Coolier - 新生・東方創想話

ロックンロール北白河

2011/03/13 17:20:12
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 ちゆりは、歌が上手い。

 ……と言う訳でもなく。まあ、普通。多めに見て中の上。歌唱力だけなら、私の方が上だろう。
 しかし生来の良く通る声と、ハリのある低音ボイスが、一部から非常に良くウケている。
 そんなちゆりが、ある時私に言った。

「ご主人、これからの時代はロックですよ!」

 両手に、ギターとベース。その上何を勘違いしたのか知らないが、サングラスを三つ位胸元に引っ掛けている。
 ロック、ロックだなんて、最近の流行はクラシックだと言うのに。お陰で街はデカイ弦楽器やら管楽器やらを持った人間で溢れかえっている。大体三日に一回の頻度で、何らかの楽器と肩がぶつかる。
 ちなみに、私はバラードが好きだ。あの落ち着いた感じ。その中に溢れる情熱。良い物である。
 ところで、こいつは楽器を二つも持って来ているが、まさか私を誘うつもりなのだろうか。そもそも、楽器を弾く事が出来るのか。

「ご主人、ベースやって貰えますか。私ギターとボーカルやるんで」

 平然と言ってくる。何でお前一番目立つ所にちゃっかり収まってるんだよ。いや、この際それは良いのだ。私は、ベースよりもドラムがやりたい。
 何だか叩くのって楽しそうじゃない。指とかつらなさそうだし。脛と腕がつるって言うけど。
 その旨を伝えたら、露骨に嫌な顔をされた。これ以上メンバーが増えるのが嫌らしい。良いじゃないの、ギターとドラムのバンドがあったって。

「いや、もうベース買っちゃったし……。ドラム買う金も無いんで……」

 だったら先に楽器買うなよ。が、文句を言っても始まらないので、無理やり私はベースにされてしまった。別に始まらなくても良いのだが、断ろうとするとこれまた露骨に話題を変えようとしてくる。最後には面倒臭くなって承諾してしまった。この子は、妙な所で我が強い。
 猛練習の日々。暇さえあれば研究そっちのけで楽譜を見、講義の合間に指の形を練習し、夜中は近所のスタジオで各々の楽器をかき鳴らした。
 曲は、ちゆりが自作した。作詞も、作曲も、全てお手製。一度私もやらせて貰ったが、何度やっても「演歌のようなもの」にしかならなかったので止めさせられた。「あんたはシャウトを勘違いしている」と言われた。声出せば良いんじゃないのか。

 瞬く間に月日は流れ……。


 ヒュー、ヒューヒュー
 歓声が聞こえる。そう、私たちは今武道館でライブを行っているのだ。武道館である。正式名称、東京大学体育館。通称武道館。主に剣道部とか空手部とかが使用するから武道館。
 やー、ありがとー、ありがとー。ちゆりが手を振って歓声に応える。私はと言うと、上がってしまって、少し奥歯が痛い。この間虫歯の治療をした所だった。
 しかしちゆりは、なんだってこう言った事に強いのだろう。緊張なんてものとは無縁に生きている気がする。私なんて昨日は眠れなかったのに。科学者でありながら、何十と人を飲み込んでしまった。最終的に、水を飲んで深呼吸の方がよっぽど役に立つと悟った。
 ぺぇーん、ぺぇーん。ちゆりが、弦をはじく。

「じゃ、いくぜお前ら。一曲目、海鮮定食!!」

 ワァーワァー

~♪~

おお、この内陸部。海の幸なんてとれやしない。
あの漁港には俺たちの、夢のカケラが舞って居る。
淡水魚ーなんてー、所詮気休めなのさぁー。
俺たちゃ潮のにおいのー、海産物がー欲しいー。

ペェペレレペレレペ、ペェレレレレレレレ、レレレー

「海鮮定食!海鮮定食!」
新鮮なブツが食べたいー。
「海鮮定食!海鮮定食!」
トラックなんていらねえー。

セリフ:産地直送? 気休め言ってんじゃねえよ!

~♪~

 震えるギター、飛び散る汗。会場のボルテージはMAXエクステンションだ。私たちは今、一丸の火の玉になっている。
 二曲目、三曲目と続いていく内に、倒れる人が出てきた。ああー、ありがとうー、そんなに興奮してくれてぇーっ。
 ラストは、私のバラードで締めた。火照った身体に染み渡る、良い曲である。私の持ち歌だ。作詞作曲はちゆりだが。

 ライブの帰り、構内のコンビニで酒を買って帰った。お酒は二十二から、これは常識だがそんなもの、ロックンローラーの前には意味を成さないのだ。
 年齢確認されそうになったが、「私は教師よ」の一点張りで通した。店員もうちの生徒である、勢いに負けてちゃんとレジを通してくれた。

「「かんっぱーい!!」」

 注がれた酒を、一息に飲み干す。打ち上げが、こんなにも気持ちの良いものだったなんて。ちゆりが、顔を真っ赤にしている。そう言えばこの子は初飲酒じゃなかったか。
 私は以前、教授連中と飲みに行ったときに「ほら、岡崎先生も飲みなさいな」と言われてちょびっと飲んだ。美味かったと言えば美味かった気がする。その後の記憶が殆ど無いのでなんとも言えないのだが。
 ああ、これが青春。これが十代の正しい在り方! 私は今、猛烈に感動していた。

「ねえ、ちゆり。私たち、いつかビッグになろうね!」

 溢れる思いを、相方に伝える。こいつとなら、どこまででも行ける気がした。ドームとか、全国行脚とか、きっと、出来る。出来ないはずが無いんだ。

「はい? 何言ってるんですか私ら研究者でしょうが。今日でバンドは終わりです、明日からは本職に戻るんですよ」

 私の相方は、結構ドライだった。


前作のタグを見て書き始めました。
自分で自分にセルフネタ供給って何やってるんでしょうね本当。

自分ではほのぼののつもりで書きました。多分十人中十人はギャグだと言うと思います。

では、読んでくださってありがとうございました。
ごまポン
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コメント



0.670簡易評価
2.90奇声を発する程度の能力削除
まさかのwwww
曲は何なんだwww
3.100名前が無い程度の能力削除
曲がカオスwww

でもみんなから進められてお酒飲んでる教授ならちょっと見てみたいかも
13.100名無し程度の能力削除
続きかと思った…
ちゆり切り換えよすぎ
14.100名前が無い程度の能力削除
教授振り回されてるなあ、全力で