ここは冥界・白玉楼
死後の地、世界である。
今日も冥界では幽霊・亡霊達が元気に過ごしてる。
ただ、半分幽霊の少女、魂魄 妖夢だけは半分しか元気が無かった。
「はぁ・・・」
少女は自室で深いため息を付く。
目の前には一枚の紙。
そこに書かれているのは・・・
『幻想郷刀剣展覧会開催!』
展覧会の広告だった。
まだまだ未熟とはいえ、剣術を扱う者としては
是非見てみたい展覧会だ。
「ぅぅ・・・行ってみたい・・・」
しかも、
『今見逃すと、一生の損!
刀剣マニア垂涎の幻の一品も!?』
こんな宣伝をされてしまっては見に行かないわけにはいかない。
「んーーー、一生の損、かぁ・・・見逃せないよね、何時までかな?」
自分が半分死んでいることを忘れて開催期日を見てみる
『△/○~△/□まで』
「ぇ・・・明日まで!?」
どうしよう・・・仕事や剣の修練もあるのに・・・
庭師としての仕事、警備の仕事、幽々子様の身の回りの事、
それらは既に仕事と言うより日常になっていた。
何か出かける用事でも貰えれば見てこれるんだけど
そうそう都合よく用事を言いつけられるはずも無い。
・・・剣の修練は夜にずらせばいいや。
でも、仕事はしなきゃダメ、
でも、行かないともう見れないかもしれない・・・
「ん~~~・・・・・・」
頭を抱え込んで考えに考える。
「・・・、そうだ」
妖夢の頭の中に、一つの妙案が浮かんだ。
△▼△▼△
とある集落、
多くの人間たちが行きかう道。
その人の中、
少し興奮気味に歩く少女がいた。
魂魄 妖夢だ。
いつも持っている刀は二振りとも持っていない。
変わりに、手には昨日見ていた広告が握られていた。
「えっと・・・」
少し皺になってしまった広告を広げる。
そこに描かれた地図を見て確認する。
「ここを左・・・」
そして、地図の通りに歩く。
「あ・・・あの建物かな?」
期待に胸が躍り、小走りで建物に駆け寄る。
立ち止まり、目の前の建物に取り付けられた看板を見る。
『幻想郷刀剣展覧会会場』
「・・・着いた・・・」
△▼△▼△
ここは冥界・白玉楼
死後の地、世界である。
今日も冥界では幽霊・亡霊達が元気に過ごしてる。
もちろん、亡霊の姫も変わりない。
亡霊の姫、西行寺 幽々子は元気にお腹を空かせていた。
「それでは失礼します」
1匹の幽霊がヒトのカタチを解いて部屋を出てゆく。
「ふー、」
幽々子は伝統ある西行寺の娘として、いくつも稽古事をこなす
ようやく書道の時間が終わった。
先ほど退出した幽霊は書の先生という訳だ。
「よーむー、よーむー、羊羹とお茶を持ってきて頂戴~」
もう、いつもの光景だ。
妖夢はどこにいても呼べば来てくれる。
そして、今日も・・・
スーッと襖が開き、妖夢が羊羹とお茶を持って部屋に入る。
「・・・・」
無言で羊羹とお茶を差し出してくれる。
「ありがと妖夢・・・あむ、んぐんぐ、・・んぅ~、やっぱり羊羹に限るわね~」
羊羹を頬張りながら、コロコロと笑う。
「妖夢もどうかしら?」
ずぃ、と羊羹の乗った皿を妖夢の目の前に進める。
「・・・」
フルフルと首を振って一礼すると、部屋を出て行ってしまった。
「・・・・あれれ?・・・妖夢ったらどうしたのかしら・・・あむ、もぐもぐ・・」
そういえば、今日は妖夢と喋っていない。
どうしたんだろう?
「ずずずずずッ・・・はふぅ・・」
羊羹を食べ終え、お茶も飲み終わって幽々子は考え・・・ない。
「んー・・・本人に聞いた方が早いわね」
△▼△▼△
広い広い白玉楼の庭
木々の手入れも妖夢の仕事だ。
しかし、どうして展覧会に向かった彼女がここで庭の手入れをしている。
そう、これが妖夢の妙案だった。
大きな幽霊である自分の半身を自分と同じ姿に人化させて、仕事をそっちに任せ、
自分は展覧会へ行くという、特異な体質を生かした策だった。
小さな体で一生懸命飛び回り、伸びすぎた箇所を楼観剣と白楼剣で剪定してゆく。
「・・・」
(そろそろ木の手入れも終わる・・・)
(そうしたら階段の掃き掃除を・・・)
「よーむー、」
(あ、幽々子様の声だ。
すぐさま声のする方向に向かう。
(今度はなんだろう?)
屋敷に向かうと縁側に出て私を呼ぶ幽々子様が見えた。
「よーむー、あ、こっちこっち~」
私の姿を見つけると両手で手招きをする。
(急ぎの用事かな?
「妖夢、ちょっと」
くいくいと更に手招き
(?)
首を傾げながら近寄る・・・すると、
「捕まえた~♪」
ガバッっといきなり抱きついてきた。
「!!!!」
驚いたけど、このまま倒れこむわけにはいかない。
が、耐えられるはずも無く無様に倒れこんでしまった。
「んふふ~♪」
(な、な、なんなんですか~~?)
何故か嬉しそうに私を見つめる幽々子様
「ねぇ妖夢、どうして今日は一言も口を聞いてくれないの?」
ビクッ
体が一瞬硬直した。
特異な体質を生かした策だったが、問題もある。
霊体である半身の質感などを人体に近くする為に、所々再現できない場所が出てくる。
その中で一番重要だったのが、声だ。
しかし、前日の妖夢は冴えていた
すぐさま解決方法を思いついていたのだ。
(お、落ち着け妖夢、大丈夫、解決法はあるんだから・・・
喉を指差して、こう、痛そうな顔を・・・)
「あら、もしかして、喉が痛くて声が出ないの?」
コクコクと頷く。
「そうなの?・・・・よかったわぁ~」
スリスリと倒れたまま頬を摺り寄せられる。
「!?」
(わ、わ、ゆゆこさま!?)
「てっきり妖夢に嫌われちゃったのかと思っちゃった」
(ぇ・・・?)
幽々子様が起き上がり、私の手を引いて起こしてくれる。
そのまま手を繋いだまま、縁側に上がると
「妖夢はそこで待ってなさい」
と部屋の奥に行ってしまう。
「・・・・」
暫くして何かを持って幽々子様は戻ってきた。
「はい、あーんして」
「???」
訳が判らないけどとりあえず口を開く。
「はい」
と口の中に何かを入れられた。
(あ、甘い・・・)
「ふふ、コレよ」
見せられた小瓶には喉飴と書かれていた。
(喉飴・・・)
コロリと口の中で飴玉を転がした。
基本的に、食事を必要としない幽霊なのに。
「言ってくれればスグにあげたのに・・・正直に言わないのは妖夢の悪いところよ?」
(正直・・・に・・・・)
・・・・・・やっぱり、ダメだ。
ごめんね、私。
すみません、幽々子様
「さ、今日は・・・って、妖夢、なんで泣いてるの?」
もう、視界が滲んでしっかりと幽々子様の表情が確認できない。
でも、目の前の幽々子様が驚いているのは判った。
「ッ・・、ッ・・・」
「い、痛いの?、喉が痛むの?」
フルフルと首を横に振り、その場で泣き崩れる。
(ごめんなさい、幽々子様ごめんなさい、
私は嘘を吐きました、私は幽々子様を騙しました、
それなのに、こんなにも優しくしてもらって、私は―――ッ)
「―――ッ」
声の出ない喉で、私は幽々子様に縋り付いて泣いた。
△▼△▼△
日は既に傾いていた。
赤々と燃える西の空を飛翔する影があった。
「♪~、凄く綺麗だったなぁ・・・」
数々の名剣・名刀を見てきた妖夢は
未だ心此処に在らずといった状態でフラフラと飛んでいた。
しかし、そんな状態でも、白玉楼に帰ってくると思考は嫌でも元に戻る。
「後は幽々子様に見つからないように・・・」
現世と冥界の結界を越える。
警戒しながら階段を上り、自室までたどり着く。
結局、誰にも会わずに部屋の前までたどり着いた。
「あれ・・?」
なのに、部屋の灯りが燈っている・・・
まさかッ
慌てて襖を開けると
「ゆゆこ・・・さま・・・」
はやり、居た。
正座して、静かに佇んでいた。
「妖夢、座りなさい」
私の方を見ず、ただ正面を見据えている。
「は・・・はい」
幽々子様の正面に座る。
その表情を見ないように、下を向いたまま
どうしよう・・・
「妖夢、何か言うことは無いかしら?」
やっぱり、遊びに行ってたのがバレていた。
すぐさま平伏して、謝罪する。
「す、すいません幽々子様・・・出かけてました・・・」
頭を下げたまま、恐る恐る答える。
「・・・・他に無いなら、頭を上げなさい」
「・・・はい・・・・」
ゆっくりと顔を上げて、幽々子様を見る。
「・・・・・」
今にも泣き出しそうな、哀しい顔をしていた。
そして、幽々子様の右手がゆっくりと上がり、
パシン、と乾いた音がした。
私の頬を叩いたのだ。
「ッ・・・・」
私は驚いた。
幽々子様に叱られたことは何度もあるが、全て口上だけだった。
もちろん、罰は受けるが、直接手を上げるという事は今まで無かった。
初めて、叩かれた。
そして、それほどまでに幽々子様がお怒りになっている事を知った。
体の底から震えが来る。
もし、このまま出て行けと言われたら・・・・
「す・・すみません、・・すみません、ぐすっ、ず、ずみばせん、」
涙が、鼻が出てきた。
「も、もう、遊び、に、いきません・・・だから・・・だから・・・」
ひたすらに平伏し、謝罪する私に、
「妖夢・・・私が怒っているのは、違う事なの・・・・」
そう、幽々子様が言葉をかける。
「私が怒っているのは、私に何にも告げずに、隠れてコソコソと何かを企んで、
事後報告も何もなしに、何食わぬ顔で無かったことにしようとする事もだけど、
それよりも、いくら自分とは言え、半身を身代わりにして自分だけ遊びに行こう、
というその考え方に怒っているのッ・・・」
「ふぐ、・・ず、・・・ずみまぜん・・」
「どうして一言も言ってくれなかったの?
あの子は、あなたの半身は、泣きながら謝罪の文章を綴ったのよ?
私とあなたに!」
「わ・・・たし、に?」
意外な事実に私は思わず顔をあげる。
顔を上げた私に、一枚の紙を見せる。
紙は所々濡れた後があった。
多分、半身がこぼした涙だろう。
『幽々子様、嘘を吐いてごめんなさい、騙してしまってごめんなさい、
私は、私の半身なのに、代わる事すらできなくて、ごめんなさい、
ごめんなさい。』
ポツリ、ポツリ、と私の目から涙が落ちて、新しく染みを作ってゆく。
私の半分は、私の事を考えてくれてたのに・・・
私は・・・自分の事しか・・・・
「ぅ・・・、く、ぅぁああぁぁぁああッ・・ご、ごめ、・・さぃ、」
「謝るのは、こっち、でしょ?」
優しい声で、私に促す。
見ると、私の半身がいつの間にか隣に居た。
多分、幽々子様が密かに招きいれたのだろう。
私は私に抱きついて、心の底から謝った。
「ごめんね、ごめんねッ・・・うぅ・・、もう、一人にしないから、押し付けないから・・・ッ」
「ッ・・・、ッ・・・」
半身は、許してくれた証に、私をぎゅっと抱き返してくれた。
そんな私達を幽々子様が優しく抱きしめてくれる。
「あ・・・」「・・・」
「妖夢、何かあったら、必ず、必ず私に一言言って頂戴」
「はい・・」
「約束よ?」
「はい・・・」
「何か失敗しても、隠さずにその時点で報告すること」
「はい・・」
「最後に・・・叩いたりして、ごめんなさいね」
「は・・・ぃ・・」
二人の妖夢の目から、ポロポロと涙が零れ落ちた。
幽々子は、抱きしめ続けた。
二人の妖夢が泣き止むまで、
優しく、優しく・・・
死後の地、世界である。
今日も冥界では幽霊・亡霊達が元気に過ごしてる。
ただ、半分幽霊の少女、魂魄 妖夢だけは半分しか元気が無かった。
「はぁ・・・」
少女は自室で深いため息を付く。
目の前には一枚の紙。
そこに書かれているのは・・・
『幻想郷刀剣展覧会開催!』
展覧会の広告だった。
まだまだ未熟とはいえ、剣術を扱う者としては
是非見てみたい展覧会だ。
「ぅぅ・・・行ってみたい・・・」
しかも、
『今見逃すと、一生の損!
刀剣マニア垂涎の幻の一品も!?』
こんな宣伝をされてしまっては見に行かないわけにはいかない。
「んーーー、一生の損、かぁ・・・見逃せないよね、何時までかな?」
自分が半分死んでいることを忘れて開催期日を見てみる
『△/○~△/□まで』
「ぇ・・・明日まで!?」
どうしよう・・・仕事や剣の修練もあるのに・・・
庭師としての仕事、警備の仕事、幽々子様の身の回りの事、
それらは既に仕事と言うより日常になっていた。
何か出かける用事でも貰えれば見てこれるんだけど
そうそう都合よく用事を言いつけられるはずも無い。
・・・剣の修練は夜にずらせばいいや。
でも、仕事はしなきゃダメ、
でも、行かないともう見れないかもしれない・・・
「ん~~~・・・・・・」
頭を抱え込んで考えに考える。
「・・・、そうだ」
妖夢の頭の中に、一つの妙案が浮かんだ。
△▼△▼△
とある集落、
多くの人間たちが行きかう道。
その人の中、
少し興奮気味に歩く少女がいた。
魂魄 妖夢だ。
いつも持っている刀は二振りとも持っていない。
変わりに、手には昨日見ていた広告が握られていた。
「えっと・・・」
少し皺になってしまった広告を広げる。
そこに描かれた地図を見て確認する。
「ここを左・・・」
そして、地図の通りに歩く。
「あ・・・あの建物かな?」
期待に胸が躍り、小走りで建物に駆け寄る。
立ち止まり、目の前の建物に取り付けられた看板を見る。
『幻想郷刀剣展覧会会場』
「・・・着いた・・・」
△▼△▼△
ここは冥界・白玉楼
死後の地、世界である。
今日も冥界では幽霊・亡霊達が元気に過ごしてる。
もちろん、亡霊の姫も変わりない。
亡霊の姫、西行寺 幽々子は元気にお腹を空かせていた。
「それでは失礼します」
1匹の幽霊がヒトのカタチを解いて部屋を出てゆく。
「ふー、」
幽々子は伝統ある西行寺の娘として、いくつも稽古事をこなす
ようやく書道の時間が終わった。
先ほど退出した幽霊は書の先生という訳だ。
「よーむー、よーむー、羊羹とお茶を持ってきて頂戴~」
もう、いつもの光景だ。
妖夢はどこにいても呼べば来てくれる。
そして、今日も・・・
スーッと襖が開き、妖夢が羊羹とお茶を持って部屋に入る。
「・・・・」
無言で羊羹とお茶を差し出してくれる。
「ありがと妖夢・・・あむ、んぐんぐ、・・んぅ~、やっぱり羊羹に限るわね~」
羊羹を頬張りながら、コロコロと笑う。
「妖夢もどうかしら?」
ずぃ、と羊羹の乗った皿を妖夢の目の前に進める。
「・・・」
フルフルと首を振って一礼すると、部屋を出て行ってしまった。
「・・・・あれれ?・・・妖夢ったらどうしたのかしら・・・あむ、もぐもぐ・・」
そういえば、今日は妖夢と喋っていない。
どうしたんだろう?
「ずずずずずッ・・・はふぅ・・」
羊羹を食べ終え、お茶も飲み終わって幽々子は考え・・・ない。
「んー・・・本人に聞いた方が早いわね」
△▼△▼△
広い広い白玉楼の庭
木々の手入れも妖夢の仕事だ。
しかし、どうして展覧会に向かった彼女がここで庭の手入れをしている。
そう、これが妖夢の妙案だった。
大きな幽霊である自分の半身を自分と同じ姿に人化させて、仕事をそっちに任せ、
自分は展覧会へ行くという、特異な体質を生かした策だった。
小さな体で一生懸命飛び回り、伸びすぎた箇所を楼観剣と白楼剣で剪定してゆく。
「・・・」
(そろそろ木の手入れも終わる・・・)
(そうしたら階段の掃き掃除を・・・)
「よーむー、」
(あ、幽々子様の声だ。
すぐさま声のする方向に向かう。
(今度はなんだろう?)
屋敷に向かうと縁側に出て私を呼ぶ幽々子様が見えた。
「よーむー、あ、こっちこっち~」
私の姿を見つけると両手で手招きをする。
(急ぎの用事かな?
「妖夢、ちょっと」
くいくいと更に手招き
(?)
首を傾げながら近寄る・・・すると、
「捕まえた~♪」
ガバッっといきなり抱きついてきた。
「!!!!」
驚いたけど、このまま倒れこむわけにはいかない。
が、耐えられるはずも無く無様に倒れこんでしまった。
「んふふ~♪」
(な、な、なんなんですか~~?)
何故か嬉しそうに私を見つめる幽々子様
「ねぇ妖夢、どうして今日は一言も口を聞いてくれないの?」
ビクッ
体が一瞬硬直した。
特異な体質を生かした策だったが、問題もある。
霊体である半身の質感などを人体に近くする為に、所々再現できない場所が出てくる。
その中で一番重要だったのが、声だ。
しかし、前日の妖夢は冴えていた
すぐさま解決方法を思いついていたのだ。
(お、落ち着け妖夢、大丈夫、解決法はあるんだから・・・
喉を指差して、こう、痛そうな顔を・・・)
「あら、もしかして、喉が痛くて声が出ないの?」
コクコクと頷く。
「そうなの?・・・・よかったわぁ~」
スリスリと倒れたまま頬を摺り寄せられる。
「!?」
(わ、わ、ゆゆこさま!?)
「てっきり妖夢に嫌われちゃったのかと思っちゃった」
(ぇ・・・?)
幽々子様が起き上がり、私の手を引いて起こしてくれる。
そのまま手を繋いだまま、縁側に上がると
「妖夢はそこで待ってなさい」
と部屋の奥に行ってしまう。
「・・・・」
暫くして何かを持って幽々子様は戻ってきた。
「はい、あーんして」
「???」
訳が判らないけどとりあえず口を開く。
「はい」
と口の中に何かを入れられた。
(あ、甘い・・・)
「ふふ、コレよ」
見せられた小瓶には喉飴と書かれていた。
(喉飴・・・)
コロリと口の中で飴玉を転がした。
基本的に、食事を必要としない幽霊なのに。
「言ってくれればスグにあげたのに・・・正直に言わないのは妖夢の悪いところよ?」
(正直・・・に・・・・)
・・・・・・やっぱり、ダメだ。
ごめんね、私。
すみません、幽々子様
「さ、今日は・・・って、妖夢、なんで泣いてるの?」
もう、視界が滲んでしっかりと幽々子様の表情が確認できない。
でも、目の前の幽々子様が驚いているのは判った。
「ッ・・、ッ・・・」
「い、痛いの?、喉が痛むの?」
フルフルと首を横に振り、その場で泣き崩れる。
(ごめんなさい、幽々子様ごめんなさい、
私は嘘を吐きました、私は幽々子様を騙しました、
それなのに、こんなにも優しくしてもらって、私は―――ッ)
「―――ッ」
声の出ない喉で、私は幽々子様に縋り付いて泣いた。
△▼△▼△
日は既に傾いていた。
赤々と燃える西の空を飛翔する影があった。
「♪~、凄く綺麗だったなぁ・・・」
数々の名剣・名刀を見てきた妖夢は
未だ心此処に在らずといった状態でフラフラと飛んでいた。
しかし、そんな状態でも、白玉楼に帰ってくると思考は嫌でも元に戻る。
「後は幽々子様に見つからないように・・・」
現世と冥界の結界を越える。
警戒しながら階段を上り、自室までたどり着く。
結局、誰にも会わずに部屋の前までたどり着いた。
「あれ・・?」
なのに、部屋の灯りが燈っている・・・
まさかッ
慌てて襖を開けると
「ゆゆこ・・・さま・・・」
はやり、居た。
正座して、静かに佇んでいた。
「妖夢、座りなさい」
私の方を見ず、ただ正面を見据えている。
「は・・・はい」
幽々子様の正面に座る。
その表情を見ないように、下を向いたまま
どうしよう・・・
「妖夢、何か言うことは無いかしら?」
やっぱり、遊びに行ってたのがバレていた。
すぐさま平伏して、謝罪する。
「す、すいません幽々子様・・・出かけてました・・・」
頭を下げたまま、恐る恐る答える。
「・・・・他に無いなら、頭を上げなさい」
「・・・はい・・・・」
ゆっくりと顔を上げて、幽々子様を見る。
「・・・・・」
今にも泣き出しそうな、哀しい顔をしていた。
そして、幽々子様の右手がゆっくりと上がり、
パシン、と乾いた音がした。
私の頬を叩いたのだ。
「ッ・・・・」
私は驚いた。
幽々子様に叱られたことは何度もあるが、全て口上だけだった。
もちろん、罰は受けるが、直接手を上げるという事は今まで無かった。
初めて、叩かれた。
そして、それほどまでに幽々子様がお怒りになっている事を知った。
体の底から震えが来る。
もし、このまま出て行けと言われたら・・・・
「す・・すみません、・・すみません、ぐすっ、ず、ずみばせん、」
涙が、鼻が出てきた。
「も、もう、遊び、に、いきません・・・だから・・・だから・・・」
ひたすらに平伏し、謝罪する私に、
「妖夢・・・私が怒っているのは、違う事なの・・・・」
そう、幽々子様が言葉をかける。
「私が怒っているのは、私に何にも告げずに、隠れてコソコソと何かを企んで、
事後報告も何もなしに、何食わぬ顔で無かったことにしようとする事もだけど、
それよりも、いくら自分とは言え、半身を身代わりにして自分だけ遊びに行こう、
というその考え方に怒っているのッ・・・」
「ふぐ、・・ず、・・・ずみまぜん・・」
「どうして一言も言ってくれなかったの?
あの子は、あなたの半身は、泣きながら謝罪の文章を綴ったのよ?
私とあなたに!」
「わ・・・たし、に?」
意外な事実に私は思わず顔をあげる。
顔を上げた私に、一枚の紙を見せる。
紙は所々濡れた後があった。
多分、半身がこぼした涙だろう。
『幽々子様、嘘を吐いてごめんなさい、騙してしまってごめんなさい、
私は、私の半身なのに、代わる事すらできなくて、ごめんなさい、
ごめんなさい。』
ポツリ、ポツリ、と私の目から涙が落ちて、新しく染みを作ってゆく。
私の半分は、私の事を考えてくれてたのに・・・
私は・・・自分の事しか・・・・
「ぅ・・・、く、ぅぁああぁぁぁああッ・・ご、ごめ、・・さぃ、」
「謝るのは、こっち、でしょ?」
優しい声で、私に促す。
見ると、私の半身がいつの間にか隣に居た。
多分、幽々子様が密かに招きいれたのだろう。
私は私に抱きついて、心の底から謝った。
「ごめんね、ごめんねッ・・・うぅ・・、もう、一人にしないから、押し付けないから・・・ッ」
「ッ・・・、ッ・・・」
半身は、許してくれた証に、私をぎゅっと抱き返してくれた。
そんな私達を幽々子様が優しく抱きしめてくれる。
「あ・・・」「・・・」
「妖夢、何かあったら、必ず、必ず私に一言言って頂戴」
「はい・・」
「約束よ?」
「はい・・・」
「何か失敗しても、隠さずにその時点で報告すること」
「はい・・」
「最後に・・・叩いたりして、ごめんなさいね」
「は・・・ぃ・・」
二人の妖夢の目から、ポロポロと涙が零れ落ちた。
幽々子は、抱きしめ続けた。
二人の妖夢が泣き止むまで、
優しく、優しく・・・
しかし、やはり半身なのだから思考とか直結してそうな気がしないでも……。ああでも双子妖夢なのだし、一緒に居れば以心伝心、ぐらいでしょうか?
ともあれ良いお話でありました。心の保養ですね、ありがとうございます。
斬られれば分かる?
良いよこれは良い!
半霊が健気で可愛らしい。
…半身妖夢もいじましさに、ユユ様の親心(?)…染みました。