Coolier - 新生・東方創想話

おつむの傾いた紅魔館

2011/03/14 00:25:47
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かなり逸脱した設定で話を進めています事、お許しください。



 ドカーン。

 辺りにいる面々は、少女の堪忍袋が破裂した音を聞いた。確かに聞いた。
 この場にいる皆の頭にうー☆うー☆と、サイレンが響き渡る。

「お、お嬢様……?」

 銀髪のメイド少女、咲夜が一歩後ろに下がった。
 その正面には蝙蝠の羽を纏った少女、レミリア・スカーレット。

「一体全体、どったらどうどう、どうなってそういう話が湧いて出たのよ!」

 うーっと、小柄な吸血鬼が両手を挙げて喚き散らす。

「しかしお嬢様。咲夜めも譲るわけには参りません。
 ただ今、紅魔館の財政はひっ迫しており……」
「アンタは資金と私の自尊心と、どっちを優先する気なのよ!」
「残念ながら、無い袖は振る事が出来ません。お嬢様、ここは一つ」
「冗談ではない! 恥辱にも限度があるぞ!」

 うーうー。もいっちょ、うー☆。

 激しい怒りで抗議をしているつもりだが、周囲の誰もが私に賛同していない。
 それがなによりお嬢様ーーレミリアの怒りをかきたてていた。

「大体、他の連中も連中だ。こんなふざけた提案を何故、誰一人として止めようとしない!」
「皆、総意の上でございます」
「う~~~~!!」

 ほんともう、揃いも揃って何を考えているのかと。
 レミリアは苦しい戦いを把握しつつも、折れてたまるかと心に決めた。



  おつむの傾いた紅魔館



 レミリアは改めて、咲夜の取り出した物を眺めてみた。
 白くて艶やかな一品だ。一応、高級な物ではあるらしい。が、その事実がなお、腸を煮え滾らせる原因となっていた。

 ええい、おのれおのれ。
 何たるもの悲しい論争であろうか。いや、それ以前に何故こんなことが議題にのぼる。
 情けないやら恥ずかしいやらで挫けそうになる心を奮い立たせ、努めて冷静に話を振る。

「で……で、だ。仮に私がその提案を拒んだ場合だ。どのような結末が待っている?」
「その場合は、大変心苦しいのですが」

 咲夜は一旦話を切った。そして一息つくと、穏やかに、しかし意思を込めて言葉を紡いだ。

「お嬢様の該当するお召し物が存在しません」
「待て待て待て! 職権濫用、及び脅迫じゃないか!!」

 まさかここまで、えげつない回答をしてくるとは。咲夜、恐ろしい子。
 ならば……ならば!
 レミリアが次の一手を模索して、脳みそをフル回転させていると。
 咲夜がこれでもか、と痛烈なパンチを飛ばしてきた。

「そういうわけですので、オムツの着用をお認めいただけますか」
「死んでも認めるか、お馬鹿ぁぁぁっ!!」

 チュドーン!

 淡々とした一言に、レミリアが爆発した。……マジ泣きしながら。


 レミリアは両手をプルプルしながら考える。
 そもそも自分の主にオムツとか、どんな歪んだ思考から滲み出て来たのだろうか。
 うん。まずはここから問い質さねばなるまい。

「……お前たち、この私をいったい何だと思っている」
「いえ、決してお似合いになるとか、あらピッタリとかそういう意図ではなく」
「うーうー! うーうーうー!!」

 思ってる、絶対思っているだろお前!

 レミリアは鋭く銀髪のメイド長を睨んだが、彼女はすいっと一礼で返してきた。
 やばい。ぜんっぜん主従関係とか気にしちゃいねぇ。
 しかし。しかしだ。自分だけ幼児逆行とか、ひどすぎるだろう流石に。

「そ、そもそも先ずは、部下であるお前たちが節制に努めるべきではないのか」
「それは無論。しかし、主であるお嬢様が旗を担い、音頭を取っていただければ我々も大いなる励みに」
「オムツで励むな! 何だその公開処刑は!!」

 やばい、心の底から泣きたくなってきたぞ。

 うーっと、レミリアは大きく溜息をついた。
 これは、別の角度からアプローチするしかあるまい。

 こんな事でムキになること自体、屈辱なのだが。
 万が一にでも実行されたら、カリスマどころか、生命体としての尊厳すら危ぶまれる。

「で、では、今度は。今度は、そう。私の我慢に対するパフォーマンスーー節約効果について問い質そうか。
 正直その程度では、妖精一人分の給与すら賄えんと思うのだが」
「あらレミィ。随分と自分に対して低い評価を持っているのね」

 パチェ。お前なら……お前もか。

 緩やかな声と共に、紫柄の少女が歩いてきた。
 レミリアは一瞬、天の助けかと期待したのだが……綺麗さっぱり諦めた。
 パチェーーパチュリーが咲夜と目を合わせるや否や、楽しそうに手を振ったのだ。

「そこで私の評価が出てくる、意味が理解できないのだが」
「左様ですか。では、咲夜めが説明いたします」
「咲夜。レミィは私に聞いてきたんだけど?」

 うー! うー!
 お前ら、二人して私を貶める役目を取り合ってんじゃないよ!

 レミリアの心の怒りをさっくり放置して、ジャンケンに勝ったパチュリーが嬉しそうに話してきた。

「さてレミィ。貴方、一日にどれだけ自分の下穿きを洗ってるか知ってる?」

 そんなもん知るわけないだろ、お馬鹿!

 レミリアは喉元まで出そうになった言葉を、必死でかみ殺した。
 と、いうか、何でこんな質問が出来る。
 咲夜はともかく、パチェまで知っているのか? 私の着替える回数とか。

「一つじゃないの? 天候とかを排除して、順繰りに行けば」
「二百五十二枚よ」

 噴いた。我が事ながら噴いた。
 そして頼むから、真顔でそういうこと言うな。むっつりすんな。

「え、ええっと。どういう計算でそうなったのかしら?」
「それは勿論」

 咲夜。ここでお前とかどんな拷問だ。

「お嬢様のお召し物に、産毛一つ残すわけにはいきませんからね。
 その度その度、全てを手洗いで一日三回洗浄しております」
「な、何やってるんだお前は! 頼むからその労力を他所に回せ!
 っていうかそんなことしたら、すぐ傷むに決まっているだろうが!」
「その点は抜かりありません」

 手を抜いてくれ、頼む。
 そして胸張って答えるな。誇りにするな。

「パチュリー様直々に、磨耗とほつれ防止、汚れ落としに、刺繍のクマさんが水飛沫を避ける魔法を施して」
「やめてっ! 頼むから、人のパンツに珍妙な魔法を混入しないで!」
「その点は安心しなさい」
「出来るかお馬鹿っ!!」

 ヤバイ。なんかもう折れそう。根元から折れそう。
 おまえ等、揃いも揃ってぇ……。
 遊ぶならもうちょっと、まともな物で楽しんで欲しいものである。
 あ。ま、まさか、いま穿いてる奴も……?

 めくるめく不安を他所に、パチェリーが親指でポーズをとった。

「満月の光に当てた血液に、七十五種類の細やかな栄養素を配合。これで魔法の影響は」
「脱ぐっ! 脱ぐったら脱ぐ!! そんなモン着用していられるか!!」
「では早速、オムツの付け心地を」
「とことんシバいてやろうかっ、お前はぁぁっ!!」
「何故です! これは着用も忘れるフィット感と、綿菓子のような触れ心地で有名な」
「うわぁぁ!! もうやだっこの紅魔館っ!!」

 なおも面妖事を語りかけてくる二体をよそに、レミリアはたった今この瞬間、自宅の放棄を決意した。


 草木も眠る、丑三つ時。
 茶躯の蝙蝠が、この静寂を絶対に妨げないようにと慎重に飛んでいた。

 化物に対抗するには、こちらも相応の相手を選ぶしかない。
 神社に眠る怪物を起こす事。それもこの時間に。
 これはこれで、結構な確率で命の危険があるが……他に選択が無かった。

 蝙蝠は境内を滑空すると、ぽんっといつものレミリアの型に戻る。

「霊夢! 霊夢はいるか!」

 レミリアは辺りを確認してから、神社の境内を大きく揺らす。
 三度。四度。まだ彼女は出てこない。
 こうなったら土足で入ろうか。そう思案していたところに、ガバッと障子が開いた。
 暗くて色彩は定かではないのだが。間違いなく彼女は真紅のオーラを放っていた。
 寝巻きの格好をした修羅が、手首を豪快に鳴らす。
 
「うん。アンタ、命の覚悟は出来てる?」
「後生だ。頼む。私を匿ってくれ」
「……アンタ、一体何をやらかしたのよ」

 不機嫌ながらも話の猶予は出来た。今のが一番の難所。しかして乗り切った。
 さぁ、後一押しだ。

「やらかしたのは私ではない。それもこれも、あの忌々しい」
「忌々しい?」
「オムツのせいだ」
「…………」

 巫女ーン!!

「い、いや霊夢! 私は真剣だ、本気なんだ!! 頼む、捨て置かないでくれ!!
 今、私は自分の命運をかけた」
「お嬢様」
「ざっ! さささ咲夜ぁ~~っ!? 貴様一体どうして!」

 耳元でボソリ。前につんのめったレミリアが、腰をおもいっきり床に打ち付けた。
 完全に足が立たなくなり、仰向けに近い体勢で、両の手で這い蹲って後ろに下がる。

「こういうこともあろうかと、備えは万全にしております。
 やはり、パチュリー様の魔法は素晴らしい」
「ど、どどどこにセンサーつけてるんだ、どこにっ! しまいにゃ泣くぞ!」
「あら、お嬢様? もしかして」
「う、うるさいっ!! 誰のせいだと思っている! こ、ここ腰が抜けたんだ! それでっ!!」
「やはり私の目利きは確かでした」
「違う! 私は認めん!! 絶対に、絶対……や、やめろ! 嫌だっ!!
 霊夢! 助けてくれ、霊夢! 霊夢ぅ~~!!」

 いろいろとデンジャラスな事態になりそうだ。ここは見て見ぬ振りが宜しかろう。
 霊夢は後ろを向くと、そっと庭の光景をシャットダウンした。

 今なお聞こえる悲惨な叫び声は屈折して、満天の空の遥か彼方に突き抜け消えた。
Q貴様は今までうーと言った回数を覚えているのか。
Aじゅうろくかい。

擬音語の、有効な活用法を模索していたはずが……
どうしてこうなった。

少しでも楽しんでいただければ、この上ない喜びです。

3/15
感想ありがとうございます。甚く救われました。
そして話が飛躍していた事、申し訳ありません。

また、誤字の指摘ありがとうございます。
修正致しました。

今回は勉強になりました。重ね重ねですが、ありがとうございます。
から。
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コメント



0.480簡易評価
4.80こーろぎ削除
ちょっとゴリ押しぎみだったけど疾走感がある笑いだった

すごい高性能なパンツだなー

お嬢様、どうやったら252枚も…
5.80コチドリ削除
文章の勢いは買い。物語のラストまで衰えないハイテンションもグッドですね。
ただ、若干置いてけぼりにされた感も否めないところ。

擬音語の有効な活用方法の模索。私見ですが貴方は正解を探り当てた。
『巫女ーン!!』という素晴らしい表現にその努力は集約されている。

ところで作者様は本作品が初投稿なのでしょうか?
もしそうならば、「おめでとうございます」の言祝ぎと共に、今後も実りある創作の道を歩めるようお祈り致します。
7.80名前が無い程度の能力削除
一方美鈴は穿いてなかっt
『巫女ーン!!』とはいい音だ
12.100名前が無い程度の能力削除
是非とも、これからも投稿を続けて頂きたい!!

そして、巫女ーンの人で通じるぐらいの作家になってください 笑
18.90名前が無い程度の能力削除
こんな凛々しい口調のレミリアが徹底的に振り回されるギャップがなんか好きです。
おむつレミリアは…アリかナシかで言われれば、アリだと言わせて頂こうッ!