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遠雷響く夏の夜雲のようだった。荒れ狂う光はその実、放出されるエネルギーの残滓でしかない。
幻想郷の空に巻く魔力の渦。その巨大さは幻想郷中の妖怪たちの眠りを覚ますほどに。
「きゃはははははははははははははっ!」
「―――ッ!」
フランの両手から繰り出される光撃をかわす。量は多いが単調、その程度ならと十分な余裕を持ってかわしきる。
箒を縦に落とし、直下。狙いが変えられた瞬間に直上。光撃が通り過ぎたその場所にはすでに隙間ができている。
右手を差し出す。込めた魔力を二指に通し、レーザー状にして飛ばす。無音で伸びる一筋の光。
「―――あぅっ!」
命中。フランの首が後ろにのけぞる。
手を止めず追撃。右に拳を作り魔力の通行に交通事故を起こす。荒い球状の魔玉をそのままに放射した。
「なぁーーーーーーんて、ねっ!」
「ちっ!」
大げさにギュン、と首を戻したフランが魔玉に相対する。
……わずかに箒を傾ける。
接近するソレをかわすそぶりもなく、ぐるぐると腕をまわし。
……速度を落とさずにフランへ飛び掛る。
「えぇええいッ!」
接近する魔力の塊に、右ストレートを合わせた。その魔玉は真正面の魔理沙へと跳ね返っていく。
―――箒を限界まで反らす!
「あっ、あれ?」
跳ね返した方向に相手はいない。見失うフラン。
その真上から、無防備に浮かぶ悪魔めがけて両手が開く。
「恋符―――」
「……!」
ふり向くフラン。間に合わないと悟ったか、両手をクロスさせてガードしようと。
「マスター――――スパーク!」
容赦なく発される光の筋。破壊の帯はフランドールの小さな身体をまるごと包み込み、その下に広がる森を焼いた。
巻き込んだ大気は風となり、遠くより風を呼ぶ。暗く見えない幻想郷の外から、呼び込まれたかのように、黒雲が少しずつ空を覆っていく。
……紅魔館を貫いた魔砲。魔理沙の切り札でもあるマスタースパーク。その単純威力は幻想郷の妖怪や人間といえど追従するものはない程のもの。
それをフランドールはまともに喰らった。確実に、何の対抗策もなく。
だが。だから。
「あーーあ、リボン焦げちゃった」
彼女は自身の身体だけでそれを耐え切ったということだ。
口元に笑みを浮かべ、上目に魔理沙を見上げるフランドールは見た目に無傷ですらあった。
「(分かってはいたけどな……この頑丈さは)」
フランドールは悪魔の妹である。その力は姉、レミリア・スカーレットを確実に凌ぐ。
フランドールのもつ、ありとあらゆるものを破壊する程度の能力。しかし、それ自体は大した脅威にはなりえない。
何故ならどんな一撃であろうと魔理沙が受ければ即死は免れないから。
魔理沙は魔法使いであるが、あくまで人間である。その脆さは例え幻想郷に生きる人間といえど変えられない。
魔理沙にとっての弾幕合戦とは、要は当たらなければいいのであり。当たればそれで終わるということだった。
フランドールは違う。悪魔である彼女には悪魔じみた耐久力がある。
無傷なのではない。当たればダメージは確かに与えられる。だが何度魔理沙が弾を当てようがその身体の限界は遥か遠い。
マスタースパークの直撃ですら……この程度のダメージ。
魔理沙はフランドールの限界まで一度も攻撃を受けることなく戦い抜かなくてはならない。
この長いながい綱渡りを、最後まで渡りきれるか。
「……ふん、当たり前だぜ」
ぐい、と鼻の下をこすった魔理沙は、次弾を放つため再び両手に魔力を込め。
フランドールは魔理沙に向かって、肩をすくめるようにゆっくりと手を伸ばして。
「しまっ……!」
魔理沙はそこで気づく。自分を囲むようにして球に張られていく透明な帯に。
それは小砲台。鳥籠を模した、内側に閉じた処刑室だ。
知っている。幾度となく喰らってきたこの弾幕を。
息を吐き貯めた魔力を身体に散らす。箒の柄を握りなおし、回避移動に全てを集中する。
フランドールの腕が、扉を閉じるように交差した。
「…………
宣言と同時に、張られた帯から一斉に弾の帯が飛んでくる。
三次元に蜘蛛の巣状に張り巡らされた弾幕の帯。それは行儀よくゆっくりとこちらに向かって集ってくる。……だが甘い。
「ふぅ…………ぅ」
軽く細く息を吐く。前方の視界と手先に神経を集中し、できうる限りの低速飛行で発進する。
この籠は中の獲物を殺す凶悪さと、逃げるための網目がある。
正に蜘蛛の巣を抜ける小虫の如く、ゆっくりと確実に網を抜けていく。こちらにしてみれば何度も攻略した弾幕。それを突破できないはずがない。
―――ふいに、視界の端にソレを捉えた。
「(なんだ……?)」
網をかいくぐりながら、徐々に大きくなっていくソレを横目が見る。それは。
赤紫の、弾の、集まり。
…………つぼみ?
「これ、は―――!」
「きゃはははっ。タマにはちょっと難易度を上げないとね。
―――さぁ、可愛らしく逃げまわってよぉ! マリサぁ!」
ヒステリックな狂声と共に、網の中央で赤いつぼみが弾けた。
「
「この……餓鬼!」
背後から弾けた果実の欠片が迫ってくる。その速度は籠の速度よりは多少速い。そして今のままの飛行速度では追いつかれることは確実。
どうする?
結論は直ぐに出た。低速飛行を解除する。どのみち追いつかれれば速度と方向の異なる二種類の弾波を受ける。
それをかわしきる? そんな技量、私じゃなくて霊夢に求めろ!
目の前に迫る網を、その向こうの網を凝視する。
残り、七つ。その網目の動きを一つひとつ想像する。一番の波をかわすための安全経路。二番の波をかわすための安全経路。三番四番五番六番七番。その全てを結ぶ一本の線のみをたどり。
「行くぜ!」
気合を込め箒を急発進させる。
籠目などもはや見ない。これは賭けだ。先程見えた経路に間違いがあれば網に突っ込む。かわりに全速で背後の破裂したツルコケモモを振り切る!
そして……。
「―――!」
目の前には目を見開くフラン。
かわしきった。もちろん、ここまでしておいてそれだけの見返りは少なすぎる。
勢いをそのままに、箒ごとフランに体当たりする。すばしっこさが取り柄の私の全速が小さな悪魔の腹に衝突し。その接触の一瞬、フランの胸に左掌を合わせ。
「これで二発目―――そして最後だぜ、フラン!」
急ごしらえのマスタースパークを炸裂させる!
<紅魔館 最上への階段>
どこまで行っても赤色の館。その中を一人レミリアのいるだろう最上階へ飛んでいく最中に、霊夢は二度にわたる轟音を聞いた。
「っこの音は……魔理沙ね。図書館に行ったんじゃなかったの?」
音は外からだ。数少ない窓の一つから音の出所を探すように外を見ると、ピカッと強烈な光が目をくらませた。続けて振り出した水滴が激しく窓をたたく。遅れた雷鳴が大木をへし折るような音を響かせた。
「雨だわ……いつのまにか空がすごく荒れてる」
僅かな月明かりさえ覆い隠され、真の暗闇になった世界に激しい雨が降っていた。
時おり照らす光は雷、そして弾けた魔力。霊夢はその短い灯りから、魔理沙が外で誰かと相対していることを知る。その合戦は、しかも、稀に見る激しさだった。
「あの弾幕はフランね。魔理沙なら……大丈夫、とは思わないけど」
フランドール・スカーレットの力なら既に知っている。いくら霊夢や魔理沙とはいえしのぐのが精一杯、それが彼女のレベルだ。
パチュリーに会いに行ったはずの魔理沙が、どうして雨の中でフランと戦っているのかは分からない。何か事故でもあったのだとしたら、この窓を破って加勢にいくべきなのかもしれない……が。
さっき魔理沙に置いていかれたことを霊夢は割と本気で根に持っていた。
「助けに行こうかな……どうしようかなあ…………ん?」
ふと霊夢が光から目を外すと、魔力がぶつかり合っている場所から離れたところに誰かがいるのを感じた。
姿形は見えないが、あの力の感じには覚えがあった。……あれは霊夢が一度だけ出会ったことのある、絶好調の『彼女』だ。
「ふうん? 何だか分からないけど、加勢は必要なさそうね」
くるり、と霊夢は向きを戻す。
二度と窓に振り返ることなく、再び階段を上へ飛んでいった。
<幻想郷 雷雨の下>
「カッは……! けほっ、けほっ、……ん、んんっ!」
胸を押さえ咳き込むフラン。呼吸は一向に治まらず、口の端から赤い液体が垂れて落ちていく。先程のマスタースパークがフランに与えたダメージは小さくはない。
マスタースパークを含め、ほとんどの弾幕は射角を広くするために拡散するものだ。それは即ち威力を拡散させるということでもある。まして単なる攻撃だけでなく絶体絶命の危機から脱出する手段でもあるスペルの有効範囲は広くならざるを得ない。
だが、一つだけ例外が存在する。霊夢の結界では不可能な、単純に放出するだけのマスタースパークでのみ可能な、スペルの威力を百パーセント叩き込む方法。
それがゼロ射程射撃。飛び道具同士の争いにおいて相手の懐に飛び込むという、その大きすぎるリスクの対価だった。
「…………くそっ」
魔理沙がやったのはそれだ。マスタースパークのゼロ距離射撃。急造で練り上げた魔力だったとはいえ、可能なかぎりの全力を炸裂させた。これが魔理沙のリミット。持ちうる最強のカードだ。
「かはっ、はぁ、ふぅー、っは、ふーぅー……」
フランの呼吸が整っていく。魔理沙は黙ってそれを見ている。待っているのではない、どう出れば良いのか魔理沙には分からなくなっているのだ。
魔力ならまだ残っているし、戦う事はできる。もうニ、三度ゼロ射撃を食らわせればフランは落ちるかもしれない。
だが、そういう問題ではない。魔理沙は戦う前から、切り札を使えるのは一回だけだという前提を立てていた。ゼロ射撃を使えるのが、ではない。フランに対しては追い詰めるということができない。一息に一気に倒さなくてはならないのだ。
「はぁー……、ッハハハッ! やるじゃない、マリサ? 今の、かなーり効いたヨォ? 楽しぃなあ! わたしすごく楽しいよマリサぁ!」
「――――」
「…………でも、今の、ちょっと痛かったから……、わたしもちょっとだけ」
……それは、何故か?
その答えは、フランが遊んでいる内に終わらせ、決して本気を出させてはならないからだ。そう、フランドール・スカーレットはまだ
「―――本気だすね?」
―――まだ、あのカードを抜いてなかったから。
魔理沙の周りの空気が、逃げた。
フランドールの目の紅が深く光を放つ。桁違いの魔力・霊力・妖気……幻想の中に存在する全ての力をない交ぜにしたかのような力が、交差させた両手に集っては結晶化していく。
低いところにある雲が霧散し、雷雲と滝のような雨だけが応えるように強く響く。
森から大量の気配が消えていく。妖怪も動物も、植物までもがソレから逃げ出そうとしていた。
両手に集うソレは薄く光を放っていた。色は濃い紅、ドス黒い赤色。紅魔館を覆っていた霧ですら鮮やかに見えるほど。人間の血などという形容ではあまりにも禍々しさに欠けるほど。
光はやがて形を成す。装飾のない単純な一振りの剣の形に。
「さあ、マリサ……あそぼう? アナタが、わたしが、コワレルまで、ね」
目を閉じた悪魔は完成したソレをゆっくりと肩に乗せた。剣の軌跡が残像のような赤い炎に焼き尽くされていく。
ソレこそは死と破壊を象徴する赤色。
世界終焉の炎―――レーヴァティン。
フランは両手に持った紅剣を肩越しに思いっきり振りかぶる。容赦などあるはずもない。一秒の後、赤い剣は世界ごと魔理沙を吹き飛ばすだろう。
「―――ぁ、ああ」
疲れのためか、恐れのためか、魔理沙の身体ががくがくと揺れる。
魔理沙に出来ることなど残ってはいない。レーヴァティンの本領の前には魔理沙の持ついかなる魔法も無意味だ。限界であるマスタースパークですら、レーヴァティンの破壊を止めることもできない。
「あ、うあ……」
衝動のような焦燥が、頭の先から足の指までを貫く。
何の間違いもなく魔理沙は落ちるだろう。フランの一撃によって。塵のように。壊れた玩具のように。
そして……パチュリー・ノーレッジのように?
「――――
魔理沙の中で、何かが切れた。
切れたのは理性か。それは命あるもの全てが持っている、自滅しないためのリミッターのようなものが破壊される音だった。だとすれば切れたのはむしろ本能の方だったのかもしれない。
身体中の不要な感覚が全て消える。目の前に上げた両手の平に向けて、自らのうちに眠る全てに向けて、基本的な手順をすっ飛ばした命令を送った。
『かき集めろ』
暴走するように魔力が集っていく。回路を流れる量は容易く限界を突破し、魔理沙を中身から引き裂いていく。燃料になるのなら命さえも燃やし尽くして、ただただ魔力を手に手に手に……。
「(……はは。何やってるんだろうな、私)」
それは、例えばアクセルを踏み抜いたエンジンのようだった。何のためにと問われれば、死ぬためにとしか言えないような、馬鹿げた暴走。
「(こんなことをしたって……フランにゃ勝てないだろうに…………それに)」
失ったものだって返ってきはしない。
なのに、そんなもののために、自分の命なんてかけようとしてる。
ガラじゃない。ガラじゃない。こんなバカなマネ、まったくガラじゃないぜ。
……だけど、ちっとも消えないんだ。
暗い図書館でのそのそ生きていただけのあいつの顔が。月かざりが壊れた時のパキンっていう音色が。あいつがもういないって分かった時に吹き抜けた、乾いた風の。
あの寒さが心の中からちっとも消えてくれない―――!
魔理沙の手の平に光の束ができあがる。それは魔理沙の分身であり、魔理沙の命だった。
放てば終わるだけの、名もなき最期のスペル。
放つことに迷いはない。惑えるほど、今の魔理沙には……。
「ぅああああああああぁぁぁぁぁああああっ!!!」
両手を前に。全てを前に。何も考えずに、前に。
ただ一つ願うのなら、この命の流星があのくそ餓鬼に届くように。
そして魔理沙は、両手の光を開放して。
「―――……!」
「さっきから何バカなことをやってるの? 魔理沙」
「―――はっ!?」
「え―――!?」
驚きの声は魔理沙とフランの両方から。
場に響いた第三者の声。その誰かは魔理沙の後ろに、対峙するフランの前方に浮かんでいた。
魔理沙は張り詰めた集中を乱し、手に集めた魔力が宙に霧散した。放つことをしなかったために力尽きる事はなかったけれど、それでも魔理沙は一瞬意識を飛ばしかけた。
フランは一瞬レーヴァティンの手を止めてしまった。一瞬の隙。その隙を指差すように誰かはす、とフランに指先を向けた。
「あ、あなた、どうして……!?」
「―――シルフィホルン」
魔理沙の肩を抜け、超高速で走り抜けた一閃。場にいる誰が反応するより早く、それは的確にフランに命中し、右腕を空間へ固定した。
「え、っな、なにこれ……!?」
フランの右腕に三箇所、知恵の輪のように風が巻きついていた。輪は腕輪ほどの大きさしかない。
風属性精霊魔法による局所効果。扱うモノの力が大きすぎるために大味と言われる精霊魔法を、完全に制御しきらなくては出来ない芸当だ。
そんなことはどうでもいい。
魔理沙にはどうでもよかった。目の前のフランのことも、いま自分はいつ箒から落っこちてもおかしくない状態だということもどうでもいいことだった。
今、魔理沙の後ろにいて。
今、魔理沙の危機を救った誰かは。
シルフィホルン、と言った。
魔法使いの魔法は全てがオリジナル。だから、その魔法を使えるのは幻想郷でたった一人しかいない。
「―――っ!」
めまいを耐えて、魔理沙は箒を握り締めて後ろを振り返ると、そこには。
細い体躯にパジャマみたいなピンク色の服を着て。周りに五色の大きい宝石を浮かべて。いつも被っている帽子の代わりに紫色の髪をなびかせて。
「ぱっ―――パチュリー!」
「……ん」
吹き荒れる雷雨を全く意に介さず。
もういないはずのパチュリー・ノーレッジは、平然とそこに浮かんでいた。
6/
「―――あれぇ? どうして生きてるのパチュリー? 確かに壊れたとおもったんだけどなぁ?」
「……簡単なことよ、妹様。すこし前に人形造りの方法を読んでいたから……あれはその試作品。もっとも、かの人形遣いには遠く及ばない出来だったけれど」
す、とパチュリーは魔理沙の前に出た。
「……私じゃあ、何の準備もなしで妹様の相手なんて出来ない。ただでさえ今はレミィのことでいろいろ大変なのに……。だから物陰で様子を見て適当にやりすごすつもりだったのだけれど、何か魔理沙が早とちりしてるし」
「うがっ」
一気に事情を知ってちょっと赤面する魔理沙。
パチュリーにしてみれば、いきなり図書館にやってきた魔理沙が勝手にフランと戦いだし、挙句命までかけてレーヴァティンを迎え撃とうとしだしたのだ。それも自分のためだと言え、勘違いで、だ。
ことの成り行きを見守っているだけのつもりだったパチュリーも、そうは言っていられなくなり、仕方なくこうして二人の間に割って入ることになったのだった。
「―――そういうことだから。魔理沙はもういいわよね?」
「私は……」
魔理沙がフランと戦いだした原因は、パチュリーがフランに壊されたと思っていたからだ。当のパチュリーは健在であるのだし、第一自分にはもうほとんど魔力が残っていない。
だがフランはこれで終わりと言われても引かないだろう。レーヴァティンまで出すところだったのだ。遊び足りない、パチュリーがいるのならそっちでいい、と言い出すに違いない。
「……まあ、そうでしょうね」
「そうでしょうね、ってな……」
さらに一身分、パチュリーは前に進む。
「……妹様? 魔理沙はもう魔力が残っていないの。だから今度は私が遊んであげるわ」
「えっ!? いいのいいのっ!?」
「っおいっ!」
流し見るようにして、パチュリーは魔理沙の言葉を止めた。ただ一言『大丈夫』と目が語っている。
「……確かに、私じゃ準備もなしで妹様と戦うなんて出来ない。だけどもう準備は出来ているから」
「……準備?」
「―――さあ、それじゃ始めましょうか? 妹様」
感情の見えない声でそう言うとフランの右腕の戒めが解けた。ふるふると手を振って、フランは嬉しそうにパチュリーと対峙する。
パチュリーにも、フランにも。もう魔理沙は見えていない。フランは目の前の遊び相手に集中し、パチュリーは術の集中に入っていた。
先に動いたのはフランドール。両手を交差させるようにして、大量の緑色の弾をばら撒
「――
瞬間、抑揚のない平坦な声が紡がれた。語と語の間を全く区切らないために、それがスペルの名称であることに魔理沙も気がつかなかった。
それは詠唱ですらない。単純に名称を言葉にして羅列しただけのこと。指先が十字を描くように踊るが、それは印を切っているわけではない。
それはただの合図だった。魔術的な意味など一切持たない単なる動作。しかしその合図とともに、三つの魔法は全て確実に発動していた。
鈍器じみた鉄塊が風を巻き、刃物のような水撃が土を迷彩に、吹き荒れる風はそれぞれを加速強化してその全てをフランへ突っ込ませる。
「っぅうわああああああっ!」
横っ飛びに回避するフラン。魔理沙のマスタースパークすら真正面から受けて見せたフランが、この不可思議な現象に混乱し攻撃を中断して逃げにまわっていた。
自分がいた空間で鉄と水と風が暴れまわる。まるで精霊たちが互いを喰らい合うかのような光景を目の端で見た瞬間、パチュリーの指先はフランの影を捉えていた。
「――トリトトンシェイク
シルバードラゴン
ベリーインレイク
グリーンストーム」
完全に従えた従僕への命令のよう。当然の仕事をこなすように、計四柱の精霊は再びその合図に応える。今度は先程より上位。土神の悪戯に銀の大龍、葬送果湖、刻む大樹の風。
「ちょっ! まっ……! ―――それヒキョウだよぉっ!!!」
フランが悲鳴を上げる。攻撃ではなく防御のための弾幕を展開しながら、しゃにむに空いている空間へと逃げ続ける。食らってどうなるの結果というよりは、予想を遥かに超えた物量にフランは立ち向かう気勢をそがれていた。
いや、実際にフランの選択は正しかった。いかな悪魔の妹とはいえ、まして魔理沙に引き続いての連戦において、これを食らって無事でいられる保証はないのだから。
この、反則とも言える『多重同時スペル』を食らっては。
「―――おいおい」
繰り広げられる光景に圧倒されながら、魔理沙は冷や汗をかいていた。もう出鱈目すぎて苦笑いすら浮かんできそうだ。
パチュリーがやっていることは単純なスペルの連発だ。しかしその速度が尋常ではない。一つのスペルが発動し始める前に、次のスペルの準備が終わっているというほどの早さ。故に効果は重複し、五行相生の流れに乗って威力を際限なく高めていく。……つまり、単純に三倍四倍の威力に収まらないということだ。
「―――グリーンストーム」
「ぅアッ!?」
目の前で、ついにパチュリーの風がフランを捕らえた。動きを封じられた目標に精霊の司る攻撃が次々と襲い掛かっていく。
……始まってたったの二分。あまりにあっけなく勝負は着こうとしている。
自分があれほど苦戦したフランドールを相手に、と魔理沙は呆然と口にする。
「パチュリーって……こんなに」
魔女であるパチュリー・ノーレッジの魔力が桁違いである事は魔理沙も知っている。百年の時を本と知識に捧げてきた彼女の知識技術が図抜けていることも知っている。だけれどパチュリーがここまで圧倒的な力を持っているという印象はない。
それはあくまで彼女が知識を有するだけの図書館であり、それを使うことに興味を持たないから。そして喘息もちでもある彼女の身体はそう丈夫ではないからだ。
「……あー、つまりそういうことだったんだな」
そこで魔理沙は気づく。あれはいつかの夏のこと。かつて初めて紅魔館にやってきたとき、まだ何か隠し持っているんじゃないかと問うた魔理沙に、パチュリーは何と答えたか。
―――「
「
この連続スペルのことだったのか。
なるほど喘息の身でこんな早口言葉みたいなスペルの羅列を唱えきれるわけがない。つまり、これこそが知識の魔女の本気……パチュリー・ノーレッジの真価―――。
そして、間もなく決着はついた。
最後にパチュリーは目をつむり、右手を天に伸ばして。
「―――サイレントセレナ・ワルツ」
裁きを下すように手をおろし、奥の手の一枚、月符を三枚同時に開放した。
豪雨に混じり、剣を内包した月光が降り注ぐ。フランの小さな身体は津波の前の小船のように月光に飲まれ、眼下の湖へと落ちていった。
「…………」
魔理沙はそれをじっと見ていた。
フランに意識はない。眠るように重力のままに落ちていく。
「ふう……終わったわね」
息をつくパチュリー。それと同時に周りで回っていた五色の石も薄れて消えていった。
波打つ湖へ落ちていくフランを見つめながら、魔理沙はぽつり、と尋ねた。
「―――なあ、パチュリー」
「……なに?」
「あいつ……泳げるよな?」
「……吸血鬼は水に弱いんだから、泳げるわけないじゃない」
そういえば前にパチュリーが雨を降らせてあいつが外に出るのを止めてた、なんて話もあったっけ。しかし、そうか、泳げないのか。
……それじゃあ、あいつ溺れちまうじゃないか。
「…………」
「…………」
逡巡は一瞬。
「…………ちっ!」
魔理沙は箒を急発進させた。魔力切れで気分が悪いのを押し殺して、残った力を全て叩き込んで垂直に突き進む。落下よりも早く。壁じみた水面に突っ込んでいくように。
まるでアクセルを踏み抜いたエンジンみたいに。何のためにと問われれば、それは……。
「―――まったく、何やってるんだろうな私は―――!」
重力に乗って箒はどんどんと加速していく。周りを雨が逆に昇っていく。空気が絞るようにごうごうと渦巻いていた。
あいつは、パチュリーを壊したのだと楽しそうに語っていたやつなのに。ついさっき自分が本当に死にかけた原因だというのに。
しかも、そんなもののために命をかけてまで。
……だけど今度のは。ガラじゃないわけでもないか。
はっ、とどこかヤケ気味に笑った魔理沙はさらに箒の柄を強く握り締めた。
「追いついたら一発ひっぱたいてやるぜ―――フランッ!!!」
激声をあげて、魔理沙は落ちていくフランの身体を追っていった。
「……やれやれ」
魔理沙がフランを追っていくのを、パチュリーは身動き一つせず眺めていた。自分の飛行能力は高くはない。落下していくフランを助ける事はできないと知っていたから、パチュリーは動かない、動く必要も感じていなかった。
魔理沙はきっとフランを助け、ちゃんと彼女を叱りつけるだろう。それはフランドール・スカーレットに必要な、そして彼女の周りにいた誰もがしてこなかったことでもあった。
「……それにしても、魔理沙があそこまでやるとは思わなかったわね」
パチュリーが言っているのは、二人の戦いの事だ。
本当のところ、パチュリーがフランを圧倒できた特別な要因はいくつかある。
ひとつ、フランに対抗するための魔法的補助、賢者の石を精製する時間をとれたこと。
ひとつ、今日に限って喘息の調子がよかったこと。
ひとつ、魔理沙がフランドールの体力を八割方奪っていたこと。
最初のふたつの条件がそろったおかげで連続詠唱という離れ技を使うことができた。だがそれでも、最初からフランに対していたとすればパチュリーが勝つ確率は高くはなかっただろう。
パチュリーが現れたとき、フランの体力は二発のマスタースパークによって既に大半が失われていた。だからこそ、あんな力押しで圧倒する事ができたのだ。
「……ああ、それともうひとつ」
フランは気づいていないかもしれないが、もうひとつだけ、他ならぬフラン自身にも要因はあった。
何故パチュリーは最後、ロイヤルフレアではなくサイレントセレナを使ったのか。
何故パチュリーは連続詠唱中、一度も火符を使わなかったのか。
「……レミィもだけど。妹様って水に弱いのよね」
赤い霧を洗い流すかのように。
幻想郷に、ザーザーと雨が降り続いていた。
7/
「……つまり、どういうこと?」
「だから、逆だったのよ。レミリア・スカーレットの赤い霧は太陽を覆い隠すものではなく、月を覆い隠すものだったの」
日の落ちきった屋敷。紫は幽々子に結論を述べはじめた。
起きながら夢見るように思索にふけっていた八雲紫が、ようやく返ってきたのがつい先程。日が沈んだ幻想郷に少々肌寒い風が吹き始めている。破壊された寝室の復旧はもう少しかかるようなので、二人は場所を客間に移していた。
「吸血鬼が月から隠れる理由、ねえ……彼女らはその力のほとんどを月と夜に依っているわ。レミリアほど高位だと自律した力を兼ね備えるようだけど、力の大半は月の満ち欠けに影響される。満月の夜は無敵だと彼女も言っていたわね」
「そう、だからこそ原因が分かりにくかったのよ」
「? だからこそ、って?」
「月よりの姫、蓬莱山輝夜の『月欠け』が起こったのが前の満月時。その時にレミリア・スカーレットは
いま屋敷の外に見える月は下弦。
輝夜の件が片付いたのはほんの六、七日前のことだ。
「あら? だけどレミリアが無差別に人を襲いだしたのは最近のことよ?」
「徐々に耐え切れなくなったんでしょうね。ちょっとややこしいけれど。まずレミリアは真実の月によって狂気を受けた。でも、同時に満月の恩恵からその狂気に耐えられるだけの力をもらってもいたのよ」
満月の夜は無敵。それは例えば自分自身を成している根本的な何かに対しても打ち勝てるほどに。
だからこそ原因が特定できなかった。月から受ける毒と力。その天秤は初め、大きすぎる力の方に完全に傾いていた。
「ああ、それがだんだん月が欠けてきて、だんだん耐えられるだけの力が無くなってきたのね」
力が乗せられた秤は徐々に重さを減らしていった。今のレミリアの天秤は果たしてつり合っているのか、それとも既に形勢は逆転しているのか。
「相変わらず幽々子は話が早いわね。……でも、レミリア・スカーレットにとっての狂気とは他の人間へのものとは違った。あの月が彼女に与えた毒というのは、吸血鬼ならば本当は当たり前の衝動を増幅させたに過ぎないわ」
「衝動……欲求、つまり食欲ね」
吸血鬼における食事とは即ち血液。食欲とはつまり、吸血衝動を指す。
レミリアの吸血衝動はとてつもなく小さい。血液は大量に飲まないというより飲めないのかもしれない。彼女は足りない分のエネルギーを咲夜の作る普通の料理や飲み物で補っているのだ。
……しかし、ならばそれ以前は?
「あら? でも何故レミリアだけが月の毒を受けたのかしら? 私たちはみんなあの月を見たのに」
「あの月の毒というのはね、強烈な太陰ということなの。強すぎる日差しみたいなものよ。人間も妖怪もある程度は陰陽のバランスをとって生きている。でも吸血鬼には基本的に陰しかない。だから太陽にあたれば真昼の月のように力を失う。そして、だからこそ同じ月の毒に耐性が全くないの……いや、本当はそれは毒ですらない」
器に油と水が入っているとする。
例えば、ここに色つきの油をたらしたとしても、水の方には色はつかない。器をかき回したとしてもそれは同じだ。総合して考えれば器の中身が100パーセント染まることはない。
だが最初から器の中身が油しかなかったとするならば、その色は全てを染め上げてしまうだろう。
「……吸血鬼であるレミリアにとって血を吸う欲求が強まるのは悪いことじゃないわ。あの月光は、いわば単なる食欲促進剤だから」
「唐辛子ね?」
「どちらかといえば生姜だと思うけど」
ただ真実の月光の濃度は普通とは桁違いだった。だからレミリアの吸血衝動は考えられないほど、彼女自身が自らのものだとは認められないほどに、強烈になってしまった。
月の欠けとともにレミリアは衝動に耐える力を失い、最後には食欲に身を任せ、手当たり次第に人間を襲い血を吸うようになった。あの赤い霧は少しでも月の光を遮断し、これ以上衝動を増さないためのレミリア自身の方策なのだろう。
それが今回の事件の真相……、だが。
「でも……それじゃあ、まだ合わないわよねぇ」
「辻褄が、ね」
そう、真相がそうならば問題はない。
レミリアという放っておけない吸血鬼が一匹現れただけ。それだけならば霊夢が勝手に行って叩きのめしてくれればそれで解決する。
だが幽々子が亡霊に聞いた話はこうだったはずっだ。あの吸血鬼は血を吸わなかった、と。
「そもそもレミリア・スカーレットほどの吸血鬼が本気で衝動に身を任せていたら、幻想郷の人間なんて今ごろ半分になっているわ。それに、今もたちこめている赤い霧だって」
あの赤い霧は月光を絶つためのものだった。本当に見境がなくなっているのなら、あんなものはとっぱらっているだろう。
今もなお赤い霧がある理由。人を襲っておきながら血を吸わなかった、その理由は。
「……耐えているのね、必死に」
そう言って、幽々子はすこし目を伏せた。
「そういうことになるわ」
そう答えて、紫は、ふう、と息を吐いた。
<紅魔館 最上への階段>
とん、とん、とん、と階段を上っていた。
ただでさえ館の中は明るくはなかったが、この階段においては、最上階に近づくにつれ明かりというものが完全に無くなっていく。
霊夢は既に浮かぶことをやめ、一段一段その階段を上っていた。上流へ歩いていくかのようにゆっくりとした足取りで。
段を重ねるごとに襲い掛かるような攻撃的な妖気を感じる。近づくなと叫び声を上げているかのような、意思をともなった力の奔流。
「…………」
だが霊夢はそれを意に介さない。一歩一歩確実に最上への階段を踏み越えていく。
この妖気は攻撃的でありながら少しも圧倒的ではなかった。まるで追い詰められた駄々っ子の泣き声のような。痛々しくはあっても恐れるには足りない、そんな妖気。
とん、と最後の段を踏んだ。そこはもう主人の部屋の中だった。
壁を抜いた最上階の全てがレミリアの部屋だ。だからその部屋には扉がない、最上階へ上ってくる階段だけが部屋の入り口だった。
部屋はほの暗く、黒く霧がかったようだった。かすかに天井の明かりがあるとはいえ、部屋というには広すぎるこの場所ではお互いの顔を確認することも困難だろう。
「…………ぅ」
かすかにうめく声がする。
霊夢はそれが聞こえたのか、見えないはずのその方向に正確に目を向けた。そのまま、声のする方向へ足を進めて行く。
「―――貴方、か」
……その足を止めて、霊夢は黒い霧をはさんで彼女に相対した。お互いの表情をはっきりとまでは読み取れない、カタチだけがようやく分かるという距離だった。
レミリアは破壊されたベッドに背を預けて床に足を放り出していた。暴れすぎて倒れた猛獣を想像させる。それほどまでに今の彼女には余裕というものが欠けていた。
立っている霊夢と座り込んでいるレミリア。だが見下ろす霊夢の視線になんら威圧的なものはなく、ただ見上げるレミリアの目線だけが射抜くように尖っている。
「―――私を殺しにきたの?」
押し殺したような声は、削られた心身から発されているがゆえ。
削られた心身だからこそ、彼女はそういう言葉を口にした。
暗い闇の向こうからは一切の反応が返ってこない。だが反応が無いことで悟れる事実もある。
「……その様子じゃだいたいの事情は分かってるみたいね」
「まあね」
霊夢はつい先ほど、すき間を介して紫から今回の事件の経緯のようなものを聞いていた。推理のようなものだったが、霊夢の勘はそれを正解だと言っていたので疑わなかった。
「皮肉なものよね……。月から生まれた私が、月の光に狂うなんて」
ククッと皮肉げに喉を鳴らした。
……少しだけ、レミリアに余力が戻る。
「―――だけど、気に入らない。気に入らないわね」
レミリアが耐えているのは吸血衝動。それは食欲、破壊欲の二つの欲求が重なったものだ。
血を吸われるわけでもない人間が殺されたのはそのせいだ。人間を破壊する、そこで衝動は半分だけ満たされレミリアは踏みとどまることができたのだ。
今も同じだ。目の前に獲物がいる。だから衝動の半分はもうじき開放されるのだと、張り詰めた神経は少しだけ楽になっていた。もう爆発していいのだ、と。
「確かに私たち吸血鬼は月から生まれたモノ……、だけど、だからって簡単に意のままになると思うな。私は吸血鬼だ。誇り高き吸血鬼だ。私は私以外の何者の意思にも従わない……!」
ガリ、と床が引き裂かれる。爪先が耐えかねるように震えていた。
「
殺す。
レミリアの目が赤く光る。
身体中が限界まで引き絞られた弓のごとく静かに暴れている。弦を切れ、暴発させろ、発射しろ、壊せ殺せ壊せ殺せ……!
そしてレミリアは最後の言霊と共に、緊張しきった弦をぷっつりと。
「―――貴方を」
「いや、ていうか私、戦いにきたわけじゃないし」
ぱぎゃん。
……間抜けな音を立てて、弓の方が壊れた。
「…………なんですって?」
「だって止めてもしょうがないし。直接迷惑かけるわけでもないし。それに、…………―――っ!」
言葉の途中、霊夢は何の前触れもなく一歩身を引いた。速くはないが早い。その寸前を突っ斬るように何かが闇を切断した。
カッ、という音。床にそれの先が突き刺さる。この暗さではそれが何かは見てとれない。だが霊夢はそれがナイフであることを理解した。
この廃墟に、この空間に、たった数秒前には存在しなかったはずの人間の気配を感じ取って。
「……お、カハッ、……っお嬢、様……ッ!」
血混じりの息で吐き出される声がした。
十六夜咲夜。妖夢に重傷をおわされたはずの彼女が先を行く霊夢に追いついたのか。いつのまにか、主人を守るように霊夢の前に立ちはだかっていた。
彼女の息は見るからに荒い。顔が見えれば青白くなった死人さながらの顔色を見ることができよう。妖夢との戦闘で負ったのだろう身体中の軽傷も痛々しい。流れ出た赤い液体の匂いは少し離れた霊夢にさえ届いていた。
「さ……く……や?」
「っは―――お嬢様っ! ここは……わたしが、食い止めます、からっ……! お嬢様、は……!」
後ろで呆然と目を瞬かせるレミリアを背に、咲夜は折れそうな足を支えにしながらナイフを向ける。
限界などここに辿りつくまでに幾度も超えたのだろう。もう時間を止めることも、戦うことも、まともに喋ることも出来はしない。
だけれど咲夜は整わない呼吸を止めて、こう叫んだ。
「お逃げくださいっ! 外へ!」
「…………」
「…………ぅ」
「今日は半分とは言え、月が出ています! ここで戦うより……っく、外の方が少しでも有利なはずですっ!」
「…………」
「…………が……っ」
咲夜はこの場でただ一人、レミリアの衝動の事情を知らない。レミリアは咲夜はおろかパチュリーに対しても口を閉ざしていたから、知らないのは仕方がないのだが。
震える足を叱咤して叱咤して、咲夜は一歩だけ前に進む。
「もう私に余力はないけれど……一秒でも多く、貴方の時間を奪わせてもらうわ!」
「…………」
「…………し……ぃ」
場の空気を無視した裂帛の気合を込めて、咲夜はナイフを構えなおす。回収する力も無くなってストックが尽きたのか、両手に持ったナイフは一本ずつ。それを順手逆手に持ち、咲夜唯一の直接攻撃である傷符の体勢に入った。
その前に。霊夢は呆れた声で言った。
「…………あのね、咲夜。言っとくけど今のレミリアに月を見せても逆効果なのよ?」
「え?」
「…………ぐ……」
……確認するが、レミリアが耐えている吸血衝動は月の陰を吸収すると増加する。
極めつけに外は豪雨だった。
どちらにしろ月は見えないし、むしろ弱点が大喝采して待っている。
今のレミリアが外に出て行ったら本当に落ちかねない。
「え? ……え?」
まだ事情が上手くつかめない、瀟洒な完全従者。
そこに、後ろから感情全てを殺したような声がかけられた。
「サクヤ」
「お嬢さ……」
「出て行きなさい、今すぐに」
驚くほど冷たい、平坦な声。
振り返れば、レミリアが歯を噛み胸をかきむしりながら必死で痛みを堪えている姿があった。
その張り詰めようはむしろ先程よりも強い。
「お嬢様っ!? 大丈夫ですか、お……!」
「っ! ……の」
―――ぱぁんっ!
差し出した手が音を立てて振り払われる。
驚愕に目を見開く咲夜を、レミリアは怖ろしい形相で睨みつけた。……殺気すらこもった目で。
「出て行けって言ってるでしょう! 出て行きなさい! 咲夜! さくや! サクヤァッ! 早く! 出て行って! ここから! 私のまえから! 今すぐ! ―――お願いだから出ていってーーッ!!!」
「――――! ……ぉ」
おじょうさま、と口の形だけが言葉をつむいだ。
それ以上レミリアは何も言わず。
「――――っ」
……やがて、咲夜は唇を噛み、足をひきずりながら階段の奥へと消えていった……。
廃墟に残った人間と吸血鬼は、しばらくの沈黙の後、どちらからとなく視線を合わせた。
「……怪我してたものね」
「あんなに血の匂いを撒き散らされちゃ堪らない、わよ……」
身体にたまった熱を溜息で吐き出して、レミリアは拗ねるように目をそらした。
「それより、どういうこと?」
「なにが?」
「私を止めるために戦いに来たんじゃないって」
ああ、と霊夢は何でもないことのように相槌をうった。
「だって我慢するんでしょう? 本当に見境がなくなったらとっちめるけど、それなら今はまだいいんじゃない?」
「っ私は人間を狩っているのよ……? それでもいいっていうの!?」
声を荒げるレミリアに対して、霊夢は妙に平坦な声で応える。
「……なんだかなぁ。吸血鬼や妖怪は人間を狩る、まああんまり好き勝手やられると困るけど、そんなのは当たり前のことでしょう?」
ちがうの? とあくまで不思議そうに言う霊夢。
「――――」
それを見てレミリアは少しだけ……恐ろしくなった。
だってそうだろう。博麗霊夢は間違いなく人間なのに、人間が、同属が殺され食われることを当たり前と言い切ったのだ。
博麗霊夢は誰に対しても平等に接する。人間にも妖怪にも吸血鬼にも。だから彼女は誰にでも好かれ、その一方で彼女は誰の仲間でもない。
来るもの拒まず、去るもの追わず。
霊夢は守るべき主人のために戦ったりしない、壊された友達のために怒ったりなどしない。そして人間が狩られたとしても、それが摂理から外れない程度ならば、そういうものだと納得する。
彼女は何かに縛られない。ふわふわと浮かぶように、この世界から『浮いて』いる。世界全てからたった一人切り離されて、どこか別の場所からこの世界に接触しているかのように。
他から受けるモノはある、他へ返すモノもある。だけれどそんなのは付属に過ぎない。本質として博麗霊夢はひとりで十分なのだ。
自分一人で完成していて。だから彼女は完全なまでに孤独だ。
レミリアは、違う、と思った。目の前の人間はどこまでもひとりだけれど、自分は決してこんな冷たいモノではないと。
―――吸血鬼は生まれながらに孤高。従えるは契約の使い魔のみ。故に吸血鬼は孤独に凍え、優しい月の光だけを慰めに。
「(違う、違う、違う)」
それはあの頃の私だ。ずっと一人だった、ほんの少し前の私。今の私は違ったはず。今の私は、そう…………もっと。
表情の見えない声で、霊夢は問う。
「レミリア。あんたがそんなに必死で耐えているのはどうして? 血を吸いたいって思うのは当たり前のことなのに、それを嫌がるのはなんで?」
それは、私が誇り高い吸血鬼だから。
例え月が相手だとしても、その毒にやられるままに血を吸うなんて無様は耐えられないから。
「吸血鬼もお月様も、結局は同じものなのに?」
「違う」
自身でも何故か分からない。反射的にそう即答していた。
だがそれは何も考えない感情的な否定ではなく、彼女の中で知らず知らず導き出していた答え。
吸血鬼と月は同じもの……ああ、そうだ。私たちは確かにあの月から生まれた存在で、もともと本質は同じものだ。
だけど、違う。
吸血鬼は月光のように冷たく冷酷で、そして生の涯まで孤独を貫くものだ。
……だけど、もう違うんだ。
吸血鬼の名の通り孤高に生きてきた私。それをいつのまにか変えていた誰かがいた。私の側にいてくれる誰かがいた。私を支えてくれる誰かがいたのだ。
例えば美鈴。
例えばフラン。
例えばパチュリー。
そして例えば。
「―――咲夜」
つぶやいた名前は、どこか温かくて心地よかった。
彼女たちに出会って、きっと私は変わっていたのだ。純粋な月の分身だった私に少しだけ混じった不純物。それはとても煩わしかったけれど、手放すのを惜しく感じるようになっていって。
……だから血を吸うことを忌避した。生きるために必要な吸血ならとにかく、闇雲に人の血を吸うことに耐えられなかった。
何故なら、それをすれば、この手から大切なものが離れてしまう気がしたから。
「――――は」
ああ、認めよう。認めてやろう。
こんな堕落なら悪くはないかもしれないから。
私は吸血鬼のくせに―――人間が少し、好きになってるんだ。
「……なんか良くわかんないけど、もういいの?」
勝手に侵入してきた巫女は尊大な態度でそう言い放った。
こいつは最初から私と戦うつもりで来たんじゃない。殺してまで私を止めるほどの因果は、霊夢と私の間には、霊夢と人間の間には、存在しないのだから。
では何のためにこいつはここにいるのだろう?
それは私が摂理から外れないかを見極めるため。結果が黒だったなら、その時こそ敵として私に相対するつもりで。
「ええ、貴方がここにいる理由はもうないわ」
「ふーん……じゃ、またね」
霊夢はあっさりと背を向け、暗い階段の方へと飛んでいった。
振り返ることなど在りえない、すっぱりとした別れ。それは目的を果たして満足した帰路というよりは、単に飽きて帰っていくように見えた。
……彼女が見極めのためにやって来たなんて嘘もいいところだ。
あの勘と感だけで生きている博麗霊夢がそんな複雑なこと考えているものか。
霊夢はただ何となくやってきて、何となく帰っていくだけ。
この狂った悪魔のいる館でさえ霊夢にとっては通り道でしかないのだから。
最後に廃墟に残った吸血鬼は、ベッドに背を預け黒い天井を仰ぐように眺めた。
「あー、馬鹿馬鹿しい」
誰に宛てたわけでもない言葉は何だか可笑しくて。
レミリア・スカーレットは数日ぶりに小さな笑みを浮かべていた。
8/
<紅魔館 時計の間>
「……ーい、おーい、おーい、妖夢ー? 起きてるー? 起きなさ~い」
「…………う、んむ?」
底抜けに気の抜ける声を目覚ましに、妖夢はゆるゆると目を覚ました。頭に雲がはったようにボンヤリとしていて、開いた目の前にあるものが逆さまの誰かの顔だとは気がつかなかった。
「ん、あ~、ゆゆこさまー、おはよーございます~。急いで朝ごはんのしたくをしますから~…………」
「あら~?」
幸せな夢の続きでも見ているのか、口はしに締まりのない笑いを浮かべて、むにゃむにゃと寝ぼけた言葉を吐く妖夢。
……と、ふにゃふにゃしていた妖夢の顔の動きがカチリと固まった。パチパチと瞬きをして目に光を戻すと、徐々に頭が回転してきたのか、一瞬顔が青ざめて。
「っっっっっっぅうああああああああッ!」
身体をがばりと起こし、ぴょん、と二メートルほどその場を飛びのいた。
その動きの速さならきっと咲夜のナイフとてかわしきれただろう。
「な、っんな、ど、どどどどうして幽々子さまが……えっと、ここに!?」
「ん~ちょっと紫に頼んで、迎えにきたのよ。もしかしたら半幽霊が一人前になってるかもしれないし、その確認も兼ねて」
それは戦いの中で死んでいるかもしれない、という意味だろうか。
……いや、それはとにかく。
「あら? どうしたの妖夢、顔が真っ赤よ? こんな所で寝てたから風邪でも引いたんじゃない?」
「いえ、あの……つかぬことをおききしますが、私は今まで……」
「?」
「……なんでもないです」
その、起きたとき自分は幽々子様の上下逆さまの顔を見ていて、いま幽々子様が床に正座しているということは、やっぱりそういうことなんでしょうか?
まだ混乱している頭を振って、妖夢はとりあえず落ち着きを取り戻す。
「―――そうだ、幽々子様。レミリア・スカーレットは」
「ああ、そっちは大丈夫。多分」
多分。
「それじゃあ帰りましょうか。紫は帰りは送ってくれないことになってるし、もう私は寝る時間だし」
そう言って幽々子はすーっと扉の方へと移動していった。もう本当に帰るつもりらしい。帰って寝て終わりのつもりらしい。
「(せめて事情くらい説明してくださいよ~)」
これでも結構必死で戦ったのに、寝ている間に終わってしまっているなんて。
半泣きになりながら、先を行く幽々子にとぼとぼとついていく妖夢。
その途中で、ふと。
「妖夢」
「……ぇ」
扉の前で立ち止まった幽々子は、いつもとは少し違う笑顔で振り返った。
「お疲れさま」
<白亜の泉 湖畔>
「―――ぅぅうううえええええええええんんんんッ!!!」
「だーっ! 泣くな! 悪かったから! ……悪かったのか? いや、とりあえず謝るから泣き止めーっ!」
「わぁああああぁぁあああん! マリサがぶった! あたま叩いたぁー! お姉さまにもぶたれたことないのにぃーっ!」
びえー、と泣き続けるフランドールを必死でなだめる霧雨魔理沙。
一刻ほど前には死にかけていた両者は、まるでそんなことを感じさせない元気さで怪獣のように騒ぎあっていた。
「……自業自得」
側で様子を見ていたパチュリーは、ぼそりとつぶやいた。
「いや、でもだな。今回ばかりはちょっと悪ふざけが過ぎてるぜ。こういう時にこそちょっと厳しく叱っとかないと、こいつのためにならん」
……あの後、魔理沙は湖に箒を叩きつけながらも何とかフランを助け出した。そして湖のほとりにフランを下ろした魔理沙は珍しくフランに真剣に説教を始めた。
結果として無事だったとはいえ、フランはパチュリーを壊そうとしたのだし、壊れたと思っていたフランはそれを意に介してもいなかった。ずっと一人で生きてきた時間は、フランに人を壊すことの罪を教えなかったから。
だから魔理沙は似合わない説教などをやっていたのだ。が、ちょっと身が入りすぎてフランの頭をこう、スコンとやってしまったのがいけなかった。
パチュリーもそれに関しては魔理沙の自業自得だとフォローを控えることにしていた。
「……はいはい。じゃあ妹様の教育は魔理沙に任せるわね」
そう言ってクルリと背を向けるパチュリー。
魔理沙は慌ててそれを引き止めた。
「ちょっと待てどこへ行く」
「……眠いから帰って寝るわ。実は割と魔力切れ寸前。濡れちゃったし、早く帰らないと……ああ、散らかり放題の図書館も何とかしないとね」
ぶつぶつ言いながら宙を飛んでいくパチュリー。
「待て、帰るなら帰るでこいつも連れてかえっ……!」
「びぇぇええええええぇぇぇええええええええっ!!!」
覆いかぶさる泣き声。魔理沙がとっさに耳をふさいでいる間に、パチュリーはさっさと紅魔館の方へ向かっていった。
「うぅええぇぇえええええええええーーん!!!」
「ああー! そもそも私は何しに来たんだっけーーっ!?」
白亜の湖畔に。
おそろいの悲鳴が響きわたっていた。
<紅魔館 大回廊>
霊夢は誰もいなくなった大きな廊下を一人でふよふよと飛んでいた。ぼんやりとした蝋燭の灯りしかないとは言っても、あの最上階や大階段に比べれば明るいものだった。
と、進んでいく廊下の先に見覚えのある妖怪を見つけて、霊夢はふわりと床に着地した。
「まだいたの、紫?」
「ええ、まだいたの」
少しの距離を離して二人は顔を合わせる。
無関係というほど遠くもなければ、親しいというほど近くもない。そんな微妙な距離感はある意味でこの二人に共通している。
「で、何の用?」
「あなたが聞きたいことがあるんじゃないかと思ってね。待っててあげたのよ」
「何よそれ、わけわかんないなぁ」
冗談けを込めて霊夢は笑う。
紫はそれには応えない。霊夢が聞いてくるまでは黙ったまま、聞いてこないのならこのままお終いにする、ということだろう。
「…………」
この場の時間が静止したように二人は動かない。
霊夢は少しだけ思案したあと、ふいっと顔をそらした。
「……大丈夫なのかな?」
たった一言だけ。ぽつりと漏らすように霊夢は聞いた。
紫は質問の詳細を尋ねずに答える。
「―――次の新月」
「なに?」
「そこまで耐えられれば大丈夫よ。レミリアの受けた毒は結局月の光そのものだから。月光を浴びないまま新月を越えれば、体内の陰はすっかり入れ替わる。……今思えば赤い霧はそのためのモノだったのね。そうなれば元に戻るわよ」
「新月って……あと六日くらいあるじゃない。今でさえチルノ並みなのに、そんなに耐えられないわよ」
チルノ並み。つまり限界いっぱいいっぱい。
しかし紫はそれを否定した。
「レミリア自身は気づいていなかったのね、だから館の者も部屋にほとんど入れず一人で引きこもって耐えようとしていた。でもそれは間違い。レミリアの陰の方は完全に月のいいなりだから、耐えているのは陽のほうなのよ」
本来吸血鬼が持っていないね、と紫は意味深げにつけ足した。
だがレミリアには間違いなくそれがある。五百年の歳月の中でレミリアにそれを与えた者がいたから。
「……そっか、じゃあ本当にもう私がすることはないわね」
「どうかしら? 彼女がいたとしても、五分だと思うけれど?」
どこか面白そうに言う紫に、霊夢は片目を閉じて返した。
「その時は、あんたの結界にでも閉じ込めてあげれば?」
……そうして、霊夢は紫の横を通り過ぎていった。
此度の事件では、霊夢は何もしていないのかもしれない。ただ紅魔館に来てレミリアと一言二言の会話をして去っていっただけだ。
それなのに事件は解決してしまっていた。
最初から手を出さなくても良かったわけではない。あのまま放っておけばレミリアは間違いなく衝動に負けていたか、そうでなければ力尽きていただろう。
レミリアには彼女の支えが必要だった。そのことに気づかせたのは間違いなく博麗霊夢なのだ。……それを霊夢自身、意図していなかったにも関わらず。
「『
静かになった紅魔館で、和風とも洋風ともとれない妖怪はそう呟いていた。
<紅魔館 最上>
…………
……
ずっと昔のことを思い出した。
自分自身で人間を狩り、獣のように血を吸って生きていた日々。
まだ使い物になる使用人がなく、紅魔館が無残に荒れていた時期。
まるで瓦礫の王者のようだった私の目が、荒みきっていた時。
過ぎていく日々に、その先の運命に、興味などなかった頃。
……昔のことを、思い出す。
そんな日々の終わりに、私は。
咲夜と出会っていた、のだっけ。
―――咲夜。
ああ、そうだ。それからの私はずっと彼女に助けられてきた。
だから耐えていける。身体を侵食するこの凶暴な高まりも、彼女の助けがあるのなら。
……彼女が側にいてくれるのなら。
薄く目を開くと、レミリアは紅魔館の最上階にいた。暗い部屋には誰の姿もない。閉ざしきった窓からは外の様子すら測れず、今が夜か昼かすらも分からない。
……それでもレミリアには分かった。息を殺す影のようにレミリアの様子を伺っている彼女の姿が。
「出てきなさい、咲夜」
かくれんぼの鬼のような気分でそう告げた。
暗がりからぎくっ、という音が聞こえた後で、衣服を変えた十六夜咲夜が物陰から出てくる。レミリアに出て行けと怒鳴りつけられたせいか、借りてきたネコのように縮こまって、すごすごと歩いてきた。
その様子をレミリアは、これまで見たことがない目で、何か大切なものを見るような目で見ていた。
「……あの?」
居心地が悪そうにしている咲夜を無視してレミリアはふう、とため息をついた。
「全く……前から言おうとしていたことだけれど、咲夜は気配を消し方が甘いわね。配慮からそうしているのならもっと徹底するべきね」
「え、あー、その……はい、ごもっともです、が、私がお側にいるかいないかが分かりやすいようにと、えー」
半分は故意にやっていることだったらしい。だが気づかれないように隠れていたのに見破られたということは、結局は咲夜の力不足と言われても否めないわけだった。
ごにょごにょと語尾を汚す咲夜。そんな咲夜を見つめてレミリアは言った。
「必要ないでしょう。だって咲夜はずっと私の側にいるんだから」
「――――ぇ」
完全な不意打ちで。
言い切るように、彼女は言っていた。
「あの……おじょうさま?」
意味は測れないが何かとてつもなく恥ずかしいことを言われたような気がして、咲夜はちょっと顔を赤らめる。
レミリアはそれに気づかないふりをして、壊れたベッドに手をつき立ち上がった。もう何年もこうして這いつくばっていた気がした。
「咲夜」
「は、はい」
咲夜に横顔を見せて、あさっての方角を眺めながらひとり言のようにポツリと言った。
「紅茶」
「は?」
「だから、紅茶が飲みたい。淹れて」
何でもない、ちょっとした命令。
ただそれは咲夜にとって、ここ数日間ほとんど顔を合わせてももらえなかった従者にとって、本当に久しぶりの主人からの命令だった。
「―――はいっ! ただいま!」
滅多に見せない満面の笑みで咲夜は応える。
レミリアはそれを、目を細めて眩しそうに見つめていた。
まるで、そう。
太陽に恋焦がれてしまった、おかしな吸血鬼のように。
それは、とても優しい光
ほんの少し前から、私はその光を浴び、その光と共に在る
光は温かく、どこまでも澄んでいて
それを受けた私自身も、それにならうように、変わりつつある
穏やかで間延びした日々
とても退屈な、安らかな日常
それは、とても優しい光だった
最終的にハッピーENDで終わって後腐れもなしです
霊夢、恐ろしい子…(ツボでしたが)
何て言うかすごく良かったです。
ハッピーエンドで終わってよかった、とほっとしています。
次回作もがんばってください。
でわでわ ノシ
…自分、こういう熱い戦闘モノ好きなので最後まで楽しく読ませていただきました。
特に、フランvs魔理沙&パチュリーでの心を焼きつつ強敵に挑んだ魔理沙、
そしてその想いを継ぐ形で"真価"を発揮したパチュリーがツボに入ってしまいました。
そして最後、霊夢vsレミリアと思わせておいての結末と各個人のエピソード…いいです。
妖夢、魔理沙のバトル部分も最後の綺麗な締めも最高でした。
ストーリー、キャラ、設定、全てがバランスよく、しっくりと収まっていると思います。
脱帽です。
実に霊夢らしい能力です
良いものは何度読んでも良いって事ですね。
もうちょっと文章の繋ぎが素直だったら…
すごい
吸血鬼って流水がダメなんだっけ?