「がんばれさくやさん」の世界観をちょっとだけ継承してます
マリス=咲夜の同期で親友な程度の能力。
小悪魔=名前はリトル。
それだけ踏まえていただいて以下小話をどうぞ
「むぅ~~~~」
「咲夜、なに考え込んでるのよ」
「個人的に悩みがあって…」
マリスになら私の悩みを打ち明けられる。そう思いこの苦しい胸の内を明かそうとしたその時。
「ああ、それなら良い物があるわよ」
「…え?」
やはり持つべきものは親友。何も言わなくても察してくれていただなんて。
マリスは私に一冊の本を手渡した。私はその心遣いに涙を流しつつその本を開く…が
「なにこれ…女性用下着カタログ?」
「あなたの胸を偽装するグッズがこのペー」
「そして時は動き出す」
「あれっ!?私の大事なカタログがぁーー!!!」
「まったく、胸が小さいことなんてどうでもいいことよッ!」
私は十六夜 咲夜。ここ紅魔館でメイドをやってます。
私の悩み…それは来月に迫ったレミリアお嬢様496回目の誕生日に差し上げるプレゼントが決まらないこと。
「あ゛~、一体何を差し上げればいいのよっ!」
「ねぇ咲夜、私いまトンでもない事を思いついたんだけど」
「…期待はしていない」
「お嬢様に何が欲しいか聞いてみたら?」
それだ、その手があった。何故今まで気がつかなかったんだろう。
「マリス、あんた天才!」
次の瞬間、私の足はお嬢様の部屋へと向かっていた。
「お嬢様ー!」
「咲夜、ノックもせずに主の部屋に入るとはどういうこと?ん?」
「ぎゃっ!申し訳ございません!!」
しまった。今日は満月だったのか…この親衛メイド咲夜一生の不覚。
かわいいかわいいお嬢様は月に一度、満月の夜には淑女へと変貌するのを忘れていた。
「それ相応の理由があってのことよね?」
マズイ、非常にマズイぞ…この淑女レミリア様に冗談は通じない。
私は正々堂々真っ向から質問することにした。
「実は、お嬢様に誕生日の贈り物を差し上げたく…」
「そうね、竹の花が欲しいわ。蓬莱竹がいいわね」
あら、意外とあっさり聞き出せてしまった。一週間も悩んでいた私は一体…
だが次なる難題が持ち上がる。蓬莱竹って何処に生えてるんだ?
「あら…貴女は確か」
「初めまして、親衛メイド隊の咲夜です」
調べ物といえば図書館。ということで私はヴワル図書館に初めて足を踏み入れた。
「こちらこそ初めまして、私はここの司書をやっているリトルと言います」
「早速ですが、ここに蓬莱竹についての書籍はありますか?」
「そうですね…コレなんてどうです?」
竹大全。なんとも分かりやすい書籍名。これなら色々書いてありそうだ。
「その本持ち出し禁止ですから。こちらでお茶でも飲みながらごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
私は早速蓬莱竹について調べてみることにした。
さすが竹大全というだけあってあらゆる竹の情報が網羅されている。
「蓬莱竹、ホウライチクっと…あったあった」
『ホウライチク。蓬莱竹林の暖地で育つ熱帯性種 節間が長く、ケーナなど笛用材になる』
「蓬莱竹林…てどこよ?」
「はい、幻想郷の地図ですよ」
「あ、ありがとう」
なにこの司書、相手の欲しているものを瞬時に判断するとは気が利きすぎる。また一つ勉強になった。
蓬莱竹林、魔法の森に隣接した面積約2000㎡の竹林で妖怪跋扈度はAランク。
「うえ~、妖怪だらけなのか」
「ちょっとメイドさんが行くには厳しいところかもしれませんね」
「むっ、私はコレでも親衛メイド!妖怪が怖くてメイドが務まるかぁ!」
「おおっ、凄い気合」
「本と地図借りていくわよ!」
「持ち出し禁止なのに…ちゃんと返してくださいねー!」
私は居ても立ってもいられなくなり、図書館を後にした。
お嬢様の誕生日が来週に迫ったある日、私は遂に計画を実行することにした。
休暇もとった。ナイフも厨房からパクった。完璧。
「それで咲夜、あんたそのナイフで妖怪と戦り合うつもり?」
「当然」
咲夜は本当にナイフしか使えない。ナイフだけで凶悪な妖怪と戦うなんて無謀すぎる。
こんなことなら他の武器も教えておくべきだったと悔やむマリス。
「まぁ、出来るだけ戦いは避けるけどね」
着々と支度を整える咲夜、予備のナイフを服の裏に仕込む事も忘れない。
「それじゃあ今日一日出かけてくるから、後始末ヨロシク!」
「いってらっしゃーい…後始末?」
見れば部屋中に本やらパジャマが散らかっていた。これを片付けろというのか…
私は早朝の幻想郷を全速力でぶっ飛ばし、一路蓬莱竹林を目指す。
「別に早朝から急ぐ必要は無いわね。竹林に着いたら朝ごはんにしよっと」
私の作戦、それは妖怪の動きが鈍くなる昼間のうちに目的物をゲットしようというもの。
「ふふふ、我ながら完璧で瀟洒な作戦ね」
朝は妖怪も寝る。それ故に妖怪跋扈度Aの竹林といえども穏やかなものだ。
ある程度奥に進んだところで蓬莱竹の花のつぼみを発見。目に付くつぼみを全て回収して任務完了だ。
「案外簡単だったわね。あとはこれをこの袋に入れて…」
その時、私の第六感が異変を感じ取った。明らかに私を狙う殺気が篭っている。
「誰だッ!」
当然返事はない。私は竹林に囲まれた周囲を警戒するが、隠れどころが満載でいつ奇襲を受けてもおかしくない。
「ナイフと時を止める準備はしておいたほうが良いわね…」
3分経過、相変わらず殺気は伝わるが敵の姿は見えない。
「まったく、何処に居るのかしら?」
一瞬だけ気を緩めたその時、敵は地面からやってきた!
「な、なんですってぇぇぇ!!」
慌ててその一撃を回避するが、スカートがやぶれてしまい恥ずかしい格好をさらすことになってしまった。
せっかくのメイド服が…そんな場合じゃなかった。敵がすぐそこ…に…?
「こいつが敵!?」
筍、私に奇襲を仕掛けたのは先程まで何もなかった空間に立つ立派なタケノコだった。
こんなの武器にするなんて余程の物好きか、幻想郷そのものかのどちらかだわ。
続けざまに第二、第三のタケノコが私を襲う。
「甘いわね、同じ攻撃が二度も通用すると思って?」
突き上げてくるタケノコを私は難なくナイフで料理する。
「ぎゃああああ!!」
「本体はそこかー!」
気合一閃、声のする方向に向かって私は素早くナイフを二本投げつける。
一際太い竹にナイフが命中するとそいつが妖怪だったのか、先程まで向けられていた殺気が消えていった。
我ながら見事だと思うこの瀟洒な戦いぶり。毎日続けている投げナイフの練習が役に立ったわ。
「ふぅ、これでミッションコンプリートだわ。帰ろ…」
だが、次のお客さんが迫ってきているみたいだ。
ざわ…ざわ…不穏な空気が流れる
「何か嫌な予感がするわね…まだ妖怪が潜んでいるのかしら」
「あ、兄者ー!!」
「キサマ、よくも兄者を!!」
周囲の竹から一斉に殺気が向けられる。わかった、ここいら一帯の竹林はそれ自体が妖怪の群れなんだ!!
妖怪跋扈度Aは伊達じゃないって事ね。
「竹の分際で私を倒そうなんていい度胸ね!」
所詮相手は竹。筍で掘るか枝で叩くか程度の攻撃しか出来ないだろう。一対一ならば負ける理由なんてない。
だがしかし、すでに私は四面楚歌。周りは全て敵になってしまっている。数的には圧倒的に不利っぽい。
それでもココで親衛メイド隊が竹如きに負けてなどいられない。
「私を紅魔館のメイドと知っての狼藉ですか!」
返事はない、説得は失敗のようだ。
下からはタケノコが私を堀りにかかり、上からは枝がムチの如く唸りを上げて私を叩きつけようとしている。
たかが竹風情が紅魔館の親衛メイドに楯突くとは良い度胸ね。皆殺しにしてくれる!!!
「時よ止まれぇ、プライヴェートスクウェア!!」
「あれ…さくやは?」
「今日は外出しておりますが、呼び出しましょうか?」
「ううん、いないなら別にいいや」
「どうなさったんです?」
「くつの止め具がこわれちゃったの。あたらしいくつを買ってもらおうとおもって」
「あいたっ!もう体中が傷だらけじゃないっ!」
擦り傷切り傷みみず腫れ、もう全身ボロボロだ。ナイフも全部使ってしまった。時を止める余裕なんてもうない。
枝のムチをかいくぐり、スピア・ザ・バンブーを三段跳びで跨いで行く。
立ち止まれば掘られる。逃げるが勝ち、ひたすら走って走って走りまくる!
「そこまでよ。貴女がここから逃げ出すことは出来ない」
「誰だ!」
私の前方に逃げ道を塞ぐかのように立ちふさがる人物。味方か、それともこいつが敵の親玉か?
どちらにしろ私は立ち止まることを許されない、邪魔するものには死あるのみ。
「私の名は松竹 梅。能力は――」
「時よ、止まれ」
「そして時は動き出す」
「――ぎゃああ、目が、目がぁぁぁぁ!!」
邪魔だから朝ごはん用の胡麻塩をかけてやった。反省はしていない。
「あんたも気をつけることね、そこに居たら掘られるわよ!」
「掘られるですって?いったい何を言っているので――」
「掘られると思った時には既に掘られている。過去の事象なのだって歴史の先生が言ってわね…」
私の身代わりとなり竹林に露と消えた一つの命を惜しみつつ、咲夜は妖怪竹林から逃げ出した。
まさか蓬莱竹の花一つでこんな酷い目にあうとは思わなかった。
だがこれでお嬢様の喜ぶ顔が見られるというのならば、この苦労も報われるというものだ。
おっと、肝心のつぼみを確認しなくては。落としでもしてしたら苦労が水の泡。
「さて、蓬莱竹のつぼみは無事かしら」
「ししししし司書のリトルさーん!!!」
「あら、あなたは確かメイドの咲夜さんでしたっけ?」
「そうです昨夜です!萎れた花を元に戻す方法を教えてくださいッ!!!」
「萎れた花を元に戻す…?」
私はリトルさんに萎れてしまった蓬莱竹のつぼみを見せる。
抱きかかえながら飛んだり跳ねたりしたせいで袋の中が高温になり、中の水分が蒸発してしまったのだ。
「えーと、これなら魔法を使わなくても大丈夫ですよ」
「ホントですか?」
「まずはバケツと霧吹き、そしてやわらかい紙を持ってきてくださいね」
「持ってきました!」
「あれ、さっきまで手ぶらだったはずなのに…まぁいいや、見ててください。
まずは紙を広げ、その上に萎れた花の花首を上に向けた状態で寝かせます。
次に霧吹きで紙が湿るくらい、充分に湿り気を与えるんです。
それが終わったら、紙を端から丸めながら萎れた花を包み込みます。
最後に深めに水を張ったバケツの中で、萎れた花の茎を水切りをします。
そうすれば30分から1時間ほどで再生しますからね」
1時間後、つぼみは元のみずみずしい姿を取り戻した。
「ばっちりですね」
「あ、ありがとうございます~」
私は感激のあまり涙を流しつつリトルさんにお礼を述べる。
「この恩は忘れません!素晴らしいお礼の品をさしあげますからね!」
「そんな大げさな…期待はせずに待ってますよ」
私は嬉しさのあまり、スキップをしながら図書館から自分の部屋へと戻った。
「…なんで咲夜さんはあんなボロボロだったんでしょうか?」
「お嬢様、お誕生日おめでとうございます」
「「おめでとうございます」」
今日はレミリアお嬢様496歳の誕生日。
メイド・門番・その他紅魔館で働く者全てが集う、年に一度の生誕祭が大々的に執り行われるのだ。
「みんな、ありがと~」
ああ、あの笑顔だけでも一年間頑張ってきた甲斐があるというものだ。咲夜は必死に鼻血をこらえる。
「しかし、満月が明日で助かったわ」
「どういうことですか先輩?」
「20年前、満月の夜に生誕祭が重なったことがあってね。たいそうな地獄絵図が…」
「ひえぇぇぇぇぇぇ」
歌劇を披露する者、生贄を捧げる者、それぞれが思いつく限りの贈り物を献上している。
「お嬢様、私からの贈り物です」
「わぁ、きれいなお花だね~」
「蓬莱竹の花です。10年に一度しか咲かない珍しい花だそうですよ」
「ありがとう、おへやにかざっておくね」
宴は夜を徹して行われ、いよいよ最後のイベント・MVP(最優秀プレゼント)の発表の時間となった。
お嬢様が最も気に入ったプレゼントは殿堂入りとなり、末代までその栄誉を称えられる。
「まずは第三位、この私メイド長手作りのナイトキャップ!」
「えー、八百長じゃないn(ry」
隣のメイドが頭から血を流して倒れている。いったい何が起きたというのか…
「そして第二位!楽しい夢が見られるクスリ!」
「やった!二位ゲット!!」
あれはいつも紅魔館にクスリを売りに来る薬剤師、さすがクスリの天才というだけはあるな…!
だがここまでは予定通り。二位や三位などどうでもいいの。一位、これだけは譲れない!!
高鳴る胸、期待と不安が交錯する中今まさに一位が発表されようとしていた。
「それでは栄光の第一位、発表!!」
「第一位、マリス選定の靴!」
「え、私!?」
「な、なんだってぇー!!!」
なんということだ…私のプレゼントを上回るプレゼントが存在していたとは!
私の体から力が失われてゆく。ああ、私の努力は全くの無駄だったということか…
「ふふふ……マリスに敗れたのなら本望……ぐふっ!」
「さ、さくやーーーー!!」
「…あ、私どれくらい眠ってたのかな」
「寝すぎよ、すでに夜の帳が下りているわ」
「れ、レミリアお嬢様!!」
なんてことだ、ショックのあまり丸一日眠ってしまったのか。
「コレではメイドとして失格ね。紅魔館から出て行ってもらおうかしら」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「…ふふ、冗談よ。それどころか貴女には感謝しているわ。私のリクエストを覚えていてくれたんですもの」
「…覚えておられたんですか?」
「当然よ。この花は満月の夜に最も栄えるの」
満月の光に照らされる蓬莱竹の花、それは幻想的かつ神秘的な花だった。見ているだけで心が洗われる。
二人はしばしの間、花を眺め続けていた。
「惜しかったわね、生誕祭が今日ならMVPは貴女のものだったのに」
「確かにちょっぴり残念ですが、この花をお嬢様と一緒に見れただけで十分ですよ」
「ふふふ、貴女と一緒にいると楽しいわ」
「ありがとうございます」
その夜、私とお嬢様は一晩中蓬莱竹の花を眺めて過ごしました。
MVPの栄誉なんかよりも何倍も嬉しい出来事でした…
「あれなんだろうこの封筒、私宛の手紙?」
封筒には『リトル様へ 咲夜より』と書かれている、ひょっとしてこの前のお礼かしら。
「中身は何かn…ふごふっ!」
まさにサプライズプレゼント。封筒の中身はパチュリー着替え中盗撮生写真だった。
「なんて報酬…ッ!」
小悪魔リトル、ヴワル図書館に散る…
特に歴史の先生と、リトルの報酬への反応がツボにきました。
次の作品もがんばってください。
彼女の下積み時代はきっとこんな感じだったのかなぁ…。
リトルも好みの味付けでした。
萎れた花の再生方法はなんとなく、リトルらしい豆知識だと思います。
さくやさん、結果は残念でしたが、最終的にはよかったですね。