Coolier - 新生・東方創想話

メディ考

2011/03/11 09:58:33
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私はメディスン・メランコリーである。
今気になっているのはこの名前だ。
『メランコリー』とはいったいどういうことであろうか。
確かに『めらんこ』という響きは私の可憐さと愛くるしさをこれ以上ないほど正確に表現している。
私のために存在する文字列といっても差し支えはないだろう。
しかし、『メランコリー』となれば話は別だ。
『憂鬱』とはなんであるか『憂鬱』とは。
鈴蘭の毒満ちるこの丘で、私は何一つ恥じることなく気負うことなく妖怪人生を謳歌している。
この生活は幸せだ。
そう、ここ幻想郷において人形の扱いは不遇を極めると聞く。
ある者は汚物塗れで川に流され、またある者はぞんざいに投げ捨てられた挙句爆死の爆死である。
私は彼らのことを考えると涙を抑えきれず、思わず「ふぐぅ」と呻くこと毎晩毎夜なのだ。
彼らを差し置いて『憂鬱』を名乗る事も腹立たしく、不満無く不平の無い私が『憂鬱』を名乗らなければならないというのも腹立たしい。
いや待てよ。それならば私のこの名前に対する苛立ちこそが『メランコリー』の原因なのではないか。
いやいや待てよ。名前について悩むことを止めたところで、私が『メディスン・メランコリー』であるという事実は変わらないではないか。
いやいやいや待てよ……。



一先ず『メランコリー』から離れて『メディスン』の部分について考えるとしよう。
『メディスン』の部分も気に食わない。
語感にそこはかとなく西洋の高貴さを漂わせていることは良しとしよう。
『メディ』と呼ばれるのも悪くない。
だが、『薬』とはいただけない。
薬というのは毒の下位互換だ。
薬が毒を制する、愉快な話である。寝言は寝てから言ってほしい。そして出来ることなら静かに寝てほしい。
薬は毒があって初めて活躍の場を得るのに対し、毒は単独で大活躍するのだ。人などコロリ、である。
血清も毒からできるし、薬用養命酒よりハブ酒の方が美味であることからも薬が毒よりも劣っていることは明らかだろう。
言うまでも無く私の能力は毒である。
鈴蘭に囲まれて培ったのは甘く香る猛毒である。苦くて臭い抗生物質なんかよりも趣がある。
そんな私が『薬』を名乗ろうとは。
今まで出会った諸々が「くすり」と笑わなかったのが不思議なくらいだ。いや、笑っていたかもしれない。困ったものだ。
しかし『ポイズン』と名乗るのも気が引ける。
なんと言うか、あからさまだし、可愛くないではないか。特に『ズン』のあたりが。ズン、ずん……聞き覚えはあるが可愛くない。





結論、私は改名する。『メディスン・メランコリー』という名前は本日を持ってお役ご免だ。
さらばメディスン。
さらばメランコリー。
私は私に相応しい、愛らしく愛おしく強くて素敵で無敵な名前を持とうと思う。
さてどうしよう。メディスン、メディスン、メディスン……。
『毒』という意味は入れておきたい。そしてできることなら愛称を付けやすく、響き的にも呼びやすい方が良い。
毒なら『ヴェノム』とか……却下。
ここは発想を柔軟に持たなくては。わざわざ英語に拘ることはない。フランス語でもドイツ語でも、なんなら日本語でも構わないわけで。
そう、日本語。
和名というのもなかなか良さそうではないか。
漢字も一度使ってみたかった。
漢字を使うなら少し怖そうな名前でも良いかもしれない。重々しくて格式高い、やはり妖怪は怖がられてなんぼのものだ。
……うん、なかなか。これはいい。うん。
納得のいく出来だ。
それでは次は名前に取り掛かるとしよう。
苗字を漢字にしたからではないが、名前はひらがなが良い。
ひらがなで、『めらんこ』の可愛さを残したまま、しかし『めらんこ』のままでは少しつまらない。
面影を残しながらオリジナリティを加えて……。三文字くらいに収めたいものだ。
めらんこ、めらんこ。
……。閃いた。うん。これは可愛い。我ながら抱き締めたくなるほど可愛い名前を思いついたものだ。
これで完璧だ。
新しい名前が決まった。
今日から私は――。


「古明地こいし!」
突然後ろから大きな声で何か聞こえた。
驚いて振り向くとそこには見慣れない少女。
まあ、ここには私とスーさんくらいしかいないから誰が来ても見慣れないことに変わりはないけど。
少女は満面の笑みを浮かべて私を見ている。
黒くて丸い可愛い帽子には黄色いリボンが巻いてある。ベージュのお洋服、緑のスカート。体に巻いているあの青い紐は何だろう。
人形である私が言うのもなんだが、どことなく人形じみた子だ。
「ねえ、今そう思ってたでしょう」
わけの分からない質問をぶつけられた。
「え」
「『メディスン・メランコリー』って名前気に入らないから『古明地こいし』に変えようって考えてたでしょ」
「え、いや……違う……。ていうか何で私の名前知ってるの」
変な子だ。毒も効いてないみたいだし、妖怪なのは間違い無さそうだけど、どうしよう。
「ここに来るまでに妖精が話してたよ。毒が好きなお人形さんがいるって」
「いつからいたの」
「ねえねえ何考えてたの?」
質問と質問がぶつかってかちんと音が聞こえた気がした。
「……来週の人形解放デモのこととか……」
「あ~惜しい」
少女は少し大げさなアクションで肩を落とした。
「私ね、心を読む練習をしてたの。昔みたいに心が読めたらなって思う人間がいたから」
「それって巫女?赤と白の」
「そう、それ!すごい!よく分かったね。もしかして貴女も心が読めるの?」
私は首を振った。
妖怪に興味をもたれる人間なんてそうそういないだろう。
いつぞや花が咲き乱れた一件で出会って以来、私もなんとなくあの巫女が気になっている。
「貴女の後姿を見ながら、眼がね、どうしても開かないからあなたになりきって考えてみたんだけど」
何を言っているのかよく分からないが敵意は無さそうだ。
私は少しだけ警戒を解いた。
風が吹き、紫の瘴気が散っていく。
「ねえ」
それにしてもこの少女はよく喋る。
スーさんたちは無口だからこれほど賑やかなのは久し振りかもしれない。
「ねえ、じゃあ貴女はなんで『メディスン・メランコリー』?」
「なんでって……」
……あるはずの答えは出てこなかった。
あれ?それなら私はいつから『メディスン・メランコリー』と名乗っていたのだろう。
「それじゃあまたね」
少女の声が少し遠くから聞こえた。
風に吹かれてスーさんたちが見送る。
そもそもいつから私はここにいる?
あれ?『メディスン・メランコリー』って誰?
いやいや落ち着け。
私だ。『メディスン・メランコリー』は私。
でもこの名前は誰がつけたのだろう。
自分?いや、多分違う。
何故ならメディスン、メランコリー。よく考えてみるとこの名はちっとも私に似つかわしくないからだ。
これはどういうことか。
私はメディスン・メランコリーである。
今気になっているのはこの名前だ。
多くは語りません。皆様ご機嫌よう。感想批評叱咤激励おまちしております。
ふぐるま
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コメント



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3.100nekojita削除
これは面白い。多くは言わねえ。
7.80とーなす削除
無限ループ!?
というか、前半部のあれ全部こいしちゃんか……騙された。
ところどころの小ネタが良かった。「ふぐぅ」
8.60鈍狐削除
成る程、無意識をあやつる程度の能力、ということですね。面白い試みでした。
10.90奇声を発する程度の能力削除
ループw
12.80名前が無い程度の能力削除
みんなの米で気付いた
上手く言えないけど面白かったです
13.無評価名前が無い程度の能力削除
ちくしょうwわかんねえw