人々の暮らしぶりはそんなに悪くなさそうだった。服装は私達の時代と大差ないようだが、いわゆる外界風の服を思い思いに着こなしている人も多い。もともと幻想郷は人の出入りは一部の例外を除いて困難なくせに、文化はどこからとも無く、それこそ過去現在、もしかしたら未来の区別無く漂着してくる世界。べつに目新しいことではない。私はそれを残念に思うよりも、むしろまったりした雰囲気が続いていることに安心を感じた。
集落の広場に着くと、何か得体の知れない機械のようなものが見える、中央に物見やぐらのようなものがあり、そのやぐら自体は私たちの時代にもあるありふれたものであったが、天辺にきらきら輝く板が並んでいる。早速第一村人を見つけたので聞いてみると、これで生活に必要なエネルギーを得ているのだと言う。火をおこすのに使ったり、夜を明るく照らしたり、果ては他の集落の人々といながらにして会話もできるらしい。
やはり、未来の幻想郷に来たのだろう。何かと便利になっているようだ。
「きっと、何か道具のサポートを使えば普通の連中でも魔法が使える、ってな寸法なんだろうぜ。」
そう魔理沙が結論を下す。なるほど。そして、ここへきて初めての好奇心が湧いてくる。
「博麗神社はどうなっているのかしら?」
「そうだな、早速行って見るとするか。」
すると、近くで話を聞いていた少女が近づいて来てこう言った。
「それなら私が案内するわ。」
彼女は私や魔理沙ぐらいの歳に見える。ゆったりした赤と白のワンピースを着、手には食べ物や雑貨が入った風呂敷を持っている。どうやらこの村へ買出しにきていたらしい。ということはこことは別の場所に住んでいるという事。その彼女が博麗神社に案内してやると言っている。ってことは。
「えっ?じゃあもしかしてあなたが。」 こんな偶然があるとは。
「そうよ、私の名は博麗ミカ、博麗神社の、え~とまあ一応巫女と言うか、管理人と言うか。」
「私は博麗霊夢、そしてこっちが霧雨魔理沙、ところで一応ってどういう意味。」
「この村で一番霊力が備わっているって言われて、それで長いこと無人だった神社の管理をやらされているの、悪い仕事じゃないけどね。」
「無人、どのくらい放置されてたんだ。」 横から魔理沙がたずねる。
「え~と、百年か、それ以上か。」
「やっぱり先代が余りにだめだったんで一回滅びたっぽいな、なあ霊夢。」
魔理沙が私の肩にぽんと手を置いて言った。むかっ。
「私の代が最後とは限らないでしょ。」 お払い棒でぽかり。
「まあまあ、神社に行ってみようぜ。」 頭をさすりながら華麗にスルー。さすがね。
「そうね、初めて会ったばかりなのになんだか貴方たち、他人って気がしないね。」
彼女もあまり細かいことにこだわらない様子だった。
「じゃあ、行きましょ。博麗・・・悪夢さん。」
「霊夢だ!」
「ぷぷっ、言えてるな。」
「ごめんなさい、それと霧雨・・・まりもさん?」
「なっ!?」
「私を笑ったばちよ。」
私たち三人は思い思いの感覚で重力に逆らい、宙を飛ぶ。ミカと名乗るこの時代の博麗の巫女を先頭に、私と魔理沙が続く。よく整備された水田が眼下に見えた。かなりの規模だ。
「この辺はまだ人と打ち解けてない妖怪も多いから、ほいスペルカード、持っていたほうがいいよ。」
といって、ミカはスペルカードを取り出し。私たちに一枚ずつ渡した。お札ほどの大きさの薄い水晶かガラスの板の中に、魔方陣を刻んだ紙が封じ込められており、その下半分にはよく分からない複雑な文様が描かれている。
「これは、香霖のとこで見た『電子回路』ってやつに似てるな。」 魔理沙がしげしげとカードを見つめながら言う。
「そうよ、有機チップが使用者の手から思念を読み取って、精霊言語に翻訳、それでその精霊さんがあらかじめカードに充填された、霊力なり魔力なりを行使して、弾幕生成をするわけ。このチップのおかげで特別な能力の無い人でも使えるようになったの。」
「ありがとう、でも私たち、もう持っているから必要ないわ。」 といって自分のスペルカードをミカに見せた。
「驚いた、まだこんな古いカードを使っている人がいるんだ。それ自分で作ったの?」
どうやら、この時代のスペルカードは量産品を買うなり貰うなりして使っているらしい。魔理沙がたずねた。
「でも、そのカードだと一人で思い思いの効果のやつを作ることが出来ないんじゃないか。」
「確かにね、誰にでも使える分、機能が画一的になっている面は否定できないね。」 ミカはあっさり認めた。
「今度貴方も作ってみたら、オリジナルスペルを。」
「そうね、ハンドメイドのカードも面白そうだなあ。」
いろいろ会話しているうちにこじんまりとした神社が見えてきた。高度を落とし、庭へ舞い降りる。
私はふと疑問に感じた、ミカの言っていた「まだ人と打ち解けていない妖怪も多い」とはどういう意味だろうか。この時代では人間と妖怪の共存が実現しつつあるのかもしれない。でもそれが必ずしもよい事づくめとは限らないと思う。それが実現してもその時はその時で何かと問題は多いような気がする。人に相性があるように、人と妖怪も一定の距離を置いて付き合うべきよ。私はもちろんレミリアや紫と楽しくやっているけれど、万人にそうした関係を期待するのは無謀の極み。そんな気がしてならない。