[はじめに]
・長大になってしまったので連載モノの体裁を取らせていただきます。
・不定期更新予定。
・できるだけ原作設定準拠で進めておりますが、まれに筆者の独自設定・解釈が描写されていることがあります。あらかじめご注意下さい。
・基本的にはバトルモノです。
以上の点をご了承頂いた上、ぜひ読んでいってください。
前回 C-1 D-1 E-1 F-1
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【 A-4 】
八雲紫が企画した今回の不思議なイベント――妖怪や人間を四つのチームに分けて戦う、このなんとも奇妙なイベントは、ともあれスムーズに動き出した。
普段なら他の妖怪の言うこと――紫の言うことなんか特に――を聞かない手合いも、こぞって彼女の言う通りにそれぞれのチームに分かれ、そして大人しくチームとして行動している。
それだけで十分、この萃まりを“奇妙”と言いえられるだろう。
今夜は始まりの第一夜。すでに二つのチームがぶつかっていた。
「――三人がかりでこれだけやって、一発も被弾しないとはね…………」
妖怪の山の麓では、鮮やかな弾幕が展開されていた。
それは夜の闇に溶けることなく、煌びやかに、華やかに、周囲を弾の海と化している。
一人の弾幕とは思えない密度。それも当然、これらの弾幕を展開している側は三人なのだ。
いくら三人ともスペルカードを使っていないとは言え、牽制の弾幕だけでも到底避けられたものではない。――普通ならば。
美鈴の目の前で三人分の弾幕をことごとく避け続け、さらに合間合間に反撃の護符を放ってきている霊夢は、わかりきっていたこととは言え、普通ではなかった。
「相変わらず、デタラメな回避能力して!でも……これなら!!」
そう言って美鈴はスペルカードをセットした。
「彩符!『極彩颱風』!!」
衣玖と橙も彼女に続いてスペルを宣誓していく。
「仙符っ『鳳凰展翅』!!」
「雷魚――『雷雲魚遊泳弾』」
そうして放たれた三つのスペル。様々な色合いの弾々は美しく――そして殺人的だった。
橙からは赤と青の弾が、美鈴からは七色の小弾が発射され視界を埋め尽くし、そこを衣玖の放つ青い雷弾が、縦横無尽に霊夢を追いかける。
彼女たちのスペルは、なるほど、弾幕勝負が得意な者であれば、躱すことはそう難しいものではなかったが、それはあくまで一対一の通常の弾幕勝負での場合である。
三人でスペルを展開したことで、弾は雨のように降り注ぎ、この戦場において安全な場所というものは、もはや存在しなかった。
特に打ち合わせをしたわけではなかったが、口火を切った美鈴に合わせて追撃をかけてゆく様は、急造にしては良い連携だと言えるだろう。
だがしかし、それほどの密度をもってしても、博麗の巫女の顔色すら変えることができない。
彼女は涼しい顔をしながら、弾の群れをスルスルと避けていく。
そのヒラヒラとした服にも、なびく黒髪にも、一発と掠らせることはさせない。
これはもはや“驚くべき”なんて言っていられないほどのレベルである。この密度の弾幕群の中を泳ぐように飛んでいることは、すでに異常でさえあった。
しかも要所要所では、牽制を兼ねた反撃の護符を投擲することを止めていない。もしかして霊夢は雨も避けきれるんじゃないか、などと思わせるほど、完璧な回避性能。
当たらないはずのない攻撃が当たらないことに、誰よりも焦燥感を感じているのは――他でもない、衣玖だった。
――これは……どう考えても私が足を引っ張っている…………。
彼女は内心だけで歯噛みしながら、自らの放った弾を操る。
味方の弾幕を縫いながら、霊夢へ向かってピンポイントで狙いを定めて追尾してゆく雷弾。それはそれで、回避側からすれば脅威なのは確かだろう。
だが彼女としては、ここは他の二人のように広域展開型のスペルを宣誓しておきたかった。
そうすれば、単純物量で押し切ることができる。
彼女たちがいる空は、すでに弾幕で飽和状態だ。ここにさらに弾数を追加すれば、如何に回避能力が高かろうと、物理的に避けることはできないはずだ。
そう考えていた――が、今現在、彼女の手持ちにそういったスペルはほとんど無い。まったく無いわけでもないが、それらは虎の子の大火力スペル。他二人との兼ね合い上、容易く使うわけにもいかない。
もちろん、美鈴と橙の攻撃も、所詮はまだ牽制弾の延長程度の攻撃であろう。それは衣玖にも、避けている霊夢にも伝わっている。
つまりまだ、全員が“とっておき”を残している状況だ。
――だけど、それをどうする?このままでは確かに埒が明かない、けれど…………。
衣玖の迷いを見透かすかのように、回避を続ける霊夢がおもむろに口を開いた。
「あんたたちの“陣”ってのはこんなものなの?まだこれが続くってんなら……こっちから行くわよ」
冷ややかに言い放ち、また弾を躱す。
言い終わり、身を翻したのを契機としたように、彼女は美鈴たちへと前進を始めた。
「げっ!あれ避けながら突っ込んでくる!?」
「あー……どうなってんですかね、まったく」
状況が変化してゆく。
美鈴も橙も、今の弾幕で倒せるだとは思っていなかったが、足止め程度にはなるはずだと思っていたのだろう。
まさかあれだけの量の弾幕を前に、一撃も当たらず、あまつさえ、それを掻い潜って進んでくるだなんて夢にも思わなかったし、夢にも見たくなかった。
今はまだ霊夢と多少距離がある。スペルもまだ展開中。さすがに真っ直ぐ飛んでくるようなことは出来ないようで、ジリジリと弾を避けながら距離を詰めているだけではある。
だが、ゆっくり、確実に近づいてくる霊夢が、全ての弾を掻い潜って美鈴たちの前に立つのは、すでに時間の問題であった。
「…………さて」
衣玖はおもむろに呟く。
「衣玖さん……?」
美鈴が弾幕を放ちながら、衣玖の方へと目をやる。
彼女の雰囲気が少し変わっていた。何かを決意したように瞳に力を込めて、大きく息を吸っている。
衣玖は静かに決断を下し、美鈴と橙へと声をかけた。
「――美鈴さん、橙さん。今のような広範囲の弾幕ではなく、あの巫女に狙いを絞って行動を制限できるような弾幕を張れますか?」
「え?えぇ、そりゃ……まぁ、多少大雑把にでいいならできますけど…………」
「わたしも……精密射撃って苦手だから、なんとなーくなら…………」
突然の衣玖の言葉に、二人はその真意が測れないような戸惑いの声で答えた。
「そんなに正確に狙ってもらわなくとも大丈夫です。回避できる範囲を狭めてもらうだけでもいいので」
「なにか策でもあるんですか?」
「わたしが巫女相手に接近戦を仕掛けます」
「………………え?」
どちらともなく、そんな声を上げてしまっていた。
思わず目を丸くしたままの二人の視線を受け止めながら、衣玖はやはり固く決心したような面持ちでいる。
「えー、っと……ご存知かも知れませんが、霊夢さんって、接近戦でもめちゃくちゃ強いですよ?スペルも近距離に対応できる強力なのを持ってますし」
人間と妖怪なら、弾幕ごっこなどせずに直接戦闘してしまえば簡単にケリがつく。人間という種族は、妖怪たちと比べて圧倒的に脆弱であるのだ。――基本的には。
人間たちの中でも一掴みほどの少数ではあるが、妖怪たちと比べても遜色の無いような者たちもいる。
博麗霊夢は、その最たるものだった。
そのことを美鈴はよく知っていたし、衣玖もそれを身体で覚えていた。
「えぇ、知っています。前に一度、そうやって戦ったこともあります」
「…………ちなみに、結果はどうでした?」
静かに頷く彼女に、美鈴は恐る恐る尋ねる。
「ボロボロにやられました」
「…………ダメじゃん」
思わず橙も突っ込んでいた。
「はい。でも今回は三対一というアドバンテージがあります。そう簡単にはやられはしないでしょう」
そう言い返す衣玖であったが、彼女自身、勝算があるとはまったく思っていなかった。
近接用のスペルを多く持つ衣玖は、それ相応に一般的な弾幕ごっこよりはそっちの方が得意ではあったが――如何せん、相手が“あの巫女”である。
以前に、天上へと至る途中の雲中にて霊夢と戦闘したときは、初見であることを差し引いても、完敗だったと言わざるをえない結果だった。
あの頃から大して日が経った訳でもない。
――果たしてあの頃と違う結果に出来るのだろうか…………。
表面上では自信に満ちた策を提案したように見せようとしたが、衣玖の内心は不安で塗り潰されていた。
それを悟らせないように、あくまで冷静に、この作戦なら突破口があるかのように振舞わなければならない。
距離を詰められてきている今、現状を変えるための作戦の提案だったが――自分一人の力では、それほど大きく戦況が変わるとも、正直思っていなかった。
そんな衣玖の出した策案を聞き、美鈴はしばらく考えこみ、そして口を開く。
「わかりました。やっぱり、それしか無いですよね」
――そう、その通り。
「前に出るのを怖がっていては、死中に活は見出せませんし」
――いいこと言いますね。
「じゃあ私も前に出ましょう!」
――そう、あなたは上手く弾幕を張ってくれれば…………ん?
「…………はい?」
さも当然であるように言い放った言葉は衣玖を驚かせた。
というより、あまりに自然と言い放たれすぎて、最初は何を言ってるのかすら理解が追いつかなかった。
「いや、だから、衣玖さんひとりでアタッカーも悪いんで、私も前に出ますって話ですよ。……わかります?」
「いや、それは聞いてればわかりますよ……。じゃなくて!前衛が危険だと言ったのはあなたですよ!?」
「えぇ、そりゃ危ないですよー。だってあの人、ロングの攻撃避けるような感じで打撃避けて、さらに反撃してくるんですよ?非力な人間なんじゃないんですかね。困ったもんです」
目の前にいる美鈴のリアクションがいまいち受け入れがたく、衣玖はとっさに返事が出来なかった。
予想だにしていなかった返事すぎて、頭の中ではグルグルと言葉が回る。
「い、いや!火中の栗を拾うのは、私だけでいいはずです!あなたは後方からの射撃だって、十分にこなせているじゃないですか!」
「いえいえ、私もぶっちゃけた話、弾幕戦って苦手なんですよ。このルールで戦ったら、私なんて幻想郷で下から数えた方が早いんじゃないですかねー」
「い、いや、そんな……だって、あなたは…………」
――――あなたはこんなにも、綺麗な弾幕を張れるじゃないですか――――
「じゃあ私も近づいた方がいいのかなぁ?」
「いえ、橙さんはこのまま牽制の弾幕を張ってて下さい。私や衣玖さんに当てないで下さいよー?」
「りょーかーい!」
衣玖が返事をしあぐねている間に、衣玖の提案した作戦はとんとん拍子にまとまってきていた。
それは当初彼女が想定していた形ではないにしろ、次第に作戦としての方向性を固めてゆく。
弾幕の間を飛び交う霊夢は、もうすぐそこまで来ていた。
「さて、じゃあ橙さんが合図に大技だすそうなんで、そしたら出ますよ、衣玖さん」
そして間も無く、作戦はまとまっていた。
ほとんど何も決まっていないようでな気もしたが、すでにフェイズは実行段階。あとは動き出すだけになっている。
不安に体を竦めるのも、隣の妖怪が妙なことを言ってのける理由も、後回しにせざるを得ない。霊夢はもう目の前まで来ているのだ。
グルグル頭を巡る言葉たちに終止符を打つ。
そして……あとは動き出すだけ。
明確な行動原理に気づけたためか、衣玖の心は次第に普段の軽やかさを取り戻してゆく。
大怪我しそうな先陣への出向前に、一つ、深い溜め息を吐いた。
「……あなたは結構勝手な人だったんですね、美鈴さん」
「あれ、そうですか?まぁお屋敷にいる方が揃いも揃って我侭放題ですからねー」
「愚痴ですか?」
「あ、いやや、ぜひオフレコで」
「ふふふ、わかりました」
困ったように頭を掻く美鈴に、急ごしらえの相方として、衣玖は笑いかける。
「――では帰ってからのお茶会で美味しいもの、期待してますよ?」
「――はい!それはもう、任せて下さいっ!」
二人とも気負いは無かった。霊夢はもう目前まで迫っている。
あの巫女なら近接戦だろうが、彼女らを二人相手にするくらい造作もなくこなすだろう。下手するとどちらかはこの三日動けないほどの傷を負うかもしれない。
それでも。
二人は負けるつもりなど微塵もなかった。
「ハイハイッ!そんじゃいっくよー!!」
そう言って橙は宣誓しているスペルを解き、新しいスペルの起動に入る。
「いけっ!!鬼符『青鬼赤鬼』!!」
叫んだ橙の両脇から青い大玉と赤い大玉が現れ、それらはまっすぐ霊夢の方へと、容赦の無いスピードを上げて飛んでいった。
橙は紫の式神・藍の式であり、式の式という立場の彼女が本当の鬼を使役しているわけではないのだが、この際それは関係ないと思わせるのに十分な殺傷力を秘めたスペルである。
ともあれ、今まで放っていたスペルのように全方位を埋め尽くすかのような弾幕ではなく、二つの大玉が対象を狙うだけの弾である。
速度がどれほどあろうが、そのような単発攻撃が博麗の巫女に通じるわけもなく、あっけなく二つの弾を頭上に掠めるようにして、下へと避けられてしまった。
が、それこそが橙の――いや、橙たちの狙いであった。
「ようこそ――――」
大玉を避けた先、潜り込むようにして回避した青鬼赤鬼の下方向には、すでに先ほどまで目前に並んでいた三人の一人、紅美鈴が待ち構えていた。
さすがの霊夢ですら虚を突かれたようで、一瞬ぎょっとしたのが表情から読み取れる。
その一瞬を見逃さず、美鈴は追撃の拳をひとつ放つ。功夫を積み上げた美鈴の拳は疾く、硬い。その美鈴の拳をとっさに後ろに飛び退いて躱す。
そうして拳打の射程から外れ、霊夢ははたと思い至る。
――――敵は三人いる…………上っ!
「――――いらっしゃい」
そう言いながら衣玖は霊夢の頭の上――先ほど大玉を避けた場所のちょうど真上のあたりで微笑んだ。
振り上げられた衣玖の左手、突き上げられた人差し指に従えられるかのように、すでに雷電の塊が作り出されている。
小刻みに放電を繰り返す音が聞こえる。
直感的に空を蹴る霊夢だが――衣玖がその腕を振り下ろす方が、疾かった。
――――――――――カッ!
電気の塊から、太い雷が落ちる。
霊夢目がけてピンポイントに。光の疾さで駆け、落ちてゆく。
――――ガシャァァァァァァァァァァッ!!
置き去りにされた轟音が響き、空気がまるごと揺れる。
咄嗟に眼を閉じた美鈴たちの瞼を透過し、激しい光が網膜に焼きつく。
それは、静葉に落とした雷とは一線を画した威力持つ――まさに龍神の一撃だった。
人一人程度を丸ごと呑み込むような雷は、空から大地まで一気に駆け抜け、すぐに細くなってゆく。
光の尾を引き、夜の闇へと掻き消える。その余韻だけを、暗い夜の空に残してゆく。
その後には、激しい光も、音も、巫女の姿も無かった。
「……決まりましたか、ね?」
美鈴が恐る恐る呟いた。
「……さぁ?これで終わりなら、それでいいんですが……」
衣玖もはっきりとは答えなかった。
特大の一撃を放った彼女ではあったが、これで倒せたかどうか半信半疑であった。
確かにただの人間であれば、今の一撃を喰らって無事では済まないだろう。
実際のところ本物の雷ではなく、衣玖の魔力を媒体とした擬似雷撃だが、それでも同じことである。単純威力として、まともに浴びては命があるかどうかも怪しい。防御なり防壁なりを加味しても、十分なほどのダメージが残ることは間違いない。
だから、もしかしたらこれで決着がついていてもおかしくははい。
相手が普通の人間ならば、の話だが。
――あの巫女は……博麗霊夢は違う。いくら虚を突こうが、いくら必殺を浴びせようが、あの巫女なら無傷でいかねない。
衣玖の中で、多少大げさになっているところもあったが――それは概ね当たっていた。
判じあぐねていた衣玖は、横から気配を感じ、とっさに身を引いた。目の前を退魔の法儀を施された針が数本横切り、衣玖の肌をチッと掠めてゆく。
「ぐっ…………」
鋭い痛みを感じながらも、その見覚えのある針の持ち主をしっかりと見据える。
「――残念ながら。おかげ様でまだどうにか無事ね」
衣玖の横方向、同じ高さの空の上に――霊夢は佇んでいた。
彼女の一張羅である巫女装束は所々黒く焦げ、腕からはかすり傷程度の傷が血を滴らせていた。
口調もしっかりしているし、意識もはっきりしている。投げられた封魔針の鋭さも相変わらず。何も問題は無い。
つまり残念ながら、見た目にはその程度の損傷しか与えられていない。
「……ホントに無事である必要は無かったんですけど」
衣玖は残念な反面――僅かに安心もしていた。
霊夢相手とは言え、いくらなんでも人間相手に本気で魔力を放ちすぎた。
万が一……ということもあり得た威力だっただけに、こうしてピンピンしていることに安堵もある。
「……別に殺す気で撃ってくれても構わないわよ。どうせ今は――どうやっても、殺せないんだから」
衣玖はその言葉にドキリとした。口に出したわけでもない自分の考えを読み取られたのかと思った。
おかげで彼女の言葉の不自然さに、気づくのが一瞬遅れる。
「なかなか面白いことを言いますね。人間のくせに殺せない、とはこれ如何に。……詳しく聞かせてもらってもいいですか?」
衣玖の代わりに、美鈴が口を挟んだ。
その問答を聞いて、衣玖もようやく霊夢の言葉のおかしさに気づいた。
“どうせ今はどうやっても殺せないんだから”――――今、は?
霊夢は目を逸らしながら、困ったように頭を掻く。
どうやら本当に口を滑らせたようで、
「あー…………」
と息を漏らしながら、気まずそうに何も無い空間を眺めていた。
「口が滑ったわね…………とにかくっ!――さっきの攻撃は面白かったわ。急ごしらえの割にはいいチームワークしてるじゃない」
「それは……どうも。じゃあまぁ、続行ってことでいいんですかね」
霊夢の発言が気がかりではあったが、美鈴と衣玖はひとまずそのことを棚に上げておいた。
状況は、何も変わっていないのだから。
「そりゃそうでしょ。せっかく“陣”らしくなってきたトコだし、まだまだいけるって所を見せてちょうだい」
そう言って霊夢は再び臨戦態勢へと入る。
美鈴たちは気づかなかったが、霊夢の目の奥の色に多少の変化が現れていた。
つまらなそうに曇っていた瞳が、僅かに輝いている。
彼女の中で下ろしていたスイッチが、本人も気づかぬ内にオンになっていた。
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・基本的にはバトルモノです。
以上の点をご了承頂いた上、ぜひ読んでいってください。
前回 C-1 D-1 E-1 F-1
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【 A-4 】
八雲紫が企画した今回の不思議なイベント――妖怪や人間を四つのチームに分けて戦う、このなんとも奇妙なイベントは、ともあれスムーズに動き出した。
普段なら他の妖怪の言うこと――紫の言うことなんか特に――を聞かない手合いも、こぞって彼女の言う通りにそれぞれのチームに分かれ、そして大人しくチームとして行動している。
それだけで十分、この萃まりを“奇妙”と言いえられるだろう。
今夜は始まりの第一夜。すでに二つのチームがぶつかっていた。
「――三人がかりでこれだけやって、一発も被弾しないとはね…………」
妖怪の山の麓では、鮮やかな弾幕が展開されていた。
それは夜の闇に溶けることなく、煌びやかに、華やかに、周囲を弾の海と化している。
一人の弾幕とは思えない密度。それも当然、これらの弾幕を展開している側は三人なのだ。
いくら三人ともスペルカードを使っていないとは言え、牽制の弾幕だけでも到底避けられたものではない。――普通ならば。
美鈴の目の前で三人分の弾幕をことごとく避け続け、さらに合間合間に反撃の護符を放ってきている霊夢は、わかりきっていたこととは言え、普通ではなかった。
「相変わらず、デタラメな回避能力して!でも……これなら!!」
そう言って美鈴はスペルカードをセットした。
「彩符!『極彩颱風』!!」
衣玖と橙も彼女に続いてスペルを宣誓していく。
「仙符っ『鳳凰展翅』!!」
「雷魚――『雷雲魚遊泳弾』」
そうして放たれた三つのスペル。様々な色合いの弾々は美しく――そして殺人的だった。
橙からは赤と青の弾が、美鈴からは七色の小弾が発射され視界を埋め尽くし、そこを衣玖の放つ青い雷弾が、縦横無尽に霊夢を追いかける。
彼女たちのスペルは、なるほど、弾幕勝負が得意な者であれば、躱すことはそう難しいものではなかったが、それはあくまで一対一の通常の弾幕勝負での場合である。
三人でスペルを展開したことで、弾は雨のように降り注ぎ、この戦場において安全な場所というものは、もはや存在しなかった。
特に打ち合わせをしたわけではなかったが、口火を切った美鈴に合わせて追撃をかけてゆく様は、急造にしては良い連携だと言えるだろう。
だがしかし、それほどの密度をもってしても、博麗の巫女の顔色すら変えることができない。
彼女は涼しい顔をしながら、弾の群れをスルスルと避けていく。
そのヒラヒラとした服にも、なびく黒髪にも、一発と掠らせることはさせない。
これはもはや“驚くべき”なんて言っていられないほどのレベルである。この密度の弾幕群の中を泳ぐように飛んでいることは、すでに異常でさえあった。
しかも要所要所では、牽制を兼ねた反撃の護符を投擲することを止めていない。もしかして霊夢は雨も避けきれるんじゃないか、などと思わせるほど、完璧な回避性能。
当たらないはずのない攻撃が当たらないことに、誰よりも焦燥感を感じているのは――他でもない、衣玖だった。
――これは……どう考えても私が足を引っ張っている…………。
彼女は内心だけで歯噛みしながら、自らの放った弾を操る。
味方の弾幕を縫いながら、霊夢へ向かってピンポイントで狙いを定めて追尾してゆく雷弾。それはそれで、回避側からすれば脅威なのは確かだろう。
だが彼女としては、ここは他の二人のように広域展開型のスペルを宣誓しておきたかった。
そうすれば、単純物量で押し切ることができる。
彼女たちがいる空は、すでに弾幕で飽和状態だ。ここにさらに弾数を追加すれば、如何に回避能力が高かろうと、物理的に避けることはできないはずだ。
そう考えていた――が、今現在、彼女の手持ちにそういったスペルはほとんど無い。まったく無いわけでもないが、それらは虎の子の大火力スペル。他二人との兼ね合い上、容易く使うわけにもいかない。
もちろん、美鈴と橙の攻撃も、所詮はまだ牽制弾の延長程度の攻撃であろう。それは衣玖にも、避けている霊夢にも伝わっている。
つまりまだ、全員が“とっておき”を残している状況だ。
――だけど、それをどうする?このままでは確かに埒が明かない、けれど…………。
衣玖の迷いを見透かすかのように、回避を続ける霊夢がおもむろに口を開いた。
「あんたたちの“陣”ってのはこんなものなの?まだこれが続くってんなら……こっちから行くわよ」
冷ややかに言い放ち、また弾を躱す。
言い終わり、身を翻したのを契機としたように、彼女は美鈴たちへと前進を始めた。
「げっ!あれ避けながら突っ込んでくる!?」
「あー……どうなってんですかね、まったく」
状況が変化してゆく。
美鈴も橙も、今の弾幕で倒せるだとは思っていなかったが、足止め程度にはなるはずだと思っていたのだろう。
まさかあれだけの量の弾幕を前に、一撃も当たらず、あまつさえ、それを掻い潜って進んでくるだなんて夢にも思わなかったし、夢にも見たくなかった。
今はまだ霊夢と多少距離がある。スペルもまだ展開中。さすがに真っ直ぐ飛んでくるようなことは出来ないようで、ジリジリと弾を避けながら距離を詰めているだけではある。
だが、ゆっくり、確実に近づいてくる霊夢が、全ての弾を掻い潜って美鈴たちの前に立つのは、すでに時間の問題であった。
「…………さて」
衣玖はおもむろに呟く。
「衣玖さん……?」
美鈴が弾幕を放ちながら、衣玖の方へと目をやる。
彼女の雰囲気が少し変わっていた。何かを決意したように瞳に力を込めて、大きく息を吸っている。
衣玖は静かに決断を下し、美鈴と橙へと声をかけた。
「――美鈴さん、橙さん。今のような広範囲の弾幕ではなく、あの巫女に狙いを絞って行動を制限できるような弾幕を張れますか?」
「え?えぇ、そりゃ……まぁ、多少大雑把にでいいならできますけど…………」
「わたしも……精密射撃って苦手だから、なんとなーくなら…………」
突然の衣玖の言葉に、二人はその真意が測れないような戸惑いの声で答えた。
「そんなに正確に狙ってもらわなくとも大丈夫です。回避できる範囲を狭めてもらうだけでもいいので」
「なにか策でもあるんですか?」
「わたしが巫女相手に接近戦を仕掛けます」
「………………え?」
どちらともなく、そんな声を上げてしまっていた。
思わず目を丸くしたままの二人の視線を受け止めながら、衣玖はやはり固く決心したような面持ちでいる。
「えー、っと……ご存知かも知れませんが、霊夢さんって、接近戦でもめちゃくちゃ強いですよ?スペルも近距離に対応できる強力なのを持ってますし」
人間と妖怪なら、弾幕ごっこなどせずに直接戦闘してしまえば簡単にケリがつく。人間という種族は、妖怪たちと比べて圧倒的に脆弱であるのだ。――基本的には。
人間たちの中でも一掴みほどの少数ではあるが、妖怪たちと比べても遜色の無いような者たちもいる。
博麗霊夢は、その最たるものだった。
そのことを美鈴はよく知っていたし、衣玖もそれを身体で覚えていた。
「えぇ、知っています。前に一度、そうやって戦ったこともあります」
「…………ちなみに、結果はどうでした?」
静かに頷く彼女に、美鈴は恐る恐る尋ねる。
「ボロボロにやられました」
「…………ダメじゃん」
思わず橙も突っ込んでいた。
「はい。でも今回は三対一というアドバンテージがあります。そう簡単にはやられはしないでしょう」
そう言い返す衣玖であったが、彼女自身、勝算があるとはまったく思っていなかった。
近接用のスペルを多く持つ衣玖は、それ相応に一般的な弾幕ごっこよりはそっちの方が得意ではあったが――如何せん、相手が“あの巫女”である。
以前に、天上へと至る途中の雲中にて霊夢と戦闘したときは、初見であることを差し引いても、完敗だったと言わざるをえない結果だった。
あの頃から大して日が経った訳でもない。
――果たしてあの頃と違う結果に出来るのだろうか…………。
表面上では自信に満ちた策を提案したように見せようとしたが、衣玖の内心は不安で塗り潰されていた。
それを悟らせないように、あくまで冷静に、この作戦なら突破口があるかのように振舞わなければならない。
距離を詰められてきている今、現状を変えるための作戦の提案だったが――自分一人の力では、それほど大きく戦況が変わるとも、正直思っていなかった。
そんな衣玖の出した策案を聞き、美鈴はしばらく考えこみ、そして口を開く。
「わかりました。やっぱり、それしか無いですよね」
――そう、その通り。
「前に出るのを怖がっていては、死中に活は見出せませんし」
――いいこと言いますね。
「じゃあ私も前に出ましょう!」
――そう、あなたは上手く弾幕を張ってくれれば…………ん?
「…………はい?」
さも当然であるように言い放った言葉は衣玖を驚かせた。
というより、あまりに自然と言い放たれすぎて、最初は何を言ってるのかすら理解が追いつかなかった。
「いや、だから、衣玖さんひとりでアタッカーも悪いんで、私も前に出ますって話ですよ。……わかります?」
「いや、それは聞いてればわかりますよ……。じゃなくて!前衛が危険だと言ったのはあなたですよ!?」
「えぇ、そりゃ危ないですよー。だってあの人、ロングの攻撃避けるような感じで打撃避けて、さらに反撃してくるんですよ?非力な人間なんじゃないんですかね。困ったもんです」
目の前にいる美鈴のリアクションがいまいち受け入れがたく、衣玖はとっさに返事が出来なかった。
予想だにしていなかった返事すぎて、頭の中ではグルグルと言葉が回る。
「い、いや!火中の栗を拾うのは、私だけでいいはずです!あなたは後方からの射撃だって、十分にこなせているじゃないですか!」
「いえいえ、私もぶっちゃけた話、弾幕戦って苦手なんですよ。このルールで戦ったら、私なんて幻想郷で下から数えた方が早いんじゃないですかねー」
「い、いや、そんな……だって、あなたは…………」
――――あなたはこんなにも、綺麗な弾幕を張れるじゃないですか――――
「じゃあ私も近づいた方がいいのかなぁ?」
「いえ、橙さんはこのまま牽制の弾幕を張ってて下さい。私や衣玖さんに当てないで下さいよー?」
「りょーかーい!」
衣玖が返事をしあぐねている間に、衣玖の提案した作戦はとんとん拍子にまとまってきていた。
それは当初彼女が想定していた形ではないにしろ、次第に作戦としての方向性を固めてゆく。
弾幕の間を飛び交う霊夢は、もうすぐそこまで来ていた。
「さて、じゃあ橙さんが合図に大技だすそうなんで、そしたら出ますよ、衣玖さん」
そして間も無く、作戦はまとまっていた。
ほとんど何も決まっていないようでな気もしたが、すでにフェイズは実行段階。あとは動き出すだけになっている。
不安に体を竦めるのも、隣の妖怪が妙なことを言ってのける理由も、後回しにせざるを得ない。霊夢はもう目の前まで来ているのだ。
グルグル頭を巡る言葉たちに終止符を打つ。
そして……あとは動き出すだけ。
明確な行動原理に気づけたためか、衣玖の心は次第に普段の軽やかさを取り戻してゆく。
大怪我しそうな先陣への出向前に、一つ、深い溜め息を吐いた。
「……あなたは結構勝手な人だったんですね、美鈴さん」
「あれ、そうですか?まぁお屋敷にいる方が揃いも揃って我侭放題ですからねー」
「愚痴ですか?」
「あ、いやや、ぜひオフレコで」
「ふふふ、わかりました」
困ったように頭を掻く美鈴に、急ごしらえの相方として、衣玖は笑いかける。
「――では帰ってからのお茶会で美味しいもの、期待してますよ?」
「――はい!それはもう、任せて下さいっ!」
二人とも気負いは無かった。霊夢はもう目前まで迫っている。
あの巫女なら近接戦だろうが、彼女らを二人相手にするくらい造作もなくこなすだろう。下手するとどちらかはこの三日動けないほどの傷を負うかもしれない。
それでも。
二人は負けるつもりなど微塵もなかった。
「ハイハイッ!そんじゃいっくよー!!」
そう言って橙は宣誓しているスペルを解き、新しいスペルの起動に入る。
「いけっ!!鬼符『青鬼赤鬼』!!」
叫んだ橙の両脇から青い大玉と赤い大玉が現れ、それらはまっすぐ霊夢の方へと、容赦の無いスピードを上げて飛んでいった。
橙は紫の式神・藍の式であり、式の式という立場の彼女が本当の鬼を使役しているわけではないのだが、この際それは関係ないと思わせるのに十分な殺傷力を秘めたスペルである。
ともあれ、今まで放っていたスペルのように全方位を埋め尽くすかのような弾幕ではなく、二つの大玉が対象を狙うだけの弾である。
速度がどれほどあろうが、そのような単発攻撃が博麗の巫女に通じるわけもなく、あっけなく二つの弾を頭上に掠めるようにして、下へと避けられてしまった。
が、それこそが橙の――いや、橙たちの狙いであった。
「ようこそ――――」
大玉を避けた先、潜り込むようにして回避した青鬼赤鬼の下方向には、すでに先ほどまで目前に並んでいた三人の一人、紅美鈴が待ち構えていた。
さすがの霊夢ですら虚を突かれたようで、一瞬ぎょっとしたのが表情から読み取れる。
その一瞬を見逃さず、美鈴は追撃の拳をひとつ放つ。功夫を積み上げた美鈴の拳は疾く、硬い。その美鈴の拳をとっさに後ろに飛び退いて躱す。
そうして拳打の射程から外れ、霊夢ははたと思い至る。
――――敵は三人いる…………上っ!
「――――いらっしゃい」
そう言いながら衣玖は霊夢の頭の上――先ほど大玉を避けた場所のちょうど真上のあたりで微笑んだ。
振り上げられた衣玖の左手、突き上げられた人差し指に従えられるかのように、すでに雷電の塊が作り出されている。
小刻みに放電を繰り返す音が聞こえる。
直感的に空を蹴る霊夢だが――衣玖がその腕を振り下ろす方が、疾かった。
――――――――――カッ!
電気の塊から、太い雷が落ちる。
霊夢目がけてピンポイントに。光の疾さで駆け、落ちてゆく。
――――ガシャァァァァァァァァァァッ!!
置き去りにされた轟音が響き、空気がまるごと揺れる。
咄嗟に眼を閉じた美鈴たちの瞼を透過し、激しい光が網膜に焼きつく。
それは、静葉に落とした雷とは一線を画した威力持つ――まさに龍神の一撃だった。
人一人程度を丸ごと呑み込むような雷は、空から大地まで一気に駆け抜け、すぐに細くなってゆく。
光の尾を引き、夜の闇へと掻き消える。その余韻だけを、暗い夜の空に残してゆく。
その後には、激しい光も、音も、巫女の姿も無かった。
「……決まりましたか、ね?」
美鈴が恐る恐る呟いた。
「……さぁ?これで終わりなら、それでいいんですが……」
衣玖もはっきりとは答えなかった。
特大の一撃を放った彼女ではあったが、これで倒せたかどうか半信半疑であった。
確かにただの人間であれば、今の一撃を喰らって無事では済まないだろう。
実際のところ本物の雷ではなく、衣玖の魔力を媒体とした擬似雷撃だが、それでも同じことである。単純威力として、まともに浴びては命があるかどうかも怪しい。防御なり防壁なりを加味しても、十分なほどのダメージが残ることは間違いない。
だから、もしかしたらこれで決着がついていてもおかしくははい。
相手が普通の人間ならば、の話だが。
――あの巫女は……博麗霊夢は違う。いくら虚を突こうが、いくら必殺を浴びせようが、あの巫女なら無傷でいかねない。
衣玖の中で、多少大げさになっているところもあったが――それは概ね当たっていた。
判じあぐねていた衣玖は、横から気配を感じ、とっさに身を引いた。目の前を退魔の法儀を施された針が数本横切り、衣玖の肌をチッと掠めてゆく。
「ぐっ…………」
鋭い痛みを感じながらも、その見覚えのある針の持ち主をしっかりと見据える。
「――残念ながら。おかげ様でまだどうにか無事ね」
衣玖の横方向、同じ高さの空の上に――霊夢は佇んでいた。
彼女の一張羅である巫女装束は所々黒く焦げ、腕からはかすり傷程度の傷が血を滴らせていた。
口調もしっかりしているし、意識もはっきりしている。投げられた封魔針の鋭さも相変わらず。何も問題は無い。
つまり残念ながら、見た目にはその程度の損傷しか与えられていない。
「……ホントに無事である必要は無かったんですけど」
衣玖は残念な反面――僅かに安心もしていた。
霊夢相手とは言え、いくらなんでも人間相手に本気で魔力を放ちすぎた。
万が一……ということもあり得た威力だっただけに、こうしてピンピンしていることに安堵もある。
「……別に殺す気で撃ってくれても構わないわよ。どうせ今は――どうやっても、殺せないんだから」
衣玖はその言葉にドキリとした。口に出したわけでもない自分の考えを読み取られたのかと思った。
おかげで彼女の言葉の不自然さに、気づくのが一瞬遅れる。
「なかなか面白いことを言いますね。人間のくせに殺せない、とはこれ如何に。……詳しく聞かせてもらってもいいですか?」
衣玖の代わりに、美鈴が口を挟んだ。
その問答を聞いて、衣玖もようやく霊夢の言葉のおかしさに気づいた。
“どうせ今はどうやっても殺せないんだから”――――今、は?
霊夢は目を逸らしながら、困ったように頭を掻く。
どうやら本当に口を滑らせたようで、
「あー…………」
と息を漏らしながら、気まずそうに何も無い空間を眺めていた。
「口が滑ったわね…………とにかくっ!――さっきの攻撃は面白かったわ。急ごしらえの割にはいいチームワークしてるじゃない」
「それは……どうも。じゃあまぁ、続行ってことでいいんですかね」
霊夢の発言が気がかりではあったが、美鈴と衣玖はひとまずそのことを棚に上げておいた。
状況は、何も変わっていないのだから。
「そりゃそうでしょ。せっかく“陣”らしくなってきたトコだし、まだまだいけるって所を見せてちょうだい」
そう言って霊夢は再び臨戦態勢へと入る。
美鈴たちは気づかなかったが、霊夢の目の奥の色に多少の変化が現れていた。
つまらなそうに曇っていた瞳が、僅かに輝いている。
彼女の中で下ろしていたスイッチが、本人も気づかぬ内にオンになっていた。
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キャラ多数なんで書き分けが下手になってた時は教えてください!