もうすぐ冬も終わろうかというとある暖かな日、私、博麗霊夢はいつものように縁側でお茶を飲み、お茶請けの羊羹を食べながら、ぼんやりと、今年はどんなに騒がしい事が起こるかなあ、と思いをめぐらせていた。
といっても いくらか思索をめぐらせているうちに、起こってもいないことをあれこれ考えるのは無意味かなと思ったりもする。どうせ毎度のごとく何かが向こうからやってくるのだろうし、その時はその時で、なんとなく勘や空気の気紛れに従って飛んでいけば大抵は何とかなるものだ。
それなのに私はつい未来のことを空想する。毎年こんな調子で日々を過ごし、多分この体が動くまで同じようにお茶をすすりながら魔理沙あたりとおしゃべりしてすごすんだろう。で、時々異変が起こってそれを解決。単調かもしれないが、退屈しない優しい毎日。これが幻想郷の巫女、私のスタイル。文句あっか?
「な~んてね、しかし、未来、未来ねえ、私が死んだあとの世界ってどうなんだろう、消えちゃうのかな、それともまた私みたいなのがどっかから沸いて出てくるのかしら。」 と独り言をつぶやく。
「まあ、経験則からいって貴女がなんとなく感じたことが一番正しいのよ。」
不意に紫が空間の隙間から顔を出し、私に話し掛けてきた。あらゆるものの境界をいじる能力の持ち主。いまさら驚くことでもない。
「紫はどう思う、自分がいなくなったあともこの世界が続いているのかって考えたことある?」
「さあね、そんなら自分がいなくなった後の時代を見てみる気はないかしら? 今ならお安くしとくわよ。」
「胡散臭い提案ね、そんなことが可能なの?」
「あらゆる重圧、制約、お約束、それを意識するでもなく超越してしまう貴方、境界も冥界も宴会もなんでもござれの私、二人でやれば時間を超えるのもわけないわ。」
「うーん、そうね、暇だし、でも私たちの死の瞬間に立ち会うのは遠慮しとく。」
「分かったわ、だからうんと未来にしましょう。ついでに魔理沙も呼ぶわ。」
紫が何もない空間を指差し、くるくると人差し指を回す、すると空間がかき混ぜられた水あめのようにぐにゃりと歪み、そこから箒に乗った魔理沙が高速でこちらに向けて飛んでくる。紫はひらりと避けたが・・・。
「えっ?」
「いい天気だな。ってオイ!」
魔理沙は自分の身に何が起こったのか一瞬理解できず、後で聞いたところ、自分の飛んでいた空間と、博麗神社の庭が接続されたと気がついたころにはすでに私をはね、社務所に突っ込み。盛大な音を響かせた後だったという。彼女も災難ね。
「いてて、何なんだ?」 それでも必死に減速したおかげでたいした怪我はない。
「いてて、何なのよ?」 私も正面衝突は何とか避け、やはり大きな怪我はない。
「あらら、ごめんなさいね。」 絶対こいつ済まないと思ってないな。魔理沙も同感のはず。
私は治癒の護符を発動させる、魔理沙も回復用スペルカードを起動させる。二人のすり傷やあざが見る見るうちに消えていく。ちなみに、弾幕ごっこ用スペルほどの派手なエフェクトは無い。
「そうやって、どんな傷もすぐ治せるからいいやって描写は教育に悪いわ。生命への畏敬が台無しよ。」
むかっ
「お前が」
「あんたが」
「言うな!!」
ステレオ音声で紫に抗議した。
その後、紫はさっきの暇つぶしプランを魔理沙にも話し、「面白そうだぜ、ぜひ連れてってくれ。」 と二つ返事で快諾した。もうさっきのことは忘れているようだ、好奇心旺盛なのね、ちょっと可愛らしい。
こうして、私と魔理沙と紫の奇妙な小旅行が始まった。
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紫が空間の隙間を作ると、その中に飛び込むように言われた。私はちょっとためらった後、意を決して飛び込んでみた。足場が存在しないが、宙に浮いていられるので問題は無い。魔理沙があとからおっかなびっくりついてきた。
「ここが隙間の世界か。」
「そうよ、何にも無いけれど、あらゆる世界につながっているの。」
「なあ紫、ひとつ質問していいか?」
「何かしら。」
「何も無い世界なのに、なんで息が出来るんだ?」
「ほら、着いたわよ。」
魔理沙のもっともな疑問をあっさりスルーしつつ、紫が隙間内の空間をノックする。そこからドアが開いたように別次元らしき空間が現れ、馴染み深い幻想郷の風景が見えた。
現実世界(一応私たちのいた世界をそう呼んでおこう)にもどると、そこはいつもの幻想郷のはずなのに、どこかしら雰囲気が違う。魔理沙も同じ感じらしく、首をかしげている。
「ねえ紫、ここがひょっとして・・・」
「そうよ、ここが遠い未来の幻想郷よ。」
「あまり面白そうなものは無いようだけど、散策してみるわ。」
「以外な反応ね。」
好奇心旺盛な魔理沙はすでに集落へ向けて箒を飛ばしていた。別に深い感慨を覚えるわけではないのだけれど、ここで待っている気もないので。後を追うことにする。
「飽きたらここへ戻ってらっしゃい。」 そう言って紫は姿を消した。