徳を積み、功績を上げた者だけが持つことを許される格、「天人」。
その天人に用意された桃源郷、「天界」。
そこは危険なものがなく、日がな一日、歌い、踊り、「楽」を満喫するだけの場所である。ようは「今までお疲れ様、ゆっくりしていってね。」という所である。
そう、今までの業を労う場所だ――――。
「・・・・・・退屈」
下界(地上)を見下ろし、空を見上げて少女は呟く。
そう、例えるなら「天使」というフレーズがよく似合う。
センターに可愛らしいフリルをあしらった白のブラウス。空に溶けていきそうな青いスカートと、緩やかな風にたなびくこれまた青い髪。そんな少女が、場所はどうあれ、たとえ空中に浮かぶ要石の上で優雅に佇めば天使と言えなくもない。
ただしこの少女の場合は「天使」と呼ばれても単に、名前を呼ぶのは誰ぞ、と反応するだけである。
「・・・・・・退屈」
同じ言葉を再度、口にする。そうしていれば「予想もできない何か」が向こうから来てくれるんじゃないかしら?と考えてみたりするものの、彼女、比那名居 天子(ひななゐ てんし)の目の前には何も現れない。
視界を180°変えて、はぁ。とため息をつく。
「よく飽きもせずに毎日同じことを繰り返せるわね」
その先には平安時代の貴族が暮らしていそうな神殿造りの立派な建物が見える。そしてそこから聞こえてくるのは陽気な音楽と人々の楽しそうな笑い声。
そう、それがここでは普通なのだ。今まで人としての修行を積んできた。その成果が実り、天人になり、天界に住めるようになった彼らからすると、「名居」の一族に付いてきた、苦労を知らないおまけの「比那名居」の娘は不良天人なのである。
「そりゃぁ、私は生まれついでの天人だし?不自由なんて言葉とは縁はないけど…」
スカートからのぞく、ブーツを履いた健康そうな脚を、ぶらぶらさせ、ちょっと頬を膨らます。今のこの状態の彼女を竜宮の遣いが見れば思わず抱きしめているだろう。しかし、当の本人は不在である。それが天子をさらに不機嫌に追い込む。
「大体、衣玖(いく)も衣玖よ!どうして下界に行くなら私に声かけないの!!」
納得いかないわ。とぽつり呟く。そう、衣玖こと、竜宮の遣いの永江 衣玖(ながえ いく)は現在、竜神様の言葉を受け、地上の神社に伝えにいくという本来の仕事をまっとうしている最中なのである。
(追いかけるのは容易い。場所もわかっている。しかし、しかしよ!!それだと私がまるで寂しがり屋で、お母さんの後を追いかけてきた子供みたいじゃない!)
そう、つまり彼女のプライドが邪魔しているのだ。その辺りを、能力を使わずとも(空気を読む程度の能力)把握している衣玖だからこそ、天子に何も言わずに行ったということも、無きにしも非ず。なのである。
そしてそれが自分自身でわかっているだけに腹立たしいのだ。
(あ、今、衣玖のドヤ顔が見えた気がする)
総領娘様、天子、と呼びかけてくれるいつもの穏やかな笑顔がイメージ出来たのはつかの間。そんなことを考えていると衣玖の顔はどんどん砕けていってしまった。
その瞬間、行き場のなかった怒りは内側への恥辱心へと変わる。見る見るうちに頭の上まで赤くなる天子。お気に入りの帽子を深くかぶりなおす。
(少女悶絶中。しばらくお待ちください)
「……コイツをここからあの神社に撃ち込むか…」
立ち直り、平常に戻った彼女が取り出しましたるは、天人にしか扱うことができないとされる、宝剣『緋想の剣(ひそうのつるぎ)』。それを見つめて、どれくらいの力で投擲すればいいかを考え始める。それから数分も経たずに「予想もできない何か」がやってきた。
「そんなとこで、そんなものを見つめていると不良天人の名に箔が付くぞ~」
このやる気のない、のらりくらりとした声。そしてあの年増妖怪にも負けず劣らずの神出鬼没性。そう、幻想郷からも姿を消したと言われた種族。声のする方を向くと、そこには
「うわ、飲んだくれの幼女がいる」
鬼がいた。
明るい茶色の髪を赤いリボンでまとめている可愛らしい少女。その中でも目を惹くのが頭の横から伸びている2本の角である。片方の角にはリボンをつけて可愛らしさを演出。そして手には瓢箪。そこから無尽蔵にあふれてくる酒を浴びるように飲んでケタケタと笑う「百鬼夜行」の鬼。伊吹 萃香(いぶき すいか)がそこにいた。
「幼女とは失礼だな~。これでもお前よりは長生きしてるんだぞ~?それに、人のこと幼女って言うが、自分だってあまり変わらないぞ?」
にへら~と笑いながら萃香は天子のある体の一部を凝視する。具体的に言うと
「え?・・・・っ!どこ見て言ってるのよ!!変態!!」
胸である。そして天子は胸を守るように、自分の体を抱きこむように腕を組む。
「ぷっ!あっはっはっはっは!!!」
自分が振ったネタと天子の反応がよほど面白かったのか、酔っぱらいはゲラゲラと笑う。それはもう、お腹を抱えて。ジタバタと。
(もう…最低、この酔っぱらい…刺激を欲しいとは言ったけど、こんなのごめんだわ!)
「そ、それで?ど、どうしてあなたが、こ、ここにいるのかしら。鬼がいて良いような場所ではないんだけど?」
心中涙目になってる自分をなんとか抑えて、あくまで天人らしい振る舞いで鬼に接しようとする天子。しかし、そこは太古から生きている鬼である。数百年程度しか生きていない天人の、しかも子供の考えなど酒の肴にもならないらしい。
「アハハ……死ぬ……死ぬ………笑い殺される…ぜ……絶壁…………ぷっ」
「人の話を聞きなさいよ!!」
「ハァ……前に言っただろう」
「ふぇ?」
「いや、だから異変の時だよ。言ったろ?土地もらうって」
「あ…」
そう、以前この不良天人、異変を起こしているのである。それも「暇だったから」というのだから、たちがわるい。そして紅白巫女や白黒魔砲使い、スキマ妖怪や、この幼女に遊んでもらったというオチだった。
その時の萃香の要求が「天界で騒ぎたいから、土地寄こせ」だったのである。
「だから、今日はその選定に来た」
「ふーん、ま、いいや。好きなところに、ここは私の土地だって板を刺せばいいんじゃない?」
「なんだい、なんだい、いつもの強気はどうしたんだ?元気がないじゃ……ははーん」
ニタァ~。表現するならそんな言葉が似合いそうな顔で天子と宴会を交互に見る萃香である。
(う、コイツ。私があの宴会を目障りだと思ってるのに気付いたのか……腐っても鬼か)
「なんだ、お前、あの宴会に呼ばれなくて、拗ねてるのか。あいかわらず、かまってちゃんだな~」
「ちがうわよ!!逆よ!!逆!!なんでそっちで判断するのよ!!」
(幼女、爆笑中。しばらくお待ちください)
「いや~、面白いなぁ、天人が皆こうだと楽しいんだけどな~」
「天人が全員こんなのばかりな訳がないでしょう。…ってあれ?私、今馬鹿にされた?」
「ん?いやぁ、そんなことはない、そんなことはない。でも、ならどうして宴会に行かないんだ?楽しいじゃないか。宴会。いいぞ?宴会。」
(そういえばこの鬼、宴会が好きなんだったっけ?たしか、下界の魔砲使い、え~と、キリバイマリサ?も宴会好きだった。)
「ねぇ、鬼さん。」
「ん?何だい、天人さん。」
「あなたはどうして宴会が好きなのでしょうか?」
教えていただけませんか?と静かに天人の少女は鬼に訊いた。
(お、真剣だね)
茶化すのは無粋と考えた萃香は酒を一口飲んで口を開く。
「鬼ってのはね、昔から勝負事。つまり騒ぐのと、人が大好きな一族なんだよ。自分が楽しめればいい。そんな奴らばっかりさ。で、宴会は騒ぐのにうってつけな訳だ。そして宴会っていうのは他人と親睦を深めるのが目的だ。あたしら、鬼にとっては二つの好きなものが同時に手に入るんだよ」
そこで萃香は一度、言葉を切った。酒を飲むために。聞き手の反応を見るために。そして目の前の少女はいつもの我儘姫はなりを潜め、天人の顔で聞いていた。
「それに、楽しいじゃないか。いろんな奴らと一緒に笑っていられるのって結構大事なことなんだぞ?笑えなくなったら何も楽しいことがないってことだろ?あたしはそんな生活ごめんなんだよ」
「楽しめればいい…」
「あぁ、異変だろうが宴会だろうが、幻想郷はすべてを受け入れる、らしいしな」
飲むかい?そう言われて鬼の酒を天人は飲む。天の土地で地の酒を飲み交わす。静かな静かな宴会が始まる。
「えーっと…これは一体どういう状況でしょうか…」
あはは~と、苦笑いが顔に貼りついてしまう。竜神様の言伝を地上の神社に伝えに行き、比那名居、現当主に報告に行き、宴会会場から消えた天子の様子を見るように言われ、探してみたら。
「そうよ!!べつに巨乳じゃなくったっていいじゃない!!まだまだ育つわよ!!だって若いもん!!」
「いいぞ、天子(てんこ)ー!!そうだ!!私たちはまだまだこれから育つんだぁ!!あんな年増妖怪なんて目じゃないくらいにな!!」
「それこそ、下界の薬師なんて目じゃないくらいの悩殺ばでいをゲットしてやるわ!!」
うわははははあはははははは!!と声を大にして叫ぶ、酔っぱらいが二人。会場の外で宴会をしていた。
「…意気投合しているようですし、潰れて寝てるところを連れて帰ればいいでしょうか」
「天の子と地の鬼と。」完
後、後書き西瓜はワザと?
他の新人さんが受けている指摘の多くがあなたにも当てはまるようですので、
まずはそちらをお読みになっては、と思います。
振り仮名は要らないんですね。わかりました。参考にさせていただきます。西瓜は修正しました。ご指摘ありがとうございます。
>>6
なるほど。とにかくここのSS読んで1つずつでもいいので直していこうと思います。右も左もわかっていないのでまた何か指摘部分見つかった時はコメントしてもらえると助かります。頑張ります!!
『気をつかう程度の能力』じゃなくて、『空気を読む程度の能力』だった気がするんですが、わざとですか?それともミスですか?
気になったんで、言ってみます。
間違ってたらスミマセン
天子ちゃんは可愛い。
「・・・」は「……」に
カギカッコの最後に読点はいらない
等々、基本的な所を直せばもっと読みやすくなると思います。
頑張って下さい。
話の内容としては無難にまとまっていて、読みやすい方だと思います。それゆえに物足りなくも感じますが、それは今後に期待いたします。
あ、混合してますね…イクの能力だからこそ、あえて天子を放置するという方向で「気を使った」。っていう感じで読み取ってもらいたかったんです。
>>13 14
最後のチェックが甘かったようです。ご指摘ありがとうございます。