Coolier - 新生・東方創想話

「うたかたの夢」 その壱

2005/05/15 02:38:59
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 月の異変が解決し、半月ほどが過ぎた、ある日の夜。
 
 紅魔館を囲む湖畔の道を、二人の人影が歩いている。
 一人は紅魔館の主、レミリア・スカーレット。
 もう一人は、館の「鬼」のメイド長、十六夜咲夜。
 二人は特に会話もせず、静かに、ただ湖畔の道を歩いている。
 楽しげに前を歩く主人の背中を見ながら、咲夜はつい先程の事を思い出す。
 
 
 いつもなら、お決まりのように博礼神社の巫女の所へ向かうレミリアだが、今晩に限って、湖畔を散歩すると言い出した。

 「たまには良いじゃないの。ほら、惚けていないでさっさと来なさい」

 外出の支度をしていた彼女は、手を強引に引っ張られ、外に連れ出されたのだった。
 
 
 「ほら、今夜は素敵な三日月よ」
 
 主に声をかけられて、咲夜は我に返る。
 見上げた空には、自分達が住んでいる星。「地球」に太陽の光を遮られ,欠けた月が浮かんでいる。
 月から来たと言う、永遠亭の住人達は、そこに月の民が暮らしていると語るが、咲夜には、今だ信じられない。
 幻想郷の、澄んだ空気のせいで月の表面がよく見える。
 金色に輝く、ただの岩塊。
 主の魔力の源だとは理解していても、そこに命ある物が存在するとは思えない、死の荒野。
 でも、ときどき、ふと感じる事がある。
 自分も、かつてはそこにいた様な、そんな気持ちに。

 「咲夜ー、こっち、こっち」
 
 レミリアが、自分から少し離れた所にある、水辺の砂浜から自分の名前を呼んでいる。
 物思いにふけっているうちに、置いていかれた様だ。
 これでは護衛失格だなと思いつつ、咲夜は主の下に走り寄る。
 
 「失礼しました、お嬢様」
 「咲夜が惚けるのは、今に始まった事じゃないから気にしないわ」
 
 はあ、とため息をつく彼女に、レミリアは話し続ける。
 
 「空に浮かぶ満月には行けなかったけど、この湖に映る三日月には手が届きそうよね。ま、私は吸血鬼だから止めとくけどね」
 
 クックッと笑うレミリア。
 吸血鬼は流れる水を渡れない。山から湖へ流れこむ、何本もの細い小川のせいで、湖面もゆっくりと動き、波を立てている。
 
 「お嬢様、まさか、私に湖に映る月を取って来いなどと、考えていませんか」
 「そーね、面白いかもしれないけど、そんなトンチンカンな事、言わないわよ」
 
 咲夜は、半ば本気で言ったのだが、主の答えに内心安心した。金槌ではないが、泳ぎは得意な方ではない。
 子供の頃、水練も修行の一つだと、門番兼、自分の育ての親代わりの美鈴に、たびたび湖に放り込まれたのを思い出す。
 あの頃は、空も飛べなかったからなあ。
 嫌な事を思い出したので、明日はどう美鈴を弄ってやろうと考える。
 
 「咲夜」

 主の呼びかけに振り返り、紅い瞳の少女を見る。
 愛くるしい姿は、何年経っても変わらない。自分の寿命が尽きたとしても、その姿は変わりはしないだろう。

 「何でしょうか、お嬢様」
 「なんで今晩、あなたをここに連れて来たかわかる」

 主の謎かけに、咲夜は答える事ができない。困り顔をしている彼女を、主は楽しそうに見ている。

 「降参です」
 「あっさりと諦めるわね。まあいいわ、教えてあげる」

 主は、ささやく様に答えを教える。

 「この場所は、私達、スカーレット姉妹が定住する為に、初めて降り立った場所。そして」

 咲夜の顔を正面から見つめ、主は続ける。

 「捨て子だったあなたを、拾った場所でもあるの。そう、ちょうど今日がその日。どう、びっくりした」
 「初耳です。まあ、生みの親がいない事はわかりきっていましたが」

 物心ついた時から、自分は紅魔館にいた。美鈴から気功法、武術を学び、図書館の魔女からは、多くの知識を得た。そして、礼儀作法等は、館のメイド達が親身になって教えてくれた。だから、今の自分がいる事はわかる。しかし。

 「何故、今頃になってそんな話を」
 
 主は、湖面に映る月を眺めながら答える。

 「どうしてかしらね。何となく、そんな気分になったのよ」

 長い沈黙が続く。

 「私が、ここに定住しようと決めた理由、わかるかしら」

 先に沈黙を破ったのは、レミリアだった。咲夜の返事を待たず、彼女は話し続ける。

 「呼ばれたのよ、何にだかは分からないけど、ここが私のいるべき場所だって。そして」
 
 咲夜の顔を、レミリアは、まじまじと見ながら伝える
 
 「もう何年前になるのかしら。赤ん坊の、あなたがここにいた。何か宿命めいた物を感じたわ。だから、私が命じて育てる事にしたの、魔が集いし紅の館でね」

 咲夜は、主の語る話の、あまりの衝撃に返事をかえす事ができない。
 
 湖面に映る三日月が、波間にゆっくりと揺れている。ゆらゆらと、ゆらゆらと。

 なんだろう、何かが、心の奥底から浮かび上がってくるような。
 
 まるで、泡のように。

 その瞬間、咲夜は意識を失った。
 
 最後に聞こえたのは主の自分を呼ぶ声。それと、もう一つ。


 「X-LAY 01、ギラソルの破壊を確認。これより降下に移る」

 
 聞きなれない単語を話す声、それは、何故か、主の、レミリアの声によく似ていた。           



「続く」
 

 

 

 
 
 

 
 
 
 沙門です。作者もよく考えずに懲りも無く、またクロスオーバー物を書き始めやがりました。でわまた。
沙門
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コメント



0.420簡易評価
2.50名前が無い程度の能力削除
X-LAYにギラソルってRAYFORCEですか?
6.50RAIZEN伍長削除
東方のCCOVというのは珍しいですな。読んでてとても新鮮味が沸きます。
X-LAY01…どこかで聞いたことがあるような…?
とにかく先の話が気になります。執筆がんばってください。

あと、とても些細なことですが一つ意見させてください。
会話をかぎ括弧で閉じる一文字前に句点をつけるかどうかで統一したほうが、文章の見た目としては少し綺麗になるかもしれませんぞ。
7.無評価沙門削除
>X-LAYにギラソルってRAYFORCEですか?
ご意見ありがとうございます。そーですねー、作者はへそ曲がりなので予想の左斜め45度くらいの答えを話にする予定です。でわでわ。

>会話をかぎ括弧で閉じる一文字前に句点をつけるかどうかで統一したほうが、文章の見た目としては少し綺麗になるかもしれませんぞ。
ご意見ありがとうございます。前回も指摘を受けたので、気をつけていたつもりだったのですが、おっちょこちょいなので以後、より注意します。でわでわ。