[はじめに]
・長大になってしまったので連載モノの体裁を取らせていただきます。
・不定期更新予定。
・できるだけ原作設定準拠で進めておりますが、まれに筆者の独自設定・解釈が描写されていることがあります。あらかじめご注意下さい。
・基本的にはバトルモノです。
以上の点をご了承頂いた上、ぜひ読んでいってください。
前回 B-2
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【 E-2 】
「ところで、ウドンゲさん。最近永遠亭で面白い事件とか起こりましたかね?」
「別に?姫も師匠も変わりなく。今回のコレが始まるまで暇だったくらいよ」
妖怪の跋扈する夜。
山の各地で散らされる火花は、また、ここ守矢神社も例外なくその会場としていた。
そこで戦火を交えている二人は、妖怪の山に住む天狗の新聞記者、射命丸文と永遠亭の薬師見習い、鈴仙・優曇華院・イナバ。
普段なら妖怪の山に入った外の妖怪たちを追い払うのは文の役割のひとつであったが、しかし今回のチーム戦においては、文がビジター、鈴仙がホーム、と逆転している状況だった。
「うーん、どこも似たような状況だったみたいですね。――じゃあやっぱり今回のコレはその暇さを受けて、なにか意図があるのでしょうか。メモメモ」
「まったく……大した記者根性ね。自分で参加しながらネタ探し?」
「いわゆる潜入調査というヤツですね」
「この状況じゃなければもう少し説得力もあったけどね…………」
鈴仙は呆れた声を上げ、目の前の文を見下げて、言う。
「――あなたの調査はここで終わりよ。明日からはベットの上で安楽椅子探偵してなさい」
眼前でうずくまる天狗へと、銃口を突きつけていた。
私は新聞記者ですよ、と憎まれ口を叩く文は、傷ついた体を木にもたれさせながら、ぽりぽりと頬を掻いている。
――うーん、やっぱマズいわねぇコレ…………。
文は外見も内心も飄々とした態度のままでいたが、その実、本気で旗色の悪さを感じていた。
彼女は、天狗。妖怪の中でも屈指の力を持つ種族であり、さらにその中でも文は抜きん出た力を持っていた。
特に速力など、疾さ自慢の天狗たちの中でも有数のレベルであり、自分でも自信があるのだろう、“幻想郷最速”を自負していた。
そんな彼女からすれば、目の前の妖怪兎の力など、たかが知れるものであるだろう。
しかし――鈴仙は、残念ながらただの兎ではなかった。
彼女をただの兎たらしめないもの。それは偏に、彼女の能力に起因する。
“狂気を操る程度の能力”――それは即ち、物事に宿る波を操作するということ。波長の長さや振幅、位相を変えることで様々なモノに対する感覚を例外なく“狂わせる”。
鈴仙のその能力について知っていた文は、彼女との戦闘が始まってから、いや、始まる前から相手の目には細心の注意を払っていた。
相手の能力の起点は“眼”だ。それさえまともに見なければ狂わされることはない、と。
だが、しかし、相手の魔眼に“目を合わせなければいい”程度の対策は通じなかった。
いつ術中に落ちたのかわからぬうちに、文は“狂わされて”いたのだから。
「――まったく……だからイヤだって言ったのに……」
「なんか言った?」
「いいえ、なんにも?」
小さく漏れた小言を拾われそうになり、そ知らぬ顔で返事をする。
守矢神社境内の外れ――背をもたれさせている木の感触を、こっそりと手で感じた。この木も、文の目にはズレた位置にある。今自分がいる場所は、ちょうど木々の合間だったはずだ。
だが、自分は確かに大木を背にしているようだった。手を伝う木肌の感触がそれを確信させる。
要はこの木があるように見える場所が、文の感覚のズレ幅なのだろうが、辺りに木は沢山ある。
少しの手触りだけでは、それが右にある老木なのか、左にある若い木なのか、はたまた奥にそびえる大樹なのか、正確には判断がつかない。
「まぁいいわ……お疲れ様」
そう言って鈴仙は指先に力を込める。
もはや彼女の右手は一丁の銃である。弾をイメージし、すこし力を込め、心の中で引鉄をひけば、容赦なく弾丸が踊り出す。
かくして一拍おいた後、彼女の指先からは、彼女の魔力を食らい出来た一発の弾丸が放たれる。
その弾が今まさに敵を打ち抜かんという刹那――それまで頼りなく木にもたれかかっていた天狗は、旋風の如き疾さで視界から消え去った。
相手の弾はすでに発射された後だ。それにも関わらず、後出しでも速さで勝る文は、さすが幻想郷最速の名に負けてはいない。
文は初っ端からトップギアに入れて、弾けるようにしてその場を真横に駆け抜ける。
そのまま鈴仙を中心とした弧を描き、瞬く間に先ほどの木の正面――つまり相手の背後に到達した。
そこから彼女は、どこから出したのか通常のものより一回り大きい扇を右手に、それを標的目掛けて大きく振りぬいた。
天狗の扇は空を切り、切り裂かれた風は二つのつむじ風を生み出す。
二つの小さな竜巻は命を与えられたかのように、目の前の無防備な背中目掛けて吹き抜ける。
その一連の動作は一瞬。
文の動きを追えていない鈴仙に回避する術など無い――はずだった。
二つのつむじ風は唸りを上げて鈴仙の背後に迫り――そして彼女を通り抜ける。
旋風は確かに当たった。だが、当たった対象が、まるで蜃気楼だったかのように、その影の中へと襲い来る脅威を透過させていた。
数秒前まで文が背を預けていたであろう木が、二つの風の直撃をもらい、その太い体を二つに折っていた。
――あややや。やっぱりダメか…………。
文は数度目になるこの現象に驚くでもなく、改めて対応策を考えていた。
今のところ鈴仙が使っている能力は“位相をズラす”ということだけで間違いないだろう。
気性もいじられたような感じはないし、相手の存在感が薄くなったとも思えない。
だとすれば、当面の問題はやはり、いかにして攻撃を命中させるか、ということに絞られる。
一番確実なのは、高いホーミング性の弾幕を張ることだろう。
これなら自分の感覚のズレとは関係なく、弾は正確に相手を目指して飛んでいってくれる。その弾の飛んでいった方に敵がいるということだから、そこに追撃の大技を仕掛けてもいい。
だが、残念ながらこれは机上の空論に過ぎない。
なぜなら、文にはそんな高性能ホーミング性の弾幕は無いからだ。
博麗のアミュレットほど、とまでは言わないが、それに迫る程度のホーミング性がないと、今挙げた作戦は成功しにくい。
と、すれば、思いつく作戦はあとひとつ。
こっちの方が手っ取り早く、簡単で、文にも可能であり、効果的なことは間違いない。
だが――――
――……これはちょっとボツね。他を考えないと…………。
広い神社の境内を絶えず動き回りながら、当たるとは思えない弾幕を張り、思案に暮れる。
手も足も頭も休めることなく、フル回転で動き回る文であったが、目の前の鈴仙にまったく動きが無いことに気づき、その足を止めた。
元より鈴仙は、文にスピードで対抗しようとはしていなかった。動きも必要最低限。感覚の狂っている相手なら、確かにそれで十分だ。
だが、今回のそれは明らかに今までとは纏っている空気が違う。
“なにか仕掛けてくる”そういった漠然とした予感が、文の足を止めた。
普通に考えれば、なにか仕掛けてくると分かっているのならば、先ほどと同じように足を使って撹乱し、的を絞らせないようにするのが定石だろう。
しかし、文の第六感は足を止めることを選択した。
結果から言えば、その行動はほとんど正解だった。……あくまで、ほとんど。
完全な解答としては、その後すぐに上空への回避が必要だったのだが――彼女は自分の足を止めさせるほどに雰囲気を持った相手の行動を見極めようと、その場に待機してしまっていた。
結果、文は逃げる隙を失う。
「月眼――――『月兎遠隔催眠術(テレメスメリズム)』」
守矢の神社を背に、鈴仙の赤い瞳がいっそう紅に輝く。
まともに見た者は狂うと言われる、狂気の瞳に力が込もる。すでに、発動は済んでいた。
場の空気が変わったことに気づき、文はそこで再び動き出す。
だが、しかし、それはどうしようもなく遅すぎる。すでに、発動は済んでいた。
飛び立った文は即座に足を止め、頭の奥で血の気の引く音を聞いた気がした。
「これで文字通り籠の中の鳥ね。さぁ……チェックメイトよ」
先ほどまでなにもなかったはずの空間には、いつの間にか文を囲むような形で弾幕が配置されていた。
浮かび上がる全ての弾頭は、漏れなく文へと向けられている。上下左右とぬかり無く。
まさに鈴仙の言葉通り、すでにそこは籠中であった。
ひとつひとつの威力が高くないのは、身をもって実証済みである。
しかし、それでも数が数。
まともに全弾喰らって無事である保証などどこにもない。
ぱっと見ただけで、どう考えても詰んでいた。
――椛のやっている大将棋なら、“参りました”で済むんでしょうけど……今回は無理かしら?
この期に及んでまだそんなことに考えのいく彼女は、いっそ精神的に頑丈であった。
目の前の妖兎は相手の胸中など露知らず、おもむろに開いた右手を前に突き出し、強く握り締める。
それが発射の合図だったのだろう、眼前の空間に漂う弾たちは一気呵成に牙を向く。
全方位から迫り来る弾幕に、文がとった行動――彼女は自ら弾幕の中へと勢いよく飛び込んでいた。
【 F-2 】
「山が騒がしい……他の連中も楽しくやってるみたいだねぇ」
守矢神社の裏手には、あまり知られていない湖がある。
大きさの程が、紅魔館の向かいにある“霧の湖”より一回り小さいくらいの規模のそれは、妖怪の山を流れ巡る清流とは完全に独立した形になっていた。
この湖は守矢一行が外の世界から幻想郷に来る際に神社と一緒に持ってきたもので、本来妖怪の山にあったものではないため、このようにどことも繋がっていない湖だけが、ぽっかりと神社の裏手に存在するという不思議な構造になっているのだ。
水の循環の無いはずの湖は、しかし澱みも無く清澄で、湖面にはありありと月の形を映している。
夜ということもあり、底は見えない。もしかしたらそれなりに深度があるのかもしれない。
この湖の名前は“風神の湖”
別名――“御柱の墓場”
「うーん、いい夜だ。月を肴にお酒を呑みたくなるねぇ」
広がる湖面の真ん中付近、八坂神奈子は腕を組み、月を眺めながら浮かんでいた。
彼女の瞳は月の逆光に隠れるように浮かぶ気配に焦点を当てていたが、早苗も、そして一緒にいる魔理沙も、そのことに気づいてはいない。
と、言うより、二人とも自分の体力を回復させること以外に頭が回っていなかったというのが本音だろう。
湖上で悠然と月を眺める神様とは対象的に、霧雨魔理沙と東風谷早苗は、肩で息をしながら、目の前の相手から意識を逸らせないでいた。
――……やっぱり前と同じ、ってわけにはいかない、か…………。
魔理沙は心の中でそうひとりごちてみた。
守矢の神社が幻想郷に越してきたときに、魔理沙は霊夢と一緒に妖怪の山に異変解決に赴いていた。
“異変”というよりは、新しく出来た神社の巫女に難癖をつけられた霊夢と、完全に興味本位だけで動いた魔理沙とが、神社を見に行っただけのことではあったのだが。
ともあれ、その最終地点として神奈子に会い、弾幕ごっこをし、勝ちを拾っていたのだが――魔理沙はその時から感じていた。
“コイツは手を抜いている”と。
魔理沙もスペルカードルールであれば、神様相手に向こうを張って勝ちきる自信はあった。
だが、その上で彼女が自分の勝ち星に疑問を持てたのは、ひとえに、巫女と並び異変解決をしてきた経験からの賜物であろう。
そして、その勘が正しかったことが、今、証明されていた。
「……戦いの最中にお月見とは、ずいぶん余裕じゃないか」
口先だけは負け惜しみを述べておく。
不意に聞こえた彼女の声に、神奈子は視線を戻しながら、
「あら、休憩はもういいのかい?遠慮せずにゆっくりやりな。今夜はまだ長そうよ」
苦肉の皮肉も容易くいなされる。もうこれ以上、魔理沙でも反論できなかった。
――まぁ、確かにここまで後先考えずに撃ちすぎた。少し休んで態勢を整えないと……だぜ。
神奈子との戦い――まさかの早苗とのタッグ戦となった今回、二人同時に掛かって来いという挑発を受けた彼女たちは、遠慮せずその提案を呑み、二人して容赦なく思いっきり弾幕を見舞った。
しかし彼女たちの攻勢が眼前の神格へと届くことは、ただの一度も無かった。
魔理沙はさっきまでの戦いを思い出す。
いや、思い出さずとも、さっきまでの戦いが“戦い”なんて呼べるものではないのは解っていた。
二人でほぼ同時に弾幕を放つ。
二人とも特にスペルカードを使ってはいなかったが、それでも十分な量の弾雨だった。並の相手なら回避運動に入る前に気が滅入るであろう密度。
だが、それを前にした神奈子は顔色ひとつ変えることは無かった。
神奈子は怯む様子も無く、弾を撃ち出した。
撃ち出されるというにはゆるやかに、彼女の弾幕は空を飛び、そして――迫り来る弾とぶつかり、その場で弾けた。
それは一発だけの偶然ではなく、神奈子の発した弾、全てがそうだった。弾を放ち、ぶつかると炸裂し、消えてゆく。
彼女は二人の少女に被弾させるつもりなど無かったのだ。
自分が被弾しそうな弾の数だけ、自分が被弾しそうな弾の範囲だけ、彼女はそれだけに照準を合わせ、必要最低限の弾幕だけで、目の前の敵弾を悉く打ち消してみせた。
魔力的にまったく同質量の弾を打ち合わせ、相殺する。それは言葉で言うほど容易いことではない。
一発の弾の持つ攻撃力の計数、運動エネルギーによる質量の増加の加味、それを見極めた上での過不足無い力の放出、それらを全てを必要な弾の数だけ行い、自らの喉元に届くまでに済ませているのだ。それも涼しい顔で。
しかも二人同時に相手をしている以上、この行程を同時に二人前。かなりデタラメな技術である。文字通りの神業の範疇だろう。
ここまでのことをやられれば、もはや魔理沙でさえも内心で舌を巻くしかできなかった。
魔理沙も早苗も、その力に賞賛を送りながらも、手放しに諦めることはしなかった。手を変え品を変え、場所を変えタイミングを変え、あらゆるアプローチを仕掛ける。
だが、それらも結局、神奈子の目の前で漏れなく消失しただけだった。
そうして結局撃ち疲れ、休憩を挟み、今に至る。
――いや、さすがにデタラメすぎるだろ…………アリかそれ……?
箒に跨りながら、肩を上下に短い呼吸を繰り返す。
神奈子のあの行動は、自らの力を改めて示しただけの示威射撃であることは魔理沙にもわかっている。
そしてその効果は充分。彼女は目の前の神格への認識を改めざるを得なかった。
しかし、魔理沙はまだ、心を折ってはいない。
ここまで見せていない魔理沙の切り札――スペルカード。
前に神奈子と戦った時にも見せていない、完全初見の彼女の虎の子。“スペルカードルール”における、主役たち。
それらの持つ威力さえあれば、相手が神だろうと一泡吹かせることができる、そういう自信が、彼女の中にはあった。
乾坤一擲、一撃必殺、極大威力の、彼女の魔砲。
――それをブチかましてやるためにも、無駄弾撃った分を少しでも回復しないと…………。
そう思い、魔理沙は大人しく体力の回復に努める。
「――神奈子様、ひとつお尋ねしたいことが」
魔理沙の隣に浮かび、同じく目に見えて疲れていた早苗が唐突に口を開いた。
「なんだい?」
応えたのは神奈子だったが、思わず魔理沙も振り向いていた。
会話のタネが何にしても、時間稼ぎをしてくれる分には大歓迎だったが。
そんな軽い気持ちの魔理沙とは裏腹に、振り向いた先の早苗の顔色は重く深く、そんな表情に追従するように、彼女の声は静かに紡がれてゆく。
「今回の怪しげな異変――神奈子様はどうお考えなのですか?」
予想に反する、剣呑な雰囲気の言葉が耳に入った。
“異変”――その聞き慣れた単語に、思わず魔理沙が反応する。
「いや、紫が仕組んだのは確かに怪しげだけど、異変っておまえ…………」
そりゃさすがに言いすぎじゃないか?そう言いたげに魔理沙は眉をひそめた。
「そうだねぇ。あの妖怪も声を上げただけで“怪しげ”じゃ可哀相に」
神奈子も苦笑いしながら合いの手を返す。
「そんな神奈子様までっ!だって考えてもみて下さい!自分のテリトリーを侵されるのを嫌う天狗たちが山でのこのドンチャン騒ぎに黙ってるんですよ!?いくらなんでも哨戒天狗まで出てこないなんて変です!そもそもこんな適当なルールじゃ勝者は出ません!これじゃ無駄に戦うだけですよ!?」
口早にまくし立てる。真剣な眼差しに緊迫した身振り。
魔理沙はともかく、神奈子のリアクションまでが早苗の期待したものとはほど遠く、彼女は思わず声高に主張していた。
だがそれらも結局、
「まぁ確かにメンツの萃まり方だけは異変クラスだなぁ」
という魔理沙の声によって緊張感を無くしてしまった。彼女なりのフォローのつもりだったのかもしれない。もちろんただの茶々かもしれない。
腕を組み、早苗の言葉をじっくりと聞きながら、神奈子がポツリと呟いていた。
「――うーん、早苗はまだ少し固いかぁ」
「えっ?」
小さく低く聞こえる声に、思わず早苗が聞き返した。
が、そのときにはすでに神奈子の視線は、隣の魔法使いへと移っていた。
「早苗はこう言ってるんだけど……あんたはどう思う?」
「んあ?」
ここで自分に声がかかるとは露ほども思っていなかった魔理沙は、油断したのか、間抜けな声をあげてしまっていた。
あー……、と口を濁し、
「まぁ気になるっちゃ気になるな。――って言ってもその程度だけど。紫のすることにいちいち意味を求めてもしょうがないぜ」
箒に腰を下ろして大げさに肩を竦めてみせた。おおよそ神様を前にした人間の取るリアクションではない。
だが、そんな答えでも満足がいったようで、
「さすがにこっちの生活長いだけある。とても幻想郷らしい答えで嬉しいよ」
はははっ、と神奈子は気持ちよく笑っていた。
当然、早苗は不満そうだった。
不満の種自体は色々種類があったが――なにが一番不満かと言えば、ここにきて自分と魔理沙との違いを第三者に改めて指摘されたようで、一番彼女の中では納得がいき、納得がいかなかった。
やたらと変わり者な、普通の魔法使い――彼女と自分のなにが違うのか――早苗にはまだ答えが出ていない。
魔理沙にあって自分にないもの、その答えを尋ねるという案も浮かんだが、止めておいた。
せっかく猶予は三日あるのだから自分で答えを探そう、彼女は自分の内心に言い聞かせる。――これからを生きる幻想郷を知るためにも。
「……要するに、この話は触れない方がいい、と。……そういうことですね?」
早苗はとりあえず、思ったこととは別の言葉を口にしておいた。
彼女の中で問題を暫定的に解決させる答え――というよりか、問題の先送りである。
この“異変”についても、彼女はなんらかの答えを見つけるつもりでいた。
いかに神奈子に止められようと、彼女の好奇心はすでに心の中の疑問に向けられている。
それが危なかろうと、知らないことが流儀だろうと、なぜか今回ばかりは答えが欲しかった。
「別に?気になるんなら調べてみればいいんじゃない?」
「はい。わかりま………………した?」
思わず返した言葉が止まらずに、妙なイントネーションで聞き返す。予想外過ぎた神奈子の言葉が、危うく耳から抜けていくところだった。
「――――え?い、いいんですか、調べて」
「別に調べちゃいけないなんて言ってないさ。気になるんならやってみなよ」
再び聞き返した言葉にも、神奈子はあっけらかんと言い放ち、
「どのみち今回私と早苗は敵同士だしねぇ。アレコレ言うつもりはないよ」
などと付け加える。
早苗はしばらく、ぽかんとした顔のままでいた。頭の中で神奈子の言葉を咀嚼しているようだった。
そうやってしばらく呆気に取られていたかと思うと、
「わかりました!言われた通りやってみます!!」
急に出された大きな声にびっくりするように、神奈子は目を丸くし――――
「――ぷっ」
思わず、吹き出してしまった。
「あははははっ、私に挑んでくるぐらいだから、早苗もちょっとは変わったのかとも思ったけど……うん、いいさ。ゆっくり行こう」
何かを納得したように、ひとりでそう呟く。
――できれば、今回の騒ぎが、この愛しい現人神に良い影響を与えてくれるよう…………
神様は、そう静かに、誰かに願う。
そんな神奈子の胸中など知らず、早苗はきょとんとしている。
そんな早苗を眺めて、神奈子はまた笑ってしまいそうになる。
そこに――――
「うほんっ、あー、ああーあーあー」
ふと意地悪く響く間延びした声に、神奈子と早苗は声の主の方を向いた。
「お二方様たちのお話はお終わりましたかな?」
黒白の魔法使いが、箒に腰かけながらニヤニヤと笑っていた。
「あぁ、悪いね。もう休憩はいいのかい?」
「十二分だぜ。これ以上待ってたら空の上で即身仏になっちまう」
魔理沙は箒に腰掛ける体勢で器用に足を組み、二人を眺めていた。頬杖までつきながら、チェシャ猫のようにニヤニヤと微笑んでいる。
――こんな親バカな座談会をこれ以上やられちゃあ、私は暇で仕方ないしな。
「――早苗ももう大丈夫かい?」
「ご心配なく。準備は整えてあります」
早苗も再び幣を握り直す。彼女の息も、いつの間にかまったく乱れていない。
ふむ、とひとつ相槌を打ち、
「そりゃ結構。――じゃあ小娘共!またかかってきな!あんまり退屈だと叩き落すよ!!」
「はっ、言ってろ!巫女バカの神様なんて撃ち落してやるぜっ!」
「私は巫女じゃありませんし、バカでもないですっ!」
騒がしく、また戦いが始まる。
結末から言えば、
この中の一人が撃ち落とされ、この戦いに終止符が打たれる。
そして、それは――もうすぐだった。
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優曇華院みたいな、普段最弱扱いのキャラが活躍するのは見ていて胸がすく。
>>結末から言えば、
>>この中の一人が撃ち落とされ、この戦いに終止符が打たれる。
じゃあ、落ちるといえば流星、ということで魔理沙が落ちると予想してみた。
ウドンゲって結構強キャラな気もしますが、あんまり戦闘キャラっぽいトコ見ないですよねぇ。
早苗さんも弾幕は星!
でも流星じゃないしなぁ……。