かなり逸脱した設定で話を進めています事、お許しください。
ドカーン。
辺りにいる面々は、少女の堪忍袋が破裂した音を聞いた。確かに聞いた。
この場にいる皆の頭にうー☆うー☆と、サイレンが響き渡る。
「お、お嬢様……?」
銀髪のメイド少女、咲夜が一歩後ろに下がった。
その正面には蝙蝠の羽を纏った少女、レミリア・スカーレット。
「一体全体、どったらどうどう、どうなってそういう話が湧いて出たのよ!」
うーっと、小柄な吸血鬼が両手を挙げて喚き散らす。
「しかしお嬢様。咲夜めも譲るわけには参りません。
ただ今、紅魔館の財政はひっ迫しており……」
「アンタは資金と私の自尊心と、どっちを優先する気なのよ!」
「残念ながら、無い袖は振る事が出来ません。お嬢様、ここは一つ」
「冗談ではない! 恥辱にも限度があるぞ!」
うーうー。もいっちょ、うー☆。
激しい怒りで抗議をしているつもりだが、周囲の誰もが私に賛同していない。
それがなによりお嬢様ーーレミリアの怒りをかきたてていた。
「大体、他の連中も連中だ。こんなふざけた提案を何故、誰一人として止めようとしない!」
「皆、総意の上でございます」
「う~~~~!!」
ほんともう、揃いも揃って何を考えているのかと。
レミリアは苦しい戦いを把握しつつも、折れてたまるかと心に決めた。
おつむの傾いた紅魔館
レミリアは改めて、咲夜の取り出した物を眺めてみた。
白くて艶やかな一品だ。一応、高級な物ではあるらしい。が、その事実がなお、腸を煮え滾らせる原因となっていた。
ええい、おのれおのれ。
何たるもの悲しい論争であろうか。いや、それ以前に何故こんなことが議題にのぼる。
情けないやら恥ずかしいやらで挫けそうになる心を奮い立たせ、努めて冷静に話を振る。
「で……で、だ。仮に私がその提案を拒んだ場合だ。どのような結末が待っている?」
「その場合は、大変心苦しいのですが」
咲夜は一旦話を切った。そして一息つくと、穏やかに、しかし意思を込めて言葉を紡いだ。
「お嬢様の該当するお召し物が存在しません」
「待て待て待て! 職権濫用、及び脅迫じゃないか!!」
まさかここまで、えげつない回答をしてくるとは。咲夜、恐ろしい子。
ならば……ならば!
レミリアが次の一手を模索して、脳みそをフル回転させていると。
咲夜がこれでもか、と痛烈なパンチを飛ばしてきた。
「そういうわけですので、オムツの着用をお認めいただけますか」
「死んでも認めるか、お馬鹿ぁぁぁっ!!」
チュドーン!
淡々とした一言に、レミリアが爆発した。……マジ泣きしながら。
レミリアは両手をプルプルしながら考える。
そもそも自分の主にオムツとか、どんな歪んだ思考から滲み出て来たのだろうか。
うん。まずはここから問い質さねばなるまい。
「……お前たち、この私をいったい何だと思っている」
「いえ、決してお似合いになるとか、あらピッタリとかそういう意図ではなく」
「うーうー! うーうーうー!!」
思ってる、絶対思っているだろお前!
レミリアは鋭く銀髪のメイド長を睨んだが、彼女はすいっと一礼で返してきた。
やばい。ぜんっぜん主従関係とか気にしちゃいねぇ。
しかし。しかしだ。自分だけ幼児逆行とか、ひどすぎるだろう流石に。
「そ、そもそも先ずは、部下であるお前たちが節制に努めるべきではないのか」
「それは無論。しかし、主であるお嬢様が旗を担い、音頭を取っていただければ我々も大いなる励みに」
「オムツで励むな! 何だその公開処刑は!!」
やばい、心の底から泣きたくなってきたぞ。
うーっと、レミリアは大きく溜息をついた。
これは、別の角度からアプローチするしかあるまい。
こんな事でムキになること自体、屈辱なのだが。
万が一にでも実行されたら、カリスマどころか、生命体としての尊厳すら危ぶまれる。
「で、では、今度は。今度は、そう。私の我慢に対するパフォーマンスーー節約効果について問い質そうか。
正直その程度では、妖精一人分の給与すら賄えんと思うのだが」
「あらレミィ。随分と自分に対して低い評価を持っているのね」
パチェ。お前なら……お前もか。
緩やかな声と共に、紫柄の少女が歩いてきた。
レミリアは一瞬、天の助けかと期待したのだが……綺麗さっぱり諦めた。
パチェーーパチュリーが咲夜と目を合わせるや否や、楽しそうに手を振ったのだ。
「そこで私の評価が出てくる、意味が理解できないのだが」
「左様ですか。では、咲夜めが説明いたします」
「咲夜。レミィは私に聞いてきたんだけど?」
うー! うー!
お前ら、二人して私を貶める役目を取り合ってんじゃないよ!
レミリアの心の怒りをさっくり放置して、ジャンケンに勝ったパチュリーが嬉しそうに話してきた。
「さてレミィ。貴方、一日にどれだけ自分の下穿きを洗ってるか知ってる?」
そんなもん知るわけないだろ、お馬鹿!
レミリアは喉元まで出そうになった言葉を、必死でかみ殺した。
と、いうか、何でこんな質問が出来る。
咲夜はともかく、パチェまで知っているのか? 私の着替える回数とか。
「一つじゃないの? 天候とかを排除して、順繰りに行けば」
「二百五十二枚よ」
噴いた。我が事ながら噴いた。
そして頼むから、真顔でそういうこと言うな。むっつりすんな。
「え、ええっと。どういう計算でそうなったのかしら?」
「それは勿論」
咲夜。ここでお前とかどんな拷問だ。
「お嬢様のお召し物に、産毛一つ残すわけにはいきませんからね。
その度その度、全てを手洗いで一日三回洗浄しております」
「な、何やってるんだお前は! 頼むからその労力を他所に回せ!
っていうかそんなことしたら、すぐ傷むに決まっているだろうが!」
「その点は抜かりありません」
手を抜いてくれ、頼む。
そして胸張って答えるな。誇りにするな。
「パチュリー様直々に、磨耗とほつれ防止、汚れ落としに、刺繍のクマさんが水飛沫を避ける魔法を施して」
「やめてっ! 頼むから、人のパンツに珍妙な魔法を混入しないで!」
「その点は安心しなさい」
「出来るかお馬鹿っ!!」
ヤバイ。なんかもう折れそう。根元から折れそう。
おまえ等、揃いも揃ってぇ……。
遊ぶならもうちょっと、まともな物で楽しんで欲しいものである。
あ。ま、まさか、いま穿いてる奴も……?
めくるめく不安を他所に、パチェリーが親指でポーズをとった。
「満月の光に当てた血液に、七十五種類の細やかな栄養素を配合。これで魔法の影響は」
「脱ぐっ! 脱ぐったら脱ぐ!! そんなモン着用していられるか!!」
「では早速、オムツの付け心地を」
「とことんシバいてやろうかっ、お前はぁぁっ!!」
「何故です! これは着用も忘れるフィット感と、綿菓子のような触れ心地で有名な」
「うわぁぁ!! もうやだっこの紅魔館っ!!」
なおも面妖事を語りかけてくる二体をよそに、レミリアはたった今この瞬間、自宅の放棄を決意した。
草木も眠る、丑三つ時。
茶躯の蝙蝠が、この静寂を絶対に妨げないようにと慎重に飛んでいた。
化物に対抗するには、こちらも相応の相手を選ぶしかない。
神社に眠る怪物を起こす事。それもこの時間に。
これはこれで、結構な確率で命の危険があるが……他に選択が無かった。
蝙蝠は境内を滑空すると、ぽんっといつものレミリアの型に戻る。
「霊夢! 霊夢はいるか!」
レミリアは辺りを確認してから、神社の境内を大きく揺らす。
三度。四度。まだ彼女は出てこない。
こうなったら土足で入ろうか。そう思案していたところに、ガバッと障子が開いた。
暗くて色彩は定かではないのだが。間違いなく彼女は真紅のオーラを放っていた。
寝巻きの格好をした修羅が、手首を豪快に鳴らす。
「うん。アンタ、命の覚悟は出来てる?」
「後生だ。頼む。私を匿ってくれ」
「……アンタ、一体何をやらかしたのよ」
不機嫌ながらも話の猶予は出来た。今のが一番の難所。しかして乗り切った。
さぁ、後一押しだ。
「やらかしたのは私ではない。それもこれも、あの忌々しい」
「忌々しい?」
「オムツのせいだ」
「…………」
巫女ーン!!
「い、いや霊夢! 私は真剣だ、本気なんだ!! 頼む、捨て置かないでくれ!!
今、私は自分の命運をかけた」
「お嬢様」
「ざっ! さささ咲夜ぁ~~っ!? 貴様一体どうして!」
耳元でボソリ。前につんのめったレミリアが、腰をおもいっきり床に打ち付けた。
完全に足が立たなくなり、仰向けに近い体勢で、両の手で這い蹲って後ろに下がる。
「こういうこともあろうかと、備えは万全にしております。
やはり、パチュリー様の魔法は素晴らしい」
「ど、どどどこにセンサーつけてるんだ、どこにっ! しまいにゃ泣くぞ!」
「あら、お嬢様? もしかして」
「う、うるさいっ!! 誰のせいだと思っている! こ、ここ腰が抜けたんだ! それでっ!!」
「やはり私の目利きは確かでした」
「違う! 私は認めん!! 絶対に、絶対……や、やめろ! 嫌だっ!!
霊夢! 助けてくれ、霊夢! 霊夢ぅ~~!!」
いろいろとデンジャラスな事態になりそうだ。ここは見て見ぬ振りが宜しかろう。
霊夢は後ろを向くと、そっと庭の光景をシャットダウンした。
今なお聞こえる悲惨な叫び声は屈折して、満天の空の遥か彼方に突き抜け消えた。
すごい高性能なパンツだなー
お嬢様、どうやったら252枚も…
ただ、若干置いてけぼりにされた感も否めないところ。
擬音語の有効な活用方法の模索。私見ですが貴方は正解を探り当てた。
『巫女ーン!!』という素晴らしい表現にその努力は集約されている。
ところで作者様は本作品が初投稿なのでしょうか?
もしそうならば、「おめでとうございます」の言祝ぎと共に、今後も実りある創作の道を歩めるようお祈り致します。
『巫女ーン!!』とはいい音だ
そして、巫女ーンの人で通じるぐらいの作家になってください 笑
おむつレミリアは…アリかナシかで言われれば、アリだと言わせて頂こうッ!