怪はむしろ夜が活動期間だ。二月の寒風の中と言うのに、少女達は大汗を掻いてお互いのアピールに夢中になっている。
そんな中、早苗達守矢の本陣では、攻め手側の代表者達の顔合わせが行なわれていた。
紅魔館のスカーレット姉妹、永遠亭の蓬莱山輝夜、命蓮寺の聖白蓮はもちろん、各地の小さなコミュニティーの代表や、妖怪の一族の長までもが一同に会してる。それだけでも何十人かの人数になった。
「それでは攻め手側の指揮は、私、四季映姫ヤマザナドゥが執らせていただきます」
神奈子と諏訪子に上座を譲られたのは閻魔の四季映姫である。代表者達から一斉に拍手と口笛が起こる。
真面目な映姫は挨拶もそこそこに、さっそく作戦会議の本題に話題をすすめて行く。
「つい先程博麗方のオーダーの発表がありました。向こうの総大将はどうやら八雲藍さんに決まったようです」
意外な発表に周りからどよめきが起こった。八雲一家が博麗側に付いたらしいという話は、実は数日前から噂になっていた事だ。
「やっぱりな~!」
「どうしたんですか? 魔理沙さん?」
早苗の隣で、霧雨魔理沙が天を仰いでいる。
「紫が霊夢のバレンタインチョコで懐柔されたみたいなんだよ。『私がガンダムだっっ!!!』とかって走りまわってたからなあ」
総大将四季映姫は早くも頭を抱えていた。その傍らで冷や汗をかいている死神の姿が見える。
「まあ! 適当な人達ですねぇ」
聖白蓮が地味に毒舌をはいてころころと笑う。
金や紫色のド派手なきわどい法衣を身にまとっていることから、この祭りに懸ける無駄な意気込みが伝わってくる。
「いや!それアンタの所じゃないの!?」
煌びやかな、甲冑・鉢巻姿の蓬莱山輝夜が白蓮にすかざず突っ込んでいる。
現に命蓮寺では聖の腹心の寅丸星、ナズーリンのコンビと封獣ぬえが博麗側に付いていた。
「ウチは自由な気質ですからぁ」
雲居一輪が顔を覆っている横で、白蓮はころころと微笑んでいる。
「しかし、やっかいな人が出てきたわね……」
輝夜の横で、八意永琳が驚いた表情を見せていた。
常識で考えれば、大将は当然霊夢だが、霊夢はなにしろ個人では強くても集団を指揮した経験など無い筈だ。おそらく人格、頭脳、経験のバランスを考えて藍が指揮者に抜擢されたのだろう。紫はどうしたとは誰も聞かない。
作戦会議はぐでぐでと続いた。
「明日は当然ウチが先陣を勤めさせてもらうわよ」
映姫からの発表がひとしきり落ち着いた後、紅魔館のレミリアが待ってましたとばかり口を開く。
紅魔館はレミリアが召喚した6666体の悪魔達と、パチュリーの召喚した数千体の小悪魔とを連れて参戦していた。守矢に迫る大きな勢力である。
「表参道は一番危険な攻め口だからねえ。ウチの娘達には望むところだわ」
レミリアは西洋妖怪特有の大げさなゼスチャーで、胸を張って威勢を示している。
彼女もド派手な軍服に身を包んでいた。服の周りには分けのかからない勲章や、菓子のオマケのバッチなんかがじゃらじゃらとくっ付いている。動きにくくないのだろうか?
傍らにはいつものように咲夜が控えているが、主に負けないくらいの派手な格好をしている。主人の引き立て役に回るつもりはさらさら無いようだ。
「いやいや、そこは被害を恐れない『勇気』が試される役目だからね。私達人里のグループに任せてもらいたい」
「先陣は最も美しい部隊に任せるべきではないかしら? 我が永遠亭の兎達にはもってこいだわ」
慧音と輝夜がすかさずそれに割って入っている。
「いえいえ! それを言うなら守矢の神軍がもってこいです! 私達が先陣を賜ります!」
「そうよ! 私と早苗がいれば博麗なんて三分間クッキングなんだからね!」
早苗と天子も当然負けてはいない。
天狗のはたてが横から抜け出してきては、白蓮がやんわりと毒舌を駆使してそれを退ける。
各部署の代表者達は、こぞって我も我もと名乗りを上げていた。誰もが、もっとも華のある目立つ役割を必死で奪い合っているのだ。
事前のセレモニーと言い、派手な旗や衣装と言い、どれもこれも、バレンタインをバリバリに意識した結果であることは明白だ。
幻想郷の少女達のプライドが、華となって咲き乱れていた。
結局、総大将である映姫の独断で表参道の攻撃は命蓮寺勢に決定した。
紅魔館は赤坂街道に接した赤坂方面。早苗、天子らの守矢勢は八丁目口と呼ばれる参道からやや離れた脇道の担当となった。
要するに現在の陣地の位置そのままだ。配置換えが面倒だからという映姫の判断に少女達はひっくり返った。
この一件により、事前の場所取りがより重要であると言う教訓が生かされる事になるのだが、それはまだ先の話である。
「魔理沙さんは今回どこかに所属してるんですか?」
作戦会議が終了し、代表者達がばらばらと解散し始めていた。
早苗は隣の席についていた魔理沙を、さっそく捕まえている。
「いいや? 私は個人参加だぜ?」
魔理沙は帽子を被りながら答える。彼女以外にも、個人や仲間連れで参加している者は大勢居る。別段めずらしい事ではない。
「良かったら私達と一緒にやらない?」
「なんだ? テンコも早苗と一緒に参加してんのか?」
魔理沙は天子と早苗を交互に見ながら声を上げた。二人の組み合わせは、彼女には珍しく感じるらしい。
「魔理沙さんがいれば心強いです! 是非私達の部隊に参加して下さい!」
「でもなあ……。守矢は割りと規律とかが厳しんじゃないのか? 私は結構好き勝手するぜ?」
魔理沙はチラリと神奈子と諏訪子の方を見やった。
彼女らの回りに白狼天狗達が生真面目な顔で控えている。
魔理沙はどうもイマイチ乗り気では無いようだ。その様子を見て天子が表情を崩す。
「えへへ~、早苗のグループはね、『独立部隊』なのよ」
「なんだそりゃ?? 独立部隊ぃ?」
「そうです。どこにも属せない妖怪達を集めてグループを作ってるんです」
「そうそう! 友達居ない系のやつらを寄せ集めてんの!」
天子はにっかり笑って魔理沙の後ろを指差した。
振り返ると、陣屋の隅で、水橋パルスィ、黒谷ヤマメ、キスメといった地底の一部の妖怪達や、多々良小傘、三月精らの寄せ集めの集団がたむろしている。
魔理沙は目を剥いて噴き出した。
「ぶっ……! ホントに寄せ集めじゃないか!?」
「おもしろいでしょ?」
「見るからに不安そうなメンバーだな! オイ!」
彼女らは陣屋の隅で、地べたに座って双六やトランプ遊びに興じている。
とても戦う部隊のメンバーには見えない。
「最初は神奈子が天狗の部隊を付けてくれてたんだけどね。陣屋の外でウロウロしてたあの連中で新しくグループを組むことになったの」
「数は少ないんですが自由に動けるじゃないですか!? だから神奈子様と諏訪子様に頼んだんです!」
「くっくっく、なるほど……いや、しかし大丈夫なのかぁ……?」
魔理沙はくつくつと笑いながら彼女達を見やっている。
「おもしろそうだな。じゃあ私も混ぜてもらうか!」
「やったぁ! さっすが魔理沙!」
天子は魔理沙にわしっと抱きついた。
「まあ、たぶん途中までだろうけどな。よろしく頼むぜ」
「途中まで? どう言うことですか?」
「まあ、なんだ。そのうち分かるよ」
そう言って頭を掻く魔理沙に、早苗はちょっと首を傾げたが、まああんまり細かな事気にしなくて良いだろうと疑問を打ち切った。
「うう……ぅぅ疎ましい……っ!! 疎ましいぃぃ……!!」
パルスィがハンカチを噛みながらぶつぶつ呟いてる。
いったい何が疎ましいのかイマイチ分からなかったが、これもあまり気にしなくていいだろう。
「友達が多いヤツらが疎ましいぃ……!!」
早苗はどてっとずっこけた。
「そ、そんなぁ! パルスィさんも皆お友達じゃないですか?」
「そうだぜパルスィ? 私の部隊は今から皆家族だ。遠慮はいらないぜ?」
「いつからアンタの部隊になったのよ」
早苗達はグループで集まっての晩餐となった。全員で80人ほどの小グループだ。
陣地の外では相変わらずやかましい喧騒が止むことなく続いている。
他の陣地や屋台や、弾幕の明りで、あたりはまるで昼間のように明るくなっていた。
* * * * *
いよいよ本祭り当日の朝を迎えた。
早苗達の少グループは八丁目口の守矢勢の後方に位置していた。
(早苗が怪我をするといけないだろ……!)
神奈子の強い要望で、人数の少ない彼女達は本隊の後ろに下げられてしまったのだ。
最前線から大分離れているが、天子と魔理沙はあまり気にしていない様だった。始まってしまえば、どこも同じと思っているのだろう。
神奈子と諏訪子の本陣の場所を示す、巨大な御柱と注連縄のレリーフが天狗達の背中の奥、霧の中に霞んで見える。
朝もやの霧が攻め手側の群集を煙の様に包んでいた。
昨晩までの喧騒は何時しか緊張感漂う不気味な静寂に変わっている。
「開始時刻まで……まだ半時ほどあるね……」
天子が表情を強張らせながら呟いている。魔理沙も心なしか口数が少ない。
数万人の人妖達の緊張感が、重圧となって彼女らの身に纏わり付いているのだ。
博麗の山も静まり返っていた。
すぅぅ~~………… はぁぁぁ…………
早苗は先程からずっと深呼吸を繰返していた。
息を大きく吸うごとに、体が締め付けられるように苦しくなった。だからと言ってそれを止めると、体の底から沸き起こる震えが止まらなくなるのだ。
はやく始まってくれればいのに……
彼女らの後ろで、小傘や三月精と言ったメンバー達が、地べたに座ってきゃっきゃと手遊びしている。
ここだけが異世界の様に緊張感がない。自分達の位置が随分後ろに居る為、安心しきっているのだろうか。
早苗の傍らで魔理沙が苦笑していた。
早苗の見開いた瞳が、せわしなくきょろきょろと動く。
早苗は隣に位置する慧音の部隊をチラリと見やった。
人里から集まった数千人の人間達と妖怪達が、守矢の陣地から20メートルほどを隔てて位置している。
皆、落ち着き無く肩を震わせたり、小さく足踏みしたりしていた。やっぱり皆緊張しているのだ。
その中央あたりに馬に乗っている慧音と稗田阿求の姿が見えた。
慧音は凜とした姿勢で、微動だにすることなく前を見つめている。さすがに違うものだ。早苗はしばしその勇姿に見とれた。
視界がさっきから急速に開け始めている。霧が晴れかけているのだ。
早苗は時計を見た。まだ開始時刻まで30分ほどある。時間の経過がやたらと遅く感じる。
早苗が時計から顔を上げたとたん、離れた所から不意に大きな音がした。
ずわああああぁぁぁぁぁ…………
なんだろう!?
早苗は音のした方向を見た。周りの人妖達が、皆一様にそちらの方向を見やっている。
ワアアアアアァァァァァァ…………
歓声の様な音が低く響き渡ったかと思うと、どすんと大きな音がして、足元が揺らいだ。
赤坂方面の山の麓からぶわっとケムリが上がった。
同時にパパパパ~~ン! というラッパの音がけたたましく鳴り始めた。
ウオウオウオオオオオォォォォォーーーーーー!!!!!!!!
不気味な歓声がここまで大きく響き渡ってきた。レミリアの紅魔館勢だ。抜け駆けである。
「はじまったな」
魔理沙がブスリと刺すように言った。
早苗は何故か怒ったような顔で魔理沙に振り向く。
「何で!? 先陣は命蓮寺じゃないんですか!? それにまだ時間が……!!」
「関係ないな。どうせ後から問い詰めても『向こうから仕掛けてきた』とか言い張るに決まってる」
早苗はばっと振り返った。博麗の山の方も弾けた様に応戦し始めている。物凄い勢いで何かを撃っている。
いつもの弾幕では無い。何だろうか?
激しい騒音が暫く続いた後、その音はゆっくりと静まっていった。
赤い十字架の旗が、一旦自陣に引き上げていくのが見える。
「……はぁ!! ……はぁ!!」
実戦の迫力と臨場感に早苗は圧倒された。
砂埃と焦げたような匂いが、早苗の元まで風に乗って流されてくる。早苗の胸の鼓動が限界まで高鳴っていた。
次に人里の一団の向こう側で動きがあった。
群集の真ん中に、突然ざあっ! と棒の様なものが一気に立ち上がった。
竹槍だ。細く長い竹槍が何千本と郡集の中から立ち上がったのだ。
永遠亭、蓬莱山輝夜の一隊だ。
ピィィーー! と祭囃子で良く聴く、笛の音のような音色が流れ始めた。
ざざざざざざざざざざぁぁぁぁぁ…………っっ!!!!!!!
永遠亭の一団は統制のとれた動きで前進し始める。数え切れないほど伸びた竹槍が、早苗には竹林のように見えた。
まるで竹林が動いている様だ。
ざざざざざざざざざざっっっ!!!!!!!
永遠亭の一隊は無声で山に向かって突撃し始めた。天に向かって伸びていた竹槍が、ざぁ! と一斉に前に倒れる。
バキバキバキ! と大きな音がして山の麓に土煙が舞い上がった。
はるみ原方面で、博麗側との激しい戦闘が始まる。
「ごほっ……!! ごほ!!」
こちらまで飛んでくる土煙に早苗は顔を歪めた。これでは前を見るどころではない。
ドン! ドン! ドドン!! ドン!
早苗の直ぐ近くで、突然太鼓の音が鳴り響き始める。早苗はびっくりして身を屈めた。
それが自陣の御諏訪太鼓だと分かるまで、早苗はあたりを懸命に見渡しつづけていた。
遂に早苗達守矢勢の出番だ。
最前列の部隊の旗が前進していくのが見えた。
「わ、私達も、い、行かないと……!」
早苗はあわてて走りだそうとする。
「待って。まだだよ! 落ち着いて!」
天子が上ずった声を上げて、早苗の肩を掴む。
「いま出ても前の連中に詰まるだけだろ……! もうちょっと待つんだ……!」
ドンドンドンドンドンドンドンドンッッ!!!!!!!
魔理沙の声は激しい太鼓の音に半ばかき消された。ぶわぁぁぁーと法螺貝の音がなった。
最前列の河童達の突撃がはじまった。わああああーーという歓声が後続の早苗の元にダイレクトに響いてくる。
バシバシバシバシバシッ!!!
博麗側の撃つ音が、生々しくここまで聞こえてきた。
「ああ……っっ!!」
遠くで、最前列の旗がばらばらと倒れるのが見えた。早苗は恐怖を感じた。
守矢勢の他、表参道の命蓮寺勢もほぼ同時に動いたようだったが、早苗にはそんな事に気づく余裕はない。
攻め手側の総攻撃が始まっていた。
「~~~~!!」
前方から、はたてらしき号令の声が聞こえたかと思うと、前の天狗達の一隊がぶわっと空に飛び上がった。
早苗達の部隊の前面が一気に開けた。
「まりささんっ!!」
「よし! ここだ!! 一気にいくぜ!!」
「よーし! 突撃よ!」
天子はすかっと剣を抜いた。
これは天子と早苗お手製の、緋想の剣ならぬチョコクッキー剣だ。要するに巨大ポッキーである。
「おい! 行くぜっっ!! 早くしろ早くしろ!!」
魔理沙は後ろでお遊戯会を開いているメンバーに怒鳴り散らす。
「ええ!? もういくの!?」
「ちょ……! 待って待って!!」
彼女達はおっとり刀であわてて立ち上がっている。
魔理沙はホウキで彼女達のお尻をぴっぱたいて回る。
「行くぞ!! 行け行け行け行けーーーっっ!!!!」
早苗達はつんのめるように土煙の中に飛び込んだ。
「わあああーーーー!!!!」
早苗は走りながら力いっぱい叫んだ。
「ん? あれは!? 早苗か!?」
守矢の本陣で、神奈子が異変に気づいた。早苗達のグループが本隊の脇を抜け、敵陣にむかって突進していくではないか。
「勝手な事を……! 誰か! 早苗を止めろ!」
「待つんだ! 神奈子! 行かせてやりな!」
早苗を阻止しようと、立ち上がる神奈子の肩を諏訪子が掴んだ。
「な……!? 諏訪子!??」
神奈子はまじまじと諏訪子の顔を覗き込む。
「行かせてやるんだ神奈子。早苗だってもう立派にやれるんだ。テンコや魔理沙も付いてる」
「む……うう……」
神奈子はもごもごと口ごもる。
早苗達は私達の後ろでいるんだ。そう言ったのは昨夜の事だが、その時の早苗の残念そうな顔が頭に思い浮かんだ。
「私達はそれを出来るだけサポートしてやるんだ。な? それが私達の役目だろ?」
諏訪子は神奈子の手を握ってゆっくりと言う。諏訪子だって早苗の身は心配だったが、それ以上に早苗には、バレンタインを思いっきり楽しんでほしかったのだ。
「わかった……そうだな……。早苗を見守るとしようぞ」
神奈子は諏訪子の手をがっしりと握り締めた。
「そうだ、そうだよ神奈子。見てみな。今、敵の弾幕は前列に集中している。そのサイドにスペースができてる。早苗はそこを狙ってるんだ。なかなかいい判断じゃないか。援護するんだよ。早苗達を!」
事実、諏訪子の言うとおりだった。
早苗達は土煙に紛れて、無傷で博麗の山に取り付くことに成功していた。
「よーし! 一気に駆け上がるわよ!!」
天子が最初に林に突っ込んだ。早苗、パルスィ、魔理沙が後に続く。
早苗達の部隊以外にも、既に山の中には他の参加者達が突入していた。
ひゅん! びゅんびゅん!!
早苗の直ぐ横を博麗側の撃った弾がすり抜けていく。怖かったが、思ったほどの激しい抵抗は無いようだ。早苗は心中密かに安堵していた。
(このまま……! どうかこのまま……っ!!)
早苗は祈るような気持ちで山を登った。その時だった。
ピン!
早苗の足が何かを引っ掛けた。
えっ? と思って見ると、早苗の足首の辺りに髪の毛ほどの腺が引っかかっている。
何だろうと思う間もなく、突然後ろでドカドカドカっ!!と爆発が起こった。
「わきゃー!!」「どわーーー!!!」
後続の妖精や妖怪達が吹っ飛ばされた。
「仕掛けだーー!!」
誰かの悲鳴が聞こえたかと思うと、早苗の直ぐ前方の林の中から、何かがばさっと立ち上がった。
突然現れたそれは鍵山雛の姿をしていた。が、顔の部分がマジックで書かれている。雛の人形。雛人形だ。
4,5体の雛人形が一斉に回り始めたかと思うと、物凄い勢いの射撃がはじまった。
「早苗ぇ! 危ないっっ!!」
早苗は誰かに頭を押さえつけられた。天子だった。二人は抱き合う様に地面に突っ伏した。
その直ぐ上を弾幕がすり抜けていく。
「ぶわ!!」
後ろにいた森近霖之助の顔面に弾があたった。どこで間違ったのか、いつの間にか合流してしまっていたらしい。
「こーりん!!」
魔理沙が転がるように霖之助に駆け寄る。
霖之助の顔面に真っ白なパイが見事にヒットしている。これが弾の正体だったのだ。
バレンタインでパイを食らうなど、最悪以外の何物でもない。皆悲鳴を上げて逃げ惑う。
少女達は大混乱に陥っていた。
「きゃー!! きゃーーー!!」
たちまち森の中のあちこちで悲鳴がこだまする。雛人形は白い弾幕を林の中に撃ち捲くっている。
天子が山を駆け上った。
「てええええぇぇ!!!」
天子は弾幕をぬって雛人形に踊りかかる。ポッキー剣でたちまち雛人形をなぎ倒す。
雛人形が倒されたのを合図にでもするかの様に、直ぐ後ろの林から別の雛人形が立ち上がる。
「ぅいぃぃ!?」
「テンコふせろぉぉ!!!」
後ろから魔理沙が何かを投げた。天子は帽子を押さえてその場にしゃがみこむ。
爆音とともに雛人形達が吹っ飛んだ。
「疎ましいのよぉぉぉ~~~~!!!!!!」
パルスィがチョコバットを振りかざしながら猛然と突進していく。その後ろにヤマメ、キスメ、小傘らが元気に続いている。
「っっはあっ!! はあ……っ!!」
早苗も祓い棒を握り締めて夢中で後に続いた。
「左舷!! 弾幕薄いぞ!!」
両軍の一進一退の攻防が続いていた。
山の山頂で、博麗側の総大将八雲藍が大声を上げて指示を出している。
藍はネコの顔を形どった、ちょっといびつなチョコレートを首からぶら下げている。
保護の魔法でガチガチにガードされたそのチョコの表面には『らんしゃま大好き』の拙い文字がうねっていた。
山頂の博麗神社の周りは、上へ下への大騒ぎだ。
攻め手側の総攻撃は昼を過ぎても絶え間なく続いている。
上空には空を埋め尽くさんばかりのパイの弾幕が飛び交っている。空から進入を試みている天狗達が次々に撃ち落とされていく。
「Sフィールドの備えはどうなっている!! ジオング……じゃなかった紫様を全面に押したてさせぃ!!!」
藍は哨戒天狗達にむかって指示を飛ばす。
山の麓の方で大きな爆発が起こる。
博麗側の秘密兵器、八雲紫が暴れまくっていた。
「霊夢!! 見えるわ!! 私達の敵の姿が見えるのーーっっ!!!!」
八雲紫は巨大なパイを地上に向かって投げつける。表参道を駆け上がる、命蓮寺勢の一団がふっとんだ。
「紫だーーーっっ!!」「ジオングだーーーっっ!!」「ババアだーーーー!!!」
攻め手側の人妖達は恐怖に駆られて逃げ惑った。
紫の胸元には、保護の魔法で青く光り輝く「五円チョコ」が躍動している。
「五円チョコ」一個で、妖怪の賢者は悪魔の手先に成り果てていた。
「霊夢!! 愛してるわっっ!!!」
紫はパイを狂ったように投げつける。山の木が薙ぎ倒され、敵味方の人妖達に凶悪な無差別攻撃がふりそそぐ。
「きゃーーーっっ!!」
森がぐわりと持ち上がった。
早苗は頭を抑えてしゃがみこむ。頭上に濡れた座布団を投げつけられたように土砂が降り注ぐ。
「べっ! べぇっっ!!」
早苗は口にたまった土砂を吐き出した。じゃりじゃりと言う気持ち悪い感触が口に広がる。
「危ない!! あぶなっっ……きゃーー!!!!」
また爆発が起こる。木々の間から、森よりも高く黒い砂が舞い上がるのが見えた。早苗はとっさに傍らの木の陰に転がり込む。
どば! と頭上から湿った土砂が降り注いだ。後続の妖精達が土砂に飲み込まれるのが見えた。
「大変っっ!! みんな……!! 手伝って……!! 早く早く!!」
早苗は木から這い出して急いで手で土砂を掻き分ける。
「まかせてっ!!」
土蜘蛛のヤマメが土中にもぐりこんで仲間達を救出した。
「うえーっ!! べっ!! べっ!!」「あははは!! サニー真っ黒ーー!!」
スターサファイアが、サニーミルクの土まみれの顔を指差して笑っている。
「てめーーーっっ!! ババアーーー!! あたし達を殺す気かあーーー!!!!」
土砂から這い出してきた魔理沙が、土を吐きながら上空に向かって怒鳴っている。
「キングストンを汚す奴らは私がゆるさないわ……!!」
「はあ!? 何言ってんだこのババア!! 遂に頭ん中にスキマができちまったか!!!」
紫はスキマから巨大なパイを引っ張りだした。
「げ!! やばい!!」
天子が傍らの壕に転がり込んだ。早苗も泣きそうになりながら壕に身を投げる。
「頭がイタイのよーーーーっっ!!!」
ずど! と腹に響く衝撃があったあと、壕のなかに大量の土砂が降り注ぐ。
早苗は叫びながら頭を抱え込んだ。頭上にせんべい布団を纏めて投げつけられたような、重たいものが一気に落ちてきた。
「ぶぁ……っ!! ごほっ!! ごほ……っっ!!」
もうやめて! 死んじゃう!!
早苗は必死に息をしながら心のなかで叫び続ける。苦しいが息をする度、砂塵が容赦なく鼻や口に入り込んでくる。
頭や首筋の上に、冷たい土砂やパイのクリームがこんもりと被っているのが分かった。
「あはははっ!! 早苗土まみれだよ!!」
天子が真っ黒な顔で早苗を指差して笑っている。
「ふえ~~ん」
早苗は泣きが入っていた。爆発から逃れた仲間達が次々に壕の中に転がり込んでくる。皆顔や頭が土とクリームまみれだ。
この穴は博麗側の作った壕のようだった。早苗達の体がすっぽり入る。二メートルくらいは深さがあるだろうか?
「おい! 見ろ! あそこに中継地点があるぜ!」
壕から顔を出して、魔理沙が叫ぶ。その頭上に絶え間なくパイが飛び交っている。
早苗は壕の中に積んであったチョコレートの箱の上に乗って顔を出した。50メートルくらい上に、魔理沙が「中継地点」と呼ぶ神社の手水舎の屋根が見える。その周りを柵が囲んでいた。
柵の中を妖怪達が忙しそうに行き来している。
「よし、あそこを占領するぜ!」
「うん! そうだね! 水があるみたいだし」
天子が言った「水がある」という言葉に、早苗達は勇気付けられた。
とたんに急激な喉の渇きを覚える。水があれば口をゆすぐ事もできるし、顔を洗う事も出来るのだ。
「ようし! 今何人いる!?」
魔理沙が壕の壁に背をもたれながら屈みこむ。その周りを仲間達が取り囲んだ。
「50人くらいだよ!」
ヤマメが汚れた顔を寄せ答える。
「よし、射撃が止んだら飛び出すぞ。私が合図するからな」
魔理沙の指示に皆力強く頷く。早苗の部隊を、いつの間にか魔理沙が仕切っていた。
周りの少女達は、皆土砂で体中を真っ黒にしながらも、活き活きとした目をしている。
その瞳の輝きを見た時、早苗はああこれだと思った。
これが幻想郷の魅力なのだ。
外の世界に居た時、早苗はどちらかと言うと内気な子だった。家の外に出るのは好きだったが、外を元気に走り回るよりは、ゆっくりと散歩する方が好きな子だった。運動もあまり出来る方ではなかった。
早苗は幻想郷の仲間達の、パワーに憧れたのだ。つまりは単純な「力」であり、その奔流であった。
早苗は本当に非力な子だった。体育の体力測定で腕立て伏せをしろと言われても、自分の体をまともに持ち上げる事すらできない。その非力さが、自分をどこか引っ込みがちな娘に変えていたのだ。
だが、幻想郷の女の子達はパワーに溢れていた。
単純な体力ももちろんあったが、それは殆どの場合目に見えない「情熱」や「希望」といったものに転換されていた。
妖怪が精神的な部分に強く依存する存在だという事は以前何処かで聞いた。全くその通りだと思う。
「お腹が減った」「眠い」といった普通の単純な感情までもが、彼女達の中で、常に全力で燃え上がっているのだ。
「楽しくやりたい」「チョコレートが大好き」「皆が大好き」
この単純な幾つかのキーワードが、幻想郷ではダイレクトに形になるのだ。それが、しばしば常識を打ち破る形となって、現れるのである。
このバレンタインは、まさに彼女達のお祭りなのだ。自分もその中に居たい。
早苗にとって、彼女達との全身全霊での交流は、何物にも代え難い大切なものになっていた。
今では妖怪退治の無い日常など考えられない。そんなことがあっては困るのだ。
「よぉぉし!!」
早苗は泥臭い壕の中で祓い棒を握り締めた。棒の先には祝詞を彫った板チョコが挟んである。
「がんばろうね、早苗!」
天子が隣でにかっと微笑んだ。早苗の大好きな天子のブルーの髪が、土砂で汚れていた。水場まで行けたら、天子の髪を洗ってあげたい。早苗は心からそう思った。
魔理沙が木箱に上がって外の様子を見ている。
壕の中で、幻想郷の少女達の目がらんらんと輝いていた。
土の匂いが、早苗の鼻をついた。冷たい土の感触。口の中に感じる土の味。今は全てが愛おしく感じる。早苗は地面の土をぎゅっと握り締めた。
その時、弾幕が若干弱まった様に感じた。ここだと早苗は思った。
間髪入れず魔理沙が怒鳴る。
「よし今だ!! 突っ込めーーーーーっっ!!!!」
魔理沙が素晴らしい身のこなしで真っ先に壕を駆け上がった。
遅れじとばかりに、少女達は我先に壕の中から飛び出す。
「うわぁぁぁぁーーー!!」
早苗も這い出すように何とか壕から上がった。お腹に真っ黒い土の跡をつけたまま、つんのめる様に走り出す。
その横をつぎつぎと仲間の少女達が飛び出していく。
わあああああぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!
早苗達のグループは手水舎に向かって一斉に突っ込んだ。
早苗の前を走っていたルナチャイルドが、どてちんとすっ転ぶ。その直ぐ上をパイがすり抜けていく。
パイは早苗の前にも容赦なく降り注いでくる。まるで怒った子供がおもちゃを投げつけてくるような、めちゃくちゃな勢いだ。
自分に当たらないのが不思議なくらいだった。
手水舎の中で河童達の慌てふためく様が見えた。前方で、天子が柵を根元から引き倒している。早苗達は叫びながら柵を飛び越えた。
* * * * *
夜になると両軍は一時休戦となった。
気がつくと、朝からあっという間に12時間くらいが経過している。驚くべき事だ。
早苗達は苦労して占領した手水舎の中で一夜を明かす事になった。
彼女らは手水舎の中に顔を突っ込んで水を飲んだ。行儀が悪いという言葉が一瞬だけ頭をよぎったが、水に顔をつけると何もかも忘れてしまう。
手水舎の屋根に形ばかりの幕を張り、井戸の水を引いて、早苗達は裸になって水を浴びた。
外からは丸見えだったが、恥ずかしいとか言う気持ちは不思議と沸いてこない。
やがて味方や博麗側の妖怪達が水を浴びに来た。早苗達は皆でわいわい騒ぎながら水をあびた。洗っても洗っても頭から泥が湧き出てきたのには、正直引いてしまった。
「みなさ~ん! ごはんですよ~!!」
哨戒天狗の犬走椛が上空を飛んでいる。天子が飛んでさっそく配給を受け取りに行く。
「ちょうだいちょうだ~~い!」
「お疲れ様です。何人ですか?」
「54人分お願い」
「え? それだけ?」
リタイアや怪我人を引いて早苗のグループは総勢それだけになっていた。もとより最初から少人数だ。
迷子で他の部隊に紛れている娘も居ると思うが、同時に他の部隊の娘が何人か紛れてもいる。
「おいしいたこ焼きはいらんかね~~~!!?」
「八目鰻~~!! 八目鰻だよ~~~~!!」
商魂逞しい屋台の妖怪達が上空を飛び交い始める。早苗達は一気に空腹を覚えた。
「どうする? 鰻買う?」
「買いましょう! 買いましょう!! あとそれから、たい焼きと! お好み焼きと! 焼きそば!!」
早苗達はきゃあきゃあ騒ぎながら、手当たり次第に屋台のメニューを買い漁る。
太っ腹の天子が気前の良さを発揮してくれる。一同は皆手を合わせた。
皆お腹が減っているのだろう。屋台の妖怪達はあっちへこっちへ引っ張りだこだった。
「う! うめぇ~~~!!! 美味すぎるぜ!!!」
「うう……おいしいよ……おいしいよ……」
魔理沙は口をリスのように膨らませてにぎりめしを頬張っている。その横で小傘が泣きながらたい焼きに貪りついていた。
博麗側の地霊殿から特性ピロシキの支給があると言うので。三月精達が取りに行っている。
同じように永遠亭からは筍ご飯のおにぎりの支給がある。
紅魔館は両陣営に紅茶とデザートをもれなく提供してくれた。流石に格の違いを見せ付けたレミリアは女を上げたと言えるだろう。
「ふぉいひぃね!! ふなえ!」
天子が口を膨らませて満面の笑みを見せている。早苗もほっぺたを膨らませたまま、フン! フン! と必死で頷く。
おにぎりを五個、お好み焼きを天子と半分わけし、たこ焼き、八目鰻、ピロシキ、食後にはデザート。早苗は自分でもビックリするくらいの量を食べていた。
人間これくらい食べられるんだなあと妙に感心したほどだ。
食後に紅茶でようやく一息吐いていると、空から何やら紙が降ってくる。途中経過の統計が出たらしい。
紙をキャッチした早苗の元に皆が顔を寄せる。
驚くべき事に、早苗達のグループが攻め手側で突出している。
博麗の山6合目到達で現在トップである。
「やった! やったあ!!」
少女達は飛び上がり、抱き合って喜んだ。
その後に、赤坂方面の紅魔館、あるみ原方面の永遠亭が5.5合目到達で後に続いている。
表参道の命蓮寺は4合目到達と苦戦していた。その他の団体も、何とか4合目付近まで達しているらしい。
守矢の本隊も早苗達のすぐ後ろに来ているらしく、巨大な御柱と注連縄が5合目付近に見える。
残りはおよそ半分だ。明日は時間が今日より長いから、明日中に「御枝」を奪える可能性は十分にある。
「がんばろうね! 早苗!」
天子がさっきと同じように早苗の肩を叩いた。
食事が終わったら宴会となった。その間にもプリズムリバー三姉妹の演奏や、ミスティアの歌のリサイタルがあり、それに幽々子が割って入ったり、本当に飽きる間もない演出が続いた。
早苗は彼女らの尽きる事無いパワーにあきれ返った。
永遠亭の蓬莱山輝夜が、博麗の陣営に皮肉を込めた歌を詠むと、すぐさま博麗側についた藤原妹紅から、それを逆手にとった返歌があった。
野趣溢れる歌の応酬に少女達は感嘆の声をあげる。
博麗側についた地霊殿が扇を山頂に掲げて攻め手側を冷やかす。
応とばがりに永遠亭の八意永琳が進み出て、五合目付近の大木の上からそれを見事に射落とした。
これには両軍の少女達がいっせいに喝采を送った。
美しい花火の様に四散する的を見ながら、早苗達は夢中で手を叩いて喜んだ。
その後はもうひっちゃかめっちゃかの宴会である。
早苗はお酒が飲めなかったのだが、一杯だけ飲んだほうが体にいいと皆が言うので、一杯だけお酒を飲んだ。
すると一気に顔が熱くなり、頭がくらくらとして激しい眠気が襲ってきた。
「あはっ! 早苗ぇ、もう眠いの?」
「……ぅうん。……ごめんなさいぃ…………なんだか……とっても…………眠くって……」
早苗はふらふらとして天子の肩に寄りかかる。周りの喧騒がふわんふわんと遠ざかったりうるさくなったりする。
魔理沙がコッチを指差して何か言っている。早苗は良く分からなかったが、恥ずかしかったので顔を抑えた。顔が熱かった。
「いいよ。早苗。もう寝て」
天子はそう言って自らの膝をぽんぽんと叩いた。皆が見ているし恥ずかしいと思ったが、天子の膝は早苗を魔術のように引き寄せた。
パルスィがぱるぱるとハンカチを噛んで、嫉妬深い眼差しを向けてくる。
「ふぁ……ごめんさない……ごめんなさいぃぃ……」
早苗はぐにぐにと謝りながら天子の膝にすがりつく。天子の膝の上は、不思議とふかふかの高級ベットよりも気持ちよく感じる。
天子が髪をなでてくれた。まさに天にも昇るような心地がする。
「おやすみ。早苗」
耳元で天子の声がした。早苗は何か言葉にならない事を言ったような気がするが、早苗の意識は泥沼の様な眠りの淵へと一気に落ちていった。
こうして本祭初日の夜は暮れていった。
* * * * *
目を閉じて、開いたと思ったらもう朝だった。
早苗はそんな風に勘違いしてしまうほど深く眠ってしまっていた。
目覚めると、周りでは早くも仲間達が忙しそうに動いている。最終日の開始が近いようだ。
「う……!! ……あ、く……っ!!」
起き上がろうとすると、突然全身に痛みが走った。
体中が筋肉痛でぎしぎしと痛むのだ。
冗談じゃないと早苗は焦った。何とか呻きながら起き上がると、全身の筋肉が悲鳴をあげる。最悪だ。早苗は顔を歪めた。
「……体、イタイ?」
振り返ると早苗の横で、キスメが桶の中から心配そうに様子を見ている。
「大丈夫です」
早苗は引きつった笑顔で答えた。キスメは桶の中から湯のみを取り出すと、水筒を出して中の液体を注ぎ始める。
「……コレ、飲んでみて?」
「なんですか……これ?」
「……飲んでみて?」
怪訝な顔をする早苗にキスメは同じように繰返す。桶の中から心配そうな顔で早苗の事を見つめている。
早苗は別に悪いものでもないだろうと思い、その湯のみの液体を飲み干した。
甘い。でも温かくて飲みやすかった。
暫くすると痛みが和らいでいくのがわかった。体の関節も徐々に可動域が増えていく。
目覚めそのものは珍しく非常に良い。早苗は寝起きがとっても悪いのだ。昨晩の一杯のお酒の為であると分かった。
「すごい……痛みがほとんど無くなりました!」
「……やっぱり、イタかったんだね」
キスメはにっこりと笑う。あ、と早苗も照れ隠しに笑った。
実際完全では無いが、痛みは随分和らいでくれた。体操すると、更に気分が良くなっていく。これならやれそうだ。
「ただの砂糖水だよ!」
キスメはそう言うと、イタズラがばれた子供の様にきゃーと飛び跳ねて行ってしまった。
「ありがとうキスメさん」
早苗はキスメの去った後を見つめた。まさに魔法の水だ。早苗のいる手水舎から山の下が見える。攻め手側の大小さまざまな旗指物が、林の間からにょきにょき飛び出している。
「おはよう早苗!」
顔を洗っていたらしい天子が爽やかな表情で近づいて来る。
「おはようございます! 天子さん」
「朝ごはんあるよ。食べるでしょ?」
天子はカゴに入ったパンを早苗に差し出した。より取り見取りだ。それにまだあったかい。バターの良いにおいがつんと鼻をつく。
「どうしたんですか? これ?」
聞けばこれも紅魔館のサービスらしい。細やかな気配りに西洋淑女の嗜みを感じる。ジャムまで揃えているのには本当に脱帽させられる。
早苗は昨日あれだけ食べたのに、もうお腹が減っている事に気がついた。
早苗はパンを4つ、あっと言う間に平らげる。自分でも、いったいどれだけ食べるんだろうかとあきれてしまう。
メンバーの仲間達は、朝食とともに、お昼ご飯と間食の確保に奔走していたらしい。
「昨日は昼を抜いてただろ。午後から極端に動きが悪くなったからな」
魔理沙の言葉に、早苗は初めて昨日昼食を取っていなかった事に気がついた。
そのため、この手水舎の攻略に手間取ったというのだ。早苗は全然気がつかなかったが、言われてみれば確かにそうかもしれない。
こう言う合戦に出ている者にとって、食事は本当に重要な意味を持つのだと身を持って認識させられた。
同時に魔理沙の気の配り方には感心した。
彼女がいなかったら、ここまでの快進撃はなかっただろうと心底思った。
最終日の決戦は総大将同士の駆け引きの様相を呈していた。
攻め手側の四季映姫ヤマザナドゥは早苗達の部隊の方面に戦力を集中し、そこから一気に突破口を開こうとしている様だった。
逆に博麗側の八雲藍は優勢な表参道の方向から迂回し、突出した早苗達の勢力の後ろを取ろうと画策した。
意地でもそれをさせまいとする命蓮寺勢との間に、午前中から激しい戦闘となる。
「よし行くぞーーっっ!! 行け行け行けーーーっっ!!」
魔理沙がぐんぐん先頭を奔る。
早苗達も我先に後に続く。彼女達のグループがどんどん山の山頂めがけて押し込んでいく。
「早苗ぇぇ!! あそこ!あそこ!」
「はい!……えいっ!!」
早苗は天子と二人で作ったチョコ爆弾を投げつける。2,3体の雛人形が根元から倒れる。同時にパルスィ達が突っ込んでいく。
闘いの手順も随分良くなっていた。驚くべき事に、飛来してくる相手のパイが見えるようにすらなっていた。
「うわわ~~~~!!!」「うわわ~~~!!!」
すぐ近くに聞こえた歓声に、早苗は木陰から顔を出す。前を見てあっと声を上げた。
どこに隠れていたのか、博麗側の妖怪達が飛び出してきたのだ。
「うわわわ~~!!」
もう後が無くなってきたのだろう。博麗側の少女達は頼りない歓声を上げて突っ込んでくる。たちまち辺りで白兵戦が起こった。
初めて経験する敵との取っ組み合いだ。
「パルスィ~~!! 見つけたよぉ!! さぁアタシのチョコを食べるんだ!!」
「うわっ!?」
パルスィが星熊勇儀に組み伏せられている。
「嫁に行けない体にしてやるからね~~!!! うへへへ~~!!」
「だれか通報してー!!」
パルスィはばたばたともがいているが、酔っ払った鬼の力に敵うはずがない。
「パルスィさん!!」
「い……行け! 早苗!! 私に構うんじゃない……!!」
「で、でも……!!」
「行けーーっっ!!」
パルスィは勇儀もろとも坂を転がり落ちていった。早苗はパルスィの名を叫んだが、彼女自身もそれどころではなかった。
「はっ! 早苗!! 見つけたよ!!」
「にとりさんっ!?」
周りの森では、いたる所で少女達がもみ合いになっている。早苗は混乱の中、博麗側についた友人の河城にとりと、ばっちりかち合ってしまった。
「うへへ……さ、探したよぉ……さ、早苗ぇぇ……!!」
「う……く……」
早苗は祓い棒を握り締めた。腕ががくがくと震える。
にとりは不審者の様に手をわきわきさせて、早苗にジャンプする
「巫女をやっていけない体にしてあげるよーーっっ!!」
「だれか通報ーーーっっ!!」
にとりは両手を広げて襲い掛かってくる。早苗はとっさにガシリとにとりの両手を掴んだ。
二人はがっぷりと手を組み力比べの体勢
に……なったのは一瞬だけだ。
早苗の体制ががっくりと倒れる。あまりにも力の差がありすぎるのだ。
「さあ、早苗……お、おとなしく……私の……き、きゅうり入りチョコを……っ!!」
ちょ……!! 何それ……!! 不気味……っっ!!
にとりは、はあはあ気色の悪いテンションで早苗を押し倒そうとする。早苗の膝がガクッと折れ、地面に尻餅を付く。
だが、奇跡的にもそれが幸いした。早苗にのしかかったにとりは、ちょうど彼女の足の上に乗るような形になった。
「う……あああぁぁ!!」
早苗は体育の時間に、一回だけやったことのある巴投げを試みる。チカン対策の護身術だ。
「な? 何だ? うわわぁぁ???」
にとりの体がぐるんと持ち上がった。
早苗の見よう見まねの巴投げは、半分だけ決まった。
にとりは早苗の後ろに吹っ飛ぶのではなく、彼女の横にどてっと転がり落ちる。やはりそうそう旨く決まるものでは無い。
それでもにとりは十分驚いた様だった。
「うわ!? ハァ……!! ハァ!! じゅ……ジュードーだ!! ジュードーだね!? 早苗!」
早苗はすかさずにとりの上にのしかかる。互いのチョコを口に押し込もうと揉み合いになる。
「やう、く……!! や、やるねぇ……っっ!! やるねぇ!早苗……!!」
「にとりさん……っっ!! ずっと……! ずっと……!! 友達で居ていくださいっっ!!」
早苗はチョコに貼り付けてあるお札をばりっと剥がす。
特製チョコ爆弾が炸裂した。
巻き起こる爆風の中、にとりはあーれーーーと吹っ飛んでいく。
「愛してるよーー!! 早苗ーー!! ずっとずっと友達でいてねーーーっっ!!」
にとりはやっほ~ぅ! とバンザイしながら森の木々の向こうに消えていった。
「にとりさん……」
早苗は肩で息をしながら、にとりが消えた空を見つめた。
これが幻想郷のパワーだ、彼女らの情熱だ。彼女らにとっては、これこそ本当の「愛」なのだ。相手の全てが好きだからこそ、愛してるなどという事が平気で言えるのだ。それに男女の境は無い。
大好きなチョコレートを大好きな相手と分かち合える。これが幻想郷のバレンタインだった。
「早苗大丈夫か!?」
魔理沙と天子が駆け寄ってくる。
「魔理沙さん……皆は……?」
早苗はあたりを見渡した。あれだけいたるところで行なわれていた揉み合いが止んでいる。
その代わり、回りに集まってる仲間達も半分くらいになっている。
その時周りが不意にざわめき始めた。
早苗達はとっさに身構える。
「きゃ~~~!!!」
山の上から悲鳴と歓声が聞こえる。三人は丘のようになっている、小さな崖を駆け上がった。
「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ
アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!!!!!!!!」
8合目付近の小さな櫓の上で、人形遣いのアリスマーガロイドが鬼の様な形相で奮戦している。
「きゃ~~~~っっ!!!」
妖精や天狗達が次々に叩き落されている。アリスは凶悪な形相で目にも止まらぬラッシュを放ち続けていた。
彼女の周りには、人形達が同じように凶悪な顔でチョコを撃ちまくっている。
誰一人として近づく事すら出来ない様だ。
「魔理沙ぁぁ~~~~~!!!! どこだぁぁ~~~!!!! 霧雨魔理沙出てこいやぁぁぁ~~~~~~!!!!!!」
アリスは悪鬼の様な表情で、大音声をあげている。空気が震えんばかりの禍々しい怒声だ。
早苗と天子はひっくり返った。
彼女達の目的は、何も御枝を奪う事だけでは無い。
このアリスや勇儀やにとりらの様に、最初から特定の個人を狙って、わざと敵味方に分かれるケースがあった。
「本命」の相手を狙っているのである。何と言っても、今日はバレンタインなのだ。
「たっはっは……まいったな……」
魔理沙が苦笑しながら、片手で顔を覆っている。
「魔理沙……」
諦観の表情を浮かべる魔理沙に、天子が不安げに呟く。その間にも、攻め手側の被害が続出していた。魔理沙はコキコキと首を回した。
魔理沙はモテる女は辛いぜとか言いながら。ホウキを肩に担ぐ。
「さあて。じゃあちょっくら行ってくるか」
「魔理沙さん……」
早苗は思い出していた。魔理沙が「途中まで」と言っていた事を。
彼女は最初から覚悟していたのだ。最初から、アリスと決着をつけるつもりでこの祭りに参加していたのだ。
早苗は不意に普段魔理沙が言っていた言葉を思い出した。
弾幕はパワーだぜ。そう、全くその通りだ。
パワー、力。それは早苗の憧れ続けたものだ。外の世界、幻想郷関わらず、全ての女という存在の憧れだ。
皆が力や情熱と言ったものを追い続けている。
魔理沙は追うものだ。霊夢であり、師匠の魅魔であり。魔法使いと言う存在そのものであったりする。
それを一心に追っている。そこにパワーと魅力を感じる。
だから皆魔理沙に憧れるのだ。
魔理沙は帽子のツバを指で持ち上げる。覚悟の篭った爽やかな微笑がそこにはあった。
「ここまで、なかなか楽しかったぜ」
「魔理沙……」
「そんな湿った顔すんなテンコ。私も御枝にはハナっから興味が無かったんだ。霊夢にくれてやっても良いとすら思ってたんだぜ」
天子はくしゃっと表情を崩した。
「まあ、でも……」
魔理沙は少し下を向いた。
「今は違うぜ。……御枝はお前達に取ってほしい。本気でそう思ってる」
「う……ま……魔理沙ぁぁ」
天子の目からぼろぉっと涙がこぼれた。
早苗はそれを見て言葉が詰まる。泣いてしまわないように必死で口を覆う。
「絶対勝てよ! 山頂までもう少しだ!」
魔理沙はそう言って早苗と天子の肩を痛い位叩く。魔理沙の熱い思いが、その手を通して体に流れ込んでくる様だった。
天子が言葉にならない声を漏らしながら、何度も頷いている。
「そうだ……コレを、貰ってくれ」
魔理沙はスカートのポケットから小さな包みを二つ取り出した。バレンタインチョコであることが直ぐにわかった。
早苗と天子も手作りのチョコを魔理沙に渡す。三人は互いの心のこもった本命チョコを交換し合った。
「じゃあな! 絶対勝てよっ!! 負けるんじゃないぜ!!」
魔理沙と早苗と天子はがっしりと抱き合った。
もう限界だ。こんなのずるい。
早苗の目から涙が溢れ出てしまった。
天子は既にわんわんと嗚咽を漏らしている。
魔理沙の体がゆっくりと二人から離れた。
「ああ……あと、そうだ……その、何だ……」
魔理沙はホウキに跨りながら一回だけ鼻を啜った。帽子で顔を隠しながら、消え入りそうな声で呟く。
小さな声だったが、早苗と天子にははっきりとその言葉が聞き取れた。
――愛してるんだぜ
風が巻き起こり、早苗は手をかざした。
魔理沙のスカートがふわりと浮かび、ゆらゆらと揺らめき始めている。
魔理沙の体がぶわりと浮かび上がった。そのまま一番高い山の木の上にまで、魔理沙は一気に上昇していった。
「おおーーー!! アリスーー!! 私はここだぜーーっっ!!!」
上空で魔理沙は叫んだ。
「見つけたわよ魔理沙ぁぁ~~!!! 霧雨魔理沙ぁぁ~~~!!!! 」
アリスの禍々しい声が聞こえたかと思うと、魔理沙は一気に飛び去ってしまった。
「魔理沙ぁぁ~~!!! 私を貴方のお雛様にしてぇぇぇぇ~~~~~~っっ!!!!!!!!」
魔理沙を追っていくアリスと人形達の姿が、一瞬だけ木々の間に見えた。
「う……う……魔理沙ぁ……。大好きだよ……」
天子はがっくりと膝をついて泣いている。
早苗もはらはらと泣きながら天子の肩を抱きかかえる。
「早苗ぇ……絶対に勝とうね……! 絶対勝とうね……!!」
天子は泣きながら何度もそう叫んだ。
後ろから大勢の歓声が聞こえてきた。
周りの木々の向こうからも、攻め手側の人妖達の声が聞こえてくる。
博麗側の迂回作戦は失敗に終わったようだった。早苗達のいる部分に戦力が集中しているのだ。
早苗は天子と共に立ち上がった。
見上げれば、もう、すぐ手の届きそうな所に「博麗大明神」の旗が見えた。山頂だ。
「行きましょう! 天子さん!」
早苗と天子は手を繋いで山を駆け上がった。
しかし、山頂までもうあと一息と言う所で、異変が起こった。
あるみ原方面から進出していた、永遠亭の一隊を率いる因幡てゐが博麗側に寝返ったのだ。
「ちぃ!! 何よコレ!!?? ぶざけんじゃないわよっ!!」
「てゐの裏切りです!! 姫っ! お退き下さい!!」
「あんのドクサレ兎があああぁぁぁぁ~~~~~!!!!!」
輝夜の本隊は後背をもろに突かれ一気に浮き足立った。
裏切った兎達が永遠亭本陣になだれ込んでくる。味方の兎達との間でめちゃくちゃの同士討ちが始まった。
総大将輝夜本人の身も危険に晒されていた。
「くっ!! ふざけたマネをっ!! 控えおろうっっ!!」
「姫ぇ!! 危ないっっ!! 退って……きゃーーー!!」
鈴仙がてゐの部隊の兎に押し倒される。
「れ、鈴仙様……っっ!! 鈴仙様……っっ!! はぁ! はぁ!!」
「誰か通報してーーーーっっ!!」
永遠亭の本陣は、たちまち蜂の巣をつついたような大混乱に陥る。
「姫様っっ!! 御武運これまでウサーーっっ!!」
因幡てゐはチョコ人参を握りしめて本陣の輝夜の元に迫る。
懐からは、福女に与えられる副賞の50インチ超薄型テレビの目録が覗いている。
「てゐ……!! あんたナメたマネしてくれんじゃない!!!」
「わ、私が……!! 私が姫の「姫」を卒業させてあげるよーーーっっ!!!」
「通報ーーーーっっ!!!」
永遠亭の混乱は攻め手側の全体にみるみる広がっていった。
「何事だっ!!」
「永遠亭で裏切りです!!」
紅魔館勢の赤坂方面でも、それに乗じた博麗側の反撃がはじまった。
河童達が対吸血鬼用に集めた大量のニンニクを用意する。
紅魔館勢が動揺すると同時に、一気に山頂から大量のニンニクがばら撒かれる。
「お、おお!! お嬢様!! ニンニク!!ニンニクがーーーっっ!!」
「ぎゃーー!! モモヤのばかーーーっっ!!」
レミリアの目ん玉が飛び出した。
前衛の悪魔達がきゃあきゃあ言いながら我先に逃げてくる。ニンニクは吸血鬼のみならず西洋の悪霊全般に効果がある。
悪魔達が逃げ惑うわけである。
「やばい! とんずらですわ!!」
咲夜は主をほったらかしにして上空に飛び上がる。
「ちょ……おめ、咲夜……!! 何自分だけ逃げてんだよぉぉ~~~!!!」
フランドールもそつなく上空に退避する。
「うひゃぁぁーーー!! さいならーー!!」
「く……っ! こっちもクライシスだ……!! 脱出……ぶわ!!」
こんな時にどんくさいのがレミリアだ。自分も逃げようとするが、木々の根っこに足をとられてどてんと転んでいる。
軍服にじゃらじゃらとくっついた勲章や飾りに、草が纏わりつき余計に体の自由を奪う。
雪崩れの様に、山の上からの大量のニンニクが紅魔館勢に襲い掛かった。
ごろごろごろごろー
「ぎゃおーーーーっっ!!!」
「早苗!! 何処!? 早苗ーーーー!!」
混乱は最前線にまで及んだ。天子は飛び出してきた博麗側の妖怪達との戦いの中で、早苗とはぐれてしまっていた。
「早苗ーー!! 早苗ーーーっっ!!!」
天子は山の中で必死に早苗を探した。辺りではあちこちで桃色の白兵戦が展開されている。
不意に何かが天子の足に絡まった。
続いて左手にも何かが絡みつく。
天子は後ろを振り返った。
「ぃいぃぃ!!?? 衣玖ぅぅ!!??」
そこには変態オヤジの様に薄笑いを浮かべる永江衣玖の姿があった。
衣玖は天子の手足に絡まらせた羽衣を、両腕でぐいぐい引き寄せようとしている。
「み……見つけましたよ……っっ!! 総領姫様……っっ!!」
「ちょ……! なんのつもりよ衣玖……っ!! 離してよ……っ!!」
「わ、私の……手作りお魚チョコを……た、食べてもらいますからね……!!」
何それ!? 超不気味っっ!!
衣玖ははぁはぁと気色のわるいテンションで天子を引き寄せようとしている。天子は右手のポッキーで羽衣を切り離そうとした。
「させませんっっ!!」
衣玖は首を振った。衣玖の帽子の触覚が天子の右手に絡みつく。天子の手から、ポッキー剣がガランと地面に落ちた。
「わ、分かってるんですよ……!?」
「う……ぐ……ぎぎ……何がよっ!!」
「そ、総領姫様は……ほ、本当は……恥ずかしがり屋さんで……わ、私の事を想っていても……表には出せないって……っっ!!」
頭を振りかぶった衣玖の帽子のひさしから、ピンク色の炎に燃える瞳がのぞいた。
天子の背筋に悪寒が奔った。
「あ……あのチョコ……!! すばらしい贈り物でした……!! やられました……完全に……っっ!! あの飾りっ気の無さ……!! キタコレ!! って思いましたよ……っっ!! ……テンコちゃんチョコキタコレ!! ……私の嫁キタコレ!! ……キタコレフィーバー!!」
「ぞぞぞ~~~…………!!」
天子は恐怖に身を引きつらせた。
衣玖はよだれを垂らさんばかりの勢いで、天子の身を引き寄せようとする。
血の様な色をした赤い羽衣が、ピンと伸びて二人の間をムリヤリ結んでいた。
「ええぃ!! こうだっっ!!」
天子はとっさに前に向かって転がった。
張り詰めていた羽衣が一気に揺らいで、衣玖は短い悲鳴を上げ後ろに倒れる。
天子は急いで両手の羽衣を引き剥がした。
「お姉さんがお外を歩けない体にしてあげますよーーーっっ!!!」
剣を拾う間もなく衣玖が襲い掛かってくる。
「されてたまるかぁ!!」
天子はそのままの勢いで衣玖を投げ飛ばそうとするが、衣玖は驚異的な粘りをもって地面に踏ん張る。
そのまま二人はもつれ合うようにごろごろと坂を転がった。
「ふぐぐぐぅぅ……!!!」
「ぐおおおぉぉぉ!!!!」
二人は暫くもみ合う。が、不意に衣玖が指を絡ませてきた。そのまま見たことも無い様な器用な手つきで手を締め上げる。
「うぁ……イタタタ……っっ!!」
天子はたちまち後手に腕を締め付けられ地面に転がった。
「はぁ……!! はぁ……!! どうです……!! お姉さんにかかれば……貴方なんて……!! 貴方なんて……っっ!!」
背後で衣玖のいよいよ変態的な吐息が聞こえてきた。事態は切迫していた。
天子の目の前に何かが転がっていた。
魔理沙からもらった本命チョコだ。さっきの揉み合いでポケットから落ちていたのだ。
こ……これは!?
天子は自由な方の左手を伸ばした。何とか魔理沙のチョコの袋をぐしゃりと掴む。
袋の中に後天八卦のマークの入ったチョコが1個だけ入っていた。
「そ、総領姫様……!! ど、どうか私と……フィーバーを……!!」
衣玖が震える手つきでお魚チョコを取り出した。天子は振り向きざまに、そのチョコに八卦チョコを押し付ける。
「魔理沙力を貸して!!」
天子は叫んだ。
「非想非非想天!! マスタアアアァァァァァーーーーースパアアアァァァァーーーーーーーーーーーーク!!!!!!!!!」
ブルーの美しい閃光が森の中を包み込んだ。
「こ……これは……っっ!!?? ……バカな……!?」
衣玖の驚愕に歪んだ顔が、青い光に包まれていく。
博麗の山の一角からブルーの閃光が一直線に天に向かって伸びた。
「あれは!? 天子さん!?」
森の中で戦う早苗にもその光は良く見えた。
天界にまで届こうかと言う美しいブルーの光は、早苗には天子の青い髪の色に見えた。
閃光は雲を突き抜けて暫く光の筋を描いた後、ゆっくりと終息していく。
早苗は光の下に向かって走った。
「べ……別に……私だって、衣玖の事は…………その……あ…………ああ、アイシテルンダカラネ……」
天界に強制転送された衣玖の消えた空を見つめながら、天子は一人で呟いた。
「て! 天子さん!!」
林の中から、早苗が駆け寄ってきた。天子もその名を呼びながら早苗に飛びつく。
「さ、探したよう!! 早苗!!」
「天子さん! いまの光は!?」
「え、えへへ……魔理沙のおかげよ。 ……危ない所を助けてもらったわ」
早苗と天子は合流する。辺りは両軍入り乱れての乱戦となっていた。
もはやどっちが有利になっているのかすらわからない。
天子は早苗と、また一緒に手を繋いで山を登った。
「もう少しだよ! 早苗!! 山頂についたよ!」
天子は喘ぎながら山をのぼる早苗の腕を引っ張った。
山頂の「博麗大明神」の旗に手を掛け、もう片方の手で早苗を引っ張り上げる。
その時だった。
ビン!
天子は脳髄の奥に衝撃を覚えた。
(しまった……っ!!)
頭の側面に冷たいものが当たったのを感じる。敵のパイが当たったのだとぼんやり気づいた。
天子は棒立ちになっていた。
「て……天子さぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁーーーーーーん!!!!!」
早苗が叫んでいる姿が僅かに見えた。
(ちきしょう………………ここまで来たのに……っっ)
明りを失っていく視界と共に、天子の意識が急速に薄れていった。
早苗の目の前で、天子のブルーの髪がフワリと力無く揺らいでいく。
ガサガサガサ……ッッ!!!
棒立ちになって倒れる天子の体を早苗は何とか受け止めた。早苗は天子の体重を支えきれずに、そのまま落ちそうになるのを懸命に堪える。
「ふふふふ……残念だったわね、早苗ぇ……」
山頂で、パイを片手にした博麗霊夢の凶悪な笑顔が、早苗を見下ろしていた。
第3章
どうか私とワルツを
「れ……霊夢…………さん……」
「良くここまで来たわね、早苗。さあ、手を出して。私と一緒に行かない? 同じ巫女同士、一緒に御枝を守りましょうよ」
「な……なんで……。なんで……っっ!!」
早苗は自分に力なく寄りかかる天子を抱きしめた。
天子を抱き上げて何とか山頂に上がる。
山頂では、攻め手側の妖怪達が何人か押し寄せているらしく、所々で小競り合いが始まっている。
「取引をしようって言ってるのよ。私に協力してくれれば、御枝は早苗のものよ? 本当よ。悪い話じゃないでしょ?」
早苗は天子を安全な場所に寝かせつけた。
やや間隔を置いて、霊夢の凶悪な笑みが早苗を見下ろしている。
「霊夢さん……そんな……なんで……」
「御枝が手に入れば福女のご利益は守矢神社のもの……。郷中の信仰が守矢に集まるのよ?」
早苗は天子の髪に付いたクリームを丁寧に拭き取った。
眠るように瞳を閉じている天子の頬を優しく撫でてあげる。
早苗はゆっくりと祓いの棒を握り締めた。
「なぁに。私には副賞の一部をくれるだけで良いわ……。そう…………『ケロコのチョコクッキー1年分』を……ね!」
霊夢の邪悪な瞳がクワッと見開いた。
「霊夢さん……最初から……それが目的で……」
「ぁたりまえじゃないの!!」
被せるような霊夢の冷たい叫びがこだまする。
「福女!? 御枝!? ……フン! ばかばかしい!! そんなものを得て何になるっていうの!? こっちはね、明日の生活だって苦しいのよ!!」
霊夢は両手を広げながら山の下を見下ろす。
博麗の山の周辺では、いたる所で少女達の必死の戦いが繰り広げられていた。
その少女達の情熱が、大輪の華となって咲き乱れている。
霊夢はその眩い輝きを一身に受けながら叫んだ。
「見なさい! 早苗!! バカな連中が、必死になって戦っているわ!! あっはっはっ!! どいつもこいつも、いったい何が楽しいのかしら!? バレンタインだから!? それだけで!? くっくっく……全くおめでたい連中だわ!! あっはっはっはっ!! はあーーーっはっはっはーーーーっっ!!!!!」
「霊…………夢…………」
霊夢は邪悪なオーラを発散させながら狂ったように笑っている。
チョコレートに対する熱い思いが早苗達を突き動かせたように、チョコレートに対する邪悪な執念が、霊夢を変えてしまっていた。
もう早苗の目に前に居るのは、楽園の素敵な巫女ではなかった。
「こんなに素晴らしい食べ物を、何で人にあげなきゃいけないのよ!? チョコレートはね!! 神聖なる食べ物なのよ!! 女の体の一部なの!!」
「あ、あなただって……!! あなただって! 紫さんにあげたんじゃないんですか!? 紫さんに! 愛の篭った本命チョコを!!!」
早苗の叫びに、霊夢はニタァァと振り返る。
その表情は世界一悪そうな笑顔だった。フリーザ様が子供向けキャラに見えるほどの凶悪な笑顔だった。
「ええ……なんせアイツにはお金が掛かってるからね……」
「お……お金……て……」
早苗は紫の胸元に輝いていた「五円チョコ」を思い出した。
「紫ったら……私がちょっとしおらしいフリすると有頂天になっちゃって……くっくっくっ……『私がガンダムだっ!!』なんて叫んでさあ!! あっはっはっ!! 実際アイツは良く働いてくれたわ!! 五円も払ったけど安い買い物だったわね!!」
「ひ…………酷い…………」
確かに酷い。もう何か色んな意味で酷い。
「どいつもこいつも!! 浮かれてんじゃ無いわよ!! 甘ったれてんじゃないわよ!! 生きるっていうのはね!! そんなに生ぬるいモンじゃないのよ!? 愛でお腹が膨れるって言うの!? 愛でチョコ一年分が貰えるっていうのかしら!!??」
霊夢は両手を振り上げて絶叫する。
霊夢の言っていることは、早苗には決して間違いには思えなかった。
これもまた真理なのだ。
しかし、しかし……っ!!
「ゆ…………許せない…………」
「あぁ!?」
霊夢の笑いがぴくりと引きつった。
「自分の欲する物だけを優先して、紫さんや皆の純粋な心を踏みにじる…………私は…………私はあなたを許さないっっ!!!」
早苗の体に緑のオーラが沸き起こった。
同時に今まで苦難の道を共にしてきた、仲間達の顔が浮かんだ。
パルスィ、ヤマメ、キスメ、小傘、三月精やその他の妖怪達。そして魔理沙と天子。
「くっくっくっ……ばかな娘……早苗……。アンタはもっと話の分かる奴だと思ってたわ……。そう……あのイナバの様にね……っっ!!」
「く……!! それじゃあ……あの裏切りも……!!」
「そうよ! 全ては私の手のひらの上での出来事!! もうじき攻撃も息切れするわ! 結局は最後に主人公が勝つの! そう言う筋書きなのよ!!」
「この……!! 外道っっ!!」
早苗は霊夢に飛び掛った。
博麗の山頂で、霊夢と早苗はもみくちゃになりながらごろごろと転がる。
「ううくぅぅぅ……!!!」
「うぐおおぉぉぉ!!!!」
早苗はとにかく力の限り霊夢に掴みかかる。
霊夢は流石に異変解決の専門家なだけあって、体の使い方が旨い。格闘技も幾らか心得がある様だった。
それに対して、早苗の体は限界に近づいていた。感情の高ぶりに反して、足腰にもう力が入らない。
「く、くくく……!! お、思った通りだわ……!! 所詮は非力な小娘!! ココまでの行程が体に堪えない筈は無い……っ!!」
「うぅぅ……!! くくぅ……っっ!!」
霊夢はたちまち早苗の体を組み伏せた。
早苗の両手を押さえ込み、体の上に馬乗りになる。
「はぁ! はぁ!! く、ふへへへ……!! どうしたのよ……っっ!? 私を倒すんじゃなかったの……っっ!?」
「ううぐぐ……!! くそぉ……!! くそぉ……!!」
早苗はばたばたともがこうとするが体がもう言う事を聞かない。
霊夢は息を荒げながら、懐からパイの包みを取り出した。口でビニールをビリビリと破き、真っ白いクリームを露にする。
「へっへっ……!! 所詮はお子ちゃまの理想論……!! 2Pの限界よ……!! どうやら反則技の『奇跡』もココまでの様ね……っっ!!」
「私は……っっ!! 負けない……っっ!! あなたなんかに!!」
早苗は力一杯叫ぶ。しかし、どんなにがんばってもこの絶望的な状況は変わらない。
霊夢はべろぉ! と舌を出してパイを舐めている。ジョジョだか北斗の拳だかのザコキャラのような最低の表情で笑っている。
霊夢のパイが顔の近くに突きつけられた。早苗は必死で顔を振るが、霊夢はその様子を楽しんでいるようだ。
早苗の叫びが最後の抵抗になろうとしていた。
コオオォォォ…………ン……
コォォォ…………ン…………
水の中に居る様な不思議な感覚がした。
(あれ……? ここは何処だろう……?)
意識がぼんやりと、まるで幽霊の様に宙を漂っているみたいだった。
比那名居天子は深海を漂う魚達の様に混濁の海の中を彷徨っていた。
(あ…………そうか…………私…………最後にパイに当たって…………)
コオオォォォォ…………ン…………
(何だろう? ……さっきから……この変な音……)
水の中で、外の音を聞いている時のような、不思議な音が辺りに響いている。
天子は耳を澄ました。
~~~~~~~~~~~
音は何かの声の様に聞こえた。誰かの話し声だ。
何かを怒鳴りあっている。うるさいなぁ。もっと静かにしてくれないかなぁ。
(うるさいかい?)
不意に誰かの声がした。
あれ? と思っていると、気がつけば目の前に女の人が居た。
(あんただれ?)
天子は目の前の女性に話しかける。
すごく綺麗な人だった。緑色の髪をした頭の上に、とんがった帽子を被っていて、変なステッキを肩に担いでいる。
この辺では見かけない顔だ。
でも、不思議とどこかで会ったことがあるような気もする。
いや、それも違う。誰かに似ているのだ。
誰だったかな?
(お前、自分がリタイアした気になってるだろう?)
(はあ? 気になってるって、パイが当たったんだよ? 頭に。完全にダメじゃん。アウトじゃん)
天子は目の前の女性に向かって、あきれた顔で手を振る。
その女性は、逆に首をふるふる振りながら、ため息なんか付いている。天子はちょっとムカッとした。
(ダメだねぇ……! 最近の娘は! コレだからゆとり世代は……。アンタ手を動かしてみな。耳を澄ましてみな! 出来る筈だ。アンタまだ終わっちゃあいないんだよ! わかるかい!? 全く……このゆとりが! 直ぐに諦めるんじゃないよ! このゆとり! にとり!!)
(何よ! ゆとりにとりって! 私だって好きでこの世代に生まれたわけじゃないんだから!!)
(ぐだぐだうるせぇんだよ!! このゆとりがぁ!! いいからやってみろっつってんだよ!!)
女の人はキバを剥いて天子に怒鳴りかかる。
その表情はとても誰かに良く似ていて……天子はぐちぐち言いながらも思わず手を動かしてみた。
砂を掴む感触が確かにした。
天子はびっくりして耳を澄ます。
「……っっては私の手のひらの上での出来事!! もうじき攻撃も息切れするわ! 結局は最後に主人公が勝つの! そう言う筋書きなのよ!!」
遠かった音が、今度ははっきりと聞こえた。
霊夢の怒鳴り声だ。
そうだ。早苗はどうした。御枝は?皆は?
助けないと。
(どうやら分かったようだね。ええ? このガキんちょが。お前はまだ十分やれるんだ。戦力外じゃないんだよ!!)
(すっごーい! ホントだぁ! アンタすごいね! ありがとうっ!)
天子は飛び上がって喜んだ。まだやれる、早苗と戦える。そう思うと急速に力が戻ってくるのを感じた。
(ふん。なかなか素直じゃないか。そうだよ、そうやっていりゃあかわいいモンなのさ)
(ありがとうね! ババア! じゃないニューババア! 、てニューババアもういるか。じゃあターンエーババアだ!)
(誰がターンエーババアだっっ!!)
女の人は天子に向かって怒鳴っている。彼女の青いローブがイヌの毛の様に逆立っている。
その格好はまるで魔法使いみたいで、それで……。
天子の意識は混濁の海から離れていった。天上に、光が差した水面が見えるようだった。
(ちょ!! 待てー!! このクソガキー!! 私の格の違いを見せつけてやんよ!! 降りてこーい!! このにとりーーー!!)
女の人は散々喚き散らしながら下で暴れている。
その声も段々と小さくなっていった。小さくなってもわーわー言う声が最後まで聞こえた。
なんだかこの人すごいパワーだなあと思ったのが最後になった。
「はっ!」
目の前に砂の地面が見えた。
天子はおそるおそる自分の体をさすってみる。
何処にも怪我は無かった。頭を触ってみたが、指先にちょっとクリームの跡が付いただけだった。
(そうか! 顔面じゃなかったからダメージが少なかったんだ……!)
天子は、はっとなって起き上がる。パイを食らった分ダメージが無いとは言えなかったが、体はなんとか動いてくれた。
「へっへっ……!! 所詮はお子ちゃまの理想論……!! 2Pの限界よ……!! どうやら反則技の『奇跡』もココまでの様ね……っっ!!」
霊夢の声がした。
見ると何と少し離れた場所で、霊夢が早苗に馬乗りになっているではないか。今まさに早苗の顔面に凶悪なパイを押し付けようとしている所だった。
「私は……っっ!! 負けない……っっ!! あなたなんかに!!」
天子は慌てて辺りを見渡した。
天子の直ぐそばに、二つの包みが落ちている。天子と魔理沙の本命チョコだ。早苗が揉み合う内に落としたのだろう。
天子は夢中で這って、その包みを握り締める。先程の衣玖との闘いがフラッシュバックした。
「早苗ぇぇぇーーーーーーーーーっっっ!!!」
天子は力の限り叫ぶ。頭にズキンと痛みが奔った。
「て、天子さんっ!! 天子さーーーーんっっ!!!」
早苗は天子に気がついた。泣き出さんばかりの表情で喜んでくれている。
天子の心に勇気が湧いた。
「な……っっ!? この、死にぞこないめ……!!」
霊夢もさすがに驚愕に目を見開いている。その間に一瞬のスキが出来た。
「早苗ーーー!!!! 大好きだよーーーーーーーーっっ!!!!」
天子は力いっぱいチョコを投げた。天子と魔理沙の手作りチョコだ。
「あんぱんま~~ん!!ぅあたらすぃい顔よぉぉぉ!!」 的なテンションで天子のチョコが宙に舞う。
早苗は口を開けて首を伸ばした。
霊夢の凶悪な眼差しが、スローモーションでそれを追いかける。
ぱっくり!
チョコは奇跡的な軌道を描いて早苗の口に収まった。
次の瞬間早苗の緑色のオーラが爆発した。
「うううぅぅぅぅううう~~~~~まああああぁぁぁぁあああいいいいぃぃぃいいい~~~~~ぞおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
早苗は霊夢を弾き飛ばした。
「ば、ばぁかなぁぁ!! こんな奴の何処にこれほどのチカラが!!!!???」
「分かりませんか!!!?? コレが愛の力ですっっ!!!!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!
早苗の背後に神奈子と諏訪子の二柱のスタンドが立ち上がった。
ていうか本人だった。
二柱はそれぞれの本命チョコを手に、霊夢に最強ラッシュを見舞う。その手には早苗のお手製の本命チョコもしっかりと握られている。
ボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラ!!!!!!!!!!!!!!!
ボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラ!!!!!!!!!!!!!!!
霊夢は守矢一家の凶悪チョコを食らって吹っ飛んだ。
「ばかなぁぁ!! 何世紀も未来へ!!! 永遠(とわ)へ………!!! 生きるはずのこの巫女がああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「散滅すべし悪巫女!!!」
神奈子がズザアァァ!!! と迫力あるフィニッシュを決める。何かすっごいかっこよかった。
「むぐあああああぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁ~~~~~!!!!!!!」
「断末魔! この世にしがみつく悪鬼の最期のあがきよ!!」
諏訪子が座ったままの姿勢で跳躍している。変なキメ方だった。
そして何にもしていない早苗が、すっごいイイ表情で最後を締めた。
「ボラーレ・ヴィーアッッ!!! (空を!飛んでいきなっっ!!)」
* * * * *
紺色の空に、小さな星々が瞬いている。
博麗の山はまるでクリスマスツリーの様に、夜の闇を明るく照らしていた。
山は両軍一緒になっての宴会に突入していた。
もうお互い敵味方ではない。いつもの幻想郷の、仲良しなみんなの日常が戻ったのだ。
博麗方の御枝は結果的には夜を待たずに奪取されていた。
見事福女の称号を手にしたのは、何と水橋パルスィだった。
「う……うう…………うぐぐ…………」
パルスィは感激のあまり、さっきからずっと泣いている。
一旦脱落したかに見えたパルスィであったが、星熊勇儀と二人で山に再挑戦した結果、見事御枝を手にする事に成功したのだ。
そもそも勇儀は元々攻め手側の妖怪だったらしい。早苗達はあの時飛び出してきた妖怪達とごちゃごちゃになっていた為、てっきり敵だと思い込んでいたのだ。
時に2月14日 午後5時ちょうどの事であった。
宴もたけなわになってきた頃、博麗神社山頂で、福女の記者会見が行なわれた。
壇上に情けない泣き顔のパルスィが上がる。胸にはしっかりと『御枝』のカカオの葉を抱きしめている。
普段あまり目立つ場面が少ない為、パルスィは泣きながらもガチガチに緊張していた。
その姿はたちまちシャッターの光に包まれた。
「おおい! しっかりしろーー!! パルスィ!! それでも私の部隊のメンバーか!!」
魔理沙が元気良く群集の中からパルスィを冷やかす。
「パルスィさーーん! しっかりーー!!」
早苗も声を上げて声援を送る。
「あ、文さんっっ!! 早く! 早くっっ!!!」
記者会見と同時に、天狗達には妖怪の山に戻る許可が出ていた。
哨戒天狗の犬走椛がその場で駆け足をしながら文をせかしている。この原稿を記事にして、山にある印刷所で印刷しなければならない。
郷中に号外を撒くためである。
「これが一面! 大見出しでね! トップにはこの写真つかってっ! あとこれとこれをを貼ッ付けて適当に文字を散らしてっ!!」
「わかりましたっっ!!」
射命丸文は記者会見が始まってもいないのに、メモと写真を数枚椛の手に握らせている。
椛はまるで矢の様にその場から走り去っていった。彼女のいた場所に軽い空気のつむじが起こっていた。
「はいはい!! ちょっと、どいてどいて!」
続いて文はマイクを手に殺気立った表情で壇上に向かう。
彼女の他にも、沢山の天狗達が福女のパルスィの周りに群がっている。
天狗達にとってはむしろココからが本番だ。いち早く郷中に速報を届けなければならないからだ。
文はむぎゅ! とパルスィのほっぺに強引にマイクを突きつける。
「パルスィさんっ! どうですか!? 今どんな気分ですか!? どうなんですか!? どうなんですか!!???」
文はいの一番に強引で乱暴な質問を浴びせる。一呼吸遅れて周りからは機関銃の様に質問の嵐が巻き起こり始めた。
「う……あぁぁ……うぅうゎ……」
パルスィは泣きはらした顔のまま驚いて狼狽している。天狗達は彼女の呻きを勝手に記事に起して書きとめている。
文はどうせこうなるだろうと、既にパルスィの言葉を適当に書いて椛に握らせていたのだ。
「ちょっと!!! 何か言ってよ!! 分かんないじゃないっ!! 何でもいいから言いなさいよっっ!!!」
周りの天狗達はほとんど脅しに近いインタビューでパルスィの小さな体を揉みくちゃにしている。
パルスィは血走った顔の天狗達に引っ張られながら、本気で泣き始めていた。
「実にエキサイティングな戦だったねぇ! 私は元々弱い方に付きたかったから迷ったんだが、やはり博麗方に付いた方がよかったかもしれないねぇ」
パルスィの横の少ブースでは同着の星熊勇儀のインタビューが行なわれている。
天狗達は勇儀には打って変わって、非常に丁寧に親切にへこへこ接していた。
早苗はちょっと心配そうに笑いながら。パルスィの様子を見守っている。
「早苗、惜しかったね」
天子が肩をやさしく叩いた。
なにしろ、天子達が御枝を見つけたのは、パルスィが御枝をとったすぐ後なのだから。
まさにタッチの差だったといえる。
でも早苗は別にそれでよかった。むしろ自分の部隊のメンバーの中から、福女が出た事はとても誇らしい事に思えた。
「チョコは……チョコレートは神聖な食べ物なんです。女の体の一部なんです。それを……それをあげるのがバレンタインなんです。女の全てを掛けるのがバレンタインなんです。だから悔いなんてありません」
早苗は天子に微笑んだ。天子は紅い顔をして「そ、そうっ……」と呟いて下を向いた。
「その通りよ。こんな素晴らしい食べ物を人にあげるんだから。それだけ大切な行事なのよ。」
霊夢がほくほくの表情で後ろで微笑んでいる。
なんだかんだで霊夢はモテている為、本命のチョコが本殿の裏に山の様に集まったのだ。
特に紫の持ってきた量は常軌を逸していた。全部で2年分くらいはあるかもしれない。
早苗は今後の霊夢の食生活を思うとちょっと心配になったが、霊夢の未来にはバラ色の楽園が広がっているのだろう。
まさに楽園の巫女の面目躍如といった所だ。
会見の後、神社の周辺では、再び宴会が再開されていた。
敵も味方も、妖怪も人間も、肩を組んで杯を酌み交わしている
「古明地さとり! 歌いま~~す!!」
「おおー!! いいぞーー!! やれやれ~~!!」
少女達は各所で歌い、踊り、弾幕を夜空に弾けさせた。
お酒を囲んで、皆はそれぞれ何処でどうしていたかの武勇伝が始まる。
天子は気を失っていた間の不思議な体験談を話してくれたが、記憶が既に曖昧だった為、話の内容は良く分からなかった。
夢に確か魔理沙が出てきたような気がする、と言う事だけは覚えているらしい。
早苗は皆からお酒を勧められたが、今度は頑なに断った。
今夜は起きていようと思ったのだ。いや、起きていたい。
彼女達のパワーについて行きたいと思ったのだ。その為には歌だって歌うし、踊りだって踊るのだ。
「お~い! 次誰が歌うの~~!!?」
地霊殿のお燐がマイクを振り回している。
その横であうあうと、未練がましくマイクに手を伸ばすさとりが見える。
早苗はよし!と意を決して立ち上がった。同時に誰かが立ち上がっている。
周りから大きな驚きの声があがった。
「ぅぅええぇぇぇ!!!? 映姫様ぁぁ!!???」
「ぶ!! 早苗ぇ!! マジでぇぇぇ!??」
口をへの字にして真っ赤な顔で立ち上がる四季映姫と目が合った。
彼女も普段は殺伐とした仕事に明け暮れる毎日だ。考える事は同じなのかもしれないと早苗は思った。
よーし! 私も歌うぜ! と魔理沙が立ち上がると、我も我もと、周りの仲間達は次々に立ち上がった。
「えへへ」
最後に天子が立ち上がる。
「じゃあ……私も」
天子は照れくさそうにしながらスカートをぱんぱんと払っている。
早苗の顔に満面の笑みが浮かんだ。
「あら天子さん。私と踊って頂けるのでしょうか?」
早苗はふざけて天子の真似をして髪をかきあげた。
自分の緑の髪が視界に入った時、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、まんざらでもないなと思ってしまった。
光り輝く星々と、山の明りが少女達の姿をステージの様に照らし出した。
天子は小さく笑って、スカートを摘んで膝を折った。
早苗は膝を曲げ、手のひらを差し出した。
早苗の手の上に、天子の手の優しい温もりが重なっていた。
踊って、歌って、叫んで、狂って、花になって夢を見ましょう。
どうか私と。
(了)
小傘(後、何箇所かなってました
何か、もうね凄いですわwwwwこれしか言えないww
作者の熱意は十分伝わったwww
とコメント書いてる最中にまた余震が……茨城北部で震度5強だと…!?
ひしひしと感じられて幸せな作品でした。ありがとうございました
そんなことをしみじみと思い起こさせ、深く考えさせられる超大作でした(嘘
というか、ポッキーで人が殴れるって、幻想郷こえぇっす(笑)
閑話休題、お三方ともご無事で何よりです。
しばらく投稿がなかったので少し不安に思っていましたが安心しました。
さて、作品ですが、相も変わらずの謎の感動と、尚且つ怒濤のネタの連続にニヤリとさせられ、一気に読み終わってしまいました。
早苗&天子主役だったので仕方がないとはおもいましたが、各所で別のドラマが展開されていたようで、そっちももっと見てみたかった気もします。
まあ、私的にはパルスィが福女になったので嬉しい限りなのでした。
ではでは、もう一回じっくり読んできます(笑)
紫様のジオングに何故か納得。
キスメちゃんには凄く和んだ。
にとりはルパン乙、アリスはなまはげ乙。
衣玖さんのお魚チョコはなんか生臭そう。
霊夢はマジでかっこよすぎんだろ。ジャギ&アミバ様好きの俺としては、この凶悪かつ小物臭さ溢れる霊夢は大好き。
天子や魔理沙、そして早苗さん。言うまでも無く最高だろ?
つーか幻想郷の少女達、いや住民達は皆最高だ。
最後に作者様。ありがとう、凄ぇパワーをもらったぜ!!
素敵な幻想郷をありがとう!!
さて、本編を読んで感じた事。
ぬおおぉぉおおぉぉ! レッド・ク○フPart2初見の興奮がまたありありと!! アリアリとォォォ!!!
まず、さなてんのほのぼのから始まり、レミ様の十字軍&白蓮教一向一揆軍で心を鷲づかみにされました。大軍大好き!
開戦前の緊張、最前線の決死の攻防、そして友情、ロマンス、勝利。さらに熱くたぎる汗に過激なギャグ!
全てが渾然一体となり、しかも最後まで目が離せない構成と幻想的なフィナーレ。
ルナティック。まさに最上級の作品と言っても過言ではないと確信しています。
しかし一番素晴らしいと感じたのは、幻想郷の少女たちが生き生きと、しかも心底楽しそうに描かれている点だと思います。
早苗さんや天子さんの頑張りを想像していたら、こちらまで体を動かしたくなりました。こういうのやりたい……
最後に、超大作お疲れ様でした。言葉いできない程とても良い物を堪能しました。
これからも微力ながら応援し続けたいと思っております。よろしくお願いいたします。
外の世界の文化が独自に解釈されて幻想郷ならではのお祭りにというのも確かにありですね。
面白かったです。
体が無事で奇声が出せればいう事なしだよ。本当によかった!
またこれからも紳士な奇声をきかせて! お嬢様
ご無事で何よりです。それ以上の事はございません。
ありがとうございます。 冥途蝶
よかったぁぁ~~!!ていうか直ぐ読んでくれてますね!?
ありがとうございます!今も何処かで奇声をあげていてくれると思う
と心から安心します。本当にヨカッタ!! 超門番
4番様 揺れたね。うん。また心が折れかけたよwww
でも熱意が届いてよかった!これからも一緒にがんばろうね! お嬢様
ありがとうございます。楽しんでいただけたようでございますね。
余震はまだ怖いですが、十分注意してください。 冥途蝶
ありがとうございます!みんなで一緒にがんばっていきましょうね!
こわいですけど! 超門番
5番様 長いお話だったけど読んでくれてありがとう!!
少しでも気晴らしになればそれで十分よ。変なお話だったから投稿しよ
うか迷ったんだけどね。ホントありがとう! お嬢様
本当にありがとうございます。長い話でしたがお読みくださりお礼の言葉
もございません。本当に感謝致します。 冥途蝶
丁寧なコメントありがとうございます!めちゃくちゃでどうかなと思った
んですがお一人でも読んでいただければ大成功です!これからも元気を出
して無事健康に過ごして下さいね! 超門番
お腹が空く様 空腹さん!!無事だったんだね!!本当によかったよ!!大変な時期でコ
ンビニに食べ物も無くって、空腹さんの事が頭をよぎったよ、ホントに。
餓死してないかな~てww でも元気そうでよかった!これからもどうか
よろしく!どうか私と! お嬢様
ご心配をお掛けいたしました。私達は元気です。震災後最初に三人顔を合
わせた時はホント泣きそうになりました。こうやって変な話を作って、少
しでも皆様の気晴らしになればと思う次第です。ありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願い致します。 冥途蝶
お腹が空いてるさん!!!ご無事でーー!!えがったーーー!!
丁寧なコメントありがとうございます!逆に励まされますね~!これから
もどうか無事でお腹を空かせて下さいね。 超門番
8番様 あら?常連様っぽいね。ありがとう!そして無事で何より!
ホントめちゃくちゃなお話だったけど楽しんでもらえてよかった~!
どうか次回も見に来てみて! お嬢様
ご無事で何よりです。どうもありがとうございました。 冥途蝶
読んでくれてありがとうございます!次の新作もどうかよろしくおねがい
します! 超門番
コチドリ様 おっと!有名人さん!!
こんな変なお話を見てもらって光栄だよ!後、地震の影響無かったんだね。
無事で何よりだよ。ていうか誤字めちゃくちゃ多いし!!きゃ=!何かもう
お子ちゃまの文章丸出しって感じだね~。丁寧に教えてくれてありがとう!
いまからせかせか直しま~す! お嬢様
有名な方に見ていただいて本当にありがとうございます。不安が多い話でし
たが、自信になります。このパワーが届いて くれたら私は嬉しいです!
冥途蝶
うん、誤字や表現の間違いあるだろうな~とは思ってました!流石に立派な
読み手の人には通用しないですね。。これからもっとがんばって直していき
たいと思います。どうもありがとございました!
「パルスィー」は私の担当パートだぁ・・ 超門番
15番様 パワーが伝って何より!!どうもありがとう!!めちゃくちゃなのはわかって
たけど受け入れてくれてちょっとホッとしてる。これからも一緒に元気でがん
ばろうね!次回もどうかお楽しみに! お嬢様
ながい話でしたが、お読みいただいてありがとうございます。
大変ですがパワーで乗り切りましょう!! 冥途蝶
ありがとうございます!!どうかこれからもよろしくおねがいします!!
超門番
18番様 天子は私が一押しキャラだからね~。気に入ってもらえてありがとう!
幻想郷の皆のパワーが伝われば大成功!これから皆大変だけどパワーで乗りき
ろうね!どうもありがとう!! お嬢様
ありがとうございます。早苗ちんとテンコの視点がころころ変わって読みにく
かったかもしれませんが、お読みいただき光栄でございます。どうか次回もよ
ろしければご覧下さいませ。 冥途蝶
二人の視点が入れ替わるのは、二人が踊ってるように見せたかったからなんです
けど・・どうでもいいですよね!ありがとうございました!! 超門番
20番様 読んでくれてどうもありがとう!
このお話は二人の視点がころころ入れ替わるんだけど、それは二人が踊ってる様
にみせたかったからなのよ。わかったかな?わかりにくいけど! お嬢様
緑の髪とブルーの髪ってとってもあこがれます。実際にしてみると変ですけど。
長いお話でしたが、ここまでお付き合いいただき有り難うございました。冥途蝶
この二人は清潔感ありますよね。最近早苗ちんネタが多いのは私達がお気に入り
だからなんですけど、テンコは去年出番が少なかったからなんですね=。気に入
ってもらえてとても光栄です! 超門番
24番様 そこ!?
う~んとってもハイセンスな目線だね!毒舌な白蓮は何時かやりたいって思うんだ。
よんでくれてどうもありがとう! お嬢様
そこかよ!て感じですわ。目の付け所がまさに古明地です。 冥途蝶
うん。変に感心しました。アッパレですね~!
ちなみにこれは私のネタ。。ちょっと嬉しいです。。 超門番
がま口様 がまさんありがとう!いっつも読んでくれて足長がまさんだね。
長いお話だったけど、三人で分けて書いてるからそんなに大変でもなかったよ!
でも三人のネタ調整は一人でやるより大変かもね。最近がまさんの動きが活発にな
ってきて嬉しい。次のお話楽しみにしてるよ~!! お嬢様
いつもコメントありがとうございます。本当に丁寧にお読み下さっているのですね。
早苗ちんとテンコは好きなキャラですからネタが色々湧いてきて調整するのが大変
でした。レッドクリフ最高ですね!孔明様超素敵でした! 冥途蝶
早苗ちんとテンコの視点が頻繁に入れ替わるのは二人が踊っているように見せたかっ
たからなんです。わかりにくですけどね!お話はめちゃくちゃですけど、とにかく
パワーが届けばいいと思って出しました。何かと暗い話題ばっかりですけどがんがん
パワーのあるお話書いていきましょう!どうか私と! 超門番
29番様 読んでくれてどうもありがとう!
一見してバレンタインよりお祭りって感じが残れば大成功だよ!とにかくパワーを届
けようって言うのが今回のテーマ。おそまつさま! お嬢様
ありがとうございます。不安がかなりありましたが投稿してよかったです。長い話で
したが、お読みいただきありがとうございました。 冥途蝶
パワーが伝わりましたか?わけの分からないパワーが!好き嫌い分かれる作風だと思い
ますけど、気に入ってもらえてよかったです!どうか次回も私とワルツを! 超門番
物語の勢いに圧倒されました。
ていうかタイムリーだね。今色々直してたところだよ。
食べ物で遊んでるってわけじゃあ無いんだけどね~・・この説明どこ
かに入れようと思ってたんだけど、削ったんだよ。クドくなるかな~て
思ったから。それは入れるべきだっかもしんない・・ お嬢様
やっぱり入れるべきでした。どこかにさりげなくって形ができたと思い
ます。これは今のご時勢反省点でございますね。ありがとうございます。
桜田様の次回作も楽しみにしております。 冥途蝶
ぴよこさんも無事だったんですね!長ったらしいけど読んでいただいて
ありがとうございます!また新作を期待してます! 超門番
久しぶりのグルメ泥棒タグと期待していましたが、やはりこの雰囲気と勢い、最高です!
無駄に熱くなったり、ネタに大いに笑ったりと、とても楽しめた作品でした!
長ったらしいお話だったけど最後まで読んでくれてありがとう!!
元気出して乗り切って行こうね! お嬢様
どうもありがとうございます。皆様に無事なコメントを頂いて心底
ホッと致します。これからもペースを上げていきたいと思いますので
どうかご期待ください。 冥途蝶
久々にこういう勢いあるの読んだなあ。元気が出たぜ。
ところでお魚チョコってどんなの!!?
早苗さんの開戦前の緊張感や、戦闘の心理描写が丁寧でこちらも白熱しました。
天子いい子!魔理沙は男前!!霊夢は真の悪役を怪演してくれて脇を固めるメンバーも
すごくいい味を出していたと思います。皆にお疲れ様と言いたいですね。
元気が出る作品!ごちそうさまでした!
ご無事で何よりです。こちらは仕事上では難儀しておりますが、生活に支障はありません。
こんな時だからこそ明るい『モノ』を出していきたいですね。
【天子は冬特有の強い横風に身を任せ、くるくると体を横転させながら進路を東にとった】
【「ここにあるこのイス」そのものを買ったのだ】
【三角巾の隙間からびんが僅かに覗いている】
はー、うまいなぁー。どなたのパート?
天子の気質が丁寧に描写されていて素晴らしかった、天子のファンになりました。
休戦中の食事、とっても美味そうです。
攻守のメンバー配分も絶妙ですね。
魔理沙が何気にカッコイイ。
ジオング紫、涙を誘われました。
気持ちいいほど極悪外道な霊夢。
寝返るてゐ、うーん、そうこなくちゃ。
どんくさいレミリア、あはは。
あれ? チルノは?
疎ましいパルスィと勇儀、実は味方同士とは。何やってんだキミたち。
(現在製作中の話は勇パルメインです、参考にさせていただきます)
そして、【通報ーーーーっっ!!】でもきっと誰も助けに来ない(笑)。
以前、シシャモ入りチョコを食べましたが、あれはよっぽど体調が良いときに限りますね。
甘塩っぱいのは悪くないにしても、海の生臭さとチョコの香りが凄まじい不協和音です。
鼻をつまんで食べても、いつまでも舌に残る不快感、オススメしかねます。
というかさすがの霊夢でも死ぬだろうソレはw
現実のバレンタインもこれくらいアグレッシブなお祭りだったらきっと皆たのしいのに。
チョコ投げあって国民総チョコレートフォンデュ状態になるのも面白そうだ。
誤字報告
>>早苗は成る程もっもだと言わんばかりの顔をした。
「もっとも」の「と」が抜けている。
>>「嫁に行けない体にしてやるからね~~!!! うへへへ==」
シフト押しっぱなしで長音記号打ったのかそれとも敢えてなのか。
幻想郷の住人が次々出てきてワクワクしました。
詰め込みすぎで出そうかどうしようか迷ったんだけど、出してよかったかな~て思う。
また次回のお話もお楽しみに! お嬢様
どうもありがとうございます。お魚チョコはお嬢様の謎ネタです。
私にはとても理解できる境地ではございません。 冥途蝶
超不気味!?ですよね~・・ 超門番
36番様 どうもありがとう!へえ~・なるほどね~。映画評論みたいなコメントだね~。
私も映画にはうるさいからね。話が合いそう!よかったら次回も映画的なコメントよろ
しく! お嬢様
霊夢の悪役ぶりはとても書いていて楽しかったです。
またこんな霊夢を書いてみたいですね。丁寧なコメントどうもありがとうございます。
冥途蝶
私達は映画好きですからね~。一年に10本くらい見てますよ~
また評論おねがいしますね! 超門番
寅丸先生 寅さんけっっこう心配したよ~~!!!無事確認だね!
知り合いから連絡無いのってホント不安だよね~。友達とメールや電話できなくてハラ
ハラして眠れなかったよ。でも一応ここの人達も元気そうでよかった!それが一番!
ていうか寅さん働いてる人なんだね。そうじゃないかな~て思ってたよ。働いてる人も
ココ見に来るんだね~!ちなみにセンセイのお気に入りパートは私の担当。ありがたや!
お嬢様
シシャモ入りチョコに大感心です。以前イナゴを食べましたがとても香ばしくて素晴ら
しいものでした。是非ともスタディしてみたいと思うこの頃です。遅れましたが無事で
何よりでした。パルスィの話楽しみにしております。 冥途蝶
ジオングゆかりんは私のネタですからねっ!センセイご無事で何よりです!お仕事大変
なんですね。私のパパンも会社がめちゃくちゃになったそうで大変そうでした。がんば
って!!私はししゃもチョコはちょっとぉ・・ 超門番
39番様 どうもありがとう!魅魔さんネタは突っ込んでくれるとお蝶がよろこびますwww
最後のスリー守矢アタックの辺りはもう形式化しつつあるよねww元気になってくれれば
一番!感謝感激よ! お嬢様
ありがとうございます。魅魔さんネタに突っ込んでいただき感謝感激でございます。
今回ははっちゃけ気味の話でしたが楽しんでもらえて光栄でございます。大変な時期だ
とは思いますが、がんばって乗り切っていきましょう。 冥途蝶
ありがとうございます! うん。霊夢死にますねwwwたぶん。
魅魔様ネタの突っ込み、ありがとうございます! 超門番
愚迂多良童子様 おわっと!?名高いぐ~たらさんだ!!こういう有名なコメンテーターの人に見てもらえる
なんて光栄です!めちゃくちゃな文章だけどありがとうございます!
「うへへ==」のくだりはわざと・・。なんか笑ってる様にみえたからで・・。
誤字またあった!うへ~ すぐに直しま~す!! お嬢様
お読みいただいてありがとうございます。
有名な方にみてもらって感激です。私達の話なんかもちゃんと見ていただいているのです
ね。なんというか凄く恥ずかしい気もします。こう言う名高い方にコメントをしていただ
けると「またやろっかな・」と言う気分になります。とっても感動しました。どうもあり
がとうございます! 冥途蝶
ありがとうございます!とても感激です!
バレンタインはとっくに終っちゃいましたけどもっと楽しいお祭りにできたらいいな~と
思って書きました。チョコ投げでチョコにまみれてみたいですよ~っ!! 超門番
41番様 読んでくれてどうもありがとう!!
いつものテンションではっちゃけ過ぎたかな~・て思ったけど反省はしていない!
お話は楽しいのが一番だからね。よろこんでもらえて最高!次回のお話もお楽しみに!!
お嬢様
登場キャラ確かに多いですね・・。言われて気づいた感じです。
出そうかどうしようか微妙な感じだったんですけど出してよかったです。またよかったら
見に来てください。どうもありがとうございます。 冥途蝶
明るいコメントありがとうございます!暇つぶしにでもなれば万々歳だぜです。
どうかまた読みに来てくださいね!ありがとうございました! 超門番
楽しい幻想郷をありがとうございました!
ながながとしたお話に付き合ってくれて感謝!
もう少しで新作出すからまた見にきてね! お嬢様
おもしれえかったですか!?ドタバタした話でしたけど
ありがとうございます!復興祈願ですよ! 超門番
でも思った以上に楽しんでくれた人が居て感謝!
どうか新作も見にきてねー! お嬢様
ベリーマッチです!!いまから見るともっと削った
方がよかったかな~とか思うところ沢山ありますが・
まあ次回以降の反省点ですね! 超門番
復興祈願のはっちゃけばなしになっちゃったけど楽しんで
もらえたかな?かな?また新しいの書くからよかったら見に来て
みてねーー!! お嬢様
感謝感激です!最近いいニュースないですから元気なのにしよう
と思って書きました。喜んでもらえてうれしいです! 超門番
読んでいるだけでこちらも昂ぶるぜ
まさに祭りで狂喜乱舞
アリスの物凄いナマハゲ臭に笑いました
このお話はだらだら長かったけど力作だから評価してもらえて嬉しすぎ。
元気を出してもらえたらソレが一番!! お嬢様
他の誰かもいってましたけどアリスがナマハゲに見えるんですねwww
この作品は地震の前には出来てたんですが、いろいろあって苦労したお話でした。
どうかまた見に来てくださいね。ありがとうございます! 超門番
さっと読み返してみても狂人じみてるww これ読む人はホントすごいww もう何
か多くを語れないって気持ちがわかるよ。 お嬢様
ありがとうございます。これなかなか読もうって気になりませんよ!読んでくれただ
けでも感謝ですね~!「私はがんばって書いたな~」て感じですごく好きですね!
超門番
中盤、熱くなってきたなぁ、と思いながら読んでました。
どんどんエスカレートしていく状況、キャラ達!
半ばから焼肉争奪戦を思い出してましたw
しかし、食べ物を美味しそうに書くなぁw
そして蝶門番さん自重、って書くべきかな?w
これって自分で言うのも変だけど、凄いお話だな~て思うww 今読み返して
みても圧倒的だよね。一体何考えてたんだろう??ww お嬢様
焼肉戦争を読んでくれてましたか!スゴイ!
あのお話と確かに雰囲気は似ていますよね!エスカレートしすぎちゃいましたけど!
そして私は反省していません! 超門番
門さんのパートは分かりやすいですから確かに自重するべきでしょうww本人はとても
喜んでいますけど。どうもありがとうございます。 冥途蝶
幻想郷住民のパワーが伝わってくるようでした。