では次の魂よ、ここへ。
…おや、あなたは。
やっとここに来たのですね、随分と待ちくたびれましたよ。
え、どうして知っているのかって?
今のあなたにはわからないでしょうが、生前から色々と気にかけていたのですよ。
なにせ、あなたは例外中の例外でしたからね。
もっとも、顔見知りだからといって特別扱いはありませんので覚悟なさい。
では、裁きを始めましょう。
あなたは生前に盗みを働き、家を飛び出しました。
その後は必要以上に人を傷つけ、妖を襲い、
血で血を洗う修羅道さながらの日々を送りましたね。
また、自分を省みずに獣同然の、畜生道のごとき生き方。
挙句の果てには逆恨みによる殺し合いの日々。
どうです、あなたはこれだけの罪を犯してきました。
いや、ただ犯してきただけでなく、
繰り返し繰り返し積み上げてきたのですよ。
まるで、朝起きたら顔を洗う、
友人に会ったら挨拶をする、
沈む夕日を見て美しいと感じる、
そんな何気ない当たり前のことのように。
後悔しましたか?
しかし、今悔やんでも遅いのですよ。
生前、あなたは幾度となく自分の行いを省みる機会がありました。
やり直そうとすれば幾らでもやり直せたのです。
でも、あなたはそれらに目を瞑り行いを正そうともしませんでした。
もう、分かりますよね?
あなたは到底許されることのない大罪人なのです。
地獄に落とされるのは必然であり、
また落とされたからとってすぐに許されるものでもないのです。
絶望以外に感じることの出来ない責め苦の中で
永劫と言える時間を過ごさなければならないのです。
そうですね、どれくらいの期間と言えば、
天を貫くような岩山に百年に一度天女が舞い降りて、
その頂上を羽衣でさっと一撫でしていく、
そうして岩山が削れていき無くなるまで繰り返す…。
そんな気の遠くなるような時間を百万遍繰り返しても
あなたの罪は寸毫も許されることはないのです。
だが、あなたはその罪深い一生の中で唯一人、真の友を見つけました。
その人は自身の人生の大半をあなたの為に費やしてきました。
いつも、あなたの為に心を砕き、傷つくことにも躊躇いませんでした。
それどころか、命、いや、魂すら惜しまず差し出そうとするほどでした。
その人はあなたにとって希望の光でもありましたね。
残念ながら今のあなたには思い出せないでしょうけど…。
ただ、その事実は、真の友を得た事実は、即ちあなたの善行でもあるのです。
どんな善人でも真の友を得ることは容易いことではありません。
むしろ、友人を見つけられないまま生涯を閉じるのが普通でしょう。
そう、あなたは誰もが成し遂げられない善行を積んだのですよ。
それ故に、もう一度あなたにやりなおす機会を与えましょう。
ある人間の魂とともにもう一度、人間として生きるのです。
そして、二度目の生涯を終えたときに改めて裁きを行うとしましょう。
ではお行きなさい。
もう一人の魂はあなたが来るのをそこで待っていたのですから。
文字通り、永劫の如き時間を過ごしながら…。
良いですね?今度こそ、道を違わぬよう…。
「お疲れ~す。」
な、なんですか!
その態度は!?
「いいじゃないっすか、お互いに今日のノルマを終えたことですし。」
ノルマとはなんです!!
私達の仕事は死者を裁き、迷える魂を導くことなのですよ!!
それを言葉の上とは言え、物のように扱うとは…そこに直りなさい!!
「分かってますって。それより、良いんですか?あんな裁きで。」
あの魂のことですか。
「あの大罪人ですよ?甘すぎやしませんかい?」
ふふ、貴女にそんな心配されるとは。
構いませんよ、ヴィヴァスヴァッタ様…閻魔王ヤマ様でもあのように裁くでしょう。
それにですね。
「それに?」
あの魂が積んだ善行は今までの悪行を帳消しにしても余りあるものでした。
いわば、ご褒美ですよ。二人へのね。
「なるほど。しっかし、意外でしたよ。」
意外?
「あいつが普通の魂と同じようにこっちに来るとはね。
あたいはてっきり、力ずくで来るかと思ってましたから。」
そうですか?私は驚くことの程ではないと思いますが。
不老不死と言いますが、その実態は変化を拒絶した身体の持ち主。
その変化の拒絶と言っても所詮は此岸の理の上でのこと。
理自体が変化してしまえば、変化を拒絶することもかないません。
「だから、驚くほどのことではないと。」
ええ、生々流転と言いますか、変化のないことなど存在しえませんからね。
私達だってそうでしょう?
「そうでしたね。お互い、死者と同じように閻魔様の裁きを受けましたからね。
一から出直して、修行して、怒られ、叱って、笑って、泣いて…。」
そして、こうして再び閻魔と死神になって。あの頃のように一緒に働けるのは僥倖ですよ。
「あたいもですよ。やっぱり、あたいは貴女様の下で働くのが一番です。」
な、何を言い出すのですか!?
「あれぇ、顔赤いですよぉ?」
からかうんじゃありません!
全く、そういうところは変わらないのだから…。
そう、あなたは少し不真面目すぎます!
「あはは、勘弁してくださいよぉ。…ところで、あの二人も来るんですかね?」
…そうですね、近いうちにやってくるでしょう。
そういえば、一人は無理難題を押し付ける大変なじゃじゃ馬でしたね。
「でも、もう一人は問題なさそうでしたから、心配することはないんじゃないですか?」
ええ、もちろん。では、その二人が来たら…。
「分かってますよ。安心してくださいな。」
お願いしますね、小町。
…おや、あなたは。
やっとここに来たのですね、随分と待ちくたびれましたよ。
え、どうして知っているのかって?
今のあなたにはわからないでしょうが、生前から色々と気にかけていたのですよ。
なにせ、あなたは例外中の例外でしたからね。
もっとも、顔見知りだからといって特別扱いはありませんので覚悟なさい。
では、裁きを始めましょう。
あなたは生前に盗みを働き、家を飛び出しました。
その後は必要以上に人を傷つけ、妖を襲い、
血で血を洗う修羅道さながらの日々を送りましたね。
また、自分を省みずに獣同然の、畜生道のごとき生き方。
挙句の果てには逆恨みによる殺し合いの日々。
どうです、あなたはこれだけの罪を犯してきました。
いや、ただ犯してきただけでなく、
繰り返し繰り返し積み上げてきたのですよ。
まるで、朝起きたら顔を洗う、
友人に会ったら挨拶をする、
沈む夕日を見て美しいと感じる、
そんな何気ない当たり前のことのように。
後悔しましたか?
しかし、今悔やんでも遅いのですよ。
生前、あなたは幾度となく自分の行いを省みる機会がありました。
やり直そうとすれば幾らでもやり直せたのです。
でも、あなたはそれらに目を瞑り行いを正そうともしませんでした。
もう、分かりますよね?
あなたは到底許されることのない大罪人なのです。
地獄に落とされるのは必然であり、
また落とされたからとってすぐに許されるものでもないのです。
絶望以外に感じることの出来ない責め苦の中で
永劫と言える時間を過ごさなければならないのです。
そうですね、どれくらいの期間と言えば、
天を貫くような岩山に百年に一度天女が舞い降りて、
その頂上を羽衣でさっと一撫でしていく、
そうして岩山が削れていき無くなるまで繰り返す…。
そんな気の遠くなるような時間を百万遍繰り返しても
あなたの罪は寸毫も許されることはないのです。
だが、あなたはその罪深い一生の中で唯一人、真の友を見つけました。
その人は自身の人生の大半をあなたの為に費やしてきました。
いつも、あなたの為に心を砕き、傷つくことにも躊躇いませんでした。
それどころか、命、いや、魂すら惜しまず差し出そうとするほどでした。
その人はあなたにとって希望の光でもありましたね。
残念ながら今のあなたには思い出せないでしょうけど…。
ただ、その事実は、真の友を得た事実は、即ちあなたの善行でもあるのです。
どんな善人でも真の友を得ることは容易いことではありません。
むしろ、友人を見つけられないまま生涯を閉じるのが普通でしょう。
そう、あなたは誰もが成し遂げられない善行を積んだのですよ。
それ故に、もう一度あなたにやりなおす機会を与えましょう。
ある人間の魂とともにもう一度、人間として生きるのです。
そして、二度目の生涯を終えたときに改めて裁きを行うとしましょう。
ではお行きなさい。
もう一人の魂はあなたが来るのをそこで待っていたのですから。
文字通り、永劫の如き時間を過ごしながら…。
良いですね?今度こそ、道を違わぬよう…。
「お疲れ~す。」
な、なんですか!
その態度は!?
「いいじゃないっすか、お互いに今日のノルマを終えたことですし。」
ノルマとはなんです!!
私達の仕事は死者を裁き、迷える魂を導くことなのですよ!!
それを言葉の上とは言え、物のように扱うとは…そこに直りなさい!!
「分かってますって。それより、良いんですか?あんな裁きで。」
あの魂のことですか。
「あの大罪人ですよ?甘すぎやしませんかい?」
ふふ、貴女にそんな心配されるとは。
構いませんよ、ヴィヴァスヴァッタ様…閻魔王ヤマ様でもあのように裁くでしょう。
それにですね。
「それに?」
あの魂が積んだ善行は今までの悪行を帳消しにしても余りあるものでした。
いわば、ご褒美ですよ。二人へのね。
「なるほど。しっかし、意外でしたよ。」
意外?
「あいつが普通の魂と同じようにこっちに来るとはね。
あたいはてっきり、力ずくで来るかと思ってましたから。」
そうですか?私は驚くことの程ではないと思いますが。
不老不死と言いますが、その実態は変化を拒絶した身体の持ち主。
その変化の拒絶と言っても所詮は此岸の理の上でのこと。
理自体が変化してしまえば、変化を拒絶することもかないません。
「だから、驚くほどのことではないと。」
ええ、生々流転と言いますか、変化のないことなど存在しえませんからね。
私達だってそうでしょう?
「そうでしたね。お互い、死者と同じように閻魔様の裁きを受けましたからね。
一から出直して、修行して、怒られ、叱って、笑って、泣いて…。」
そして、こうして再び閻魔と死神になって。あの頃のように一緒に働けるのは僥倖ですよ。
「あたいもですよ。やっぱり、あたいは貴女様の下で働くのが一番です。」
な、何を言い出すのですか!?
「あれぇ、顔赤いですよぉ?」
からかうんじゃありません!
全く、そういうところは変わらないのだから…。
そう、あなたは少し不真面目すぎます!
「あはは、勘弁してくださいよぉ。…ところで、あの二人も来るんですかね?」
…そうですね、近いうちにやってくるでしょう。
そういえば、一人は無理難題を押し付ける大変なじゃじゃ馬でしたね。
「でも、もう一人は問題なさそうでしたから、心配することはないんじゃないですか?」
ええ、もちろん。では、その二人が来たら…。
「分かってますよ。安心してくださいな。」
お願いしますね、小町。
こまっちゃんと映姫さまの過去も覗いてみたくなってしまいましたよ!
有難うございます。
今回、はじめて小町と映姫さまを書いたのですが、魅力的なキャラだと思いました。
いずれ、この二人で別の話を書いてみようと思います。
>4 鈍狐 様
ご指摘、有難うございます。
2作目もそうですが、自分でも読み返して甘いと思われる箇所が多々ありました。
今後の課題として精進していきたいと思います。
>6 さま
100点の高評価。有難うございます。
発想を褒められるとは思ってもいませんでした。
今後も頑張らせていただきます。
>11 様
100点の高評価。有難うございます。
面白かったという感想は励みになります。
今後も精進してきますのでよろしくお願い致します。