「ちょっと紅魔館へ本返しに行ってきますね」
「うん、いってらっしゃい」
「出かけるときはちゃんとペットの誰にでもいいから伝えてくださいね」
「はいはい」
お姉ちゃんは最近外へ出かける様になった。地霊殿に籠りきりだったというのに旧都の居酒屋や茶屋、書店はもちろん、とうとう地上へもよく出かける様になったのだった。
それはとってもいいことなんだけれども。
私はというと、最近あんまり出かけていない。二日に一回くらいだろうか、ふらふらと目的も無く彷徨う。本当にそれくらい。あと一週間に一回お友達になったフランドールに会いにいくくらいかな。
それ以外の二日に一回はこうして地霊殿の床で、大型犬に抱きつきながら座ってぼうっとしてることがほとんどだ。
「最近お姉ちゃんよく出かけるようになったんだよ」
犬に話しかけても、鼻をならしてくすぐったそうに身をよじるだけ。
正面に座り直し、首をわしゃわしゃと撫でる。あはは、嬉しそう、嬉しそう。
「私最近外出かける気があんまり起きないの」
気持ち良さそうに目を細めながらも、犬は私に目線を向けた。
せっかく犬が私の話に興味持ってくれても、もう私は覚り妖怪じゃなくて、どっちかっていうと覚れない妖怪だから犬が何を考えてるのかなんて分からない。
「多分ね、今まではいつ帰ってきてもお姉ちゃんがかならずお帰りって言ってくれたから、ふらふら出かけられたんだと思うんだ」
耳に毛糸のクズが絡まっていたから取ってやる。
「でも最近は昼間帰ってくると居ないでしょ?」
もう一度頭を撫でてやると犬が立ち上がった。
「夜私が居ないと、お姉ちゃんと話すタイミングなくなっちゃうしね」
犬が私の頬をぺろぺろと舐める。
別に嫌がらないよ。可愛いペットだし。ペット達も、私に考えが伝わらないことを知っているから、多分これは慰めてくれてたり、そういうことを表現した結果だと思うし。
数回頬や鼻を舐めた後、犬は私の隣に丸くなって眠たそうにしはじめた。
「お前は優しいね」
撫でながら犬についているゴミを取ってあげる。
「出来るなら、お姉ちゃんの前で今日私が言ったことを考えないでおくれ。今楽しいみたいだし、私に気を使って外でなくなっちゃうのも嫌だしね」
相変わらず表情も心も読めなかったのだけれど、くぅんと鳴いて意思表示をしてくれた。
私も犬に愚痴れてすっきりしたのか、なんだか眠くなってきてしまったので、犬を枕に一眠りすることにした。ふさふさの毛が、気持ちいい。
「おやすみ」
くぅん。
。 。 。
目が覚めると私と犬に毛布がかけられていた。犬はまだまだ寝足りない様子で、起こさないよう慎重に立ち上がりながら、犬に毛布をかけ直してやる。
「犬に毛布っているのかな?」
まぁ気持ち良さそうだしいいやと思いながら、リビングへと向かうため廊下を歩く。
昼間の地霊殿は大体暗く、庭の奥にある人工太陽の窓から入る光に明かりを頼っている形だ。
時計を見ると既に夕食が出来上がるくらいの時間だったのに、まだ外は明るい。
「お空め、また仕事忘れたな」
地底でも時間帯を感じ取れるよう、夜の間は人工太陽を必要最低限まで小さくすることになっている。そうしてそれを見たお姉ちゃんやペット達が地霊殿の明かりを点け始めるんだ。
人工太陽の管理はお空の仕事。何度言っても、毎日何かしらの問題は起こしちゃうんだけども。
お空探さなきゃと思っていると、丁度向かい側からお空が歩いてきた。
ここは人工太陽管理者の保護者として、ビシッと言ってあげないとね。
「こら、お空! 時間過ぎてるぞ!」
お空は慌てた様子で走って人工太陽の方へと向かっていった。
お空を見送った後、もう少し廊下を進んでぎぃぃとちょっと仰々しい音を立てながらリビングへと入る。すると丁度同じタイミングで外が暗くなった。
「こいし、明かり付けてくれますか?」
トントントンと包丁の手を止めないまま、お姉ちゃんは私に声をかけた。
「よく私って分かったね」
「なんとなくですよ」
お姉ちゃんに言われた通り、リビングの明かりを点けて回る。
全部に明かりを点け終わった私は、出来上がる料理を待つべく、テーブルに座った。
つまみ食いは禁止、無意識でって言い訳も禁止と私に言いつけながら、出来上がったおかずを並べていく。
おかずが出そろったのだろう、お姉ちゃんもエプロンを置いて、テーブルの向かい側に座った。
ペット達も、今頃それぞれご飯を食べているだろう。自分たちで当番を決めて回してくれているおかげで、手間がかからないのは非常にいいことだ。
「後はご飯待ちだね」
「そうですね」
火にかけてあるお米の湯気具合をみながら、お姉ちゃんがため息をついた。
「まったく、寂しいなら寂しいと恥ずかしがらずに言えばいいものを。そう思わないですか?」
私は手をテーブルの上にもってきて、くるくると箸を弄ぶ。
「はぁあ、言わないでって言ったのに」
「あの子は言ってませんよ」
「そりゃそうか、あの子が先に寝て、私の方が後に起きたんだから」
やだなぁ、お姉ちゃん気にしてるっぽい。
「大丈夫ですよ、私は今まで通り外にも出るつもりでいるので」
「そんなところまで。ってなんでよ、どのタイミング……そうか、夢か」
おそらくあの犬は夢の中で私のことを考えていたんだろう。無意識なら仕方がないか。
「私にとっては、そうやって溜め込まれる方が気になっちゃいますよ。ただでさえ普段第三の目に頼ってる私が、第三の目の力を借りれない相手なんですから。口に出して言ってもらわないと……」
「えぇー、寂しいよぅって言うの? お姉ちゃんに?」
そんなの迷惑うんぬんの前に、恥ずかしくて言えるわけがない!
「頭撫でてあげましょうか?」
「馬鹿にしてない?」
「そんなつもりは」
「後でね、とりあえず、今はご飯食べたい」
いつの間にか私の方を向いていたお姉ちゃんにそう微笑みかけると、お姉ちゃんはハッとして立ち上がり、急いで火をとめ、私にご飯をよそってくれた。
「いただきます」
「はい、召し上がれ。いただきます」
別にそこまで気にしてるわけじゃないみたいだし、なんだか後で撫でてもらえるみたいだし、ペットみたいに甘えるチャンスだし変なことは言わずに黙っておこう。
私は知っているんだ。お姉ちゃんが私の頭を撫でるとき、特別な笑顔をすることを。私や、お姉ちゃんがペットを撫でるときと、似てるけど違う笑い方をすることを知っている。
ご飯の後お姉ちゃんのその笑顔を独占して、甘えまくるんだ。
お姉ちゃんの周りに人が増えて、それを見てちょっと妬んじゃうくらい独占願望の強い我がままな妹だから、夕飯の後くらい独占してしまおう。
そんなことを考えながら、お姉ちゃんの作った食事を食べていると、どたどたと誰かが走ってくる音が聞こえてきた。
誰だ私とお姉ちゃんのつかの間ランデブーを邪魔するやつは! とドアの方を睨んでいると、勢いよく開いたそのドアから現れたのは汗だくのお燐だった。
「た、たたた、たたた……!」
「落ち着いて、お燐。どうしたの?」
私がそう言っても、お燐の慌てっぷりはどんどん加速する一方。
「あば、あの、と、とととにかく!」
お燐の心を読んだのであろう、お姉ちゃんが急に立ち上がり走り出す。
私も急いでお姉ちゃんとお燐について行った。どうやら、旧地獄に向かっているようである。
走りながら少し落ち着いたのか、お燐が私に振り向いた。
「お空が炉心に落っこちちゃったんですよ!」
なるほど。私のお姉ちゃんとの甘々な時間を奪ったのはお空か。
「あんのばかガラスー!」
私は霊力を爆ぜさせてお燐とお姉ちゃんを抜き去る。
「なんでこいし様あんなに怒ってるんですか? なんからしくないですね」
「さあ、分からないわ」
ちらっと振り返ってみたお姉ちゃんの顔は、まるで私の心を読んでいるかのように、にやにやしていた。
待っててねお姉ちゃん、すぐお空を助けて甘えにいくから!
キュっとグリップを聞かせたカーブをきって、廊下を曲がり、庭に出る。そのまま直進して、私は炉心の中に飛び込んだのだった。
。 。 。
「こいし様ぁ、申し訳ございませんー」
「ううん、もう怒ってない。私も馬鹿だったし」
結局あの後、無防備で飛び込んだ私も炉心火力の巻き添えをくらい、後から準備をしてきたお燐とお姉ちゃんに二人まとめて救出され、こうして安静に寝かされている次第である。
「まさか炉心があんなに熱いなんて……」
最後が尻切れトンボだったのでちょっと残念。
でも、最後が中途半端すぎたのでこの点数です
あそこからもう少し、話を展開していただきたかった。
お空の只の事故だったということでしょうか?
こいしちゃんはさとり様に可愛がられたい一心で何も考えずに飛び込んじゃったということでしょうか。
そこまでの雰囲気で何か幸せな気分になっていただけに中途半端で終わってしまってスッキリしませんでした。
これ以上中身が詰まってて噛みごたえが出たらニヤケて
ヨダレだらだらなのでこれで問題ない
こいしちゃんかわいいなぁ
しかし、お空はともかくこいしはよく無事で……何気に頑丈なのか
うおおおお沢山のコメントごめんなさいありがとうございます!
奇声を発する程度の能力様
そうなんです。本当何も考えずに私がこいしをはぁかわいいなぁもうチクショウと言った感じにしたかっただけというか。いや本当はもうちょっと色々あったんですけど、問題の方が多くて。
もっと可愛くしたかったのぜ。
2様
ありがとうございます。こいしちゃんもさとりさんも、犬には本音を話すんだと思います。さとり様は犬から心読み取れる分、こいしの本音を聞いてしまったり。
ラスト本当申し訳ないです。力不足故、伝えたいことが伝わりきらないというか1ミリも伝わってないというか、冷静に読み返してみると何したかったんだこれ状態でごめんなさい><
3様
ありがとうございます。こいしちゃんもうまじどうしてこんな可愛いのか分からない。
言い訳する言葉もございません。。。もう何やってんだこのばかすかしと自分で自分の頭を叩きたい気分んで一杯でございます。
ぺ・四潤様
うわああごめんなさいありがとうございます。そうですよね、読み返して私も意味不だと思いました。本当はちょっとあったのですが、やってるウチに、あれこれもしかしてタブーなんじゃね? と思い始め、そこからそのタブー感を濁しまくろうとした結果、どこまでやっていいのか考えるあまり頭フリーズして、そのまま投げるという愚かしい行為をしてしまった次第でございます。。。
13様
もう本当やってしまったと思う次第でございます。数日立たないと、人間って冷静に慣れないんだなと改めて思い知らされました。次回作品見かけてお時間があれば、また読んでやってください。今度はしっかりと作り込みますので。
14様
でもさっぱりさせすぎてしまったのかもしれないと反省しているところです。よだれだらだらにさせてみたいです! シズル感マックスみたいな。
鈍狐様
本当そうですよね。私もアホゥこのアホゥって思いました。中盤気に入って、当初あった構想も結構気に入ってたのですが、何か版権を侵害してる内容になりそうだったので、削りまくった結果、脳爆発しちゃいました。。。それでなぜそのまま投稿したのか。。。次はしっかり作り込みたいと思います。ありがとうございます。
21様
ありがとうございます! こいしちゃんという最高に可愛い素材を使っておいて、この程度の料理をお出ししてしまい申し訳ございません。ただ、楽しんでいただけたようなので、その辺りは良かったと思ってます。
22様
最初はまさにその曲の通りな感じでパロの予定だったんです。あとがきに書いて投稿しようと思ったのですが、いやでもどうなんだ? って思ってしまったわけですよ。アニメとかのパロなら迷わずにやってたと思うんですけど、どうしても気が引けてしまって。
26様
ご指摘ありがとうございます。。。実は他の方からも指摘を頂いておりまして、直し忘れてしまっていました。私漢字変な覚え方してる物が多いので、助かります。素で人口は間違えてました。
27様
ありがとうございます! もうちょっとスパイス効かせてみたいところです! 唐辛子まではいかなくていいんですけども。楽しんでいただけたようで何よりです。
32様
ありがとうございます。東方の女の子は皆可愛いですよね! 可愛さに脳内美化が混ざってさらに可愛く……。これだからやめられない。
一応妖怪、みたいな。。。
そこだけもったいないかなぁと思いました。
こいしちゃんたらとてもとてもさとりんの事が大好きなんですね。
可愛いなぁ、本当に。
36様
ありがとうございます! 力量不足もうしわけない。こいしちゃんというスーパー素材を使っておきながらこの失態。頑張らねば。
37様
こいしはさとりのこと大好きなんですよ。もう本当、自分よりも大好きで大好きでたまらないんですよ。
こいさとでもさとこいでもいいからちゅっちゅ!
なんてあざと可愛いキャラクターなんだ!