途中から設定がガラリと変わります。分からなくなったらあとがきコメントを参照してくだs(ry
「ったく、今日も酷い目にあいました」
図書館内に散らかる魔術書の数々、無残にも倒壊した本棚、木っ端微塵に破壊された侵入者排除用トラップ。
これらの片付けをしなければならないと思うと眩暈がしそう。
私は小悪魔、本名は忘れましたが紅魔館のみなさんは「リトル」という名で呼んでくれています。
数年前パチュリーさんに召喚されて、ここヴワル図書館の司書をさせてもらってます。
主な仕事は魔術書の整理および発掘。世の中にはまだ見ぬ魔術書が山ほどあるんです。
初めは私も仕事を覚えるのに一苦労しましたが、今ではパチュリーさんの代わりに本の整理をするようになりました。
平和な日々でした。あの黒白が来るまではッ!!
今日もあの黒白・魔理沙さんが強引に本を持ち出そうとしたからパチュリーさんが激怒、弾幕合戦が繰り広げられてこの有様に…。
おまけに「まったく、リトルが簡単に魔理沙を進入させるからいけないのよ」と叱られてしまう始末。
私は所詮小悪魔、魔法使いの足元にも及びませんよ…。毎日泣きたくなります。
誰か、助けて~。
「リトル、魔法実験のサポートをお願いするわ」
「わかりましたっ」
今日のパチュリーさんは喘息が治まっているらしく、一週間ぶりの魔法実験をするみたいです。
「で、今日は闇魔法ですか、それとも邪魔法ですか?」
「それは秘密、実験が終わればおのずと結果は出るわよ」
私がつい先日手に入れた(マヨヒガからかすめ取った)魔術書「スキマ魔法大全」を
ここ数日ロクに食事もせずに読んでらしたので、おそらくその魔法実験でしょう。
パチュリーさんは魔法陣を描くと、なにやら妖しげな魔女のように詠唱を始めています。
私の手伝いはコレといってありません。しいて言えば『実験台』この前はあやうくカエルにされるところだったんです。
「あのー、私は何をすれば」
「そこに座って、歴史の証人になってくれるかしら」
まずい、非常にまずい。これは私を実験台にする時の決まり文句だ。
「断ったらどうなるんです?」
「ロイヤルフレア」
逃げるも地獄、留まるも地獄。この魔女め喘息が治まるといつも調子に乗りやがって…。
しかし私も死にたくはありませんから素直に待つことにしました。
待つこと30分、パチュリーさんに変化が現れました。
…危険だ逃げろと私の本能が叫んでいます。でも逃げられません、逃げたら死にます。
そんなこんなでいつの間にやら詠唱を終えたパチュリーさん。その顔は何か青ざめています。
「どうしたんですか」
「…マズイわ、非常にマズイわ」
「どういうことです?」
そのとき魔法陣から空間にひずみが現れました。魔力の暴走なのでしょうか、図書館内に暴風が吹き荒れます。
昨日徹夜で片付けた図書館が前より酷くなりました。コンチクショウ未来永劫呪ってやる!
「わわわわわ、危険ですよ!なにやってるんですかパチュリーさん!!!」
「魔法を間違えたのよ!」
歪はどんどん大きくなり、紅魔館全体に及んでいっている様子です。このままでは幻想郷中に広がってしまいます。
「と、とめてくださいパチュリーさーん!!!」
「だめ~、とまらない~」
「何の魔法使ったんですかーーーーーッ!!」
膨大な魔力の嵐に巻き込まれ、私もパチュリーさんも絶体絶命です。このまま終わってしまうのでしょうか。
「夢と現の……」
パチュリーさんから辛うじて発せられた言葉、それは私が耳にした最後の言葉でした…。
紅魔館に大嵐が起こり、全てが破壊されてしまったと思われた翌日、つまり私が魔法を間違えて唱えた翌日。
紅魔館は何事も無かったかのように存在した。
「…魔法実験は失敗ね、まぁ成功するなんて思ってなかったけど」
ただ、今日も喘息の調子が良い。二日続けて体調が良いなんて滅多に無いことだ。ちょっぴりだけ成功したのかも。
「リトルはまだ寝ているのかしら、あれだけの散らかりようだったから片づけで疲れて当然よね」
私は自分で紅茶をいれて飲む。たまにはセルフサービスも悪くない。
と、その時誰かが血相を変えて図書館へと飛び込んできた。
「パ、パチュリー様一大事です!!!」
「あら咲夜、血相変えてどうしたの?」
「レ、レミリア様が…」
「レミィに何かあったの?」
「永遠亭の手先にさらわれてしまいました!」
「え、なんで…?」
意外、レミリアが何故ゆえに永遠亭に攫われてしまったのだろうか。
私がスキマ魔法を使ったことを咎めるのならば、マヨヒガからの刺客が向かってくるはず。
それに昨日は満月、レミリアと互角に戦える人物なんて数えるほどだ。ますます訳が分からない。
「門番、十六夜咲夜一生の不覚…!!」
「え?」
ちょっと待って、咲夜は紅魔館最高のメイドのはず…
「咲夜、あなたに非は無いわ。あんな不意を突かれては守れと言うほうが無理な相談」
「フランドール様!」
フランですって!?私はあの狂気を回避すべく身構える。
しかしそこにいたのは狂気に満ちたフランではない。まさに淑女、レディのたしなみを身につけたフランドールだった。
「蓬莱山 輝夜、あんな幼いレミリアを誘拐するなんて許せないわ!」
「あ、あ、あれれれれ????」
ますます訳が分からなくなってきた。あのフランがこんなマトモな発言をしているなんて。
「ところでパチュリー様、顔色が悪いですよ。お疲れなのではありませんか」
「そうね…リトルに薬を作ってもらおうかしら」
「そう呼ばれていた時期が、私にもありました」
「り、リトル…?」
そこにいたのは確かにリトルだった。でも私の知っているリトルとは少し違っていた。
「リトル、あなたですら侵入者を捕らえられなかったとは意外ね」
「敵は空間を捻じ曲げた上に未来予測までしてきました。それ相応の対策を打っていなかった私の油断です」
知力、魔力、魅力どれをとっても昨日までとは桁が違う。それに何よりオーラが違っているじゃないの。
なんか世界が違う…私の日常はどこへ行ってしまったのかしらッッ!!
「もう訳がわかんないわッ!」
「パチュリー様っ!」
私は頭が混乱しすぎて気を失ってしまった。夢ならコレで覚めるはず……。
数時間後、眼が覚めても夢から覚めなかった。つまりはコレが現実。
私は記憶が無いフリをして咲夜から現在の状況を詳しく聞くことにしてみた。我ながらナイスアイディア。
現在、紅魔館と永遠亭は血で血を洗う抗争中。
とりあえずレミィを助け出すことが最重要。なぜか私も発作が起きないようなので外出が出来る。
「いいみんな、救出作戦は今日の夜決行よ。それまで各々準備を行って頂戴」
現在の紅魔館の主はフラン。理性とカリスマに溢れている点が今までと大きく違うわ。
「養育係の…名前を忘れましたが一人先行しています。彼女の援護はいかがいたしましょう」
咲夜は一応紅魔館のメイド長らしい、でも人手不足で門番も兼務なのかしら。
そして会話の流れからすると美鈴はレミィの養育係のようね。
でも、相変わらず名前を覚えてもらえないなんてなんて不憫なのかしら。
「彼女はそれなりのサバイバル術を心得ています。簡単に死ぬことは無いでしょう」
そしてリトルはフラン直属の参謀、レミィと咲夜の関係に似ているかしら。
「その点に関しては心配いらなさそうね。ところでパチュリー、あなたも作戦に加わる?」
ふいに私に会話が向けられた。しかし
「是非」
即答。考える余地は無かった。レミィがさらわれたのは元々私の魔法に原因があったからかもしれない。
救出作戦に加わるのは友人として当然のこと。それに絶好調での魔法を炸裂させてみたいという好奇心も…。
咲夜と話をしたり外出の準備をしたりで出発の時間はやってきた。
「みんな、準備は出来たようね」
「当然です。抜かりはありません」
「私も何時でもいけます、れみりゃ様は私が助け出して見せます」
このフランはレミィと違って自分のことは全て自分でやるようね。身支度が完璧。
腰にレーヴァテインを下げ、背中にはスターボウを背負っているその様子はまさに騎士。私が見てもホレそう。
リトルは大悪魔のオーラを身に纏っているわ。頼もしいけどちょっと怖い。
咲夜はいつものメイド服。しかし至る所に隠しナイフが仕込んである。いまにも「体はナイフで出来ている」なんて言い出す雰囲気。
私もいつもの寝巻きを脱ぎ、一応お出かけ用の魔女服に着替えている。
先程咲夜が「れみりゃ様」と言ったことから推測するにレミィは非常に幼いのでは…あ、鼻血出そう。
「では私が先行しますので、皆さんは後についてきてください」
咲夜が偵察と露払いのために一足先に出発することになった。
咲夜が出発して10分後、いよいよ私達3人も出発する。
「二人とも、抜かりはないわね!」
「お任せください」
「準備ばんた…あっ!」
私はとっても大切なことに気がついた。気づくのが遅すぎたのかもしれない。
「一つ重要なことを聞いて良いかしら」
「どうしたんですかパチュリーさん、貴女ほどの人が怖気づくなんてッ!」
フランはもう敵を斬り潰したくてウズウズしている。いちおう理性で本能を抑えてはいるようだけれど。
「いえ、もしもの話だけれど…」
「もったいぶらないで!」
「…永遠亭って、どっち?」
3人の間に沈黙が訪れる。誰も口を開こうとはしない。そう、だれも永遠亭なんて行った事がないのだ。
「さくやーーーー、カムバーーーーーック!!!」
私は紅魔館の図書館で哀を叫んだ。力の限り…
「三人とも遅いな、まさか道に迷ったのでは」
私は永遠亭の裏口で一人まちぼうけ。まったく何してるんだかあの三人は…
「そ、そういえば私しか永遠亭の場所を知らないじゃないの!!!!」
十六夜咲夜一生の不覚、完全で瀟洒なメイド兼門番が聞いて呆れる。早く迎えに行かなければ。
…ダメだ。三人を迎えにはいけない。敵さんのお出ましだわ。
「ようこそ紅魔館の門番。会えて嬉しいぞ」
敵の出で立ちはまさに鬼。その狂気に満ち溢れた表情、にじみ出る負のオーラ。巨大な杵。すべてウワサに違う所はない。
「ホントはメイド長兼門番なんだけど…あなたが永遠亭門番、狂気の餅付き兎ね」
「いかにも、我が名はてゐ。不審者は全て叩きつぶすようにとの命令を受けている」
「丁度よかった。私も邪魔者は消すようにとの命令を受けているのよ」
「ならば話は早い。行くぞ!」
言うが早いか動くが早いか。やれやれ、まったく血の気の多いやつは困るわね。
次の瞬間、てゐの巨体がこちらに向かって跳躍する。いきなり大技をブチかましてくるなんて豪胆ね。
「私で餅付きしようなんて495年早いわ!」
こんな奇襲で慌てていては紅魔館のメイド長兼門番は務まらない。
私はすかさずナイフを取り出し、目にも留まらぬ速さで4本同時にてゐの手足目掛けて投擲する。が
「そんなチンケなもので我を倒せるとでも思ったか!!!」
なんてこと、ナイフが鋼の肉体に遮られてしまった!私は慌てて敵の杵を回避する。
余裕かましていられる相手じゃないみたい。
「さすが狂気のウサギ。半端な肉体じゃないわね」
「貴様もその華奢な体の割にはよい反応速度だな」
「おあいにく様、私に無駄な肉は…ってきさまー何を言わすかーーー!!!」
次の瞬間てゐの脇腹に深々と突き刺さるナイフ。私は時を止めて直接ナイフを叩き込んでやった。
まさかこんなウサギにまで胸がパッドであることがばれてしまうとは…秘密を知ったものを生かしておくわけにはいかない!
「うぐっ、先程の投げナイフとは違う攻撃かっ」
「貴様は触れてはいけないところに触れてしまった。ここで死ね!!ザ・ワールドッッ!!!!」
続けざまに私は時を止め、てゐの急所と言う急所目掛けて回避不可能な数のナイフを投げつける。その数実に36本。
「そして、時は動き出す」
時間停止から5秒後、全てのナイフに時の流れが訪れてゐに襲い掛かる。
「殺った!」
「ぬおおおおおおおお!!!」
「な、なんですってー!?」
私は目を疑った。急所に突き刺さるはずのナイフ36本のうち実に30本が防がれてしまったのだ。
まさかこいつ止まった時の中で動けるのか…同じタイプのスペルカードを持っているとでもいうのか?
「うぬぅ、まさかアレほどのナイフを同時に投げてくるとは予想外だったぞ」
(こいつ…ただのウサギじゃあない!)
「一気に息の根を止めてくれる!」
私はてゐに向かって止めを刺すべく「とっておきの銀ナイフ」を投げつけようとする。
だが理解しがたいことに、次の瞬間私の右足をてゐの杵が打ちつけた。
「うぎゃぁーーーッ!!」
やられたっ、右足の骨が完全に砕かれてしまった。これじゃあしばらく養育係を苛められないじゃないの!
いらぬ心配をしている私に対しすかさず返す杵で頭蓋骨を砕きにかかるてゐ。いつの間に間合いを詰めていたのか…
「散れぃ紅魔館の門番!!」
「私はメイド兼門番だ!」
私は3度目の時間停止を行い、てゐの杵を回避すると同時にてゐの急所にナイフを突き立てる。
「どうだ!」
「ぐふぅ、おのれ猪口才な!」
突然てゐは高速弾をばら撒く、右足を破壊されて動けない私は両手にナイフを持ち必死で弾をはじく。
そこへ巨大な杵が振り下ろされ、私は倒れるようにその杵をかわすと同時に4本のナイフをてゐにお見舞いする。
しかしこの距離での投げナイフはあまり効き目がない。おまけに踏ん張りが利かないので威力そのものも落ちている。
「くぅっ、接近戦は不利!」
「ちょこまかと動きおってェ」
私は距離を取りてゐの出方を待つ。脚をやられてさえいなければ接近戦は願ったり適ったりの展開だったのに。
だがてゐの方も深刻なダメージを抱えているようだ、ナイフをもう一本か二本叩き込んでやれば間違いなく倒れる。
「ぐおおおおおおッ」
てゐが杵でなぎ払う。しかしこの距離では到底届く間合いではな…
「ぎゃっ!」
てゐの杵が空間を飛び越えて私の右脇腹に叩き込まれる。アバラを3本くらい持っていかれてしまった。
こんな位置からではスキマ妖怪でもなければ私に攻撃をするなど…
なんてことだ、空間を捻じ曲げたのはヤツの能力だったのか。
熱いものがこみ上げてくるが、メイド長としてのプライドがここでそれを撒き散らさせなかった。
てゐは渾身の力で杵を振るい態勢が崩れている。今こそ止めを刺す絶好の機会。
「もらった、殺人ドールッ!」
渾身の力を込めて残った秘密兵器、4本の銀ナイフを叩き込む。
「バカめ、そんなものが我に効くものか!」
てゐはすかさず態勢を立て直し4本のナイフを回避、そのまま私目掛けて突進してくる。猪突猛進とはこのことね。
「あら、あなた何を見ているのかしら?」
「!」
私の手にあるのは先程投擲した4本の銀ナイフ。その4本を力の限り投げつける。
「そんなもので私を倒せるとでも思ったかァ!」
てゐはナイフに構わず突っ込んでくる。その4本を杵で迎撃すべく大きく振りかぶったその瞬間。
『ズドンッ』
「な…なに…ぃ」
てゐの後頭部に2本、心臓に2本、それぞれ図ったように銀ナイフが突き刺さった。
次の瞬間、正面からの4本の銀ナイフもまたてゐの急所に突き刺さる。
断末魔を上げることもなく、てゐと呼ばれた狂気の大兎は動かなくなった。
「な、なんとか勝てたわね…」
咲夜は力なくその場に座り込む。体力もナイフも全て使い切ってしまった。
まさかパーフェクトスクウェアまで使わなければならない相手が門番なんて反則よ。
永遠亭よいとこ一度はおいで、なーんて歌っていた雀は料理してやらなくては…
「そんなことよりこの状況はまずいわね、あの三人を迎えにいけなくなってしまったわ」
咲夜はそういって懐から何かを取り出した。
「ああ、こんなの使ったら敵にも奇襲がばれちゃうけど、仕方ないか」
とりあえずいってみよー、と出発していた三人は咲夜の合図を発見することが出来た。
「あっ、咲夜の合図よ!」
「うわぁ、綺麗ですね」
「あんなもの使ったら敵にもばれるじゃないの。なに考えてるんだか」
「しかし咲夜も抜かりないわね、イザという時のために胸に二つの球を仕込んでるんですもの」
夜空に浮かぶ二つの花火、それは宴の始まりの合図。
胸に仕込んだ二つの球、それを聞いた私はとっても切なくなってしまった…
「いくら夢でも、叶わないものもあるのね…」
3人の眼下に迫る永遠亭。そこで一人の吸血鬼をめぐる壮絶な宴が、これから行われようとしていた。
「ったく、今日も酷い目にあいました」
図書館内に散らかる魔術書の数々、無残にも倒壊した本棚、木っ端微塵に破壊された侵入者排除用トラップ。
これらの片付けをしなければならないと思うと眩暈がしそう。
私は小悪魔、本名は忘れましたが紅魔館のみなさんは「リトル」という名で呼んでくれています。
数年前パチュリーさんに召喚されて、ここヴワル図書館の司書をさせてもらってます。
主な仕事は魔術書の整理および発掘。世の中にはまだ見ぬ魔術書が山ほどあるんです。
初めは私も仕事を覚えるのに一苦労しましたが、今ではパチュリーさんの代わりに本の整理をするようになりました。
平和な日々でした。あの黒白が来るまではッ!!
今日もあの黒白・魔理沙さんが強引に本を持ち出そうとしたからパチュリーさんが激怒、弾幕合戦が繰り広げられてこの有様に…。
おまけに「まったく、リトルが簡単に魔理沙を進入させるからいけないのよ」と叱られてしまう始末。
私は所詮小悪魔、魔法使いの足元にも及びませんよ…。毎日泣きたくなります。
誰か、助けて~。
「リトル、魔法実験のサポートをお願いするわ」
「わかりましたっ」
今日のパチュリーさんは喘息が治まっているらしく、一週間ぶりの魔法実験をするみたいです。
「で、今日は闇魔法ですか、それとも邪魔法ですか?」
「それは秘密、実験が終わればおのずと結果は出るわよ」
私がつい先日手に入れた(マヨヒガからかすめ取った)魔術書「スキマ魔法大全」を
ここ数日ロクに食事もせずに読んでらしたので、おそらくその魔法実験でしょう。
パチュリーさんは魔法陣を描くと、なにやら妖しげな魔女のように詠唱を始めています。
私の手伝いはコレといってありません。しいて言えば『実験台』この前はあやうくカエルにされるところだったんです。
「あのー、私は何をすれば」
「そこに座って、歴史の証人になってくれるかしら」
まずい、非常にまずい。これは私を実験台にする時の決まり文句だ。
「断ったらどうなるんです?」
「ロイヤルフレア」
逃げるも地獄、留まるも地獄。この魔女め喘息が治まるといつも調子に乗りやがって…。
しかし私も死にたくはありませんから素直に待つことにしました。
待つこと30分、パチュリーさんに変化が現れました。
…危険だ逃げろと私の本能が叫んでいます。でも逃げられません、逃げたら死にます。
そんなこんなでいつの間にやら詠唱を終えたパチュリーさん。その顔は何か青ざめています。
「どうしたんですか」
「…マズイわ、非常にマズイわ」
「どういうことです?」
そのとき魔法陣から空間にひずみが現れました。魔力の暴走なのでしょうか、図書館内に暴風が吹き荒れます。
昨日徹夜で片付けた図書館が前より酷くなりました。コンチクショウ未来永劫呪ってやる!
「わわわわわ、危険ですよ!なにやってるんですかパチュリーさん!!!」
「魔法を間違えたのよ!」
歪はどんどん大きくなり、紅魔館全体に及んでいっている様子です。このままでは幻想郷中に広がってしまいます。
「と、とめてくださいパチュリーさーん!!!」
「だめ~、とまらない~」
「何の魔法使ったんですかーーーーーッ!!」
膨大な魔力の嵐に巻き込まれ、私もパチュリーさんも絶体絶命です。このまま終わってしまうのでしょうか。
「夢と現の……」
パチュリーさんから辛うじて発せられた言葉、それは私が耳にした最後の言葉でした…。
紅魔館に大嵐が起こり、全てが破壊されてしまったと思われた翌日、つまり私が魔法を間違えて唱えた翌日。
紅魔館は何事も無かったかのように存在した。
「…魔法実験は失敗ね、まぁ成功するなんて思ってなかったけど」
ただ、今日も喘息の調子が良い。二日続けて体調が良いなんて滅多に無いことだ。ちょっぴりだけ成功したのかも。
「リトルはまだ寝ているのかしら、あれだけの散らかりようだったから片づけで疲れて当然よね」
私は自分で紅茶をいれて飲む。たまにはセルフサービスも悪くない。
と、その時誰かが血相を変えて図書館へと飛び込んできた。
「パ、パチュリー様一大事です!!!」
「あら咲夜、血相変えてどうしたの?」
「レ、レミリア様が…」
「レミィに何かあったの?」
「永遠亭の手先にさらわれてしまいました!」
「え、なんで…?」
意外、レミリアが何故ゆえに永遠亭に攫われてしまったのだろうか。
私がスキマ魔法を使ったことを咎めるのならば、マヨヒガからの刺客が向かってくるはず。
それに昨日は満月、レミリアと互角に戦える人物なんて数えるほどだ。ますます訳が分からない。
「門番、十六夜咲夜一生の不覚…!!」
「え?」
ちょっと待って、咲夜は紅魔館最高のメイドのはず…
「咲夜、あなたに非は無いわ。あんな不意を突かれては守れと言うほうが無理な相談」
「フランドール様!」
フランですって!?私はあの狂気を回避すべく身構える。
しかしそこにいたのは狂気に満ちたフランではない。まさに淑女、レディのたしなみを身につけたフランドールだった。
「蓬莱山 輝夜、あんな幼いレミリアを誘拐するなんて許せないわ!」
「あ、あ、あれれれれ????」
ますます訳が分からなくなってきた。あのフランがこんなマトモな発言をしているなんて。
「ところでパチュリー様、顔色が悪いですよ。お疲れなのではありませんか」
「そうね…リトルに薬を作ってもらおうかしら」
「そう呼ばれていた時期が、私にもありました」
「り、リトル…?」
そこにいたのは確かにリトルだった。でも私の知っているリトルとは少し違っていた。
「リトル、あなたですら侵入者を捕らえられなかったとは意外ね」
「敵は空間を捻じ曲げた上に未来予測までしてきました。それ相応の対策を打っていなかった私の油断です」
知力、魔力、魅力どれをとっても昨日までとは桁が違う。それに何よりオーラが違っているじゃないの。
なんか世界が違う…私の日常はどこへ行ってしまったのかしらッッ!!
「もう訳がわかんないわッ!」
「パチュリー様っ!」
私は頭が混乱しすぎて気を失ってしまった。夢ならコレで覚めるはず……。
数時間後、眼が覚めても夢から覚めなかった。つまりはコレが現実。
私は記憶が無いフリをして咲夜から現在の状況を詳しく聞くことにしてみた。我ながらナイスアイディア。
現在、紅魔館と永遠亭は血で血を洗う抗争中。
とりあえずレミィを助け出すことが最重要。なぜか私も発作が起きないようなので外出が出来る。
「いいみんな、救出作戦は今日の夜決行よ。それまで各々準備を行って頂戴」
現在の紅魔館の主はフラン。理性とカリスマに溢れている点が今までと大きく違うわ。
「養育係の…名前を忘れましたが一人先行しています。彼女の援護はいかがいたしましょう」
咲夜は一応紅魔館のメイド長らしい、でも人手不足で門番も兼務なのかしら。
そして会話の流れからすると美鈴はレミィの養育係のようね。
でも、相変わらず名前を覚えてもらえないなんてなんて不憫なのかしら。
「彼女はそれなりのサバイバル術を心得ています。簡単に死ぬことは無いでしょう」
そしてリトルはフラン直属の参謀、レミィと咲夜の関係に似ているかしら。
「その点に関しては心配いらなさそうね。ところでパチュリー、あなたも作戦に加わる?」
ふいに私に会話が向けられた。しかし
「是非」
即答。考える余地は無かった。レミィがさらわれたのは元々私の魔法に原因があったからかもしれない。
救出作戦に加わるのは友人として当然のこと。それに絶好調での魔法を炸裂させてみたいという好奇心も…。
咲夜と話をしたり外出の準備をしたりで出発の時間はやってきた。
「みんな、準備は出来たようね」
「当然です。抜かりはありません」
「私も何時でもいけます、れみりゃ様は私が助け出して見せます」
このフランはレミィと違って自分のことは全て自分でやるようね。身支度が完璧。
腰にレーヴァテインを下げ、背中にはスターボウを背負っているその様子はまさに騎士。私が見てもホレそう。
リトルは大悪魔のオーラを身に纏っているわ。頼もしいけどちょっと怖い。
咲夜はいつものメイド服。しかし至る所に隠しナイフが仕込んである。いまにも「体はナイフで出来ている」なんて言い出す雰囲気。
私もいつもの寝巻きを脱ぎ、一応お出かけ用の魔女服に着替えている。
先程咲夜が「れみりゃ様」と言ったことから推測するにレミィは非常に幼いのでは…あ、鼻血出そう。
「では私が先行しますので、皆さんは後についてきてください」
咲夜が偵察と露払いのために一足先に出発することになった。
咲夜が出発して10分後、いよいよ私達3人も出発する。
「二人とも、抜かりはないわね!」
「お任せください」
「準備ばんた…あっ!」
私はとっても大切なことに気がついた。気づくのが遅すぎたのかもしれない。
「一つ重要なことを聞いて良いかしら」
「どうしたんですかパチュリーさん、貴女ほどの人が怖気づくなんてッ!」
フランはもう敵を斬り潰したくてウズウズしている。いちおう理性で本能を抑えてはいるようだけれど。
「いえ、もしもの話だけれど…」
「もったいぶらないで!」
「…永遠亭って、どっち?」
3人の間に沈黙が訪れる。誰も口を開こうとはしない。そう、だれも永遠亭なんて行った事がないのだ。
「さくやーーーー、カムバーーーーーック!!!」
私は紅魔館の図書館で哀を叫んだ。力の限り…
「三人とも遅いな、まさか道に迷ったのでは」
私は永遠亭の裏口で一人まちぼうけ。まったく何してるんだかあの三人は…
「そ、そういえば私しか永遠亭の場所を知らないじゃないの!!!!」
十六夜咲夜一生の不覚、完全で瀟洒なメイド兼門番が聞いて呆れる。早く迎えに行かなければ。
…ダメだ。三人を迎えにはいけない。敵さんのお出ましだわ。
「ようこそ紅魔館の門番。会えて嬉しいぞ」
敵の出で立ちはまさに鬼。その狂気に満ち溢れた表情、にじみ出る負のオーラ。巨大な杵。すべてウワサに違う所はない。
「ホントはメイド長兼門番なんだけど…あなたが永遠亭門番、狂気の餅付き兎ね」
「いかにも、我が名はてゐ。不審者は全て叩きつぶすようにとの命令を受けている」
「丁度よかった。私も邪魔者は消すようにとの命令を受けているのよ」
「ならば話は早い。行くぞ!」
言うが早いか動くが早いか。やれやれ、まったく血の気の多いやつは困るわね。
次の瞬間、てゐの巨体がこちらに向かって跳躍する。いきなり大技をブチかましてくるなんて豪胆ね。
「私で餅付きしようなんて495年早いわ!」
こんな奇襲で慌てていては紅魔館のメイド長兼門番は務まらない。
私はすかさずナイフを取り出し、目にも留まらぬ速さで4本同時にてゐの手足目掛けて投擲する。が
「そんなチンケなもので我を倒せるとでも思ったか!!!」
なんてこと、ナイフが鋼の肉体に遮られてしまった!私は慌てて敵の杵を回避する。
余裕かましていられる相手じゃないみたい。
「さすが狂気のウサギ。半端な肉体じゃないわね」
「貴様もその華奢な体の割にはよい反応速度だな」
「おあいにく様、私に無駄な肉は…ってきさまー何を言わすかーーー!!!」
次の瞬間てゐの脇腹に深々と突き刺さるナイフ。私は時を止めて直接ナイフを叩き込んでやった。
まさかこんなウサギにまで胸がパッドであることがばれてしまうとは…秘密を知ったものを生かしておくわけにはいかない!
「うぐっ、先程の投げナイフとは違う攻撃かっ」
「貴様は触れてはいけないところに触れてしまった。ここで死ね!!ザ・ワールドッッ!!!!」
続けざまに私は時を止め、てゐの急所と言う急所目掛けて回避不可能な数のナイフを投げつける。その数実に36本。
「そして、時は動き出す」
時間停止から5秒後、全てのナイフに時の流れが訪れてゐに襲い掛かる。
「殺った!」
「ぬおおおおおおおお!!!」
「な、なんですってー!?」
私は目を疑った。急所に突き刺さるはずのナイフ36本のうち実に30本が防がれてしまったのだ。
まさかこいつ止まった時の中で動けるのか…同じタイプのスペルカードを持っているとでもいうのか?
「うぬぅ、まさかアレほどのナイフを同時に投げてくるとは予想外だったぞ」
(こいつ…ただのウサギじゃあない!)
「一気に息の根を止めてくれる!」
私はてゐに向かって止めを刺すべく「とっておきの銀ナイフ」を投げつけようとする。
だが理解しがたいことに、次の瞬間私の右足をてゐの杵が打ちつけた。
「うぎゃぁーーーッ!!」
やられたっ、右足の骨が完全に砕かれてしまった。これじゃあしばらく養育係を苛められないじゃないの!
いらぬ心配をしている私に対しすかさず返す杵で頭蓋骨を砕きにかかるてゐ。いつの間に間合いを詰めていたのか…
「散れぃ紅魔館の門番!!」
「私はメイド兼門番だ!」
私は3度目の時間停止を行い、てゐの杵を回避すると同時にてゐの急所にナイフを突き立てる。
「どうだ!」
「ぐふぅ、おのれ猪口才な!」
突然てゐは高速弾をばら撒く、右足を破壊されて動けない私は両手にナイフを持ち必死で弾をはじく。
そこへ巨大な杵が振り下ろされ、私は倒れるようにその杵をかわすと同時に4本のナイフをてゐにお見舞いする。
しかしこの距離での投げナイフはあまり効き目がない。おまけに踏ん張りが利かないので威力そのものも落ちている。
「くぅっ、接近戦は不利!」
「ちょこまかと動きおってェ」
私は距離を取りてゐの出方を待つ。脚をやられてさえいなければ接近戦は願ったり適ったりの展開だったのに。
だがてゐの方も深刻なダメージを抱えているようだ、ナイフをもう一本か二本叩き込んでやれば間違いなく倒れる。
「ぐおおおおおおッ」
てゐが杵でなぎ払う。しかしこの距離では到底届く間合いではな…
「ぎゃっ!」
てゐの杵が空間を飛び越えて私の右脇腹に叩き込まれる。アバラを3本くらい持っていかれてしまった。
こんな位置からではスキマ妖怪でもなければ私に攻撃をするなど…
なんてことだ、空間を捻じ曲げたのはヤツの能力だったのか。
熱いものがこみ上げてくるが、メイド長としてのプライドがここでそれを撒き散らさせなかった。
てゐは渾身の力で杵を振るい態勢が崩れている。今こそ止めを刺す絶好の機会。
「もらった、殺人ドールッ!」
渾身の力を込めて残った秘密兵器、4本の銀ナイフを叩き込む。
「バカめ、そんなものが我に効くものか!」
てゐはすかさず態勢を立て直し4本のナイフを回避、そのまま私目掛けて突進してくる。猪突猛進とはこのことね。
「あら、あなた何を見ているのかしら?」
「!」
私の手にあるのは先程投擲した4本の銀ナイフ。その4本を力の限り投げつける。
「そんなもので私を倒せるとでも思ったかァ!」
てゐはナイフに構わず突っ込んでくる。その4本を杵で迎撃すべく大きく振りかぶったその瞬間。
『ズドンッ』
「な…なに…ぃ」
てゐの後頭部に2本、心臓に2本、それぞれ図ったように銀ナイフが突き刺さった。
次の瞬間、正面からの4本の銀ナイフもまたてゐの急所に突き刺さる。
断末魔を上げることもなく、てゐと呼ばれた狂気の大兎は動かなくなった。
「な、なんとか勝てたわね…」
咲夜は力なくその場に座り込む。体力もナイフも全て使い切ってしまった。
まさかパーフェクトスクウェアまで使わなければならない相手が門番なんて反則よ。
永遠亭よいとこ一度はおいで、なーんて歌っていた雀は料理してやらなくては…
「そんなことよりこの状況はまずいわね、あの三人を迎えにいけなくなってしまったわ」
咲夜はそういって懐から何かを取り出した。
「ああ、こんなの使ったら敵にも奇襲がばれちゃうけど、仕方ないか」
とりあえずいってみよー、と出発していた三人は咲夜の合図を発見することが出来た。
「あっ、咲夜の合図よ!」
「うわぁ、綺麗ですね」
「あんなもの使ったら敵にもばれるじゃないの。なに考えてるんだか」
「しかし咲夜も抜かりないわね、イザという時のために胸に二つの球を仕込んでるんですもの」
夜空に浮かぶ二つの花火、それは宴の始まりの合図。
胸に仕込んだ二つの球、それを聞いた私はとっても切なくなってしまった…
「いくら夢でも、叶わないものもあるのね…」
3人の眼下に迫る永遠亭。そこで一人の吸血鬼をめぐる壮絶な宴が、これから行われようとしていた。
後半期待してます♪
では、その魔術がこっちの世界に波及してたら我々はどうなるのだろうか
(日本全国みんなやることなすこと正確過ぎるようになるとか
境界魔術の影響の濃さからして幻想郷まで歩いていけるようになるとか
最近増えてきたニートが復活を望まない腐り逝くのみの駄目人間と
復活の見えない資格を誰の目にも見えて持つ人妖の二つに分かれるとか
あと人権擁護法案が殆ど一致で否決されるとか)
咲夜が門番兼になっていたり、てゐがマッチョになっていたり…
ですが一番恐ろしいのは、中国の出世…
配役の妙がたまりません。
次を楽しみにしています。