ベッドで平穏を楽しむ私を邪魔するやつはいつだって決まっていた。
今日も今日とて奴はやってくる。
「てーんこ」
天井を見上げていた私の前に突然現れた顔は飽きること無く胡散くさい笑顔を貼り付けていた。
「……私の名前を言ってみなさい」
「比那名居天子」
「……何の用かしら?」
つかめない奴だ本当に。この八雲紫という妖怪は。
「んー、特にあるわけじゃないけど」
「じゃあ、何しに来たのよ」
「それは」
よっと、という年寄りくさい掛け声とともにスキマから出てきた紫は、にんまりという擬音が似合いそうな笑みを浮かべる。
「キスしようかと思って」
お前は何を言っているんだ。
「……そんな顔しなくてもいいじゃない」
あ、拗ねてる。ちょっと可愛い、じゃなくて。
「何よいきなり。キス、したいだなんて」
「だって、天子からしてくれないし」
「い、いやだって。恥ずかしいじゃない……」
「あら、純情ね。口づけが挨拶の国だってあるのに」
言いつつ紫は私の太ももに頭をのせる。
「ここは幻想郷よ」
「そうだったわね。残念だわ」
「何が残念?」
聞き返すと紫は腕を伸ばして私の唇に触れる。陶器みたいに冷たくて滑らかな指がくすぐるように輪郭をなぞる。
「あなたと気軽にキスできないのが」
誂うような視線を向け微笑む。
「馬鹿じゃないの」
「したくない?」
「……気軽には嫌よ」
熱の上がった頬に紫の手を当てる。ひんやりとした感触は心地良かったが、鼓動は余計に早まった。
それでもなんとか口を開く。大事なことだと思うから。
「ちゃんと向かい合って、目を見てしたい」
うわぁ、恥ずかしい。何を言ってるんだか自分は。だけど、紫も同じだったみたいだ。惚けたみたいに私を見て、はっと顔を背ける。
「……ずるいわ」
顔を埋めたまま紫は呟く。金髪からわずかに見える耳は朱に染まっていた。
「何がよ」
「そんな可愛いこと言って。私からさせようってことかしら?」
「……別に。私からでもいいわよ」
顔をあげないままの紫の身体を無理やり起こして、顔を合わせる。
その上気した顔を見て、ずるいなぁと素直に思う。普段は余裕のある大人の顔をしているのに、今は初心な少女みたいに私を見ている。
こんな顔もできるんだ、とか私にしか見せないんだろうな、とか。そう考えると自然と頬が緩んだ。
柔らかい頬に指を這わせると、彼女はくすぐったそうに身を捩る。その反応が面白くて、ついつい続けてしまう。
「もう、意地悪しないでくださる?」
「やだ」
可愛らしく頬を膨らませる紫を抱きしめる。膨らんだ服に隠れて分かりづらいが、彼女は案外華奢な体をしている。
それを知っているのも九尾の式と亡霊の姫を除けば私くらいだ。
小さな優越感に浸りながら、彼女と再び目をあわせる。
「紫」
金色の瞳も、絹のような金髪も、艶やかな唇も今だけは私の物。
私の、もの。
「……っ」
やばい。意識したら急に恥ずかしさが戻ってきた。体が芯から熱くなって、腕が震える。
きれいな紫の顔。今からキスする……キスできる……?
い、いや。できるかじゃなくて。するんだ。
ちゅっ
ここまで言ったら引き下がれな……え?
今、触れたのは……。
「ごめんなさいね。我慢できなくなっちゃった」
さっきまで照れくさそうだった彼女の表情は、悪戯な笑顔へと変わっていた。
◇
「拗ねなくてもいいじゃない」
「……拗ねてない」
「しょうがないの。あなたが可愛すぎるから」
「……ふん」
「あーもう一回したいなー。誰かしてくれないかなー」
「……今度は」
「うん?」
「私がするから、大人しくしてて」
「……喜んで」
今日も今日とて奴はやってくる。
「てーんこ」
天井を見上げていた私の前に突然現れた顔は飽きること無く胡散くさい笑顔を貼り付けていた。
「……私の名前を言ってみなさい」
「比那名居天子」
「……何の用かしら?」
つかめない奴だ本当に。この八雲紫という妖怪は。
「んー、特にあるわけじゃないけど」
「じゃあ、何しに来たのよ」
「それは」
よっと、という年寄りくさい掛け声とともにスキマから出てきた紫は、にんまりという擬音が似合いそうな笑みを浮かべる。
「キスしようかと思って」
お前は何を言っているんだ。
「……そんな顔しなくてもいいじゃない」
あ、拗ねてる。ちょっと可愛い、じゃなくて。
「何よいきなり。キス、したいだなんて」
「だって、天子からしてくれないし」
「い、いやだって。恥ずかしいじゃない……」
「あら、純情ね。口づけが挨拶の国だってあるのに」
言いつつ紫は私の太ももに頭をのせる。
「ここは幻想郷よ」
「そうだったわね。残念だわ」
「何が残念?」
聞き返すと紫は腕を伸ばして私の唇に触れる。陶器みたいに冷たくて滑らかな指がくすぐるように輪郭をなぞる。
「あなたと気軽にキスできないのが」
誂うような視線を向け微笑む。
「馬鹿じゃないの」
「したくない?」
「……気軽には嫌よ」
熱の上がった頬に紫の手を当てる。ひんやりとした感触は心地良かったが、鼓動は余計に早まった。
それでもなんとか口を開く。大事なことだと思うから。
「ちゃんと向かい合って、目を見てしたい」
うわぁ、恥ずかしい。何を言ってるんだか自分は。だけど、紫も同じだったみたいだ。惚けたみたいに私を見て、はっと顔を背ける。
「……ずるいわ」
顔を埋めたまま紫は呟く。金髪からわずかに見える耳は朱に染まっていた。
「何がよ」
「そんな可愛いこと言って。私からさせようってことかしら?」
「……別に。私からでもいいわよ」
顔をあげないままの紫の身体を無理やり起こして、顔を合わせる。
その上気した顔を見て、ずるいなぁと素直に思う。普段は余裕のある大人の顔をしているのに、今は初心な少女みたいに私を見ている。
こんな顔もできるんだ、とか私にしか見せないんだろうな、とか。そう考えると自然と頬が緩んだ。
柔らかい頬に指を這わせると、彼女はくすぐったそうに身を捩る。その反応が面白くて、ついつい続けてしまう。
「もう、意地悪しないでくださる?」
「やだ」
可愛らしく頬を膨らませる紫を抱きしめる。膨らんだ服に隠れて分かりづらいが、彼女は案外華奢な体をしている。
それを知っているのも九尾の式と亡霊の姫を除けば私くらいだ。
小さな優越感に浸りながら、彼女と再び目をあわせる。
「紫」
金色の瞳も、絹のような金髪も、艶やかな唇も今だけは私の物。
私の、もの。
「……っ」
やばい。意識したら急に恥ずかしさが戻ってきた。体が芯から熱くなって、腕が震える。
きれいな紫の顔。今からキスする……キスできる……?
い、いや。できるかじゃなくて。するんだ。
ちゅっ
ここまで言ったら引き下がれな……え?
今、触れたのは……。
「ごめんなさいね。我慢できなくなっちゃった」
さっきまで照れくさそうだった彼女の表情は、悪戯な笑顔へと変わっていた。
◇
「拗ねなくてもいいじゃない」
「……拗ねてない」
「しょうがないの。あなたが可愛すぎるから」
「……ふん」
「あーもう一回したいなー。誰かしてくれないかなー」
「……今度は」
「うん?」
「私がするから、大人しくしてて」
「……喜んで」
天子も紫も、どっちも可愛すぎる!